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民法

第1部 総則

第1章 民法総論

第2章 契約の主体

2-2 意思能力・行為能力

9条ただし書

※日用品の購入その他日常生活に関する行為については、成年被後見人本人も単独で法律行為をすることができ、その法律行為を取り消すことはできない

☆成年被後見人であるAがBから日用品を買い受けた場合、Aの成年後見人Cは、当該日用品の売買契約を取り消すことができない

98条の2

・意思表示の相手方がその意思表示を受けた時に未成年者又は成年被後見人であったときは、その意思表示をもってその相手方に対抗することができない。ただし、その法定代理人がその意思表示を知った後は、この限りでない

☆ AがBから契約解除の意思表示を受けた時にAが成年被後見人であった場合、Aの成年後見人CがBの契約解除の意思表示を知るまで、当該契約解除の効力は生じない

☆未成年者又は成年被後見人を相手方として意思表示をした者は、法定代理人がその意思表示を知る前は、その未成年者又は成年被後見人に対してその意思表示に係る法律効果を主張することができない

97条2項 

※隔地者に対する意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、又は行為能力を喪失したときであっても、そのためにその効力は妨げられない

☆Aが隔地者に対し契約解除の通知を発した後、Aが行為能力を喪失した場合、Bがその事実を知っていたとしても、当該契約解除の効力は生じる 

525条

※97条2項の規定(隔地者に対する意思表示)は、申込者が反対の意思を表示した場合又はその相手方が申込者の死亡若しくは行為能力の喪失の事実を知っていた場合には、適用しない。 

☆Aが隔地者Bに対し契約申込みの通知を発した後、Aが行為能力を喪失した場合、Bがその事実を知っていれば、当該契約申込みの効力は生じない

526条1項

※隔地者間の契約は、承諾の通知を発した時に成立する。

☆Aが隔地者Bに対し契約承諾の通知を発した後、Aが行為能力を喪失した場合、Bがその事実を知っていたとしても、当該契約は成立する

5条1項

・未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない

☆未成年者は、単に義務を免れる法律行為について、その法定代理人の同意を得ないですることができる

☆19歳のAが相続によって得た財産から100万円をBに贈与する旨の契約を書面によらずに締結した場合において、書面によらない贈与であることを理由にAがその贈与を撤回したとき、Aが贈与の撤回について親権者の同意を得ていなかったとしても、Aは、贈与の撤回を取り消すことはできない 

780条

☆19歳のAがその親権者の同意を得ずにAB間に生まれた子を認知した場合であっても、Aは、その認知を取り消すことができない

7条 

☆19歳のAが精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある場合、Aが成年に達する前に、家庭裁判所は、Aについて後見開始の審判をすることができる

21条

・制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができない

843条4項 

※成年後見人には、法人も選任されることができる

☆社会福祉法人や福祉関係の公益法人ばかりでなく、銀行などの営利法人も成年後見人になることができる

847条3号

☆破産者は、後見人となることができない

11条

※精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、後見人、後見監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、保佐開始の審判をすることができる。ただし、7条に規定する原因がある者については、この限りでない

☆保佐開始の審判は、本人の同意がなくてもすることができる

15条2項

☆本人以外の者の請求により補助開始の審判をするには、本人の同意が必要である

2-3 住所・不在者

最判昭47.9.1

☆家庭裁判所が選任した不在者の財産の管理人は、不在者を被告とする土地明渡請求訴訟の第一審において不在者が敗訴した場合、家庭裁判所の許可を得ないで控訴をすることができる

32条1項前段

・失踪者が生存すること又は前条に規定する時と異なる時に死亡したことの証明があったときは、家庭裁判所は、本人又は利害関係人の請求により、失踪の宣告を取り消さなければならない

☆Aの生死が7年間明らかでなかったことから、Aについて失踪宣告がされ、Aが死亡したものとみなされた後に、Aの生存が判明したが、失踪宣告が取り消されずにAが死亡した場合、失踪宣告を取り消すことができる 

大判昭13.2.7

※民法32条1項後段が失踪宣告後その取消し前に善意をもって為したる行為の効力を認めたのは、その行為が契約である場合には当事者双方が善意であるときに限りその効力を認める趣旨である

 

 

第3章 法人

第4章 権利の客体(物)

第5章 契約の成立

第6章 契約の有効性

最判昭44.5.27

・自ら仮装行為をした者が、かような外形を除去しない間に、善意の第三者がその外形を信頼して取引関係に入った場合においては、その取引から生ずる物権変動について、登記が第三者に対する対抗要件とされているときでも、右仮装行為者としては、右第三者の登記の欠缺を主張して、当該物権変動の効果を否定することはできないものと解すべきである

・民法94条が、その1項において相手方と通じてした虚偽の意思表示を無効としながら、その2項において右無効をもって善意の第三者に対抗することができない旨規定しているゆえんは、外形を信頼した者の権利を保護し、もって、取引の安全をはかることにあるから、この目的のためにかような外形を作り出した仮装行為者自身が、一般の取引における当事者に比して不利益を被ることのあるのは、当然の結果といわなければならない

最判昭55.9.11

※民法94条2項の「善意」かどうかの判定時期は、第三者がその地位を取得したときである

最判昭48.6.28

※一般債権者は94条2項の「第三者」に該当しないが、差し押さえた場合には「第三者」になる

☆Aは自分が多額の債務を負っているように仮装するため、Bと通謀して、BからAに対する金員の授受がないにもかかわらず、BがAに対して1000万円を貸し付けたことを示す消費貸借契約書を作成した。事情を知らないBの債権者Cが、前記のBのAに対する貸金債権につき債権差押えをした場合、Aは、消費貸借契約が無効であることを主張できない

最判昭42.4.20(百選Ⅰ26) 

※代理人が本人の利益のためでなく自己の利益を図るために代理権を濫用している場合、相手方が代理人の意思を知り、又はこれを知ることができた場合は、民法93条ただし書を類推適用して、相手方は、本人に対し代理の効果を主張することができない

☆Aの代理人であるBは、その代理権の範囲内でAを代理してCから1000万円を借り入れる旨の契約を締結したが、その契約締結の当時、Bは、Cから借り入れた金銭を着服する意図を有しており、実際に1000万円を着服した。この場合において、Cが、その契約締結の当時、Bの意図を知ることができたときは、Aは、Cに対し、その契約の効力が自己に及ばないことを主張することができる

最判昭40.9.10 

・表意者自身において、その意思表示に何らの瑕疵も認めず、錯誤を理由として意思表示の無効を主張する意思がないにもかかわらず、第三者において錯誤に基づく意思表示の無効を主張することは、原則として許されないと解すべきである

・民法95条の律意は瑕疵ある意思表示をした当事者を保護しようとするにある

大判大11.3.22

※錯誤無効は善意の第三者に対抗しうる 

☆相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合において、相手方がその事実を知っていたときには、その意思表示を取り消すことができるが、第三者が強迫を行った場合においては、相手方がその事実を知らなかったときでも、その意思表示を取り消すことができる

最判昭33.7.1

※脅迫による意思表示の取消しに必要な畏怖の程度は、表意者が完全に意思の自由を失ったことを要しない

☆相手方に欺罔された結果、法律行為の要素に錯誤が生じ、その錯誤により意思表示をした場合には、錯誤による意思表示の無効を主張することも、詐欺による意思表示の取消しをすることもできる

☆第三者の詐欺によって相手方に対する意思表示をした者は、相手方が第三者による詐欺の事実を知らなかった場合にも、その詐欺によって生じた錯誤が錯誤無効の要件を満たすときは、相手方に対し、その意思表示の無効を主張することができる

大判昭7.8.9

※詐欺によって連帯債務者の一人が代物弁済した場合の他の連帯債務者は96条3項にいう「第三者」に当たらない

☆連帯債務者の一人であるAが代物弁済をした後、その代物弁済を詐欺を理由として取り消した場合、他の連帯債務者は、Aの代物弁済が詐欺によるものであることを知らなかったときであっても、債権者に対し、代物弁済による債務の消滅を主張することはできない

大判明38.5.11(百選Ⅰ5)

・禁治産宣告前の行為たりとも事実上意思能力を有せざりしときはその行為は無効

☆意思能力が欠けた状態で契約を締結した者は、後見開始の審判を受けていなくても、その契約の無効を主張することができる

☆被保佐人が、保佐人の同意を得て、自己の不動産につき第三者との間で売買契約を締結したときは、被保佐人がその売買契約の要素について錯誤に陥っており、かつ、そのことにつき重大な過失がない場合は、その契約の無効を主張することができる

☆被保佐人は、保証契約を締結する前にその行為をすることについて保佐人の同意を得た時でも、自己の判断でその保証契約の締結を取りやめることができる 

14条1項

・民法11条本文に規定する原因が消滅したときは、家庭裁判所は、本人、配偶者、4親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人又は検察官の請求により、保佐開始の審判を取り消さなければならない

☆被保佐人と契約を締結しようとする者が、家庭裁判所に対し、利害関係人として、被保佐人に充分な判断能力があることを理由に保佐開始の審判の取消しを請求することはできない

868条

・親権を行う者が管理権を有しない場合には、未成年後見人は、財産に関する権限のみを有する

☆親権を行う者が財産管理権を有しない場合に選任された未成年後見人は、財産管理権を有するが、身上監護権は有しない

857条の2

※未成年後見人が数人あるときは、共同してその権原を行使する(1項)

※未成年後見人が数人あるときは、家庭裁判所は、職権で、その一部の者について、財産に関する権限のみを行使すべきことを定めることができる(2項)

☆未成年後見人が複数いる場合には、共同でその権限を行使するのが原則であるが、家庭裁判所は、その一部の者について、財産に関する権限のみを単独で行使すべきことを定めることができる 

第7章 代理

117条2項

※無権代理人に対する責任追及の規定は、他人の代理人として解約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていた時、若しくは過失によって知らなかったとき又は他人の代理人として契約をした者が行為能力を有しなかったときは、適用しない

※相手方に善意・無過失を要求している

☆無権代理行為の相手方は、代理人が代理権を有しないことを過失によって知らなかったときは、民法上の無権代理人の責任を追及することができない

111条1項2号

・代理権は、次に掲げる事由によって消滅する(柱書)

・代理人の死亡又は代理人が破産手続開始の決定若しくは後見開始の審判を受けたこと(2号)

代理人が保佐開始の審判を受けたときでも、代理権は消滅しない

☆代理権は、代理人が後見開始の審判を受けたときは消滅する

☆代理権は、代理人が後見開始の審判を受けたときは消滅する

106条

※法定代理人は、自己の責任で復代理人を選任することができる

☆成年後見人は、やむを得ない自由がなくても、復代理人を選任することができる

107条1項

※復代理人は、その権限内の行為について、本人を代表する

107条2項

・復代理人は、本人及び第三者に対して、代理人と同一の権利を有し、義務を負う

☆委任に寄る代理人がやむを得ない事由があるため復代理人を選任した場合、復代理人は、復代理の委任事務を処理するのに必要と認められる費用を支出したときは、本人に対し、その費用の償還を直接請求することができる

※相手方の詐欺による取消権は本人に帰属する。代理人が本人の取消権を代理して行使することができるかどうかは、その代理人の代理権の範囲がこれを含むかどうかで決まる 

最判昭34.2.13

☆売買契約を締結する権限を与えられて代理人となった者は、相手方からその売買契約を取り消す旨の意思表示を受ける権限を有する

☆Aの代理人として土地を購入する権限を与えられたBが、Cとの間で甲土地の売買契約を締結する際に、Bの従業員Dに命じて甲土地の売買契約書に「Aの代理人B」という署名をさせた場合でも、AC間に売買契約の効力が生ずる

101条1項

※意思表示の効力が意思の不存在、詐欺、脅迫又はある事情を知っていたこと若しくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする 

☆Aの代理人BがCの詐欺により売買契約を締結した場合、Bは当該売買契約を取り消すことができないが、Aは当該売買契約を取り消すことができる

108条

※同一の法律行為については、相手方の代理人となり、又は当事者双方の代理人となることはできない。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない 

☆Aの代理人として土地を購入する権限を与えられたBが、Cから甲土地を売却する権限を与えられてCの代理人にもなり、A及びCを代理してAC間の甲土地の売買契約を締結した場合、Bが双方代理であることをA及びCの双方にあらかじめ通知しただけでは、AC間に売買契約の効力は生じない

100条 

※代理人が本人のためにすることを示さないでした意思表示は、自己のために示したものとみなす。ただし、相手方が、代理人が本人のためにすることを知り、又は知ることができたときは、前条1項の規定を準用する

99条

・代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生ずる(1項)

・1項の規定は、第三者が代理人に対してした意思表示について準用する

☆代理人に対して意思表示をした者が、本人に対する意思表示であることを示したときは、代理人において本人のために受領することを示さなくても、その意思表示は本人に対して効力を生ずる

最判昭43.4.24

※商法504条ただし書について、相手方が代理関係を知らなかった場合には、相手方は、その選択に従い、本人との法律関係を否定し、代理人との法律関係を主張することもできる趣旨である 

☆代理人が本人のためにすることを示さずに商行為の代理をした場合、相手方において、代理人が本人のためにすることを知らず、かつ、知らなかったことについて過失がなかったときは、代理人と相手方との間にも本人相手方間におけると同一の法律関係が生じ、相手方がその選択権を有する

102条

※代理人は、行為能力者であることを要しない

☆未成年者は、代理人になることができる 

7-3 代理権―本人と代理人との関係

105条2項

・代理人は、本人の氏名に従って復代理人を選任したときは、復代理人の選任及び監督についての責任を負わない。ただし、その代理人が、復代理人が不適任又は不誠実であることを知りながら、その旨を本人に通知し又は復代理人を解任することを怠ったときは、この限りでない

7-7 無権代理(113条〜118条) 

☆本人に代わって弁済を受領する権限がない者が本人の有する債権について本人に代わって弁済を受領した後に、第三者が当該債権を差し押さえて転付命令を得た場合において、その後に本人がその弁済受領行為を追認したとしても、当該第三者は、転付命令により当該債権を取得することができる

最判平10.7.17

・本人が無権代理行為の追認を拒絶した場合には、その後に無権代理人が本人を相続したとしても、無権代理行為が有効になるものではない

・無権代理人がした行為は、本人がその追認をしなければ本人に対してその効力を生ぜず、本人が追認を拒絶すれば無権代理行為の効力が本人に及ばないことが確定し、追認拒絶の後は本人であっても追認によって無権代理行為を有効とすることができず、右追認拒絶の後に無権代理人が本人を相続したとしても、右追認拒絶の効果に何ら影響を及ぼすものではない

☆本人が無権代理行為の追認を拒絶した場合であっても、その後に無権代理人が本人を相続したときは、無権代理行為は有効になる

☆無権代理人が本人所有の土地に抵当権を設定したため、本人が抵当権設定登記の抹消登記請求訴訟を提起した後死亡し、無権代理人が本人を相続したとしても、無権代理行為は、有効とならない

最判昭48.7.3

・民法117条による無権代理人の債務が相続の対象となることは明らかであって、このことは本人が無権代理人を相続した場合でも異ならないから、本人は相続により無権代理人の右債務を承継するのであり、本人として無権代理行為の追認を拒絶できる地位にあったからといって右債務を免れることはできないと解すべきである

☆無権代理人を相続した本人は、無権代理行為について追認を拒絶することができる地位にあったことを理由として、無権代理人の責任を免れることができない

大判大8.10.23

※民法113条2項は、「追認又はその拒絶は、相手方に対してしなければ、その相手方に対抗することができない。ただし、相手方がその事実を知ったときは、この限りでない」と規定しているが、本人が無権代理人に対してした追認は、本人と無権代理人との間においては効力を生ずる

最判平5.1.21

・無権代理人が本人を他の相続人と共に共同相続した場合において、無権代理行為を追認する権利は、その性質上相続人全員に不可分的に帰属するところ、無権代理行為の追認は、本人に対して効力を生じていなかった法律行為を本人に対する関係において有効なものにするという効果を生じさせるものであるから、共同相続人全員が共同してこれを行使しない限り、無権代理行為が有効となるものではない

☆無権代理人が本人を他の相続人と共に共同相続した場合において、他の共同相続人の一人が追認を拒絶したときは、無権代理行為は有効にならない 

116条本文

・追認は、別段の意思表示がないときは、契約の時にさかのぼってその効力を生ずる

113条

・代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない(1項)

・追認又はその拒絶は、相手方に対してしなければ、その相手方に対抗することができない。ただし、相手方がその事実を知ったときは、この限りでない 

☆本人が無権代理人に対して無権代理行為を追認した場合でも、相手方は、その事実を知らなければ取消権を行使することができる

114条

・無権代理の場合において、相手方は、本人に対し、相当の期間を定めて、その期間内に追認をするかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、本人がその期間内に確答をしないときは、追認を拒絶したものとみなす

最判昭62.7.7(百選Ⅰ34)

※無権代理人が表見代理の成立要件を主張立証して自己の責任を免れることはできない

最判平5.1.21(百選Ⅰ36)

※他の共同相続人全員の追認がない限り、無権代理行為は、無権代理人の相続分に相当する部分においても、当然に有効になるものではない。そして、無権代理行為が金銭債務の連帯保証契約についてなされた場合においても同様である

7-8 表見代理

最判昭46.6.3

・登記申請行為が公法上の行為であることは原判示のとおりであるが、その行為は右のように私法上の契約に基づいてなされるものであり、その登記申請に基づいて登記がなされるときは契約上の債務の履行という私法上の効果を生ずるものであるから、その行為は同時に私法上の作用を有するものと認められる。そして、単なる公法上の行為についての代理権は民法110条の規定による表見代理の成立の要件たる基本代理権に当たらないと解すべきであるとしても、その行為が特定の私法上の取引行為の一環としてなされたものであるときは、右規定の適用に関しても、その行為の私法上の作用を看過することはできないのであって、実態上登記義務を負う者がその登記申請行為を他人に委任して実印等をこれに交付したような場合に、その受任者の権限の外観に対する第三者の信頼を保護する必要があることは、委任者が一般の私法上の行為の代理権を与えた場合における床と成るところがないものといわなければならない

☆本人から登記申請を委任された者が、その権限を超えて、本人を代理して第三者と取引行為をした場合において、その登記申請の権限が本人の私法上の契約による義務を履行するために附与されたものであり、第三者が代理人に権限があると信ずべき正当な理由があるときは、委任された登記申請の権限を基本代理権とする表見代理が成立する

最判昭42.4.20

・代理人が自己又は第三者の利益をはかるため権限内の行為をしたときは、相手方が代理人の右意図を知り又は知ることをうべかりし場合に限り、民法93条ただし書の規定を類推して、本人はその行為につき責めに任じないと解するを相当とするから……、原判決が確定した前記事実関係のもとにおいては、被上告会社に本件売買取引による代金支払の義務がないとした原判示は、正当

☆子が父から何らの代理権も与えられていないのに、父の代理人として相手方に対し父所有の不動産を売却した場合、相手方において、子に売買契約を締結する代理権があると信じ、そのように信じたことに正当な理由があるときは、表見代理が成立する

最判昭36.12.12

・約束手形が代理人によりその権限を踰越して振り出された場合、民法110条によりこれを有効とするには、受取人が右代理人に振出の権限あるものと信ずべき正当の理由ある時に限るものであって、かかる事由のないときは、たとい、その後の手形所持人が、右代理人にかかる権限あるものと信ずべき正当の理由を有して居ったとしても、同条を適用して、右所持人に対し振出人をして手形上の責任を負担せしめ得ないものであることは、大審院判例……の示すところであって、いま、これを改める要はない

☆本人からその所有する不動産に抵当権を設定する代理権を与えられた者が、本人を代理して当該不動産を売却した場合、売買契約の相手方がその権限の逸脱の事実を知り、又はそれを知らないことについて過失があったときは、転得者が善意無過失であっても、表見代理は成立しない

最判昭44.12.18

・単に夫婦の日常の家事に関する法律行為の効果、とくにその責任のみについて規定しているにすぎないけれども、同条は、その実質においては、さらに、右のような効果の生じる前提として、夫婦は相互に日常の家事に関する法律行為につき他方を代理する権限を有することをも規定しているものと解するのがそうとう

・夫婦の一方が右のような日常の家事に関する代理権の範囲を超えて第三者と法律行為をした場合においては、その代理権の存在を基礎として広く一般的に民法110条所定の表見代理の成立を肯定することは、夫婦の財産的独立をそこなうおそれがあって、相当でないから、夫婦の一方が他の一方に対しその他の何らかの代理権を授与していない以上、当該越権行為の相手方である第三者においてその行為が当該夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内に属すると信ずるにつき正当の理由のあるときにかぎり、民法110条の趣旨を類推適用して、その第三者の保護をはかれば足りる

☆夫が、日常の家事の範囲を越えて、妻を代理して法律行為をした場合、相手方において、その行為がその夫婦の日常の家事に関する法律行為に属すると信ずるにつき正当の理由があるときは、権限外の行為についての表見代理に関する規定の趣旨が類推され、妻は夫がした法律行為によって生じた債務について、連帯してその責任を負う

第8章 契約の効力発生時期―条件・期限・期間

8-1 条件・期限

131条2項

・条件が成就しないことが法律行為の時に既に確定していた場合において、その条件が停止条件であるときはその法律行為は無効とし、その条件が解除条件であるときはその法律行為は無条件とする

☆条件が成就しないことが法律行為の時に既に確定していた場合、その条件が解除条件であるときは無条件の法律行為となり、その条件が停止条件であるときは無効な法律行為となる

132条

・不法な条件を付した法律行為は、無効とする。不法な行為をしないことを条件とするものも、同様とする

134条

※停止条件付き法律行為はその条件が単に債務者の意思にのみに係るときは無効となる(純粋随意条件)

☆AがBに対し「将来気が向いたら、私が所有する甲自動車を贈与する」と約束したとしても、その贈与契約は無効である

129条

・条件の成否が未定である間における当事者の権利義務は、一般の規定に従い、処分し、相続し、若しくは保存し、又はそのために担保を供することができる

☆条件の付された権利は、その条件の存否が未定である間も、相続することができる 

140条

・日、週、月又は年によって木観を定めたときは、期間の初日は、算入しない。ただし、その機関が午前零時から始まるときは、この限りでない

最判昭57.10.19

・民法724条所定の3年の時効期間は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から進行するが、右の時効期間の計算についても、同法138条により同法140条の適用があるから、損害及び加害者を知った時が午前0時でない限り、時効期間の初日はこれを算入すべきものではない

☆判例によれば、不法行為による損害の賠償を請求する債権の消滅時効の期間の計算については、被害者が損害及び加害者を知ったときが午前0時でない限り、初日は算入しない

大判明45.5.4

※期間を定めて契約履行の催告をすると同時に、その期間内に履行されないときは契約を解除する旨の意思表示をなした場合には、その期間の経過により契約の解除権が発生すると同時に、契約は解除されたものとする

☆契約の一方当事者に債務不履行があった場合において、催告期間内に履行しなければ契約を解除する旨の意思表示を他方当事者がしたときは、その催告期間内に履行がなければ、改めて解除の意思表示をしなくても、解除の効果は発生する 

最判昭39.1.23

・上告人は前掲停止条件が成就すれば取得したであろう報酬金貰受の権利を失うに至ったほか、免除されたであろう債務を免除されなくなったのであり、右は被上告人の故意によるものと認めざるを得ないことは前段説示のとおりであるから、被上告人は上告人の有するいわゆる期待権を故意に侵害した不法行為の責を免れないものと言わなければならない

☆AがBに対し「Bが医学部の卒業試験に合格したら、私が所有する甲自動車を贈与する」と約束した場合、卒業試験の前にAが高自動車を第三者Cに売却したときは、BはAに対し、それにより生じた損害の賠償を請求することができる

・上告人の前示斡旋事務の処理は、その事務の進行の程度如何にかかわらず被上告人のAに対する右の売却により履行不能に陥ったものと解すべきであるから、被上告人は故意に前示停止条件の成就を妨げたものと言わなければならない

☆AがBに対し「私の所有する乙土地の購入希望者をBが見つけることができ、Bの仲介により売買契約に至れば、その仲介報酬を支払う」と約束した場合、Aが、Bの見つけてきた乙土地の購入希望者との間で、Bの仲介によらずに直接乙土地の売買契約を結んだときは、Bは、Aに対し、仲介報酬を請求することができる 

第9章 時効

9-2 消滅時効

☆不確定期限の定めのある債権の消滅時効は、債権者が期限の到来を知った時ではなく、期限の到来した時である

最判昭35.11.1

☆契約解除に基づく原状回復義務が履行不能になった場合において、その履行不能による損害賠償請求権の消滅時効は、原状回復義務が履行不能になった時ではなく、本来の債務の履行を請求しうる時から進行を始める

最判昭62.10.8

☆無断転貸を理由とする土地賃貸借契約の解除権の消滅時効は、転借人が転貸借契約に基づいて当該土地の使用収益を開始した時から進行する

最判平7.6.9

・遺留分権利者が減殺請求により取得した不動産の所有権又は共有持分権に基づく登記手続請求権は、時効によって消滅することはない

☆遺留分権利者が減殺請求によって取得した不動産の所有権に基づく登記請求権は、時効によって消滅することはない

160条

・相続財産に関しては、相続人が確定した時、管理人が選任された時又は破産手続開始の決定があった時から6ヶ月を経過するまでの間は、時効は、完成しない

☆相続財産に関して、相続財産管理人が選任された場合には、相続人が確定するまでの間に、時効が完成することがある

最大判昭41.4.20(百選Ⅰ42)

・債務者が、自己の負担する債務について時効が完成したのちに、債権者に対し債務の承認をした以上、時効完成の事実を知らなかったときでも、爾後その債務についてその完成した消滅時効の援用をすることは許されない

・時効の完成後、債務者が債務の承認をすることは、事項による債務消滅の主張と相容れない行為であり、相手方においても債務者はもはや時効の援用をしない趣旨であろうと考えるであろうから、その後においては債務者に時効の援用を認めないものと買いするのが、信義則に照らし、相当である

・かく解しても、永続した社会秩序の維持を目的とする時効制度の存在理由に反するものでもない

☆債務者が、消滅時効完成後に債権者に対して債務を分割して支払う旨の申出をした場合には、時効完成の事実を知らなかったときでも、その後その時効を援用することは許されない

9-3 取得時効

取得時効の要件である、自主占有、平穏・公然、善意については推定される(186条1項)が、無過失については推定されない

☆外形的客観的に見て占有者が他人の所有権を排斥して専有する意思を有していなかったと解される事情を証明すれば、所有の意思を否定することができる

☆時効期間を計算する際には、その機関が午前零時から始まるときを除き、期日の初日は参入しない

大連判大14.7.8

※時効完成後に現れた第三者との関係では、二重譲渡されたのと類似の関係となることから、時効による不動産所有権の取得を第三者に対抗するためには登記が必要である

※自主占有と言えるためには、直接占有(自己占有)だけではなく、間接占有(代理占有)でも足りる

☆他人が所有する土地を自己所有の土地として第三者に賃貸した者は、善意無過失であれば10年間、それ以外であれば20年間、その第三者がその土地を占有すれば、取得時効によりその土地の所有権を取得することができる 

9-4 中断・停止

156条

時効の中断の効力を生ずべき承認をするには、相手方の権利についての処分につき行為能力があることを要しない

☆時効期間が経過する前に、被保佐人である債務者が保佐人の同意を得ることなくその債務を承認した場合、その債権の消滅時効は中断する

☆時効期間が経過する前に、債権者が第三者に債権を譲渡し、債務者がその債権の譲渡について債権の譲受人に対し承諾をした場合、その債権の消滅時効は中断する

☆時効期間が経過する前に、債務者が債権者の代理人に対し支払猶予の申入れをした場合、その債権の消滅時効は中断する

最判平7.3.10

・他人の債務のために自己の所有物件につき根抵当権等を設定したいわゆる物上保証人が、債務者の承認により被担保債権について生じた消滅時効中断の効力を否定することは、担保権の付従性に抵触し、民法396条の趣旨にも反し、許されないものと解するのが相当である

☆時効期間が経過する前に、債務者が債権者に対し債務の承認をした場合、被担保債権について生じた消滅時効中断の効力を、その債権の物上保証人が否定することは許されない

9-5 時効の効果(援用・放棄)

最判昭48.12.14

☆抵当不動産の第三取得者は、その抵当権の被担保債権の消滅時効を援用することができる

最判平11.10.21(百選Ⅰ41)

※後順位抵当権者は、先順位抵当権の被担保債権の消滅時効を援用することができない

・先順位抵当権の被担保債権が消滅すると、後順位抵当権者の抵当権が上昇し、これによって被担保債権に対する配当額が増加することがありうるが、この配当額の増加に対する期待は、抵当権の順位の上昇によってもたらされる反射的な利益にすぎないというべきである。そうすると、後順位抵当権者は、先順位抵当権の被担保債権の消滅により直接利益を受ける者に該当するものではない

☆先順位抵当権の被担保債権の消滅により後順位抵当権者に対する配当額が増加する場合でも、当該後順位抵当権者は、先順位抵当権の被担保債権の消滅時効を援用することができない

最判平10.6.22

☆詐害行為の受益者は、債権者の被担保債権について消滅時効を援用することができる

・詐害行為の受益者は、詐害行為取消権行使の直接の相手方とされている上、これが行使されると債権者との間で詐害行為が取り消され、同行為によって得ていた利益を失う関係にあり、その半面、詐害行為取消権を行使する債権者の債権が消滅すれば右の利益喪失を免れることができる地位にあるから、右債権者の債権の消滅によって直接利益を受ける者に当たる

最判平11.2.26

※譲渡担保目的物の第三取得者は、清算金支払請求権の消滅時効を援用することができる

・第三者は、所有権に基づき、目的物を占有する譲渡担保権設定者に対してその引渡しを求めても、譲渡担保権設定者が譲渡担保権者に対する清算金支払請求権を被担保債権とする留置権を主張したときには、無条件でその引渡しを受けることができず、また、留置権に基づく競売がされたときにはこれにより目的物の所有権を失うことがあるという制約を受けているが、清算金支払請求権が消滅することにより目的物の所有権についての右制約を免れることができる地位にあり、清算金支払請求権の消滅によって直接利益を受ける者に当たる

☆譲渡担保権者が被担保債権の弁済期後に譲渡担保の目的物を第三者に譲渡したときは、その第三者は譲渡担保権設定者が譲渡担保権者に対し有する清算金支払請求権の消滅時効を援用することができる

最判昭44.7.15

敷地上の建物賃借人は、建物賃貸人による敷地所有権の取得時効を援用することができない

・上告人らは、本件係争土地の所有権を時効取得すべき者またはその承継人から、右土地上に同人らが所有する本件建物を賃借しているにすぎない

・取得時効の完成によって直接利益を受ける者ではない

☆建物の敷地所有権の帰属につき争いがある場合において、その敷地上の建物の賃借人は、建物の賃貸人が敷地所有権を時効取得しなければ建物賃借権を失うときでも、建物の賃貸人による敷地所有権の時効取得を援用することができない

最判平6.2.22

・債権者は、右譲渡担保契約がいわゆる帰属清算型であると処分清算型であるとを問わず、目的物を処分する権能を取得する

・債権者がこの権能に基づいて目的物を第三者に譲渡したときは、原則として、譲受人は目的物の所有権を確定的に取得し、債務者は……残債務を弁済して目的物を受け戻すことはできなくなる

・この理は、譲渡を受けた第三者がいわゆる背信的悪意者に当たる場合であっても異なるところはない

・そのように解さないと、権利関係が確定しない状態が続くばかりでなく、譲受人が背信的悪意者に当たるかどうかを覚知し得る場合にあるとは限らない債権者に、不測の損害を被らせるおそれを生ずる

☆譲渡担保権者が、被担保債権の弁済期後に目的不動産を譲渡した場合、譲渡担保を設定した債務者は、譲受人がいわゆる背信的悪意者に当たるときでも、債務を弁済して目的不動産を受け戻すことができない

最判平13.11.22 

・上記債権譲渡について第三者対抗要件を具備するためには、指名債権譲渡の対抗要件(467条2項)の方法によることができる

☆担保権実行としての取立ての通知をするまでは、譲渡した債権の取立権限を譲渡担保権設定者に付与する旨の債権譲渡担保契約も有効であり、このような取立権付与付きの債権譲渡も、通常の債権譲渡の対抗要件の方法で対抗力を備える

最決平11.5.17

※譲渡担保に物上代位の規定の趣旨が及ぶ 

最判昭46.3.25

・債権者は、債務者が弁済期に債務の弁済をしない場合においては、目的不動産を換価処分し、またはこれを適正に評価することによって具体化する右物権の価額から、自己の債権額を差し引き、なお残額があるときは、これに相当する金銭を清算金として債務者に支払うことを要する

・この担保目的の手段として、債務者に対し右不動産の引渡しないし明渡しを求める訴えを提起した場合に、債務者が右清算金の支払いと引き換えにその履行をなすべき旨を主張した場合に、債務者が右清算金の支払いと引き換えにその履行をなすべき旨を主張したときは、特段の事情のある場合を除き、債権者の右請求は、債務者への清算金の支払いと引換えにのみ認容される

☆債務を弁済しないときには被担保債務の代物弁済として債務者所有の不動産の所有権を債権者に確定的に帰属させる旨の合意が合っても、目的物の評価額若しくは処分額が被担保債権額を上回る場合には、債権者に清算金支払義務が生じ、債務者は、債権者の目的物引渡請求に対して、清算金の支払いとの同時履行を主張することができる

最判昭41.4.28 

・かかる場合、譲渡担保権者は、公正担保権者に準じてその権利の届出をなし、更生手続によってのみ権利行使をなすべきものであり、目的物に対する所有権を主張して、その引渡しを求めることはできないものというべく、すなわち取戻権を有しない

☆譲渡担保権を設定した会社について会社公正手続が開始されたときは、譲渡担保権者は、会社更生手続きよって権利を行使すべきであり、目的物の所有権を主張して取戻権を行使することはできない 

第2部 物権

第10章 物権法序説 

☆物権の客体は有体物に限られない 

第11章 物権変動

11-4 不動産物件変動における対抗要件主義

※強迫による取消しは、取消前に現れた善意の第三者にも対抗できる

※取消後の第三者には、民法177条により登記をしなければ対抗することができない

最判昭39.3.6

・本件不動産につき遺贈による移転登記のなされない間に、亡Bと法律上同一の地位にあるC(亡Bの相続人の1人)に対する強制執行として、Cの前記持分に対する強制競売申立が登記簿に記入された前記認定の事実関係のもとにおいては、競売中立をした被上告人は、前記Cの本件不動産持分に対する差押債権者として民法177条にいう第三者に該当し、受遺者は登記がなければ自己の所有権登記をもって被上告人に対抗できないものと解すべきであり、原判決認定のように競売申立記入登記後に遺言執行者が選任せられても、それは被上告人の前記第三者たる地位に影響を及ぼすものでないと解するのが相当である

・不動産の所有者が右不動産を他人に贈与しても、その旨の登記手続きをしない間は完全に排他性ある権利変動を生ぜず、所有者は全くの無権利者とはならないと解すべきところ……、遺贈は遺言によって受遺者に財産権を与える遺言者の意思表示にほかならず、遺言者の死亡を不確定期限とするものではあるが、意思表示によって物権変動の効果を生ずる点においては贈与と異なるところはないのであるから、遺贈が効力を生じた場合においても、遺贈を原因とする所有権移転登記のなされない間は、完全に排他的な権利変動を生じないものと解すべきである。そして、民法177条が広く物権の得喪変更について登記をもって対抗要件としているところから見れば、遺贈をもってその例外とする理由はないから、遺贈の場合においても不動産の二重譲渡等における場合と同様、登記をもって物権変動の対抗要件とするものと解すべきである

最判昭41.11.22

・時効による不動産所有権取得の有無を考察するにあたっては、単に当事者間のみならず第三者に対する関係も同時に考慮しなければならないのであって、この関係においては、結局当該不動産についていかなる時期に何人によって登記がなされたかが問題となるのである。そして、時効が完成しても、その登記がなければ、その後に登記を経由した第三者に対しては事項による権利の取得を対抗することができないのに反し、第三者のなした登記後に時効が完成した場合においては、その第三者に対しては、登記を経由しなくても時効取得をもってこれに対抗することができるものと解すべきことは、当裁判所の判例とするところであって……、これを変更すべき必要を認めない

☆AがB所有の乙土地を占有し、取得時効が完成した場合において、その取得時効が完成する前に、Cが乙土地をBから譲り受けると同時に乙土地の所有権移転登記をしたときは、Aは、Cに対し、乙土地の所有権を時効取得したことを主張することができる

最判昭42.7.21

・時効取得者はその時効取得を登記なくして上告人(不動産の取得時効完成前に現所有者から所有権を取得し、時効完成後に移転登記を経由した者)に対抗できる筋合いであり、このことは上告人がその後所有権登記を経由することによって消長を来さないというべきである

☆AがB所有の乙土地を占有し、取得時効が完成した場合において、その取得時効が完成する前に、Cが乙土地をBから譲り受け、その取得時効の完成後にCが乙土地の所有権移転登記をしたときは、Aは、Cに対し、乙土地の所有権を時効取得したことを主張することができる

最判昭25.12.19

※土地の譲受人が不法占拠者に対し、その土地所有権を対抗することに、登記は必要ではない

最判平8.10.29

・所有者甲から乙が不動産を買い受け、その登記が未了の間に、丙が当該不動産を甲から二重に買い受け、更に丙から転得者丁が買い受けて登記を完了した場合に、たとい丙が背信的悪意者に当たるとしても、丁は、乙に対する関係で丁自身が背信的悪意者と評価されるのでない限り、当該不動産の所有権取得をもって乙に対抗することができる

・(一)丙が背信的悪意者であるがゆえに登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者に当たらないとされる場合であっても、乙は、丙が登記を経由した権利を乙に対抗することができないことの反面として、登記なくして所有権取得を丙に対抗することができるというにとどまり、甲丙間の売買自体の無効を来すものではなく、したがって、丁は無権利者から当該不動産を買い受けたことにはならないのであって、また、(二)背信的悪意者が正当な利益を有する第三者に当たらないとして民法177上の「第三者」から排除される所以は、第一譲受人の売買等に遅れて不動産を取得し登記を経由した者が登記を経ていない第一譲受人に対してその登記の欠缺を主張することがその取得の経緯等に照らし信義則に反して許されないということにあるのであって、登記を経由した者がこの法理によって「第三者」から排除されるかどうかは、その者と第一譲受人との間で相対的に判断されるべき事柄である

☆Aがその不動産をBに譲渡し、その後AがCに同一不動産を譲渡し、さらにCが同一不動産を転得者Dに譲渡し、AC間及びCD間の所有権移転登記が行われた場合において、CがBとの関係で背信的悪意者に当たるが、D自身がBとの関係で背信的悪意者と評価されないときは、Dは、所有権の取得をBに対抗することができる

最判昭38.2.22(家族法百選73) 

・相続財産に属する不動産につき単独所有権移転の登記をした共同相続人中の乙ならびに乙から単独所有権移転の登記をうけた第三取得者丙に対し、他の共同相続人甲は自己の持分を登記なくして対抗しうるものと解すべきである

・けだし乙の登記は甲の持分に関する限り無権利の登記であり、登記に公信力なき結果丙も甲の持分に関する限りその権利を取得するに由ないからである

☆Aは、A所有の甲土地をBに売却したが、AからBへの所有権移転登記をする前に死亡した。Aの法定相続人は、子C及び子Dの二人であり、その相続分は各2分の1であったが、遺産分割協議が調う前に、Cが勝手に甲土地について単独で相続した旨のAからCへの所有権移転登記をした上、甲土地をEに売却し、CからEへの所有権移転登記をした場合、Bは、Eに対し、2分の1の限度で甲土地の共有持分の取得を主張することができる

最判昭42.10.31

※仮装譲渡の譲受人から善意で目的物たる不動産を譲り受けた者と仮装譲渡の譲渡人から当該不動産を譲り受けた者が対抗関係に立つ

☆Aは、Bと通じて、Aの不動産について有効な売買契約が存在しないにもかかわらず売買を原因とする所有権移転登記をBに対して行い、その後、この事情について善意無過失であるCに対してBが同一不動産を譲渡したが、BC間の所有権移転登記はされていない。この場合において、さらにその後、AがDに同一不動産を譲渡したときは、Cは、所有権の取得をDに対抗することができない

最判平22.12.16

・不動産の所有者が、元の所有者から中間者に、次いで中間者から現在の所有者に、順次移転したにもかかわらず、登記名義がなお元の所有者の下に残っている場合において、現在の所有者が元の所有者に対し、元の所有者から現在の所有者に対する真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を請求することは、物権変動の家庭を忠実に登記記録に反映させようとする不動産登記法の原則に照らし、許されないものというべきである

☆Aの所有する高土地がAからB、BからCに順次譲渡されたにもかかわらず登記名義がなおAに残っている場合、Cは、Aに対し、AからCに対する真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を請求することはできない

最判昭34.2.12

・不動産の登記簿上の所有名義人は、真正の所有者に対し、その所有権の公示に協力すべき義務を有するのであるから、真正の所有者は、所有権に基づき所有名義人に対し所有権移転登記の請求をなしうる

☆Aの所有する甲土地についてAからB、BからCへの所有権移転登記がされている場合、それぞれの所有権移転登記に対応する権利変動がないときは、Aは、Cに対し、直接自己への所有権移転登記手続きを請求することができる 

11-5 動産物権変動における対抗要件主義 

183条、200条

☆Aは、Bから動産甲を買い受け、占有改定の方法で引渡しを受けたが、その後、Bは動産甲をCに奪われてしまった。この場合、Aは、所有権に基づいてCに対して動産甲の返還を請求することができるのみでなく、Cに対して占有回収の訴えを起こすことができる

182条2項

・譲受人又はその代理人が現に占有物を所持する場合には、占有権の譲渡は、当事者の意思表示のみによってすることができる

184条

・代理人によって占有をする場合において、本人がその代理人に対して以後第三者のためにその物を占有することを命じ、その第三者がこれを承諾したときは、その第三者は、占有権を取得する

☆Aは、Bが第三者に寄託している動産甲をBから買い受け、自ら受寄者に対し、以後Aのために動産甲を占有することを命じ、受寄者がこれを承諾したときでも、Aは、動産甲の占有権を取得しない

☆Aは、Bに対する債権を担保するため、Bとの間で、B所有の動産甲に質権の設定を受けた。この場合、指図による占有移転により動産甲の引渡しを受けたのみで、質権の効力が生じる 

11-7 公信の原則―動産物権変動における取引安全保護

192条

・取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する

☆未成年者との間で売買契約を締結して同人所有の動産を購入した者は、その後に当該売買契約が行為能力の制限を理由に取り消された場合に、売主が未成年であることについて善意無過失であったとしても、即時取得を理由としてその動産の所有権の取得を主張することはできない

☆Aは、Bから動産甲を買い受け、占有改定の方法で引渡しを受けたが、その後、Bは、動産甲をCにも売却し、現実に引き渡した。この場合、Cは、BのAに対する動産甲の売却について善意無過失でなければ、動産甲の所有権取得をAに対抗することができない

193条

※192条(即時取得)の場合において、占有物が盗品又は遺失物であるときは、被害者又は遺失者は、盗難又は遺失の時から2年間、占有者に対してその物の回復を請求することができる。

※回復請求権者は、被害者又は遺失者であって、所有者に限らない。賃貸又は寄託された物が、盗まれたり遺失した場合には、賃借人も受寄者も回復請求することができる

※回復請求の相手方は、直接的善意取得者に限らず、直接的善意取得者以降の特定承継人も含まれる

194条

※占有者が、盗品又は遺失物を、競売若しくは公の市場において、又はその物と同種の物を販売する商人から、善意で買い受けたときは、被害者又は遺失者は、占有者が支払った代価を弁償しなければ、その物を回復することができない 

最判昭57.9.7

指図による占有移転を受けることによって民法192条にいう占有を取得したものであるとした原審の判断は、正当として是認することができる

最判昭35.2.11(百選Ⅰ65)

・無権利者から動産の譲渡を受けた場合において、譲受人が民法192条によりその所有権を取得しうるためには、一般外観上従来の占有状態に変更を生ずるがごとき占有を取得することを要し、かかる状態に一般外観上変更を来さないいわゆる占有改定の方法による取得をもっては足らない

☆Aがその占有する時計をBに売却した場合において、その売買契約の際に、以後AがBのために占有する意思を表示したが、当該時計の引渡しが現実にされていないときは、Bは即時取得により当該時計の所有権を取得することができない

第12章 占有権

12-4 占有権の効力

196条1項

※占有者が占有物を返還する場合には、その物の保存のために支出した金額その他の必要費を回復者から償還させることができる。ただし、占有者が果実を取得したときは、通常の必要費は、占有者の負担に帰する

占有者は、占有物について通常の必要費を支出した場合であっても、果実を取得したときには、回復者にその償還をさせることはできない

12-5 占有訴権

200条2項

占有回収の訴えは、占有を侵奪した者の特定承継人に対して提起することができない。ただし、その承継人が侵奪の事実を知っていたときは、この限りでない

最判昭56.3.19

※200条2項ただし書に言う「侵奪の事実を知っていたとき」とは、承継人が少なくとも何らかの形で占有の侵奪があったことについての認識を有していたことが必要であり、単に前主の占有取得が何らかの犯罪行為ないし不法行為によるものであって、これによっては前主が正当な権利取得者とはなりえないものであることを知っていただけでは足りない

203条

・占有権は、占有者が占有の意思を放棄し、又は占有物の所持を失うことによって消滅する。ただし、占有者が占有回収の訴えを提起したときは、この限りでない 

最判昭44.12.2

・203条はいわゆる擬制的占有権(物権)を認めて占有者の保護を図ったもの

・203条本文によれば、占有権は占有者が占有物の所持を失うことによって消滅するのであり、ただ、占有者は、同条ただし書により、占有回収の訴えを提起して勝訴し、現実にその物の占有を回復したときは、右現実に占有しなかった間も占有を失わず占有が継続していたものと擬制される

☆留置権者が目的物の占有を奪われた場合、留置権者が占有回収の訴えを提起して勝訴し、現実の占有を回復すれば、留置権は消滅しない

第13章 所有権

最判平6.2.8(百選Ⅰ49)

・土地所有権に基づく物上請求権を行使して建物収去・土地明渡しを請求するには、現実に建物を所有することによってその土地を占拠し、土地所有権を侵害している者を相手方とすべきである

・他人の土地上の所有権を取得した者が自らの意思に基づいて所有権取得の登記を経由した場合には、たとい他に譲渡したとしても、引き続き右登記名義を保有する限り、土地所有者に対し、右譲渡による建物所有権の喪失を主張して建物収去・土地明渡しの義務を免れることはできない

・建物は土地を離れては存立し得ず、建物の所有は必然的に土地の占有を伴うものであるから、土地所有者としては、地上建物の所有権の帰属につき重大な利害関係を有するのであって、土地所有者が建物譲渡人に対して所有権に基づき建物収去・土地明渡しを請求する場合の両者の関係は、土地所有者が地上建物の譲渡による所有権の喪失を否定してその帰属を争う点で、あたかも建物についての物権変動における対抗関係にも似た関係というべく、建物所有者は、自らの意思に基づいて自己所有の登記を経由し、これを保有する以上、右土地所有者との関係においては、建物所有権の喪失を主張できない

☆A所有の甲土地上に権原なく乙建物を所有しているBがCに乙建物を売却した場合において、CがBからの乙建物の所有権移転登記を経由していないときでも、Aは、Cに対し、乙建物の収去及び甲土地の明渡しを求めることができる

☆A所有の甲土地上に権原なく乙建物を所有しているBがCに乙建物を売却し、CがBからの乙建物の所有権移転登記を経由した後、CがDに乙建物を売却した場合には、DがCからの乙建物の所有権移転登記を経由していないときは、Aは、Cに対し、乙建物の収去及び甲土地の明渡しを求めることができる

最判昭49.3.19

・被上告人は本件宅地につき所有権移転登記を経由した上ではじめて、上告人に対し本件宅地の所有権者であることを対抗でき、また、本件宅地の賃貸人たる地位を主張し得る

・本件宅地の賃借人としてその賃借地上に登記ある建物を所有する上告人は本件宅地の所有権の得喪につき利害関係を有する第三者であるから、民法177条の規定上、被上告人としては上告人に対し本件宅地の所有権の移転につきその登記を経由しなければこれを上告人に対抗することができない

☆Aがその所有する甲土地をBに賃貸し、Bが甲土地を自動車の駐車場として利用していたところ、甲土地の賃借権の登記がされない間に、AがCに対し甲土地を売却した場合において、CがAからの甲土地の所有権移転登記を経由していないときは、Bは、Cからの甲土地の明渡請求を拒むことができる

☆Aがその土地をBに賃貸し、Bがその土地上に建物を建築して所有権保存登記をした後、AがCに当該土地を譲渡した場合において、当該土地に関する所有権移転登記を受けたCは、Bに対して当該土地の賃料を請求することができる

大判昭12.11.19

※所有権の円満なる状態が他より侵害せられたるときは所有権の効力としてその侵害の排除を請求しうるべきと共に所有権の効力として危険の防止を請求しうる

大判大5.6.23

※物権的請求権は、物権とは独立して消滅時効にかからない

☆A所有の甲土地に隣接する乙土地の所有者であるBが乙土地を掘り下げたために、両土地の間に高低差が生じ、甲土地が崩落する危険が生じている場合において、その危険が生じた時から20年を経過した後にAがBに対し甲土地の崩落防止措置を請求したときは、Bはその請求権の消滅時効を援用することができない

13-1 所有権の内容

209条

※土地の所有者は、境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕するため必要な範囲内で、隣地の使用を請求することができる。その場合において、隣人が損害を受けたときは、その償金を請求することができる

☆土地の所有者は、隣地との境界付近において建物を修繕するため必要な範囲内で、隣地の使用を請求することができるが、隣地所有者がこれにより損害を受けたときは、その償金を支払わなければならない

218条

※土地の所有者は、直接に雨水を隣地に注ぐ構造の屋根その他の工作物を設けてはならない

234条

※建物を建造するには、境界線から50cm以上の距離を保たなければならず、これに違反して建築をしようとする者があるときは、隣地の所有者は、その建築を中止させ、又は変更させることができる

233条1項 

※隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる

13-2 所有権の効力―物権的請求権

大判大5.6.23

※所有権に基づく所有物の返還請求権は、所有権自体と同じく消滅時効によって消滅することはない

大判昭12.7.10

☆建物の賃貸借契約が終了した時、建物の所有者である賃貸人は、賃借人に対し、賃貸借契約の終了に基づいて建物の返還を求めることができるが、所有権に基づいて建物の返還を請求することもできる

大判昭13.1.28

※間接占有者である賃貸人に対しても、返還請求権を行使できる

☆Aは、B所有の土地に何らの権原なく建物を建て、この建物をCに賃貸した。この場合、建物を占有しているのはCであるが、Bは、Aに対して、建物を収去して土地を明け渡すことを請求することができる

最判平10.3.24

・他の共有者は、各自の共有持分権に基づいて、右行為の全部の禁止を求めることができる

・共有者は、自己の共有持分権に基づいて、共有物全部につきその持分に応じた使用収益をすることができるのであって(249条)、自己の共有持分権に対する侵害がある場合には、それが他の共有者によると第三者によるとを問わず、単独で共有物全部についての妨害排除請求をすることができ、既存の侵害状態を排除するために必要かつ相当な作為又は不作為を相手方に求めることができると解されるところ、共有物に変更を加える行為は、共有物の性状を物理的に変更することにより、他の共有者の共有持分権を侵害するものにほかならず、他の共有者の同意を得ない限りこれをすることが許されない(251条)からである

☆畑として使用されてきた土地をA、B及びCが持分3分の1ずつで共有していたところ、第三者が、Aの承諾を得て、その土地を造成して宅地にしようとした。この場合、Cは、単独で、その第三者に対し、共有持分権に基づく物権的請求権の行使として、土地全体について造成行為の禁止を求めることができる

大判昭12.11.19(百選Ⅰ46)

※隣地の土砂が自己の所有地内に崩壊する危険があるため、隣地所有者に対し所有権に基づく妨害予防請求権を行使した事案において、危険の発生について隣地所有者の故意・過失の有無を問わない

☆AがBに対して所有権に基づく妨害排除請求権を行使するには、妨害状態が発生したことについてBに故意又は過失は必要ない

13-3 所有権の取得

246条1項

※他人の動産に工作を加えた者があるときは、その加工物の所有権は、材料の所有者に帰属する。ただし、工作によって生じた価格が材料の価格を著しく超える時は、加工者がその加工物の所有権を取得する。

☆他人の動産に工作を加えた物がある時の加工物の所有権について、加工前に所有者と加工者との間で民法の加工に関する規定と異なる合意をすれば、その合意の効力が生じる

243条前段

※所有者を異にする数個の動産が、付合により、損傷しなければ分離することができなくなったときは、その合成物の所有権は、主たる動産の所有者に帰属する

244条

※付合した動産について主従の区別をすることができないときは、各動産の所有者は、その付合の時における価格の割合に応じてその合成物を共有する

13-4 共同所有関係

最判昭51.97

☆AとBが各2分の1の割合で共有する甲土地について、Aは、甲土地の不法占拠者に対し単独で不法行為に基づく損害賠償を請求することができるが、Aの請求することができる損害賠償の額は、Aの持分割合に相当する額に限られる

AとBが各2分の1の割合で共有する甲土地について、AB間の合意により甲土地をAが単独で使用する旨を定めた場合、Aは、甲土地を単独で使用することができ、その使用による利益についてBに対し不当利得返還義務を負わない

255条

・共有者の1人が、その持分を放棄した時、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する 

最判平元.11.24(百選Ⅲ55)

※共有者の一人が死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する

254条、253条1項

・共有者の1人が共有物について他の共有者に対して有する債権は、その特定承継人に対しても行使することができる

※各共有者は、その持分に応じ、管理の費用を支払い、その他共有物に関する負担を負う。そして、共有者の一人が共有物について他の共有者に対して有する債権は、その特定承継人に対しても行使することができる 

☆AとBが各2分の1の割合で共有する甲土地について、Aが甲土地の管理費用のうちBが負担すべき分を立て替えて支払った後、Bが甲土地の自己の持分をCに譲渡した場合、Aは、Cに対し、その立替金額の支払を請求することができる

☆共有者2人のうち1人が他の共有者のために共有物の管理費用を立て替えた場合において、立替金返還債務を負っている共有者が第三者に共有持分を譲渡したときは、立替金返還債権を有している共有者は、その第三者に対し、立替費用の支払を求めることができる

最判平11.11.9

・境界の確定を求める訴えは、隣接する土地の一方又は双方が数名の共有に属する場合には、共有者全員が共同してのみ訴え、又は訴えられることを要する固有必要的共同訴訟と解される……。したがって、共有者が右の訴えを提起するには、本来、その全員が原告となって訴えを提起すべきであるということができる。しかし、共有者のうちに右の訴えを提起することに同調しない者がいるときには、その余の共有者は、隣接する土地の所有者と共に右の訴えを提起することに同調しない者を被告にして訴えを提起することができるものと解するのが相当である

☆共有地について筆界の確定を求める訴えを提起しようとする場合に、一部の共有者が訴えの提起に同調しないときは、その余の共有者は、隣接する土地の所有者と訴えの提起に同調しない共有者とを被告として、上記訴えを提起することができる

最判平8.10.31(百選Ⅰ76)

・法は、裁判所の適切な裁量権の行使により共有者間の公平を保ちつつ、当該共有物の性質や共有状態の実状に合った妥当な分割が実現されることを期したものと考えられる。したがって、右の規定は、すべての場合にその分割方法を現物分割又は競売による分割のみに限定し、他の分割方法を一切否定した趣旨のものとは解されない

・共有物分割の申立てを受けた裁判所としては、現物分割をするに当たって、持分の価格以上の現物を取得する共有者に当該超過分の対価を支払わせ、過不足の調整をすることができる……のみならず、当該共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当であると認められ、かつ、その価格が適正に評価され、当該共有物を取得する者に支払い能力があって、他の共有者にはその持分の価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情が存するときは、共有物を共有者のうちの一人の単独所有又は数人の共有とし、これらの者から他の共有者に対して持分の価格を賠償させる方法、すなわち全面的価格賠償の方法による分割をすることも許される

最判昭38.4.19

※共有物を目的とする賃貸借契約の締結は、管理行為(252条本文)にあたり過半数の持分を有する共有者によって可能 

最判昭39.2.25

・共有者が共有物を目的とする賃借契約を解除することは民法252条にいう「共有物の管理に関する事項」に該当し、右賃借契約の解除については544条1項の規定の適用が排除されると解すべき 

最判昭31.5.10

・ある不動産の共有権者の一人がその持分に基づき当該不動産につき登記簿上の所有名義者に対してその登記の抹消を求めることは、妨害排除の請求にほかならずいわゆる保存行為に属するものというべく、従って、共同相続人の一人が単独で本件不動産に対する所有権移転登記の全部の抹消を求めうる

☆ABが所有する土地につき、Cが無権限で自己への所有権移転登記をした場合、Aは、単独で、Cに対し、抹消登記手続を請求することができる 

最判昭63.5.20

・第三者の占有使用を承認しなかった共有者は、共有者の一部から共有物の占有使用することを許された第三者に対して当然には共有物の明渡を請求することはできないと解するのが相当である 

※現にする占有がこれを承認した共有者の持分に基づくものと認められる限度で共有物を占有使用する権原を有する

☆ABが各2分の1の持分で甲土地を共有している場合に、Bは、AB間の協議に基づかずにAの承認を受けて甲土地を専有するCに対し、単独で、甲土地の明渡しを求めることはできない

☆共有物の共有者の1人が他の共有者との協議を経ないで第三者に共有物を貸した場合、第三者によるその占有を承認しなかった他の共有者は、当該共有物を占有している第三者に対し、当然には当該共有物の引渡しを求めることができない

252条

・共有物の管理に関する事項は、251条(共有物の変更)の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる

※共有物の持分は、譲渡、抵当権設定など自由に処分できる

第14章 用益物権

14-3 地役権

284条1項

土地の共有者の一人が時効によって地役権を取得したときは、他の共有者も、これを取得する

293条

☆地役権者がその権利の一部を行使しないときは、その部分のみが時効によって消滅する

282条1項 

※土地の共有者の1人は、その持分につき、その土地のために又はその土地について損する地役権を消滅させることができない

☆要役地が数人の共有に属する場合において、要役地の共有者の1人は、その持分につき、その土地のために損する地役権を放棄することはできない

292条

※要役地が数人の共有に属する場合において、その1人のために時効の中断又は停止があるときは、その中断又は停止は、他の共有者のためにも、その効力を生ずる

☆要役地が数人の共有に属する場合において、その1人のために時効の中断があるときは、その中断は、他の共有者のためにも、その効力を生ずる

☆地役権者は、承役地を不法占拠している者に対し、地役権に基づき、自己への承役地の明渡しを請求することができない

最判昭47.4.14

・袋地の所有権を取得した者は、所有権取得登記を経由していなくても、囲繞地の所有者ないしこれにつき利用権を有する者に対して、囲繞地通行権を主張することができる

・209条ないし238条は、いずれも、相隣接する不動産相互間の利用の調整を目的とする規定であって、210条において袋地の所有者が囲繞地を通行することができるとされているのも、相隣関係にある所有権共存の一態様として、囲繞地の所有者に一定の範囲の通行受忍義務を瑕疵、袋地の効用を完からしめようとしているためである。このような趣旨に照らすと、袋地の所有者が囲繞地の所有者らに対して囲繞地通行権を主張する場合は、不動産取引の安全保護をはかるための公示制度とは関係がない

☆袋地の所有権を取得した者は、所有権取得登記を経由していなくても、囲繞地の所有者及び囲繞地につき利用券を有する者に対して、公道に至るため囲繞地を通行する権利を主張することができる

最判昭30.12.26

・283条による通行地役権の時効取得については、いわゆる「継続」の要件として、承役地たるべき他人所有の土地の上に通路の解説を要し、その解説は要役地所有者によってなされることを要する

☆甲土地を所有するAは、甲土地の賃借人であるBがC所有の乙土地の上に通路を開設した場合、Aがその通路の利用を20年間続けていたとしても、甲土地を要役地、乙土地を承役地とする通行地役権の時効取得を主張することができない

第3部 債権の発生・効力

第15章 債権法序論

428条

※債権の目的がその性質上又は当事者の意思表示によって不可分である場合において、数人の債権者があるときは、各債権者はすべての債権者のために履行を請求し、債務者はすべての債権者のために各債権者に対して履行をすることができる

金銭債権は、当事者の意思表示によって、不可分債権とすることができる

大判大8.12.25

※持参債務の場合においては、債務者は債権者の住所において履行の提供をしなければ、給付をするのに必要な行為を完了したものとはいえない

※持参債務の場合において、債務者が債権者に目的物を発送したのみで給付をするのに必要な行為を完了したものとすると、民法484条の規定に反し債権者の不利益になる 

☆判例によれば、履行の場所につき別段の定めのない種類債権の目的物は、債務者が債権者の住所に目的物を発想した時には特定しない

429条1項前段

※不可分債権者の1人と債務者との間に更改又は免除があった場合においても、他の不可分債権者は、債務の全部の履行を請求することができる

☆不可分債権者の1人が債務者に対して債務を免除した場合であっても、他の不可分債権者は、債務者に対し、債務の全部の履行を請求することができる

466条1項

・債権は譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りではない

☆生命又は身体が侵害されたことによって生じた不法行為に基づく損害賠償請求権は、第三者に譲渡することができる

406条

☆債権の目的が数個の給付の中から選択によって定まるときは、その選択権は、債務者に属する 

第16章 債権の効力

16-2 債務不履行

419条1項ただし書

※約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による

☆消費貸借の約定利率が法定利率を超える場合、借主が返済を遅滞したときにおける損害賠償の額は、約定利率により計算される額であり、貸主は、約定利率により計算される額を超える損害が生じていることを立証しても、その賠償を借主に請求することはできない

最判昭41.6.24

・家屋の賃借人が賃貸借契約の終了後もその家屋を賃貸人に返還しない場合、賃貸人は債務不履行に基づく損害賠償請求(415条)をすることができるが、この場合における「損害額」は、「当該土地を他に賃貸することにより通常得べかりし賃料相当額」である

最判平21.1.19(百選Ⅱ6)

・事業用店舗の賃借人が、賃貸人の債務不履行により当該店舗で営業することができなくなった場合には、これにより賃借人に生じた営業利益の損失の損害は、債務不履行により通常生ずべき損害として民法416条により賃貸人にその賠償を求めることができると解するのが相当である

・民法416条1項にいう通常生ずべき損害の解釈上、本件において、被上告人が上記措置を執ることができたと解される時期以降における上記営業利益相当の損害のすべてについてその賠償を上告人らに請求することはできないというべきである

・被上告人がカラオケ店の営業を別の場所で再開する等の損害を回避又は減少させる措置を何ら執ることなく、本件店舗部分における営業利益相当の損害が発生するにまかせて、その損害のすべてについての賠償を上告人らに請求することは、条理上認められない

☆営業用店舗の賃貸人が修繕義務の履行を怠ったために賃借人がその店舗で営業をすることができなかった場合、賃借人は、これにより生じた営業利益の喪失による損害の賠償を、債務不履行により通常生ずべき損害として請求することができるが、賃借人が営業をその店舗とは別の場所で再開するなどの損害を回避又は現象させる措置を何ら執らなかったときは、そのような措置を執ることができた時期以降に生じた損害の全ての賠償を請求することはできない

421条

☆当事者が損害賠償の方法について金銭以外の物による旨の合意をすれば、その効力が認められる

民事執行法173条1項

※代金支払債務については間接強制の方法によることはできない

☆賃貸人が賃借人に対して賃貸建物を引き渡さないとき、賃借人は、賃貸人に対し、遅延の期間に応じ、債務の履行を確保するために相当と認める一定の額の金銭を自己に支払うべき旨を裁判所に請求することができる

☆工作物の撤去を命ずる判決が確定した場合、その判決の執行は、代替執行によることもできるが、間接強制によることもできる

※期限の定めのない貸金債権を共同相続した相続人の1人が、債務者に対して全額の弁済請求をした場合には、債務者は、弁済請求をした相続人以外の相続人に対しては履行遅滞の責任を負わない 

大判昭4.3.30、大判昭4.6.19 

※履行補助者の過失について、選任・監督における故意・過失の有無を問わず、債務者に責任を負わせている。

大判大10.5.27 

※解除による損害賠償の請求権は、その支払を催告した時から遅延利息を生じるものとされ、その遅滞は、催告の到達した翌日から生ずる

最決平17.12.9

☆判例によれば、不作為を目的とする債務の強制執行として間接強制をするには、債権者において、債務者がその不作為義務に違反するおそれがあることを立証すれば足り、債務者が現にその不作為義務に違反していることを立証する必要はない

最大判昭31.7.4

☆判例によれば、事態の真相を告白して陳謝の意を表明する内容の謝罪広告を新聞紙に掲載すべきことを命ずる判決の執行は、間接強制によらずに代替執行をすることができる

414条3項

※不作為を目的とする債務については、債務者の費用で、債務者がした行為の結果を除去し、又は将来のため適当な処分をすることを裁判所に請求することができる 

最判昭41.3.18

・不動産登記の抹消登記手続を求める請求は、被告の抹消登記真正という意思表示を求める請求であって、その勝訴の判決が確定すれば、それによって、被告が右意思表示をしたものとみなされ……、その判決の執行が完了する。

☆登記義務者に対し所有権移転登記手続を命ずる判決が確定した場合、その判決の執行は間接強制による必要はない

第17章 契約総論

17-3-1 履行上の牽連性―同時履行の抗弁権(533条)

最判昭47.9.7

・右売買契約は、Cの詐欺を理由とする上告人の取消の意思表示により有効に取り消されたのであるから、上告人、被上告人の右各義務は、民法533条の類推適用により同時履行の関係にあると解すべきであって、被上告人は、上告人から100万円の支払を受けるのと引き換えに右各登記手続をなすべき義務があるとした原審の判断は、正当としてこれを是認することができる

468条2項

※譲渡人が譲渡の通知をしたにとどまるときは、債務者は、その通知を受けるまでに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができる

468条1項前段

※異議をとどめないで承諾をした場合は譲渡人に対抗することができた事由であっても、これをもって譲受人に対抗することができない 

大判昭13.3.1

※同時履行の抗弁権が付着している債権を自働債権とする相殺は、一方的な意思表示により相手の抗弁権を消滅させることになるため認められず、相殺をするためには、履行の提供をすることにより相手の同時履行の抗弁権を消滅させていることを必要とする

大判明44.12.11

※同時履行の抗弁権が認められる場合につき引換給付判決をする 

最判昭29.7.27

・本件においては、売買の残代金支払と所有権移転登記、建物明渡並びに動産引渡とは同時履行の関係にあるものと言うべきであり、反対給付の提供なき上告人の右残代金支払の催告は被上告人を遅滞に陥らしあるに足らず、従ってこの催告に基づく解除は効力を生じえないものである

17-7 有償契約の問題(担保責任)

562条1項

※売主が契約の時においてその売却した権利が自己に属しないことを知らなかった場合において、その権利を取得して買主に移転することができないときは、売主は、損害を賠償して、契約の解除をすることができる

☆他人の土地の売買において、売主がその土地を取得して買主に移転することができない場合であっても、契約の時に売主がその土地が自己に属しないことを知らなかったときは、売主は、契約の解除をすることができる

565条、563条1項

※物の一部が契約の時に既に滅失していた場合において、買主がその滅失を知らなかったときは、買主は、その滅失していた部分の割合に応じて代金の減額を請求することができる

☆売買の目的物である建物の一部が契約の時に既に滅失していた場合において、買主がその滅失を知らなかったときは、買主は、その滅失していた部分の割合に応じて代金の減額を請求することができる

最判平13.11.27

・数量指示売買において数量が超過する場合に、565上の類推適用を根拠として売主が代金の増額を請求することはできないと解するのが相当である

・同条は数量指示売買において数量が不足する場合又は物の一部が滅失していた場合における売主の担保責任を定めた規定にすぎない

・数量が超過する場合、買主において超過部分の代金を追加して支払うとの趣旨の合意を認めうる時に売主が追加代金を請求しうることはいうまでもない

☆判例によれば、数量を指示してした土地の売買において数量が超過する場合には、売主は、数量が不足する場合の代金の減額に関する民法の規定の類推適用はできず、代金の増額を請求することはできない

・瑕疵担保による損害賠償請求権には消滅時効の規定の適用があり、この消滅時効は、買主が売買の目的物の引渡しを受けた時から進行する

・買主が売買の目的物の引渡しを受けた後であれば、遅くとも通常の消滅時効期間の満了までの間に瑕疵を発見して損害賠償請求権を行使することを買主に期待しても不合理でないと解されるのに対し、瑕疵担保による損害賠償請求権に消滅時効の規定の適用がないとすると、買主が瑕疵に気づかない限り、買主の権利が永久に存続することになるが、これは売主に過大な負担を課するものであって、適当とはいえない

☆買主の売主に対する瑕疵担保による損害賠償請求権の消滅時効は、買主が目的物の引渡しを受けた時から進行をはじめる

566条

※売買の目的である不動産のために存すると称した地役権が存しなかった場合において、買主がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達することができないときは、買主は契約の解除をすることができる(2項、1項) 。

※この場合において、契約の解除は、買主が事実を知った時から1年以内にしなければならない(3項)

☆売買の目的物である土地のために存すると称した地役権が損しなかった場合における買主の契約の解除は、買主が事実を知った時から1年以内にしなければならない

568条1項、566条

・強制競売における買受人は、561条から567条までの規定により、債務者に対し、契約の解除をし、又は代金の減額を請求することができる(568条1項)

 ☆強制競売の目的物である土地が留置権の目的物である場合において、買受人は、そのことを知らず、かつ、そのために買受けをした目的を達することができないときであっても、契約の解除をすることができない

第18章 債権債務の移転

467条1項、2項

※債権譲渡における債務者対抗要件は譲渡人からの通知又は債務者の承諾である(1項)

※債権譲渡における第三者対抗要件は確定日付ある譲渡人からの通知又は債務者の承諾である(2項)

大連判大8.3.28

※確定日付のない通知を受けた第一譲受人は、確定日付のある通知を受けた債務者に対し自らが債権者であることを対抗できない

※第一譲受人が債務者との関係においては債権者であるが、第三者に対する関係では債権者ではないとすることが奇観を呈すること、第一譲受人が弁済を受けた後、これを費消して無視力となってしまった場合に、確定日付を備えた第二譲受人の救済手段がないこと 

最判昭49.3.7(百選Ⅱ30)

・債権が二重に譲渡された場合、譲受人相互の間の優劣は、通知又は承諾に付された確定日付の先後によって定めるべきではなく、確定日付のある通知が債務者に到達した日時又は確定日付のある債務者の承諾の日時の先後によって決すべきである

※債権の二重譲渡があった場合、譲受人相互の優劣は、確定日付ある通知が債務者に到達した日時又は確定日付ある承諾の日時の先後によって決する

最判昭55.1.11

※確定日付ある通知が債務者に同時に到達した場合、各譲受人は債務者に対し譲受債権の全額を請求することができ、債務者は単に同順位の譲受人が他に存在することを理由として弁済を拒むことはできない

☆AのBに対する同一の指名債権について、AからCとDに二重に譲渡がされた事例において、確定日付のない通知が2通到達した場合、債務者BはCDいずれに対しても弁済を拒むことができる

☆AのBに対する同一の指名債権について、AからCとDに二重に譲渡がされた事例において、Cへの譲渡の第三者対抗要件具備が債権譲渡の対抗要件に関する民法上の特例等に関する法律に基づく登記で為され、Dへの譲渡のそれが確定日付のある通知でなされた場合、CD間の優劣関係は、債権譲渡登記がされたときと確定日付のある通知が債権者Bに到達した時の先後によって決定される 

最判平5.3.30

・被差押債権額と譲受債権額との合計額が右供託金額を超過するときは、差押債権者と債権譲受人は、公平の原則に照らし、被差押債権額と譲受債権額に応じて供託金額を按分した額の供託金還付請求権をそれぞれ分割取得する

最判昭58.10.4

※債権の譲受人と、同一債権に対し差押命令及び転付命令を得た者との優劣は、譲受人の対抗要件具備時と差押命令の第三債務者に対する送達時の先後によって決定する  

第19章 債権の消滅

19-2 弁済(474条以下)

最判昭37.8.21(百選Ⅱ35)

※受領権限一般への信頼の保護という趣旨から、債権者の代理人と称する者(訴訟代理人)への弁済についても、478条(債権の準占有者に対する弁済)の適用がある

最判昭48.3.27

※預金証書等の所持人にその預金債権と相殺する予定で貸付を行った場合にも、478条(債権の準占有者に対する弁済)の適用がある

☆AがB銀行に対する定期預金債権を有していたところ、Cが、Aと称して、B銀行に対し、その定期預金債権を担保とした貸付けの申込をし、B銀行は、CをAと誤信したため貸付に応じた。その後、貸付金債権の履行期に弁済がなかったため、B銀行がその貸付金債権を自働債権としてその定期預金債権と相殺をした場合において、貸付けの際に、金融機関として負担すべき相当の注意義務を尽くしていたときは、B銀行は、その相殺をもってAに対抗することができる

※債務者の弁済が、債権の準占有者に対する弁済として有効になる場合、真の債権者は、弁済を受領した債権の準占有者に対して、不当利得返還請求又は不法行為に基づく損害賠償請求をすることができる 

※取立債務等、債務の履行についてまず債権者の協力を必要とする場合には、債権者が取立等、必要な協力をしなければ、確定期限が到来したとしても、遅滞とはならない

最判昭61.4.11

・二重に譲渡された指名債権の債務者が、民法467条2項所定の対抗要件を具備した他の譲受人……より後にこれを具備した譲受人…… に対してした弁済についても、同法478条の規定の適用が有るものと解すべきである

・債務者において、劣後譲受人が申請の債権者であると信じてした弁済につき過失がなかったというためには、優先譲受人の債権譲受行為又は対抗要件に瑕疵があるためその効力を生じないと誤信してもやむを得ない事情があるなど劣後譲受人を真の債権者であると信ずるにつき相当な理由があることが必要である

最判昭63.7.1(百選Ⅱ34)

※借地上の建物の賃借人はその敷地の地代の弁済について法律上の利害関係を有すると解するのが相当である

☆判例によれば、土地の賃借人がその土地上の建物を賃貸している場合において、建物の賃借人は、その土地の賃料について、土地の賃借人の意思に反しても弁済をすることができる

494条前段

※弁済者は、債権者のために弁済の目的物を供託してその債務を免れることができる

☆債務者が供託をした場合、債権者が供託物を受け取らなくても、債務は消滅する

494条後段

※弁済者が過失なく債権者を覚知することができないときは、供託することができる

☆債務者が債権者を覚知することができない場合でも、確知することができないことについて過失がある場合には、供託をすることができない

496条

・債権者が供託を受諾せず、又は供託を有効と宣言した判決が確定しない間は、弁済者は、供託物を取り消すことができる(1項前段)

・前項の規定は、供託によって質権又は抵当権が消滅した場合には、適用しない(2項)

☆弁済の目的物が供託されたことによって抵当権が消滅した場合には、その供託をした者は、債権者が供託を受諾する前であっても、供託物を取り戻すことができない

☆弁済者が弁済による代位により取得した原債権を行使して訴訟においてその給付を請求するためには、原債権の発生原因事実のほか、求償権の発生原因事実も主張立証しなければならない

最判昭60.1.22

・代位弁済した保証人は、当該担保権が根抵当権の場合においては、501条本文の規定により債権者が債務者又は物上保証人に対し有していた根抵当権を行使することができるが、弁済による代位があっても、右根抵当権の被担保債権が保証人の債務者に対する求償権に変更されるものではなく、右根抵当権は従来通り原債権を担保することに変わりはないから、担保不動産の競売手続において保証人が優先弁済を受けるのは、右の原債権であって、債務者に対する求償権ではない

☆弁済による代位が生じた場合、弁済者が代位により取得する担保権の被担保債権は、求償権ではなく原債権である

438条

・連帯債務者の一人と債権者との間に混同があったときは、その連帯債務者は、弁済したものとみなす

☆連帯債務者の一人がその連帯債務に係る債権を相続により取得し、当該債権が混同によって消滅した場合、その者は、他の連帯債務者に対して有する求償権の範囲内で、代位により連帯債務に係る債権を取得する

☆連帯債務者の1人が債権者の地位を単独で相続した場合、他の連帯債務者は、連帯債務を負担しない

500条

※弁済をなすについて、「正当な利益を有する者」は、弁済によって当然に債権者に代位することができる

☆物上保証人が抵当権の実行を受けた場合、債権者の承諾がなくても債権者に代位することができる

最判昭60.2.12

・主たる債務者から委託を受けて保証をした保証人が、弁済その他自己の出捐をもって主たる債務を消滅させるべき行為……をしたことにより、民法459条1項後段の規定に基づく主たる債務者に対して取得する求償権……は、免責行為をしたときに発生し、かつ、その行使が可能となるものであるから、その消滅時効は、委託を受けた保証人が免責行為をした時から進行するものと解すべき

・事前求償権は事後求償権とその発生要件を異にするものであることは前示のところから明らかであるうえ、事前求償権については、事後求償権については認められない抗弁が付着し、また、消滅原因が規定されている(461条参照)ことに照らすと、両者は別個の権利であり、その法的性質も異なるものというべきであり、したがって、委託を受けた保証人が、事前求償権を取得しこれを行使することができたからといって、事後求償権を取得しこれを行使しうることとなるとはいえない

☆弁済者が弁済による代位により取得した原債権求償権とは別個に消滅時効にかかる

460条

・保証人は、主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、次に掲げるときは、主たる債務者に対して、あらかじめ、求償権を行使することができる(柱書)

・債務が弁済期にある時(2号本文) 

☆BのAに対する債務をCが保障し、AがCに弁済請求をする場合、CがBに依頼されて保証人となった場合は、Bの債務の弁済機が到来しているのであれば、CはAに弁済するまでもBに求償することができる

463条1項、443条1項

☆BのAに対する債務をCが保障し、AがCに弁済請求をする場合、連帯保証か普通保証かにかかわらず、Cが弁済する場合にはBにあらかじめ通知しないと、求償権が制限されることがある

最大判昭45.7.15

・弁済供託は弁済者の申請により供託官が債権者のために供託物を受け入れ管理するもので、民法上の寄託契約の性質を有する

・供託金の払渡請求権の消滅時効は民法の規定により、10年をもって完成するものと解するのが相当である

民事執行法156条2項

※差押えの競合が生じた場合には、その債務額(差押えと仮差押の執行の競合では債務の全額、配当要求では差押え額)を供託することが義務付けられている

☆債権全額についての二重差押えがあった場合、債務者は供託をしなければならない 

19-4 相殺(505条以下)

511条

※支払の差止めを受けた第三債務者は、その後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができない

最判昭32.3.8

☆賃貸人が賃料の不払いを理由として賃貸借契約を解除した後、賃借人が解除後に存在を知った賃貸人に対する債権と賃料債務を相殺により消滅させたとしても、賃貸借契約の解除の効力には影響がない

506条1項後段

・この場合において、その意思表示には、条件又は期限を付することができない

※相殺の意思表示には、条件を付することができない(506条1項後段)が、合意に基づく相殺においては、将来、一定の事由が生じた時に、当然に相殺の効力が生じることにする合意(停止条件付き相殺契約)が認められている

最判昭42.11.30

・民法509条は……不法行為に基づく損害賠償債権を自働債権とし不法行為による損害賠償債権以外の債権を受働債権として相殺をすることまでも禁止する趣旨ではないと解するのを相当とする

・民法509条は、不法行為の被害者をして現実の弁済により損害の店舗をうけしめるとともに、不法行為の誘発を防止することを目的とするものである

☆債権が不法行為によって生じたときは、その債権者は、その債権を自働債権として相殺することができる

☆不法行為に基づく損害賠償債権を自働債権とし、不法行為に基づく損害賠償債権以外の債権を受働債権とする相殺は、許される

最判昭53.9.21

※請負人の注文者に対する報酬金債権と注文者の請負人に対する目的物の瑕疵修補に代わる損害賠償債権とは、相殺することができる

・請負契約における注文者の工事代金支払い義務と請負人の目的物引渡義務とは対価的牽連関係に立つものであり、瑕疵ある目的物の引渡しを受けた注文者が請負人に対し取得する瑕疵修補に代わる損害賠償請求権は、右法律関係を前提とするもので、実質的・経済的には、請負代金を減額し、請負契約の当事者が相互に負う義務につきその間に透過関係をもたらす機能を有するのであって……しかも、請負人の注文者に対する工事代金債権と注文者の請負人に対する瑕疵修補に代わる損害賠償債権は、ともに同一の原因関係に基づく金銭債権である。以上のような実質関係に着目すると、右量債権は同時履行の関係にあるとはいえ、相互に現実の履行をさせなければならない特別の利益があるものとは認められず、両債権のあいだで相殺を認めても、相手方に対し抗弁権の喪失による不利益を与えることにはならないものと解される。むしろ、このような場合には、相殺により精算的調整を図ることが当事者双方の便宜と公平にかない、法律関係を勘弁ならしめるゆえんでもある 

・この理は、相殺に供される自働債権と受働債権の金額に差異があることにより異なるものではない

最判昭32.2.22

※催告並びに検索の抗弁権の付着する保証契約上の債権を自働債権として相殺することをみとめるときは、相殺者一方の意思表示をもって、相手方の抗弁権行使の機会を喪失せしめる結果を生ずるのであるから、かかる相殺はこれを許さないものとした原判決の判断は正当である

☆判例によれば、債権者が保証人に対して有する保証契約上の債権を自働債権とする相殺は、保証人が検索の抗弁を有するときは、双方の債務が弁済期にあったとしても、することができない

508条

・時効によって消滅した債権がその消滅以前に相殺に適するようになっていた場合には、その債権者は、相殺をすることができる

☆消滅時効期間の経過した債権が、その期間経過以前に債務者の有する反対債権と相殺適状にあった場合には、消滅時効期間の経過した債権を有する債権者は、債務者による消滅時効の援用の前後を問わず、相殺をすることができる

最判昭32.7.19

・民法506条1項にいわゆる相手方とは、相殺の意思表示を為す債務者が、自己の債務を履行すべき相手方たる債権者(受働債権の債権者)を指す

・468条2項において、債務者が「譲渡人に対して生じたる事由をもって譲受人に対抗することができる」とは、その事由が相殺の場合においては、譲受人に対し相殺の意思表示を為すことを認めたもの

☆債務者が受働債権の譲受人に対し相殺をもって対抗することができる場合、その相殺の意思表示は、受働債権の譲受人にしなければならない

最判平13.12.18

・有価証券に表章された金銭債権の債務者は、その債権者に対して有する弁済期にある自己の金銭債権を自働債権とし、有価証券に表章された金銭債権を受働債権として相殺をするに当たり、有価証券の占有を取得することを要しない

・有価証券に表章された債権の請求に有価証券の提示を要するのは、債務者に二重払の危険を免れさせるためであるところ、有価証券に表章された金銭債権の債務者が、自ら二重払の危険を甘受して上記の相殺をすることは、これを妨げる理由がない

☆有価証券に表章された金銭債権の債務者は、その債権者に対して有する弁済期にある自己の金銭債権を自働債権とし、有価証券に表章された金銭債権を受働債権として相殺する場合であっても、有価証券の占有を取得する必要はない

19-6 免除(519条)

519条

・債権者が債務者に対して債務を免除する意思を表示したときは、その債権は、消滅する

☆債権者は、債務者の承諾がなくても、その債務を免除することができる 

第20章 契約各論

20-1 贈与

549条

※贈与は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによってその効力を生ずる。

☆贈与は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾することによってその効力を生ずるから、贈与を受ける者が贈与の申込みをし、相手方がこれを承諾すれば贈与の効力が生ずる

400条

※債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない

☆贈与者は、贈与した特定物を引渡すまでの間、善良な管理者の注意をもってその物を保存する義務を負う

最判昭44.1.31

・他人の財産権をもって贈与の目的とすることも可能であって、かような場合には、贈与義務者はみずからその財産権を取得して受贈者にこれを移転する義務を負担するもので、かかる贈与契約もまた有効に成立するものと解すべき 

20-2 売買

572条

※売主は、560条から571条までの規定による担保の責任を追わない旨の特約としたときであっても、知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については、その責任を免れることができない

☆売買契約において瑕疵担保責任を免除する特約がある場合であっても、その当時売買の目的物について瑕疵があることを売主が知りながらその瑕疵があることを告げなかったときには、売主は瑕疵担保責任を免れない

大判昭2.12.27

※574条(売買の目的物の引渡しと同時に代金を支払うべきときは、その引渡しの場所において支払わなければならない)の規定は既に売買の目的物の引渡しを了した後においては適用がない。買主は売主の現在の住所において代金を支払うべきことになる

大判昭7.3.3

※代金の支払を受けながらも引き渡すべき目的物を引き渡さず占有している売主は、その目的物より生じる果実を取得することはできない

☆売主は、目的物の引渡しを遅滞している場合でも、引渡しまでは、これを使用し果実を取得することができるが、買主が代金を支払った後は、果実を取得することはできない

577条1項本文、2項

☆買主は、買い受けた不動産について抵当権、先取特権又は質権の登記があるときは、買主は、抵当権等の消滅請求の手続が終わるまで、その代金の支払を拒むことができる

最判平6.3.22

・民法557条1項により売主が手付の倍額を償還して契約の解除をするためには、手付の「倍額を償還して」とする同条項の文言からしても、また、買主が同条項によって手付を放棄して契約の解除をする場合との均衡からしても、単に口頭により手付の倍額を償還する旨を告げその受領を催告するのみでは足りず、買主に現実の提供をすることを要するものというべきである

最判昭47.3.9

・賃借地上にある建物の売買契約が締結された場合においては、特別の事情のないかぎり、その売主は買主に対し建物の所有権とともにその敷地の賃借権をも譲渡したものと解すべきであり、そして、それに伴い、……特別の事情のない限り、建物の売主は買主に対しその敷地の賃借権譲渡につき賃貸人の承諾を得る義務を負うものとすべきである

・建物の所有権は、その敷地の利用権を伴わなければ、その効力を全うすることができないものであるから、賃借地上にある建物の所有権が譲渡された場合には、特別の事情のないかぎり、それと同時にその敷地の賃借権も譲渡されたものと推定するのが相当であるし、また、賃借権の譲渡は賃貸人の承諾を得なければ賃貸人に対抗することができないのが原則であるから、建物の所有権とともにその敷地の賃借権を譲渡する契約を締結した者が右賃借権譲渡につき賃貸人の承諾を得ることは、その者の右譲渡契約に基づく当然の義務であると解するのが合理的である

☆賃借地上にある建物の売買契約が締結された場合、売主は、その建物の敷地を目的とする賃借権の譲渡につき賃貸人の承諾を得て敷地の賃借権を買主に移転する義務を負う

570条本文、566条

☆売買の目的物に隠れた瑕疵があった場合、その瑕疵の存在により契約をした目的を達することができないときは、買主は、契約を解除することができる

☆売買の目的物に隠れた瑕疵があり、買主がそのことを理由に契約を解除することができる場合、買主は、契約を解除するとともに、売主に対して損害賠償を請求することもできる

・契約の解除又は損害賠償の請求は、買主が事実を知った時から1年以内にしなければならない

570条ただし書

強制競売においては、売主の瑕疵担保責任の規定が適用されない

☆中古の建物について強制競売が行われた場合、その建物の買受人は、その建物の元の所有者に対し、その建物に隠れた瑕疵があることを理由として損害賠償を請求することができない

最判平4.10.20 

☆買主が売買の目的物に隠れた瑕疵があることを理由に売主に対して損害賠償請求をするには、瑕疵があることを知った時から1年以内に訴えを提起しなくても、売主の責任を問う意思を裁判外で告げることで足りる

最判平3.4.2 

☆建物とその敷地又は敷地の賃借権の売買において、敷地に、地盤が軟弱で不等沈下するという隠れた瑕疵があった場合、建物と敷地の売買においては、買主は売主に対して瑕疵担保責任を追求することができるが、建物と敷地の賃借権の売買においては、買主は売主に対して瑕疵担保責任を追求することができない

製造物責任法3条本文

※製造業者等は、その引渡した製造物の欠陥により他人の財産を侵害した場合、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる

☆製造物(製造又は加工された動産)を業として製造した者は、その引渡した製造物の欠陥により他人の財産を侵害した場合、故意又は過失がなかったことを証明しても、それによって生じた損害を賠償する責任を負う

20-4 消費貸借(587条)

最判昭33.6.6

・消費貸借における利息は、元本利用の対価であり、借主は元本を受け取った日からこれを利用しうるのであるから、特約のない限り、消費貸借成立の日から利息を支払うべき義務がある

☆判例によれば、利息付きの消費貸借において、借主は、特約のない限り、元本を受け取った日を含めた利息を支払わなければならない

☆民法上の消費貸借は、利息に関する約定をしなかった場合、無利息の消費貸借となる

589条

※消費貸借の予約は、その後に当事者の一方が破産手続開始の決定を受けたときは、その効力を失う

590条

※利息付きの消費貸借において、物に隠れた瑕疵があった時は、貸主は、瑕疵がないものをもってこれに代えなければならない。この場合においては、損害賠償の請求を妨げない

591条2項

※借主は、いつでも返還をすることができる

☆借主は、契約に定めた時期に先立って返還をすることができるが、貸主の利益を害することはできない

20-5 使用貸借(593条)

595条1項、608条1項

※使用貸借において、借主は、借用物の通常の必要費を負担する

※これに対し、賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる

594条1項、616条

※使用貸借の借主及び賃貸借の借主は、契約又はその目的物の性質によって定まった用法に従いその者の使用及び収益をしなければならない

599条

※使用貸借は、借主の死亡によって、その効力を失う

※使用貸借は、貸主の死亡によってはその効力を失わない

※賃貸借においても貸主が死亡した場合、契約は当然に終了しない

598条、616条

※使用貸借の借主及び賃貸借の借主は、借用物を原状に復して、これに附属させた物を収去することができる

596条、551条

※使用貸主は原則として担保責任を負わない

※使用貸主が瑕疵又は不存在を知りながら使用借主に告げなかったときには例外的に責任を負う

☆貸主は、使用貸借の目的物に瑕疵があることを知っていた場合、その存在を借主に告げていれば、瑕疵担保責任を負わない 

595条2項、583条2項、196条2項本文

☆甲建物について使用借主Bが有益費を支出し、使用貸借契約の終了時に、使用借主Bがその支出した金額を使用貸主Aに対して求めた場合、使用貸主Aは、使用借主Bが支出した金額ではなく、使用借主Bが有益費を支出したことによる甲建物の増加額を使用借主Bに支払うことができる 

597条2項ただし書

※使用貸借契約において目的物の返還時期の定めがない場合について、使用・収益の目的が定められている場合にその使用・収益を終わる前であっても、使用及び収益をするのに足りる期間を経過したときは、貸主は、直ちに返還を請求できる

最判昭34.8.18

・使用及び収益の目的は、当事者の意思の解釈上、適当な家屋を見つけるまでの一時的住居として使用収益するということであると認められるから、適当な家屋を見つけるに必要と思われる期間を経過した場合には、たとえ現実に見つかる以前でも597条2項ただし書により貸主において告知し得べき

☆AB間の使用貸借契約が、返還の時期は定めていないが、使用借主Bが他の適当な建物に移るまでのしばらくの間、使用借主Bが住居として使用することを目的としていた場合において、使用借主Bが現実に適当な建物を見つけることができなくても、それに必要な期間を経過したときは、使用貸主Aは、使用貸借契約の解約をすることができる

597条3項

※当事者が返還の時期並びに使用及び収益の目的を定めなかったときは、貸主は、いつでも返還を請求することができる

☆当事者が返還時期及び使用収益の目的を定めない使用貸借の場合、貸主は、相当の期間を定めて返還の催告をしなくても、使用貸借の目的物の返還を求めることができる

20-6 賃貸借

最判昭50.4.25

・所有権ないし賃貸権限を有しない者から不動産を賃借した者は、その不動産につき権利を有する者から右権利を主張され不動産の明渡を求められた場合には、賃借不動産を使用収益する権原を主張することができなくなるおそれが生じたものとして、559条で準用する576条により、右明渡請求を受けた以後は、賃貸人に対する賃料の支払いを拒絶することができる

☆判例によれば、AがB所有の甲建物を賃貸権限を有しないCから賃借している場合において、BがAに甲建物の明渡を求めたときは、Aは、甲建物を使用収益することができなくなるおそれが生じたものとして、Cに対し、それ以降の賃料の支払を拒絶することができる

613条1項前段

※転借人は、賃貸人に対して直接に義務を負う

※賃貸人は、転借人に対し、原則として、賃借物を使用収益させる義務を負わず、賃貸物の修繕義務も負わない

☆賃貸人が適法に賃借物を転貸した場合において、賃貸人が賃借人に対し賃借物の修繕義務を負うときでも、賃貸人は、転借人に対しては直接に賃借物の修繕義務を負わない

615条

※賃借物が修繕を要し、又は賃借物について権利を主張する者があるときは、賃借人は、遅滞なくその旨を賃貸人に通知しなければならない。ただし、賃貸人が既にこれを知っているときは、この限りでない

☆賃借人は、賃貸借の目的建物が修繕を要する状態になった場合、賃貸人が既にこれを知っているときを除き、目的建物が修繕を要する旨を遅滞なく賃貸人に通知しなければならない

606条2項

※賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない

608条1項

※賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる

☆賃借人は、賃貸借の目的建物の保存のために必要な費用を支出した場合、賃貸借が終了する前であっても、直ちにその費用の償還を賃貸人に請求することができる

608条2項

※賃借人が賃借物について有益費を支出したときは、賃貸人は、賃貸借の終了の時に、民法196条2項の規定に従い、その償還をしなければならない

☆賃借人は、賃貸借の目的建物の改良のために工事費用を支出した場合において、その価格の増加が現存するときは、その工事について賃貸人から了解を得ていないときであっても、賃貸人の選択に従い、その支出した費用の額又は目的建物の増加額について、賃貸借の終了時にその償還を賃貸人に請求することができる

借地借家法26条2項

※建物の賃貸借について期間の定めが有る場合において、当事者が期間の満了の1年前から6月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知をした場合(借地借家法26条1項)であっても、建物の賃貸借の期間が満了した後建物の賃借人が使用を継続する場合において、建物の賃貸人が遅滞なく異議を述べなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす

大判昭9.3.7

※賃貸人と賃借人との間との合意をもって転貸借を消滅させる理由のないことは信義の原則よりしても当然

☆土地の賃借人が賃貸人の承諾を得て当該土地を転貸したときは、原賃貸借の賃貸人と賃借人との間で原賃貸借を合意解除しても、これをもって転借人に対抗することができない

最判昭36.12.21

最判平9.2.25(百選Ⅱ62) 

※賃借人の債務不履行によって賃貸借が解除されると、転貸借はその根拠を失うので終了する。このときには、賃借人と転借人との契約の効力が当然に消滅するわけではないが、賃貸借の解除によって転貸人の義務が履行不能となるので、転貸借は終了する

※終了の時期は賃貸人が転借人に返還を請求したときである

☆建物の賃借人が賃貸人の承諾を得て当該建物を転貸した場合において、原賃貸借が賃借人(転貸人)の賃料不払を理由とする解除により終了したときは、転貸借は、原賃貸借の賃貸人が転借人に対して当該建物の返還を請求した時に、転貸人の転借人に対する債務の履行不能により終了する

借地借家法19条

※地主に不利となるおそれがないにもかかわらず、地主が借地権の譲渡・転貸を承諾しないときは、借地権者は、地主の承諾に代わる許可を裁判所に求めることができる

☆建物所有を目的とする土地賃貸借の賃借人がその土地上に建築した建物を第三者に譲渡しようとする場合において、その第三者が土地の転借をしても原賃貸借の賃貸人に不利となるおそれがないにもかかわらず、当該賃貸人がその転貸を承諾しないときは、裁判所は、原賃貸借の賃借人の申立てにより、承諾に代わる許可を与えることができる

大判昭8.12.11

※宅地の賃借人が借地の上に所有する建物を第三者に賃貸し、その借地をこれに使用させても、借地を転貸したことにはならない

☆建物所有を目的とする土地賃貸借の賃借人が、当該土地状に建物を建築士、土地の賃貸人の承諾なくして当該建物を第三者に賃貸し、使用収益させることは、土地の無断転貸に該当しない 

最判昭62.10.8

※賃貸土地の無断転貸を理由とする賃貸借契約の解除権は、その消滅時効については、債権に準ずるものとして民法167条1項が適用され、その権利を行使することができる時から10年を経過したときは時効によって消滅する

・賃貸土地の無断転貸を理由とする賃貸借契約の解除権は、賃借人の無断転貸という契約義務違反事由の発生を原因として、賃借人を相手方とする賃貸人の一方的な意思表示により賃貸借契約関係を終了させることができる形成権である

・消滅時効は、右使用収益開始時から進行する

・右解除権は、転借人が、賃借人(転貸人)との間で締結した転貸借契約に基づき、当該土地について使用収益を開始した時から、その権利行使が可能となったものとうことができる

☆無断転貸を理由とする解除権は、転貸借契約に基づき転借人が使用収益を開始した時から10年を経過したときは、時効によって消滅する 

最判平14.3.28

・敷金の充当による未払い賃料等の消滅は、敷金契約から発生する効果であって、相殺のように当事者の意思表示を必要とするものではないから、民法511条によって……当然消滅の効果が妨げられない

☆建物の賃貸借契約において、契約が終了し目的建物が明け渡された後に敷金の返還請求がされた場合、賃料の未払いがあるときは、敷金が当然に充当されるため、賃貸人が賃借人に相殺の意思表示をする必要はない

最判昭48.2.2

☆建物の賃貸借契約において、敷金返還請求権は、賃貸借契約が終了し目的建物が明け渡された時点において、それまでに生じた被担保債権を控除した残額に付き具体的に発生するものであるから、賃貸借契約が終了した後であっても、目的建物が明け渡される前においては、転付命令の対象とはならない

☆地上権は抵当権の目的とすることができるが、土地賃借権は抵当権の目的とすることができない

 

20-8 請負(632条)

634条1項本文

※同項本文における「瑕疵」は、売買契約における瑕疵担保責任の規定とは異なって、「隠れた」瑕疵であることが明文条要求されていない

☆仕事の目的物の引渡しを要する場合において、その引渡しのときに目的物の瑕疵が明らかであったときでも請負人は瑕疵担保責任を負う

634条2項前段

※注文者は、瑕疵の修補に代えて、又はその修補とともに、損害賠償の請求をすることができる

☆仕事の目的物に瑕疵がある場合、注文者は、その瑕疵の修補に代えて、又はその修補とともに、損害賠償の請求をすることができる

636条

※前2条の規定は、仕事の目的物の瑕疵が注文者の供した材料の性質又は注文者の与えた指図によって生じたときは、適用しない。ただし、請負人がその材料又は指図が不適当であることを知りながら告げなかったときは、この限りでない

☆仕事の目的物の瑕疵が注文者の供した材料の性質又は注文者の与えた指図によって生じた場合、請負人は、その材料又は指図が不適当であることを知りながら注文者に告げなかったときを除き、瑕疵担保責任を負わない

635条

※仕事の目的物に瑕疵があり、そのために契約をした目的を達することができないときは、注文者は、契約の解除をすることができる。ただし、建物その他の土地の工作物については、この限りでない

☆仕事の目的物に瑕疵がある場合において、その瑕疵を修補することが不能であるときでも、建物その他の土地の工作物である場合、注文者は、請負契約を解除することができない

637条2項

☆仕事の目的物の引渡しを要しない場合、請負人の瑕疵担保責任の存続期間は、その仕事が終了した時から起算する

641条

※請負人が仕事を完成させるまでは、注文者はいつでも損害を賠償して契約を解除できる

※損害賠償の範囲は、支出した費用の他仕事を完成すれば得たであろう利益を含む

642条1項前段

☆注文者が破産手続開始決定を受けたときは、請負人又は破産管財人は、契約の解除をすることができる

20-9 委任(643条)

651条1項

・委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる 

652条、620条

※委任の解除は、将来に向かってのみその効力を生ずる

☆委任契約を債務不履行により解除したときは、その解除は、将来に向かってのみその効力を生ずる

643条

※委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。

☆委任契約も準委任契約も、書面でしなくてもその効力を生ずる

650条2項前段

・受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる債務を負担したときは、委任者に対し、自己に代わってその弁済をすることを請求をすることができる(代弁済請求権)

最判昭47.12.22 

・委任者は、受任者が……650条2項前段の規定に基づき委任者をして受任者に代わって第三者に弁済をなさしめうる権利を受働債権とし、委任者が受任者に対して有する金銭債権を自働債権として相殺することはできない

※代弁済請求権が受任者の負担した債務の免脱を請求するものであり自己に対して一定金額の支払を請求する権利ではないという性質を有するため、代弁済請求権が通常の金銭債権とは異なる目的を有し相殺の「同種の目的」の要件を欠く

☆受任者がその委任事務処理の必要上負担した債務を委任者に対し受任者に変わって弁済することを請求する権利については、委任者がこれを受働債権として相殺することはできない

653条1号

・委任は、委任者又は受任者の死亡によって終了する

☆委任契約は、受任者の死亡によって終了し、委任者の死亡によっても終了する

655条

・委任の終了事由は、これを相手方に通知した時、又は相手方がこれを知っていたときでなければ、これをもってその相手方に対抗することができない

☆委任者が死亡した場合でも、委任者の相続人がこれを受任者に通知せず、かつ、受任者が委任者の死亡を知らなかったときは、委任者の相続人は、委任者の死亡による委任の終了を受任者に対抗することができない

648条

☆受任者は、特約がなければ、委任者に対して報酬を請求することができない(1項)

・委任が受任者の責めに帰することができない事由によって履行の中途で終了したときは、受任者は、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる(3項)

☆報酬を支払う旨の特約がある場合において、委任が受任者の責めに帰することができない事由によって履行の中途で終了したときは、受任者は、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる

645条

☆受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告しなければならない

20-10 寄託(657条)

666条2項

※消費寄託契約において、返還の時期を定めなかったときは、寄託者は、いつでも返還を請求することができる

☆有償の金銭消費寄託契約において、当事者が返還の時期を定めなかったときでも、寄託者は、受寄者に対し相当の期間を定めて催告をしなくても、金銭の返還を請求することができる

返還時期の定めのない消費寄託において、寄託者が返還を請求するには、相当の期間を定めて催告をすることは必要ない

657条

・寄託は、当事者の一方が相手方のために保管をすることを約してある物を受け取ることによって、その効力を生ずる

有償寄託でも無償寄託でも要物契約

662条

・当事者が寄託物の返還の時期を定めたときであっても、寄託者は、いつでもその返還を請求することができる

☆返還時期の定めがある寄託においても、寄託者は、いつでも目的物の返還を請求することができる

商法593条

※商人がその営業の範囲内において寄託を受けたときは、報酬を受けない場合であっても善良なる管理者の注意をなすことを要する

☆商人がその営業の範囲内において寄託を受けた場合には、無報酬のときであっても、善良な管理者の注意をもって寄託物を保管する義務を負う

661条ただし書

・寄託者は、寄託物の性質又は瑕疵によって生じた損害を受寄者に賠償しなければならない。ただし、寄託者が過失なくその性質若しくは瑕疵を知らなかったとき、又は受寄者がこれを知っていたときは、この限りでない

☆寄託者は、原則として寄託物の瑕疵によって受寄者に生じた損害を賠償する義務を負うが、過失なくその瑕疵を知らなかったときは免責される

20-11 組合(667条)

669条

☆金銭を出資の目的とした場合、組合員がその出資をすることを怠ったときは、その利息を支払うほか、損害の賠償をしなければならない 

672条

※組合契約で1人又は数人の組合員に業務の執行を委任したときは、その組合員は、正当な事由がある場合に限り、他の組合員の一致によって解任することができる

☆業務執行組合員については、正当な事由がある場合に限り、他の組合員の全員の一致によって解任することができる

673条

☆各組合員は、組合の業務を執行する権利を有しないときであっても、その業務及び組合財産の状況を検査することができる

678条2項

・組合の存続期間を定めた場合であっても、各組合員は、やむを得ない事由があるときは、脱退することができる

683条

・やむを得ない事由があるときは、各組合員は、組合の解散を請求することができる 

681条2項

☆脱退した組合員の持分は、その出資の種類を問わず、金銭で払い戻すことができる  

670条1項

☆権利能力なき社団においては、代表機関が対外的に団体を代表して行為するが、組合においては、契約で業務執行組合員が定められていないときは、組合員の過半数が共同して組合を代理する

※組合契約をもって業務執行組合員を定めなかったときは、各組合員が業務執行にあたることになるが、その場合には組合の意思決定は頭数の過半数で行う

☆A,B,Cの3名が共同で縫製機械を所有して縫製請負事業を行うため、6:3:1の割合で金銭を出資して甲組合を結成した場合、組合契約をもって業務執行組合員を定めなかったときは、甲組合の業務執行は、BとCの合意により決定することができる

675条

☆組合の債権者は、その債権の発生の時に組合員の損失分担の割合を知らなかったときは、各組合員に対して等しい割合でその権利を行使することができる

682条

※組合は、その目的である事業の成功又はその成功の不能によって解散する

☆組合は、その目的である事業の成功によって解散する

第21章 事務管理

21-1 事務管理(697条)

702条2項、650条2項

※事務管理者は、本人のために有益な債務を負担した場合には、本人に対し、自己に代わってその弁済をすることを請求することができる

☆義務なく他人のために事務の管理を始めた者は、本人のために有益な債務を負担した場合において、その債務が弁済期にあるときは、本人に対し、自己に代わってその弁済をすることを請求することができる

☆事務管理によって管理者が本人のために有益な債務を負担した場合には、管理者は、自己に代わってその弁済をすることを本人に対して請求することができる

最判昭36.11.30

・事務管理者が本人の名で第三者との間に法律行為をしても、その行為の効果は、当然には本人に及ぶ筋合のものではない

・事務管理は、事務管理者と本人との間の法律関係を謂うのであって、管理者が第三者と為した法律行為の効果が本人に及ぶ関係は事務管理関係の問題ではない

事務管理の管理者が本人の名でした法律行為の効果は、直接に本人に帰属しない 

702条3項

・管理者が本人の意思に反して事務管理をしたときは、本人が現に利益を受けている限度においてのみその費用の償還を請求できる

☆事務管理が本人の意思に反してされた場合には、本人のために有益な費用を支出した管理者は、本人が現に利益を受けている限度においてのみ、費用の償還を受けることができる

※事務管理者は、報酬の有無にかかわらず、原則として善良な管理者の注意をもって事務を処理する義務を負う

※事務管理者は本人に対し、報酬の支払を請求できない

698条

・管理者は、本人の身体、名誉又は財産に対する急迫の危害を免れさせるために事務管理をしたときは、悪意又は重大な過失があるのでなければ、これによって生じた損害を賠償する責任を負わない 

☆本人の身体、名誉又は財産に対する急迫の危害を免れさせるために事務管理をした管理者は、これによって本人に損害を与えたときであっても、悪意又は重大な過失がなければ損害賠償の責任を負わない

※管理者は、原則として善良な管理者の注意義務を負う

☆Aが首輪の付いている飼い主不明の犬を発見し、その不明の飼い主のために犬の世話をした場合、Aが自分の家に犬を連れて帰り、世話をしていたところ、犬が下駄箱の上に置かれていた花瓶を倒し、壊してしまった。この場合、Aに過失がなかったとしても、Aは犬の飼い主に対して損害賠償を請求することはできない

第22章 不当利得

705条

※債務の弁済として給付をした者は、そのときにおいて債務の存在しないことを知っていたときはその給付したものの返還を請求することができない

☆債務が存在しないにもかかわらず、その事実を過失により知らないで債務の弁済として給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができる

最判昭35.5.6

・705条にいう「債務の弁済」は、給付が任意に為されたものであることを要するところ、被上告人は後日の返還請求を留保し、やむを得ず弁済をしたものであって、右給付は任意になされたものということはできない

☆Aが公正証書を債務名義としてBの財産に強制執行をしようとしている場合、Bは、その強制執行に係る債務を既に弁済したことを知りつつ、後日返還を請求する旨を留保して、強制執行を避けるためやむを得ずAに債務の弁済として金員を支払った時は、Aに対し、その金員の返還を請求することができる

最判平3.3.22

☆抵当権者は、自己の抵当権が設定された不動産について競売がされた場合には、不動産競売事件の配当期日において配当異議の申出をしなかったとしても、債権又は優先権を有しないにもかかわらず配当を受けた債権者に対し、その者が配当を受けたことによって自己が配当を受けることができなかった金銭相当額の金員について不当利得返還請求をすることができる

第23章 不法行為

最判平13.3.13(百選Ⅱ95)

・本件交通事故における運転行為と本件医療事故における医療行為とは民法719条所定の共同不法行為に当たるから、各不法行為者は被害者の被った損害の全額について連帯して責任を負うべきものである。本件のようにそれぞれ独立して成立する複数の不法行為が順次競合した共同不法行為においても別異に解する理由はないから、被害者との関係においては、各不法行為者の結果発生に対する寄与の割合をもって被害者の被った損害の額を按分し、各不法行為者において責任を負うべき損害額を限定することは許されない

・共同不法行為によって被害者の被った損害は、各不法行為者の行為のいずれとの関係でも相当因果関係に立つものとして、各不法行為者はその全額を負担すべきものであり、各不法行為者が賠償すべき損害額を按分、限定することは連体関係を免除することとなり、共同不法行為者のいずれからも全額の損害賠償を受けられるとしている民法719条の明文に反し、これにより被害者保護を図る同条の趣旨を没却することとなり、損害の負担について公平の理念に反することとなる

717条1項

土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない

☆土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによってAに損害が生じた場合において、その工作物の占有者であるBが損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、その工作物の所有者であるCが、Aに対し、その損害を賠償する責任を負う。

最判平15.7.11

・複数の加害者の過失及び被害者の過失が競合する1つの交通事故において、その交通事故の原因となったすべての過失の割合を認定することができるときには、絶対的過失割合に基づく被害者の過失による過失相殺をした損害賠償額について、加害者らは連帯して共同不法行為に基づく賠償責任を負う

・各加害者と被害者との関係ごとにそのあいだの過失の割合に応じて相対的に過失相殺をすることは、被害者が共同不法行為者のいずれからも全額の損害賠償を受けられるとすることによって被害者保護を図ろうとする民法719条の趣旨に反することになる

☆複数の加害者であるABの過失と被害者Cの過失が競合する1つの交通事故において、その交通事故の原因となった全ての過失の割合を認定することができ、A、B及びCの過失割合が順次5:3:2である場合には、ABは、Cに対し、連帯して、その損害の8割に相当する額を賠償する責任を負う

最判昭34.11.26

・民法722条にいわゆる過失とは単に被害者本人の過失のみでなく、ひろく被害者側の過失をも包含する趣旨と解するを相当とする 

大判昭7.10.6

※胎児を代理してなした行為は、胎児に対して何らの効力を有しない

☆胎児の父が他人の不法行為によって死亡した場合、胎児の母は、子の出生前にその代理人として子の固有の慰謝料請求権を行使することはできない

最大判昭42.11.1(百選Ⅱ96) 

・その相続人は当然に慰謝料請求権を相続する

・慰謝料請求権そのものは、財産上の損害賠償請求権と同様、単純な金銭債権であり、相続の対象となりえないものと解すべき法的根拠はない

・711条によって親族等が取得する固有の慰謝料請求権と被害者の取得する慰謝料請求権は被害法益を異にし、併存しうるものであり、かつ、被害者の相続人は必ずしも、711条の規定により慰謝料請求権を取得しうるものとは限らないのであるから711条があるからといって、慰謝料請求権が相続の対象となりえないものと解すべきではない

☆不法行為による生命侵害の場合、被害者が加害者に対して取得した慰謝料請求権は、被害者の相続人に相続される

最判昭33.8.5

※不法行為により身体に傷害を受けた者の母親が、そのために被害者の生命侵害の場合にも比肩し得べき精神上の苦痛を受けたときは、民法709条、710条に基づいて自己の権利として慰謝料を請求しうる

※711条が生命を害された者の近親者の慰謝料請求につき明文で規定されているからといって、直ちに生命侵害以外の被害について慰謝料請求権が否定されることにならない

最判昭39.6.24(百選Ⅱ93)

・未成年者の過失を斟酌する場合においても、未成年者に事理を弁識するに足る知能が具わっていれば足り、未成年者に対し不法行為責任を追わせる場合のごとく、行為の責任を弁識するに足る知能が備わっていることを要しない

・722条2項の過失相殺の問題は、不法行為者に対し積極的に損害賠償責任を追わせる問題とは趣を異にし、不法行為者が責任を負うべき損害賠償の額を定めるにつき、公平の見地から、損害発生についての被害者の不注意をいかに斟酌するかの問題にすぎない

718条

※動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、この限りでない。占有者に代わって動物を管理する者も、同様の責任を負う

第4部 債権の履行確保

第24章 責任財産の保全

24-1 債権者代位権

最判昭58.10.6

・具体的な金額の慰謝料請求権が当事者間において客観的に確定したときは……債権者代位の目的とすることができる

☆名誉侵害を理由とする慰謝料請求権は、具体的な金額が当事者間において客観的に確定したときは、債権者代位権の目的となる

☆名誉毀損による慰謝料請求権は、被害者がその請求権を行使する意思を表示した後であっても、具体的な金額が当事者間において客観的に確定する前は、被害者の債権者による代位行使の対象とはならない

423条1項

※債権者は、自己の債権を保全するため、債権者に属する権利を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利は、この限りではない

※夫婦間の取消権は一身専属権にあたる 

☆夫婦間の契約取消権(754条)は、夫婦の一方の債権者による債権者代位権の目的とならない

※認知請求権は一身専属権にあたる

☆認知請求権は、認知されていない子の債権者による債権者代位権の目的とならない

☆詐欺による取消権は、債権者代位権の目的となる

最判平13.11.22(百選Ⅲ92)

・遺留分減殺請求権は、遺留分権利者が、これを第三者に譲渡するなど、権利行使の確定的意思を有することを外部に表明したと認められる特段の事情がある場合を除き、債権者代位の目的とすることができない

・遺留分制度は、被相続人の財産処分の事由と身分関係を背景とした相続人の諸利益との調整を図るものである。民法は、被相続人の財産処分の自由を尊重して、遺留分を侵害する遺言について、いったんその意思どおりの効果を生じさせるものとした上、これを覆して侵害された遺留分を回復するかどうかを、専ら遺留分権利者の自律的決定にゆだねたものということができる。そうすると、遺留分減殺請求権は、前記特段の事情がある場合を除き、格子状の一身専属製を有すると解するのが相当であり、民法423条1項ただし書にいう「債務者の一身に専属する権利」に当たるというべきであって、遺留分権利者以外の者が、遺留分権利者の減殺請求権行使の意思決定に介入することは許されないと解するのが相当である

遺留分減殺請求権は、遺留分権利者が権利行使の確定的意思を有することを外部に表明したと認められる特段の事情がある場合を除き債権者代位権の目的とはならない

☆AがBに対して有している売買代金債権をAの債権者CがAに代わって行使し、売買代金の支払を求めて訴えを提起した場合において、この請求を認容する判決が確定しても、このAのBに対する売買代金債権が、弁済により消滅したものとみなされるわけではない

最判昭48.4.24

※履行期後に債権者が代位権を行使したときはなおさら、たとえ裁判外の代位でも、債権者がこれを債務者に通知するか、債務者がこれを知った後は、債務者はその権利の処分をすることができなくなる

大判昭9.5.22

※債権者は、債務者の代理人としてではなく、自己固有の資格において、債務者に属する権利を行使するのであるから、債務者の名義ではなく、債権者自身の眼意義で代位権行使すべきものとされている。

※代位権を行使する場合、債権者と債務者との間には法定委任関係があるものとして、代位債権者には善良な管理者の注意義務があると解しなければならない

最判昭55.7.11

※離婚の際の財産分与請求権は、具体的内容が形成されるまでは、その範囲及び内容が不確定・不明確であるから、これを保全するために債権者代位権を行使することはできない

☆判例によれば、離婚に伴う財産分与請求権は、審判によりその具体的内容が確定したときは、財産分与を受ける者の債権者が債権者代位の目的とすることができる

最判昭44.6.24(百選Ⅱ11)

※被保全債権及び被代位債権がともに金銭債権である場合には、代位債権者の被保全債権の範囲においてのみ代位行使すべき

☆債務者に対して複数の債権者がいる場合において、このうちの一人が債務者の有する金銭債権を代位行使するときは、代位行使する金銭債権の額は、代位債権者の被保全債権の額の範囲内となる

☆債権者は、自己の債権保全に必要な限度で、債務者に代位して、他の債権者に対する債務の消滅時効を援用することができる

※第三債務者は、債務者に対して有する同時履行その他全ての抗弁権を代位債権者に対して主張することができる 

☆債権者は、債権者代位権行使のために必要な費用を支出したときは、その費用の償還請求権を有する 

最判昭28.12.14

※債権者代位権の行使は、債務者が自ら権利を行使しない場合に限り許され、債務者が既に当該権利を行使している場合には、その行使の方法又は結果の良否を問わず、債権者は代位権を行使できない

☆債権者は、債務者が自ら当該権利を行使しているがその方法が不誠実かつ不適当である場合でも、債権者代位権を行使することができない

最判昭29.9.24 

☆建物賃借人は、その賃借権を保全するため、賃貸人たる建物所有者に代位して建物の不法占拠者に対してその明渡しを請求し、直接自己に対して明渡しを請求することができる

☆債権者代位訴訟の判決の既判力は、債権者の勝訴・敗訴にかかわらず債務者に及ぶ 

24-2 詐害行為取消権(424条)

最判昭53.10.5(百選Ⅱ16)

・民法424条の債権者取消権は、究極的には債務者の一般財産による価値的満足を受けるため、総債権者の共同担保の保全を目的とするものであるから、このような制度の趣旨に照らし、特定物債権者は目的物自体を自己の債権の弁済に充てることはできないものというべく、原判決が「特定物の引渡請求権に基づいて直接自己に所有権移転登記を求めることは許されない」とした部分は結局正当に帰する

大連判明44.3.24(百選Ⅱ14)

※詐害行為取消権の性質について、債務者の詐害行為を取り消して逸出財産を現状に回復せしめることを目的とする訴権であるとした上で、その効果は原告たる取消債権者と被告たる受益者又は転得者の間にのみ及ぶとする(相対的取消し)

受益者が債権者を害すべき事実を知らない場合であっても転得者がこれを知っていれば、債権者は、転得者に対し詐害行為取消権を行使することができる

※債務者を被告とする必要はない

☆詐害行為取消権を行使するためには、受益者又は転得者を相手方として訴えを提起すれば足り、債務者を相手方とする必要はない

大判明44.3.24(百選Ⅱ15) 

・訴権の目的として単に法律行為の取消のみを規定し、取消の結果直ちに原状回復の請求を為すと否とを原告債権者適宜の処置に委ねたるを以て、此二者は相共に訴権の成立要件を形成するものにあらず

☆ 債権者Aが、債務者Bから第三者Cへの建物贈与について詐害行為取消権を行使した場合、Aは、BからCへの所有権移転登記の抹消登記手続を請求することなく、BC間の贈与契約の取消しを請求することができる

・特に債務者に対して訴えを提起しその法律行為の取消しを求むるの必要なし。故に債務者はその訴訟の対手人たるべき適格を有せざる

債権者Aが、債務者Bから第三者Cへの建物贈与について詐害行為取消権を行使した場合、Aは、詐害行為の取消しを請求するに際しては、Cに対して訴えを提起すればよい

424条1項

債権者Aが、債務者Bから第三者Cへの建物贈与について詐害行為取消権を行使した場合、Aは、BC間の贈与契約の当時Bが無資力であったことを主張・立証すれば足り、詐害行為取消訴訟の口頭弁論終結時までにBの資力が回復したことは、Cが主張立証しなければならない

424条1項ただし書

※債務者の詐害行為についての、受益者又は転得者の悪意は、受益者又は転得者において自ら悪意でなかったことを主張立証しなければならない

最判平11.6.11(家族法百選70)

・共同相続人の間で成立した遺産分割協議は、詐害行為取消権行使の対象となりうる

・遺産分割協議は、相続の開始によって共同相続人の共有となった相続財産について、その全部又は一部を各相続人の単独所有とし、又は新たな共有関係に移行させることによって、相続財産の帰属を確定させるものであり、その性質上、財産権を目的とする法律行為であるということができる

最判昭49.9.20

相続の放棄のような身分行為については、民法424条の詐害行為取消権行使の対象とならない

☆相続人の債権者は、相続人が無資力であるにもかかわらず相続放棄をした場合でも、詐害行為取消権を行使することはできない

最判昭35.4.26

・詐害行為の成立には債務者がその債権者を害することを知って法律行為をしたことを要するが、必ずしも害することを意図しもしくは欲してこれをしたことを要しない

最判平12.3.9(百選Ⅱ18)

・離婚に伴う財産分与は、民法768条3項の規定の趣旨に反して不相当に過大であり、財産分与に仮託してされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情のない限り、詐害行為とはならない

・離婚に伴う財産分与として金銭の給付をする旨の合意がされた場合において、右特段の事情があるときは、不相当に過大な部分にについて、その限度において詐害行為として取り消されるべき

・離婚に伴う慰謝料を支払う旨の合意は、配偶者の一方が、その有責行為及びこれによって離婚のやむなきに至ったことを理由として発生した損害賠償債務の存在を確認し、賠償額を確定してその支払を約する行為であって、新たに創設的に債務を負担するものとはいえないから、詐害行為とはならない。しかしながら、当該配偶者が負担すべき損害賠償債務の額を超えた金額の慰謝料を支払う旨の合意がされたときは、その合意のうち右損害賠償債務の額を超えた部分については、慰謝料支払の名を借りた金銭の贈与契約ないし対価を欠いた新たな債務負担行為というべきであるから、詐害行為取消権行使の対象となりうる

☆債務超過の状態にある者が離婚に伴う財産分与として配偶者に金銭の給付をする旨の合意は、その額が財産分与として不相当に過大で、財産分与に固くされた財産処分と認められる事情がある場合、不相当に過大な部分について、その限度において詐害行為として取り消すことができる

最大判昭36.7.19

・債務者が目的物をその価格以下の債務の代物弁済として提供し、その結果債権者の共同担保に不足を生ぜしめた場合は、もとより詐害行為を構成するものというべきであるが、債権者取消権は債権者の共同担保を保全するため、債務者の一般財産現象行為を取り消し、これを返還させることを目的とするものであるから、右の取消しは債務者の詐害行為により減少された財産の範囲にとどまるべきものと解すべきである。したがって、……本件においてもその取消は、……家屋の価格から……抵当債権額を控除した残額の部分に限って許されるものと解する

・詐害行為の一部取消の場合において、その目的物が本件の如く一棟の家屋の代物弁済であって不可分のものと認められる場合にあっては、債権者は一部取消の限度において、その価格の賠償を請求するの外はないものといわなければならない

☆抵当権が設定されている1個の建物を、その抵当権者に代物弁済として供した債務者の行為が詐害行為となる場合、他の一般債権者は、当該建物の価額から当該抵当権の被担保債権額を控除した残額の範囲で取り消すことができ、その限度において価額の賠償を請求することが許されるにとどまり当該建物自体を債務者の一般財産として回復することはできない

最判昭39.6.12

・民法424条の詐害行為の取消訴えの方法によるべきものであって、抗弁の方法によることは許されない

・取消権の行使は相手方に対する裁判外の意思表示によってこれを行うべき場合があり、裁判上の意思表示によってこれを行うべき場合があり、あるいは相手方に対する訴えによってこれを行うべき場合があるが、そのいずれの方法によるべきかは、各場合における法律の規定を解釈してこれを定めなければならない

・取り消しうべき法律行為の取消しについては123条に「相手方に対する意思表示によってする」と規定し……ているのに反し、詐害行為の取消については、424条に「裁判所に請求することができる」と規定している

☆詐害行為取消権は、必ず裁判上で行使しなければならず、訴訟において抗弁で提出することも認められない

最判昭55.1.24

☆不動産の譲渡が詐害行為取消権を主張する債権者の債権成立前にされている場合には、債権成立後に所有権移転登記がされても、当該不動産の譲渡行為及び所有権移転登記は、いずれも詐害行為とはならない 

大判大10.6.18、最判昭39.1.23 

☆詐害行為取消訴訟において、取消しの対象となるものが金銭又は動産であるときは、原告は、取消しの効果はすべて債権者のために利益を生ずるという民法の規定にもかかわらず、被告たる受益者に対して、自己に給付せよという判決を得ることができる

大判大7.9.26、最判昭37.3.6 

☆受益者が当該行為によって他の債権者を害することの認識については、取消債権者に受益者の悪意についての主張立証責任が課されるのではなく、受益者の方が自らの善意を主張立証しなければ、詐害行為の成立を否定することはできない

第25章 人的担保―多数当事者の債権債務関係

25-6 保証(446条)

最判平9.11.13

・反対の趣旨をうかがわせるような特段の事情のない限り、保証人が更新後の賃貸借から生ずる賃借人の債務についても保障の責めを負う趣旨で合意がされたものと解するのが相当であり、保証人は、賃貸人において保証債務の履行を請求することが信義則に反すると認められる場合を除き、更新後の賃貸借から生ずる賃借人の債務についても保証の責めを免れない

・更新後の賃貸借から生ずる債務についても保証の責めを負う趣旨で保証契約をしたものと解するのが、当事者の通常の合理的意思に合致する

☆賃借人の保証人は、賃貸借契約が更新された後の賃料債務についても保証債務を負い、賃料不払によって賃貸借契約が解除された場合、賃借人が目的物を返還しないことにより賃貸人に与えた損害の賠償についても保証債務を負う

大判昭9.1.30

※建物賃借人の保証人の相続人は、相続開始後に生じた賃料債務についても保証する責任を負う 

☆建物賃貸借契約の存続期間中に賃借人の保証人が死亡した場合において、その相続人は、相続開始後に生じた賃借人の債務についても保証債務を負う

身元保証に関する法律3条1号

※使用者は、被用者に業務上不適任又は不誠実な事跡があって、このために身元保証人の責任の問題を引き起こすおそれがあることを知ったときは、遅滞なく身元保証人に通知しなければならない

☆身元保証契約において、使用者が、被用者に業務上不適任又は不誠実な事跡があって、そのために身元保証人の責任を惹起するおそれがあることを知ったときは、使用者は、遅滞なく身元保証人にその旨を通知しなければならない

465条の3第1項、第2項

※貸金等根保証契約において主たる債務の元本確定期日の定が有る場合において、その元本確定期日がその貸金等根保証契約の締結の日から5年を経過する日より後の日と定められているときは、その元本確定期日の定めは、その効力を生じない

※貸金等根保証契約において元本確定期日の定がない場合には、その元本確定期日は、その貸金等根保証契約の締結の日から3年を経過する日とする

☆貸金等根保証契約において元本確定期日がその貸金等根保証契約の締結の日から6年を経過する日と定められている場合、その元本確定期日は、その貸金等根保証契約の締結の日から3年を経過する日となる

最判平24.12.14(百選Ⅱ26)

・根保証契約の被保証債権を譲り受けたものは、その譲渡が当該根保証契約に定める元本確定期日前にされた場合であっても、当該根保証契約の当事者間において被保証債権の譲受人の請求を妨げるような別段の合意がない限り、保証人に対し、保証債務の履行を求めることができる

・根保証契約を締結した当事者は、通常、……被保証債権が譲渡された場合には保証債権もこれに随伴して移転することを前提としているものと解するのが合理的である 

☆根保証契約の元本確定期日前に根保証契約の主たる債務の範囲に含まれる債権が譲渡されたときは、その譲受人は、保証人に対し、当該保証債務の履行を求めることができる

447条2項

※保証人は、その保証債務についてのみ、違約金又は損害賠償の額を約定することができる

☆AのBに対する金銭債務について、CがBとの間で保証契約を締結した際、AのBに対する債務に関して違約金の定めがなかった場合でも、BC間の保証契約において違約金の定めをすることができる 

449条

※行為能力の制限によって取り消すことができる債務を保証した者は、保証契約の時においてその取消しの原因を知っていたときは、主たる債務の不履行の場合又はその債務の取消しの場合においてこれと同一の目的を有する独立の債務を負担したものと推定する 

463条1項、443条1項前段

※443条の規定は、保証人について準用する(463条1項)

※連帯債務者の一人が債権者から履行の請求を受けたことを他の連帯債務者に通知しないで弁済をし、その他自己の財産をもって共同の免責を得た場合において、他の連帯債務者は、債権者に対抗することができる事由を有していたときは、その負担部分について、その事由をもってその免責を得た連帯債務者に対抗することができる(443条1項前段)

☆AのBに対する金銭債務について、CがBとの間で保証契約を締結した際、AのBに対する債務の額が500万円であり、CがAの依頼を受けてBとの間で保証契約を締結した場合において、Aが、その後取得したBに対する300万円の金銭債権を自働債権として、Bに対する債務と相殺をしようと考えていたところ、CがAに対して通知することなくBに500万円を弁済したときには、AはCから500万円の求償を受けても、相殺をすることができる地位にあったことを主張して、300万円の範囲でこれを拒むことができる

462条1項

※主たる債務者は、主たる債務者の委託を受けないで保証をした者が弁済をし、その他自己の財産をもって主たる債務者にその債務を免れさせたときは、その当時利益を受けた限度において、委託を受けないで保証した者に対して償還すれば足りる

☆主たる債務者の委託を受けないで保証をした保証人が弁済をしたときは、主たる債務者は、弁済がされた日以後の法定利息をその保証人に支払う必要はない

462条2項前段

※主債務者の意思に反して保証をした者は主債務者が現に利益を受けている限度においてのみ求償権を有する

大判大5.12.25 

※主たる債務が消滅時効にかかった場合において主たる債務者が時効利益を放棄したとしても保証人は主債務の時効消滅の援用をすることができる

☆主たる債務者がその債務について時効の利益を放棄した場合でも、その保証人に対してはその効力を生じない

457条2項

・保証人は、主たる債務者の債権による相殺をもって債権者に対抗することができる

主たる債務者の意思に反して保証人となった者でも、主たる債務者が債権者に対して有する債権と保証債権との相殺をもって債権者に対抗することができる

458条、434条

※連帯保証人に対する請求は、主たる債務者にその効力を及ぼす

☆主たる債務者の意思に反して連帯保証人となった者が、債権者から保証債務の履行を裁判上請求されたときは、主たる債務についての消滅時効が中断する

大判昭15.12.21

連帯保証人が債務の承認をしても、主たる債務者の時効には何ら影響を及ぼすものでない

☆主たる債務者から委託を受けて連帯保証人となった者が、債権者に対して保証債務を承認したときも、主たる債務についての消滅時効は中断しない

464条

※連帯債務者の一人のために保証をした者は、他の債務者に対し、その負担部分のみについて求償権を有する

☆連帯債務者の一人から委託を受け、その者のために保証人となった者が、債権者に対して保証債務の全額を弁済したときは、この保証人は、その連帯債務者に対しては、全額についての求償権を有する

465条2項

※互いに連帯しない数人の保証人がある場合において、保証人の一人が全額又は自己の負担部分を超える額を弁済したときは、その超過額について、委託を受けない保証人の求償権に関する規定に従って、他の共同保証人に求償することができる

※465条2項は、検索の抗弁(453条)を準用していない

☆共同保証人の一人が債権者に対し保証債務を弁済し、他の共同保証人に対して求償をした場合において、求償を受けた保証人が、主たる債務者に弁済をする資力があり、かつ、執行が容易であることを証明したときでも、債権者に弁済をした保証人は、まず主たる債務者に求償権を行使する必要はない

大判昭20.5.21

※制限行為能力者の債務を保証した者は、保証人の資格においては、その債務の原因である制限行為能力者の行為につき取消権を有しない

☆未成年者が負っている貸金債務を連帯保証した保証人は、債権者との連帯保証契約の時に未成年者であることを知らなかった場合であっても、未成年者のした貸金契約を保証人としての資格で取り消すことはできない

433条

・連帯債務者の1人について法律行為の無効又は取消しの原因があっても、他の債務者の債務は、その効力を妨げられない 

大判大7.7.3

☆連帯債務者ABのうちAが債権者から年5%で金銭消費貸借をする合意をしていたところ、Bが実際には6%で借り入れをしてしまったという場合、ABの連帯債務はそれぞれ異なる利率で成立する

437条

※連帯債務者の1人に対してした債務の免除は、その連帯債務者の負担部分についてのみ、他の連帯債務者の利益のためにも、その効力を生ずる

☆Aに対しBCDが等しい負担部分で300万円の連帯債務を負っている場合、AがBに対して300万円の連帯債務の全額について免除をした場合には、C及びDは、Aに対し、200万円の連帯債務を負う

439条

※連帯債務者の1人のために時効が完成したときは、その連帯債務者の負担部分については、他の連帯債務者も、その義務を免れる。

☆Aに対しBCDが等しい負担部分で300万円の連帯債務を負っている場合、Bのために消滅時効が完成すれば、C及びDは、Aに対し、200万円の連帯債務を負う

442条1項 

※連帯債務者の1人が弁済をし、その他自己の財産をもって共同の免責を得たときは、その連帯債務者は、他の連帯債務者に対し、各自の負担部分について求償権を有する

☆Aに対しBCDが等しい負担部分で300万円の連帯債務を負っている場合、Bが60万円を弁済すれば、BはC及びDに20万円ずつの求償ができる

第26章 物的担保

177条、337条、338条、339条、361条、373条

不動産質権抵当権が競合した場合の優先弁済権の順序は、登記の先後による(361条、373条)

※不動産売買の先取特権抵当権の順序は、登記の先後による(177条)

不動産保存・工事の先取特権が登記された場合、登記された抵当権及び不動産質権に先立って行使することができる(339条、337条、338条)

☆同一不動産上の質権、先取特権及び抵当権の優先権の順位は当該各担保物件の登記の前後によって決まる。ただし、不動産保存・工事の先取特権が登記された場合、登記の前後によらず、先立って行使することができる。

304条1項、350条・304条1項、372条・304条1項

先取特権質権抵当権については物上代位性が認められるが、留置権について物上代位の規定は準用されていない

☆債権者は、債務者との合意によって先取特権の設定を受けることはできず、留置権の設定を受けることもできない

☆抵当権者は、目的物が第三者の行為により滅失した場合、物上代位により、その第三者に対して所有者が有する損害賠償請求権から優先弁済を受けることができるのに対し、留置権者は、目的物が第三者の行為により滅失した場合には、損害賠償請求権に物上代位権を行使することができない

304条1項

※先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、債務者の特定の財産でなく総財産を目的とする一般の先取特権については、物上代位性は問題とならない。なぜなら、一般の先取特権にあっては、物上代位が問題となりうるような場合にも、その価値代表物・顕現物は常に債務者の総財産中に包含されており、物上代位の手続を必要とせず、執行の対象となるからである

一般の先取特権者は、債務者の財産の中の動産が売却されて買主にその引渡しがされた場合、債務者が取得する代金債権について、その払渡しの前に差押えをしなくても先取特権を行使することができる 

☆動産の買主が買い受けた動産を用いた請負工事を行った請負代金債権を取得したとすると、この請負代金債権に対しても、売主は、動産売買先取特権に基づく物上代位権を行使できる場合がある

民事執行法195条

※留置権は、民法上優先弁済権が認められていないが、民事執行法においては留置権者に競売権が与えられている

留置権者及び抵当権者は、いずれも目的物の競売を申し立てることができる

334条

動産質権者は、動産の先取特権の第一順位のもの(330条1項1号)と同順位になる

☆動産先取特権は、動産質権に優先しない

※しかし、第一順位の先取特権者は、その債権取得の時において第二順位又は第三順位の先取特権者があることを知っていたときは、これらの者に対して優先権を行使することができない(330条2項)

303条

※先取特権者は、この法律その他の法律の規定に従い、その債務者の財産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。先取特権は、被担保債権が移転すればこれに随伴する(随伴性)

☆動産売買の先取特権者がその代金債権を第三者に譲渡した場合、その先取特権は代金債権とともに第三者に移転する 

338条1項

不動産の工事の先取特権の効力を保存するためには、工事を始める前にその費用の予算額を登記しなければならない

最判平元.10.27

※不動産についての賃貸借契約成立後に当該不動産に抵当権が設定された場合に、目的不動産の賃借人が供託した賃料の還付請求権について抵当権に基づく物上代位権を行使しうる

最判昭59.2.2

※動産売買先取特権者が、代位の目的たる債権につき304条1項ただし書の差押えをしないうちに債務者につき破産手続開始決定が行われても、なおこれを差し押さえて物上代位権を行使することができる

☆判例によれば、債務者が破産した後であっても、動産売買先取特権に基づく物上代位権抵当権に基づく物上代位権も行使できる

最判平10.3.26

・債権について一般債権者の差押えと抵当権者の物上代位権に基づく差押えが競合した場合には、両者の優劣は、一般債権者の申立てによる差押命令の第三債務者への送達と抵当権設定登記の先後によって決せられる

☆判例によれば、債務者が第三者に対して有する賃料債権につき、債務者の一般債権者が差し押さえを行ったとしても、配当要求以前に設定登記をして物上代位の手続をとれば、抵当権者は物上代位権を行使して、一般債権者に優先することができる

26-2 抵当権

371条

抵当権は、その担保する債権について不履行があったときは、その後に生じた抵当不動産の果実に及ぶ

☆抵当権の被担保債権について不履行があった場合、抵当権の効力は、その後に生じた抵当不動産の果実に及ぶ

372条、296条

※抵当権者は、被担保債権の全部の弁済を受けるまでは、目的物の全部についてその権利を行使することができる(不可分性)

☆抵当権は、目的物の交換価値を把握する権利であるが、被担保債権額が抵当不動産の価格を上回っている場合、物上保証人が抵当不動産の価格に相当する額を弁済しても、抵当権は消滅しない 

374条

※抵当権の順位は、各抵当権者の合意によって変更することができる(1項本文)

※抵当権の順位の変更は、その登記をしなければ、その効力を生じない(2項)

375条1項

※抵当権者は、利息その他の定期金を請求する権利を有するときは、その満期となった最期の2年分についてのみ、その抵当権を行使することができる

☆抵当権者は、利息その他の定期金の全額を被担保債権とする旨の定を設定行為でしたときでも、その定に従い他の債権者に優先して抵当権を行使することはできない

378条

・抵当不動産について所有権又は地上権を買い受けた第三者が、抵当権者の請求に応じてその抵当権者にその代価を弁済したときは、抵当権は、その第三者のために消滅する

※代価弁済は、抵当権者と第三者の合意があって初めてその効力を生じさせるものであり、第三者に代価弁済の請求に応じる義務を負わせるものではない

☆抵当権者が第三取得者に対して代価弁済の請求をした場合でも、第三取得者は、その請求に応じる必要はない

大判大8.10.8

☆第一順位の抵当権者の被担保債権が弁済により消滅した場合、第二順位の抵当権者は、消滅した第一順位の抵当権の抹消登記手続を求めることができる

最判昭33.5.9

・当事者間の合意によって、特定の数個の債権を一定金額の限度で担保する1個の抵当権を設定することも、また将来発生の可能性のある条件付債権を担保するため抵当権を設定することも、有効と解すべき

※将来債権である保証人の求償権を担保するため抵当権を設定することを認めている

大判大14.7.18

※「地上権又は永小作権を抵当権の目的とした地上権者又は永小作人は、その権利を放棄しても、これをもって抵当権者に対抗することができない」と規定する398条を類推適用して、土地賃貸人は合意解除を抵当権者に対抗できないとする

☆土地を賃借し、その土地上に建物を所有している者が、その建物に抵当権を設定した場合、土地の賃貸人が賃借人との合意により賃貸借契約を解除したとき、土地の賃貸人は、その解除による賃借権の消滅を抵当権者に対抗することができない 

396条

抵当権は、債務者及び抵当権設定者に対しては、その担保する債権と同時でなければ、時効によって消滅しない

179条1項

※同一物について所有権および他の物権が同一人に帰属したときは、当該他の物件は、消滅する。ただし、その物または当該他の物権が第三者の権利の目的であるときは、この限りでない 

☆A所有の建物について、Bが第一順位の抵当権を、Cが第二順位の抵当権をそれぞれ有している場合、BがAからその建物を買い受けた場合であっても、第一順位の抵当権は消滅しない 

391条、196条1項

※抵当不動産の第三取得者は、抵当不動産について必要費又は有益費を支出したときは、民法196条の区別に従い、抵当不動産の代価から、他の債権者より先にその償還を受けることができる。196条の区別に従うことから、第三取得者が果実を取得した場合には、通常の必要費について他の債権者より先に償還を受けることはできない

394条2項

※抵当不動産の代価に先立って他の財産の代価を配当すべき場合には、他の債権者は、抵当権者に配当すべき金額の供託を請求することができる

☆抵当権の実行としての競売がされる前に抵当権の被担保債権について抵当不動産以外の財産の代価を配当すべき場合には、当該抵当権者以外の債権者は、当該抵当権者に配当すべき金額の供託を請求することができる

398条の3第1項

※根抵当権者は、確定した元本並びに利息その他の定期金及び債務の不履行によって生じた損害の賠償の全部について、極度額を限度として、その根抵当権を行使することができる

☆元本の確定した根抵当権は、確定した元本のほか、その利息についても、極度額を限度として担保する

398条の4

※元本の確定前においては、根抵当権の担保すべき債権の範囲の変更をすることができる。債務者の変更についても、同様とする(1項)

※1項の変更をするには、後順位抵当権者その他の第三者の承諾を得ることを要しない(2項)

※1項の変更について元本の確定前に登記をしなかったときは、その変更をしなかったものとみなす(3項)

☆元本確定前において、根抵当権の担保すべき債権の範囲を変更する時、後順位抵当権者の承諾を得る必要はない

☆根抵当権の債務者の変更は、元本確定前に登記をしなかったときは、その変更をしなかったものとみなされる

398条の6第1項

※根抵当権の担保すべき元本については、その確定すべき期日を定め又は変更することができる

☆根抵当権の設定時に元本確定期日を定めなくても、当該根抵当権の設定は有効である 

398条の12第1項、398条の13

※元本の確定前においては、根抵当権者は、根抵当権設定者の承諾を得て、その根抵当権の全部又は一部を譲り渡すことができる

☆根抵当権者は、元本確定前の根抵当権の全部又は一部を譲渡することができるが、その場合、根抵当権設定者の承諾を得る必要がある

398条の22第1項 

※元本の確定後において現に存する債務の額が根抵当権の額を超えるときは、他人の債務を担保するためその根抵当権を設定した者は、その極度額に相当する金額を払い渡し又は供託して、その根抵当権の消滅請求をすることができる

☆根抵当権の元本の確定後において現に存する債務の額が根抵当権の極度額を超えるときは、他人の債務を担保するため当該根抵当権を設定した者は、その極度額に相当する金額を払い渡し又は供託して、当該根抵当権の消滅請求をすることができる

☆債務者が所有する不動産に抵当権の設定登記がされ、これが存続している場合でも、債務者は継続的に被担保債権に係る債務の存在を承認していることにはならず、その抵当権の被担保債権について消滅時効が進行する 

397条

債務者又は抵当権者でない者が抵当不動産について消滅時効に必要な要件を具備する占有をしたときは、抵当権は、これによって消滅する

☆債務者が所有する不動産に抵当権が設定され、その登記がされている場合、その債務者が当該不動産を10年間継続して占有したとしても、その債務者は、抵当権者に対し、抵当権の負担のない所有権を時効により取得したとして、抵当権設定登記の抹消登記手続を請求することはできない

民事執行法188条、59条1項

※不動産の上に存する先取特権使用及び収益をしない旨の定めのある質権並びに抵当権は売却により消滅する(民事執行法59条1項)。当該消除主義担保執行に準用されている(民事執行法188条)

☆債務者が所有する同一の不動産について、第一順位の抵当権と第二順位の抵当権が設定され、それぞれその旨の登記がされている場合、第一順位の抵当権の実行としての競売の結果、第一順位の抵当権者のみが配当を受けたときでも、第二順位の抵当権も消滅する 

499条1項、500条

債務者のために弁済をした者は、その弁済と同時に債権者の承諾を得て、債権者に代位することができる。 

☆債務者が所有する同一の不動産について、第一順位の抵当権と第二順位の抵当権が設定され、それぞれその旨の登記がされている場合、第一順位の抵当権の被担保債権に係る債務を債務者が弁済したときでも、債務者が弁済による代位によって第一順位の抵当権を取得することはない

最判昭41.12.20

・反対に解すべき特段の事情のない限り、現債務者と引受人との関係について連帯債務関係が生ずる

☆債務者が所有する不動産に抵当権が設定されている場合、その被担保債権に係る債務について他の者により併存的債務引受がされたとき、当該債務引受によって生じた債権は、特段の事情のない限りその抵当権の被担保債権とならない 

370条本文

・抵当権は、抵当地の上に存する建物を除き、その目的である不動産に付加して一体となっている物に及ぶ

☆建物が存する土地について抵当権が設定された場合において、その抵当権者と抵当権設定者との特約で、その土地上の建物にも抵当権の効力を及ぼすことができる旨の合意がされたときでも、その土地の抵当権は、土地の上に存するその建物には及ばない

民事執行法79条

※抵当権の実行としての競売において、売却許可決定を経て買受人が代金を納付すると、買受人は目的物の所有権を取得する

387条1項、民事執行法59条2項

・登記をした賃貸借は、その登記前に登記をした抵当権を有するすべての者が同意をし、かつ、その同意の登記があるときは、その同意をした抵当権者に対抗することができる(387条1項)

・抵当権その他を有する者、差押権者又は仮差押権者に対抗することができない不動産に係る権利の取得は、売却によりその効力を失う(民事執行法59条2項)

※土地抵当権設定に遅れて設定された土地賃貸借は、抵当権者の同意の登記がない限り、賃貸借期間の長短にかかわらず、また賃借権の登記があっても、原則通り競売により消滅する

389条1項

・抵当権の設定後に抵当地に建物が築造されたときは、抵当権者は、土地とともにその建物を競売することができる。ただし、その優先権は、土地の代価についてのみ行使することができる 

最判昭36.2.10

※更地に抵当権を設定する際に、土地抵当権者が抵当地上の建物の建築をあらかじめ承認していた場合、抵当権者が抵当地を更地と評価して抵当権の設定を受けていることが明らかである以上、法定地上権の成立は認められない

☆Aが所有する甲土地に、その更地としての評価に基づき、Bのための抵当権が設定され、その後、甲土地上にA所有の乙建物が建てられた後、抵当権が実行された結果、Cが甲土地の所有者になった場合、Bが抵当権設定当時、甲土地上にA所有の乙建物が建てられることをあらかじめ承諾していたとしても、甲土地に乙建物のための法定地上権は成立しない

最判昭47.11.2

・土地の抵当権設定当時、その地上に建物が存在しなかったときは、民法388条の規定の適用はないものと解すべきところ、土地に対する先順位抵当権の設定当時、その地上に建物がなく、後順位抵当権設定当時には建物が建築されていた場合に、高順位抵当権者の申立てにより土地の競売がなされるときであっても、右土地は先順位抵当権設定当時の状態において競売されるべきものであるから、右建物のため法定地上権が成立するものではないと解される

・先順位抵当権者が建物の建築を承認した事実があっても、そのような当事者の個別的石によって競売の効果をただちに左右しうるものではなく、土地の競落人に対抗しうる土地利用の権原を建物所有者に取得させることはできないというべきであって、右事実によって、抵当権設定後に建築された建物のため法定地上権の成立を認めることはできない

☆Aが所有する甲土地にBのための第一順位の抵当権が設定され、その後、Bの承諾を受けて甲土地上にA所有の乙建物が建てられ、さらに甲土地にCのための第二順位の抵当権が設定された後、Cの申立てに基づいて甲土地の抵当権が実行された結果、Dが甲土地の所有者になった場合、甲土地に乙建物のための法定地上権は成立しない

大判昭14.12.19

※抵当権設定当時又はその移転登記の当時、建物について所有権保存登記がないことは、競売の場合において建物の所有者が法定地上権を取得するにあたって妨げとなるものではない

※土地について抵当権を取得した者は、その土地上に建物が存在するとう事実を通常知り得るから、競売の場合に建物所有者が当該土地について法廷地上権を取得すべきことは当然に予期すべきである

☆Aが所有する甲土地上に、A所有の乙建物が存在し、その後、甲土地にBのための抵当権が設定され、抵当権が実行された結果、Cが甲土地の所有者になった場合、Aが乙建物の所有権の登記をしていなかったときでも、甲土地に乙建物のための法定地上権が成立する

最判平9.2.14(百選Ⅰ91)

・所有者が土地及び地上建物に共同抵当権を設定した後、右建物が取り壊され右と地上に新たに建物が建築された場合には、新建物の所有者が土地の所有者と同一であり、かつ、新建物が建築された時点での土地の抵当権者が新建物について土地の抵当権と同順位の共同抵当権の設定を受けたとき等特段の事情のない限り、新建物のために法定地上権は成立しないと解するのが相当である

・土地及び地上建物に共同抵当権が設定された場合、抵当権者は土地及び建物全体の担保価値を把握しているから、抵当権の設定された建物が存続する限りは当該建物のために法定地上権が成立することを許容するが、建物が取り壊されたときは土地について法定地上権の制約のない更地としての担保価値を把握しようとするのが、抵当権設定当事者の合理的意思であり、抵当権が設定されない新建物のために法定地上権の成立を認めるとすれば、抵当権者は、当初は土地全体の価値を把握していたのに、その担保価値が法定地上権の価額相当の価値だけ減少した土地の価値に限定されることになって、不測の損害を被る結果になり、抵当権設定当時者の合理的な意思に反する

最判平17.3.10(百選Ⅰ86)

・抵当権に基づく妨害排除請求権の行使に当たり、抵当不動産の所有者において抵当権に対する侵害が生じないように抵当不動産を適切に維持管理することが期待できない場合には、抵当権者は、占有者に対し、直接自己への抵当不動産の明渡しを求めることができる

☆判例によれば、抵当不動産の所有者Aから占有権原の設定を受けてこれを占有するBに対し、抵当権者Cが抵当権に基づく妨害排除請求権を行使することができる場合、Aにおいて抵当権に対する侵害が生じないように抵当不動産を適切に維持管理することが期待できないときには、Cは、Bに対し、直接自己への抵当不動産の明渡しを請求することができる 

26-3 質権(342条〜366条)

350条、299条1項

※質権者は、質物について必要費を支出したときは、所有者にその償還をさせることができる

☆動産質権者は、継続して占有している質物について通常の必要費を支出した場合、所有者にその償還をさせることができる

366条2項

※債権の目的物が金銭であるときは、質権者は、自己の債権額に対応する部分に限り、これを取り立てることができる

346条

・質権は、元本、利息、違約金、質権の実行の費用、質物の保存の費用及び債務の不履行又は質物の隠れた瑕疵によって生じた損害の賠償を担保する。ただし、設定行為に別段の定めがあるときは、この限りでない

☆動産質権において、質権者と質権設定者との間で、被担保債権の利息はその質権によって担保されないとの特約がされた場合、利息は、質権の被担保債権に含まれない

356条

※不動産質権者は、質権の目的である不動産の用法に従い、その使用及び収益をすることができる

※質権者は、原則として質物を使用・収益することはできない(350条、298条)。もっとも、不動産質については、設定者から質物の占有を取り上げているので、七仏である目的不動産が誰にも利用されないことは社会経済条不利益であり、他方、質権者に利用させても目的不動産を損壊する危険はないことから、設定行為に別段の定めがない限り、質権者はその用法に従い、目的不動産を使用しうることとしたものである

☆不動産質権者は、質権の目的物を使用及び収益をすることができるが、質権者と質権設定者との間の特約で、その使用収益権を排除することができる 

353条

※動産質権者は、質物の占有を奪われた時は、占有回収の訴えによってのみ、その質物を回復することができる

☆動産質権者は、第三者に質物の占有を奪われた時は、質権に基づきその質物の返還を請求することができない

大判第5.12.25

☆質権者が任意に質権設定者に質物を返還しても、質権は消滅しない 

26-4 留置権(295条〜302条)

298条

※留置権者は、債務者の承諾を得なければ、留置物を使用し、賃貸し、又は担保に供することができない(2項)

※留置権者が債務者の承諾を得ずに留置物を賃貸したときは、債務者は、留置権の消滅を請求することができる(3項)

299条1項

※留置権者は、留置物について必要費を支出したときは、所有者にその償還をさせることができる

☆留置権者は、留置物について通常の必要費を支出した場合には、所有者にその償還をさせることができる

296条

☆留置権者は、債権の全部の弁済を受けるまでは、留置物の全部についてその権利を行使することができる 

300条

留置権の行使は、債権の消滅時効の進行妨げない

295条1項本文、533条本文

☆留置権によって拒絶できる給付の内容は、物の引渡しであるが、同時履行の抗弁権によって拒絶することができる給付の内容は、物の引渡しに限られない

302条本文

・留置権は、留置権者が留置物の占有を失うことによって、消滅する

☆留置権は、占有を第三者に奪われた場合、消滅する

☆特定動産の売買契約の売主が目的物の占有を失った場合には、買主からの当該目的物の引渡請求に対し、もはや留置権を行使することはできないが、代金支払との同時履行を主張することはできる

☆ある動産に留置権を取得した者は、その占有を第三者に奪われた場合でも、その第三者に対して留置権に基づく返還請求を行うことができない

302条ただし書

※留置権者が、留置物を債務者の承諾を得て賃貸している場合は、留置権は消滅しない

☆留置権は、他人の物の占有者に認められる権利であるが、留置権者が目的物を第三者に賃貸した場合には、目的物の賃貸について所有者の同意を得ていれば、留置権は消滅しない

301条

・債務者は、相当の担保を供して留置権の消滅を請求することができる

☆留置権を行使されている者は、相当の担保を供してその消滅を請求することができるが、同時履行の抗弁権を行使されている者は、相当の担保を供してその消滅を請求することができない

最判昭33.3.13

※裁判上、留置権の抗弁が適法に主張されこれが正当と認められた場合について、同時履行の抗弁権の場合と同様に、引換給付判決をするべき

☆物の引渡しを請求する訴訟において被告の同時履行の抗弁が認められた場合は、被告に対して、原告の負う債務の履行との引換給付判決がされることになるが、被告の留置権の抗弁が認められた場合も、引換給付判決がされる

破産法66条1項、3項

☆民法上の留置権は債務者が破産すると消滅するが、商法上の留置権は債務者が破産しても消滅しない

295条1項

☆民法上の留置権が成立するには、被担保債権が対象物に関して生じた物であることを必要とするが、商法上の留置権の場合には、そのような要件を必要としない 

☆Aが首輪の付いている飼い主不明の犬を発見し、その不明の飼い主のために犬の世話をした場合、Aは、犬を発見した時、犬が怪我をしていたので、獣医に治療を受けさせ、治療費を支払った。その後、飼い主が犬の返還を求めてきた場合、Aは、支払った治療費の償還を受けるまで、犬の引渡しを拒むことができる

☆民法上の留置権の成立には、目的物と牽連性のある債権の存在及び債権者による目的物の占有が必要であるが、その債権の成立時に債権者が目的物を占有している必要はない

26-5 先取特権(303条〜341条)

335条1項、4項

※一般の先取特権者は、まず不動産以外の財産から弁済を受け、なお不足があるのでなければ、不動産から弁済を受けることができない

※不動産以外の財産の代価に先立って不動産の代価を配当する場合には、一般の先取特権者は、どの部分からでも配当を受けることができる

一般の先取特権者は、不動産以外の財産の代価に先立って不動産の代価が配当される場合を除きまず不動産以外の財産から弁済を受け、なお不足があるのでなければ、不動産から弁済を受けることができない 

333条

・先取特権は、債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後は、その動産について行使することができない

☆動産の売主と買主との間で、売買の目的物を買主が第三者に転売して引き渡したときでも、売主はその目的物に先取特権を行使することができる旨の特約がある場合において、買主がその目的物を転売して転買主にこれを引き渡したときは、売主は、転買主が占有している目的物について、その特約について転買主が悪意であるときでも、先取特権を行使することはできない

☆動産売買の売主が売り渡した動産に対して有する先取特権は、買主からの転得者がそのような先取特権の存在を知りつつ買い受けて占有改定による引渡しを受けた場合であっても消滅する

316条

※賃貸人は、敷金を受け取っている場合には、その敷金で弁済を受けない債権の部分についてのみ先取特権を有する

☆建物の賃貸人は、賃借人が賃料を支払わない場合、敷金を受け取っており、未払い賃料額が式金額の範囲内であれば、賃借人が当該建物に備え付けた動産について先取特権を行使することができない

317条、319条

・旅館の宿泊の先取特権は、宿泊客が負担すべき宿泊料及び飲食料に関し、その旅館にあるその宿泊客の手荷物について存在する(317条)

※これには即時取得(192条)が認められている(319条)

☆宿泊客が旅館に持ち込んだ手荷物がその宿泊客の所有物でない場合、旅館の主人は、その手荷物がその宿泊客の所有物であると過失なく信じたのであれば、その手荷物について先取特権を行使することができる

最判昭46.10.21

・債務者は、自然人に限られ、法人は右債務者は含まれないと解するのが相当である

※306条4号、310条は、資力の乏しい債務者が生活上必要な日用品を入手することを可能ならしめて、その生活を保護することにあるところ、法人に生活保護は必要でなく、また、法人については日用品の先取特権の限定が困難なため一般債権者を不当に害する

☆判例によれば、日用品の供給の先取特権は、債務者が法人のときは認められない

306条2号、308条

※雇用関係によって生じた債権を有する者は、債務者の総財産について先取特権を有する(306条2号)

※雇用関係の先取特権は、給料その他債務者と使用人とのあいだの 雇用関係に基づいて生じた債権について存在する(308条)

☆会社の従業員は、会社が給料を支払っていない場合、その給料債権につき、未払いとなっている期間にかかわらず当該会社の総財産について先取特権を有する

329条2項本文

※一般の先取特権と特別の先取特権とが競合する場合には、特別の先取特権は、一般の先取特権に優先する

☆会社が、電器店から購入した冷蔵庫の売買代金を支払わず、かつ、従業員への給料も支払っていない場合、電器店が当該冷蔵庫について有する先取特権は、従業員が当該冷蔵庫について有する先取特権に優先する 

330条1項

※同一の動産について特別の先取特権が互いに競合する場合には、その優先権の順位は、次に掲げる順序に従う

※不動産の賃貸(1号)

※動産の売買(3号)

☆建物の賃借人が、家具店から購入して当該建物に備え付けたタンスについて未だ売買代金を支払わず、かつ、建物の賃料の支払も怠っている場合、建物の賃貸人が当該タンスについて有する先取特権は、家具店が当該タンスについて有する先取特権に優先する  

26-6 非典型担保

最判平6.9.8

・債務の弁済と譲渡担保の目的物の返還とは、前者が後者に対し千里香の関係にあり、同時履行の関係に立つものではない

最判平22.12.2 

☆集合動産の譲渡担保権者は、その譲渡担保権の設定者が通常の営業を継続している場合であれば、その目的とされた動産が滅失したときでも、その損害を店舗するために設定者に支払われる損害保険金の請求権に対して物上代位権を行使することはできない 

第5部 家族法

第27章 親族

27-3 婚姻

751条1項

※夫婦の一方が死亡したときは、生存配偶者は、婚姻前の氏に復することができる

767条1項

※婚姻によって氏を改めた夫又は妻は、協議上の離婚によって婚姻前の氏に復する(1項)

※離婚の場合であっても、離婚の日から3ヶ月以内に戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、離婚の際に称していた氏を称することができる(2項)

728条

※親族関係は、離婚によって終了する(1項)

※夫婦の一方が死亡した場合において、生存配偶者が姻族関係を終了させる意思を表示したときも、前項と同様とする(2項)

☆婚姻が離婚により終了した場合には、婚姻関係は当然に終了するが、婚姻が夫婦の一方の死亡により終了した場合には、姻族関係は生存配偶者が姻族関係を終了させる意思を表示したときに限り終了する

☆婚姻が離婚により終了したときは、姻族関係は当然に終了し、婚姻が夫婦の一方の死亡により終了したときは、姻族関係は、生存配偶者が戸籍法の定める届け出により姻族関係終了の意思を表示した時に終了する

819条1項

・父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければならない

☆未成年の子のいる父母は、協議上の離婚をする際に、合意によるとしても、父母の双方をその子の親権者と定めることができない

☆未成年の子のいる父母が協議上の離婚をするとき、その子は、離婚後に自らの親権者となるべき者を定めることはできない

※父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければならない

※この定めについて、家庭裁判所の許可を要する旨の規定はない

☆婚姻中の夫婦の間に生まれた子が未成年であるときは、協議上の離婚の際に、父母の一方を親権者と定めなければならず、この定めについては、家庭裁判所の許可を要しない

819条6項

・子の利益のために必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の親族の請求によって、親権者を他の一方に変更することができる

☆未成年の子のいる父母が協議上の離婚をする際に、合意によりその一方をその子の親権者と定めたときでも、他の一方は、家庭裁判所に対し親権者の変更を請求することができる

☆離婚に際し、協議により父母の一方を親権者と定めた場合でも、父母の協議により親権者を変更することはできず、家庭裁判所の審判又は調停が必要となる

最決平12.3.10(百選Ⅲ24)

・離別による内縁解消の場合に民法の財産分与の規定を類推適用することは、準婚的法律関係の保護に適するものとしてその合理性を承認し得る 

・内縁の夫婦の一方の死亡により内縁関係が解消した場合に、法律上の夫婦の離婚に伴う財産分与に関する民法768条の規定を類推適用することはできないと解するのが相当である

・民法は、法律上の夫婦の婚姻解消時における財産関係の清算及び婚姻解消後の不要については、離婚による解消と当事者の一方の死亡による解消とを区別し、前者の場合には財産分与の方式を用意し、後者の場合には相続により財産を承継させることでこれを処理するものとしている。このことにかんがみると、内縁の夫婦について、離別による内縁解消の場合に民法の財産分与の規定を類推適用することは、準婚的法律関係の保護に適するものとしてその合理性を承認しうるとしても、死亡による内縁解消のときに、相続の開始した遺産につき財産分与の法理による遺産清算の道を開くことは、相続による財産承継の構造の中に異質の契機を持ち込むもので、法の予定しないところである 

最判昭46.7.23

・すでに財産分与がなされたからといって、その後不法行為を理由として別途慰謝料の請求をすることは妨げられないというべきである

・離婚における財産分与の制度は、夫婦が婚姻中に有していた実質上共同の財産を清算分配し、かつ、離婚後における一方の当事者の生計の維持をはかることを目的とするものであって、分与を請求するにあたりその相手方たる当事者が離婚につき有責の者であることを必要とはしないから、財産分与の請求権は、相手方の有責な行為によって離婚をやむなくされ精神的苦痛を被ったことに対する慰謝料の請求権とは、そのせいつを必ずしも同じくするものではない 

734条1項

・直系血族又は三親等内の傍系血族の間では、婚姻をすることができない。ただし、養子と養方の傍系血族との間では、この限りでない。

☆AがBの父母の養子である場合、A、B、同人らの親族又は検察官は、AとBの婚姻が近親者間の婚姻であることを理由として、その取消しを家庭裁判所に請求することができない

738条

・成年被後見人が婚姻をするには、その成年後見人の同意を要しない

☆未成年の子が婚姻をするには、原則として父母の同意を得なければならないが、成年被後見人が婚姻をするには、その成年後見人の同意を要しない

最判昭44.10.31

・法律上の夫婦という身分関係を設定する意思はあったと認めうる場合であっても、それが、単に他の目的を達するための便法として仮託されたものにすぎないものであって、前述のように真に夫婦関係の設定を欲する効果意思がなかった場合には、婚姻はその効力を生じない

☆判例によれば、AとBが、両名間の子Cに嫡出である子の身分を得させるための便法として、後日離婚することを合意した上で婚姻の届出をしたにすぎず、真に社会観念上夫婦であると認められる関係の設定を欲する効果意思がなかった場合には、婚姻の効力は生じない

725条

※配偶者の一方と他方配偶者の血族3親等まで、及び自己の血族3親等までの配偶者を姻族という 

☆未成年の子のいる父母が協議上の離婚をする際に、合意によりその一方をその子の親権者と定めたときでも、他の一方は、その子の推定相続人としての地位を失わない

772条

☆未成年の子のいる父母が協議上の離婚をしても、その子は、その父母の嫡出子としての身分を失わない 

764条、739条1項

・協議上の離婚は戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その効力を生ずる

☆協議上の離婚は戸籍法の定めるところにより届け出ることによって効力を生じ、判決による離婚は離婚請求を任用する判決が確定したときに効力を生ずる 

771条、767条1項

※婚姻によって氏を改めた夫又は妻は、裁判上の離婚によって婚姻前の氏に復する

最判昭33.4.11(家族法百選21) 

・内縁を不当に破棄された者は、……不法行為を理由として損害賠償を求めることもできる

・内縁は、婚姻の届出を欠くがゆえに、法律上の婚姻ということはできないが、男女が相協力して夫婦としての生活を営む結合であるという点においては、婚姻関係と異なるものではなく、これを婚姻に準ずる関係というを妨げない。そして709条にいう「権利」は、厳密な意味で権利と言えなくても、法律上保護せらるべき利益があれば足りるとされるのであり、内縁も保護せられるべき生活関係にほかならない

☆判例によれば、内縁の夫婦関係がその一方により正当の理由なく破棄されたため他の一方が精神的損害を被った場合には、当該他の一方は、不法行為を理由として慰謝料の支払を請求することができる

27-4 親子 

773条

・再婚禁止期間の規定に違反して再婚をした女が出産した場合において、嫡出の推定によりその子の父を定めることができないときは、裁判所が、これを定める

☆再婚禁止期間内に再婚をした女性が出産した場合において、嫡出の推定に関する民法の規定によりその子の父を定めることができないときは、父を定めることを目的とする訴えにより、裁判所がこれを定める

777条

・嫡出否認の訴えは、夫が子の出生を知った時から1年以内に提起しなければならない

最判平10.8.31 (家族法百選24)

※母の夫が皆胎時に出征中であった場合、夫が母と性的関係を持つ機会がなかったことが明らかであることから、このような事情のもとに生まれた子どもについては772条の嫡出推定が及ばない

774条

・772条の場合において、夫は、子が嫡出であることを否認することができる

※嫡出否認の訴えの原告適格をに限定

☆判例によれば、母の夫が服役していた間に母が懐胎したことが明らかな子は夫の子と推定されないが、母が嫡出否認の訴えを提起することはできない

783条2項

☆父又は母は、死亡した子でも、その直系卑属がある時に限り、認知することができる。この場合において、その直系卑属が成年者であるときは、その承諾を得なければならない

786条

・子その他の利害関係人は、認知に対して反対の事実を主張することができる

☆戸籍法の定めるところにより認知の届出がされた場合であっても、子その他の利害関係人は、認知が真実に反することを理由として認知無効の訴えを提起することができる

27-4-3 養子

792条

※成年に達した者は、養子をすることができる

☆未成年者は、養親となることができない 

817条の4

25歳に達しない者は、特別養子縁組の養親となることができない。ただし、養親となる夫婦の一方が25歳に達していない場合においても、その者が20歳に達しているときは、この限りでない

☆妻が26歳、夫が19歳の夫婦は、特別養子縁組における養親となることができない

797条1項

※普通養子縁組の養子となる者が15歳未満であるときは、その法定代理人が、これに代わって、縁組の承諾をすることができる

☆普通養子縁組において養子となる者が18歳であるときは、その法定代理人が、これに代わって、縁組の承諾をすることができない

797条2項後段

※法定代理人が民法797条1項の承諾をするには、養子となる者の父母でその監護をすべき者が他にあるときは、その同意を得なければならない

☆A(30歳)B(30歳)夫婦が、婚姻していないC(42歳)とD(42歳)の間の子E(4歳)を養子にする場合において、CはEを認知し、DはEの親権者であることを前提にすると、AB夫婦がEとの間で普通養子縁組をする場合においては、Dの承諾を得るとともに、家庭裁判所の許可を得る必要があるが、Cの同意を得る必要はない

798条本文

※未成年者を養子とするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。ただし、自己又は配偶者の直系卑属を養子とする場合は、この限りでない

☆未成年者は、父母の共同親権に服する間でも、祖父母との間で養子縁組をすることができる 

817条の3第1項、第2項本文

※特別養子縁組においては、養親となる者は、配偶者の有るものでなければならないとされ、また、夫婦の一方は、他の一方が養親とならないときは、養親となることができない

817条の5

※養親となる者が家庭裁判所に対して特別養子縁組の成立の申立てをした時に6歳に達している者は、養子となることができない。ただし、その者が8歳未満であって6歳に達する前から引き続き養親となる者に監護されている場合は、この限りでない

☆養親となる者が家庭裁判所に対して特別養子縁組の申立てをした時点で、養子となる者が10歳であるときは、家庭裁判所は、特別養子縁組を成立させることはできない

818条2項

※養子縁組により養親と養子の間で親子関係が発生することになるが、親子関係が生じることの効果として、養子が未成年の場合には、実親の親権は養親に移転する

☆普通養子は、実親及び養親の共同親権に服さず、養親の親権に服する

791条1項

※子が父又は母と氏をことにする場合には、子は、家庭裁判所の許可を得て、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その父又は母の氏を証することができる

A及びBの離婚に際し、Cの親権者と定められたBが婚姻前の氏に復した場合に、未成年者であるCがBの氏を称するためには、家庭裁判所の許可を得る必要がある 

791条2項

※父又は母が氏を改めたことにより子が父母と氏を異にする場合には、子は、父母の婚姻中に限り、家庭裁判所の許可を得ないで、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その父母の氏を称することができる

☆16歳の子を持つ母がその子の父との婚姻により氏を改めたため、その子が父母と氏を異にする場合には、その子は、父母の婚姻中に限り、家庭裁判所の許可を得ないで、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その父母の氏を称することができる

791条4項

※719条1項ないし3項の規定により氏を改めた未成年の子は、成年に達した時から1年以内に戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、従前の氏に復することができる

☆A及びBの離婚に際し、Cの親権者と定められたBが、婚姻前の氏に復したことにより、子が父又は母と氏を異にする場合に該当するとして、Cが法定の手続に従いBの氏を称するに至った場合に、Cが成年に達した時から法定の期間内にAの氏に復するためには、家庭裁判所の許可を得る必要がある

750条、810条

※夫婦は婚姻の定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する(750条)

※養子は、養親の氏を称する(810条本文)

※婚姻によって氏を改めた者については、婚姻の際に定めた氏を証すべき間は、この限りでない(810条ただし書)

☆A及びBの離婚当時、Eと婚姻してEの氏を称することとしていたCは、その後Fの養子となる縁組をした場合であっても、Fの氏を称することはできない

※普通養子縁組の効果は、養子と実親及び実方親族との関係に何ら影響しない。したがって、養子は実方と養方との二面の親族関係に立つことになる

817条の9本文

※養子と実方の父母及びその血族との親族関係は、特別養子縁組によって終了する

795条本文 

・配偶者のある者が未成年者を養子とするには、配偶者とともにしなければならない

811条2項

・養子が15歳未満であるときは、その離縁は、親と養子の離縁後にその法定代理人となるべき者との協議でこれをする

☆15歳未満の養子の協議上の離縁は、離縁後にその養子の法定代理人となるべき者と養親との協議によって行う

812条、747条

※強迫によって協議上の離縁をした者は、その取消しを家庭裁判所に請求できる

※当事者が強迫を免れた後、6ヶ月を経過し、又は追認したときは、消滅する  

811条6項

☆縁組の当事者の一方が死亡した後に生存当事者が離縁をしようとするときは、家庭裁判所の許可を得て、これをすることができる 

☆養子は養親と離縁しなくても、他の者の養子になることができる

794条

※後見人が被後見人を養子とするには、家庭裁判所の許可を得なければならない

☆後見人が被後見人を養子にする場合において、その被後見人が未成年者であり、後見人と親族関係にない時は、未成年者を養子とするおとについて家庭裁判所の許可を得るとともに、被後見人を養子とすることについて家庭裁判所の許可を得る必要がある

27-4-4 親権

818条3項ただし書

※親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行う。ただし、父母の一方が親権を行うことができないときは、他の一方が行う

☆夫婦において、父が成年被後見人である場合には、未成年の子に対する親権は母が単独で行使する

819条3項本文

※この出生前に父母が離婚した場合には、親権は、母が行う

753条

※未成年者が婚姻をしたときは、これによって成年に達したものとみなす

☆夫婦である父と母がいずれも18歳である場合でも、未成年の子に対する親権は、父母が共同で行使する

737条1項

・未成年の子が婚姻をするには、父母の同意を得なければならない

737条2項後段

※未成年の子が婚姻をするには、父母の同意を得なければならないが、父母の一方が知れないとき、死亡した時、又はその意思を表示することができないときは、他の一方の同意だけで足りる

※実務上、親権喪失者である父母であっても同意権を持つと解されている

☆未成年の子が18歳である場合には、父が死亡し、その後に母の親権が停止されたときでも、子は、母の同意を得れば婚姻をすることができる

☆未成年者が婚姻をする場合に、未成年後見人があるときでも、その同意を得る必要はない

☆父Aと母Bが離婚し、母Bが子Cの親権者となった後に、母BとDが再婚し、CがDの養子となった場合には、BとDがCの親権者となる 

最判昭53.2.24(百選Ⅲ49)

・後見人が被後見人を代理してする相続の放棄は、必ずしも常に利益相反行為にあたるとはいえず、後見人がまず自らの相続の放棄をしたのちに被後見人全員を代理してその相続の放棄をしたときはもとより、後見人自らの相続の放棄と被後見人全員を代理してするその相続の放棄が同時にされたと認められるときもまた、その行為の客観的性質からみて、後見人と被後見人との間においても、被後見人相互間においても、利益相反行為になるとはいえない

☆判例によれば、夫Aが死亡し、その相続人が妻Bと未成年の子Cの2人であり、BがCの親権者である場合において、BがAを被相続人とする相続につき自ら相続放棄をするのと同時にCを代理してCについて相続放棄をしたときは、B及びCの相続放棄はいずれも有効となる

834条の2第2項

※家庭裁判所は、親権停止の審判をするときは、その原因が消滅するまでに要すると見込まれる期間、この心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して、2年を超えない範囲内で、親権を停止する期間を定める

827条

☆親権を行う者は、自己のためにするのと同一の注意をもって、その管理を行わなければならない

27-6 扶養

877条2項

※家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合のほか、三親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる

☆家庭裁判所は、特別の事情がある時は、甥と叔母との間においても、扶養の義務を負わせることができる 

第28章 相続

28-1 相続

959条前段

※前条の規定により処分されなかった相続財産は、国庫に帰属する。

※不動産、動産問わず、国庫に帰属する

892条、1028条柱書

☆推定相続人の廃除は、遺留分を有する推定相続人について認められており、被相続人の兄弟姉妹については認められていない

最判昭63.6.21

☆判例によれば、Aが死亡し(第1相続)、その相続の承認又は放棄をすべき期間中に、Aの相続人であるAの子Bが死亡した場合(第2相続)、Bの相続人であるBの子Cは、第2相続の承認又は放棄をすべき期間中に、第1相続と第2相続についてともに相続の承認をすることができ、第1相続を放棄して第2相続のみを承認することもできる 

28-3 相続の効力

最判平元.2.9(百選Ⅲ69)

・共同相続人間において遺産分割協議が成立した場合に、相続人の1人が他の相続人に対して右協議において負担した債務を履行しないときであっても、他の相続人は民法541条によって右遺産分割協議を解除することができない

・遺産分割はその性質上協議の成立とともに終了し、その後は右協議において右債務を負担した相続人とその債権を取得した相続人間の債権債務関係が残るだけと解すべきであり、しかも、このように解さなければ民法909条本文により遡及効を有する遺産の再分割を余儀なくされ、法的安定性が著しく害されることになる

☆共同相続人であるAとBの間で遺産分割協議が成立した場合において、Aがその協議において負担した債務を履行しないときであっても、BはAの債務不履行を理由に遺産分割協議を解除することはできない

最判平2.9.27

・共同相続人の全員が、既に成立している遺産分割協議の全部又は一部を合意により解除した上、改めて遺産分割協議をすることは、法律上、当然には妨げられるものではない

☆共同相続人は、既に成立している遺産分割協議の全部を共同相続人全員の合意により解除した上で、改めて遺産分割協議を成立させることができる

最判平4.4.10(百選Ⅲ63)

・相続人は、遺産の分割までの間は、相続開始時に存した金銭を相続財産として保管している他の相続人に対して、自己の相続分に相当する金銭の支払を求めることはできない 

☆共同相続が生じた場合、相続人の1人であるAは、遺産の分割までの間は、相続開始時に存した金銭を相続財産として保管している他の相続人Bに対して、自己の相続人に相当する金銭の支払いを求めることはできない

最判昭34.6.19(百選Ⅲ62)

・連帯債務は、数人の債務者が同一内容の給付につき各独立に全部の給付をなすべき債務を負担しているのであり、各債務は債権の確保及び満足という共同の目的を達する手段として相互に関連結合しているが、なお、可分なること通常の金銭債務と同様である。ところで、債務者が死亡し、相続人が数人ある場合に、被相続人の金銭債務その他の可分債務は、法律上当然分割され、各共同相続人がその相続分に応じてこれを承継するものと解すべきであるから……、連帯債務者の一人が死亡した場合においても、その相続人らは、被相続人の債務の分割されたものを承継し、各自その承継した範囲において、本来の債務者とともに連帯債務者となる

☆A及びBがCに対して400万円の連帯債務を負担していたところ、Aが死亡し、その妻D及び子Eが相続した場合、Cは、Eに対して、Aの負担してた400万円の債務全額の支払いを請求することはできず、200万円の支払いのみを請求することができる

最判昭50.11.7

・第三者が右共同所有関係の解消を求める方法として裁判上とるべき手続は、民法907条に基づく遺産分割審判ではなく、民法258条に基づく共有物分割訴訟である。

・共同相続人の一人が特定不動産について有する共有持分権を第三者に譲渡した場合、当該上と部分は遺産分割の対象から逸出するものと解すべきであるから、第三者がその譲り受けた持分権に基づいてする分割手続きを遺産分割審判としなければならないものではない

☆A、B及びCが共同相続した甲土地の共有持分権をCから譲り受けたDが、A及びBとの共有関係の解消のためにとるべき裁判手続は、遺産分割審判ではなく、共有物分割訴訟である

☆甲建物を所有していたAが死亡し、Aには子B、C及びDがいるが、遺産分割は未了である場合、第三者EがBから甲建物の共有持分権を譲り受けた場合、EがC及びDとの共有関係の解消のためにとるべき裁判手続きは、共有物分割訴訟である

最判平8.12.17(家族百選72)

・共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは、特段の事情のないかぎり、被相続人と右同居に相続人との間において、被相続人が死亡し相続が開始した後も、遺産分割により右建物の所有関係が最終的に確定するまでの間は、引き続き右同居の相続人にこれを無償で使用させる旨の合意があったものと推認されるのであって、被相続人が死亡した場合は、この時から少なくとも遺産分割終了までの間は、被相続人の地位を承継した他の相続人等が貸主となり、右同居の相続人を借主とする右建物の使用貸借契約関係が存続することになる

・建物が右同居の相続人の居住の場であり、同人の居住が被相続人の許諾に基づくものであったことからすると、遺産分割までは同居の相続人に建物全部の使用権原を与えて相続開始前と同一の態様における無償による使用を認めることが、被相続人及び同居の相続人の通常の意思に合致するといえる 

☆共同相続人の一人であるAが相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である甲建物において非相続人と同居してきたときは、相続が開始した時から遺産分割が終了するまでの間、引き続きAに高建物を無償で使用させる旨の合意があったものと推認され、被相続人のちいを承継した他の相続人らが貸主となり、Aを借主とする甲建物の使用貸借契約関係が存続することになる

最判昭52.9.19

・共同相続人が全員の合意によって遺産分割前に遺産を構成する特定不動産を第三者に売却したときは、その不動産は遺産分割の対象から逸出し、各相続人は第三者に対し持分に応じた代金債権を取得し、これを個々に請求することができる

☆共同相続人が全員の合意によって遺産分割前に遺産である土地を第三者に売却した場合において、その売買に係る代金債権は、不可分債権である

最判平14.6.10(家族百選77)

※「相続させる」趣旨の遺言による権利の取得については、登記なくして第三者に対抗できる

・「相続させる」趣旨の遺言による権利の移転は、法定相続分又は指定相続分の相続の場合と本質において異なるところはない

・法定相続分又は指定相続分の相続による不動産の権利の取得については、登記なくしてその権利を第三者に対抗することができる

☆被相続人が所有し、その名義で所有権の登記がされている甲土地を相続人の一人であるAに相続させる旨の遺言が遺産分割の方法の指定と解される場合、Aは、登記をしなくても甲土地の所有権の取得を第三者に対抗することができる

☆Aが、その所有する不動産を相続人Bに相続させる旨の遺言をし、相続が開始した後に、他の相続人Cの債権者Dが、その不動産につき代位による共同相続時をして持分を差し押さえた場合、Bは、Dに対し、登記をしなくても上記遺言による所有権の取得を対抗することができる

910条

・相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有する

☆共同相続人における遺産分割の審判が確定した後に、被相続人を父とする認知の判決が確定し被認知者が相続人となった場合、遺産分割の審判はその効力を失わない 

最判昭54.3.23

※母の死亡による相続につき遺産の分割その他の処分後に共同相続人である非嫡出子の存在が明らかになった場合について、民法910条(相続開始後に認知された非嫡出子が存在し、かつ、既に遺産分割が終了していた場合には、当該非嫡出子は他の共同相続人に対し価額のみによる支払の請求権を有する)を類推適用することはできず、遺産の再分割が行われる

911条

・各共同相続人は、他の共同相続人に対して、売主と同じく、その相続分に応じて担保の責任を負う。

☆遺産分割後に遺産である建物に隠れた瑕疵があったことが判明した場合であっても、当該建物を遺産分割により取得した相続人は、他の相続人に対し、瑕疵担保責任を追及することができる

最判昭42.1.20(家族法百選75)

・民法が承認、放棄をなすべき期間(915条)を定めたのは、相続人に権利義務を無条件に承継することを強制しないこととして、相続人の利益を保護しようとしたものであり、同条所定期間内に家庭裁判所に放棄の申述をすると(938条)、相続人は相続開始時に遡って相続開始がなかったと同じ地位におかれることとなり、この効力は絶対的で、何人に対しても、登記なくしてその効力を生ずる

☆法定相続人としてBCがいる場合において、Bが相続放棄した後に、Bの債権者Dが、相続財産である未登記建物につきBも共同相続したものとして代位による所有権保存登記をした上、その建物のBの持分について差押えをしたときは、Cは、Dに対し、登記をしなくても相続による当該建物の取得を対抗することができる

最判昭46.11.16

・被相続人からの受贈者らは、本件贈与をもって受遺者に対抗することができず、また、原判決が適法に確定した事実関係に徴すれば、上告人が本件贈与の登記の欠缺を主張するのは権利の濫用である旨の被上告人らの主張が理由のないことは明らかである

・ 被相続人が、生前、その所有にかかる不動産を推定相続人の一人に贈与したが、その登記未了の間に、他の推定相続人に右不動産の特定遺贈をし、その後相続の開始が合った場合、右贈与および遺贈による物権変動の優劣は、対抗要件たる登記の具備の有無をもって決すると解するのが相当であり、この場合、受贈者および受遺者が、相続人として、被相続人の権利義務を包括的に承継し、受贈者が遺贈の履行義務を、受遺者が贈与契約上の履行義務を承継することがあっても、このことは右の理を左右するに足りない

☆Aが、子BCのうち、Bに対してはA所有の不動産を贈与し、Cに対してはこれを遺贈する旨の遺言をし、その後に相続が開始した場合、Bは、Cに対し、登記をしなければ贈与による所有権の取得を対抗することができない

最判昭38.2.22(家族法百選73)

・相続財産に属する不動産につき単独所有権移転の登記をした共同相続人中の乙ならびに乙から単独所有権移転の登記をうけた第三取得者丙に対し、他の共同相続人甲は自己の持分を登記なくして対抗しうる

・乙の登記は甲の持分に関する限り無権利の登記であり、登記に公信力なき結果丙も項の持分に関する限りその権利を取得するに由ない

☆AからBCが共同相続した不動産について、Cが単独で相続した旨の不実の登記をし、Dに売却して所有権移転登記をした場合、Bは、Dに対し、登記をしなくても、自己の持分の取得を対抗することができる

最判昭46.1.26(家族法百選74)

・不動産に対する相続人の共有持分の遺産分割による得喪変更については、民法177条の適用が有り、分割により相続分と異なる権利を取得した相続人は、その旨の登記を経なければ、分割後に当該不動産につき権利を取得した第三者に対し、自己の権利を対抗することができない

・遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるものではあるが、第三者に対する関係においては、相続人が相続によりいったん取得した権利につき分割時に新たな変更を生ずるのと実質上異ならない

・民法909条ただし書の規定によれば、遺産分割は第三者の権利を害することができないものとされ、その限度で分割の遡及効は制限されているのであって、その点において、絶対的に遡及効を生ずる相続放棄とは、同一に論じえないものというべきである。遺産分割についての右規定の趣旨は、相続開始後遺産分割前に相続財産に対し第三者が利害関係を有するにいたることが少なくなく、分割により右第三者の地位を覆すことは法律関係の安定を害するため、これを保護するよう要請されるというところにあるものと解され、他方、相続放棄については、これが相続開始後短期間にのみ可能であり、かつ、相続財産に対する処分行為があれば放棄は許されなくなるため、右のような第三者の出現を顧慮する余地は比較的乏しいものと考えられるのであって、両者の効力に差別を設けることにも合理的理由が認められるのである。そして、さらに、遺産分割後においても、分割前の状態における共同相続の外観を信頼して、相続人の持分につき第三者が権利を取得することは、相続放棄の場合に比して、多く予想されるところであって、このような第三者をも保護すべき要請は、分割前に利害関係を有するにいたった第三者を保護すべき前示の要請と同様にm止められるのであり、したがって、分割後の第三者に対する関係においては、分割により新たな物権変動を生じたものと同視して、分割につき対抗要件を必要とするものと解する理由がある

☆AからBCが共同相続した不動産について、遺産分割の協議により所有権を取得した相続人Bは、遺産分割後にCの法定相続分に応じた上記不動産の持分をCから買い受けたDに対し、登記をしなければ法定相続分を超える所有権の取得を対抗することができない

907条2項、家事審判法9条1項乙類10号

・遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その分割を家庭裁判所に請求することができる

☆共同相続が生じたとき、各相続人は、他の相続人全員を被告として遺産分割の訴えを提起することはできず、遺産分割審判を求めることができる 

940条1項

・相続の放棄をした者は、その法規によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない

☆相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない 

28-7 遺言

961条

☆15歳に達した者は、遺言をすることができる

962条

・5条(未成年者の法律行為)、9条(成年被後見人の法律行為)、13条(保佐人の同意を要する行為等)及び17条(補助人の同意を要する旨の審判等)の規定は、遺言については、適用しない

☆成年被後見人がした遺言は、成年後見人が取り消すことはできない 

☆遺贈は、相続人に対してもすることができる

990条

※包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する

☆包括遺贈を受けた者は、相続財産に属する債務を承継する

994条

※遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない

992条

※受遺者は、遺贈の履行を請求することができる時から果実を取得する

☆遺言者が遺言において別段の意思を表示していない限り、受遺者は、遺贈の履行を請求することができる時から果実を取得する

989条1項 

遺贈の承認又は放棄は、撤回することができない 

908条

・被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から5年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる

☆被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定めることを第三者に委託することができる

987条

※遺贈義務者その他の利害関係人は、受遺者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に遺贈の承認又は法規をすべき旨の催告をすることができる。この場合において、受遺者がその期間内に受贈義務者に対してその意思を表示しないときは、遺贈を承認したものとみなす

最判平21.3.24(重判平21民法13)

・遺言による相続債務についての相続分の指定は、相続債務の債権者の関与なくされたものであるから、相続債権者に対してはその効力が及ばないものと解するのが相当であり、各相続人は、相続債権者から法定相続分に従った相続債務の履行を求められたときには、これに応じなければならない

☆判例によれば、遺言により相続分の指定がされている場合であっても、被相続人の債権者は、法定相続人に対し、法定相続分に従った相続債務の履行を求めることができる

974条

※未成年者は、遺言の証人又は立会人となることができない

☆15歳に達した未成年者でも、遺言の証人になることはできない

893条

※被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない

☆被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示した時は、それにより推定相続人の廃除の効力が生じるわけではなく、家庭裁判所による廃除を認める審判の確定によって発生する 

最判平9.1.28(百選Ⅲ52)

☆判例によれば、相続人による遺言書の破棄又は隠匿は、相続に関して不当な利益を目的とするものでなかったときは、相続人の欠格事由に当たらない

975条

※遺言は、二人以上の者が同一の証書ですることができない

☆夫婦であっても、同一の証書で遺言をすることはできない 

28-8 遺留分

1036条

・受贈者は、その返還すべき財産のほか、減殺の請求が合った日以後果実を返還しなければならない 

1039条

・不相当な対価をもってした有償行為は、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限り、これを贈与とみなす。この場合において、遺留分権利者がその減殺を請求するときは、その対価を償還しなければならない

☆不相当な対価をもってした建物の売買契約で、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものについて遺留分権利者がその減殺を請求するときは、遺留分権利者は、相手方に対し、その対価を償還する必要がある 

1043条1項

相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けた時に限り、その効力を生ずる

☆相続の開始における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を得なくても効力を生じる

1034条

・遺言は、その目的の価額の割合に応じて減殺する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う 

1035条

・贈与の減殺は、後の贈与から順次前の贈与に対してする

☆遺贈は、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときを除き、その目的の価額の割合に応じて減殺し、贈与は、後の贈与から順次前の贈与に対して減殺する

1043条2項

☆共同相続人の1人が遺留分を放棄しても、他の共同相続人の遺留分に影響を及ぼさない

最判平12.4.7

・上告人は、右占有により上告人の持分に応じた使用が妨げられているとして、単独占有していた相続人に対して、持分割合に応じて占有部分に係る地代相当額の不当利得金ないし損害賠償金の支払を請求することはできるものと解すべきである

☆甲建物を所有していたAが死亡し、Aには子B、C及びDがいるが、遺産分割は未了である場合、BがAの死亡後新たに甲建物で居住を開始し、C及びDに甲建物を使用させない場合、C及びDは、甲建物に現実に居住する意思がないときでも、Bに対し、持分の割合に応じた使用量相当額を不当利得として返還請求することができる

最判昭30.5.31

※相続開始と同時に個々の相続財産に各相続人が持分を有し、遺産分割前にも持分に基づく所有権移転登記をすることができる

甲建物を所有していたAが死亡し、Aには子B、C及びDがいるが、遺産分割は未了である場合、遺産分割がされる前であっても、甲建物について、B、C及びDの法定相続分に応じた持分の割合により、相続を原因とする所有権移転登記をすることができる

最大判昭53.12.20(家族法百選61) 

・共同相続人のうちの一人若しくは数人が、他に共同相続人がいること、ひいて相続財産のうちその一人若しくは数人の本来の持分をこえる部分が他の共同相続人の持分に属するものであることを知りながらその部分もまた自己の持分に属するものであると称し、又はその部分についてもその者に相続による持分があるものと信ぜられるべき合理的な事由……があるわけではないにもかかわらずその部分もまた自己の持分に属するものであると称し、これを占有管理している場合は、もともと相続回復請求制度の適用が予定されている場合にはあたらず、したがって、その一人又は数人は……相続権を侵害されている他の共同相続人からの侵害の排除の請求に対し相続回復請求権の時効を援用してこれを拒むことができるものではないものと言わなければならない

・当該財産について、自己に相続権がないことを知りながら、又はその者に相続権があると信ぜられるべき合理的事由があるわけではないにもかかわらず自ら相続人と称してこれを侵害している者は、……実質において一般の物権侵害者ないし不法行為者であって、いわば相続回復請求制度の埒外にある者にほかならない

☆甲建物を所有していたAが死亡し、Aには子B、C及びDがいるが、遺産分割は未了である場合、Bが遺産分割協議書を偽造して甲建物についてBへの所有権移転登記をした場合は、C及びDがその事実を知った時から5年以上経過後に当該登記の是正を請求するときでも、Bは、相続回復請求権の5年の短期消滅時効が完成したことを主張することができない

最判昭41.7.14(百選Ⅲ91)

・遺留分権利者が民法1031条に基づいて行う減殺請求権は形成権であって、その権利の行使は受贈者または受遺者に対する意思表示によってなせば足り、必ずしも裁判上の請求による要はない

☆遺留分減殺請求権は、裁判上行使する必要はない

最判平12.7.11(家族法百選99) 

・受贈者又は受遺者は、民法1041条1項に基づき、減殺された贈与又は遺贈の目的たる各個の財産について、価額を弁償して、その返還義務を免れることができるものと解すべきである

・遺留分権利者のする返還請求は権利の対象たる財産についてなし得るものというべきであり、また、遺留分は遺留分算定の基礎となる財産の一定割合を示すものであり、遺留分権利者が特定の財産を取得することが保障されているものではなく……受贈者又は受遺者は、当該財産の価額の弁償を現実に履行するか又はその履行の提供をしなければ、遺留分権利者からの返還請求を拒み得ないのであるから……右の王に解したとしても、遺留分権利者の権利を害することにはならない