2015年末流行したベーシックインカム論
昨年12月に、フィンランドでベーシックインカム導入の検討が始まったことを契機に日本国内でも議論が一気に加熱しました。
その時に取り上げられたのが、堀江さんが5年以上前に書いたこちらの記事。
この中で、堀江さんはこんなことをおっしゃっていました。
あとは、一人当たりどれくらい支払えばいいかってことね。例えば日本国民に月8万円払うとしたらざっと月10兆円。年間で120兆円必要だね。
予算が問題ではあるんですが、とりあえず120兆配って消費税率を20%くらいに上げると日本のGDPの内需部分が300兆円くらいあるとして、300 x 20%=60兆。プラス無駄な公共事業を減らし、年金・生活保護・その他補助金をやめてベーシックインカムに統合。すればなんとかなりそうな気がしてきた。その辺シミュレーションだれかしてないんだっけ?
これを受けて、ベーシックインカムを実現するための財源について検討してみたいと思います。
ベーシックインカムの財源
現在の状況
まず、現在の国の収支を見てみます。
2016年度の一般会計の予算は約100兆円です。
これを見ると、ベーシックインカムのために追加で確保すべき120兆円というのはかなりの金額であるとわかるかと思います。
一方で、国の収入は次のようになっています。
消費税を20%にあげると?
堀江さんの言うように消費税を20%に上げるとどうなるのでしょうか。
上の歳入のグラフを見てください。消費税8%の現在、消費税による収入は17.2兆円です。単純に計算すれば、消費税を12%あげて20%にすることで26兆円の歳入増加が見込まれます。
年金や生活保護をやめると?
歳出のグラフを見ると、社会保障費として32兆円支出されていることがわかります。大まかに内訳を見ると、年金が約10兆円、医療費が約10兆円、介護費が約3兆円、生活保護が約3兆円、その他が6兆円です。
このうち、医療費や介護費は突発的な事由による負担の増大を軽減するためのものなので、ベーシックインカムを導入しても維持すべきものでしょう。一方で、ベーシックインカムを導入することで、年金や生活保護の支出は不要になります。これによって、年金分の10兆円、生活保護分の3兆円、合計13兆円が確保されます。
無駄な公共事業をやめると?
次に、無駄な公共事業のための支出を減らしてみます。
歳出のグラフを見ると、公共事業への支出は6兆円。このうちどれくらいが無駄な公共事業なのかはわからないので、多めに見積もって3分の2が無駄な公共事業と仮定すると、無駄な公共事業への支出は4兆円となります。これを削減することで、4兆円を確保することができます。
なお、堀江さんが削るべきという「補助金」も、この公共事業費の中に含まれています。
また、近年、地方公共団体が公共事業を行うに際して、地方債が活用されています。地方債とは地方公共団体がする借金です。借金であるため、地方公共団体がお金を返すのですが、この返済金(元利償還金と言います)のうち一定の割合に、地方交付税が充てられます。現在の地方債現在高は約150兆円です。これを20年で返すとして、1年あたりの元利償還金は7.5兆円。無駄な公共事業が3分の2であるとすれば、無駄な公共事業のための元利償還金は5兆円となります。その半分に交付税が充てられるとして、これを削減すれば2.5兆円を確保できることになります。
以上より、公共事業を削減することで確保できるのは、4兆円+2.5兆円=6.5兆円です。
公務員や政治家の人件費を削減すると?
また、こうした財源確保の話をするとよく出てくるのが、公務員や政治家の人件費削減です。行政機関の職員(29.7万人)への人件費はおよそ3兆円、国会議員(722人)への歳費等の総額は0.2兆円程度です。
国会議員に対する支出をどうこうしてもほとんど効果がないので、公務員の人件費について考えてみます。
ベーシックインカムの導入により、現在の生活保護の認定に必要な職員等が削減されることが想定されます。また、無駄な公共事業を行わないことによっても国土交通省あたりの職員の削減が可能かもしれません。
これによって1割でも削減できれば0.3兆円の確保ができます。
(参考)
・ハローワークの職員は現在およそ1万人です。
・国土交通省の職員はおよそ6万人です。
・なお、生活保護等に係るケースワーカーは地方公務員です。
合計
以上より、ベーシックインカム導入のための財源は45.8兆円確保することができました。
ベーシックインカム導入による歳入減
一方で、ベーシックインカムを導入することによる歳入の減少も無視することはできません。
具体的には、現在よりも仕事をする人が減る訳ですから、所得税と法人税が減少することが考えられます。
歳入のグラフを見ると、所得税は18兆円、法人税12.2兆円です。
ベーシックインカムの導入によりどれくらいの人が働かなくなるかの算定は困難なので、現在働いている人のうち2割の人が働かなると仮定し、単純に、所得税法人税ともに2割減少するとします。
すると、合計で6兆円の減収になります。
ベーシックインカムのために使えるお金
以上より、ベーシックインカムのための財源を45.8兆円確保できた一方で、その導入により6兆円の減収が見込まれます。
よって、ベーシックインカムとして実際に国民に支給できる金額は、差し引き40兆円です。もともと月8万円ずつ国民に払う計算で120兆円必要と考えていましたが、その3分の1となってしまいました。これでは月に3万円弱しか支給することができません。
これでは、ベーシックインカムだけで自立しようと考える人は出てこず、ベーシックインカムの本来の目的が実現できないように思います。
私の提案
そこで、私は考えました。
ベーシックインカムとして支給すべき金額は、年齢によって異なるのではないかと。
特にベーシックインカムを必要とするのは、
・0歳から19歳の子供:子供の福祉と子育て世代支援のため
・20歳から30歳までの若者:給与水準も低く貯金もない。
起業等の可能性も高い。
・65歳以上の高齢者:体力的に労働が難しい
そこで、ベーシックインカムの金額を次のように設定します。
・ 0-19歳:30000円(3000万人)
・20-34歳:60000円(2250万人)
・35-64歳:10000円(4500万人)
・65-79歳:30000円(2250万人)
※カッコ書きは、0歳-79歳の間に1億2000万人いるとし、単純に割った場合の人口です。
この総額を計算すると、月3.375兆円、年40.5兆円になります。
35-64歳のベーシックインカムが少ないと思うかもしれませんが、34歳までの間に自分で稼ぐための力を身につけ、自ら稼ぐことを想定しています。また、この世代で最もお金がかかることが想定される子育て費用は、子供のためのベーシックインカムで賄われています。
ベーシックインカム導入にあたり考えられる問題点
以上、ベーシックインカムの財源について考えてみましたが、実際に導入するとなった時に検討すべき問題は他にもあります。それは次のようなことです。
モラトリアム期間が延びるだけではないか
多くの若者にとって、大学時代というのは単なるモラトリアム期間です。ここでは「モラトリアム」という言葉を、「何らの経済的価値を生み出さず、自分の能力向上も行わない期間」という意味で使用していますが、これは、大学全入時代がもたらした弊害と言えます。これと同様に、ベーシックインカムの導入によって、何らの経済的価値も生み出さず、能力向上も行わない期間を34歳まで過ごす人間が出てくるのかもしれません。
親による子供の搾取を防ぐ必要がある
現代でも、里親制度などを悪用した、大人による子供からの搾取が問題となっています。これと同様に、子供を産むだけ産んでベーシックインカムを掠め取り、面倒を一切見ない、という事態に陥ることを防ぐ必要があります。場合によっては、それぞれの子供が得たベーシックインカムを対価に、親の代わりに面倒を見る機関が必要かもしれません。
ベーシックインカムの導入による国の歳入減少を防ぐ
ベーシックインカムを導入して歳入が減少すれば、制度自体を維持することができません。ベーシックインカムの財源の大部分は消費税です。消費が滞らないように、ベーシックインカムとして得たお金には使用期限を設けるといった工夫が必要かもしれません(この場合に、ベーシックインカムとして得るお金と通常の貨幣を換金する業者などは取り締まる必要があります)。
まあ、実際にはこんな大改革がここ数年で実現するなんてことはありえないのでしょうが、いろいろと考えてみるのは楽しいですね。