落語女子が古典芸能の世界を盛り立てる
最近、若い世代で、落語にはまるいわゆる「落語女子」が急増している。
これまで笑点はもちろん、「寄せ」の存在すら気にかけたことのなかった10代、20代の女性が、落語人気復活の立役者だ。
ドラマ「世界一難しい恋」で、嵐大野智さんの相手役のヒロイン柴山美咲(波瑠)が落語好きで、お気に入りのCDを大野智さんに貸していたのも記憶に新しく、落語女子ブームを反映していると言えるだろう。
ドラマの中の波瑠さんの場合は、彼女のおじいさんの影響ということだったが、現実世界での女性の間に落語ファンを増やしたのは、2016年1月〜3月にかけて深夜に放送されていたアニメ「落語心中」である。
丁度Amazonビデオが、プライム会員(有料会員)に対してビデオの見放題サービスを提供し始めた時に、一番人気の作品としてトップ画面で推していたことも相俟って、多くの視聴者を獲得した。
さらに、第1話としては異例の1時間の構成で放送された「与太郎放浪篇」が、視聴者の心を鷲掴みにし、口コミによってファンの数を拡大して行ったのである。
私は男性だが、私自身も、同様にAmazonプライムビデオで第1話を視聴して落語の世界に引き込まれた人間の一人である。第1話の完成度の高さは、どんな落語ファン及びアニメファン、そして、落語にもアニメにも興味がない人すらも引き込むことだろう。
与太郎を演じた関智一さんが番組の後半で「出来心」という演目の落語を演じきるのだが、これがまた面白いのである。
第2話以降では、与太郎の師匠であった八雲とそのライバルである助六による昔話になるが、注目すべきは豪華な声優陣。八雲はエヴァンゲリオンの渚カヲル役で有名な石田彰、助六はディズニー映画で多くの吹き替えをしている山寺宏一が演じている。演者ではないが林原めぐみも出てくる。
こう見てみるとエヴァンゲリオン関連の声優ばかりな気もするが、それ以外の声優もすごい。若手時代から大活躍をしていた小林ゆうや、マクロス7で歌じゃない方のバサラを演じていた神奈さんといった具合だ。
これらの、演技の巧みなベテラン声優が、実在する古典落語を毎回アニメの中で披露していくのだが、その話のうまさには舌をまく。実力のある声優はここまですごいのかと。
一昔前に、絶望先生で有名な久米田康治さんによる「じょしらく」という漫画もアニメ化されたが、若手のアイドル声優を起用したこの作品とは打って変わって、落語心中には、落語に対する声優の気迫を感じることができた。
アクションのアニメではないため、眠い時に見るには適さない。しかし、古典芸能である落語と現代芸術であるアニメーションとを融合させた本作は、頭が冴えている時、真剣に見るアニメとしては最適である。声優陣がプロとしてのプライドを持ってここまで演じた作品は他にない。
この作品のおかげで、落語の面白さを知り、Amazonプライムで同様に無料配信されていた「れふかだ落語会」(ライブハウスであるLEFKADAで、若者向けに上演されている、プロの咄家による落語を録画した作品)も全て見てしまった。機会があれば新宿末廣亭にも足を運びたいと考えている。
一度火がついた落語女子のブームは、当分の間、広がり続けることだろう。より一層の熱気を帯びながら。
昭和元禄落語心中も、その人気から、第2期の作品として「助六再び篇」を制作することが決定している。次のシーズンではどんな演目を聞かせてくれるのか、今から楽しみでならない。
↓上で動画を紹介した、関智一さんによる「出来心」を全編見たい方はこちらから。Amazonプライム会員なら(お試し会員でも)、全て無料で見ることができる。