3年でエリート公務員辞めた結果…

月間30万PV以上!元国家公務員(総合職・旧1種)による備忘録。通称「さんエリ」

【刑法】刑法のはじまり【ロースクール少女07】

刑法入門 (岩波新書)

注意
 既存の法学ガールシリーズとは異なり、あくまでも勉強中の大学院生が自分の理解のために書いているものです。したがって、誤解・誤謬が含まれる場合がございます。
 また、適宜文献を参照しておりますが、参照元に関する記載が粗い場合がございます。
 その点御容赦の上、懐疑的にお読みくださいますようお願いいたします。

第7話 刑法のはじまり 

 図書館で勉強していると、誘惑に負けることがある。誘惑といっても、睡魔ではないし、厚い学問的な本に惹かれるほど高尚な人間ではない。

 最大の敵は、大衆小説。面白い小説が読み放題な図書館で、それを読まずにいろというのはなかなか忍耐がいる。そんなわけで今日手に取ったのは『恋と禁忌の述語論理(プレディケット)』。第51回メフィスト賞受賞作だ。数理論理学を用いた異色のミステリだが、夢中で読み耽ってしまった。作者の井上真偽は東大卒の仮面小説家らしいのだけれど、石田衣良以降、顔を出さない小説家は珍しい。今はいったい何をされているのだろうか…。

「君も、推理小説を読んだりするんだね。女子に何でも命じられるっていうのにまさか『このまま一緒に勉強をさせてください』とかいう腑抜けだから、俗っぽい小説なんかは読まないのかと思ったよ」

 突然登場しておいて、人のことを腑抜け呼ばわりするな。

「ゴメンゴメン。撤回撤回。真面目だから、俗っぽい小説なんかは読まないのかと思ったよ」

 撤回しても遅い! 世の中、撤回しても許されないことは沢山あるんだ!

「私も昔は推理小説が好きで読んでいたのだけれど、法律を学んでからは純粋に楽しめなくなっちゃったなぁ」

 確かにそれは否めない。事件や捜査の描写を見ると、どうしても刑法や刑事訴訟法の条文が浮かんできて、その当たりのアラが目についてしまう。

 まあでも、それはそれ、これはこれである。小説の中の世界は、今自分たちがいる世界とは別物の世界なんだということを意識すれば、純粋に楽しむことだってできなくはない。

「そのように意識すべく努めている時点で、純粋に楽しめているとは言えないと思うけれど…」

 それで、今日もこうして僕の目の前に現れたということは、一緒に勉強するということかな?

「人のことを勉強しか眼中にない人間みたいに言わないで欲しいな。私だって、勉強以外でも君と話したいことが沢山あるのに…」

 そう素直になられると逆に困る。僕は女子の扱いに慣れていないのだ。

「ふふふ、君、分かりやすいね。そんな君のことを思って、いつも法律学という話のネタを持ってきてあげているんだから、もっと感謝してよね。

 前回、憲法・行政法が一区切り付いたから、次は同じ公法分野の刑法について勉強しようか。君から真剣な顔で『このまま一緒に勉強をさせてください』とまで言われてしまった以上、断るわけにはいかないからね」

 刑法か。授業を担当してくださっている八爪(やづめ)先生の分かりやすい授業のお陰で、比較的理解が進んでいる科目だ。

 授業を受ける前までは行為無価値論に染まっていた僕だけれど、今となっては完全に結果無価値論者になってしまっている。

「人によってはさ、行為無価値とか結果無価値とかすごくこだわるけど、そんなのにこだわりすぎるのって、はっきり言って無駄だよね」

 確かに、自説の筋がすっきりと通っているのであれば、行為無価値論的であっても結果無価値論的であっても、大差はないのだろう。問題は、いかにして筋の通った議論をするかだ。

「筋の通った議論をするためには、概念の定義を確立することが大事だね」

 また概念論だ。

「概念というと、漠然抽象的でつかみどころのないものという印象を受けて、アレルギー反応を起こす人もいるけれど、しかし社会科学のひとつである法学も概念なしには成り立たない。むしろ、自分が扱いやすいように概念をしっかりと掴むということが大事だと思うな」

 概念をしっかりと掴む。

「法的三段論法が重視される法律学においては、規範を適切に立てるために、そもそも各概念の定義が自分の中で確立していなければいけないということさ。

 刑法はその最たる例だから、順番に確認していこうか」

 順番に?

「そうだねぇ。刑法において罪責を検討する際の定石である、客観的構成要件→主観的構成要件→違法性→責任という順番でいいのではないかな。

 それじゃあまず、客観的構成要件の中身から確認していこう」