3年でエリート公務員辞めた結果…

月間30万PV以上!元国家公務員(総合職・旧1種)による備忘録。通称「さんエリ」

【憲法・行政法】行政法のフレームワーク【ロースクール少女01】

行政法ガール

注意

 既存の法学ガールシリーズとは異なり、あくまでも勉強中の大学院生が自分の理解のために書いているものです。したがって、誤解・誤謬が含まれる場合がございます。

 また、適宜文献を参照しておりますが、参照元に関する記載が粗い場合がございます。

 その点御容赦の上、懐疑的にお読みくださいますようお願いいたします。

第1話 行政法のフレームワーク

 屋上に来ていた。別に何か目的があったわけじゃない。閉塞感のある日常に嫌気が差して、どこまでも無力でしかない自分に嫌悪を覚えて、空が広い場所に行きたくなっただけ。

 そんなわけで、屋上に来ていた。安田講堂の屋上に。

 頭上には一面の青空が広がり、眼下には広大なキャンパスが広がる。

 東京大学の敷地内には安田講堂よりも高い建物が他にもあるのだけれど、ここに来ると、なぜだか大学全体を見下ろしている気分になる。

 日本の学術研究の中心にして、かつて学生運動の中心となった場所。

 当時を知る人々はよく、現代の学生は社会に迎合しすぎているというけれど、果たしてその人々は本当に、当時自ら活動をしていたのだろうか。自らが傍観者であったのであれば、そのような発言は極めて自虐的である。

 そんな他愛もないことに思いを巡らせていると、どこからかピアノの音が聞こえる。心地よい音色に誘われるように目を閉じると、

 

そのまま意識を失った。

 

「意識を失った、なんてそんな大仰な言葉遣いはどうかと思うよ。君はただ、眠っていたようなものなのだから」

 目を覚ました私に、聞き覚えのない声が語りかける。

 ここはどこだろう。どこかの教室のようだけれど。

 そんな困惑に拍車をかけるように、広々とした空間には繊細なピアノの旋律が鳴り響いている。昔アニメ映画で聞いたことがあるような…。確かタイトルは…。

「G線上のエアー。日本人はみんな『ジー線上のアリア』と呼ぶけれど、本来『ゲー線上のエアー』と呼ぶのが筋だよね。神聖ローマ帝国発祥の曲を、英語とイタリア語を混ぜて呼ぶなんてナンセンスだ。君もそう思うだろう?」

 思考を遮るように割り込んできたのは、ピアノを演奏している張本人。小柄な彼女は、手を止めずに猫のような目をこちらに向ける。

「あれー、君、思ったより何ともないね。もしかして、違った?」

 一体何が違った、のだろうか。

「あんなところにいたからてっきりそうかと思ってここまで導いたんだけど、その必要もなかったか」

 置かれた状況も分からなければ、目の前で発せられている言葉も一切意味がわからない。僕は夢でも見ているんだろうか。

「いやいや大丈夫。これは夢じゃない。まぎれもない現実だよ。私は、虎宮都恋(こみや みやこ)。君と同じロースクールの1年生さ。クラスが違うから、知らなくても不思議じゃない。私のことは、みゃーみゃーとでも呼んでよ」

 えっと、それで…

「私のことは、みゃーみゃーとでも呼んでよ」

 えっと、みゃーみゃー、さん?

「ほんとは『さん』もいらないんだけどね。まあいいや。ことのついでだ。なんで君があんな所にいたのか、教えてよ」

 

 面倒なやつに絡まれたことを後悔しつつ(後悔するも何も、巻き込まれただけだが)、いまいち現状を把握できていないまま、ひとまず問われたことに答える。問われたことに答えるのは受験生の性である。

 社会人を経てロースクールに戻ってきたものの、法学部時代に学んだ内容と授業の内容が様変わりしていたこと。強くてニューゲームかと思っていたのに、むしろ、別ゲームとして発売された続編をLv.1からやらされているような気分であること。相変わらず会社法の壁が高いこと。その他、一切合切。

 

「あのさぁ。自分で言っていて虚しくなってこない?そんなどうでもいいことで悩んでいるとか。確かに、この数年で、憲法では二重の基準よりも三段階審査が主流になってきたし、民法では法定責任説よりも契約責任説が圧倒的に強くなった。刑法では相当因果関係説は廃れて危険の現実化がスタンダードとしての地位を確立したりしているけれど、たかだかそれくらいのことじゃないか。会社法だって、26年改正は微修正みたいなもんだし。監査等委員会設置会社なんて、試験ではまず出ないでしょ」

 たかがそれくらいのこと…。

「君はさ、他学部から法科大学院に進学したいわゆる『純粋未修者』がどれだけ苦労しているか、『民事裁判実務の基礎』p.42でも読んで、知ったほうが良いよ。それに比べて君がどれだけ有利な立場にいて、どれだけ甘えているかを自覚すべきだ」

 …。

「まあでも、ちょうどいいや。私もパートナーを探していたところでね。よければ一緒に、勉強しないかい?」

 

「さてと、じゃあ、何から始めようか」

 展開が急過ぎて、抗うことすらできない。

 でも、もし勉強するなら、憲法からがいいなあ。六戸(ろくのへ)先生の授業が、ハイレベルすぎて理解が追いついていなくて。

「憲法か。確かにあの授業はなかなか高度だけれど、十三賢人の1人から直接に授業を受けられる機会はなかなかないからね」

 十三賢人? 世界には七愚人と呼ばれる天才中の天才がいるという噂は聞いたことがあるけれど。真理に最も近い7人、とか。

「ああ、十三賢人っていうのは、まさにその後継的存在だよ。いかんせん現代ではデジタル化が進みすぎてしまったからね。孤独でなくなった7の代わりにDで再構成したらしい。やはり、天才は孤独であるべきだからね」

 言っていることを半分も理解できないけれど、孤独を唄いながら集団を作るのであれば、それには矛盾を感じるな。

「それで、憲法からかー。うーん、それもいいけれど、やっぱり、民法があって行政法があって憲法があるからね。オットー・マイヤーも『憲法は滅びても、行政法は存続する』と言っているだろう?(行政法ガールp.217)

 だから、憲法から固めるのは無理があるし、本質を見失うおそれがあるよ。残念なことに、法科大学院では、行政法が秋学期のカリキュラムに入っているからね。きっと君が憲法の授業を理解しきれていないのも、行政法の理解不足が原因じゃないかな」

 それじゃあ…。

「だからさ、思い切って、全部一気にやろうよ。試験科目なんて、相互に有機的に結合している法学体系を、便宜的に人為的に区切っただけにすぎないのだから」

 全部って。

「まあまあ、ものは試しだよ。」

 うう。仕方がないか。流されるならとことん流されてみよう。

「でも、特別サービス! 憲法から学びたい君のために、公法分野の学習から進めることを認めよう。私法が先にあって公法が後から生じるというのはその通りだけど、公法について考えるに当たってはさしあたり、『私法は私的自治の原則が支配する』という程度の認識でいれば済むだろうからね」

 特別サービス!って、もとからそのつもりだったのでは? でも、公法といってもどこから手をつけていいのやら。

「公法分野における出発点は、やはり行政法における基本概念からだろう。行政法的思考は行政分野に限らず司法分野も含めて、公法体系の全てを支配するからね。

 ただ、その前に地図が必要だな。実際の試験において、どの部分で用いるべき知識なのかということを意識しながら勉強するのとしないのとでは、効率に大きな差が生じる」

 よりによって行政法? なかなか実体が掴めなくて、苦手なんだよなぁ。

「君はもともと公務員をやっていたのだろう? 行政法はむしろ得意分野かと思っていたのだけれど」

 残念ながらそんなことは決してない。名選手が名監督とは限らないように、バーテンダーが必ずしもお酒に強くないように、英語教師が往々にしてTOEICで点数が取れないように、公務員だからといって必ずしも行政法が得意なわけではない。

「言い訳じみた御託はその辺にして、実際に行政法の問題をどのように処理するか、体系を示してみせてよ」

 そうだなぁ、『事例研究行政法』p.99〜p.104を参考にまとめてみると、こんな感じか

Ⅰ 訴訟類型の選択(取消訴訟、義務付け訴訟、当事者訴訟、etc.)

→訴訟要件の検討

(例えば取消訴訟であれば、①処分性、②原告適格、③訴えの客観的利益、④被告適格、⑤管轄、⑥出訴期間、⑦審査請求前置主義の有無)

Ⅱ 違法性の検討

→大前提として「法律の留保」

 i 裁量がない場合

 →判断代置

 ii裁量がある場合

 →①社会観念審査(比例原則、平等原則、信義則等)

  ②判断過程審査(他事考慮、重大な事実誤認、目的・動機違反)

  ③手続的コントロール(聴聞、理由付記等)

※裁量の有無は、憲法上の権利及び当該法律の趣旨目的を踏まえた上で、当該法律の文言及び処分の性質から判断する

  注意すべきは、観念審査と判断過程審査は、表裏一体の関係にあるということと、行政手続法制定以前の判例(個人タクシー事件、群馬中央バス事件)は、手続的瑕疵が結果に影響を及ぼさない場合は、当該瑕疵が取消事由にならないとしているというところか。もっとも、行政手続法制定後の現在においては、正しい判断は正しい手続によってのみ導かれるという考えのもと、すべての手続的瑕疵が取消事由になるという考え方も有力で、個人的にはそちらに与したいけれど。

 

「さすが! 綺麗にまとまったね! 

 訴訟類型の選択に際しては、訴訟要件の中の①処分性と②原告適格が重要だけれど、ここらへんの話はいきなりやっても面白くないから後回しにしよう。

 そこでまず、違法性の検討だね。

 違法性の検討については、大前提として『法律の留保』が存在する」

 法律の留保って、要するに、国も法律に縛られるみたいな話だったよな。

「そうそう。『法律学小辞典』では『法律の根拠がなければ行政権は活動できないという原則』と説明されているね。

 行政法の基本書では、そのような用語説明をした上で、侵害留保説だとか全部留保説だとかいった学説の対立の説明に移ってしまうことが多いのだけれど、この原則は、公法における大前提であるから、憲法的観点も含めて十分に理解する必要がある。」

 そうなのか。そこまで重視して考えたことはなかったな。

「法律の留保っていうのはね…。

 と、残念。そろそろタイムアップみたいだ」

 え?

「ほら、法文1号館って、21時には閉まっちゃうじゃない。私達もそろそろ出ないと」

 そう言われてはじめて、自分がどこにいるのかを自覚した。

 ピアノがある教室なんて、他にはないもんな。