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タックスヘイブンは違法?「パナマ文書」問題についてまとめて詳しく解説してみる【日本企業への影響は?】

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 世間が「パナマ文書」とか「タックスヘイブン」とかで騒がしいけど何が問題なのかサッパリという方向けに、どこよりも詳しく、パナマ文書問題について解説します。

ICIJがパナマ文書を公開

 2016年5月10日、ICIJ(国際調査報道ジャーナリスト連合)が、「パナマ文書」を公開しました。これは2016年4月3日にICIJが発表した分析結果に情報を一部追加した上で公表されたもので、専用サイト(https://panamapapers.icij.org/)で検索することができます。中には、タックスヘイブン(租税回避地)に設立された約21万社の社名や住所が記載され、大手商社など約400の日本法人の名前もあります。ICIJは一般から広く情報を集めてさらに分析を進める方針です。

パナマ文書とは?

 「パナマ文書」は、タックスヘイブンでもあるパナマに存在する法律事務所、モサック・フォンセカ(Mossack Fonseca)によって作成された顧客データの通称です。データ量は2.6TB。過去最大のデータ流出で、「史上最大の暴露」とも言われています。 

 流出経路は明らかにされていませんが、何らかの原因(モサック・フォンセカは「国外からのハッキング」と主張しています)により外部に流出し、2015年8月にドイツの地方紙「南ドイツ新聞」経由でICIJ(国際調査報道ジャーナリスト連合)の手に渡りました。ICIJによる分析の後、2016年4月3日に分析結果が発表されましたが、その中に世界的な大企業や各国のVIPに関わる名前が散見されたため、各地で脱税疑惑を引き起こしました。

ICIJ(国際調査報道ジャーナリスト連合)とは?

 ICIJは、世界65か国のジャーナリストが加盟する共同調査のためのネットワークです。アメリカの有名報道番組「60 Minutes」のプロデューサーであったチャールズ・ルイス氏によって、1997年に立ち上げられ、国境を超えた犯罪や汚職など、公的な人物の違法行為を追及する調査報道を行っています。常駐スタッフは15人程度ですが、各国の記者や編集者、弁護士、技術者などが加盟しており、パナマ文書に関する情報分析には400人のジャーナリストが参加しました。

 ICIJのウィル・フィッツギボン記者はWBS(ワールドビジネスサテライト)の取材に対して、「まだ明らかになっていない事実は必ずある。こういった情報が明らかになると記者たちは疑惑を追及し続けるだろう。中国や韓国、日本を含むアジアの国は租税回避地の明確な利用者。パナマ文書はパナマのひとつの法律事務所のデータでしかない」と述べています。 

モサック・フォンセカとは?

 モサック・フォンセカは、パナマ文書の流出元の法律事務所です。ペーパーカンパニーの設立に特化した法律事務所で、世界でも五本の指に入る。「ペーパーカンパニーの卸問屋」との異名を持つ。モサック・フォンセカによって設立された会社は約21万4000社です。文書流出後、マネーロンダリングなど金融犯罪への関与が疑われ、現地当局の調査が行われています。

 モサック・フォンセカの共同設立者の一人、ラモン・フォンセカ氏は、「脱税やマネーロンダリングとは関わりはない。情報はメールから抜き取られた」と主張しています。

タックスヘイブンとは?

 タックスヘイブンとは、パナマやイギリスバージン諸島など税金(法人税)が極端に安い国や地域のことです。租税回避地とも呼ばれます。アルファベットで記載すると、"tax haven"(税の避難所)。"tax heaven"(税金天国)ではありません。

 主なタックスヘイブンは次のとおりです。規模の小さい国や島国といった、資源の少ない国が、会社設立の手数料などを得るために実施していることが多いです。

主なタックスヘイブン

・パナマ(カリブ海)
・イギリス領バージン諸島(カリブ海)
・モナコ(ヨーロッパ)
・リヒテンシュタイン(ヨーロッパ)
・イギリス領ジブラルタル(ヨーロッパ)
・バーレーン(中東)
・ナウル(オセアニア)
・バヌアツ(オセアニア)

 タックスヘイブンの起源については、多くの説がありますが、中世の「ローマ教皇領」とも「ハンザ同盟」とも言われています。現在の形になったのは1920年~1950年の間です。戦争で財政が厳しくなった国が、相次いで自国の税率を引き上げる中で、主に富裕層が個人の資産を守るために使用しました。

タックスヘイブン利用の目的は?

 税金が高い国の企業等がタックスヘイブンに法人を設立して節税を行うことが多いです。しかし、このことから、タックスヘイブンに作られた法人は脱税などに悪用されているのではと勘繰られ、社会の注目を浴びています。

 タックスヘイブンで会社を設立する日本人も少なからず存在します。AFCB香港紫荊會という、香港で日本人向けにタックスヘイブンでの会社設立をサポートする会社もあったりします。

タックスヘイブンの利用は違法なのか?

 結論的には、日本の現行制度上、違法ではない場合が多いです。しかし、脱税と節税の境目が政府によって恣意的に定められているように、今後の法改正によって、タックスヘイブンの利用が違法になる可能性があります。

 元財務官僚の中央大学法科大学院森信茂樹(もりのぶしげき)教授も「パナマ文書に名前があがったからといってすべて「クロ」ということでは全くない。中身を一件一件見ていかなければいけない。タックスヘイブンに会社をつくっても、そのほとんどが合法である上、税金逃れにも当たらない場合もある」と言います。

 現行法上、タックスヘイブンの利用が違法になるとすれば、2014年から始まった、海外資産に関する税務署への報告義務を怠った場合です。海外に5000万円を超える資産がある場合には報告義務がありますが、これを怠ったり、虚偽記載をすると、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金が科されます。

 結局、現状としては大半の場合、パナマ文書に名前のある国内企業について、国に収めるべき税金をタックスヘイブンを用いて節約するという行為が、企業モラルとしてどうなのかという批判がなされるだけということになります。

日本企業への影響は? 

 パナマ文書の中には、ソフトバンクグループの会社や、丸紅、楽天社長の三木谷さんの名前が出てきています。

ソフトバンクグループ

 孫正義社長が「ソフトバンクグループの名前が出てきて、私も驚いたくらいの状況なんですけれども」と記者会見で発言し、調査中とのことです(2016年5月11日時点)。

丸紅 

 総合商社の丸紅は、社内調査をした上で、これまでの説明では課税逃れの実態がないことを強調しています。丸紅社長の国分文也さんは、パナマは、個人情報・株主名簿を登録する必要がないなど、会社設立あるいは清算が非常に簡単な手続きで行うことができるというタックスヘイブンを利用するメリットを強調し、海外でのビジネスに有利だからタックスヘイブンに法人を設立したと主張しています。 

三木谷浩史(楽天代表取締役) 

 1995年にイギリス領バージン諸島に設立された法人の株主になっていたことから追及されています。楽天によると、三木谷氏は既に株を手放していて、「租税回避を目的としたわけではないし、株で利益も出ていない」と話しています。

問題をこじらせている電通

 パナマ文書の中に"DENTSU"の文字があったことから、疑惑が持たれています。朝日新聞では、これを偶然の名称一致による風評被害と報道していますが、本当に疑惑がないのかは精査が必要ともされています。 

各国の対応は?

イギリス

 キャメロン首相は、自身の父親がパナマで開設したファンドに投資し、首相に就任する直前に売却して300万円程度の利益を得ていたと明らかにしました。キャメロン首相自身は、この取引について「完全に通常の行為だ」と述べ、違法な「課税逃れ」ではなかったと主張しています。

ロシア

 プーチン大統領の友人の名前がパナマ文書に含まれていたことからロシア国内で騒がれています。プーチン大統領はこれに対して、「アメリカ当局が関与した謀略だ」と発言していますが…。

中国

 習近平国家主席の義兄のほか、中国共産党序列5位の劉雲山政治局常務委員、同7位の張高麗筆頭副首相の親族、李鵬元首相の親族や、建国の父と呼ばれる毛沢東元主席の親族がそれぞれ租税回避地の法人を所有していたことが発覚しました。中国国内では言論統制がとられていますが、抑え込めるか…。

アイスランド

 グンロイグソン首相の妻がタックスヘイブンであるイギリス領バージン諸島に会社を保有していたことがパナマ文書により明らかになり、租税回避疑惑が生じたため、その責任を取って首相が辞任しました。

フランス

 大手銀行ソシエテ・ジェネラルが、モサック・フォンセカを通じて顧客の資産運用のためにおよそ980にのぼる海外企業を設立していたということから、警察が立入捜査をしました。ソシエテ・ジェネラルのCEOは法律事務所と取引があったことを認める一方、不正への関与は否定しています。

アメリカ

 オバマ大統領は、アメリカを含む国々が主導して税の抜け道を塞がなければ阻止できないとして、各国に連携を呼び掛けています。

 しかし、アメリカにもタックスヘイブンが存在していることから問題になっています。

 デラウェア州ウィルミントン市のオレンジ通り(ORANGE st.)の1209番地には、28万社ものアメリカ企業が会社の本拠地としている建物があります。その中にはアップルやグーグルなど巨大IT企業や、フォードやウォルマートなどアメリカを代表する企業が含まれていますが、実際には2階建ての小さなビルが建てられているだけです。デラウェア州が課す法人税は一定の条件(州内でビジネスを行っていないこと)を満たせばゼロとなることから、111万社以上が同州に会社を設立しています。州政府もこうした流れを後押ししており、「企業部」と名付けた専門部署で、世界一簡単な会社設立の手続きをウリにしています。平日は深夜0時まで会社設立の申請受付が可能で、会社設立にかかる時間はたったの2時間です。この20年で、95億ドル、日本円でおよそ約1兆円の節税を生み出したと言われています。 

日本政府の対応は?

 2016年4月20日、安倍首相はパナマのバレラ大統領と会談し、課税逃れを防ぐための協定締結に向けて、早期に協議を始めることで一致しました。日本はすでに96ヵ国と租税情報を交換する協定を結んでいますが、これまでパナマは参加していませんでした。バレラ大統領は共同記者発表で、「積極的に協力し、国際社会の努力の先頭に立つ」と強調しました。

 麻生財務大臣は、国税庁を抱える立場から「問題のある取引が認められれば税務調査を行う」と発言しています。

 また、2016年5月に開催する伊勢志摩サミットで、政府は議長国として国際的な課税逃れを防ぐための「行動計画」をとりまとめる方針を固めています。行動計画では海外に設立された法人の所有者を明確にすることなどが柱で、国際的な協力体制を作ろうとしています。

まとめ

 パナマ文書が世界中を騒がせている原因の根幹は、世界的な格差問題にあるとも言われています。現行法上は合法の行為を、大きな企業や金持ちが不当に儲けているのではないかという意識が実態以上に事件を炎上させています。

 しかし、タックスヘイブンによる節税が合法なのは、現行の法制度上の話です。これを合法とするか違法とするかは、今後の各国の法改正及び世界的な抜け道防止体制の構築次第です。

 企業努力として行う節税を、不当に糾弾するのは好ましいことではありませんが、公平な課税を実現するための体制の構築が求められています。