3年でエリート公務員辞めた結果…

月間30万PV以上!元国家公務員(総合職・旧1種)による備忘録。通称「さんエリ」

【刑法・刑訴】罪刑法定主義【ロースクール少女03】

刑法 第3版

注意
 既存の法学ガールシリーズとは異なり、あくまでも勉強中の大学院生が自分の理解のために書いているものです。したがって、誤解・誤謬が含まれる場合がございます。
 また、適宜文献を参照しておりますが、参照元に関する記載が粗い場合がございます。
 その点御容赦の上、懐疑的にお読みくださいますようお願いいたします。

第3話 罪刑法定主義

「その力量を見込んで、ちょっと脱線してみよう。法律の留保に関しての理解は、以上で大分深まっただろうからね。先程、罪刑法定主義が出てきたけれど、罪刑法定主義を支える二大原理は何かな?」

 これは簡単。自由主義と民主主義だ。つまり、立憲主義の裏っ返しということなのだろうな。

「それじゃあ、罪刑法定主義の背後にある自由主義と民主主義が顕在化する場面を、それぞれ教えてよ」

 これも授業でやった気がするぞ。まず、自由主義が顕在化するのは、超法規的違法性阻却事由を考慮する場面だ。実質的違法性論の立場からは、実質的な違法性が失われた場合、明文の根拠がなくても違法性を阻却することができる。なぜならば、自由主義を根拠とする罪刑法定主義は、あくまでも被告人の自由を制限する場合にのみ妥当するものであって、違法性を阻却し刑罰を免れさせる場面においてまで妥当するものではないからだ。

「超法規的違法性阻却事由の具体例は?」

 よく出てくるのは、被害者の同意がある場合だ。被害者の同意がある場合に刑罰を免除する旨の規定はないけれど、同意があれば実質的に違法性が阻却されるから、同意傷害は違法性が阻却されて不可罰となる。もっとも、生命に危険が及ぶ可能性の高い傷害行為については、たとえ同意があったとしても刑法202条との均衡論から違法性を阻却しないとするのが結果無価値的な立場からの帰結だったな。

「さっすがー。じゃあ、民主主義が顕在化する場面はどうかな?」

 民主主義が顕在化するのは、条例により刑罰を定める場面。条例は法律よりも下位の法規範であることから、法律の範囲内である必要はあるものの、条例も法律と同様に公選の議員により構成される議会で民主的に制定されるものであることから、法律の範囲内であれば条例で刑罰を定めることは許されるということだったはずだ。

「つまり、法律からの委任なく、条例で刑罰を定めていいということ?」

 そのはずだけれど…。

「それはどうだろうね。

 大阪市の『街路等における売春勧誘行為等の取締条例』が問題になった最大判昭37.5.30では、『憲法31条はかならずしも刑罰がすべて法律そのもので定められなければならないとするものでなく、法律の授権によってそれ以下の法令によって定めることもできると解すべきで、このことは憲法73条6号ただし書によっても明らかである』と述べた上で、『条例は、法律以下の法令といっても、……公選の議員をもって組織する地方公共団体の議会の議決を経て制定される自治立法であって、行政府の制定する命令等とは性質を異にし、むしろ国民の公選した議員をもって組織する国会の議決を経て制定される法律に類するものであるから、条例によって刑罰を定める場合には、法律の授権が相当な程度に具体的であり、限定されておればたりる』と判示しているんだ。その上で、当時の地方自治法2条3項7号及び1号のように相当に具体的な内容の事項につき、同法14条5項のように限定された刑罰の範囲内において、条例をもって罰則を定めているから当該条例は罪刑法定主義との関係で問題ないとされている。

 もっとも、その後の地方分権改革の流れで、2条3項に列挙されていた具体的な事務の内容は地方自治法から削除されてしまったという皮肉なオチがついているけどね。

 一方、当時の14条5項は現在でも14条3項として残っていて、いまだにこの規定が存在するから、地方自治法により授権を受けた地方公共団体が、条例で罰則を定めることができると解する立場をとった方が安全なように思うな。単に民主的正当性があるというだけで罪刑法定主義を潜脱できるのであれば、民主的正当性という建前の下で、私刑が容認されかねないからね。

 同様のことは、租税法律主義に関して、神奈川県臨時特例企業税事件(最判平25.3.21、百選Ⅱ208)でも述べられているね」

 古い判例についてまで、チェックできていなかった…。

「まあまあそう落ち込まず。罪刑法定主義は刑法の大前提だけれど、刑事訴訟法においても重要な原則だよね。刑事訴訟法において罪刑法定主義が最も重要になる論点について、知ってるかな?」

 古江先生の本でチラッと見た気がする。確か、択一的認定、だっただろうか。複雑そうだったし、どうでもいいかなーと思って読み飛ばしてしまったけれど…。

「ちょっとちょっと、どうでもよくないから。択一的認定については、司法試験でも聞かれる可能性が高い論点だよ。実際に平成25年の予備試験でも出題されているし。

 択一的認定というのはね、要するに、審理を尽くしても、事実について十分な心証を形成できなかった場合、裁判官が『〇〇又は〇〇』というような択一的な事実を認定した上で処罰することができるかということだね。例えば、被告人が被害者を遺棄した際に、被害者が生存していたのか死亡していたのか定かでなかった場合、『保護責任者遺棄又は死体遺棄』との択一的な事実認定をして、軽い死体遺棄罪の罰条で処断することができるのかというような問題だよ」

 それと、罪刑法定主義がどのように関わってくるのだろう。

「択一的認定が許容されるか否かは、罪刑法定主義と利益原則(疑わしきは被告人の利益に)から問題となるんだ。特に、先程の例のように、構成要件をまたがる択一的認定については、明示的であれ黙示的であれ、罪刑法定主義と強く抵触するとされている。その前提として、『罪刑法定主義は、被告人の行為を犯罪として処罰するには、行為の時点において、その可罰性が法律上定められていなければならない、とすることに尽きるわけではなく、有罪判決が許されるために証明されるべき対象が、実体法上の構成要件を基準に個別化されることをも要請する』(古江p.426)という理解があるんだ。だからこそ、構成要件をまたがる択一的認定を許してしまうと、『人又は死体を遺棄する行為』というような合成的構成要件を創り出し、それに基づいて処罰するのと実質的には同じことになるとして、罪刑法定主義に反するとされるのだよ。

 一方で、構成要件を跨がらない択一的認定については、罪刑法定主義との関係で問題は生じにくいから、利益原則(刑事訴訟法333条1項)との関係で処理をすることになるね」

 そうなのか…。少し技巧的な感じがするなぁ。

「刑事訴訟法は往々にして技巧的だからね。再伝聞について324条をかませるところとかもね。それはそれとして割り切るのもひとつじゃないかな。

 あれ、もう図書館が閉まる時間じゃないか。意外に法律の留保だけで話し込んでしまったね」

 もう、疲れたよ。

「ハハハ、じゃあ、ゆっくり休んでよ。またねー」