3年でエリート公務員辞めた結果…

月間30万PV以上!元国家公務員(総合職・旧1種)による備忘録。通称「さんエリ」

【憲法】二重の基準と三段階審査【ロースクール少女05】

「憲法上の権利」の作法 第3版

注意
 既存の法学ガールシリーズとは異なり、あくまでも勉強中の大学院生が自分の理解のために書いているものです。したがって、誤解・誤謬が含まれる場合がございます。
 また、適宜文献を参照しておりますが、参照元に関する記載が粗い場合がございます。
 その点御容赦の上、懐疑的にお読みくださいますようお願いいたします。

第5話 二重の基準と三段階審査 

 それで、実際のところ、二重の基準と三段階審査と、どちらをとって考えればいいんだ?

「そう結論を急がないで。焦らなくてもケーキと憲法は逃げないよ。もぐもぐ」

 僕はむしろ会計から逃げたい。

「かつて憲法学会を支配し司法試験界をも風靡した二重の基準と、小山先生による『憲法上の権利の作法』が出て一気に受験生の間に浸透した三段階審査はね、結局似たようなものなんだよ」

 似たようなもの? でも、ルーツが全然違うんじゃないの?

「確かに、二重の基準はハーバード大学で学ばれた芦部先生が英米法の理論をもとに構築されたものである一方で、三段階審査はドイツの判例理論をもとに構築されたものだから、出自は別々だよね。そして、二重の基準論が、判断基準の枠組みを先に提示して裁判官を拘束することを狙いとしていた一方で、三段階審査は個別具体的な事情をもとに審査密度を柔軟に上げ下げし、いわばスライディングスケールを用いて審査をする点に決定的な違いがある」

 そんな違いがあるのに、似たようなものというのは?

「三段階審査の大枠を復習してみようか」

 三段階審査は、刑法において構成要件該当性→違法性阻却事由→責任阻却自由と判断するように、人権制約の合憲性について①保護範囲→②制約の有無→③正当化という三段階をたどって判断するものだったな。

「刑法と比較するというのは、いい視点だね。実際に刑法における違法性阻却も憲法における正当化も、いずれもRechtfertiguns(正当化)というドイツ語の訳語だからね。憲法と刑法で一見違うことをしているようでいて、実は同じことをしていたというわけだ。ただ、刑法とは違って憲法における三段階審査は、ドイツ本国においても『思考を手助けすることを目的としている。どのような事例でも、そのままの形でこれをすべて再現するようなことはしてはならない』(宍戸)と警告されているように、三段階審査の用語を答案上に大々的に展開するのは好ましくない。実際の判決文が、『保護範囲』だとか『正当化』とかのワードを使っていないようにね。あくまでも思考の補助ツールとして使うべきで、アウトプットの際には、三段階審査の用語自体は捨象すべきなんだ。

 次に、君のお得意な二重の基準では、どのように判断するのかな?」

 二重の基準では、問題となる権利の性質とそれに対する制約の態様から審査基準を決定し、それを事例に当てはめる。

「そうだよね。ほら、こうしてみてみると、結局は同じことをやっているということが分からない? 二重の基準にしても、まずは問題となっている権利が憲法上保障されているものなのかを判断し(①保護範囲)、それに対する制約の態様を考慮(②制約の有無)した上で、審査基準をあてはめる(③正当化)」

 なるほど。そう言われてみれば確かにそうだ。

「結局、どのような法体系をとっていても、法律家の思想というのは概ね一致するというところだろうね。だから、二重の基準も三段階審査も、同じものを表と裏から見ていたような関係になるのさ。

 ただ、二重の基準においては、審査基準のあてはめ(③正当化)に重きが置かれていて、①保護範囲と②制約の有無は審査基準を決定する上での前置きのようになってしまっていたきらいがあるよね。一方で、三段階審査は、それぞれの段階で同程度に厳密に判断することになる」

 確かに、学部生時代、憲法は審査基準勝負だと予備校でさんざん教えられたっけ。

「もちろん、三段階審査においても審査基準の設定とそのあてはめによる合憲性審査は重要だよ。ただ、かつて予備校で教えられた『劣化版二重の基準』が蔑ろにしていた保護範囲と制約についても正面からきちんと取り扱うということだね」

 なるほど。二重の基準で重要視されていた違憲審査基準は、あくまでも③正当化という一段階の問題にすぎないということか。

「三段階審査における正当化は、大抵の場合、比例原則によって行われるんだけれど、比例原則がドイツの判例によって目的手段審査という形に精緻化されたということはさっき言ったよね。これは、目的と手段の観点からそれぞれ、制約が比例原則に即しているかを判断するものだよ」

 また比例原則か…。

「そりゃあ、今日は比例原則の話をしているんだからね。ところでさ、目的と手段と聞いて、ピンと来ないかな?」

 あ! 二重の基準における合憲審査基準!!

「そうそう、まさに二重の基準の合憲審査基準は、目的と手段から判断するんだったよね。

 ①厳格審査基準であれば、やむにやまれぬほど必要不可欠な『目的』(compelling interest)のために、必要最小限度(narrowly tailored)の『手段』がとられているか。

 ②中間審査基準であれば、重要(important)な『目的』のために、実質的関連性のある『手段』がとられているか(より制限的でない他の選びうる『手段』がないか)。

 ③緩やかな審査基準であれば、正当(legitimate)ないし合理的(rational)な『目的』のために、合理的関連性のある『手段』がとられているか。

 という観点で、合憲性を審査するんだったよね。」

 つまりこれも、英米法と大陸法という別の角度で、同じものを見ていたということになるのか。

「本家本元のドイツにおける比例原則というのは、必ずしもこれに適合するわけではないだろうけれどね。でも、柔軟に審査基準を上げ下げするにしても、スライディングスケール本体の大枠は必要になる。相場観がなければ、説得的な答案を書くことはできないからね。そこで用いるべき相場観として、二重の基準の考え方を用いるということだ」

 好き勝手やりすぎて、学者の先生方に怒られないだろうか。

「学問を究める立場であるならば、もしかしたらこのように法体系をごちゃまぜにするような身勝手なことをしたら怒られるのかもしれない。でも、私たちは実務法曹を目指すわけだからね。実務法曹は、使えるものは何でも使う。三段階審査と二重の基準のいいとこ取りをして何が悪い!とでも開き直っておけばいいのさ」

 開き直るって…。でも、おかげで頭が整理されてきたな。

「先程、二重の基準による相場観の話をしたけれど、芦部先生が作られた、審査基準の比較表は分かるよね? あれを常に頭の中に描きながら、個別具体の事情に基づいて審査密度を上げ下げすればいいんだ」

 審査基準の比較表って、この図のことか。

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(芦部信喜『憲法判例を読む』p.103から作成)

 それで、実際に審査密度を上げ下げする要素というのは、ここにあるように、そもそも精神的自由か経済的自由か、あるいは、表現内容規制か内容中立規制か、消極目的規制か積極目的規制か、ということになるのか。

「そうだね。それ以外にも、問題となっている権利が憲法の保障する人権の核心か周辺か、事前規制か事後規制か(許可制か届出制か)、直接的制約か間接付随的制約かといったものが、審査基準を上下させる要素になる。

 それから、忘れがちだけれど、裁量の有無も忘れずにね。最初、行政法のフレームワークを考えた際、違法性を検討する最初の段階で、法律の趣旨目的を踏まえて法令の文言を読み解くことで、裁量の有無を判断したじゃない? それと同様に、憲法においても問題となっている制約根拠についての立法府の裁量をまず考慮しなければいけない。

 具体的には、経済的規制については専門的技術的判断の必要性から、行政府と密接な関係にある立法府の裁量が広くなる傾向があるし、また、選挙区割については、憲法上で立法府に権限が認められていることから立法府の裁量が広くなる。

 審査基準の上げ下げについては、薬局距離制限事件が、経済的自由ではあるけれども、①事前規制(許可制)で、②憲法22条の核心である職業選択の自由に対する、③直接的制約で、④消極目的規制であることを理由に審査密度を上げて緩やかな基準で判断したということを頭に入れておくといいと思うよ」

 この考え方に基づくと、場合によっては精神的自由でも緩やかな審査基準が用いられることもあるし、経済的自由でも厳格審査基準が用いられることもあるということになるのかな。

「その通り。実際、精神的自由のひとつである政治活動の自由が問題になった猿払事件では、目的が正当で手段が目的と合理的関連性を有するか否かという緩やかな審査基準を用いているしね。もっとも、あれはもともとが表現内容規制なのだから、いくら間接付随的制約であると理論構成したとしても、緩やかな基準まで審査密度を下げるのはやりすぎだ。まあ、当時調査官をされていた香城先生としては、猿払一審で中間審査基準を適用した結果人事院規則が違憲になった経緯を踏まえて、芦部先生によるLRAの呪縛から逃れるためにあえてそこまで審査基準を落とすしかなかったということなんだろうね」

 なるほど、そういう見方もできるのか。香城先生って、名前はかっこいいのに、憲法学においてはかなりの悪役として扱われているよな。

「人を勝手なイメージだけで判断するものじゃないよ。香城先生はすごく頭のキレる理論系の裁判官で、刑法や刑事訴訟法の分野においてはポジティブな面で学者から引用されることもあるお方なのだから(橋爪、古江)。

 そうそう、言い忘れたけれど、過度広汎規制などの場合には、文面審査だけで違憲性を判断することになるから、個別具体の事情を考慮することはないよ。もっとも、芦部先生の図で文面審査に位置づけられている事前抑制については、その性質に応じて、単なる文面審査をすべき場合と審査密度を上げる要素として用いるべき場合の療法があることに注意が必要だけれど」

 その場合には、審査密度の上げ下げ云々の前に、そもそも文面だけから判断するということなんだな。結果的に、審査密度の上げ下げは、厳格審査基準・中間審査基準・緩やかな基準という3つの基準の中で行うことになる、と。

 頭を使いすぎて、甘いものが欲しくなってきたな。

「え? なになに? レアチーズケーキとメレンゲシャンティが食べたいって? 仕方ないなぁ。じゃあ、お姉さんが代わりに注文してあげよう」

 僕以上に食欲を感じるのだけれど、気のせい? 勝手にケーキを決められてるし…。

 

 その後僕らは、法律の話を離れて延々と美味しいケーキを堪能した。心は満たされたし、疲れきった頭も回復したが、それ以上に懐が灰燼と帰したことは言うまでもない。