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イギリスの国民投票では途中経過や投票者数を速報できない制度だが日本はどうか

選挙管理事務におけるミス発生事例集

イギリスでは投票締切前に出口調査の結果を公表することは違法

 イギリスでは、国民投票や選挙の際、投票締切前に出口調査の結果を公表することは違法となっています。そのことについては、下の記事にも詳しく書きました。

 根拠は、1983年公職選挙法第66条(Section 66 of the Representation of the People Act 1983)。原文を引用すると次のとおりです。

60A Prohibition on publication of exit polls.

(1)No person shall, in the case of an election to which this section applies, publish before the poll is closed—

日本語訳すれば、次のような感じでしょうか。

60条A 出口調査の公表の禁止

(1) 何人も、この章が適用される選挙の際、投票が締め切られる前に出口調査の結果を公表してはならない。

  さて、イギリスではこのような、投票終了前の公表禁止が法律で定められていますが、日本の法律ではどうなっているのでしょうか。

 記憶に新しい、大阪都構想の例で見てみましょう。

 そもそも、大阪都構想においては、大都市地域における特別区の設置に関する法律
(平成二十四年法律第八十号)第7条及び第8条に基づいて住民投票が行われました。

(関係市町村における選挙人の投票)
第七条  前条第三項の規定による通知を受けた関係市町村の選挙管理委員会は、基準日から六十日以内に、特別区の設置について選挙人の投票に付さなければならない。
2  関係市町村の長は、前項の規定による投票に際し、選挙人の理解を促進するよう、特別区設置協定書の内容について分かりやすい説明をしなければならない。
3  関係市町村の選挙管理委員会は、第一項の規定による投票に際し、当該関係市町村の議会の議員から申出があったときは、当該投票に関する当該議員の意見を公報に掲載し、選挙人に配布しなければならない。
4  前項の場合において、二人以上の議員は、関係市町村の選挙管理委員会に対し、当該議員が共同で表明する意見を掲載するよう申し出ることができる。
5  関係市町村の選挙管理委員会は、第一項の規定による投票の結果が判明したときは、直ちにこれを全ての関係市町村の長及び関係道府県の知事に通知するとともに、公表しなければならない。その投票の結果が確定したときも、同様とする。
6  政令で特別の定めをするものを除くほか、公職選挙法(昭和二十五年法律第百号)中普通地方公共団体の選挙に関する規定は、第一項の規定による投票について準用する。
7  第一項の規定による投票は、普通地方公共団体の選挙と同時にこれを行うことができる。

 

(特別区の設置の申請)
第八条  関係市町村及び関係道府県は、全ての関係市町村の前条第一項の規定による投票においてそれぞれその有効投票の総数の過半数の賛成があったときは、共同して、総務大臣に対し、特別区の設置を申請することができる。ただし、指定都市以外の関係市町村にあっては、当該関係市町村に隣接する指定都市が特別区の設置を申請する場合でなければ、当該申請を行うことができない。
2  前項の規定による申請は、特別区設置協定書を添えてしなければならない。

 この法律の中には、投票期間中の出口調査の結果の公表を禁ずる文言はありません。

 しかし、第7条第6項で、住民投票については基本的に公職選挙法の規定を準用する旨が定められています。

 そこで、公職選挙法を見てみると、公職選挙法には次のような記載があります。

(人気投票の公表の禁止)
第百三十八条の三  何人も、選挙に関し、公職に就くべき者(衆議院比例代表選出議員の選挙にあつては政党その他の政治団体に係る公職に就くべき者又はその数、参議院比例代表選出議員の選挙にあつては政党その他の政治団体に係る公職に就くべき者又はその数若しくは公職に就くべき順位)を予想する人気投票の経過又は結果を公表してはならない。

 一見すると、この規定が、イギリスの1983年公職選挙法第66条に相当するようにも見えますが、完全に同じ規定ではありません。というのも、イギリスの公職選挙法では、公表を禁止する期間が明示的に定められている一方で、日本の公職選挙法ではその期間が定められていません。

 有力説では、この規定は選挙運動期間、つまり、「公示から投票期日の前日まで」に適用されるものと解しているものもあります。しかし、それでは、投票期日の締切前に行われる出口調査結果の公表が法律で認められることになってしまいます。

 出口調査の公表が、投票者の行動に影響を与えることは、民主主義自体を脅かすものであることから、当然、投票期日においても、投票締切までは出口調査の結果を公表することを禁じていると解すべきでしょう。

 実際に、日本のマスコミは、締切前に投票率を発表することはありますが、出口調査の結果は締切後にしか行っていません。

 ただし、今後、憲法改正を問う国民投票等の際に、万が一マスコミが現在のやり方を変えて、締切前に公表したとしても、ただちに完全な違法と判断はすることはできず、司法における判断を待つことになるでしょう。そして、司法における判断を待つ間に時間が経つことから、現在の、一票の不平等に関する選挙と同様、事情判決がなされ、選挙自体は違法ではあるが結果は有効とされる可能性すらあるのではないでしょうか。

 ただし、そうであるからといって、この法律を変えろというのは尚早でしょう。法律の隙間が多いのは、古くからある日本の法律の特徴なのです。最近の、特に行政関係の法律は、逆に、ものすごく細かいものが多いですが、それはそれで、理解がとても難しいというデメリットもあります。

 そのデメリットも踏まえたうえで、制度の見直しは論じられるべきなのです。

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