3年でエリート公務員辞めた結果…

月間30万PV以上!元国家公務員(総合職・旧1種)による備忘録。通称「さんエリ」

【憲法・行政法・刑法・刑訴】法律の留保【ロースクール少女02】

事例演習刑事訴訟法 第2版 (法学教室ライブラリィ)

注意
 既存の法学ガールシリーズとは異なり、あくまでも勉強中の大学院生が自分の理解のために書いているものです。したがって、誤解・誤謬が含まれる場合がございます。
 また、適宜文献を参照しておりますが、参照元に関する記載が粗い場合がございます。
 その点御容赦の上、懐疑的にお読みくださいますようお願いいたします。

第2話 法律の留保

 夢を、見ていた。

 高い螺旋階段の中心をどこまでもどこまでも落下し続ける、そんな夢を。

「おはよう! よく眠れたかい? おやおや、そんな顔をしているということは…」

 え? なんで虎宮さんが僕の家に?

「おいおい、人を侵入者呼ばわりするのはやめてくれないかな。私は、管理者の同意なしに人の部屋に入ったりはしないよ。刑法130条の住居侵入罪が成立してしまうからね。その点、吸血鬼よりも厳格さ。私がここにいるのはね、昨晩君が無理矢理…」

 って、ちがーう!! 太陽は天高く登っているし、そもそもここは僕の家なんかじゃない。どうやら図書館での勉強中に眠りについてしまったようだ。

 手元には、古江先生の『事例演習刑事訴訟法』。司法試験受験生必携の、刑事訴訟法の演習書である。

「へー。刑訴を勉強していたんだ。勉強が進んでいて素晴らしいね。そうだ、丁度いいから、この間の続きをしようよ」

 切り替えが早すぎる。このあいだの続きというと、法律の留保か。法律の留保とは、法律の根拠がなければ行政権は活動できないという原則だったはずだ。

「公法を考える上で大前提となる『法律の留保』だけれど、どこから導かれるのだろうね」

 確か、オットー・マイヤーが、法律の支配の一内容として法律の留保を掲げたなんてことを塩野先生が書いていたような(行政法Ⅰp.68)。

「そうだね。だとすれば、『法の支配』というのは、どのように導かれるのだろうね。憲法が、41条で国会の立法権独占、76条で一切の法律上の争訟の司法裁判所による裁決を定めていることが日本において法の支配が作用している証左とするのであれば(憲法Ⅰp.44)、やはり権力分立原理にその根拠を求める(さくはしp.12)べきなのかな。でもそうすると、壁にぶち当たることになるね。だって、権力分立なんてのは『歴史的に形成されてきた』(芦部p.288)ものにすぎず論理必然の帰結ではないのだからね。だからこそ、学者の間でも『法の支配という概念をどのように理解するかについて……争いがある』(宍戸p.209)ことになるのだろうね。」

 そうだとすると、どうすればいいのだろう。

「これ以上進むと、法哲学的な泥沼に踏み込むことになりそうだ。それもそれで楽しいかもしれないけれど、ここで足を取られた結果、木を見て森を見ずとなるのは本末転倒さ。

 ひとまずは、『専断的な国家権力の支配を排斥し、権力を法で拘束することによって、国民の権利・自由を擁護することを目的とする原理』(芦部p.13)として理解して先に進むのがいいのではないかな。要するに、立憲主義の観点から法の支配を理解するということだ。

 この理解にあたっては、前憲法的な自然権が個人尊厳の原理(憲法13条)に実定化するとともに、同じく前憲法的な国民の制憲権が国民主権に転化した上で、国民主権から正当性を付与された統治機構が人権に奉仕するという、芦部憲法に通底する思想(芦部p.397の図参照)のフレームワークに則ると考えやすいね。」

 確か、その図の解説がどっかのウェブサイトに載っていたな。

「そのような考え方に基づくと、『法の支配』というのは、『法律による行政の原理』とほぼほぼイコールになるね」

 ほぼほぼ? 完全にイコールではないのか。塩野先生の本では、完全にイコールというような文脈で書いてあった気がするけれど(塩野p.68)。

「ああ、要するにさ、法の支配が及ぶ領域は、行政分野に限られないということさ。法律による行政の原理は行政分野にしか妥当しないが、法の支配は、司法警察活動のような行政以外の分野も含めて国家による権力作用一般に妥当するということ。だからもちろん、法律の留保は行政分野以外の公法領域においても作用することになる。」

 そっか、権力分立が貫かれている以上、行政と司法は別物だもんな。

「分野的な問題とは別に、公権力による行為の態様の観点からも、法律の留保原則の及ぶ範囲についてはかつて議論があったところだけれど、侵害行政についてのみ法律の留保が妥当する侵害留保説が通説的立場を確立しているね。現実的な運用可能性の観点から妥当な結論だし、あえて全部留保説や重要事項留保説をとる実益もないだろうからね。ところでさ、法律による行政の原理や法律の留保について、その存在を示した判例があるのを知っているかな?」

 そんな判例、あっただろうか。

「まあ、知らなくても無理はないよ。租税法律主義について言及する際、裏っ返しで示しただけだからね。でもさ、旭川市国民健康保険条例事件(最大判平成18.3.1、百選Ⅱ203)は知っているだろう?」

 確か、反対給付として徴収される保険料は、租税法律主義(憲法84条)の直接の適用は受けないけれど、その趣旨が及ぶということを示した判例だったはずだ。

「そうそう、その通り。その判旨の中で憲法84条が『国民に対して義務を課し又は権利を制限するには法律の根拠を要するという法原則を租税について厳格化した形で明文化したもの』と言っている。つまり、法律による行政の原理ないし法律の留保は、憲法の個々の条文の背後に当然想定されていると、裁判所も考えているということだね(宍戸p.210)」

 つまり、明文化するまでもなく当然に存在している法律の留保をあえて明文化したのが、租税法律主義ということか。民法において、所有権に基づく妨害排除請求が明文に規定されていないのと似ているな。もっとも、あれは民法202条1項の「本件の訴え」として仄めかされているのだったか。

「法律の留保を具体化した例は、他にもあるのだけれど、何か思いつく?」

 つまり、法令の根拠なしに国民の権利を制限してはいけないというルールか。パッと思いつくのは、罪刑法定主義だけど。

「そうだね。罪刑法定主義はまさに、刑事分野における法律の留保の具体化だね。もっとも前述のとおり、刑罰は司法権によって科されるものだから、法律による行政の原理ではなく、法の支配という広い観点から考える必要があるけれど。また、罪刑法定主義は租税法律主義とは異なって、憲法上で直接規定されているわけではなく、31条や39条でその存在が確認できるにすぎないということには注意が必要だよ。あとは?」

 同じく刑事系であれば、刑事訴訟法の強制処分法定主義(刑事訴訟法197条1項ただし書)とかかな。

「素晴らしいよ。またしても司法領域における法律の留保の例ではあるけれど、まさにそのとおり。同意なく重要な権利利益に対する実質的制約となるような行為は、『強制の処分』として、刑事訴訟法上の根拠が必要となるんだよね。それにともなって令状主義(憲法35条、刑事訴訟法201条等)等も妥当するようになる、と。ちなみに、『強制の処分』に当たらない任意捜査においても妥当する『捜査比例の原則』の根拠とされている197条1項本文が『捜査については、その目的を達するため必要な取調をすることができる』と規定していることからわかるように、任意捜査自体、その条文がなければ許されないことになるよね。強制処分に当たらなくても何らかの権利利益を制約すると考えるのが最高裁の立場であるわけだし」

 なるほど、昭和51年決定か。

「それからさ、今言った強制処分に似た、行政領域における法律の留保の例もあったよね? ほら、いわゆる行政警察活動でさ」

 あぁ! 職務質問における警察官職務執行法2条! 確か、あえて2条1項が置かれていることから、同項は非侵害的行政活動しか許容していない確認規定ではなく、相手方が承諾しない場合においてもなお侵害的行政活動ができるという意味の創設的規定と解するのが、判例の立場だったはずだ(古江p.32)。

「ふふ、なかなかやるじゃないか。パートナーとして君を選んでよかったよ」

 お褒めに預かり光栄です。