裁判員裁判を傍聴した感想
今日、裁判員裁判を傍聴してきました。
裁判員制度が導入される前、普通の刑事裁判を傍聴したことはあったのですが、裁判員裁判は初めて。
色々と思うこともあったので、以下、メモを残しておきたいと思います。
全ての裁判員裁判に傍聴券の抽選があるわけではない
傍聴に行った2017年9月19日、東京地裁では、3件の裁判員裁判が「新件」(第1回審理のこと)で行われました。
罪状はそれぞれ、強盗殺人、強盗致傷、覚せい剤取締法違反。
このうち、強盗殺人だけは傍聴券の抽選にあたらなければ傍聴することができなくなっていましたが、それ以外の事件については、傍聴券を必要とせず、法廷の前に並んでいるだけで傍聴席に入ることができました。
裁判所に行くべき時間
裁判員裁判は、審理に長い時間がかかるため、10時に開廷して17時に閉廷するという、1日がかりのスケジュールで組まれていることが多いと思います。
傍聴券の抽選がある場合には、その抽選が9時30分に行われるので、それまでに裁判所前の抽選場所に行く必要があります。
傍聴券が不要の裁判については、開廷30分前に法廷に行けば充分に間に合うと思います。
法廷内でスマホの電源は切る
法廷内においては、スマートフォンの電源を切る必要があります。今日も、休憩時間中にスマートフォンを操作している傍聴人がいて、注意されていました。
人生を左右する裁判が行われているのですから、それを妨げることのないよう、きちんと電源を切っておきましょう。
もちろん飲食禁止
法廷内は、当然ながら飲食禁止です。緊迫した空気の中で傍聴をしていると喉が渇きますが、こまめに休憩時間が挟まれるので、休憩の際に法定の外で飲み物を飲むようにしましょう。
休憩時間が多い
裁判員裁判は、やたらと休みが挟まれます。
今日私が傍聴した裁判は、次のような感じで、10時〜17時の審理の中で6回も休憩がありました。
①人定質問等の冒頭手続を済ませた後、検察官及び弁護人の冒頭陳述が終わったらまず休憩
②12時になったら昼休みで休憩
③検察側の1つめの被疑事実についての立証(人証以外)が終わったら休憩
④1人目の証人尋問が終わったら休憩(休憩後、裁判官及び裁判員による補充質問)
⑤検察側の2つめの被疑事実についての立証(人証以外)が終わったら休憩
⑥2人目の証人尋問が終わったら休憩(休憩後、裁判官及び裁判員による補充質問)
おそらく、随所随所で裁判員と裁判官で打合せがあるから、こんなに多いのだと思います。
休憩時間も、昼休みは60分ほど、それ以外は20〜30分ほどと比較的長いです。ずっと法廷内にいると疲れてしまうので、地下のコンビニに行くなりして身体を動かすといいと思います。
休憩時間中は、荷物を持って
荷物が重い時、いちいち法廷内に荷物を持っていくのが面倒になりますが、きちんと荷物を持っていく必要があります。特に、長い休憩時間には、一度法定を閉めることになるので、その際に荷物を置いておくと遺失物扱いになってしまって面倒なことになります。昼休みだけでなく、他の休憩時間でも法定が閉められていることがあったので注意。
法廷内のディスプレイは結構見にくい
裁判員裁判では、裁判員に対して分かりやすい説明がなされるように、ディスプレイに証拠の画像等を表示して審理が進められていきます。
傍聴人から見えるディスプレイは、法定の両端にある大型ディスプレイだけです。
傍聴人はあくまでも傍聴人で、ディスプレイは傍聴人のためにあるわけではないので当然ですが、このディスプレイが、結構見にくい。
傍聴される際は、できるだけ前の席で傍聴されるのがいいと思います。
傍聴する際は、事前に刑事裁判の流れを知ってから
裁判を傍聴する際、審理の流れを知っているのと知らないのとでは、見方が全く異なります。刑事裁判の流れを事前に頭に入れてから傍聴すると、今何をしているフェーズなのかということがわかって、検察官や弁護人が行っていることがスッと頭に入ってくると思います。
個人的にオススメなのは、こちらの『入門刑事手続法』です。
刑事訴訟法の高名な学者である三井先生と酒巻先生が書かれている本で、記述の正確性はもちろんですが、刑事訴訟法に初めて触れる入門者用に書かれているため、とても読みやすく分かりやすいです。
刑事裁判における公判の流れや公判前整理手続の流れが図で明示されているので、これをもって法廷に行くとすごく分かりやすいです。
法廷内における配置や、遮蔽のパターンについての図も、傍聴の際に役立ちます。
黙秘権等の告知は、起訴状朗読の前にするのね
通常、刑事訴訟法の勉強をしている際、刑事裁判では起訴状の朗読をした後で被告人に対して黙秘権等の告知をすると習うのですが、今日の法廷ではその順番が逆でした。
この順番は逆でも問題ないと思うのですが、現在はそちらが一般的になっているのでしょうか。
起訴状一本主義を貫くのは大変
刑事裁判においては、裁判官や裁判員の心証を事前に歪めることのないよう、裁判官や裁判員に対しては起訴状のみが検察官から提出された状態で審理を始めます。もちろん、裁判官は公判前整理手続で審理の流れを一定程度把握していますが、裁判員はまっさらの状態です。
したがって、裁判が進んでいくにつれて、多くの資料が裁判員に配られることになります。
検察官も弁護側も、事前に多くの資料を用意しているので、証拠を提示するたびに資料を配布するのがとても面倒そうでした。
内容は盛り沢山でした
今日私が傍聴した裁判は、内容としては盛りだくさんでした。
まず、被疑事件は3件、強盗罪の共謀共同正犯、強盗致傷罪の共謀共同正犯、傷害罪の単独正犯でした。最終的にはそれぞれ併合罪(45条)として処理されるものですね。
強盗罪や強盗致傷罪については、共犯者が実行行為に一切加担しないタイプの共謀共同正犯で、共同正犯が成立するのか自体が争点となっていました。
また、「反抗抑圧に至る程度か」ということで、強盗罪と恐喝罪との区別という典型論点も問題となっていたので、まさに普段の学習が実務に活きているということを実感しました。
さらに、検察官が被害者を証人尋問している際、弁護人から「異議あり! 誘導です」の声。実際に法廷で「異議あり」を聞くとは思いませんでした。ちなみに、誘導尋問については、刑事訴訟規則199条の3第3項に規定があります(主尋問においてのみ禁じられていることに注意)。異議申立ての根拠は、刑事訴訟法309条1項、刑事訴訟規則205条1項でいいはずです(?)
それから、被害者である証人と、被告人との間に遮蔽もされました。遮蔽についての規定は、刑事訴訟法157条の3ですね。
多くの事件が同時に審理されると、裁判員も混乱しそう
上述のとおり、本件では3件の被疑事実が同時に審理されていました。
しかも、強盗罪と強盗致傷罪は罪名が似ているので、非常にややこしい。
実際、検察官による起訴状朗読後の事実確認の際、被告人の1人は強盗罪の事件と強盗致傷罪の事件を混同してしまっていて、法廷内に混乱を巻き起こしていました。
裁判員や被告人に分かりやすいように、事件1とか事件2とかナンバリングして説明すればいいのにと思いました。
共犯の併合審理だと、弁護士の当たりハズレが被告人にバレる
本日傍聴した事件では、共犯者が同一の法廷で併合審理されていました。
しかも、今回は、「共謀を持ちかけたのが相手だ」ということを共犯者のそれぞれが主張していたため、被告人それぞれに弁護人がついていました。
こういう場合って、弁護人はプレッシャーですね。
恐らく国選弁護人だと思うのですが、それぞれについていた弁護人は全く違うタイプの弁護人でした。1人は、老齢の経験豊富(だけれども裁判員裁判に馴れていない)な弁護人。もうひとりは、裁判員裁判を意識した劇場型の若手(だけれどもやっぱり経験は少ない?)の弁護人。
全く違うタイプの弁護人だったので、傍聴している立場からすると興味深かったのですが、被告人は、共犯者について弁護人についてどう思っているのだろうと気になりました。
もしかしたら、「あっちの弁護士がよかった」とか思ったりしているんじゃないかなと。
「遮蔽」が思ったよりショボい
たとえば性犯罪の被害者等、証人が、精神の平穏を著しく害される場合には、証人と被告人、あるいは、証人と傍聴席との間を遮蔽する措置がとられる場合があります。
本日の公判でも、それが行われました。
が、思った以上にショボい。
知識として学習していたときは、もう少ししっかりとした素材の遮蔽板を立てるのかと思っていたのですが、会議室によくあるパーテーションのようなもので遮っているだけでした。高さもすごく低い。確かに視界は遮られていますが、あの程度の遮蔽では被告人の存在が感じられてしまって、遮蔽する意味が小さいのではないかと。
予算の都合なのか分かりませんが、もう少し被害者である証人の立場にたってあげなければいけないのではないかと感じました。
事件から公判まで、時間がかかりすぎ
裁判員裁判は、事前に公判前整理手続が行われますが、これに約1年弱かかることが問題となっています。
実際に証人も記憶を手繰って証言をしていますが、これだけ期間が空いてしまうと、それが本当に証人が知覚・記憶した事実なのか、それとも事後的に作られた事実なのか、証人自身ですら分からなくなってしまっているように思います。
よく、伝聞例外で相対的特信状況を肯定する理由として、「事件直後の方が記憶が鮮明だから」というのがありますが、これだけ時間が空いたら確かにそうなってしまいますね。
仕方のないことだとは思いますが、せめて事件発生後3ヶ月以内に公判ができるようになるといいなと思います。
被害者の言葉は、全て真実であるように思えてしまう
本日は、2名の被害者の証人尋問が行われましたが、聞いていると、それが全て真実であるかのように思えてしまいます。もちろん、宣誓をしている以上、被害者としては嘘をついていないはずですが、上述のように事件発生時から時間も経ってしまっていますし、それが本当に証人自身が知覚したことなのかは分からないわけです。
各当事者の発言にもとづいて、事実を認定するのは本当に難しいなと思います。
裁判員の属性は、やはり偏る
事前に予測していたことですが、裁判員の属性は偏りますね。特に少ないのが、若い男性。仕事の都合などで断ってしまっているのが実情だと思うのですが、高齢の男性と、主婦層の女性が裁判員の中心的な主体になってしまうのは、少しどうかなと思ったりもしました。
終わりに 〜事件は身近にある〜
今回の事件の被害者は、ごくごく一般の通行人でした。
治安が良いと言われる日本でも、当たり前の生活をしている普通の人が、ちょっとしたきっかけで犯罪に巻き込まれてしまうということを目の当たりにしました。
一方、今回の事件の加害者の一人も、普段はそこまで悪いことをしていなそうな人でした。たまたま昔のやんちゃ仲間と飲んでいたら、一緒にいた友人が暴走して犯罪行為を行い、巻き込まれた形で共同正犯として起訴されたような方でした。
このように、被害者となるのか、加害者となるのか、それは分かりませんが、事件はすごく身近なところにあるのだなということを感じました。
「自分が裁判所に関わることなんて決してない」。そう思っている人も、もしかしたら明日には事件に巻き込まれて、裁判所に出廷することになるかもしれません。
現在、裁判は多くの人にとって非日常だと思います。普段触れていないもの、テレビの向こう側の存在だからこそ、いざ自分が急に関わることになると怯えてしまう。
しかし、裁判所もインフラのひとつに過ぎません。裁判所がより適切に機能するとともに、それに関わることになった方々が構えすぎないよう、国民自身が普段から法律を身近に感じ、また、それを法曹がサポートできたらいいですね。