- 第1部 憲法総論
- 第2部 基本的人権
- 第3部 統治機構
- 第4部 憲法保障
第1部 憲法総論
第1章 憲法と立憲主義
☆第二次世界大戦以前には人権を国際的に保障する制度は構築されておらず、第一次世界大戦後に国際連盟が結成されたが、人権問題は専ら国内問題とされていた
☆第二次世界大戦後、国際連合において採択された世界人権宣言は、国際社会における人権に関する規律の中で最も基本的な「宣言」であるが、法規範性は有していない
☆第二次世界大戦後、国際連合において採択された国際人権規約は、世界人権宣言の内容を基礎として、これを条約化したものであり、法規範性を有している
☆憲法が最高法規であっても、立法その他の国家行為が憲法に反するか否かを判断する権限が必ずしも司法府に与えられている必要はない
☆憲法は授権するのみで授権されることはないため、実定法秩序における法の段階構造を前提にすれば、憲法の最高規範性が導き出される
☆憲法の最高法規性は憲法規範の内容が他の法規範とは質的に異なることから導かれるが、このような意味における最高法規性が一般に実質的最高法規性と呼ばれている
第2章 日本憲法史
第3章 国民主権の原理
3-3 天皇制
☆「おことば」を象徴としての地位に基づく公的行為であると捉える見解については、象徴としての地位が天皇の一身専属のものであることを前提にすると、天皇の権能を代行する摂政は「おことば」を述べることができないのではないかという問題点がある
☆「おことば」は国事行為である「儀式を行ふ」(7条10号)に含まれるという見解については、上記「儀式を行ふ」を「儀式を主宰する」という意味に解すると、文理上無理があるという問題点がある
※天皇の権能は、天皇が成年に達しないとき、精神もしくは身体の重患又は重大な事故により自ら国事行為を行うことができないときは、摂政によって代行される(5条、皇室典範16条〜)。海外旅行や長期にわたる病気など摂政を置くに至らないときには、臨時の代行が国事行為を行う(4条2項)。
☆皇室に財産を譲り渡し、又は皇室が財産を譲り受け、若しくは賜与することは国会の議決に基づかなければならない、というのが憲法の定める原則である
☆皇位の継承について、大日本帝国憲法は、「皇男子孫之ヲ継承ス」と定めていたが、日本国憲法は、男系男子主義までも求めるものではない
☆国務大臣の任免、法律の定めるその他の官吏の任免の認証は、天皇の国事行為とされている。認証は、これらの行為の効力要件ではない。
第4章 平和主義の原理
4-2 9条の解釈
☆9条1項は侵略戦争を放棄したものであり自衛戦争は放棄されていないとし、2項は1項全体の企図する目的、すなわち、日本国民が正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求して戦争等を放棄するという動機のもとに、その実効性を確保するために、一切の戦力の不保持を定めるとともに、国家として戦争を行う権利である交戦権を否認するものであるとする見解からは、9条2項の「交戦権」の意味は、文字通り、戦いをする権利を意味すると解する。
砂川事件(最大判昭34.12.16、百選Ⅱ169)
・いわゆる戦争を放棄し、いわゆる戦力の保持を禁止しているのであるが、しかしもちろんこれによりわが国が主権国として持つ固有の自衛権は何ら否定されたものではなく、わが憲法の平和主義は決して無防備、無抵抗を定めたものではないのである
・憲法前文にも明らかなように、われら日本国民は、……平和のうちに生存する権利を有することを確認するものであり、わが国が、自国の平和と安全を維持しその存立を全うするために必要な自衛のための措置をとりうることは、国家固有の権能の行使として当然のことといわなければならない
・憲法9条は、わが国がその平和と安全を維持するために他国に安全保障を求めることを、何ら禁ずるものではないのである
・われら日本国民は、憲法9条2項により、同条項にいわゆる戦力は保持しないけれども、これによって生ずるわが国の防衛力の不足は、これを憲法前文にいわゆる平和を愛好する諸国民の公正と信義に信頼することによって補い、もってわれらの安全と生存を保持しようと決意したのである。そしてそれは、必ずしも原判決のいうように、国際連合の機関である安全保障理事会等の執る軍事的安全措置等に限定されたものではなく、わが国の平和と安全を維持するための安全保障であれば、その目的を達するにふさわしい方式又は手段である限り、国際情勢の実情に即応して適当と認められるものを選ぶことができることはもとよりである
・憲法9条2項がその保持を禁止した戦力とは、わが国がその主体となってこれに指揮権、管理権を行使しうる戦力をいうものであり、結局わが国自体の戦力を指す
・憲法9条2項において戦力の不保持を規定したのは、わが国がいわゆる戦力を保持し、自らその主体となってこれに指揮権、管理権を行使することにより、同条1項において永久に放棄することを定めたいわゆる侵略戦争を引き起こすがごときことのないようにするためであると解するを相当とする
・外国の軍隊は、たといそれがわが国に駐留するとしても、ここにいう戦力には該当しないと解すべきである
・本件安全保障条約は、……主権国としての我が国の存立の基礎に極めて重大な関係をもつ高度の政治性を有するものというべきであって、……一見極めて明白に違憲無効であると認められない限りは、裁判所の司法審査権の範囲外のものである
・その内容が違憲なりや否やの法的判断は、その条約を締結した内閣およびこれを承認した国会の高度の政治的な意思自由裁量的判断と表裏をなす点がすくなくない。それ故、右違憲なりや否やの法的判断は、純司法的機能をその使命とする司法裁判所の審査には、原則としてなじまない性質のものである
☆日米安全保障条約は、主権国としての我が国の存立の基礎に極めて重大な関係を持つ高度の政治性を有するもので、その内容の合憲性判断は、一見極めて明白に違憲無効でない限り、裁判所の審査権の範囲外である
百里基地訴訟(最判平元.6.20、百選Ⅱ172)
・憲法9条は、人権規定と同様、国の基本的な法秩序を宣旨した規定であるから、憲法より下位の方形式によるすべての法規の解釈適用に当たって、その指導原理となりうるものであることはいうまでもない
・憲法9条は、その憲法規範として有する性格上、私法上の行為の効力を直接規律することを目的とした規定ではなく、人権規定と同様、私法上の行為に対しては直接適用されるものではないと解するのが相当であり、国が一方当事者として関与した行為であっても、たとえば、行政活動上必要となる物品を調達する契約、公共施設に必要な土地の取得又は国有財産の売払いのためにする契約などのように、国が行政の主体としてでなく私人と対等の立場に立って、私人との間で個々的に締結する私法上の契約は、当該契約がその成立の経緯及び内容において実質的にみて公権力の発動たる行為となんら変わりがないといえるような特段の事情のない限り、憲法9条の直接適用を受けず、私人間の利害関係の公平な調整を目的とする私法の適用を受けるにすぎないものと解する
☆憲法9条は国の基本的な法秩序を示した規定であるから、憲法より下位の法形式による全ての法規の解釈適用に当たって、その指導原理となり得るものであることはいうまでもないが、私法上の行為の効力を直接規律するものではない。
☆国や公共団体が行う純粋な私的経済取引に基づく私法関係については、民法等の私法の規律に従って賠償責任の有無が判断される
第2部 基本的人権
第5章 基本的人権の原理
5-4 人権の享有主体
マクリーン事件(最大判昭53.10.4、百選Ⅰ1)
・憲法第3章の諸規定による基本的人権の保障は、権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き、わが国に在留する外国人に対しても等しく及ぶものと解すべきである
☆外国人の場合には、我が国との関係が日本国民とは異なるが、日本国民に比べて裁判を受ける権利の保障の程度に差を設けることは許されない
☆基本的人権の保障は、権利の性質上日本国民のみを対象としていると解されるものを除き、外国人に対しても等しく及ぶものと解すべきで、政治活動の自由についても、政治的意思決定又はその実施に影響を及ぼす活動等外国人の地位に鑑み相当でないと解されるものを除き、その保障が及ぶ
・外国人の在留の許否は国の裁量にゆだねられ、わが国に在留する外国人は、憲法上わが国に在留する権利ないし引き続き在留することを要求することができる権利を保障されているものではなく、ただ、出入国管理令上法務大臣がその裁量により更新を適当と認めるに足りる相当の理由があると判断する場合に限り在留期間の更新を受けることができる地位を与えられているにすぎないものであり、したがって、外国人に対する憲法の基本的人権の保障は、右のような外国人在留制度の枠内で与えられているにすぎないものと解するのが相当
・裁判所は、法務大臣の……判断の基礎とされた重要な事実に誤認があること等により右判断が全く事実の基礎を欠くかどうか、又は事実に対する評価が明白に合理性を欠くこと等により右判断が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかであるかどうかについて審理する
☆裁判所は、法務大臣の判断がその裁量権の行使としてされたものであることを前提として、その判断の基礎とされた重要な事実に誤認があること等により同判断が全く事実の基礎を欠くかどうか、又は事実に対する評価が明白に合理性を欠くこと等により同判断が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかであるかどうかについて審理することとなる
最大判平17.1.26(百選Ⅰ5)
☆地方公務員のうち、住民の権利義務を直接形成し、その範囲を確定するなどの公権力の行使に当たる行為を行い、もしくは普通地方公共団体の重要な背作に関する決定を行い、又はこれらに参画することを職務とするものについては、原則として日本国籍を有する者が就任することが想定され、外国人が就任することは想定されていない
最判平7.2.28(百選Ⅰ4)
☆我が国に在留する外国人のうち、永住者等でその居住する区域の地方公共団体と特段に緊密な関係を持つに至ったと認められる者について、法律をもって、地方公共団体の長、その議会の議員等に対する選挙権を付与する措置を講ずることは憲法上禁止されているものではない
八幡製鉄政治献金事件(最大判昭45.6.24、百選Ⅰ9)
・憲法第三章に定める国民の権利および義務の各条項は、性質上可能な限り、内国の法人にも適用されるものと解すべきである
・憲法は政党について規定するところがなく、これに特別の地位を与えてはいないのであるが、憲法の定める議会制民主主義は政党を無視しては到底その円滑な運用を期待することはできないのであるから、憲法は、政党の存在を当然に予定しているものというべきであり、政党は議会制民主主義を支える不可欠の要素なのである。そして同時に、政党は国民の政治意思を形成する最も有力な媒体であるから、政党のあり方いかんは、国民としての重大な関心事でなければならない
・その健全な発展に協力することは、会社に対しても、社会的実在としての当然の行為として期待されるところであり、協力の一態様として政治資金の寄付についても例外ではないのであり、会社による政治資金の寄付が、特定の構成員の利益を図りまたその政治的志向を満足させるためでなく、社会の一構成単位たる立場にある会社に対し期待ないし要請されるかぎりにおいてなされるものである以上、会社にそのような政治資金の寄付をする能力がないとはいえない
南九州税理士会政治献金事件(最判平8.3.19、百選Ⅰ39)
・政党など規制法上の政治団体に対して金員の寄付をするかどうかは、選挙における投票の自由と表裏を成すものとして、会員各人が市民としての個人的な政治的思想、見解、判断等に基づいて自主的に決定すべき事柄であるというべきである。なぜなら、政党など規制法上の政治団体は、政治上の主義若しくは施策の推進、特定の公職の候補者の推薦等のため、金員の寄付を含む広範囲な政治活動をすることが当然に予定された政治団体であり……、これらの団体に金員の寄付をすることは、選挙においてどの政党又はどの候補者を支持するかに密接につながる問題だからである。
・公的な性格を有する税理士会が、このような事柄を多数決原理によって団体の意思として決定し、構成員にその協力を義務付けることはできないというべきであり……、税理士会がそのような活動をすることは、法の全く予定していないところである
・税理士会が政党など規制法上の政治団体に対して金員の寄付をすることは、たとい税理士に係る法令の制定改廃に関する要求を実現するためであっても、……税理士会の目的の範囲外の行為といわざるを得ない
☆未成年者は、精神的・肉体的に未成熟なことから、成人とは異なった特別の保護を必要とする場合があり、このような趣旨から、憲法は児童の酷使を禁止している
第6章 基本的人権の限界
6-2 特別の法律関係
全農林警職法事件(最大判昭48.4.25、百選Ⅱ146)
・公務員は、私企業の労働者と異なり、国民の信託に基づいて国政を担当する政府により任命されるものではあるが、憲法15条の示すとおり、実質的には、その使用者は国民全体であり、公務員の労務提供義務は国民全体に対して負うものである。もとよりこのことだけの理由から公務員に対して団結権をはじめその他一切の労働基本権を否定することは許されないのであるが、公務員の地位の特殊性と職務の公共性にかんがみるときは、これを根拠として公務員の労働基本権に対し必要やむをえない限度の制限を加えることは、十分合理的な理由がある
・公務員の……給与の財源は国の財政とも関連して主として税収によって賄われ……その勤務条件はすべて政治的、財政的、社会的その他諸般の合理的な配慮により適当に決定されなければならず、しかもその決定は民主国家のルールに従い、立法府において議論のうえなされるべきもので、同盟罷業等争議行為の圧力による強制を容認する余地は全く存しない
・公務員の従事する職務には公共性がある一方、法律によりその主要な勤務条件が定められ、身分が保障されているほか、適切な代償措置が講じられているのであるから、……公務員の争議行為およびそのあおり行為等を禁止するのは、勤労者をも含めた国民全体の共同利益の見地からするやむをえない制約というべきであって、憲法28条に違反するものではないと言わなければならない
・国家公務員の労働基本権の制約に対する代償措置がその本来の機能を果たしていなかったということができない……から、右代償措置が本来の機能を果たしていなかったことを前提とする所論違憲の主張は、その前提を欠く
☆国家公務員は、その地位の特殊性や職務の公共性に加え、勤労条件が法律、予算により定められており、人事院をはじめとする代償措置が講じられていることなどからすれば、その争議行為を全面的に禁止することは、やむをえない制約である。
・公務員の争議行為の禁止は、憲法に違反することはないのであるから、何人であっても、この禁止を侵す違法な争議行為をあおる等の行為をする物は、違法な争議行為に対する原動力を与える者として、単なる争議参加者にくらべて社会的責任が重いのであり、また争議行為の開始ないしはその遂行の原因を作るものであるから、かかるあおり等の行為者の責任を問い、かつ、違法な争議行為の防止を図るため、その者に対し特に処罰の必要性を認めて罰則を設けることは、十分に合理性があるものということができる。したがって、国公法110条1項17号は、憲法18条、憲法28条に違反するものとは到底考えることができない
☆職務の性質や違いを考慮することなく公務員の争議行為を一律に禁止することも憲法上許されるというのが判例の立場である
☆国家公務員の労働関係は、国民の代表者により構成される国会の制定した法律、予算によって定められることなどから、争議行為を企てる行為や、これをあおる行為に対して刑罰を科すことは違憲ではないと解されている
全逓名古屋中郵事件(最大判昭52.5.4、百選Ⅱ147)
※全体の奉仕者である公務員の使用者は国民全体であり、公務員の争議行為はその地位の特殊性及び職務の公共性に反し、勤労者を含めた国民全体の共同利益に重大な影響を及ぼすか、そのおそれがあることを理由の一つとして、非現業公務員に対する刑罰による争議行為の一律禁止を合憲と判断した全農林警職法事件の趣旨に従って、国営企業職員の争議行為の全面禁止を合憲としている
政令201号事件(最大判昭28.4.8)
・国家公務員は、全体の奉仕者として(憲法15条)公共の利益のために勤務し、且つ職務の遂行に当たっては全力を挙げてこれに専念しなければならない(国家公務員法96条1項)性質のものであるから、団結権団体交渉権等についても、一般の勤労者とは違って特別の扱いを受けることがあるのは当然である
☆国家公務員は、憲法において「全体の奉仕者」とされていることや、実質的にはその使用者が国民全体であることなどから、その人権についても、一定の制約に服することがあると解されている
堀越事件判決・宇治橋事件判決(最判平24.12.7、百選Ⅰ14)
・国家公務員法102条1項にいう「政治的行為」とは、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが、観念的なものにとどまらず、現実的に起こりうるものとして実質的に認められるものを指す
・公務員の職務の遂行の政治的中立性を保持することによって行政の中立的運営を確保し、これに対する国民の信頼を維持することという国家公務員法102条1項の文言、趣旨、目的や規制される政治活動の自由の重要性に加え、同項の規定が刑罰法規の構成要件となる
☆「政治的行為」とは、公務員の政治的な行為一般ではなく、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが、観念的なものにとどまらず、現実的に起こりうるものとして実質的に認められるものを指す
・国家公務員法108条の2第3項ただし書所定の管理職員等に当たる公務員が、政党機関紙の配布という殊更に……一定の政治的傾向を顕著に示す行動に出た場合は、その指揮命令や指導監督を通じてその部下等の職務の遂行や組織の運営にもその傾向に沿った影響を及ぼすことになりかねず、これらによって、当該公務員及びその属する行政組織の職務の遂行の政治的中立性が損なわれるおそれが実質的に生ずる
・本件配布行為には、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められ、本件配布行為は本件罰則規定の構成要件に該当する
☆管理職的地位にある公務員が政党機関紙の配布といった殊更に一定の政治的傾向を顕著に示す行動に出た場合には、その指揮命令や指導監督を通じてその部下等の職務の遂行や組織の運営にもその傾向に沿った影響を及ぼすことになりかねず、「政治的行為」に該当する
・公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められるかどうかは、当該公務員の地位、その職務の内容や権限等、当該公務員がした行為の性質、態様、目的、内容等の諸般の事情を総合して判断するのが相当である
・勤務時間外である休日に職場外でされた公務員による政党機関紙の配布行為につき、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められる
岩教組学テ事件(最大判昭51.5.21、百選Ⅱ148)
・地公法61条4号の罰則の合憲性についてみるに、ここでも、国公法110条1項17号の罰則の合憲性について、全農林警職法事件が述べているところが、そのまま妥当する。
・法が、共謀、そそのかし、あおり等の行為のもつ……性格に着目してこれを社会的に責任の重いものと評価し、当該組合に所属する者であると否とを問わず、このような行為をした者に対して違法な争議行為の防止のために特に処罰の必要性を認め、罰則を設けることには十分合理性があり、これをもって憲法18条、28条に違反するものとすることができない
・公務員の争議行為が国民全体又は地方住民全体の共同利益のために制約されるのは、それが業務の正常な運営を阻害する集団的かつ組織的な労務不提供等の行為として反公共性をもつからであるところ、このような集団的かつ組織的な行為としての争議行為を成り立たせるものは、まさにその行為の遂行を共謀したり、そそのかしたり、あおったりする行為であって、これら共謀等の行為は、争議行為の原動力をなすもの、換言すれば、全体としての争議行為の中でもそれなくしては右の争議行為が成立し得ないという意味においていわばその中核的地位を占めるものであり、このことは、争議行為がその都度集団行為として組織され、遂行されるばかりでなく、すでに組織体として存在する労働組合の内部においてあらかじめ定められた団体意思決定の過程を経て決定され、遂行される場合においても異なるところはない
6-3 私人間効力(第三者効力)
三菱樹脂事件(最大判昭48.12.12、百選Ⅰ10)
・労働者を雇い入れようとする企業者が、労働者に対し、その者の在学中における……団体加入や学生運動参加の事実の有無について申告を求めることは……その者の従業員としての適格性の判断資料となるべき過去の行動に関する事実を知るためのものであって、直接その思想、信条そのものの開示を求めるものではないが……その事実がその者の思想、信条と全く関係のないものであるとすることは相当でない
・憲法は……22条、29条等において、財産権の行使、営業その他広く経済活動の自由をも基本的人権として保障
・企業者は……契約締結の自由を有し……労働者を雇用するにあたり、いかなる者を雇い入れるか……について……原則として自由にこれを決定することができるのであって、企業者が特定の思想、信条を有する者をそのゆえをもって雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできない
・企業者が、労働者の採否決定にあたり、労働者の思想、心情を調査し、そのためその者からこれに関連する事項についての申告を求めることも、これを法律上禁止された違法行為とすべき理由はない
☆企業が従業員を採用するに際して、その者の在学中における団体加入や学生運動参加の事実の有無について申告を求めることは、その事実がその者の思想・良心と全く関係ないものではなく、違法ではない
昭和女子大事件(最判昭49.7.19、百選Ⅰ11)
・大学は、国公立であると私立であるとを問わず、学生の教育と学術の研究を目的とする公共的な施設であり、法律に格別の規定がない場合でも、その設置目的を達成するために必要な事項を学則等により一方的に制定し、これによって在学する学生を規律する包括的権能を有するものと解すべき
・学内及び学外における学生の政治的活動につきかなり広範な規律を及ぼすこととしても、これをもって直ちに社会通念上学生の自由に対する不合理な制限であるということはできない
☆大学は、その設置目的を達成するため、必要な事項を定めて学生を規律する権能を有するから、私立大学が、その伝統、校風や教育方針に鑑み、学内外における学生の政治的活動につき、かなり広範な規律を及ぼしても、直ちに不合理ということはできない。
最判平18.3.17
・本件慣習のうち、男子孫要件は、専ら女子であることのみを理由として女子を男子と差別したものというべきであり、……性別のみによる不合理な差別として民法90条の規定により無効である
・男女の本質的平等を定める日本国憲法の基本的理念に照らし、入会権を別意に取り扱うべき合理的理由を見いだすことはできないから、……本件入会地の入会権の歴史的沿革等の事情を考慮しても、男子孫要件による女子孫に対する差別を正当化することはできない
第7章 包括的人権と法の下の平等
7-1 生命・自由・幸福追求権
指紋押捺制度(最判平7.12.15、百選Ⅰ3)
・憲法13条は、国民の私生活上の自由が国家権力の行使に対して保護されるべきことを規定していると解されるので、個人の私生活上の自由の一つとして、何人もみだりに指紋の押捺を強制されない自由を有するものというべきであり、国家機関が正当な理由もなく指紋の押捺を強制することは、同条の趣旨に反して許されず、また右の自由の保障は我が国に在留する外国人にも等しく及ぶ
・指紋は、指先の紋様であり、それ自体では個人の私生活や人格、思想、信条、良心等個人の内心に関する情報となるものではないが、性質上万人不同性、終生不変性をもつので、採取された指紋の利用方法次第では個人の私生活あるいはプライバシーが侵害される危険性があり、指紋の押捺制度は、国民の私生活上の自由と密接な関連をもつ
・在留外国人を対象とする指紋押捺制度は、……目的、必要性、相当性が認められ、戸籍制度のない外国人については、日本人とは社会的事実関係上の差異があって、その取扱いの差異には合理的根拠があるので、外国人登録法の同条項が憲法14条に違反するのでないとしていることは……明らか
京都府学連事件(最大判昭44.12.24、百選Ⅰ20)
・警察官が犯罪捜査の必要上写真を撮影する際、その対象の中に犯人のみならず第三者である個人の容貌等が含まれていても、これが許容される場合がありうる
・現に犯罪が行われもしくは行われたのち間がないと認められる場合であって、しかも証拠保全の必要性及び緊急性があり、かつその撮影が一般的に許容される限度をこえない相当な方法をもって行われる時には、その対象の中に、犯人の容貌等のほか、犯人の身辺または被写体とされた物件の近くにいたためこれを除外できない状況にある第三者である個人の容貌等を含むことになっても、憲法13条、35条に違反しない
・個人の私生活上の自由の一つとして、何人もその承諾なしに、みだりにその容貌・姿態……を撮影されない自由を有するものというべきである。これを肖像権と称するかどうかは別として、少なくとも、警察官が、正当な理由もないのに、個人の容貌等を撮影することは、憲法13条の趣旨に反し、許されないものといわなければならないが、個人の有する右自由も、国家権力の行使から無制限に保護されるわけでなく、公共の福祉のため必要のある場合には相当の制限を受けることは同条の規定に照らして明らかであり、犯罪を捜査することは、公共の福祉のため警察に与えられた国家作用の一つであり、警察にはこれを遂行すべき責務がある
☆京都府学連事件判決は、個人の私生活上の自由として、何人もその承諾なしにみだりにその容貌・姿態を撮影されない自由を有するとし、警察官が正当な理由もないのに個人の容貌等を撮影することは、憲法13条の趣旨に反するとした
住基ネットワーク差止等請求事件(最判平20.3.6、百選Ⅰ21)
・行政機関が住基ネットにより住民……の本人確認情報を管理、利用等する行為は、個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表するものということはできず、当該個人がこれに同意していないとしても、憲法13条により保障された……自由を侵害するものではない
・住基ネットによって管理、利用等される本人確認情報は、氏名、生年月日、性別及び住所からなる4情報に、住民票コード及び変更情報を加えたものにすぎない。このうち4情報は、人が社会生活を営む上で一定の範囲の他者には当然開示されることが予定されている個人識別情報であり、……個人の内面に関わるような秘匿性の高い情報とはいえない
・住基ネットによる本人確認情報の管理、利用等は、法令等の根拠に基づき、住民サービスの向上及び行政事務の効率化という正当な行政目的の範囲内で行われているものということができ、住基ネットにシステム技術上又は法制度上の不備があり、そのために本人確認情報が法令等の根拠に基づかずに又は正当な行政目的の範囲を逸脱して第三者に開示又は公表される具体的な危険が生じているということもできない
☆住民基本台帳ネットワークシステムにより行政機関が住民の本人確認情報を収集、管理又は利用する行為は、当該住民がこれに同意していなくとも、個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を侵害するものではない
早稲田大学江沢民講演会名簿提出事件(最判平15.9.12、百選Ⅰ20)
・本件個人情報は、早稲田大学が重要な外国国賓講演会への出席希望者をあらかじめ把握するため、学生に提供を求めたものであるところ、学籍番号、氏名、住所及び電話番号は、早稲田大学が個人識別等を行うための単純な情報であって、その限りにおいては、秘匿されるべき必要性が必ずしも高いものではない。しかし、このような個人情報についても、本人が、自己が欲しない他者にはみだりにこれを開示されたくないと考えることは自然なことであり、そのことへの期待は保護されるべきものであるから、本件個人情報は、上告人らのプライバシーに係る情報として法的保護の対象となるというべきである。……このようなプライバシーに係る情報は、取扱い方によっては、個人の人格的な権利利益を損なうおそれのあるものであるから、慎重に取り扱われる必要がある
☆講演会参加者名簿提出事件判決は、大学が学生から収集した参加申込みの学籍番号、氏名、住所及び電話番号は、プライバシーに係る情報として法的保護の対象となるとし、個人の人格的な権利利益を損なうおそれがあるものとした
7-2 法の下の平等
衆議院議員定数不均衡問題(最大判昭51.4.14、百選Ⅱ153)
・憲法14条1項に定める法の下の平等は、選挙権に関しては、国民はすべて政治的価値において平等であるべきとする徹底した平等化を志向するものであり、……選挙権の内容、すなわち各選挙人の投票の価値の平等もまた、憲法の要求するところである。
・投票価値の平等は、常にその絶対的な形における実現を必要とするものではないけれども、国会がその裁量によって決定した具体的な選挙制度において現実に投票価値に不平等の結果が生じている場合には、それは、国会が正当に考慮することのできる重要な政策的目的ないしは理由に基づく結果として合理的に是認することができるものでなければならない。
☆選挙権の平等には各選挙人の投票価値の平等も含まれるが、国会によって定められた選挙制度における投票価値が不平等であっても、その不平等が国会の有する裁量権の行使として合理的と認められるのであれば、憲法14条に違反しない。
条例による規制と地域的取扱いの不平等(最大判昭和33.10.15、百選Ⅰ34)
・地方公共団体が売春の取締について格別に条例を制定する結果、その取扱に差別を生ずることがあっても、……地域差の故をもって違憲ということはできない
・憲法が各地方公共団体の条例制定権を認める以上、地域によって差別を生ずることは当然に予期されることであるから、かかる差別は憲法みずから容認するところである
最大判昭39.5.27
・憲法14条1項……にいう社会的身分とは、人が社会において占める継続的な地位をいうものと解されるから、高齢であるということは右の社会的身分に当たらないとの原審の判断は相当と思われる
・原判決が、高齢であることは社会的身分に当たらないとの一事により、たやすく上告人の前示主張を排斥したのは、必ずしも十分に意を尽くしたものとはいえない
・憲法14条1項は、国民に対し、法の下の平等を保障したものであり、同条項に列挙された事由は例示的なものであって、必ずしもそれに限るものではない
・任命権者たる町長が、55歳以上の高齢であることを待命処分の一応の基準とした上、上告人はそれに該当し……、しかも、その勤務成績が良好でないこと等の事情をも考慮の上、上告人に対し本件待命処分に出たことは、任命権者に任せられた裁量権の範囲を逸脱したものとは認められず、高齢である上告人に対し他の職員に比し不合理な差別をしたものとも認められないから、憲法14条1項……に違反するものではない
堀木訴訟(最大判昭57.7.7、百選Ⅱ137)
・憲法25条の規定の要請にこたえて制定された法令において、受給者の範囲、支給要件、支給金額等につきなんら合理的理由のない不当な差別的取扱をしているときは、憲法14条……違反の問題を生じうることは否定しえないところであるが、本件併給調整条項の適用により、上告人のように障害福祉年金を受けることができる地位にある者とそのような地位にない者との間に児童扶養手当の需給に関して差別を生ずることになるとしても、……右差別がなんら合理的理由のない不当なものであるとはいえないとした原審の判断は、正当として是認することができる
・児童扶養手当は、もともと……母子福祉年金を補完する制度として設けられたものと見るのを相当とするのであり、……受給者に対する所得保障である点において、前記母子福祉年金ひいては国民年金法所定の国民年金(公的年金)一般、したがってその一種である障害福祉年金と基本的に同一の性格を有するもの、と見るのがむしろ自然である
・社会保障給付の全般的公平を図るため公的年金相互間における併給調整を行うかどうかは、……立法府の裁量の範囲に属する事柄と見るべきである
☆併給調整条項の適用により、障害福祉年金を受けることのできる者とそうでない者との間に児童扶養手当の受給に関して差別が生じても、両給付が基本的に同一の性格を有し、併給調整に立法裁量があることなどに照らすと、合理的理由のない不当なものとはいえない
☆「健康で文化的な最低限度の生活」なるものは、きわめて抽象的・相対的な概念であって、その具体的内容は、その時々における文化の発達の程度、経済的・社会的条件、一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断決定されるべきものであるとともに、右規定を現実の立法として具体化するに当たっては、国の財政事情を無視することができず、また、多方面にわたる複雑多様な、しかも高度の専門技術的な考察とそれに基いた政策的判断を必要とするものである
サラリーマン税金訴訟(最大判昭60.3.27、百選Ⅰ32)
・租税法の分野における所得の性質の違い等を理由とする取扱いの区別は、その立法目的が正当なものであり、かつ、当該立法において具体的に採用された区別の態様が右目的との関連で著しく不合理であることが明らかでない限り、その合理性を否定することができず、これを憲法14条1項の規定に違反するものということはできないものと解するのが相当である
・租税は、今日では、国家の財政需要を充足するという本来の機能に加え、所得の再分配、資源の適正配分、景気の調整等の諸機能をも有しており、国民の租税負担を定めるについて、財政・経済・社会政策等の国政全般からの総合的な政策判断を必要とするばかりでなく、課税要件等を定めるについて、極めて専門技術的な判断を必要とすることも明らかである。したがって、租税法の定立については、国家財政、社会経済、国民所得、国民生活等の実態についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的、技術的な判断に委ねるほかなく、裁判所は、基本的にはその裁量的判断を尊重せざるを得ない
☆租税法の定立は立法府の政策的、技術的判断に委ねるほかないから、この分野における取扱いの区別は、立法目的が正当であり、かつ、区別の態様が立法目的との関連で著しく不合理であることが明らかでない限り、憲法14条1項に違反するとはいえない
国籍法3条1項違憲判決(最大判平20.6.4、百選Ⅰ35)
・国籍法3条1項の規定が本件区別を生じさせていることは、遅くとも上記時点以降において憲法14条1項に違反するといわざるを得ないが、国籍法3条1項が日本国籍の取得について過剰な要件を課したことにより本件区別が生じたからと言って、本件区別による違憲の状態を解消するために同項の規定自体を全部無効として、準正のあった子の届出による日本国籍の取得をもすべて否定することは、血統主義を補完するために出生後の国籍取得の制度を設けた同法の趣旨を没却するものであり、立法者の合理的意思として想定し難いものであって、採り得ない解釈である
☆日本国民である父と外国人である母との間に生まれた嫡出でない子につき、父母の婚姻及びその認知等所定の要件を備えた場合に届出により日本国籍が取得できる旨定めた国籍法3条1項は、憲法14条1項に違反するが、血統主義を補完するために出生後の国籍取得の制度を設けた国籍法の趣旨に照らし、同法3条1項を全部無効とする解釈は採り得ない。
・日本国籍は、我が国の構成員としての資格であるとともに、我が国において基本的人権の保障、公的資格の付与、公的給付等を受ける上で意味を持つ重要な法的地位でもある。一方、父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得するか否かということは、子にとっては自らの意思や努力によっては変えることのできない父母の身分行為に係る事柄である。したがって、このような事柄をもって日本国籍取得の要件に関して区別を生じさせることに合理的な理由があるか否かについては、慎重に検討することが必要である
☆日本国籍は重要な法的地位であり、父母の婚姻による嫡出子たる身分の取得は子が自らの意思や努力によっては変えられない事柄であることから、こうした事柄により国籍取得に関して区別することに合理的な理由があるか否かについては、慎重な検討が必要である
☆国籍法違憲判決は、婚姻関係にない父母から出生した子について将来にわたって不合理な偏見を生じさせるおそれがあることなどを指摘し、父母の婚姻という事柄をもって日本国籍の取得の要件に区別を生じさせることに合理的な理由があるか否かについて慎重に検討することが必要であるとしたわけではない
・このような規定が設けられた主な理由は、日本国民である父が出生後に認知した子については、父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得することによって、日本国民である父との生活の言いたいかが生じ、家族生活を通じた我が国社会との密接な結び付きが生ずることから、日本国籍の取得を認めることが相当であるという点にある
・日本国民を血統上の親として出生した子であっても、日本国籍を生来的に取得しなかった場合には、その後の生活を通じて国籍国である外国との密接な結び付きを生じさせている可能性があるから、国籍法3条1項は、同法の基本的な原則である血統主義を基調としつつ、日本国民との法律上の親子関係の存在に加え我が国との密接な結び付きの指標となる一定の要件を設けて、これらを満たす場合に限り出生後における日本国籍の取得を認めることとしたものと解される。このような目的を達成するため準正その他の要件が設けられ、これにより本件区別が生じたのであるが、本件区別を生じさせた上記の立法目的には、合理的な根拠があるというべきである
☆国籍法違憲判決は、日本国民を血統上の親として出生しながら、日本国籍を生来的に取得できなかった子について、日本国籍を生来的に取得した子よりも日本国籍の取得の要件を荷重すべきであるとする立法目的には、法律婚を尊重する観点から合理的な根拠があるとしたわけではない
・日本国籍の取得に関する法律の要件によって生じた区別が、合理的理由のない差別的取扱いとなるときは、憲法14条1項違反の問題を生ずることはいうまでもない。すなわち、立法府に与えられた上記のような裁量権を考慮しても、なおそのような区別をすることの立法目的に合理的な根拠が認められない場合には、当該区別は、合理的な理由のない差別として、同項に違反するものと解されることになる
・国籍法が、同じく日本国民との間に法律上の親子関係を生じた子であるにもかかわらず、上記のような非嫡出子についてのみ、父母の婚姻という、子にはどうすることもできない父母の身分行為が行われない限り、生来的にも届出によっても日本国籍の取得を認めないとしている点は、こんにちにおいては、立法府に与えられた裁量権を考慮しても、我が国との密接な結び付きを有する者に限り日本国籍を付与するという立法目的との合理的関連性の認められる範囲を著しく超える手段を採用しているものというほかなく、その結果、不合理な差別を生じさせているものといわざるを得ない
☆国籍法違憲判決は、日本国民である父親から出生後に認知された子について、父母の婚姻が日本国籍の取得の要件とされている点をして、立法目的との合理的関連性の認められる範囲を著しく超える手段を採用したものであるとした
非嫡出子法定相続分違憲判決(最大決平25.9.4、百選Ⅰ29)
・相続制度をどのように定めるかは、立法府の合理的な裁量判断に委ねられている
・立法府に与えられた……裁量権を考慮しても、そのような区別をすることに合理的な根拠が認められない場合には、当該区別は、憲法14条1項に違反するものと解するのが相当である
・本決定の違憲判断は、被相続人の相続の開始時から本決定までの間に開始された他の相続につき、本件規定を前提としてされた遺産の分割の審判その他の裁判、遺産の分割の協議その他の合意等により確定的なものとなった法律関係に影響を及ぼすものではない
・本決定の違憲判断が、先例としての事実上の拘束性という形で既に行われた遺産の分割等の効力にも影響し、いわば解決済みの事案にも効果が及ぶとすることは、著しく法的安定性を害することになる
☆嫡出でない子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1とする民法の規定は、遅くとも同規定が違憲とされた事案の非相続人の相続が開始した時点において、憲法第14条第1項に違反していたとする最高裁判所の決定は、当該事案限りものでなく、先例としての事実上の拘束性がある
尊属殺重罰規定違憲判決(最大判昭48.4.4、百選Ⅰ28)
・普通殺のほかに尊属殺という特別の罪を設け、その刑を荷重すること自体はただちに違憲であるとはいえない
・刑罰加重の程度いかんによっては、かかる差別の合理性を否定すべき場合がないとはいえない。すなわち、加重の程度が極端であって、……立法目的達成の手段として甚だしく均衡を失し、これを正当化しうべき根拠を見出しえないときは、その差別は著しく不合理なものといわなければならず、かかる規定は憲法14条1項に違反して無効であるとしなければならない
・刑法200条は、尊属殺の法定刑を死刑または無期懲役刑のみに限っている点において、その立法目的達成のため必要な限度を遥かに超え、普通殺に関する刑法199条の法定刑に比し著しく不合理な差別的取扱いをするものと認められ、憲法14条1項に違反して無効である
☆尊属殺という特別の罪を設け、刑罰を加重すること自体は直ちに違憲とはならないが、加重の程度が極端であって、立法目的達成の手段として甚だしく均衡を失し、これを正当化しうべき根拠を見出し得ないときは、その差別は著しく不合理なものとして違憲となる
☆信条とは、言葉の由来から宗教上の信念を意味するが、今日では広く世俗的な政治上の主義や思想的な主張も含むと解されている
☆社会的身分の意味については狭義説、中間説、広義説と見解が分かれるが、最高裁判所は広義説を採用している
第8章 精神的自由1(内心の自由)
8-1 思想・良心の自由(19条)
最判昭63.7.15(百選Ⅰ37)
・本件調査書の備考欄及び特定事項欄におおむね「校内において麹町中全共闘を名乗り、機関紙「砦」を発行した。学校文化祭の差異、文化祭粉砕を叫んで他校生徒と共に校内に乱入し、ビラまきを行った。大学生ML派の集会に参加している。学校側の指導説得をきかないで、ビラを配ったり、落書きをした」との記載が、結石の主な理由欄には「風邪、発熱、集会又はデモに参加して疲労のため」という趣旨の記載がされていたというのであるが、右のいずれの記載も、上告人の思想、心情そのものを記載したものでないことは明らかであり、右の記載に係る外部的行為によっては上告人の思想、信条を了知しうるものではない
最判平19.2.27
・入学式の国歌斉唱の際に「君が代」のピアノ伴奏をするという行為自体は、音楽専科の教諭等にとって通常想定され期待されるものであって、上記伴走を行う教諭等が特定の思想を有するということを外部に表明する行為であると評価することは困難なものである
☆市立小学校の入学式における国歌斉唱の際に「君が代」のピアノ伴奏をする行為は、音楽専科の教諭にとって通常想定され期待されるものであり、当該教諭が特定の思想を有するということを外部に表明する行為であると評価することは困難なものである
最判平23.5.30(百選Ⅰ40)
・公立高等学校……の儀式的行事である卒業式等の式典における国歌斉唱の際の起立斉唱行為は、一般的、客観的に見て、これらの式典における慣例上の儀礼的な所作としての性質を有するものであり、かつ、そのような所作として外部からも認識されるものというべきである
・起立斉唱行為は……一般的、客観的に見ても、国旗及び国家に対する敬意の表明の要素を含む行為であるということができる。そうすると、自らの歴史観ないし世界観との関係で否定的な評価の対象となる「日の丸」や「君が代」に対して敬意を表明することには応じがたいと考える者が、これらに対する敬意の表明の要素を含む行為を求められることは、その行為が個人の歴史観ないし世界観に反する特定の思想の表明に係る行為そのものではないとはいえ、個人の歴史観ないし世界観に由来する行動(敬意の表明の拒否)異なる外部的行為(敬意の表明の要素を含む行為)を求められることとなり、その限りにおいて、その者の思想及び良心の自由について間接的な制約となる面があることは否定し難い
☆公立高等学校の卒業式における国歌斉唱の際に起立斉唱する行為は、学校の儀礼的行事における慣例上の儀礼的な所作としての性質を有するが、同項の校長が教諭に当該行為を命ずることは、当該教諭の思想・良心の自由について間接的な制約となる面がある
8-2 信教の自由(20条)
富平神社事件(最大判平22.1.20)
・確かに、本件譲与は、本件各土地の財産的価値にのみ着目すれば、本件町内会に一方的に利益を提供するという側面を有しており、ひいては、上記地域住民の集団に対しても神社敷地の無償使用の継続を可能にするという便益を及ぼすとの評価はありうるところである。しかしながら……市と本件神社とのかかわり合いを是正解消する手段として相当性を欠くということもできない
・社会通念に照らして総合的に判断すると、本件譲与は、市と本件神社ないし神道との間に、我が国の社会的、文化的諸条件に照らし、信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で相当とされる限度を超えるかかわり合いをもたらすものということはできず、憲法20条3項、89条に違反するものではないと解するのが相当である
☆市有地が神社の敷地となっており、政教分離原則に違反するおそれがあったことから、その状態を解消するために、良好な地域社会の維持及び形成に資することを目的とした地域的活動を行う町内会組織に当該土地を無償譲渡することは、憲法89条に違反しない
愛媛玉串料訴訟(最大判平9.4.2、百選Ⅰ48)
・明治維新以降国家と神道が密接に結びつき種々の弊害を生じたことに鑑み政教分離規定を設けるに至った……憲法制定の経緯に照らせば、たとえ相当数の者が玉串料の支出を望んでいるとしても、そのことゆえに地方公共団体と特定の宗教とのかかわり合いが、相当とされる限度を超えないものとして憲法上許されることになるとはいえない
・本件支出は、憲法89条の禁止する公金の支出に辺り、違法というべきである
津地鎮祭事件判決(最大判昭52.7.13、百選Ⅰ46)
・憲法は、政教分離規定を設けるにあたり、国家と宗教との完全な分離を理想とし、国家の非宗教性ないし宗教的中立性を確保しようとしたもの、と解すべきである
・政教分離原則は、国家が宗教的に中立であることを要求するものではあるが、国家が宗教とのかかわり合いをもつことを全く許さないとするものではなく、宗教との関わり合いをもたらす行為の目的及び効果にかんがみ、そのかかわり合いが右の諸条件に照らし相当とされる限度を超えるものと認められる場合にこれを許さないとするものである
・現実の国家制度として、国家と宗教との完全な分離を実現することは、実際上不可能に近いものといわなければならず、更にまた、政教分離原則を完全に貫こうとすれば、かえって社会生活の各方面に不合理な事態を生ずることを免れない
エホバの証人剣道拒否事件(最判平8.3.8、百選Ⅰ45)
・高等専門学校の校長が学生に対し原級留置処分又は退学処分を行うかどうかの判断は、校長の合理的な教育的裁量にゆだねられるべきものであり、……校長の裁量権の行使としての処分が、全く事実の基礎を欠くか又は社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を超え又は裁量権を濫用してされたと認められる場合に限り、違法である
・退学処分は学生の身分を剥奪する重大な措置であり、……その要件の認定につき他の処分の選択に比較して特に慎重な配慮を要する……。また、原級留置処分……の学生に与える不利益の大きさに照らして、原級留置処分の決定に当たっても、同様に慎重な配慮が要求される……。そして、…本件各処分は、社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を超えた違法なものといわざるを得ない
加持祈祷による傷害致死事件(最大判昭38.5.15、百選Ⅰ41)
・信教の自由が基本的人権の一として極めて重要なものであることはいうまでもない。しかし、……信教の自由の保障も絶対無制限のものではない。これを本件についてみるに、……被告人の本件行為は、被害者Aの精神異常平癒を祈願するため、線香護摩による加持祈祷の行としてなされたものであるが、被告人の右加持祈祷行為の動機、手段、方法およびそれによって右被害者の生命を奪うに至った暴行の程度等は、医療上一般に承認された精神異常者に対する治療行為とは到底認め得ないというのである。しからば、被告人の本件行為は、……一種の宗教行為としてなされたものであったとしても、それが……他人の生命、身体等に危害を及ぼす違法な有形力の行使に当たるものであり、これにより被害者を死に致したものである以上、被告人の右行為が著しく反社会的なものであることは否定し得ないところであって、憲法20条1項の信教の自由の保障の限界を逸脱したものというほかはなく、これを刑法205条に該当するものとして処罰したことは、何ら憲法の右条項に反するものではない
最大判昭63.6.1(百選Ⅰ47)
・原審が宗教上の人格権であるとする静謐な宗教的環境の下で信仰生活を送るべき利益なるものは、これを直ちに法的利益として認めることができない性質のものである
・かえって相手方の信教の自由を妨げる結果となる
・信教の自由の保障は、何人も自己の進行と相容れない信仰をもつ者の信仰に基づく行為に対して、それが強制や不利益の付与に伴うことにより自己の信教の事由を妨害するものでない限り寛容であることを要請している
☆神社において死者の合祀を行うことが遺族である配偶者の心の静謐を害する場合でも、その遺族は、静謐な宗教的環境の下で信仰生活を送るべき利益である宗教的人格権を侵害されたと主張して、損害賠償を請求することができない
最決平8.1.30(百選Ⅰ42)
・本件解散命令は、宗教団体であるXやその信者らの精神的・宗教的側面に及ぼす影響を考慮しても、Xの行為に対処するのに必要でやむを得ない法的規制である
・もっぱら世俗的目的によるものであって、宗教団体や信者の精神的・宗教的側面に容喙する意図によるものでなく……解散命令によって宗教団体であるXやその信者らが行う宗教上の行為に何らかの支障を生ずることが避けられないとしても、その支障は、解散命令に伴う間接的で事実上のものであるにとどまる
☆宗教法人法の解散命令によって宗教法人を解散した場合、信者は、法人格を有しない宗教団体を存続させたり宗教上の行為を行ったりすることができるが、宗教上の行為を係属するに当たりなんら支障がないわけではない
8-3 学問の自由(23条)
東大ポポロ事件(最大判昭38.5.22、百選Ⅰ91)
・学問の自由は、学問的研究の自由とその研究結果の発表の自由とを含むものであって、同条が学問の自由はこれを保障すると規定したのは、一面において、広くすべての国民に対してそれらの自由を保障するとともに、他面において、大学が学術の中心として深く真理を探求することを本質とすることにかんがみて、特に大学におけるそれらの自由を保障することを趣旨としたものである
・大学における学問の自由を保障するために伝統的に大学の自治が認められている
・大学における学生の集会も、右の範囲において自由と自治を認められるものであって、大学の公認した学内団体であるとか、大学の許可した学内集会であるとかいうことのみによって、特別な事由と自治を享有するものではない。学生の集会が真に学問的な研究またはその結果の発表のためのものでなく、実社会の政治的社会的活動に当たる行為をする場合には、大学の有する特別の学問の自由と自治は享有しないといわなければならない。また、その集会が学生のみのものでなく、とくに一般の公衆の入場を許す場合には、むしろ公開の集会とみなされるべきであり、すくなくともこれに準じるものというべきである
第1次家永教科書事件(最判平5.3.16、百選Ⅰ93)
・教科書は、教科課程の公正に応じて組織配列された教科の主たる教材として、普通教育の場において使用される児童、生徒用の図書であって……、学術研究の結果の発表を目的とするものではなく、本件検定は、申請図書に記述された研究結果が、たとい執筆者が正当と信ずるものであったとしても、いまだ学会において支持を得ていなかったり、あるいは当該学校、当該教科、当該科目、当該学年の児童、生徒の教育として取り上げるにふさわしい内容と認められないときなど旧検定基準の各条件に違反する場合に、教科書の形態における研究結果の発表を制限するにすぎない
・このような本件検定は、学問の自由を保証した憲法23条の規定に違反しない
☆普通教育の場において使用される教科書は学術研究の結果の発表を目的とするものではなく、教科書検定は、記載内容がいまだ学会において支持を得ていないとき、あるいは当該教科課程で取り上げるにふさわしい内容と認められないときなど一定の検定基準に違反する場合に、教科書の形態における研究結果の発表を制限するにすぎないから、憲法23条に反しない。
旭川学テ事件(最大判昭51.5.21、百選Ⅱ140)
※普通教育においても、「一定の範囲における教授の自由が保障される」ことを認めたが、①児童生徒の批判能力の欠如、②子どもの側に学校や教師を選択する余地が乏しいこと、③全国的な教育水準確保の必要性等から、「完全な教授の自由を認めることは、とうてい許されない」とした
・憲法26条は、福祉国家の理念に基づき、国が積極的に教育に関する諸施設を設けて国民の利用に供する責務を負うことを明らかにするとともに、子どもに対する基礎的教育である普通教育の絶対的必要性にかんがみ、親に対し、その子女に普通教育を受けさせる義務を課し、かつ、その費用を国において負担すべきことを宣言したものである
・背後には、国民各自が、一個の人間として、また、一市民として、成長、発達し、自己の人格を完成、実現するために必要な学習をする固有の権利を有すること、特に、みずから学習することのできない子どもは、その学習要求を充足するための教育を自己に施すことを大人一般に対して要求する権利を有するとの観念が存在している
☆憲法26条の規定の背後には、特に、自ら学習することのできない子どもは、その学習要求を充足するために、教育を自己に施すことを大人一般に対して要求する権利を有するという観念が存在する
☆国民各自は、一個の人間として、また一市民として、成長、発達し、自己の人格を完成、実現するために必要な学習をする固有の権利を有し、特に、子どもは、そのための教育を自己に施すことを大人一般に対して要求する権利を有する
・一般に社会公共的な問題について国民全体の意思を組織的に決定、実現すべき立場にある国は、国政の一部として広く適切な教育政策を樹立、実施すべく、また、しうる者として、憲法上、あるいは子ども自身の利益の擁護のため、あるいは子どもの成長に対する社会公共の利益と関心にこたえるため、必要かつ相当と認められる範囲において、教育内容についてもこれを決定する権能を有する
・もとより、政党政治の下で多数決原理によってされる国政上の意思決定は、さまざまな政治的要因によって左右されるものであるから、本来人間の内面的価値に関する文化的な営みとして、党派的な政治的観念や利害によって支配されるべきでない教育にそのような政治的影響が深く入り込む危険があることを考えるときは、教育内容に対する右のごとき国家的介入についてはできるだけ抑制的であることが要請されるし、殊に個人の基本的自由を認め、その人格の独立を国政上尊重すべきものとしている憲法の下においては、子どもが自由かつ独立の人格として成長することを妨げるような国家的介入、例えば、誤った知識や一方的な観念を子どもに植え付けるような内容の教育を施すことを強制するようなことは、憲法26条、13条の規定からも許されない
☆個人の基本的自由を認め、その人格の独立を国政上尊重すべきものとしている憲法の下においては、子どもが自由かつ独立の人格として成長することを妨げるような国家的介入は、許されない
・子どもの教育が、専ら子どもの利益のために、教育を与える者の責務として行われるべきものであるということからは、このような教育の内容及び方法を、誰がいかにして決定すべく、また、決定することができるかという問題に対する一定の結論は、当然には導き出されない
・一定の範囲における教授の自由が保障されるべきことを肯定できないではない。しかし……普通教育における教師に完全な教授の自由を認めることは、とうてい許されない
☆憲法26条が子どもの学習権を保障していることから、教育の内容及び方法を誰がいかにして決定しうるかという問題に対する一定の結論が当然に導き出されるわけではない
・親は、……子どもの教育に対する一定の支配権、すなわち子女の教育の自由を有すると認められるが、このような親の教育の事由は、主として家庭教育等学校外における教育や学校選択の自由にあらわれる
☆大学は、自治権を有し、その施設及び学生の管理に関して自主的に決定する権利を有するが、警察は、大学の了解なしに大学構内において令状に基づく犯罪捜査を行うことができる
☆大学教授が授業中に行ったその所属学部の執行部への批判を理由として、当該学部が当該教授の授業開講を認めない措置を採るような場合には、学問の自由と大学の自治とが対立的な関係に立つ
☆学問研究は、大学で行われる場合であっても、研究テーマ又は研究を遂行する手段・方法について制約される場合がある
☆国や地方公共団体が研究助成を行う場合に、応募者の研究内容やこれまでの研究成果への評価に基づいて助成金の額に差異を設けることは、憲法23条に違反しない
☆大学の自治の保障は、大学の施設や学生の管理に関する自主的な秩序維持の権能だけでなく、大学の教授その他の研究者の人事に関する自主的な決定権にも及ぶ
伝習館高校事件(最判平2.1.18、百選Ⅱ141)
・高等学校における教育活動の中で枢要な部分を占める日常の教科の授業、考査ないし生徒の成績評価に関して行われたものであるところ、教育の具体的内容及び方法につき高等学校の教師に認められるべき裁量を前提としてもなお、明らかにその範囲を逸脱して、日常の教育の在り方を律する学校教育法の規定や学習指導要領の定め等に明白に違反するものである
・高等学校の教育は、高等普通教育及び専門教育を施すことを目的とするものではあるが、中学校の教育の基礎の上に立って、所定の修業年限の間にその目的を達成しなければならず……、高等学校においても、教師が依然生徒に対し相当な影響力、支配力を有しており、生徒の側には、いまだ教師の教育内容を批判する十分な能力は備わっておらず、教師を選択する余地も大きくない
・国が教育の一定水準を維持しつつ、高等学校教育の目的達成に資するために、高等学校教育の内容及び方法について遵守すべき基準を定立する必要があり、特に法規によってそのような基準が定立されている事柄については、教育の具体的内容及び方法につき高等学校の教師に認められるべき裁量にもおのずから制約が存する
・高等学校学習指導要領……は法規としての性質を有するとした原審の判断は、正当として是認することができる
☆教育の具体的方法や内容に関して教師に認められるべき裁量には、おのずから制約がある。自分の考えと異なるとして教科書を使用しないで授業を行ったり、全員に一律の成績評価を行ったりすることは、教師の裁量の範囲内とはいえない
義務教育費用負担請求事件(最大判昭39.2.26、百選ⅡA6)
・憲法26条後段の「義務教育は、これを無償とする」という意義は、国が義務教育を提供するにつき有償としないこと、換言すれば、子女の保護者に対しその子女に普通教育を受けさせるにつき、その対価を徴収しないことを定めたものであり、教育提供に対する対価とは授業料を意味するものと認められるから、同条項の無償とは授業料不徴収の意味と解するのが相当である
・授業料のほかに、教科書、学用品その他教育に必要な一切の費用まで無償としなければならないことを定めたものと解することはできない
・憲法が……保護者に子女を就学せしむるべき義務を課しているのは、単に普通教育が民主国家の存立、反映のため必要であるという国家的要請だけによるものではなくして、それがまた子女の人格の完成に必要欠くべからざるものであるということから、親の本来有している子女を教育すべき責務を完うせしめんとする趣旨に出たものでもあるから、義務教育に要する一切の費用は、当然に国がこれを負担しなければならないものとはいえない
第9章 精神的自由2(表現の自由)
9-1 表現の自由の意味(21条)
サンケイ新聞事件(最判昭62.4.24、百選Ⅰ82)
・新聞の記事に取り上げられた者が、その記事の掲載によって名誉毀損の不法行為が成立するかどうかとは無関係に、自己が記事に取り上げられたというだけの理由によって、新聞を発行・販売する者に対し、当該記事に対する自己の反論文を無修正で、しかも無料で掲載することを求めることができるものとするいわゆる反論権の制度は、記事により自己の名誉を傷つけられあるいはそのプライバシーに属する事項等について誤った報道をされたとする者にとっては、機を失せず、同じ新聞紙上に自己の反論文の掲載を受けることができ、これによって原記事に対する自己の主張を読者に訴える途が開かれることになるのであって、かかる制度により名誉あるいはプライバシーの保護に資するものがあることも否定し難い
・たとえ被上告人の発行するS新聞などの日刊全国紙による情報の提供が一般国民に対し強い影響力をもち、その記事が特定の者の名誉ないしプライバシーに重大な影響を及ぼすことがあるとしても、不法行為が成立する場合にその者の保護を図ることは別論として、反論権の制度について具体的な成文法がないのに、反論権を認めるに等しい上告人主張のような反論文掲載請求権をたやすく認めることはできないものといわなければならない
・認められるときは、新聞を発行・販売する者にとっては、原記事が正しく、反論文は誤りであると確信している場合でも、あるいは反論文の内容がその編集方針によれば掲載すべきでないものであっても、その掲載を強制されることになり、また、そのために本来ならば他に利用できたはずの紙面を割かなければならなくなる等の負担を強いられるのであって、これらの負担が、批判的記事、ことに公的事項に関する批判的記事の掲載を躊躇させ、憲法の保障する表現の自由を間接的に侵す危険につながるおそれも多分に存するのである。このように、反論権の制度は、民主主義社会において極めて重要な意味をもつ新聞等の表現の自由……に対し重大な影響を及ぼす
最判平16.11.25
・放送法4条1項自体……放送をした事項が真実でないことが放送事業者に判明したときに訂正放送等を行うことを義務付けている
・同項は、真実でない事項の放送がされた場合において、放送内容の真実性の保障及び他からの干渉を排除することによる表現の自由の確保の観点から、放送事業者に対し、自律的に訂正放送等を行うことを国民全体に対する公法上の義務として定めたものであって、被害者に対して訂正放送等を求める私法上の請求権を付与する趣旨の規定ではない
☆放送事業者は、権利の侵害を受けた者の請求に基づく調査によって放送内容が真実でないことが判明した場合、放送法の規定により訂正放送をしなければならないが、これは、放送内容の真実性の保障及び干渉排除による表現の自由の確保の観点から、放送事業者において自律的に訂正放送を行うことを公法上の義務として定めたものである
9-2 表現の自由の内容
博多駅テレビフィルム提出命令事件(最大決昭44.11.26、百選Ⅰ78)
・事実の報道の自由は、表現の自由を規定した憲法21条の保障のもとにあることはいうまでもない
・報道機関の報道は、民主主義社会において、国民が国政に関与するにつき、重要な判断の資料を提供し、国民の「知る権利」に奉仕するものである。したがって、思想の表明の自由とならんで、事実の報道の自由は、表現の自由を規定した憲法21条の保障のもとにあることはいうまでもない
・このような報道機関の報道が正しい内容をもつためには、報道の自由とともに、報道のための取材の自由も、憲法21条の精神に照らし、十分尊重に値するものといわなければならない
☆報道機関の報道は、民主主義社会において、国民が国政に関与するにつき重要な判断の資料を提供し、国民の「知る権利」に奉仕するものであることから、事実の報道の自由は、思想の表明の自由と同様に憲法第21条の保障のもとにあり、報道が正しい内容を持つためには、報道のための取材の自由についても、憲法第21条の精神に照らし十分尊重に値する
TBSビデオテープ差押事件(最決平2.7.9、百選Ⅰ79)
・取材の自由も、何らの制約を受けないものではなく、公正な裁判の実現というような憲法上の要請がある場合には、ある程度の制約を受けることがある
・その趣旨からすると、公正な刑事裁判を実現するために不可欠である適正迅速な捜査の遂行という要請がある場合にも、同様に、取材の自由がある程度の制約を受ける場合がある
☆取材の自由は、公正な刑事裁判の実現の要請からある程度制約を受けることがあるが、公正な刑事裁判を実現するに当たっては、適正迅速な捜査が不可欠の前提であるから、適正迅速な捜査の要請からも取材の自由が制約を受けることがある
最判平17.11.10
・被上告人の刑事事件の法廷内における容貌などを描いた3点のイラストがのうち冗談のものは、……被上告人が手錠、腰縄により身体の拘束を受けている状態が描かれたものであり、そのような表現内容のイラスト画を公表する行為は、被上告人を侮辱し、被上告人の名誉感情を侵害するものというべきであり、同イラスト画を、本件……記事に組み込み、本件写真週刊誌に掲載して公表した行為は、社会生活上受忍すべき限度を超えて、被上告人の人格的利益を侵害するものであり、不法行為法上位法と評価すべきである
☆法廷内における被告人の容貌等につき、手錠、腰縄により身体の拘束を受けている状態が描かれたイラスト画を被告人の承諾なく公表する行為は、被告人を侮辱し、名誉感情を侵害するものというべきで、その人格的利益を侵害する
最判平15.3.14(百選Ⅰ71)
・少年法61条に違反する推知報道かどうかは、その記事等により、不特定多数の一般人がその者を当該事件の本人であると推知することができるかどうかを基準にして判断すべき
最決平18.10.3(百選Ⅰ75)
・報道関係者の取材源は、一般に、それがみだりに開示されると、報道関係者と取材源となる物との間の信頼関係が損なわれ、将来にわたる事由で円滑な取材活動が妨げられることとなり、報道機関の業務信頼関係が損なわれ、将来にわたる事由で円滑な取材活動が妨げられることとなり、報道機関の業務に深刻な影響を与え以後その遂行が困難になると解されるので、取材源の秘密は職業の秘密に当たるというべきである
・当該取材源の秘密が保護に値する秘密であるかどうかは、当該報道の内容、性質、その持つ社会的な意義・価値、当該取材の態様、将来における同種の取材活動が妨げられることによって生ずる不利益の内容、程度等と、当該民事事件の内容、性質、その持つ社会的な意義・価値当該民事事件において当該証言を必要とする程度、代替証拠の有無等の諸事情を比較衡量して決すべきことになる
レペタ事件(最大判平元.3.8、百選Ⅰ77)
・筆記行為は、一般的には人の生活活動の一つであり、生活のさまざまな場面において行われ、極めて広い範囲に及んでいるから、そのすべてが憲法の保証する自由に関係するものということはできないが、さまざまな意見、知識、情報に接し、これを摂取することを補助するものとしてなされる限り、筆記行為の自由は、憲法21条1項の規定の精神に照らして尊重されるべきである
・その制限又は禁止には、表現の自由に制約を加える場合に一般に必要とされる厳格な基準が要求されるものではない
・筆記行為の自由は、憲法21条1項の規定によって直接保障されている表現の自由そのものとは異なるものである
・メモを取る行為がいささかでも法廷における公正かつ円滑な訴訟の運営を妨げる場合には、それが制限又は禁止されるべきことは当然である
・法廷……において最も尊重されなければならないのは、適正かつ迅速な裁判を実現することである
・傍聴人は、その活動を見聞する者であって、裁判に関与して何らかの積極的な活動をすることを予定されている者ではない
・公正かつ円滑な訴訟の運営は、傍聴人がメモを取ることに比べれば、はるかに優越する法益である
・法廷警察権……の行使に当たっての裁判長の判断は、最大限に尊重されなければならない。したがって、それに基づく裁判長の措置は、それが法廷警察権の目的、範囲を著しく逸脱し、又はその方法が甚だしく不当であるなどの特段の事情のない限り、国家賠償法1項1条の規定にいう違法な公権力の行使ということはできない
☆法廷における筆記行為の自由は憲法第21条の規定の精神に照らして尊重されるべきであるが、その制限は表現の自由に制約を加える場合に一般に必要とされる厳格な基準までは要求されず、メモを取る行為が公正かつ円滑な訴訟の運営を妨げる場合には制限される。
・憲法82条1項の規定は、裁判の対審及び判決が公開の法廷で行われるべきことを定めているが、その趣旨は、裁判を一般に公開して裁判が公正に行われることを制度として保障し、ひいては裁判に対する国民の信頼を確保しようとすることにある。裁判の公開が制度として保障されていることに伴い、各人は、裁判を傍聴することができることとなるが、右規定は、各人が裁判所に対して傍聴することを権利として要求できることまでを認めたものでない
☆裁判の傍聴人が法廷においてメモを取ることについては、憲法21条1項の規定により憲法上の権利として保障されておらず、法廷警察権によってこれを制限又は禁止することは、公正かつ円滑な訴訟の運営の妨げとなるおそれがあれば足り、訴訟の運営に具体的な支障が生じていることは必要ない
戸別訪問の禁止(最判昭56.6.15)
・戸別訪問の禁止は、意見表明そのものの制約を目的とするものではなく、意見表明の手段方法のもたらす弊害、すなわち、戸別訪問が買収、利害誘導等の温床になりやすく、選挙人の生活の平穏を害するほか、これが放任されれば、候補者側も訪問回数等を競う煩に耐えられなくなるうえに多額の出費を余儀なくされ、投票も情実に支配され易くなるなどの弊害を防止し、もって選挙の自由と更正を確保することを目的としているところ……、右の目的は正当であり、それらの弊害を総体としてみるときには、戸別訪問を一律に禁止することと禁止目的との間に合理的な関連性があるということができる。そして、戸別訪問の禁止によって失われる利益は、それにより戸別訪問という手段方法による意見表明の自由が制約されることではあるが、それは、もとより戸別訪問以外の手段方法による意見表明の事由を制約するものではなく、単に手段方法の禁止に伴う限度での間接的、付随的な制約にすぎない反面、禁止により得られる利益は、戸別訪問という手段方法のもたらす弊害を防止することによる選挙の自由と公正の確保であるから、得られる利益は失われる利益に比してはるかに大きいということができる。以上によれば、戸別訪問を一律に禁止している公職選挙法138条1項の規定は、合理的で必要やむをえない限度を超えるものとは認められず、憲法21条に違反するものではない。したがって、戸別訪問を一律に禁止するかどうかは、専ら選挙の自由と公正を確保する見地からする立法政策の問題であって、国会がその裁量の範囲内で決定した政策は尊重されなければならない
最判昭23.6.1
・議員の当選の効力を定めるに当たって、何人が何人に対して投票したかを公表することは選挙権の有無にかかわらず選挙投票の全般に亘ってその秘密を確保しようとする無記名投票制度の精神に反する
☆選挙や当選の効力に関する訴訟において、誰が誰に対して投票したかを解明し、これを公表することは、選挙投票の全般にわたってその秘密を確保しようとする無記名投票制度の精神に反する
「宴のあと」事件(東京地判昭39.9.28、百選Ⅰ65)
・いわゆるプライバシー権は私生活をみだりに公開されないという法的保障ないし権利として理解される
・プライバシーの侵害に対し法的な救済が与えられるためには、公開された内容が(イ)私生活上の事実又は私生活上の事実らしく受け取られるおそれのあることがらであること、(ロ)一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立った場合公開を欲しないであろうと認められる事柄であること、換言すれば一般人の感覚を基準として公開されることによって心理的な負担を覚えるであろうと認められる事柄であること、(ハ)一般の人々に未だ知られていない事柄であることを必要とし、このような公開によって当該私人が実際に不快、不安の念を覚えたことを必要とする
最判平17.7.14(百選Ⅰ74)
・公立図書館が、……、住民に図書館資料を提供するための公的な場であるということは、そこで閲覧に供された図書の著作者にとって、その思想、意見などを公衆に伝達する公的な場でもあるということができる
・公立図書館の図書館職員が閲覧に供されている図書を著作者の思想や信条を理由とするなど不公正な取扱いによって廃棄することは、当該著作者が著作物によってその思想、意見などを公衆に伝達する利益を不当に損なうものといわなければならない
最大判昭58.6.22(百選Ⅰ16)
・さまざまな……意見、知識、情報の伝達の媒体である新聞紙、図書等の閲読の事由が憲法上保障されるべきことは、思想及び良心の事由の不可侵を定めた憲法19条の規定や、表現の事由を保障した憲法21条の規定の趣旨、目的から、いわばその派生原理として当然に導かれる
・およそ各人が、自由に、さまざまな意見、知識、情報に接し、これを窃取する機会を持つことは、その者が個人として自己の思想及び人格を形成・発展させ、社会の中にこれを反映させていくうえにおいて欠くことのできないものであり、また、民主主義社会における思想及び情報の自由な伝達、勾留の確保という基本的原理を真に実効あるものたらしめるためにも、必要なところである
9-3 表現の自由の限界
泉佐野市民会館事件(最判平7.3.7、百選Ⅰ86)
・「公の秩序をみだすおそれがある場合」……は、……本件会館における集会の自由を保障することの重要性よりも、本件会館で集会が開かれることによって、人の生命、身体又は財産が侵害され、公共の安全が損なわれる危険を回避し、防止することの必要性が優越する場合をいうものと限定して解すべきであり、その危険性の程度としては、……単に危険な事態を生ずる蓋然性があるというだけでは足りず、明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見されることが必要である
・地方自治法244条にいう普通地方公共団体の公の施設として、本件会館のように集会の用に供する施設が設けられている場合、住民は、その施設の設置目的に反しない限りその利用を原則的に認められることになるので、管理者が正当な理由なくその利用を拒否するときは、憲法の保障する集会の自由の不当な制限につながるおそれが生ずることになる。したがって、本件条例……を解釈適用するに当たっては、本件会館の使用を拒否することによって憲法の保障する集会の自由を実質的に否定することにならないかどうかを検討すべきである
☆集会の自由に対する不当な制約を防ぐため、集会の用に供される公共施設の利用許可申請を公の秩序が害されるおそれを理由にして拒否することが許されるのは、明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見される場合に限られる
最判平8.3.15 上尾市福祉会館事件
・会館の管理上支障が生ずるとの事態が、許可権者の主観により予測されるだけでなく、客観的な事情に照らして具体的に明らかに予測される場合に初めて、本件会館の使用を許可しないことができることを定めたものと解すべき
・主宰者が集会を平穏に行おうとしているのに、その集会の目的や主催者の思想、信条等に反対する者らが、これを実力で阻止し、妨害しようとして紛争を興すおそれがあることを理由に公の施設の利用を拒むことができるのは、……公の施設の利用関係の性質に照らせば、警察の警備等によってもなお混乱を防止することができないなど特別な事情がある場合に限られる
・地方自治法244条に定める普通地方公共団体の公の施設として、本件会館のような集会の用に供する施設が設けられている場合、住民等は、その施設の設置目的に反しない限りその利用を原則的に認められることになるので、管理者が正当な理由もないのにその利用を拒否するときは、憲法の保障する集会の自由の不当な制限につながるおそれがある。……集会の用に供される公の施設の管理者は、当該公の施設の種類に応じ、また、その規模、構造、設備等を勘案し、公の施設としての使命を十分達成せしめるよう適正にその管理権を行使すべき
徳島市公安条例事件(最大判昭50.9.10、百選Ⅰ88)
・殊更な交通秩序の阻害をもたらすような行為は、思想表現行為としての集団行進等に不可欠な要素ではなく、したがって、これを禁止しても国民の憲法上の権利の正当な行使を制限することにはならない
・思想表現行為としての集団行進等は、……これに参加する多数の者が、行進その他の一体的行動によってその共通の主張、要求、観念等を一般公衆等に強く印象づけるために行うものであり、専らこのような一体的行動によってこれを示すところにその本質的な意義と価値があるものであるから、これに対して、それが秩序正しく平穏に行われて不必要に地方公共の安寧と秩序を脅かすような行動にわたらないことを要求しても、それは、……思想表現行為としての集団行進等の本質的な意義と価値を失わしめ憲法上保障されている表現の自由を不当に制限することにはならない
☆殊更に交通秩序の阻害をもたらすような行為は、思想表現行為としての集団行進に不可欠な要素ではないから、道路における集団行進を許可するに際し、これを禁ずるという条件を付するとしても、憲法上の権利を不当に侵害するものではない
屋外広告物条例事件(最判昭62.3.3、百選Ⅰ61)
・大分県屋外広告物条例は、屋外広告物法に基づいて制定されたもので、右法律と相まって、大分県における美観風致の維持及び公衆に対する危害防止の目的のために、屋外広告物の表示の場所・方法及び屋外広告物を掲出する物件の設置・維持について必要な規制をしているところ、国民の文化的生活の向上を目途とする憲法の下においては、都市の美観風致を維持することは、公共の福祉を保持する所以であり、右の程度の規制は、公共の福祉のため、表現の自由に対し許された必要かつ合理的な制限と解することができる。
最判平20.2.19
・当該写真家は、肉体、性、裸体という人間の存在の根元に関わる事象をテーマとする作品を発表し、写真による現代美術の第一人者として美術評論家から高い評価を得ていたというのであり、本件写真集は、写真芸術ないし現代美術に高い関心を有する者による購読、鑑賞を想定して、上記のような写真芸術家の主要な作品を1冊の本に収録し、その写真芸術の全体像を概観するという芸術的観点から編集し、構成したものである点に意義を有するものと認められ、本件各写真もそのような観点からその主要な作品と位置づけられた上でこれに収録されたものとみることができる。また、前記事実関係によれば、……本件写真集全体に対して本件各写真の占める比重は相当に低いものというべきであり、しかも、本件各写真は、白黒(モノクローム)の写真であり、性交等の状況を直接的に表現したものでもない。以上のような本件写真集における芸術性など性的刺激を緩和させる要素の存在、本件各写真の本件写真集全体に占める比重、その表現手法等の観点から写真集を全体としてみたときには、本件写真集が主として見る者の好色的興味に訴えるものと認めることは困難
☆問題となっている写真集の猥褻性については、芸術など性的刺激を緩和させる要素の存在、問題となっている各写真の写真集に占める比重、作者に対する当該分野の評論家からの評価、その表現手法等の観点から、写真集を全体としてみて判断すべきである
最大判昭59.12.12(百選Ⅰ73)
・わが国内における健全な性的風俗が害されることを実効的に防止するには、単なる所持目的かどうかを区別することなく、その流入を一般的に、いわば水際で阻止することもやむを得ないものといわなければならない
※個人的な鑑賞の目的でわいせつな書籍・図画等を輸入しようとした者でも関税法109条3項を適用して処罰することはできる
第10章 経済的自由権
10-1 職業選択の自由(22条1項)
小売市場距離制限事件(最大判昭47.11.22、百選Ⅰ96)
・憲法22条1項は、国民の基本的人権の一つとして、職業選択の自由を保証しており、そこで職業選択の自由を保証するというなかには、広く一般に、いわゆる営業の自由を保障する趣旨を包含しているものと解すべきであり、ひいては、憲法が、個人の自由な経済活動を基調とする経済体制を一応予定しているものということができる
☆憲法22条1項は職業選択の自由を保証しているが、いわゆる営業の自由も、22条1項の規定によって根拠付けられる
・憲法22条1項……に基づく個人の経済活動に対する法的規制は……憲法の他の条項をあわせ考察すると、憲法は、全体として、福祉国家的理想のもとに、社会経済の均衡のとれた調和的発展を企図しており、その見地から、すべての国民にいわゆる生存権を保障し、その一環として、国民の勤労権を保障する等、経済的劣位に立つ者に対する適切な保護政策を要請していることは明らかである
・このような点を総合的に考察すると、憲法は、国の責務として積極的な社会経済政策の実施を予定しているものということができ、個人の経済活動の自由に関する限り、個人の精神的自由等に関する場合と異なって、右社会経済政策の実施の一手段として、これに一定の合理的規制措置を講ずることは、もともと、憲法が予定し、かつ、許容するところと解するのが相当である
最判平17.4.26
・農業災害補償法が、水稲等の耕作の業務を営む者でその耕作面積が一定の規模以上のものは農業協同組合の組合員となり当該組合との間で農作物共済の共済関係が当然に成立するという仕組み(当然加入制)を採用した趣旨は、国民の主食である米の清算を確保するとともに、水稲等の耕作をする自作農の経営を保護することを目的とする
・当然加入制の採用は、公共の福祉に合致する目的のために必要かつ合理的な範囲にととどまる措置ということができ、立法府の政策的、技術的な裁量の範囲を逸脱するもので著しく不合理であることが明白であるとは認めがたい。したがって、上記の当然加入制を定める法の規定は、職業の自由を侵害するものとして憲法22条1項に違反するということはできない
☆農業災害補償法が一定の稲作農業者を農業共済組合に当然に加入させる仕組みを採用したことの合憲性は、当該仕組みが国民の主食である米の生産性の確保と稲作を行う自作農の経営の保護を目的とすることから、著しく不合理であることが明白か否かによって判断される
薬局距離制限事件(最大判昭50.4.30、百選Ⅰ97)
・職業は、……本質的に社会的な、しかも主として経済的な活動であって、その性質上、社会的相互関連性が大きいものであるから、職業の自由は、それ以外の憲法の保障する自由、殊にいわゆる精神的自由に比較して、公権力による規制の要請が強く、憲法22条1項が「公共の福祉に反しない限り」という留保のもとに職業選択の自由を認めたのも、特にこの点を強調する趣旨に出たものと考えられる。
・一般に許可制は、単なる職業活動の内容及び態様に対する規制を超えて、狭義における職業の選択の自由そのものに制約を課するもので、職業の自由に対する強力な制限であるから、その合憲性を肯定しうるためには、原則として、重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要する
・この要件は、許可制そのものについてのみならず、その内容についても要求されるのであって、許可制の採用自体が是認される場合であっても、個々の許可条件については、更に個別的に右の要件に照らしてその適否を判断しなければならないのである
☆憲法22条1項が「公共の福祉に反しない限り」という留保を伴っているのは、職業活動は社会的相互関連性が大きく、精神的自由と比較して公権力による規制の要請が強いことを強調するためである
☆職業の許可性は、協議の職業の選択の自由そのものに制約を課す協力な制限であるが、社会政策ないしは経済政策上の積極的な目的のための措置であれば、よりゆる赤な規制によってはその目的を十分に達することができない場合でなくても、合憲性が肯定され得る
10-2 居住・移転の自由(22条)
☆海外渡航の自由は、出国の自由と再入国の自由を包括する概念であるが、その性質は、経済的自由の側面にとどまらず、精神的自由、人身の自由などと関連し、複合的かつ多元的な性質を持つ。
☆憲法22条1項の「公共の福祉」との文言によって直ちに広範な政策的制約が許されるものでないと考えれば、海外渡航の自由について、憲法上の根拠を同項に求めるか他の条項に求めるかによって、許される制約の程度に決定的な差異は生じない。
帆足計事件(最大判昭33.9.10、百選Ⅰ111)
・憲法22条2項の「外国に移住する自由」には外国へ一時旅行する自由を含むものと解すべきであるが、外国旅行の自由といえども無制限のままに許されるものではなく、公共の福祉のために合理的な制限に服するものと解すべきである。そして旅券発給を拒否することができる場合として、旅券法13条1項5号が「著しく且つ直接に日本国の利益又は公安を害する行為を行う虞があると認めるに足りる相当の理由がある者」と規定したのは、外国旅行の自由に対し、公共の福祉のために合理的な制限を定めたものとみることができ、所論のごとく右規定が漠然たる基準を示す無効のものであるということはできない
☆判例は、「著しく、かつ、直接に日本国の利益又は公安を害する行為を行うおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者」につき外務大臣が旅券の発給を拒否できる旨定めた旅券法の規定を、公共の福祉のための合理的な制限を定めたものとして合憲と解している
10-3 財産権の保障(29条)
☆憲法29条2項は財産権の内容は法律で定めるとするが、入会権のような慣習に基づく伝統的な権利も憲法上の財産権に含まれる
☆憲法29条3項は私有財産を正当な補償の下に公共のために用いることができるとするが、こうした規定は歴史的には福祉国家理念を背景にして制定されたわけではない
☆憲法17条が定める「公務員の不法行為」には、権力作用によるものばかりでなく、非権力作用によるものも含まれる
最判平3.4.19(行政法百選Ⅱ225)
・予防接種によって重篤な後遺障害が発生する原因としては、被接種者が禁忌者に該当していたこと又は被接種者が後遺障害を発生しやすい個人的素因を有していたことが考えられるところ、禁忌者として掲げられた事由は一般通常人がなり得る病的状態、比較的多く見られる疾患又はアレルギー体質等であり、ある個人が禁忌者に該当する可能性は右の個人的素因を有する可能性よりもはるかに大きいものというべきであるから、予防接種によって右後遺障害が発生した場合には、当該被接種者が禁忌者に該当していたことによって右後遺障害が発生した高度の蓋然性があると考えられる。したがって、予防接種によって右後遺障害が発生した場合には、禁忌者を識別するために必要とされる予診が尽くされたが禁忌者に該当すると認められる事由を発見することができなかったこと、被接種者が右個人的素因を有していたこと等の特段の事情が認められない限り、被接種者は禁忌者に該当していたと推定するのが相当である
・予防接種を実施した医師が禁忌者を識別するために必要とされる予診を尽くしたかどうか等を更に審理させる必要がある
☆憲法29条3項に基づく損失補償は、国の正当な行為について行われるものだが、身体に対してはなされないというのが最高裁判所の立場である。
森林法共有林事件(最大判昭62.4.22、百選Ⅰ101)
・憲法29条は、1項において「財産権は、これを侵してはならない」と規定し、2項において「財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める」と規定し、私有財産制度を保障しているのみでなく、社会的経済的活動の基礎をなす国民の個々の財産権につきこれを基本的人権として保障するとともに、社会全体の利益を考慮して財産権に対し制約を加える必要性が増大するに至ったため、立法府は公共の福祉に適合する限り財産権について規制を加えることができる、としているのである
・財産権は、それ自体に内在する制約があるほか、立法府が社会全体の利益を図るために加える規制により制約を受けるものであるが、この規制は、財産権の種類、性質等が多種多様であり、また、財産権に対し規制を要求する社会的理由ないし目的も、社会公共の便宜の促進、経済的弱者の保護等の社会政策及び経済政策状の積極的なものから、社会生活における安全の保障や秩序の維持等の消極的なものに至るまで多岐にわたるため、種々様々でありうる
・森林法186条は、森林法(明治40年法)6条の…規定を受け継いだものである。明治40年法6条の立法目的は、その立法の過程における政府委員の説明が、長年を期して営むことを要する事業である森林経営の安定を図るために持分価格2分の1以下の共有者の分割請求を禁ずることとしたものである旨の説明に尽きていたことに照らすと、森林の細分化を防止することによって森林経営の安定を図ることにあったものというべきであり、当該森林の水資源かん養、国土保全及び保健保全等のいわゆる公益的機能の維持又は増進等は同条の直接の立法目的に含まれていたとはいい難い。昭和26年に制定された現行の森林法は、明治40年法6条の内容を実質的に変更することなく、その字句に修正を加え、規定の位置を第7章雑則に移し、186条として規定したにとどまるから、同条の立法目的は、明治40年法6条のそれと異なったものとされたとはいえないが、森林法が1条として規定するに至った同法の目的をも考慮すると、結局、森林の細分化を防止することによって森林経営の安定を図り、ひいては森林の保続培養と森林の生産力の増進を図り、もって国民経済の発展に資することにあると解すべきである
・財産権に対して加えられる規制が憲法29条2項にいう公共の福祉に適合するものとして是認されるべきものであるかどうかは、規制の目的、必要性、内容、その規制によって制限される財産権の種類、性質及び制限の程度等を比較衡量して決すべきものであるが、裁判所としては、立法府がした右比較衡量に基づく判断を尊重すべきものであるから、立法の規制目的が前示のような社会的理由ないし目的に出たとはいえないものとして公共の福祉に合致しないことが明らかであるか、又は規制目的が公共の福祉に合致するものであっても規制手段が右目的を達成するための手段として必要性若しくは合理性にかけていることが明らかであって、そのため立法府の判断が合理的裁量の範囲を超えるものとなる場合に限り、当該規制立法が憲法29条2項に違背するものとして、その効力を否定することができるものと解するのが相当である。
☆憲法29条は、私有財産制度を保証しているのみでなく、国民の個々の財産権につきこれを基本的人権として保障しているが、それ自体に内在する制約があるほか、社会全体の利益を図るための規制により制約を受ける
☆財産権規制の目的が公共の福祉に合致しないことが明らかであるか、規制手段が規制目的を達成する手段として必要性や合理性に欠けていることが明らかであって、立法府の判断が合理的裁量の範囲を超えるものとなる場合に限り、当該規制立法は違憲となる
☆財産権に対して加えられる規制が憲法29条2項にいう公共の福祉に適合するものとして是認されるべきものであるかどうかは、規制の目的、必要性、内容、その規制によって制限される財産権の種類、性質及び制限の程度等を比較衡量して決すべきものである
奈良県ため池条例事件(最大判昭38.6.26、百選Ⅰ103)
・ため池の破損、結界の原因となるため池の堤とうの使用行為は、憲法でも、民法でも適法な財産権の行使としては保障されていないものであって、憲法、民法の保障する財産権の行使の埒外にあるものというべく、従って、これらの行為を条例をもって禁止、処罰しても憲法および法律に抵触又はこれを逸脱するものとはいえない
・ため池の堤とうを使用しうる財産権を有する者が当然受任しなければならない責務というべきものであって、憲法29条3項の損失補償はこれを必要としない
・事柄によっては、特定のまたは若干の地方公共団体の特殊な事情により、国において法律で一律に定めることが困難又は不適当なことがあり、その地方公共団体ごとに、その条例で定めることが、容易かつ適切なことがある。本件のような、溜池の保全の問題は、まさにこの場合に該当するというべきである
☆溜池の破損・結界の原因となるような、溜池の抵当を使用する行為を条例で規制しても違憲ではないし、ため池の堤とうをを使用する財産上の権利を有する者もこのような気勢を受忍しなければならない責務を負うのであるから、憲法29条3項の損失補償も必要としない
河川附近地制限令事件(最大判昭43.11.27、百選Ⅰ108)
・直接憲法29条3項を根拠にして、補償請求する余地がまったくない訳ではない
☆財産権を制限する法律が、損失補償が必要であるにもかかわらず、損失補償を認める規定を欠いていても、憲法29条3項に基づき損失補償を請求することができ、この場合、その法律自体は29条3項違反で無効とはならない
第11章 人身の自由
11-1 基本原則
最大判平23.11.16
・裁判員の職務等は、司法権の行使に対する国民の参加という点で参政権と同様の権限を国民に付与するものであり、これを「苦役」ということは必ずしも適切ではない
11-3 被告人の権利(36条〜39条)
高田事件(最大判昭47.12.20、百選Ⅱ121)
・憲法37条1項の保障する迅速な裁判を受ける権利は、憲法の保障する基本的な人権の一つであり、右条項は、単に迅速な裁判を一般的に保障するために必要な立法上および司法行政上の措置をとるべきことを要請するにとどまらず、さらに個々の刑事事件について、現実に右の保障に明らかに反し、審理の著しい遅延の結果、迅速な裁判を受ける被告人の権利が害されたと認められる異常な自体が生じた場合には、これに対処すべき具体的規定がなくても、もはや当該被告人に対する手続の続行を許さず、その審理を打ち切るという非常救済手段がとられるべきことをも認めている趣旨の規定であると解する
・具体的事件における審理の遅延が右の保障条項に反する事態に至っているか否かは、遅延の期間のみによって一律に判断されるべきではなく、遅延の原因と理由などを勘案して、その遅延がやむを得ないものと認められないかどうか、これにより右の保障条項が守ろうとしている諸利益がどの程度実際に害せられているかなど諸般の情況を総合的に判断して決せられなければならない
公判廷における被告人の自白と「本人の自白」(最大判昭23.7.29、百選ⅡA5)
・裁判所の面前でなされる自白は、被告人の発言、挙動、顔色、態度並びにこれらの変化等からも、その真実に合するか、否か、また、自発的な任意のものであるか、否かは、多くの場合において裁判所が他の証拠を待つまでもなく、自ら判断しうる物と言わなければならない
☆公判廷における被告人の自白は、憲法38条3項に規定する「本人の自白」には該当しないと解すべきである。その理由としては、被告人の発言、挙動、顔色、態度及びこれらの変化等からも、その自白が真実に合致するか、任意のものであるかなどを裁判所が判断しうることがあげられる
第12章 受益権
12-3 国家賠償請求権(17条)
郵便法違憲判決(最大判平14.9.11、百選Ⅱ133)
・憲法17条……の保障する国又は公共団体に対し損害賠償を求める権利については、法律による具体化を予定している。これは、公務員の行為が権力的な作用に属するものから非権力的な作用に属するものにまで及び、公務員の行為の国民への関わり方には種々多様なものがあり得ることから、国又は公共団体が公務員の行為による不法行為責任を負うことを原則とした上、公務員のどのような行為によりいかなる要件で損害賠償責任を負うかを立法府の政策判断にゆだねたものであって、立法府に無制限の裁量権を付与するといった法律に対する白紙委任を認めているものではない
・書留郵便について、郵便業務従事者の故意又は重大な過失によって損害が生じた場合に、不法行為に基づく国の損害賠償責任を免除し、又は制限している部分は、憲法17条が立法府に付与した裁量の範囲を逸脱したものであるといわざるを得ず、同条に違反し、無効であるというべきである。……特別送達郵便物について、郵便業務従事者の軽過失による不法行為に基づき損害が生じた場合に、国家賠償法に基づく国の損害賠償責任を免除し、又は制限している部分は、憲法17条に違反し、無効であるというべきである
・限られた人員と費用の制約の中で日々大量の郵便物をなるべく安い料金で、あまねく、公平に処理しなければならないという郵便事業の特質……から、法1条に定める目的を達成するため、郵便業務従事者の軽過失による不法行為に基づき損害が生じたにとどまる場合には、法68条、73条に基づき国の損害賠償責任を免除し、又は制限することは、やむを得ないものであり、憲法17条に違反するものではないということができる。しかしながら、……書留郵便物について、郵便業務従事者の故意又は重大な過失による不法行為に基づき損害が生ずるようなことは、通常の職務規範に従って業務執行がされている限り、ごく例外的な場合にとどまるはずであって、このような事態は、書留の制度に対する信頼を著しく損なうものといわなければならない。そうすると、このような例外的な場合にまで国の損害賠償責任を免除し、又は制限しなければ法1条に定める目的を達成することができないとは到底考えられず、郵便業務従事者の故意又は重大な過失による不法行為についてまで免責又は責任制限を認める規定に合理性があるとは認め難い。……法68条、73条の規定のうち、書留郵便物について、郵便業務従事者の故意又は重大な過失によって損害が生じた場合に、不法行為に基づく国の損害賠償責任を免除し、又は制限している部分は、憲法17条が立法府に付与した裁量の範囲を逸脱したものであるといわざるをえず、同条に違反し、無効であるというべきである
・特別送達郵便物の特殊性に照らすと、……郵便業務従事者の軽過失による不法行為から生じた損害の賠償責任を肯定したからといって、直ちに、その目的の達成が害されるということはできず、上記各条に規定する免責又は責任制限の規定を設けたことは、憲法17条が立法府に付与した裁量の範囲を逸脱したものであるといわなければならない。そうすると、……法68条、73条の規定のうち、特別送達郵便物について、郵便業務従事者の軽過失による不法行為に基づき損害が生じた場合に、国家賠償法に基づく国の損害賠償責任を免除し、又は制限している部分は、憲法17条に違反し、無効であるというべきである
☆憲法17条は、公務員の不法行為による国又は公共団体の損害賠償責任を免除又は制限する法律が立法権の裁量を逸脱したものである場合には、これを違憲無効とする効力を持つ規定である
☆国又は公共団体の行為が、いわゆる非権力的な管理作用に属する場合は、大日本帝国憲法下でも判例上民法709条以下の規定による不法行為責任がある程度まで認められていた。それゆえ、日本国憲法17条の意義は、権力作用に属する不法行為との関係で国家無答責の原則を否定し、国家の賠償責任を明記した点にあるということができる
第13章 社会権
13-2 生存権(25条)
朝日訴訟(最大判昭42.5.24、百選Ⅱ136)
☆朝日訴訟においては、生活保護法に基づく生活扶助を廃止するとともに医療扶助を変更する旨の保護変更決定について、生活保護法自体が憲法25条1項に違反するとして争われたのではなく、保護変更決定について認容した厚生大臣の裁決自体の裁量権の逸脱・濫用が争われた
塩見訴訟(最判平元.3.2、百選Ⅰ6)
・社会保障上の施策において在留外国人をどのように処遇するかについては、国は、特別の条約の存しない限り、……その政治的判断によりこれを決定することができるのであり、その限られた財源の下で福祉的給付を行うに当たり、自国民を在留外国人より優先的に扱うことも、許される
・国民年金法81条1項の障害福祉年金の給付に関しては、廃疾の認定日に日本国籍がある者とそうでない者との間に区別が設けられているが、……右障害福祉年金の給付に関し、自国民を在留外国人に優先させることとして在留外国人を支給対象者から除くこと、また廃疾の認定日である制度発足時……において日本国民であることを受給資格要件とすることは立法府の裁量の範囲に属する事柄というべきであるから、右取扱の区別については、その合理性を否定することができず、これを憲法14条1項に違反するものということはできない
☆限られた財源の下で福祉的給付を行うに当たり、国が自国民を在留外国人よりも優先的に扱うことは許される。特別永住者について障害福祉年金の支給対象から一切除外することも、不合理な差別とはならない。
学生無年金障害者訴訟(最判平19.9.28、百選Ⅱ139)
☆国民年金制度は、憲法25条の趣旨を実現するために設けられた社会保障上の制度であるところ、同条の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を講じるかの選択決定は、立法府の広い裁量にゆだねられており、それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱、濫用とみざるを得ないような場合を除き、裁判所が審査判断するのに適しない事柄であるといわなければならない。もっとも、同条の趣旨にこたえて制定された法令に置いて受給権者の範囲、支給要件等につき何ら合理的理由のない不当な差別的取扱いをするときは別に憲法14条違反の問題を生じうることは否定し得ない
最判平26.7.18(重判平26憲法11)
・旧生活保護法は、その適用の対象につき「国民」であるか否かを区別していなかったのに対し、現行の生活保護法は、1条及び2条において、その適用の対象につき「国民」と定めたものであり、このように同法の適用の対象につき定めた上記各条にいう「国民」とは日本国民を意味するものであって、外国人はこれに含まれないものと解される
・現行の生活保護法が制定された後、現在に至るまでの間、同法の適用を受ける者の範囲を一定の範囲の外国人に拡大するような法改正は行われておらず、同法上の保護に関する規定を一定の範囲の外国人に準用する旨の法令も存在しない。したがって、生活保護法を始めとする現行法令上、生活保護法が一定の範囲の外国人に適用され又は準用されると解すべき根拠は見当たらない
☆生活保護法の適用対象となる「国民」には永住外国人は含まれない
13-5 労働基本権(28条)
三井美唄炭鉱事件(最大判昭43.12.4、百選Ⅱ149)
・労働組合は、その目的を達成するために必要であり、かつ、合理的な範囲内において、その組合員に対する統制権を有する
・労働組合が行使し得べき組合員に対する統制権には、当然、一定の限界が存する
・組合員に対し、勧告または説得の域を超え、立候補を取りやめることを要求し、これに従わないことを理由に当該組合員を統制違反者として処分するがごときは、組合の統制権の限界を超えるものとして、違法と言わなければならない
・憲法15条1項には、被選挙権者、特にその立候補の自由について、直接には規定していないが、これもまた、同条同項の保障する重要な基本的人権の一つと解すべきである
・立候補の自由は、選挙権の自由な行使と表裏の関係にあり、自由かつ公正な選挙を維持するうえで、きわめて重要である
☆労働組合が統制権に基づいて組合員を除名した処分にも司法審査が及ぶ
☆いわゆる立候補の自由は、選挙権の行使と表裏の関係にあり、自由かつ公正な選挙を維持する上で極めて重要であるとして、憲法15条1項によって保障されていると解すべきである
☆憲法28条が保障する労働基本権は、使用者との関係において労働者の権利を保護することを目的の一つとするので、私人相互の関係でも意味を持ち、契約自由の原則は制限されることになる。
第14章 参政権
14-2 選挙権(15条1項)
在外邦人選挙権制限違憲訴訟(最判平17.9.14、百選Ⅱ152)
・国民の代表者である議員を選挙によって選定する国民の権利は、国民の国政への参加の機会を保障する基本的権利として、議会制民主主義の根幹を成すものであり、民主国家においては、一定の年齢に達した国民のすべてに平等に与えられるべきものである
・自ら選挙の公正を害する行為をした者等の選挙権について一定の制限をすることは別として、国民の選挙権又はその行使を制限することは原則として許されず、国民の選挙権又はその行使を制限するためには、そのような制限をすることがやむを得ないと認められる事由がなければならない
・憲法は、……15条1項において、公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利であると定めて、国民に対し、主権者として、両議院の議院の選挙において投票することによって国の政治に参加することができる権利を保障している
・遅くとも、本判決言渡し後に初めて行われる衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙の時点においては、衆議院小選挙区選出議員の選挙及び参議院選挙区選出議員の選挙について在外国民に投票をすることを認めないことについて、やむをえない事由があるということはできず、公職選挙法附則8項の規定のうち、在外選挙制度の対象となる選挙を当分の間両議院の比例代表選出議員の選挙に限定する部分は、憲法15条1項及び3項、43条1項並びに44条ただし書に違反する
・国会議員の立法行為又は立法不作為が同項の適用上違法となるかどうかは、国会議員の立法過程における行動が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかの問題であって、当該立法の内容又は立法不作為の違憲性の問題とは区別されるべきであり、仮に当該立法の内容又は立法不作為が憲法の規定に違反するものであるとしても、そのゆえに国会議員の立法行為又は立法不作為が直ちに違法の評価を受けるものではない。しかしながら、立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や、国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり、それが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには、例外的に、国会議員の立法行為又は立法不作為は、国家賠償法1条1項の規定の適用上、違法の評価を受けるものというべきである。最高裁昭和……60年11月21日第一小法廷判決(重度身障者在宅投票制度廃止の立法不作為国賠請求事件)……は、以上と異なる趣旨をいうものではない
・在外国民であった上告人らも国政選挙において投票をする機会を与えられることを憲法上保障されていたのであり、この権利行使の機会を確保するためには、在外選挙制度を設けるなどの立法措置を執ることが必要不可欠であったにもかかわらず、前記事実関係によれば、昭和59年に在外国民の投票を可能にするための法律案が閣議決定されて国会に提出されたものの、同法律案が廃案となった後本件選挙の実施に至るまで10年以上の長きにわたって何らの立法措置もとられなかったのであるから、このような著しい不作為は上記の例外的な場合に当たり、このような場合においては、過失の存在を否定することはできない。このような立法不作為の結果、上告人らは本件選挙において投票をすることができず、これによる精神的苦痛を被ったものというべきである。したがって、本件においては、上記の違法な立法不作為を理由とする国家賠償請求はこれを認容すべきである
☆前記判決は、国政選挙の選挙権について「国民の国政への参加の機会を保障する基本的権利として議会制民主主義の根幹を成すものであり、民主国家においては、一定の年齢に達した国民の全てに平等に与えられるべきものである」と指摘しているが、同判決の考え方に従ったとしても、自ら選挙の公正を害する行為をした者の選挙権について一定の制限をすることまで違憲となるわけではない
☆前記判決に従うと、衆議院小選挙区選出議員の選挙及び参議院選挙区選出議員の選挙における在外日本国民の選挙権の行使を制限することも違憲となる
☆前記判決は、立法不作為を理由とする国家賠償請求も認めた
重度身障者在宅投票制度廃止の立法不作為国賠請求事件(最判昭60.11.21、百選Ⅱ197)
・国会議員は、立法に関しては、原則として、国民全体に対する関係で政治的責任を負うにとどまり、個別の国民の権利に対応した関係での法的作為義務を負うものではないというべきであって、国会議員の立法行為は、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うというごとき、容易に想定し難いような例外的な場合でない限り、国家賠償法1条1項の規定の適用上、違法の評価を受けないものといわなければならない
最大判昭30.2.9(百選Ⅱ151)
・国民主権を宣言する憲法の下において、公職の選挙権が国民の最も重要な基本的権利の一である
・それだけに選挙の公正はあくまでも厳粛に保持されなければならないのであって、一旦この公正を阻害し、選挙に関与せしめることが不適当とみとめられるものは、しばらく、被選挙権、選挙権の行使から遠ざけて選挙の公正を確保するとともに、本人の反省を促すことは相当であるからこれを以て不当に国民の参政権を奪うものというべきではない
第15章 国民の義務
☆憲法26条2項前段は、国民がその保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負うことを定めている。これは、同条1項が保障する子どもの教育を受ける権利の保障に対応したものであって、子ども自身に教育を受ける義務を負わせるものではない
※憲法27条1項を根拠として、法律の定めにより、刑罰をもって勤労を強制することは許されない
☆憲法30条は、国民の納税義務を定めている。この規定は、国家の存立に不可欠な財政を支えるという国民としての当然の義務を確認するとともに、その義務の具体化には法律の定めが必要であるとしたものである。
第3部 統治機構
第16章 権力分立の原理(41条・65条・76条1項)
第17章 国会
17-1 国会の地位
☆小選挙区選出の衆議院議員について、政党の方針に反したことを理由として除名された場合に議員の身分を当然喪失するとの制度を設けることは、違憲と解される
最大判平23.3.23(百選Ⅱ158)
・1人別枠方式がこのような選挙区間の投票価値の較差を生じさせる主要な要因となっていた
・本件選挙次においては、本件選挙制度導入後の最初の総選挙が平成8年に実施されてから既に10年以上を経過しており、その間に、区画審設置法所定の手続に従い、同12年の国政調査の結果を踏まえて同14年の選挙区の開廷が行われ、更に同17年の国勢調査の結果を踏まえて見直しの検討がされたが選挙区の開廷を行わないこととされており、既に上記改定後の選挙区の下で2回の総選挙が実施されていたなどの事情があったものである。これらの事情に鑑みると、本件選挙制度は定着し、安定した運用がされるようになっていたと評価することができるのであって、もはや1人別枠方式の上記のような合理性は失われていたものというべきである
・新しい選挙制度を導入するにあたり、直ちに人口比例のみに基づいて各都道府県への定数の配分を行った場合には、人口の少ない権における定数が急激かつ大幅に削減されることになるため、国政における安定性、連続性の確保を図る必要があると考えられたこと、何よりもこの点への配慮なくしては選挙制度の改革の実現自体が困難であったと認められる状況の下で採られた方策であるということにあるものと解される。そうであるとすれば、1人別枠方式は、おのずからその合理性に時間的な限界があるものというべきであり、新しい選挙制度が定着し、安定した運用がされるようになった段階においては、その合理性は失われるものというほかはない
・本件選挙次において、本件区割基準規定の定める本件区割基準のうち1人別枠方式に係る部分は、憲法の投票価値の平等の要求に反するに至っており、同基準に従って開廷された本件区割規定の定める本件選挙区割も、憲法の投票価値の平等の要求に反するに至っていたものではあるが、いずれも憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえず、本件区割基準規定及び本件区割規定が憲法14条1項等の憲法の規定に違反するものということはできない
最大判平24.10.17(百選Ⅱ155)
・国民の意思を適正に反映する選挙制度が民主政治の基盤であり、投票価値の平等が憲法上の要請であることや、さきに述べた国政の運営における参議院の役割(立法を始めとする多くの事柄について参議院にも衆議院とほぼ等しい権限を与え、参議院議院の任期をより長期とすることによって、多角的かつ長期的な支店からの民意を反映し、衆議院との権限の抑制、均衡を図り、国政の運営の安定性、継続性を確保しようとしたもの)に照らせば、より適切な民意の反映が可能となるよう、単に一部の選挙区の定数を増減するにとどまらず、都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなど、現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置を公示、できるだけ速やかに意見の問題が生ずる前記の不平等状態を解消する必要がある
・現行の選挙制度は、限られた総定数の枠内で、半数改選という憲法上の要請を踏まえた偶数配分を前提に、都道府県を単位として各選挙区の定数を定めるという仕組みをとっているが、人口の都市部への集中による都道府県間の人口格差の拡大が続き、総定数を増やす方法を採ることにも制約がある中で、このような都道府県を欠く選挙区の単位とする仕組みを維持しながら投票価値の平等の実現を図るという要求に答えていくことは、もはや著しく困難な状況に至っている
☆議院の資格争訟の裁判について規定している55条は、議院資格に関する判断を議院の自律的な審査に委ねる趣旨のものであり、各議院の下した議院資格に関する判断について裁判所で争うことはできない
☆議院の懲罰について規定している58条2項は、議院がその組織体としての秩序を維持し、その機能の運営を円滑ならしめるためのものであるため、議場内に限らず、議場外の行為でも懲罰の対象となるが、会議の運営と関係のない個人的行為は懲罰の対象とならない
17-2 国会の組織と活動
☆政党国家とは、政党が国の政治的意思形成過程に重要な役割を果たすようになった現象をいうが、そのような現象は、政党が広く国民と議会を媒介する組織として発達した段階に生じた
☆政治過程の腐敗・歪曲を防止し、民主政治の健全な発展を図るため、正当の活動資金の適切性・透明性が確保されるよう法律で規律しても、憲法に抵触することにはならない
☆政党に対する公的助成を行う場合、法律により、政党の役員・党員等の名簿、活動計画書を提出させた上で政党の設立を許可する制度を設けることは、違憲となりうる
☆両議院の会議は公開が原則であり、本会議については傍聴が認められているほか、その記録は公表され、かつ一般に頒布されなければならない。ただし、出席議員の3分の2以上の多数で議決したときは秘密会を開くことができる。
☆両議院は、それぞれ独立して活動し、独立して意思決定を行うのが原則である。ただし、両議院の議決が異なった場合に必要的又は任意的に開かれる両院協議会は、各議院において選挙された委員によって構成される。
☆衆議院が解散されると参議院は同時に閉会となり、国会は機能を停止するのが原則であるが、その例外が参議院の緊急集会である。ただし、そこで採られた措置は、次の国会開会の後10日以内に衆議院の同意が得られない場合、将来に向かって効力を失う。
衆議院小選挙区比例代表並立制の合憲性(最大判平11.11.10、百選Ⅱ157)
・選挙運動をいかなる者にいかなる態様で認めるかは、選挙制度の仕組みの一部を成すものとして、国会がその裁量により決定することができるものというべきである。
・小選挙区選挙においては、候補者のほかに候補者届出政党にも選挙運動を認めることとされているのであるが、政党その他の政治団体にも選挙運動を認めること自体は、選挙制度を政策本位、政党本位のものとするという国会が正当に考慮しうる政策的目的ないし理由によるものであると解されるのであって、十分合理性を是認しうるのである
・候補者届出政党にのみ政見放送を認めることが、国会の合理的裁量の限界を超えているということはできない
・政見放送は選挙運動の一部を那須にすぎず、その余の選挙運動については候補者届出政党に所属しない候補者も十分に行うことができるのであって、その政見などを選挙人に訴えるのに不十分とはいえないことに照らせば、政見放送が認められないことの一事をもって、選挙運動に関する規定における候補者間の差異が合理性を有するとは到底考えられない程度に達しているとまでは断定し難い
☆選挙運動の規律は、選挙制度の仕組みの一部をなすものとして、国会が裁量により定めることができる。衆議院の小選挙区選挙において、候補者以外に候補者届出政党にも独自の選挙運動が認められているのは、選挙制度を政策本位、政党本位にするという正当な政策的目的によるものといえる
☆衆議院と参議院を比較すると、衆議院の方が議員の任期が短く、また解散により必要な場合には民意を問える地位にある点で、相対的に見て、その時々の民意をより反映しているといえることが衆議院優越の根拠であると解される
☆衆議院が可決した法律案を参議院が可決しなかった場合には、衆議院が出席議員の3分の2以上の多数で再び可決して法律として成立させることができる。両院協議会の開催は任意的である
☆憲法は条約について、内閣が締結権を有するとしながらも、国会による承認を経ることを求めている。条約について、衆議院は先議権を持たない
17-3 国会議員の特権
☆不逮捕特権を定める目的が議院の審議権の確保にあるとする見解に立つと、国会議員に対する逮捕請求の理由が正当であっても、議院は、議員の逮捕を許諾しないことができる
☆免責特権を定める目的が議員の職務執行の自由の保障にあるとする見解に立つと、地方公聴会における行為まで免責の対象となる
☆免責特権の趣旨は、議院内で行った発言を理由に院外で法的責任を問われないというものであり、その発言を理由に所属政党から除名されることはある
第18章 内閣
18-2 内閣の組織(66条1項)
☆大日本帝国憲法において内閣総理大臣は同輩中の主席にすぎなかったのに対し、日本国憲法が内閣総理大臣に首長としての地位を認め、その権限を強化しているのは、内閣の一体性と統一性を確保し、内閣の国会に対する連帯責任の強化を図るものである。
ロッキード事件(最大判平7.2.22、百選Ⅱ180)
・内閣総理大臣が行政各部に対し指揮監督権を行使するためには、閣議にかけて決定した方針が存在することを要するが、閣議にかけて決定した方針が存在しない場合においても、内閣総理大臣の……地位及び権限に照らすと、流動的で多様な行政需要に遅滞なく対応するため、内閣総理大臣は、少なくとも、内閣の明示の意思に反しない限り、行政各部に対し、随時、その所掌事務について一定の方向で処理するよう指導、助言等の指示を与える権限を有する
☆判例によれば、内閣総理大臣は、閣議にかけて決定した方針が存在しない場合においても、少なくとも内閣の明示の意思に反しない限り、行政各部に対し、随時その所掌事務について一定の方向で処理するよう指導、助言等の指示を与える権限を有する
☆内閣は、憲法73条1号により法律を執行する義務を負うから、たとえ内閣が違憲と判断する法律であっても、その法律を執行しなければならない。しかし、最高裁判所が違憲と判断した場合、国会がその法律を改廃しなかったとしても、その執行をしなくてもよい。
☆憲法65条1項は、「行政権は、内閣に属する」と規定している。行政権とは全ての国家作用のうちから立法作用と司法作用を除いた残りの作用であるとしても、立法作用と司法作用以外の全ての国家作用について内閣が自ら行う必要はない
☆内閣は、行政権の行使につき、国会に対し連帯して責任を負う。これは、特定の国務大臣がその所管事項に関して単独の責任を負うことを否定するものではなく、個別の国務大臣に対する衆議院及び参議院の問責決議も認められるが、それらには法的効力はない。
☆内閣総理大臣は、内閣という合議体において、単なる同輩中の主席ではなく、首長の立場にあり、その他の国務大臣の任免権を専権として有する。しかし、文民統制の観点から、内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない
63条
・内閣総理大臣その他の国務大臣は、両議院の一に議席を有すると有しないとにかかはらず、何時でも議案について発言するため議院に出席することができる。又、答弁又は説明のため出席を求められたときは、出席しなければならない。
第19章 裁判所
19-2 司法権
共産党袴田事件(最判昭63.12.20、百選Ⅱ189)
・政党は、政治上の信条、意見等を共通にする者が任意に結成する政治結社であって、内部的には、通常、自律的規範を有し、その成員である党員に対して政治的忠誠を要求したり、一定の統制を施すなどの自治権能を有するものであり、国民がその政治的意思を国政に反映させ実現させるための最も有効な媒体であって、議会制民主主義を支える上においてきわめて重要な存在であるということができる。したがって、各人に対して、政党を結成し、又は政党に加入し、若しくはそれから脱退する自由を保障するとともに、政党に対しては、高度の自主性と自律性を与えて自主的に組織運営をなしうる自由を保障しなければならない
・政党の結社としての自主性にかんがみると、政党の内部的自律権に属する行為は、法律に特別の定めのない限り尊重すべきであるから、政党が組織内の自律的運営として党員に対してした除名その他の処分の当否については、原則として自律的な解決に委ねるのを相当とし、したがって、政党が党員に対してした処分が一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り、裁判所の審判権は及ばないというべきであり、他方、右処分が一般市民としての権利利益を侵害する場合であっても、右処分の当否は、当該政党の自律的に定めた規範が公序良俗に反するなどの特段の事情のない限り右規範に照らし、右規範を有しないときは条理に基づき、適性な手続に則ってされたか否かによって決すべきであり、その審理も右の点に限られる
☆政党は、政治上の信条、意見等を共通にする者が任意に結成するものであって、党員に対して政治的忠誠を要求し、一定の統制を施すなどの自治権能を有する
☆政党は、内部的自律権を有し、政党が組織内の自律的運用として党員に対してした除名等の処分の当否については、原則として政党による自律的な解決に委ねられる
☆政党の処分が党員の一般市民としての権利利益への侵害となり得る場合においても、その処分の当否の司法審査は、政党の自律的に定めた規範が公序良俗に反するなどの特段の事情のない限り、その規範に照らし適正な手続きにのっとってされたかどうかの範囲で行われる
☆憲法82条1項の「公開」とは、訴訟関係人に審理に立ち会う権利と機会を与えることを意味するのではなく、国民に公開されるという一般公開を意味する
☆憲法は、裁判は、公開法廷でこれを行う旨を定めているが、対審又は判決以外のすべての裁判手続を、公開しなければならないわけではない
☆裁判手続の核心的部分をなす「対審」とは、訴訟当事者が裁判官の面前で、口頭でそれぞれの主張を闘わせることを意味する
☆裁判官の罷免に関し弾劾裁判所の裁判の結果に不服がある場合に、最高裁判所に訴えることができるとする法律を制定することは憲法に違反する
☆行政機関の認定した事実はこれを立証する実質的証拠があるときには裁判所を拘束すると定めた法律は、その実質的証拠の有無は裁判所が判断するとの規定があれば憲法に違反しない
☆「行政機関は終審として裁判を行うことができない」とされているが、ある行政機関が認定した事実は、これを立証する実質的な証拠があるときには、裁判所を拘束する、というようなルールを設けたとしても、それは憲法違反にならず、独占禁止法で採用されている
☆特定の種類の事件だけを扱う裁判所を設置しても、その裁判所の裁判の結果に不服がある場合に、最高裁判所に上訴できるのであれば憲法に違反しない
「板まんだら」事件(最判昭56.4.7、百選Ⅱ190)
・本件訴訟は、具体的な権利義務ないし法律関係に関する紛争の形式をとっており、その結果信仰の対象の価値又は宗教上の教義に関する判断は請求の当否を決するについての前提問題であるにとどまるものとされてはいるが、本件訴訟の帰趨を左右する必要不可欠のものと認められ、また、記録にあらわれた本件訴訟の経過に徴すると、本件訴訟の争点及び当事者の主張立証も右の判断に関するものがその核心となっていると認められることからすれば、結局本件訴訟は、その実質において法令の適用による終局的な解決の不可能なものであって、裁判所法3条にいう法律上の訴訟にあたらないものといわなければならない
苫米地事件(最大判昭35.6.8、百選Ⅱ196)
・日本国憲法は、立法、行政、司法の三権分立の制度を確立し、司法権はすべて裁判所の行うところとし(憲法76条1項)、また裁判所法は、裁判所は一切の法律上の争訟を裁判するものと規定し(裁判所法3条1項)、これによって、民事、刑事のみならず行政事件についても、事項を限定せずいわゆる概括的に司法裁判所の管轄に属するものとせられ、さらに憲法は一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを審査決定する権限を裁判所に与えた(憲法81条)結果、国の立法、行政の行為は、それが法律上の争訟となるかぎり、違憲審査を含めてすべて裁判所の裁判権に服することとなったのである
・わが憲法の三権分立の制度の下においても、司法権の行使についておのずからある限度の制約は免れないのであって、あらゆる国家行為が無制限に司法審査の対象となるものと即断すべきでない。直接国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為のごときはたとえそれが法律上の争訟となり、これに対する有効無効の判断が法律上可能である場合であっても、かかる国家行為は裁判所の審査権の外にあり、その判断は主権者たる国民に対して政治的責任を負うところの政府、国会等の政治部門の判断に委され、最終的には国民の政治判断に委ねられているものと解すべきである。この司法権に対する制約は、結局、三権分立の原理に由来し、当該国家行為の高度の政治性、裁判所の司法機関としての性格、裁判に必然的に随伴する手続上の制約等にかんがみ、特定の明文による規定はないけれども、司法権の憲法上の本質に内在する制約と理解すべきものである
☆衆議院の解散が無効であることを前提とする訴訟は、法律上の争訟に該当するが、直接国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為の当否についてはもっぱら国民の政治判断にゆだねられるべきものであり、性質上司法審査の対象から除外される
警察法改正無効事件(最大判昭37.3.7、百選Ⅱ186)
・警察法は、両院において議決を経たものとされ適法な手続によって公布されている以上、裁判所は両院の自主性を尊重すべく同法制定の議事手続に関する所論のような事実を審理してその有効無効を判断すべきでない
☆警察法改正無効事件判決は、警察法改正が衆参両院において議決を経たとされ、適法な手続で公布されている以上、裁判所は両院の自主性を尊重すべきであり、議事手続に関する事実を審理してその有効無効を判断すべきでないとしたものである。
富山大学事件(最判昭52.3.15、百選Ⅱ188)
・大学は、国公立であると私立であるとを問わず、学生の教育と学術の研究とを目的とする教育研究施設であって、その設置目的を達成するために必要な諸事項については、法令に格別の規定がない場合でも、学則等によりこれを規定し、実施することのできる自律的、包括的な権能を有し、一般市民社会とは異なる特殊な部分社会を形成しているのであるから、このような特殊な部分社会である大学における法律上の係争のすべてが当然に裁判所の司法審査の対象になるものではなく、一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題は右司法審査の対象から除かれるべきものである
・単位の授与(認定)という行為は、学生が当該授業科目を履修し試験に合格したことを確認する教育上の措置であり、卒業の要件をなすものではあるが、当然に一般市民法秩序と直接の関係を有するものでないことは明らかである。それゆえ、単位授与(認定)行為は、他にそれが一般市民法秩序と直接の関係を有するものであることを是認するに足りる特段の事情のない限り、純然たる大学内部の問題として大学の自主的、自律的な判断に委ねられるべきものであって、裁判所の司法審査の対象にはならないものと解するのが、相当である
・学生が専攻科修了の要件を充足したにもかかわらず大学が専攻科修了の認定をしないときは、学生は専攻科を終了することができず、専攻科入学の目的を達することができないのであるから、国公立の大学において右のように大学が専攻科修了の認定をしないことは、実質的にみて、一般市民としての学生の国公立大学の利用を拒否することにほかならないものというべく、その意味において、学生が一般市民として有する公の施設を利用する権利を侵害するものであると解するのが、相当である。されば、本件専攻科修了の認定、不認定に関する争いは司法審査の対象になる
議員懲罰の司法審査(最大判昭35.10.19、百選Ⅱ200)
・自律的な法規範をもつ社会ないしは団体にあっては、当該規範の実現を内部規律の問題として自治的措置に任せ、必ずしも、裁判に待つを適当としないものがある
・本件における出席停止の如き懲罰はまさにそれに該当するものと解するを相当とする。(尤も昭和35年3月9日大法廷判決は議院の除名処分を司法裁判の権限内の事項としているが、右は議院の除名処分の如きは、議員の身分の喪失に関する重大事項で、単なる内部規律の問題にとどまらないからであって、本件における議員の出席停止の如く議員の権利行使の一時的制限にすぎないものとは自ら趣を異にしているのである。従って、前者を司法裁判権に服させても、後者については別途に考慮し、これを司法裁判権の対象から除き、当該自治団体の自治的措置に委ねるを適当とするのである)
19-4 司法権の独立(76条3項)
寺西判事補事件(最大決平10.12.1、百選Ⅱ183)
・裁判所法52条1号が裁判官の積極的な政治運動を禁止しているのは、……裁判官の独立及び中立・公正を確保し、裁判に対する国民の信頼を維持するとともに、三権分立主義の下における司法と立法、行政とのあるべき関係を規律することにその目的があると解されるのであり、右目的の重要性及び裁判官は単独で又は合議体の一因として司法権を行使する主体であることにかんがみれば、裁判官に対する政治運動禁止の要請は、一般職の国家公務員に対する政治的行為禁止の要請より強いものというべきである
☆裁判官による積極的な政治運動の禁止の目的は、裁判官の独立及び中立・公正の確保に対する国民の信頼の維持、そして司法と立法・行政とのあるべき関係を規律することでもあるので、その要請は、一般職の国家公務員に対する政治的行為の禁止の要請よりも強いものというべきである。
第20章 財政
20-1 財政の基本原則
神奈川県臨時特例企業税事件(最判平25.3.21、百選Ⅱ208)
・普通地方公共団体は、地方自治の本旨に従い、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有するものであり、その本旨に従ってこれらを行うためにはその財源を自ら調達する権能を有することが必要であることからすると、普通地方公共団体は、地方自治の不可欠の要素として、……国とは別途に課税権の主体となることが憲法上予定されている……。しかるところ、憲法は、普通地方公共団体の課税権の具体的内容について規定しておらず、普通地方公共団体の組織及び運営に関する事項は法律でこれを定めるものとし(92条)、普通地方公共団体は法律の範囲内で条例を制定することができるものとしていること(94条)、さらに、租税の賦課については国民の税負担全体の程度や国と地方の間ないし普通地方公共団体相互間の財源の配分等の観点からの調整が必要であることに照らせば、普通地方公共団体が課することができる租税の税目、課税客体、課税標準、税率その他の事項については、憲法上、租税法律主義(84条)の原則の下で、法律において地方自治の本旨を踏まえてその準則を定めることが予定されており、これらの事項について準則が定められた場合には、普通地方公共団体の課税権は、これに従ってその範囲内で行使されなければならない
☆租税の賦課は法律又は法律の定める条件によらなければならないが、条例は公選の議員で組織する議会の議決を経て制定される自治立法であるから、一定の範囲内で条例による租税の賦課徴収ができる
パチンコ球遊機事件(最判昭33.3.28、百選Ⅱ202)
・通達課税による憲法違反を云為しているが、本件の課税がたまたま所論通達機縁として行われたものであっても、通達の内容が法の正しい解釈に合致するものである以上、本件課税処分は法の根拠に基づく処分と解するに妨げがなく合憲である
旭川市国民健康保険条例事件(最大判平18.3.1、百選Ⅱ203)
・国又は地方公共団体が、課税権に基づき、その経費に充てるための資金を調達する目的をもって、特別の給付に対する反対給付としてでなく、一定の要件に該当するすべての者に対して課する金銭給付は、その形式のいかんにかかわらず、憲法84条に規定する租税に当たるというべきである。市町村が行う国民健康保険の保険料は、これと異なり、被保険者において保険給付を受けうることに対する反対給付として徴収されるものである。……したがって、上記保険料に憲法84条の規定が直接に適用されることはない。
・もっとも、憲法84条は、課税要件及び租税の賦課徴収の手続が法律で明確に定められるべきことを規定するものであり、直接的には、租税について法律による規律の在り方を定めるものであるが、同条は、国民に対して義務を課し又は権利を制限するには法律の根拠を要するという法原則を租税について厳格化した形で明文化したものというべきである。したがって、国、地方公共団体等が賦課徴収する税以外の公課であっても、その性質に応じて、法律又は法律の範囲内で制定された条例によって適切な規律がされるべきものと解すべきであり、憲法84条に規定する租税ではないという理由だけから、そのすべてが当然に同条に現れた上記のような法原則の埒外にあると判断することは相当ではない。そして、租税以外の公課であっても、賦課徴収の強制の度合い等の点において租税に類似する性質を有するものについては、憲法84条の趣旨が及ぶと解すべきであるが、その場合であっても、租税以外の公課は、租税とその性質が共通する点や異なる点があり、また、賦課徴収の目的に応じて多種多様であるから、賦課要件が法律又は条例にどの程度明確に定められるべきかなどその規律の在り方については、当該公課の性質、賦課徴収の目的、その強制の度合い等を総合考慮して判断すべきものである。市町村が行う国民健康保険は、保険料を徴収する方式のものであっても、強制加入とされ、保険料が強制徴収され、賦課徴収の強制の度合いにおいては租税に類似する性質を有するものであるから、これについても憲法84条の趣旨が及ぶと解すべきである
☆国会は、予算の議決に際し、減額修正を行うことができ、予算の款や項目を削除することも許される
☆予算が新年度の開始前に成立しない場合には、内閣は、一会計年度のうちの一定期間に係る暫定予算を編成し、国会の議決を経て執行することができる
☆決算は、予算執行者である内閣の責任を明らかにするとともに、将来の財政計画等に資するために必要とされるものであり、予算と異なり法規範性を有しない
第21章 地方自治
21-1 地方自治の意義
特別区と憲法上の地方公共団体(最大判昭38.3.27、百選Ⅱ207)
・地方公共団体といい得るためには、単に法律で地方公共団体として取り扱われているということだけでは足らず、事実上住民が経済的文化的に密接な共同生活を営み、共同体意識をもっているという社会的基盤が存在し、沿革的にみても、また現実の行政の上においても、相当程度の自主立法権、自主行政権、自主財政権等地方自治の基本的権能を附与された地域団体であることを必要とするものというべきである。
・憲法が特に一章を設けて地方自治を保障するにいたった所以のものは、新憲法の基調とする政治民主化の一環として、住民の日常生活に密接な関連をもつ公共的事務は、その地方の住民の手でその住民の団体が主体となって処理する政治形態を保障せんとする趣旨に出たものである
条例における罰則(最大判昭37.5.30、百選Ⅱ215)
・条例によって刑罰を定める場合には、法律の授権が相当な程度に具体的であり、限定されておればたりると解するのが正当である
・憲法31条はかならずしも刑罰がすべて法律そのもので定められなければならないとするものでなく、法律の授権によってそれ以下の法令によって定めることもできると解すべきで、このことは憲法73条6号ただし書によっても明らかである
・条例は、法律以下の法令といっても、……公選の議員をもって組織する地方公共団体の議会の議決を経て制定される自治立法であって、行政府の制定する命令等とは性質を異にし、むしろ国民の公選した議員をもって組織する国会の議決を経て制定される法律に類するものであるから、条例によって刑罰を定める場合には、法律の授権が相当な程度に具体的であり、限定されておればたりる
☆条例は、公選の議院をもって組織する地方公共団体の議会の議決を経て制定される自治立法であって、国会の議決を経て制定される法律に類するものであるが、条例で罰則を定める場合にも、法律の授権は必要となる
地方自治法94条
・町村は、条例で、……議会を置かず、選挙権を有する者の総会を設けることができる。
第4部 憲法保障
第22章 憲法保障の諸累計
第23章 違憲審査制と憲法訴訟
23-2 違憲審査の主体と対象
沖縄代理署名訴訟(最大判平8.8.28、百選Ⅱ173)
・日米安全保障条約及び日米地位協定が違憲無効であることが一見極めて明白でない以上、裁判所としては、これが合憲であることを前提として駐留軍用地特措法の憲法適合性についての審査をすべきである
・国が条約に基づく国家としての義務を履行するために必要かつ合理的な行為を行うことが憲法前文、9条、13条に違反するというのであれば、それは当該条約自体の違憲をいうに等しいことになる
☆日米安全保障条約及び日米地位協定が違憲無効であることが一見極めて明白でない以上、裁判所としては、これが合憲であることを前提として、これらの条約を履行するために制定された、いわゆる駐留軍用地特措法の合憲性を審査すべきである
☆裁判所はいわゆる客観訴訟において違憲審査を行う権限をも有する
最大判昭25.2.1
・憲法は国の最高法規であってその条規に反する法律命令等はその効力を有せず、裁判官は憲法及び法律に拘束せられ、また憲法を尊重し擁護する義務を負うことは憲法の明定するところである。従って、裁判官が、具体的訴訟事件に法令を適用して裁判するに当たり、その法令が憲法に適合するか否かを判断することは、憲法によって裁判官に課せられた職務と職権であって、このことは最高裁判所の裁判官であると下級裁判所の裁判官であるとを問わない。憲法81条は、最高裁判所が違憲審査権を有する終審裁判所であることを明らかにした規定であって、下級裁判所が違憲審査権を有することを否定する趣旨をもっているものではない
☆憲法は国の最高法規であってこれに反する法律命令等はその効力を有さず、裁判官は憲法及び法律に拘束され、憲法を尊重擁護する義務を負う。したがって、最高裁判所にかぎらず下級裁判所の裁判官も違憲審査の権限を有する
最大判昭23.7.8(百選Ⅱ195)
・憲法81条の「処分」は、英訳憲法として発表されているものにおいてはオフィシアル・アクトと表現されている。オフィシアル・アクトとは統治機関の行為の意味であって行政機関の行政処分も司法機関の裁判行為も共に含まれている
☆憲法81条が「一切の法律、命令、規則又は処分」という場合の「処分」とは、統治機関の行為の意味である。したがって、これには行政機関の行政処分のみならず、裁判所の判決も含まれる
23-3 訴訟要件
第三者所有物没収事件(最大判昭37.11.28、百選Ⅱ112事件)
・第三者の所有物を没収する場合において、その没収に関して当該所有者に対し、何ら告知、弁解、防禦の機会を与えることなく、その所有権を奪うことは、著しく不合理であって、憲法の容認しないところである
・かかる没収の言渡を受けた被告人は、たとえ第三者の所有物に関する場合であっても、被告人に対する附加刑である以上、没収の裁判の違憲を理由として上告をなしうることは当然である
・所有物を没収せられる第三者についても、告知、弁解、防御の機会を与えることが必要である
☆第三者の所有物を没収する言渡しを受けた被告人は、当該第三者の権利を援用して、所有者に対し何ら告知、弁解、防御の機会を与えることなくその所有権を奪うことは憲法に違反する旨主張することができる
☆密輸に用いられた船舶、物品が被告人以外の第三者の所有物である場合、所有者たる第三者に告知及び密輸に用いられるとは知らなかったとの弁解の機会を与えずに附加刑として没収することは、31条違反であるばかりか、当該第三者の財産権をも侵害するものである
23-5 憲法判断の方法
☆合憲限定解釈に対しては、立法者の意思を超えて法文の意味を書き換えてしまう可能性があり、立法権の簒奪につながりかねないという問題がある
☆合憲限定解釈に対しては、当該解釈が不明確であると、犯罪構成要件の保障的機能を失わせ、憲法31条違反の疑いを生じさせるという問題がある
広島市暴走族追放条例事件(最判平19.9.18、百選Ⅰ89)
・条例の全体から読み取ることができる趣旨、さらには本条例施行規則の規定等を総合すれば、本条例が規制の対象としている「暴走族」は、本条例2条7号の定義にもかかわらず、暴走行為を目的として結成された集団である本来的な意味における暴走族の外には、服装、旗、言動などにおいてこのような暴走族に類似し社会通念上これと同視することができる集団に限られるものと解され、したがって、市長において本条例による中止・退去命令を発し得る対象も、被告人に適用されている「集会」との関係では、本来的な意味における暴走族及び上記のようなその類似集団による集会が、本条例16条1項1号、17条所定の場所及び態様で行われている場合に限定されると解される
・このように限定的に解釈すれば、本条例16条1項1号、17条、19条の規定による規制は、広島市内の公共の場所における暴走族による集会等が公衆の平穏を害してきたこと、規制に係る集会であっても、これを行うことを直ちに犯罪として処罰するのではなく、市長による中止命令等の対象とするにとどめ、この命令に違反した場合に初めて処罰すべきものとするという事後的かつ段階的規制によっていること等にかんがみると、その弊害を防止しようとする規制目的の正当性、弊害防止手段としての合理性、この規制により得られる利益と失われる利益との均衡の観点に照らし、いまだ憲法21条1項、31条に違反するとまではいえない
23-6 憲法判断の効力
第24章 憲法改正
24-2 憲法改正の限界
限界説
☆憲法規範には実定化された自然法規範が含まれており、それは実定化されたとしても自然法規範としての性質を失うものではない
無限界説
☆憲法規範に価値序列や段階性は認められず、「不変」「不可侵」「永久」等の語を用いて定めた改正禁止規定は、たやすく改正すべきではないとの考えを明らかにしたものである
☆法は、元来、人間の社会生活に奉仕する手段であり、かつ社会は絶えず変化するものであるから、現在の規範・価値によって将来の世代を拘束するのは不当である
☆憲法改正国民投票制は、国民の憲法制定権力の思想を端的に具体化したものであるとの見解によれば、これを廃止することは、改正権の自己否定であり、国民主権の原理を揺るがす意味を持つので、憲法改正によっても国民投票制を廃止することは許されないこととなる
☆憲法では、憲法改正には国民投票の「過半数の賛成」が必要であると規定されている。過半数の意味については、見解が分かれていたが、平成22年5月に施行された「日本国憲法の改正手続きに関する法律」では、投票総数(賛成票と反対票の合計)の過半数とされている
☆憲法では、憲法改正について国民の承認を得たときは、天皇は「国民の名で、この憲法と一体を成すものとして」公布すると規定されている。これは、憲法改正権が国民にあることを明確にし、改正された部分も他の部分と同様の最高法規としての効力を有することを意味する