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西尾維新「結物語」が久々にかなり面白いぞ!

西尾維新「結物語」

結物語 (講談社BOX)

注:ネタバレあり 

 2017年1月12日に発売された物語シリーズ最新作「結物語」。

 セカンドシーズンに続くオフシーズンの最終巻とされる本作ですが、これがなかなかの傑作でした!

 舞台は、一気に5年後の世界。

 花物語などで垣間見た大学時代をすっ飛ばして、阿良々木暦たちは社会人になっています。

 阿良々木暦はなんと警察庁キャリア、戦場ヶ原ひたぎは外国の投資銀行のトレーダー、神原駿河は医学生、羽川翼は・・・戦争仲裁人

 いや、もうみんなすごすぎ。ぶっ飛んでます。いい意味で。

 羽川翼のせいで、他の人が霞んでしまうところはあるのですが、一体誰が、阿良々木暦が警察庁キャリアになるなんて予想したでしょうか。あんなに親に反抗的だった阿良々木暦が警察官。しかも警察庁なんて・・・(なお、本作では現場の警察官も国家公務員であるかのような書きぶりがされていて多少気になる方もいらっしゃるかもしれませんが、そんな無粋なツッコミはやめておきましょう。これまで他にも推理小説を書かれている西尾先生は、国家組織である警察庁と地方公共団体の組織である警視庁・県警等の組織体系は理解された上であえて本作ではそのように書かれているのですから)。

 で、そのように登場人物の将来を知ることができたり、過去の物語シリーズが懐かしくなる表現が出てきたりという面白さもある本作ですが、それ以上に、内容自体がとても素晴らしいと思います。

 「ぜんかマーメイド」、「のぞみゴーレム」、「みとめウルフ」、「つづらヒューマン」という4本立てのうち、「ぜんかマーメイド」と「のぞみゴーレム」は怪異ものとして普通に面白い(化物語や偽物語の頃の面白さ)ですし、「みとめウルフ」では阿良々木と羽川の関係性を、「つづらヒューマン」では阿良々木と戦場ヶ原(と老倉)の関係が丁寧に描かれています。

 どれも面白いのですが、最も心打たれるのは「みとめウルフ」ですね。

 戦争仲裁人として世界規模のプレイヤーとなった羽川翼が一時帰国する事案を描いた「みとめウルフ」では、初恋ではない何かが失恋した猫物語以来の物悲しさがありました。

今の僕が今の羽川にとってどうでもいい男で、今の僕は最高に幸せだ。

 という最後の一文を読んだ後のやりきれない気持ちと言ったら・・・。

 しかも、果たして本当に、阿良々木暦の下に訪れたのが偽物の羽川だったのかわからないというのがこの話の妙ですね。

 語り部である阿良々木暦があえて嘘をついている叙述トリックの可能性もありますし(警察のメンツを守るため?)、高校時代、最後の最後まで羽川の恋心に気づけなかった阿良々木が羽川の真意を勘違いした可能性もあります。

 こちらのブログでニルギリさんが考察されているのも非常に面白いですね。

 確かに、読者としては阿良々木の元に訪れたのが羽川であって欲しいとは思うのですが、果たしてどうなんでしょうね。

 個人的には、阿良々木の「僕は高校生の頃、羽川のことが好きだったんだよ。気付いてなかっただろ?」という言葉を聞いた時の羽川の反応が「空笑い」で「目はうつろ」だったのは、やはり訪れた羽川が偽物で過去にも現在にも阿良々木への思いがなかったから空っぽだったのではないかなと思ってしまうんですよね。

 そうであって欲しいという願いから離れて冷静に考えてみると、羽川翼は、高校生時代の恋にいつまでもとらわれているような存在ではなくて、もっと大きな覚悟を持って戦争仲裁人の仕事をやっているのではないかと。だから、恋慕の情に流されて不用意に阿良々木家を訪れて暦やファイヤーシスターズをより危険な目に合わせるようなことはしないのではないかと。

 まあでも、影武者を使えるならば、影武者でもできる個人情報抹消手続は影武者にしてもらって、阿良々木に会いに来るのは羽川本人がやってもいいんじゃと、これまでの物語シリーズのファンとしてはどうしても思ってしまいますけどね。

 羽川本人が阿良々木家を訪れたけれども、阿良々木がたどり着いた第3の結論に従って、羽川は偽物として振る舞い、阿良々木も偽物だと思いこむようにしたというのだってありえます。だって、羽川も阿良々木も、ねじまげた事実を偽りの真実にしてしまう心の強さを持っていますからね。

 後は、影武者なんていなくて、羽川が本当に抜け出して阿良々木家を訪れたという第4の可能性も忘れてはなりません。

 それにしても、物語シリーズにおける阿良々木と羽川の関係性って本当に悲しいんですよね。

 戦場ヶ原という阿良々木の収まり先があるからまだなんとかなっているとはいえ、これで戦場ヶ原がいなくて羽川と阿良々木だけの関係しかなかったとしたらどうなっていたのでしょうか。

 などなど、書きたいことはまだまだ沢山あるのですが、とめどなく溢れてしまいそうなのでこの辺で。

 物語シリーズを全て読んでいる人も、アニメしか見ていない人も皆さん楽しめる作品だと思いますので、是非お読みになってくださいね!

結物語 (講談社BOX)

結物語 (講談社BOX)

  • 作者: 西尾維新,VOFAN
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/01/12
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

(補足1)

 そうそう、混物語で掟上今日子と阿良々木暦が共演して可能性が潰えていた「掟上今日子=羽川翼」説ですが、ここまで来るとさすがになさそうですね。羽川翼がこんなに有名人になってしまったのでは、隠館厄介が海外で活躍していた頃の今日子さんについて知らなすぎるのはおかしいと思いますから。

(補足2)

 結物語の発売に際して、講談社が特設サイト(http://tsuhan.ni.siois.in/)を設けているのですが、こちらも面白いので要チェックです! カイキダイレクトとか怪しすぎる!

(補足3)

 八九寺の登場を期待していたのに、残念ながら肩透かし・・・。

 是非次巻では八九寺を登場させてほしいです!