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3年でエリート公務員辞めた結果…

月間30万PV以上!入省3年で総務省(総合職・旧1種)を退職した元国家公務員のブログ。通称「さんエリ」

過労死白書の根拠データが若い世代のサービス残業等の実態を反映していない問題

政治・国会・行政

過労死白書に見る、日本社会が抱える問題

 2016年10月7日、平成26年に成立・施行された「過労死等防止対策推進法」に基づき、「過労死等防止対策白書」が閣議決定されました。

 その全文については、厚生労働省のHPから見ることができますが、読んでみたところ、これは、現実社会で過労死の原因となっているサービス残業等の実態について、十分な検証がなされていないように思います。

 例えば、次の緑囲みは、大臣への説明等で用いられている、過労死白書の「概要」から抜き出したものですが、ここでは、パートタイム労働者を除く一般労働者の年間総実労働時間が2,000時間前後とされています。

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 ここで思い出して頂きたいのが、2016年3月にOECD(経済協力開発機構)が公表して日本国内でも話題となった、国別労働時間ランキングです。

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 このランキングにおいて、日本の年間労働時間は平均で1,729時間で21位。OECD諸国の平均値を下回っています。一方で上位にはメキシコやギリシャといった国が並んでいることから、実態と乖離したこのランキングには、大きな疑問が投げかけられました。

 過労死白書の2,000時間とOECDランキングの1729時間との差は、パートタイム労働者を含めるか否かによるものですが、問題は、信憑性にかけるOECDのランキングも、過労死白書も、根拠としているデータが同じであるということです。

 過労死白書の中にも明記されていますが、これらの根拠は、厚生労働省が実施している「毎月勤労統計調査」です。

 毎月勤労統計調査の調査方法については厚生労働省のHP(調査の概要|厚生労働省)に記載がありますが、毎月勤労統計調査における調査対象は事業所(=雇い主)なのです。

 事業所は、実際に払った給与(残業代等手当含む)の額に基いて、労働時間を報告します。つまり、実際には働いていても給与の発生していないサービス残業は、毎月勤労統計調査に上がってこないのです。

 

 一方、過労死白書の作成においては、労働者を対象にした調査も行うべく、「平成27年度過労死等に関する実態把握のための社会面の調査研究事業」という調査も実施しています。ただ、この調査は、調査の方法に問題があるように思います。

 当該調査は、厚生労働省がみずほ総研に委託しています。委託調査自体はよくあることで、そこまで問題ありません。

 しかし、問題は、労働者に対する調査のやり方です。

 みずほ総研は、労働者に対する調査をするにあたり、楽天リサーチ株式会社に対して再委託して、インターネット調査を実施しています(参考:みずほ総研による報告書)。

 当該調査の信憑性が欠けるのは、楽天リサーチ株式会社による調査の仕方によります。

 楽天リサーチ株式会社は、有名なアンケート会社であるマクロミルと同様、登録した会員に対してインターネット上でアンケートを送り、回答した人に楽天ポイントを与えるという形態で、アンケートを実施しています(参考:楽天リサーチとは)。

 つまり、比較的時間に余裕のある方々が、お小遣い稼ぎで使用しているサービスなのです。

 実際に膨大な残業に追われて過労死のリスクが高まっている労働者は、楽天リサーチのアンケートに答えている暇なんてありません

 つまり、本当に調査すべき対象が、過労死白書の根拠である楽天リサーチの調査からは外れているのです。

 さらに、調査対象の産業別分布も、次のように実態から乖離しています。

↓左は総務省統計局が実施している労働力調査。右は過労死白書の根拠である楽天リサーチによる調査。共通項を抜き出して比較。

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 別に、産業別の分布が実態と乖離していたところで、それぞれの産業の内部だけでデータを見るのであれば問題ありません。

 しかし、白書の中では、実態と乖離した産業別分布に基づき、全体の平均を出してしまっているのです(白書本体p.53より)。

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 過労死白書に関する報道の多くは、2015年末に自殺された電通の若手女性社員に関する情報と紐付けられて報じられました。

 しかし、残念ながら、過労死白書は、実態からずれたデータを根拠にしているどころか、最大の問題点であるサービス残業や、過剰な労働に追われて苦しむ労働者の実態を汲み取ることができていません

 「国」が出した数値だからといって全幅の信頼を置くのではなく、データを見る時は常に懐疑的に取り扱うことが重要です。

 省庁自体が悪辣な労働環境に置かれている中、国としても本質的な問題に目を向けにくいのかもしれませんが、過労死白書を出して過労死問題に向き合い始めたのですから、現代の日本社会が抱える労働の問題に正面から向き合ってもらいたいと思います。

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