3年でエリート公務員辞めた結果…

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強制労働を命令通りにやる人がまともに見えてしまう恐怖【独裁者の部屋】

独裁者の部屋

 久しぶりに恐ろしい番組を見ました。

 NHKで再放送されていた「独裁者の部屋」です。

http://www.nhk.or.jp/jp-prize/dictator/img/main_img1.jpg

JAPAN PRIZE 日本賞「独裁者の部屋」より)

「独裁者の部屋」の概要

 「独裁者の部屋」は、スウェーデン教育放送が作成したドキュメンタリー番組で、架空の独裁体制の下、集団生活を送る8名の男女の姿を追った作品。

 窓もなく、時計も正しい時刻を示さない、閉ざされた世界に目隠しをされた状態で招かれた8名は、「労働は人生だ」の標語の下、朝のブザーが鳴ってから夜のブザーが鳴るまでの間、クリップを分類するという単調な労働をこなします。夜のブザーが鳴ってから朝のブザーが鳴るまでの間は、外出禁止令が出されていて自分の部屋から出ることを禁じられています。

 携帯電話やパソコン、アクセサリー、化粧品、毛布といった持ち物は全て没収され、持ち込める私物は衣服のみ。食事とごく僅かな生活用品は支給されるものの、トイレットペーパーや枕、シーツといった日用品さえ不十分なまま8日間の生活を送ることとなります。

 

 予め、勝者には10万クローナ(150万円)の賞金が与えられることになっているが、どうすれば勝者になることができるのかは一切示されていません

 参加者は、自らの意志でいつでもこの体制を抜け出すことができます。抜け出す際に、妨害行為等はありません

「独裁者の部屋」を見て感じた恐怖

 「独裁者の部屋」の番組内容からは、多くの問題が想起されます。それは、独裁体制の国における人権、密室空間における人間心理、国民を戦争へと駆り立てるマインドコントロール、人種問題、イスラムに対する考え方といったものです。

 その中で私が着目したのは、「独裁体制に順応する恐怖」です。

 参加者8名のうち、途中で3名の男性が脱落し、最後まで残ったのは1名の男性と4名の女性だけでした。

 脱落した3名の男性のうち、1人は「こんなことやっていられない」と自ら賞金を獲得する権利を放棄し、もう1人は独裁者への反抗心から「クリップを分類する仕事」をストライキした晩にいつの間にか集団生活からいなくなり、最後の1人は「こんな無意味な生活をあと数日間送って時間をムダにすることは絶えられない」と言って「境界線」を超えて去っていきました

 残された5名は、独裁者の指示に従いながら、黙々と「クリップを分類する仕事」をこなし、最終日には独裁者の言う「新たな課題」をこなすために境界線を出て「新たな場所」へと向かいます。番組自体はここで終わるため、「新たな場所」が、本当に賞金獲得につながる場所なのか、銃弾飛び交う戦場なのか、シャワー室という名のガス室なのかは分かりませんが、最後まで残った5名は特に抗うこともなく独裁者の言うがままでした。

 改めて申し上げますが、どうすれば勝者になって10万クローナ(150万円)を手にするのかは一切示されていないのです。クリップをより多く分類すれば勝者になれるなんてことは一言も言われていません

 しかし、最後まで残った5名は、成功したら手に入れられる莫大な報酬を目当てに、独裁者の指示に延々と従い続けるのです。

 Liar Gameやダンガンロンパのような密室謎解きゲームではないので、誰が賞金を獲得したか、本当に賞金が与えられたのかは番組内で語られません

 もしかしたら、独裁体制から自分の意志で抜け出した者が勝者とされ、脱落した3名のうちの誰かに賞金が与えられたのかもしれません。

 「革命を起こして独裁体制を転覆させる」ことが勝利条件で、今回の参加者はいずれも賞金を手にすることができなかったのかもしれません。

 

 そんな番組を見ていた私には、不思議な感情が生まれてきます。

 脱落した3名は幼稚で心が弱く最後まで残って仕事をしていた5名はまともで偉い人間であると。

 

 しかし、本当にそうでしょうか

 架空のものとは言え、番組内の独裁体制は必要最低限の日用品すら揃わない、非人道的な空間でした。

 そんな空間の中で、独裁者の指示に従いながら黙々と生活する人がまともな人間なのでしょうか

 自由が極めて抑圧された空間で黙々と作業をしている人達よりも、そのような空間からいち早く抜け出た男達の方が、よっぽどまともな人間なのではないでしょうか。

 現実の独裁国家においては、簡単に亡命することはできません。国境付近で銃で撃たれて命を落とす可能性もありますし、亡命先の国家が受け入れを拒否する場合もあります。

 しかし、番組内の独裁体制は、そのような障害は一切なく、自由に抜け出すことのできるものでした。

 それなのに、「クリップを分類することや独裁者の指示に従うことは、賞金を得るために必要な行為である」と自分を説得し、無意味な作業を繰り返す。これが「偉い」と称されるべきなのでしょうか

 

 このような現象は、もしかしたら日本でも起こっているかもしれません。

 もちろん、日本は独裁体制ではないので「強制労働」ではありませんが、立憲民主主義で資本主義の日本においても、富裕層は労働せずとも大金を獲得することができる一方で、いくら働いても富裕層の100分の1にも満たない報酬しか得られない人達がいるとしたら…

 

 なんて、これは考えすぎかもしれません。

 しかし、色々と考えさせられる良い番組なので、機会があれば是非見てみてください。なお、壇蜜さんの感想が独自の観点で面白いので、それもあわせて見てみてください。