注意
既存の法学ガールシリーズとは異なり、あくまでも勉強中の大学院生が自分の理解のために書いているものです。したがって、誤解・誤謬が含まれる場合がございます。
また、適宜文献を参照しておりますが、参照元に関する記載が粗い場合がございます。
その点御容赦の上、懐疑的にお読みくださいますようお願いいたします。
第9話 主観的構成要件
主観的構成要件は、故意と過失だ。
「故意の定義は何かな?」
構成要件的故意については、シンプルに「構成要件該当事実についての認識・認容」と考えるべきだ。このように解することによって、客体の錯誤や因果関係の錯誤のような具体的事実の錯誤だけでなく、構成要件をまたがる抽象的事実の錯誤も処理がしやすくなる。
「具体的に、具体的事実の錯誤についての処理をしてみてよ」
例えば、Aを殺そうと思ったのにBを殺してしまった客体の錯誤の事例においては、単に「構成要件的故意は構成要件該当事実についての認識・認容」であるとした上で、「構成要件には『人』として規定されている以上、『人』を殺す認識で『人』を殺したのだから構成要件的故意は阻却されない」と述べることになるな。
「因果関係の錯誤の場合は?」
因果関係の錯誤も同様に、「構成要件的故意は構成要件該当事実についての認識・認容」であるとした上で、「実行行為の有する危険性が結果に現実化する範囲内であれば、因果経過のズレは構成要件的故意を阻却しない」と述べればいいはずだ。
「うんうん、つまり、因果関係の錯誤において、客観的構成要件において認定した危険の現実化を主観的構成要件においても流用するということだね」
さらに、抽象的事実の錯誤のケースにおいては、「構成要件的故意は構成要件該当事実についての認識・認容」であることから、「構成要件の重なり合う範囲内で故意が認められる」と述べた上で、「刑法は、保護法益を軸に行為態様も加味をして犯罪を構成要件に分類している」ことから、「構成要件の重なりは保護法益と行為態様の同質性から判断する」という規範を立てて処理をする。
「抽象的事実の錯誤において他に注意すべきことってあったかな?」
そうだね、軽い罪の故意で重い罪を犯してしまった場合には、刑法38条2項によってその罪が成立しなくなる一方で、重い罪の故意で軽い罪を犯してしまった場合には、重い罪の未遂犯が成立しないかを判断するってことかな。
「重い罪の未遂犯が成立するか否かについては、先程のとおり、結果発生の具体的危険性が生じているか否かで判断するということだね。
そういえば、抽象的事実の錯誤について論じる時に、『故意責任の本質は〜〜』って論じなくていいのかな?」
別にそう論じてもいいとは思う。けれど、そもそも構成要件的故意の定義からそのまま導けるのに、そのような不要な前置きを置く必要はないように思うよ。
「ちなみに、主観的構成要件の故意だけれど、その認定はどのようにして行うのかな?」
故意については、確かに犯人の自白といった供述証拠が直接証拠となりうる。でも、供述証拠は伝聞法則(刑事訴訟法320条)によって排除される可能性があるから、まずは客観的な証拠から間接事実を認定した上で、間接事実から直接事実を推認する方法をとるべきだ。たとえば、どのような凶器を用いたのかとか、人体の枢要部を狙ったのかそれとも手足を狙っただけなのかとかね。
「それなら、包丁を使って人を殺した前科をもつ人が再び包丁で人を刺した場合、前科があることから、殺人の故意を認定することは許されるかな?」
これは、刑事訴訟法の類似事実排除法則の話か。確か、犯人性の立証に際して前科を用いることは、前科から悪性格を推認し、悪性格から犯人性を推認するという弱い推認しか働かないことから、原則として許されず、「顕著な特徴」があり、それに「相当程度類似」している場合にのみ例外的に前科から犯人性を推認することが許されるんだった(古江p.258以下)。
これと同じことが、主観的要素についても言えるのだとすれば、やはり包丁で人を殺すような前科の存在から、悪性格を推認し、悪性格から本件についての殺意を認定することは、許されないことになるのだろうな(古江p.267)。だから、やはり前科以外の客観的な証拠から犯人の故意を認定しなければならない。もっとも、和歌山毒カレー事件の大阪高判平17.6.28のように、ヒ素の入ったカレーを食した人が死んだという類似事実からヒ素の殺傷力についての被告人の知情性を推認することは、悪性格を介した推認ではないから許されることになる、と。
「君、今日絶好調だね! このまま、過失についてもいっちゃおうか」
過失は、かなり難しい議論があるのだけれど、ひとまずは「予見可能性を前提とした結果回避義務違反」という定義で処理すればいいのではないかな。民法における過失の定義と同じで覚えやすいし。
実際、民法においては故意でも過失でも同じ責任を負わされるから過失について深く検討する必要があるけれど、刑法においては故意犯よりも処罰の程度が下がるからか、民法ほど過失について重きがおかれていない感じがするんだよな。そんなことを言ったら怒られるかもしれないけれど。
「確かに、学問レベルでは過失について深い議論があるって授業で説明があったけれど、実際に試験で過失が問題になるのって、過失運転致死傷か、失火か、誤想防衛の後処理くらいだもんね」
誤想防衛の後処理っていうのは、防衛行為自体は責任故意が阻却されるものの、誤想自体に過失があって過失犯が成立する場合のことか。
「よーし! これで主観的構成要件も終わりっと。次は違法性に行こうー」