3年でエリート公務員辞めた結果…

月間30万PV以上!元国家公務員(総合職・旧1種)による備忘録。通称「さんエリ」

【法律論】コインチェックの破産前に財産を取り戻す方法【民法】

債権回収基本のき〔第4版〕

はじめに結論(詳細は本文をお読みください)

 まず、コインチェックに対して何らかの手段を使って履行請求をする(下記1)。

 その際、強制執行(下記3)を視野に入れるのであれば、支払督促を行うことも考える。

 執行にかかる手間や金額との見合いで、メリットがあるのであれば強制執行をすることも(上記3)考える。その際、損害賠償分(上記2)についても合わせて執行をかけることが考えられる。

 状況次第で、コインチェックが「無資力(≒債務超過。ただし、債務超過でも事業の継続ができるのであれば無資力ではないと判断される可能性あり)」であると判断されるのであれば、強制執行によらず債権者代位権によった方がメリットがある。

 何より、今回の事案では転付命令が最強。

法律を使ってコインチェックに預けた財産を取り戻す方法を考えてみる

 はじめまして、現在、東京大学大学院法学政治学研究科に在籍しております「さんエリ」と申します。以前は総務省で国家公務員として働いていました。

 さて、今回のコインチェックの騒動は本当に残念な出来事でした。

※本記事は、コインチェックに資産を預けていた方向けの記事ですので、事件に関する詳しい説明はいたしませんが、コインチェック事件の経緯については、こちらの記事に記載しております

 1月26日の夜に行われたコインチェックの記者会見では財務状況が明らかにされず、営業継続できるのか、それとも破産手続又は民事再生手続に入ってしまうのか分かりませんでした。

 私自身は、5万円程度の被害で済んでいるため、コインチェックは他の資産の運用益や手数料売上により今後も運営を継続していくことが可能なのではないかとポジティブな見方をしています。

 しかし、Twitterを拝見していると、中には数千万円数億円の資産をコインチェックに預けていた方もいらっしゃり、大きな不安に苛まれているようでした。

 そのような状況を見て、いても立ってもいられなくなり、私の立場からできることを考えた結果、この記事を書くに至りました。

 Twitterでは「コインチェックの今後の発表を待つしかない」という声も多いですが、そんなことはありません。自分の財産を保全するために、法律を使って手を打つこともできます

 MIZUNASHIさんやNEM財団のメンバーの方がされている、下のような技術的な支援はできないのですが、もし誰かの助けになれば幸いです

0 前提の整理

 以下、法律用語が混じりますので、用語説明も含めて前提を整理していきたいと思います。

 まず、今回のようにコインチェックに預けた資産の返還を求める場合、コインチェックユーザー(利用者)は「債権者」の立場になります。

 他方、コインチェック「債務者」です。

 債権者であるコインチェックユーザーと、債務者であるコインチェックとの間では、いわゆる「消費寄託契約(民法666条)」に準じる契約が締結されており、それに基づいて、コインチェックユーザーはコインチェックに対して、いつでも預けた資産を返還するように求めることができます(本来の意味の消費寄託は、銀行に預金する際の契約が典型ですが、仮想通貨取引所は多少銀行とは性質が異なりますので「準じる」と表現しています。もちろん、民法典に掲載されていない契約も、契約としては有効ですので、純粋な消費寄託契約でなかったとしても、契約が無効になることはありません)

 また、後々出てきますが、コインチェックに対して支払うべき債務を負っている者「第三債務者」と呼びます。

1 資産の返還について任意の支払いを求める

 2018年1月27日現在、コインチェックのシステム上で、日本円を含む全ての通貨の出金が制限されています。このため、既にコインチェックに入金した資産を外部に出すことが一切できない状況です。

 しかし、これによって上記の消費寄託契約に基づく返還請求権が消滅したわけではありません

 したがって、まず、何らかの手段(内容証明郵便や問い合わせフォームhttps://coincheck.com/ja/info/help_contact等)を使って、コインチェックに対して財産の返還を求めましょう

 参考までに、私は次のような文面でコインチェックに対して履行請求をしました。

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 このような履行請求をするのは、いくつかの意味があるのですが、以下に述べる2〜4の手段を実行する上でも重要なステップになります。

 消費寄託契約の場合、寄託者はいつでも返還を求めることができます(民法666条)が、逆に言えば、返還を求めない限り相手は返還すべき具体的な義務を負いません

(消費寄託)
第666条 第五節(消費貸借)の規定は、受寄者が契約により寄託物を消費することができる場合について準用する。
2 前項において準用する第五百九十一条第一項の規定にかかわらず、前項の契約に返還の時期を定めなかったときは、寄託者は、いつでも返還を請求することができる。

 そこで、履行の請求を行うことによって、コインチェックに直ちに資産を返還すべき義務を負わせるのです。

 これで任意に返還がなされれば、メデタシメデタシですね。

 ただし、任意に支払われた場合、詐害行為取消権(424条)を他の債権者(コインチェックユーザー)から行使されて金銭の交付を求められる可能性がありますので御注意ください。その場合でも、これは債務の弁済なので、特段の事情がない限り詐害行為取消は認められないと思います(まだ施行前ですが、民法424条の3参照)。

(詐害行為取消権)
第424条第1項 債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者又は転得者がその行為又は転得の時において債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りでない。

2 損害賠償請求

 履行の請求をしたにも関わらず、債務者であるコインチェックが債務の履行をしなければ、コインチェックは履行遅滞に陥り、履行遅滞責任を負うことになります。

(履行期と履行遅滞)
第412条第3項 債務の履行について期限を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。

 ここでいう履行遅滞責任というのは、基本的に損害賠償責任(415条)です。

(債務不履行による損害賠償)
第415条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。

 仮想通貨についての損害の立証の要否がどうなるかは分かりませんが、少なくとも預けている日本円については、損害についての立証をせずとも法定利率(商法により年6%)に基いて損害賠償義務がコインチェックの側に生じることになります。

(金銭債務の特則)
第419条
1 金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。
2 前項の損害賠償については、債権者は、損害の証明をすることを要しない。
3 第一項の損害賠償については、債務者は、不可抗力をもって抗弁とすることができない。

 もっとも、損害賠償については、コインチェック利用規約第14条の存在が問題となるかもしれません。

 ここで求める損害の賠償は、厳密にはサービスの停止による損害についてのものではない(サービスが稼働しているか否かに関わらず債務は履行しなければならない)ため、適用がないとは思います。

 もし適用される場合には、利用規約第14条について、民法90条等の一般規定や消費者契約法により無効と主張立証して対抗することも考えられます。

利用規約第14条(本サービスの停止等)

1 当社は、以下のいずれかに該当する場合には、登録ユーザーに事前に通知することなく、本サービ スの利用の全部又は一部を停止又は中断することができるものとします。

 (4) ハッキングその他の方法により当社の資産が盗難された場合

2 (略)

3 当社は、本条に基づき当社が行った措置により登録ユーザーに生じた損害について一切の責任を負 いません。

3 強制執行

 もしコインチェックが、こちらからの返還請求に応じなかった場合、損害賠償請求よりも本筋なのが、強制執行(民法414条、民事執行法43条以下)です。

 強制執行をするためには、債務名義(確定判決等)が必要になりますが、これは裁判を起こさずとも支払督促をコインチェックの所在地を所管する東京簡易裁判所に申し立てて取得することができます(ただし、色々と注意事項がありますので、実際に行う際は弁護士に相談した上で行うことをオススメします)。

 ただし、強制執行には欠点があります。

 それは、①以上のように債務名義を得る手間がかかることと、②強制執行手続が面倒(費用もかかるし、他の債権者も参加してきて面倒なことになりうる)ということです。

4 債権者代位権の行使

 以上のような強制執行の欠点を補って行いうる手段としては、債権者代位権(民法423条)があります。

(債権者代位権)
第423条 債権者は、自己の債権を保全するため、債務者に属する権利を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利は、この限りでない。

 これは、債務者(コインチェック)が第三債務者(第三者)に対して有する債権を、債権者(コインチェックユーザー)が代わりに行使することができるというものです。

 現行民法では明文の規定はありませんが、判例実務上、債権者(コインチェックユーザー)は直接の引渡しを第三債務者に対して求めることができます。

 そして、直接の引渡しを受けた後、債権者(コインチェックユーザー)が債務者(コインチェック)に対して有する資金の返還請求権と、債務者が債権者に対して有する不当利得返還請求権を相殺することによって、優先的に弁済を受けることが可能になるのです。この際、相殺については債務者であるコインチェックの行為ではないため、詐害行為取消権を行使されることもありません。

 もっとも、債権者代位権の行使に関する際、請求側としては、
①被保全債権(コインチェックに対する財産の返還請求権)の存在
債務者(コインチェック)の無資力
③被代位権利(コインチェックが第三債務者に対して有する債権)の存在
を主張立証する必要があります。

 この中で、立証が難しいのは、②の無資力です。

 現在のコインチェックにどれくらいの資産が残っているかが明らかではないため、裁判等において証拠提出命令等を使って証拠収集しながら情報を集める必要があるからです。

 また、③については、有力な被代位権利があると考えられます。それは、コインチェックが信販会社に対して有する金銭債権です。

 コインチェックはクレジットカードで仮想通貨を購入するシステムを導入していましたから、年末年始にユーザーがクレジットカードで購入した分について、まだ支払われていない金銭債権を、コインチェックが信販会社に対して有しているはずです。

 そこで、信販会社に対して、債権者代位権に基づいて金銭の支払いを請求するのです。

 債権者代位権については、上記の通り優先弁済項がありますので、早い者勝ちになります。また、第三債務者が債務者に履行をしてしまったら債権者代位権に基づいて請求できなくなってしまいます。したがって、この手段による場合には、いち早く実行に取り掛かる必要があります。

 この手段による場合、法律構成が少し複雑なので、弁護士に相談するのをオススメします。

5 転付命令

 上記のように、コインチェックが信販会社に対して債権を持っている場合には、転付命令(民事執行法159条)を申し立てるのが最強かもしれません。

 転付命令とは、裁判所の命令により、債務者(コインチェック)が有している債権を自分のものにしてしまうというものです。第三債務者(信販会社等)の信用力に問題がある場合には、転付命令を使うのはリスキーなのですが、第三債務者が信販会社であれば問題ありません

 転付命令の申立てをするためには、債務名義(確定判決等)が必要になりますが、「3 強制執行」のところで述べたように、支払督促等の簡易な方法で債務名義を得ることもできます。

まとめ

 まず何よりも、コインチェックに対して何らかの手段を使って返還請求をしましょう(上記1)。

 その際、強制執行(上記3)を視野に入れるのであれば、支払督促を行うことも考えられます。

 執行にかかる手間や金額との見合いですが、メリットがあるのであれば強制執行をすることも(上記3)考えましょう。その際、損害賠償分(上記2)についても合わせて執行をかけることが考えられます。

 状況次第ですが、コインチェックが「無資力(≒債務超過。ただし、債務超過でも事業の継続ができるのであれば無資力ではないと判断される可能性あり)」であると判断されるのであれば、強制執行によらず債権者代位権によった方がメリットがあります。

 債権者代位権とかあれこれ言わず、今回の事案では転付命令が最強かもしれません。

注意事項

 以上、具体的に考えられる手段を述べて参りましたが、全て私見です。

 実際に実行される際は、弁護士に相談した上で行うようにしてくださいね

※見逃している手段がある場合には、随時修正・追記いたします