リカレント!

Life is either a daring adventure or nothing.

「支持政党なし」って政党名、頭いいけどズルいよね。情報弱者狙いの無責任な輩に要注意!【参院選2016】

無党派層を考える―その政治意識と行動 (転換期の焦点 (4))

2016年の参議院議員選挙に出馬中の「支持政党なし」という政党

 先日NHKで政見放送を見ていると、名前の隣に「支持政党なし」と書いてある候補者がいて、違和感を覚えた。特に政党に所属していない候補者であれば、「無所属」と書かれるはずなのに、そうではなくて「支持政党なし」と書いてあるのだ。

 話を聞いていると、どうやら政党名が「支持政党なし」であるらしい。

 この政党はどうやら情報弱者をターゲットとした、小狡い選挙戦略をとっているようだ。

何が問題か

 この政党名に関する問題を考える上で、まず参議院議員選挙の仕組みを知る必要がある。

 参議院議員選挙では、①原則として都道府県を単位とした選挙区選挙と②全国を一つの選挙区とした比例代表選挙が同時に行われる。

http://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/naruhodo/img/naruhodo04_03.gif

(出典:総務省HP)

 「支持政党なし」に関して問題となるのは、②比例代表選挙である。比例代表選挙において、投票者は投票所で「自由民主党」や「自民党」など政党名で投票する(なお、参議院議員選挙では比例に関して非拘束名簿式が取られているため、比例代表選挙に出馬している候補者の名前を書くこともできる)。

 したがって、現在の政治不信や白票投票の煽りを受けて「支持政党なし」や「支持なし」と書くと、この「支持政党なし」という政党が票を得ることになるのである(白票のつもりで投票した「なし」も同様の扱いとなる可能性が高い)。

 本来はどこの政党にも投票しない意思で投じた票が、このような小狡い政党の得票になるのは、国民の意思を反映すべき民主主義を捻じ曲げているとしか言えない。「支持政党なし」は国民の意思を直接的に反映することを政策として謳っているようだが、姑息な手段で票を集めるその姿はその掲げる政策と真っ向から矛盾している。

 「支持政党なし」のこの戦略は、掲示板に貼られているポスターからも明らかである。「支持政党なし」党首である佐野秀光は比例代表選挙に出馬しているが、それ以外に、東京都選挙区に4人、北海道選挙区・神奈川県選挙区・大阪府選挙区・熊本県選挙区に1人ずつ出馬している。東京都選挙区に出馬している4人が小選挙区用のポスターとして街中に掲示しているのがこちらである。

 言っておくが、選挙区選挙においては政党名で投票することはできない候補者名で投票しなければならない。

 しかし、これら選挙区選挙用のポスターには、候補者名が一切書いていないのである。

 このポスターも、あくまで選挙区選挙用であることから「選挙区は支持政党なし公認候補者へ」として、よく見れば「公認候補者へ」の部分が小さく書いてあることがわかるが、大きく目立つのは「支持政党なし」という文字である。 また、ポスターの下部には、比例区で「支持政党なし」に投票するように念押ししている。

 このような狡猾な戦略に引っかからないよう、有権者には十分に注意してほしい。ネット上ではこの政党に関する注意喚起がある程度なされているようだが、インターネットに馴染みのない高齢者こそ投票率が高い。十分に注意喚起をしていただきたい。また、今回の選挙で選挙権を有することになる18歳、19歳を初めとした若年層も十分に注意していただきたい。

 なお、「支持政党なし」の問題は、姑息な選挙戦略だけではなく、その政策内容にある。「支持政党なし」は、政策が一切ないことを掲げているのである。

  「政策一切なし」これがどういうことかというと、国会で特定の法案が審議される際、「支持政党なし」に所属する議員は自ら賛成・反対を決することなく、インターネットを通じた国民による投票行為により、賛成・反対どちらに票を投じるかを決定するというのである。

 これは、直接民主制の弊害を完全に無視している。日常生活の大部分を仕事に割いている国民が大半を占める現代社会では、国民が十分に法案や政策について勉強し、互いに議論を交わすことができない。そこで、国民が選んだ代表者が、法案・政策について十分な勉強をし、十分な議論を尽くすことを可能にするための制度が現在の日本で採られている間接民主制なのである。

 また、直接民主制は多数派(マジョリティ)による専制につながり、少数派(マイノリティ)の抑圧につながる可能性が高い。いくら憲法があるとはいえ、司法による判断は事後的なものであり、判断が下るまでの数年間、少数派が理不尽な抑圧を受けることになってしまうのである。

 さらに、「政策一切なし」で判断を国民による投票に委ねる行為は単なる責任の放棄でしかない。国会議員は、国民からの信任を受け、議員報酬を受けながら活動している以上、誤った選択をすればその責めを負うことになる。しかし、国民の投票で法案への賛成反対を決めるのであれば、その判断の責任は国民に直接的に帰属することになる。どんなに責め立てられようと、「国民の投票に従ったまでです」と言えばそれで責任を回避してしまう。その一方で、国会議員としての報酬は受け取ろうというのだからタチが悪い。

 こんな無責任な候補者に誤って票を投じることのないよう、十分に注意されたい。

(おまけ)

 「国会議員が5人以上」などといった「政党要件」という言葉を聞いたことがあるかもしれない。これは、政党交付金の交付を受けたり、衆議院議員選挙で小選挙区と比例代表に重複立候補するために満たすべき政党としての要件である。どうやら、「支持政党なし」はこの政党要件を満たしていないようであるが、しかし、参議院議員選挙ではそもそも重複立候補が認められていないため、政党要件を満たしていようと満たしていなかろうと関係ない。

(2016年7月11日追記)

 結果的に、2016参院選で支持政党なしは議席を得なかった。しかし、比例区における政党名での得票数は約60万票。非拘束名簿式故の個人名での得票数に関して、党代表のん佐野氏は、幸福実現党比例区トップの七海氏と同数程度だが、政党としての得票数は幸福実現党の倍近くになっている。この中にどれだけの誤投票が含まれているのだろうか。今後の選挙においても同様のやり方を取るということなので、引き続き注意が必要である。 

f:id:soumushou:20160711103300p:plain

(出典:比例区 - 開票速報 - 2016参院選:朝日新聞デジタル