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宮森氏プロブロガー50円日雇労働派遣問題における弁護士の考えが必ずしも正しい訳ではない

50円のミスで叱られた 作家・江上剛の銀行員人生 (朝日新聞デジタルSELECT)

宮森はやとさんの例の炎上問題に関する弁護士の主張は必ずしも正しい訳ではない 

 例の、宮森はやとさんの「50円でなんでもやります」という企画に、ブルアーズさんが「50円払うから日雇い労働して」という依頼をして炎上していた案件について書きたい。落ち着きつつある現在、別に掘りかえすつもりはないのだが、宮森はやとさんの最新記事を見て思うところがあったので書かせてもらいたいと思う。

 注目したいのは、この記事の中で「法律でも問題無し。結局、プロブロガーやぼくのことが嫌いだから炎上した」と題する段落中の、弁護士(田村ゆかり…)の次のような意見です。

「そもそも、契約は『申込み』と『承諾』という意思表示が合致した場合に成立します。たとえば、八百屋で売られているリンゴについて、『1個100円で売りたい』という申込みに対して、客の『そのリンゴを1個100円で買います』という承諾があれば、契約成立となります」

 田村弁護士はこのように切り出した。
 「自分の1日を50円で売りたい」というのは、申込みにあたるのだろうか。
「申込みではなく、他人を誘って申込みさせようとする意思表示『申込みの誘引』と考えられます。
 (一部省略)
 今回のケースでいえば、『自分の1日を50円で売りたい』というのが申込みの誘引で、『1日50円支払うから日雇いバイトをしてその給料を自分の口座に振り込んでほしい』というのが申込みです。
 それに対して、宮森さんは承諾しなかったので、たとえ入金が先にあったとしても、契約は成立していないことになります」

 この「申込みの誘引」については、私も今回の事案を見た直後に思い浮かんでいて、当時次のようにツイートしていた。

 そもそも宮森氏による承諾の意思表示がない以上、契約が成立していないと考えるべきなのに、 ポジクマさんの記事SHIJINさんの記事おまきざるさんの記事などではいずれも契約が成立した前提で話を進めていて、みんな争点がずれてるなーなんて思っていた。

 実際に、この件について私も騒動の最中に事件を書こうかとも考えたのだが、ツイートするにとどまった。それは必ずしも、今回の「50円でなんでもやります」というのが「申込みの誘引」であるとは断言できず、また、「申込みの誘引」であったとしても、その後承諾の意思表示がなされていると考えられる可能性があったからである。

 別に私はどちらの味方をするわけでもないが、ブルーアイズさんの記事を読んでブルーアイズさんが別に変な人でないこともわかったし、宮森氏の方にだけ弁護士の意見が書いてあって、バランスが悪いので、必ずしも上記の弁護士の意見が正しいわけではないということを、以下、それぞれの当事者の立場に立った上で考えて行きたい。

宮森さんの立場から

 宮森さんを擁護する立場に立った場合、上記の弁護士の意見と同様、私も「「50円でなんでもやります」という表示は、あくまでも「申込みの誘引」であって、「申込みの意思表示」ではない。承諾の意思表示をしていないため、契約はそもそも成立しておらず、履行すべき債務は生じていない」と主張する。

 第2に、万が一「申込みの誘引」ではないと認定された場合に備えて、その場合であっても「「なんでも」というのは明確性を欠く曖昧な表現で債務の内容を特定できないため意思表示たりえない」ということを予備的に主張しておく。

 第3に、「ブルーアイズ氏は、宮森氏に日雇い労働をすることまでも含めた効果意思があるわけではないことをわかった上で意思表示をしており、民法93条(心裡留保)ただし書により無効である」ことも主張しておく。

 第4に、ブルーアイズさんが50円支払った後にBASEから「ご購入ありがとうございます」という確認メールが送られたことを承諾の意思表示と主張された場合に備えて、「あくまでBASEは金銭のやり取りの手段に用いているものであって、BASEからの自動応答メールが、今回の請負契約に関する承諾の意思表示であるとは考えられない」ということも予備的に主張しておく。

 第5に、ブルーアイズさんから債務不履行に基づく損害賠償(民法415条)を主張された場合に備えて、「本件債務を履行しなかったからといって、ブルーアイズ氏に対し、不履行による損害は一切生じているとは言えない。よって、賠償する必要はない」ということも主張しておく。

ブルーアイズさんの立場から

 ブルーアイズさんの立場に立った場合にまず主張するのは、「「50円でなんでもやります」というのは、申込みの意思表示である。それに対して依頼したい内容を明示した上で50円を支払っており、承諾の意思表示をした以上、契約は成立している」ということである。なお、「申込みの誘引」と「申込みの意思表示」の境界線はかなり微妙で、「スーパーの広告チラシ、求人広告、見積書」などは「申込みの誘引」であるが、「タクシーの空車表示」は「申込みの意思表示」であるとされている。したがって、今回の「50円でなんでもやります」というのが「申込みの誘引」だというのを断言することはできない。

 第2に、「明確性を欠く意思表示である」ということを主張された場合に備えて、「「なんでも」やるということを表示しており、これには全ての事柄が含まれることは明らかである。こちらが承諾の意思表示をする際に契約内容を特定しており、明確性は欠いていない」と主張する。なお、宮森氏は騒動の最中に「人を殺せと言われたら殺さなければいけないんですか?そんなわけないでしょ」と反論しているが、これはそもそも民法90条で無効になる公序良俗に反する行為であり、論点がずれていて適切な反論になっていない。そもそも、宮森さんが法律的に正しいと主張している根拠の記事においても、50円で日雇い労働に派遣すること自体は公序良俗に反するわけではないということを示している。

 第3に、「宮森氏はそんなことまでやるつもりはなかったと表示意思と効果意思のずれを主張しているが、民法93条本文(心裡留保)により効果意思がなくともその意思表示は有効であり、それに基づいてなされた本件契約は有効である」ということを主張する。

 第4に、「なんでもやります」というのが「申込みの誘引」と認定された場合に備えて「BASEで支払い手続きを済ませた際、注文の控えとして「ご購入ありがとうございます」というメールが来ており、これが宮森氏による承諾の意思表示であり、契約は成立している」ということを主張する。確かに、BASEによる自動送信メールではあるものの、BASEは宮森氏が自ら選択して使用しているサービスである。代理権を付与していないとしても、表見代理の成立を主張しうる。今回は請負契約に関するものだから想像しにくいが、例えばAmazonのマーケットプレイスで出品している個人の商品を購入した際に注文確認メールが送信されるが、その後に出品者から「やっぱり売りません」と主張することは認められないだろう。それは、注文確認が承諾の意思表示となっているからである。(なお、マーケットプレイスに出品すること自体が出品者に関する申込みの意思表示で、それに対して注文を行うことが注文しゃに夜承諾の意思表示であるとも考えられる。現実のスーパーマーケットなどでは、店頭に商品をディスプレイすることはあくまでも申込みの誘引であるが、今回は電子商取引であるため前例が十分に集まっておらず、どちらとも断言しがたい。)

 第5に、あくまでも宮森氏が債務を履行しない場合に備えて、「日雇い労働で得た金銭を元手にパチンコをやるつもりだった。パチンコの期待値は◯%であり、債務が履行されれば振り込まれるはずだった金額に当該割合をかけた金額に、遅延利息を付加した金額を請求する」として、債務不履行に基づく損害賠償を請求する。なお、実際に裁判所などではこの主張は認められないだろう。しかし、和解にあたっての示談金の交渉をするためのブラフとして、このような主張も打っておく。なお、今回はすでに当事者間で民事上の和解が済んでいるようだが、刑事上の和解は済んでいないように思われる。「「50円でなんでもやります」と言って50円を支払ったのに「何もしません」というのは、詐欺罪(刑法246条)の構成要件である「人を欺いて財物を交付させた」に該当するため、告訴することも考える」ということを付言してもいいかもしれない。万引き犯が盗んだものを店長に取り上げられてもその上で警察に逮捕されるように、財産犯の場合その財産を元に戻したからといって違法性がなくなるわけではないのである。ただしもちろん、これもブラフである。実際には、詐欺罪の構成要件である「故意」が欠けているため、本件に関して詐欺罪が適用されるわけではない。

まとめ

 以上、大きく5つの論点に分けてそれぞれの立場からの主張を書いたように、本件騒動に関する法律問題は一言で済むものではない。弁護士と言っても結局は単なる資格を持った個人でしかなく、最終的にどのような結論が正しいのかは、国による裁判という司法の場でしか確定されないということである。

 なんてことを言っても、私はまだ弁護士資格を持っていない人間なので、この記事の内容はあんまり信用を得ないんでしょうけど…。その信頼を得るために司法試験を通過するための勉強をしているわけで。

 そして、ブロガーに対して言いたいことは2つ。

 1つ目は、今回の騒動で臆病になるなということである。今回は宮森氏の初動の対応が感情論に走っていて、ブルーアイズさんの感情を逆なでしてしまったことが騒動を大きくしてしまったと考えられる。何かあった時も、落ち着いて対処すれば大きな問題にはならない。トラブルになった時は法律問題に発展する可能性があるので、法律に強い知り合いなどにもすぐ相談すれば解決の糸口は見つかるはずである。

 2つ目は、ポジクマさんも言っているように、本件のような募集をする場合には、きちんと留保条件をつけて、ブロガーの判断で契約が成立しないよう、セーフティネットを作っておくことが大事である。同じく50円で1日を売っている東大生のりょーすけさんのようにまずDMなどでやりとりをする形にするのも有効な手である。まじまじのあんちゃさんなんかは出張相談の費用をBASE経由で受け取っているが、これもきちんと条件設定した方がいい。そうしないと、例えばブラックリストに入れた粘着質な男性から「お金払ったのに出張相談受けてくれない」なんて今回と同様の事案に発展してもおかしくない。

 なんて、偉そうに書いて失礼しました。もし今後、対策をしてもトラブルになって、相談できる人が周りにいない場合は、私に相談していただいても構いませんよ。ただし、本当に助けが必要だと私が判断した場合にのみ対応をさせていただきますのでご了承ください(セーフティネット)。