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刑法

第1部 総論

第1章 犯罪と刑罰の基本観念

第2章 罪刑法定主義

第3章 刑法の適用範囲

第4章 犯罪論総説

第5章 構成要件

5-2 構成要件要素

最判昭40.3.26(百選Ⅰ3)

※両罰規定が定められている場合にも、法人事業主に選任監督上の過失が必要

・事業主が人である場合の両罰規定については、その代理人、使用人その他の従業者の違反行為に対し、事業主に右行為者らの選任、監督その他違反行為を防止するために必要な注意を尽くさなかった過失の存在を推定したものであって、事業主において右に関する注意を尽くしたことの証明がなされない限り、事業主もまた刑責を免れ得ないとする法意と解するを相当とすることは、すでに当裁判所の判例……の説示するところであり、右注意は、本件のように事業主が法人(株式会社)で、行為者が、その代表者でない、従業者である場合にも、当然推及されるべきである

☆法人事業主を両罰規定により処罰するためには、現実に犯罪行為を行った従業者も処罰される必要はない

☆法人事業主が両罰規定により処罰される場合、必ずその代表者も処罰されるわけではない

☆刑法各則に規定された行為の主体には、法人は含まれない

※侮辱罪の行為の客体たる「人」には法人も含まれる

第6章 実行行為

6-3 間接正犯

最決昭58.9.21(百選Ⅰ74)

・巡礼中、日頃被告人の言動に逆らう素振りを見せる都度顔面にタバコの火を押し付けたりドライバーで顔をこすったりするなどの暴行を加えて自己の意のままに従わせていた同女に対し、本件各窃盗を命じてこれを行わせたというのであり、これによれば、被告人が、自己の日頃の言動に畏怖し意思を抑圧されている同女を利用して右各窃盗を行ったと認められるのであるから、たとえ所論のように同女が是非善悪の判断能力を有する者であったとしても、被告人については本件欠く窃盗の間接正犯が成立する

※被利用者が是非弁識能力を有していた場合、意思抑圧がなければ間接正犯は成立しない 

第7章 因果関係

7-2 因果関係の判断方法

大判大12.4.30

※殺そうと首を絞めて被害者が気を失ったが、被告人は死亡したと思い犯行発覚をおそれ砂浜に放置したところ砂を吸引して被害者が死亡した事案につき、因果関係を肯定し殺人の既遂を認めた(ウェーバーの概括的故意)

最判昭46.6.17(百選Ⅰ8事件)

・致死の原因たる暴行は、必ずしもそれが死亡の唯一の原因または直接の原因であることを要するものではなく、たまたま被害者の身体に高度の病変があったため、これとあいまって死亡の結果を生じた場合であっても、右暴行による致死の罪の成立を妨げない。

・被告人が行為当時その特殊事情のあることを知らず、また、致死の結果を予見することもできなかったものとしても妥当する 

☆甲が、心臓発作を起こしやすい持病を持ったVを突き飛ばして尻もちをつくように路上に転倒させたところ、Bはその転倒のショックで心臓発作を起こして死亡した。Bにその持病があることを甲が知り得なかった場合でも、甲がBを突き飛ばして路上に点灯させた行為とVの死亡との間には、因果関係がある

☆甲が、Vを突き倒し、その胸部を踏みつける暴行を加え、Vに血胸の傷害を負わせたところ、Vは、Vの胸腔内に貯留した血液を消滅させるため医師が投与した薬剤の影響により、かねてVが羅患していた結核性の病巣が変化して炎症を起こし、同炎症に基づく心機能不全により死亡した。この場合、甲の暴行とVの死亡との間には、因果関係がある

最決平16.2.17

・傷害は、それ自体死亡の結果をもたらし得る身体の損傷であって、仮に被害者の死亡の結果発生までの間に、……被害者が医師の指示に従わず安静に務めなかったために治療の効果が上がらなかったという事情が介在していたとしても、被告人らの暴行による傷害とその被害者との間には因果関係がある

☆甲は、Vの頸部を包丁で刺し、Vは、同刺創に基づく血液循環傷害による脳機能障害により死亡した。その死亡するまでの経過は、Vは、受傷後、病院で緊急手術を受けて一命をとりとめ、引き続き安静な状態で治療を継続すれば数週間で退院することが可能であったものの、安静にすることなく病室内を歩き回ったため治療の効果が上がらず、同脳機能障害により死亡したというものであった。この場合でも、甲がVの頸部を包丁で刺した行為とVの死亡との間には、因果関係がある。

最決平18.3.27

・被害者の死亡原因が直接的には追突事故を起こした第三者の甚しい過失行為にあるとしても、道路上で停車中の普通乗用自動車後部のトランク内に被害者を監禁した本件監禁行為と被害者の死亡との間の因果関係を肯定することができる 

最決平元.12.15(百選Ⅰ4) 

・被害者の女性が被告人らによって注射された覚せい剤により錯乱状態に陥った午前0時半ころの時点において、直ちに被告人が救急医療を要請していれば、……十中八九同女の救命が可能であったというのである。そうすると、同女の救命は合理的な疑いを超える程度に確実であったと認められる

最決昭59.7.6

・本件被害者の死因となったくも膜下出血の原因である頭部擦過打撲傷が、たとえ、被告人及び共犯者二名による足蹴りの暴行に耐えかねた被害者が逃走しようとして池に落ち込み、露出した岩石に頭部を打ち付けたため生じたものであるとしても、被告人ら三名の右暴行と被害者の右受賞に基づく死亡との間に因果関係を認めるのを相当とした原判決の判断は、正当である

☆甲が、Vの胸部、腹部及び腰部を殴打したり足蹴りしたりする暴行を加えたところ、それに耐えかねたVは、その場から逃走した際、逃げることに必死の余り、過って路上に転倒し、縁石に頭部を打ち付けたことによって、くも膜下出血により死亡した。この場合、甲の暴行とVの死亡との間には、因果関係がある

最決昭42.10.24(百選Ⅰ9、米兵ひき逃げ事件)

・同乗者が進行中の自動車の屋根の上から被害者をさかさまに引きずり下ろし、アスファルト舗装道路状に転落させるというがごときことは、経験上、普通、予想しえられるとこではなく、ことに、本件においては、被害者の死因となった頭部の傷害が最初の被告人の自動車との衝突の際に生じたものか、同乗者が被害者を自動車の屋根から引きずり下ろし路上に転落させた際に生じたものか確定しがたいというのであって、このような場合に被告人の前記過失行為から被害者の前記死の結果の発生することが、われわれの経験則上当然予想しえられるところであるとは到底いえない

☆甲は、自動車を運転中、過って同車をVに衝突させてVを同車の屋根に跳ね上げ、その意識を喪失させたが、Vに気付かないまま同車の運転を続けるうち、同車の助手席に同乗していた乙がVに気付き、走行中の同車の屋根からVを引きずり下ろして路上に転落させた。Vは、頭部打撲傷に基づくくも膜下出欠により死亡したところ、同傷害は、自動車と衝突した際に生じたものか、路上に転落した際に生じたものかは不明であった。この場合、甲の衝突行為とVの死亡との間には、因果関係がない

最決昭53.3.22(百選Ⅰ14、熊撃ち事件)

・本件業務上過失傷害罪と殺人罪とは責任条件を異にする関係上併合罪の関係にあるものと解すべきである、とした原審の罪数判断は、その理由に肯首しえないところがあるが、結論においては正当である

☆甲は、狩猟仲間のVを熊と誤認して猟銃弾を一発発射し、Vの大腿部に命中させて大量出血を伴う重傷を負わせた直後、自らの誤射に気付き、苦悶するVを殺害して逃走しようと決意し、更に至近距離からVをめがけて猟銃弾を1発発射し、Vの胸部に命中させてVを失血により即死させた。Vの大腿部の銃創は放置すると十数分で死亡する程度のものである一方 、胸部の銃創はそれ単独で放置すると半日から1日で志望する程度のものであった。この場合、甲の2発目の発射行為とVの死亡との間には、因果関係がある

最決平2.11.20(百選Ⅰ10、大阪南港事件)

・犯人の暴行により被害者の死因となった傷害が形成された場合には、仮にその後第三者により加えられた暴行によって死期が早められたとしても、犯人の暴行と被害者の死亡との間の因果関係を肯定することができ、本件において傷害致死罪の成立を認めた現判断は、正当である

甲は、Vの頭部を多数回殴打する暴行を加えた結果、Vに脳出血を発生させて意識喪失状態に陥らせた上、Vを放置して立ち去った。その後、Vは、甲とは無関係な乙から角材で頭頂部を殴打される暴行を加えられ、志望するに至った。Vの死因は甲の暴行により形成された脳出血であり、乙の暴行は、既に発生していた脳出血を拡大させ、幾分か死期を早める影響を与えるものであった。この場合、甲の暴行とVの死亡との間には、因果関係がある  

☆甲は、Aを川の中に突き落として溺死させようと重い、橋の側端に立っていたAを突き飛ばしたところ、Aは落下する途中で橋脚に頭部を強打して即死した。甲には殺人既遂罪が成立する

☆甲は、乙に対し、Aを殺害するよう唆したところ、乙は、その旨決意し、夜道で待ち伏せした上、歩いてきた男をAだと思って包丁で刺殺したが、実際には、その男はBであった。甲には殺人既遂罪の教唆犯が成立する 

第8章 構成要件的故意

8-1 構成要件的故意

最決昭56.12.21

☆暴力団組長甲は、配下組員乙に対し、「もしAがこちらの要求を聞き入れなかったら、Aを殺してこい。Aがこちらの要求を聞き入れるのであれば、Aを殺す必要はない」旨指示し、乙に拳銃を手渡した上、乙を対立する暴力団組員Aのところに行かせた。乙は、Aが要求を聞き入れなかったので、Aを拳銃で射殺した。甲には殺人罪の故意が認められる

最判昭60.3.28(百選Ⅱ87)

・刑法110条1項の放火罪が成立するためには、火を放って同条所定の物を焼毀する認識の有ることが必要であるが、焼毀の結果公共の危険を発生させることまでを認識する必要はない

☆甲は、駐車場で他人の所有する自動車に放火し、公共の危険を生じさせた。その際、甲は、公共の危険が発生するとは認識していなかった。甲には建造物等以外放火罪の故意が認められる

最判昭23.3.16(百選Ⅰ39)

・盗品等有償譲受罪は盗品等であることを知りながらこれを買い受けることによって成立するものであるが、その故意が成立するためには必ずしも買い受けるべきものが盗品等であることを確定的に知っていることを必要としない。或いは盗品等であるかもしれないと思いながらしかも敢えてこれを買い受ける意思(いわゆる未必の故意)があれば足りる

・たとえ買受人が売渡人から盗品等であることを明に告げられた事実がなくてもいやしくも買受物品の性質、数量、売渡人の属性態度等諸般の事情から「或いは盗品等ではないか」との疑いを持ちながらこれを買い受けた事実が認められれば盗品等有償譲受け罪が成立する

☆甲は、乙から、乙が摂取してきた貴金属類を、乙が盗んできたものかもしれないと思いながら、あえて買い取った。甲には盗品等有償譲受け罪の故意が認められる

最決平2.2.9(百選Ⅰ38)

・被告人は、本件物件を密輸入して所持した際、覚せい剤を含む身体に有害で違法な薬物類であるとの認識があったというのであるから、覚せい剤かもしれないし、その他の身体に有害で違法な薬物かもしれないとの認識はあった

・覚せい剤輸入罪、同所持罪の故意に欠けるところはない

☆覚せい剤が含まれている錠剤を所持していた甲は、同錠剤について、身体に有害で違法な薬物類であるとの認識はあったが、覚せい剤や麻薬類ではないと認識していた。甲には覚せい剤取締法違反(覚醒剤所持)の罪の故意は認められない

最判昭53.7.28(百選Ⅰ40)

・犯罪の故意があるとするには、罪となるべき事実の認識を必要とするものであるが、犯人が認識した罪となるべき事実と現実に発生した事実とが必ずしも具体的に一致することを要するものではなく、両者が法定の範囲内において一致することをもって足りる

・人を殺す意思のもとに殺害行為に出た以上、犯人の認識しなかった人に対してその結果が発生した場合にも、右の結果について殺人の故意があるものというべき

☆甲は、Aを殺害しようと考え、Aに向けて拳銃を発射し、弾丸をAに命中させ、Aを死亡させたが、同弾丸は、Aの身体を貫通し、甲が認識していなかったBにも命中し、Bも死亡した。甲にはA及びBに対する殺人罪の故意が認められる

☆甲は、駐車場に駐車中のA所有の自動車を見て、Aに対する腹いせに傷つけてやろうと思って石を投げたが、狙いがそれて、その隣に駐車中のB所有の自動車に石が当たってフロントガラスが割れた。甲には器物損壊罪が成立する

☆甲は、パチンコ店の従業員乙が運搬していた同店の売上金の入ったかばんを強取するため、乙の公法から、乙の頭部を狙い、殺意をもって拳銃の弾丸を発射したところ、同弾丸は乙の肩を貫通した上、甲が認識していなかった通行人丙の腹部に命中し、乙と丙にそれぞれ傷害を負わせた。この場合、甲には、乙に対する強盗殺人未遂罪、丙に対する強盗殺人未遂罪がそれぞれ成立し、両罪は観念的競合となる

38条3項

※法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。ただし、情状により、その刑を減軽することができる

☆法律を知らなかったとしても、そのことによって罪を犯す石がなかったとすることはできないが、情状により、その刑を減軽することができる。しかし、免除することはできない 

第9章 構成要件的過失

第10章 違法性の意義とその判断

第11章 正当行為

11-4 その他の正当行為

※公然猥褻罪は、社会的法益としての健全な生秩序ないし性的風俗を保護法益とするものであるため、個人の同意が合っても違法性は阻却されない

最決昭55.11.13(百選Ⅰ22)

・右承諾は、保険金を騙取するという違法な目的に利用するために得られた違法なものであって、これによって当該傷害行為の違法性を阻却するものではないと解するのが相当である

※強姦罪や強制わいせつ罪に関して、いかに真摯な同意が存在しようと、被害者が13歳未満の場合には構成要件該当性を否定し得ない

☆甲は、妊娠している妻乙と話し合った上、薬物を使用して堕胎させた。堕胎について乙があらかじめ甲に対して承諾していた場合、甲の行為は不同意堕胎剤の構成要件に該当せず、同罪は成立しないが、同意堕胎罪が成立する。

第12章 正当防衛

最判昭24.8.18

・公益ないし国家的法益の防衛が、正当防衛として認められ得るか否かについては、……公共の福祉を最高の指導原理とする新憲法の理念から言っても、公共の福祉をも含めてすべての法益は防衛せらるべきであるとする刑法の理念から言っても、国家的、国民的、公共的利益についても正当防衛の許さるべき場合が存することを認むべきである

 ☆相手方から急迫不正の侵害を受け、第三者の所有物を用いて相手方に反撃し、同所有物を損壊した場合において、その行為が器物損壊罪の構成要件に該当するとき、その行為につき緊急避難が成立する余地がある

最判昭50.11.28

・防衛に名を借りて侵害者に対し積極的に攻撃を加える行為は、防衛の意思を欠く結果、正当防衛のための行為と認めることはできないが、防衛の意思と攻撃の意思とが併存している場合の行為は、防衛の意思を欠くものではないので、これを正当防衛のための行為と評価することができる

☆侵害者に対する攻撃的な意思を有していたとしても、防衛の意思が認められる場合がある

☆相手方から急迫不正の侵害を受け、相手方に反撃を加えた場合、その侵害が相手方の過失に基づくものであっても、正当防衛が成立する余地がある

☆正当防衛が成立する行為に対しては、正当防衛が成立する余地はない 

※狭義の誤想防衛については、「急迫不正の侵害」がないので正当防衛とならず違法だが、事実の錯誤として責任故意を阻却し、その錯誤について過失あるときは過失犯が成立する

最決昭52.7.21(百選Ⅰ23)

・刑法36条が正当防衛について侵害の急迫性を要件としているのは、予期された侵害を避けるべき義務を課する趣旨ではない

・単に予期された侵害を避けなかったというにとどまらず、その機会を利用し積極的に相手に対して加害行為をする意思で侵害に臨んだときは、もはや侵害の急迫性の要件を充たさないものと解するのが相当である

☆正当防衛について侵害の急迫性を要件としているのは、予期された侵害を避けるべき義務を課する趣旨ではないが、単に予期された侵害を避けなかったというにとどまらず、その機会を利用し積極的に相手に対して加害行為をする意思で侵害に臨んだときは、侵害の急迫性の要件を欠く結果、そのような侵害に対する反撃行為に正当防衛が認められることはない

最判昭60.9.12 

・急迫不正の侵害に対し自己又は他人の権利を防衛するためにした行為と認められる限り、たとえ同時に侵害者に対し憎悪や怒りの念を抱き攻撃的な意思に出たものであっても、その行為は防衛のための行為に当たると解するのが相当である

☆憎悪や怒りの念を抱いて侵害者に対する反撃行為に及んだ場合も、防衛のための行為と認められることがある

最決平20.5.20

☆相手からの侵害が、それに先立つ自らの攻撃によって触発されたものである場合にも、これに対する反撃行為に正当防衛が認められることがある

最判平21.7.16

☆刑法第36条にいう「権利」には、生命、身体、自由のみならず名誉や財産といった個人的法益が含まれるので、自己の財産権への侵害に対して相手の身体の安全を侵害する反撃行為に及んでも正当防衛となり得る。

最判昭44.12.4 

・刑法36条1項のやむを得ずにした行為とは、急迫不正の侵害に対する反撃行為が、自己又は他人の権利を防衛する手段として必要最小限度のものであること、すなわち反撃行為が侵害に対する防衛手段として相当性を有するものであることを意味するのであって、反撃行為が右の限度を超えず、したがって侵害に対する防衛手段として相当性を有する以上、その反撃行為により生じた結果がたまたま侵害されようとした法益より大であっても、その反撃行為が正当防衛行為でなくなるものではないと解すべきである

☆正当防衛における「やむを得ずにした」とは、急迫不正の侵害に対する反撃行為が、自己又は他人の権利を防衛する手段として必要最小限度のものであること、すなわち反撃行為が侵害に対する防衛手段として相当性を有するものであることを意味し、反撃行為が防衛手段として相当性を有する以上、その反撃行為により生じた結果がたまたま侵害されようとした法益より大であっても、その反撃行為が正当防衛でなくなるものではない

☆甲は、深夜、路上で、見知らぬ乙から、ナイフを胸元に突きつけられ現金を要求されたので、ナイフを避けるために乙の胸付近を手で押し、走って逃げ出した。甲の行為により、乙は転倒して後頭部を路面に打ち付け、全治約1ヶ月間を要する頭部打撲の傷害を負った。この場合、甲には正当防衛が成立する

最判昭24.8.18

・「急迫」とは、法益の侵害が間近に押し迫ったことすなわち法益侵害の危険が緊迫したことを意味するのであって、被害の現在性を意味するものではない。けだし、被害の緊迫した危険にある者は、加害者が現に被害を与えるに至るまで、正当防衛することを待たねばならぬ道理はないからである

☆刑法第36条にいう「急迫」とは、法益が侵害される危険が切迫していることをいい、被害の現在性を意味するものではない

最判昭50.12.25

・被告人らの各行為は、法秩序の見地からこれをみるときは、原判決の判示するその動機目的、その他諸般の事情を考慮に入れても、なお、到底許容されるものとは言い難く、刑法上違法性を欠くものではないというべきである

☆刑法第36条にいう「不正」とは、違法であることを意味し、侵害が全体としての法秩序に反することをいう

最大判昭23.7.7

・互いに暴行し合ういわゆる喧嘩は、闘争者双方が攻撃及び防御を繰り返す一段の連続的闘争行為であるから、闘争のある瞬間においては、闘争者の一方がもっぱら防御に終止し、正当防衛を行う観を呈することがあっても、闘争の全般からみては、刑法第36条の正当防衛の観念を容れる余地がない場合がある

☆けんか闘争において正当防衛が成立するかどうかを判断するに当たっては、闘争行為中の瞬間的な部分の攻防の態様のみに着眼するのではなく、けんか闘争を全般的に観察することが必要である

最判昭46.11.16

・刑法36条にいう「急迫」とは、法益の侵害が現に存在しているか、又は間近に押し迫っていることを意味し、その侵害があらかじめ予期されていたものであるとしても、そのことからただちに急迫性を失うものと解すべきではない

・刑法36条の防衛行為は、防衛の意思をもってなされることが必要であるが、相手の加害行為に対し憤激または逆上して反撃を加えたからといって、ただちに防衛の意思を欠くものと解すべきでない

・攻撃を受けたのに乗じ積極的な加害行為に出たなどの特別な事情が認められないかぎり、被告人の反撃行為は防衛の意思をもってなされたものと認めるのが相当である

☆甲は、乙が甲所有の自動車を盗むのを目撃し、これを追跡したものの見失い、その翌日、窃取された場所から約2キロメートル離れた路上で、乙がその自動車から降りて立ち去ったのを認めた。甲は、乙がすぐに戻ってくる様子であったので、直ちにその自動車を運転し、自宅に戻った。この場合、甲には正当防衛は成立しない

☆甲は、乙ら数名の男によって監禁されたが、監禁されて2週間後、たまたま見張りが乙一人になったので、監禁場所から脱出するため、乙の顔面を1回殴打して乙がひるんだ隙にそこから逃げた。この場合、甲には正当防衛が成立する

☆甲は、同居していた乙と言い争いをし、乙から「ぶっ殺すぞ」と怒鳴られたため、身の危険を感じて一旦家を出たが、乙と仲直りをしようと考え直し、乙から暴力を振るわれることがあるかもしれないと思いつつ、家に戻って乙に謝罪した。しかし、甲は、乙に数回顔面を殴られた上、更に殴り続けられそうになったことから憤激し、とっさに乙の脇腹付近を1回蹴り、乙に全治役1ヶ月間を要する肋骨骨折の傷害を負わせた。この場合、甲には正当防衛が成立する

第13章 緊急避難

☆国家的法益に対する現在の危難を避けるためにした行為についても、緊急避難が成立することがある

☆現在の危難の発生原因は人の行為に限られず、自然災害や動物による危害も含まれる

☆「やむを得ずにした行為」とは、その避難行為をする以外には現在の危難を避けるための他の方法がなく、その避難行為に出たことが条理上肯定できる場合をいう

☆現在の危難を避けるためにした行為によって生じた害が、避けようとした害の程度を超えた場合であっても、情状により刑の減軽又は免除をすることができる

☆緊急避難が違法性阻却事由であると考えた場合、緊急避難と認められる行為に対して正当防衛が成立することはない

第14章 責任論総説

第15章 責任能力

☆ある人が同じ精神の障害の状態にありながら、ある行為については完全な責任能力が認められ、他の行為については完全な責任能力が認められないことがある

☆心神喪失とは、精神の障害により事物の理非善悪を弁識する能力又はその弁識に従って行動する能力のない状態をいう(心神喪失とは、精神の障害により、行為の是非を弁識する能力又はこの弁識に従って行動する能力が欠けている場合をいう)

精神の障害がなければ、心神喪失は認められない 

☆アルコールによって一時的に精神の障害がある状態に陥った場合にも心神喪失と認めることができる

☆心神耗弱とは、精神の障害により、行為の是非を弁識能力(是非弁識能力)又はこの弁識に従って行動する能力(行動統御能力)が著しく減退した状態をいう

☆心神耗弱は、刑が必ず減軽される(必要的減刑

41条

※14歳に満たない者の行為は、罰しない

☆行為の是非を弁識する能力及びこの弁識に従って行動する能力に欠けるところがない場合でも、13歳であれば責任能力は認められない

☆刑法は14歳未満の者に責任能力を認めていない。これは、14歳未満の者は是非を弁別しこれに従って行動を制御する能力が一律に欠けているとの理由に基づくものではない

※14際未満かどうかは、犯罪時を基準として判断される 

少年法52条

※少年に対して有期の懲役又は禁錮をもって処断すべきときは、その刑の範囲内において長期を定めるとともに、長期の2分の1(長期が10年を下回らないときは、長期から5年を減じた期間)を下回らない範囲内において短期を定めて言い渡す(相対的不定期刑主義)

☆少年の傷害被告事件で、懲役5年の刑をもって処断すべきときは、裁判所は不定期刑を選択しなければならない

最決昭59.7.3(百選Ⅰ33)

・被告人の精神状態が刑法39条にいう心神喪失又は心神耗弱に該当するかどうかは法律判断であるから専ら裁判所の判断に委ねられているのであって、原判決が、所論精神鑑定書の結論の部分に被告人が犯行当時心神喪失の情況にあった旨の記載があるのにその部分を採用せず、右鑑定書全体の記載内容とその余の精神鑑定の結果、並びに記録により認められる被告人の犯行当時の病状、犯行前の生活状態、犯行の動機・態様等を総合して、被告人が本件犯行当時精神分裂病の影響により心神耗弱の状態にあったと認定したのは、正当として是認することができる

☆精神鑑定により心神喪失と鑑定された場合にも、裁判所は、被告人の責任能力を認めることができる

最決昭43.2.27

・酒酔い運転の行為当時に飲酒酩酊により心神耗弱の状態にあったとしても、飲酒の際酒酔い運転の意思が認められる場合には、刑法39条2項を適用して刑の減軽をすべきではないと解するのが相当である

☆飲酒当初から飲酒後に自動車を運転する意思があり、実際に酩酊したまま運転した場合、運転時に飲酒の影響により心神耗弱の状態であっても、完全責任能力が認められることがある 

第16章 責任故意

第17章 責任過失

第18章 期待可能性

第19章 未遂

☆甲は、Xを眠らせてXが左腕に着けていた高級腕時計を外して持ち去ろうと考え、Xに多量の睡眠薬を飲ませたが、Xが眠らなかったため、Xの腕時計に触れることすらできなかった。甲には昏睡強盗未遂罪が成立する

☆拘置所に勾留中の甲は、逃走しようと考え、収容されていた房の壁を削り取って穴を開けたが、その穴が脱出可能な程度の大きさになる前に発見されたため、逃走行為に及ばなかった。甲には加重逃走未遂罪が成立する

☆甲は、Xから現金を脅し取ろうと考え、「殺されたくなければ100万円をよこせ」などとXを恐喝する内容の手紙をポストに投函し、その手紙はX方に配達されたが、手紙を見たXの妻は冗談であると思い、その内容をXに伝えなかった。甲には恐喝未遂罪が成立する。

☆甲は、X方の今に置かれた金庫に多額の現金が置いてあることを知り、これを盗む目的で、X方の無施錠のドアから玄関に入ったが、Xにその場で発見されたため、逃走した。甲には窃盗未遂罪が成立しない

☆甲は、Xに対し、Xの孫を装って電話をかけ、「おじいちゃん。金がなくてこまっているので、今からいう俺の口座に100万円を送金して」と言って現金をだまし取ろうとしたが、その声が孫の声と違うことに気付いたXは、甲から指定された口座に送金しなかった。甲には詐欺未遂罪が成立する。

19-1 未遂総説

大判大7.11.16(百選Ⅰ65)

※毒を混入した白砂糖を郵送小包で送付した場合、相手方がこれを受領したときに、殺人罪の実行の着手がある

☆甲は、乙を毒殺する目的で毒入り菓子をお歳暮として郵送するため、郵便局の窓口でその菓子を包んだ小包の郵送を申し込んだが、誤って実際には存在しない住所を宛先として記載したため同小包はどこにも配達されずに甲宅に送り返された。この場合、甲には殺人未遂罪は成立しない

大判昭7.6.15

☆甲は、自己が居住する建物に付した火災保険の保険金を保険会社からだまし取る目的で同建物に放火したが、保険金を請求するに至らなかった。この場合、甲には詐欺未遂罪は成立しない 

☆甲は、乙の住居内に侵入し、タンスの引き出しを開けるなどして金目の物を探したが、見つけることができないうちに乙に発見された。甲は、逮捕を免れるため、乙に対して包丁を示して脅迫し、屋外に逃走したが、通報により駆けつけた警察官に現場付近で逮捕された。この場合、甲には事後強盗未遂罪が成立する

※装置の設置により高度の客観的危険状態が発生すると認められる場合には、実行の着手が認められると解されている

☆甲は、他人が居住する建物に放火することを企て、30分後に発火して導火材を経て同建物に火が燃え移るように設定した時限発火装置を同建物に設置したが、設定した時刻が到来する前に発覚して同装置の発火に至らなかった。この場合、甲には現住建造物等放火未遂罪が成立する 

宇都宮地判昭40.12.9

☆項は、登校中の子どもに毒入りジュースを飲ませてこれを殺害する目的で、前日の夜に、夜間は人通りのない通学路に致死量を超える毒を混入させたペットボトル入りのジュースを置いた。項には殺人罪の実行の着手が認められない

19-2 中止犯

大判昭12.6.25

※結果発生の防止は必ずしも犯人単独で行う必要はないが、結果発生防止行為を他人に依頼する場合には、少なくとも自ら防止にあたったのと同視できる程度の努力を払う必要がある

43条ただし書 

・犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減刑することができる、ただし、自己の意志により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する

既遂犯が成立する場合には、結果発生防止のための真摯な努力をしていても、中止未遂は成立しない

※中止犯が成立する場合、その効果は、中止した犯罪と併合罪の関係に立つ犯罪についてはもちろん、科刑上一罪(観念的競合、牽連犯)の関係に立つ別罪にも及ばない

☆中止未遂の刑は、刑法第43条ただし書により、必要的に減軽又は免除される

最大判昭29.1.20 

・予備罪には中止未遂の観念を容れる余地のないものである

予備罪に中止未遂の成立する余地はない 

第20章 共犯総説

最判昭23.12.14

・共同正犯たるには、行為者双方の間に意思の連絡のあることは必要であるが、行為者間において事前に打合せ等のあることは必ずしも必要ではなく、共同行為の認識があり、互いに一方の行為を利用し全員協力して犯罪事実を実現せしむれば足るのである

大判大14.1.22

☆甲は、乙が自宅で賭博場を開帳して利益を得ていることを知り、乙の役に立とうと考え、乙に連絡することなく、乙の開帳する賭博場にA及びBを誘引し、賭博をさせた。甲には賭博場開帳図利罪の幇助犯が成立する 

最決昭37.11.8(百選Ⅰ82)

☆甲は、知人乙から、交際相手であるVを殺害したいので青酸カリを入手して欲しいと依頼され、自らもVに恨みを抱いていたことから、青酸カリを準備して乙に交付した。乙は、甲から青酸カリを受領した後、実行行為に出る前にV殺害を思いとどまり、警察署に出頭した。甲には殺人予備罪の共同正犯が成立する。

最決平21.6.30

・被告人は、共犯者数名と住居に侵入して強盗に及ぶことを共謀したところ、共犯者の一部が家人の在宅する住居に侵入した後、見張り役の共犯者が既に住居内に侵入していた共犯者に電話で「犯行をやめた方がよい。先に帰る」などと一方的に伝えただけで、被告人において格別それ以後の犯行を防止する措置を講ずることなく待機していた場所から見張り役らと共に離脱したにすぎず、残された共犯者らがそのまま強盗に及んだものと認められる。そうすると、被告人が離脱したのは強盗行為に着手する前であり、たとえ被告人も見張り役の上記電話内容を認識した上で離脱し、残された共犯者らが被告人の離脱をその後知るに至ったという事情があったとしても、当初の共謀関係が解消したということはできず、その後の共犯者らの強盗も当初の共謀に基づいて行われたものと認めるのが相当である

第21章 共同正犯

21-1 共同正犯

最決昭57.7.16(百選Ⅰ77)

※Yは、タイ国からの大麻密輸入を計画したAからその実行担当者になってほしい旨頼まれるや、大麻を入手したい欲求にかられ、執行猶予中の身であることを理由にこれを断ったものの、知人のBに対し事情を明かして協力を求め、同人を自己の身代わりとしてAに引き合わせるとともに、密輸入した大麻のいち部をもらい受ける約束のもとにその資金の一部をAに提供したというのであるから、これらの行為を通じYが上記A及びBらと本件大麻密輸入の謀議を遂げたと認められる。

最判昭43.3.21

・謀議が成立したというためには、単に他人が犯罪を行うことを認識しているだけでは足らず、数人が互いに他の行為を利用して各自の犯意を実行する意思が存することを要するけれども、実行者の具体的行為の内容を逐一認識することを要しない 

・共謀共同正犯が成立するためには、2人以上の者が、特定の犯罪を行うため、共同意思の下に一体となって互いに他の行為を利用し、各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議をなし、よって犯罪の実行をしたことを要し、謀議が成立したというためには、単に他人が犯罪を行うことを認識しているだけでは足らず、数人が互いに他の行為を利用して各自の犯意を実行する意思が存することを要する

☆共謀共同正犯が成立するためには、数人相互の間に、実行行為者の犯行の認識だけでなく、共同犯行の認識があることが必要である

最大判昭33.5.28(百選Ⅰ75) 

・数人の共謀共同正犯が成立するためには、その数人が同一場所に会し、かつその数人間に一個の共謀の成立することを必要とするものでなく、同一の犯罪について、甲と乙とが共謀し、次いで乙と丙が共謀するというようにして、数人の間に順次共謀が行われた場合は、これらの者のすべての間に当該犯行の共謀が行われたと解する

最判昭23.11.30

・明示の意思の表示がなくても暗黙にでも意思の連絡があれば共謀があったといいうる 

最決昭54.4.13(百選Ⅰ91)

・殺人罪と傷害致死罪とは、殺意の有無という主観的な面に差異があるだけで、その余の犯罪構成要件要素はいずれも同一であるから、暴行・傷害を共謀した被告人Aら7名のうちのBが前記……被害者Vに対し未必の故意をもって殺人罪を犯した本件において、殺意のなかった被告人ら6名については、殺人罪の共同正犯と傷害致死罪の共同正犯の構成要件が重なり合う限度で軽い傷害致死罪の共同正犯が成立する

・Bが殺人罪を犯したということは、被告人Aらにとっても暴行・傷害の共謀に起因して客観的には殺人罪の共同正犯にあたる事実が実現されたことにはなるが、そうであるからといって、被告人Aら6名には殺人罪という重い罪の共同正犯の意思はなかったのであるから、被告人Aら6名に殺人罪の共同正犯が成立するいわれはなく、もし犯罪としては重い殺人罪の共同正犯が成立し刑のみを暴行罪ないし傷害罪の結果的加重犯である傷害致死罪の共同正犯の刑で処断するにとどめるとするならば、それは誤りといわなければならない。

☆甲は、乙との間で、Aに暴行を加えることを共謀したところ、乙は、Aに対して暴行を加えている最中に興奮のあまり殺意を生じ、Aを殺害してしまった。甲には傷害致死罪の共同正犯が成立する。

大判大11.2.25

※行為者間に意思の連絡を欠くときは、たとえその一人が他の者と共同実行の意思をもってその犯罪に参加した場合であっても、共同正犯は成立しない 

練馬事件(最大判昭33.5.28、百選Ⅰ75)

・共謀共同正犯が成立するには、二人以上の者が、特定の犯罪を行うため、共同意思の下に一体となって互いに他人の行為を利用し、各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議をなし、よって犯罪を実行した事実が認められなければならない。したがって右のような関係において共謀に参加した事実が認められる以上、直接実行行為に関与しない者でも、他人の行為をいわば自己の手段として犯罪を行ったという意味において、その間刑責の成立に差異を生ずると解すべき理由はない。さればこの関係において実行行為に直接関与したかどうか、その分担又は役割のいかんは右共犯の刑責自体の成立を左右するものではないと解するを相当とする

最判昭26.3.27(百選Ⅰ80)

・被告人Aは被告人と共謀の上原判示の如く強盗に着手した後、家人に騒がれて逃走し、なお泥棒、泥棒と連呼追跡されて逃走中、警察巡査に発見され追いつかれてまさに逮捕されようとした際、逮捕を免れるため同巡査に数回切りつけ遂に死に至らしめたものである。されば右Aの傷害致死行為は強盗の機会において為されたものといわなければならないのであって、強盗について共謀した共犯者等はその一人が強盗の機会において為した行為については他の共犯者も責任を負うべきものである  

第22章 狭義の共犯

大判大13.4.29

※暴行を教唆したところ、被教唆者が被害者を傷害した結果死亡させた事案において、教唆者も傷害致死の罪責に任ずべき

第23章 共犯の諸問題

23-1 共犯と身分

最判昭32.11.19

・被告人両名はかかる業務に従事していたことは認められないから、刑法65条1項により同法253条に該当する業務上横領罪の共同正犯として論ずべきものである。しかし、同法253条は横領罪の犯人が業務上物を占有する場合において、とくに重刑を課することを規定したものであるから、業務上物の占有者たる身分のない被告人両名に対しては同法65条2項により同法252条1項の通常の横領罪の刑を科すべきものである。

☆判例は、刑法65条1項により甲及び乙は業務上横領罪の共犯となり、同条2項により乙に対しては単純横領罪の刑を科すとしている

☆判例の立場についての、罪名と科刑の分離を認めるのは妥当でないという批判を克服するために、刑法65条1項は違法身分について規定し、同条2項は責任身分について規定していると考え、業務上横領罪については、占有の受託者たる身分は違法身分、業務者たる身分は責任身分と捉えた上で、この事例では刑法65条1項により甲及び乙は単純横領罪の共犯となり、更に同条第2項により甲については業務上横領罪が成立するとする見解などがある

第24章 罪数

最大判昭49.5.29

・1個の行為とは、法的評価をはなれ構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとで、行為者の動態が社会的見解上1個のものとの評価をうける場合をいう

・被告人が本件自動車を運転するに際し、無免許で、かつ、酒に酔った状態であったことは、いずれも車両運転者の属性にすぎないから、被告人がこのように無免許で、かつ、酒によった状態で自転車を運転したことは、右の自然的観察のもとにおける社会的見解上明らかに1個の車両運転行為であって、それが道路交通法……の各罪に同時に該当する

☆甲は、酒によった状態で、自動車を無免許で運転した。甲には酒酔い運転の罪と無免許運転の罪が成立し、これらは観念的競合となる

最判昭53.2.16

・数人共同して2人以上に対しそれぞれ暴行を加え、一部の者に傷害を負わせた場合には、傷害を受けた者の数だけの傷害罪と暴行を受けるにとどまった者の数だけの暴力行為等処罰に関する法律1条の罪が成立し、以上は併合罪として処断すべきである

☆甲及び乙は、対立する暴走族の構成員を襲撃することを共謀し、同構成員であるX,Y及びZに対し、殴る蹴るの暴行を加え、それぞれに傷害を負わせた。甲及び乙にはそれぞれ3個の傷害罪が成立し、これらは併合罪となる

最決昭57.2.17(百選Ⅰ106) 

・成立すべき幇助罪の個数については、正犯の罪のそれに従って決定されるものと解するのが相当である

・幇助犯は正犯の犯行を幇助することによって成立するものである

・幇助行為それ自体について(観念的競合の関係となるか否か)をみるべきである 

・幇助犯における行為は幇助犯のした幇助行為そのものにほかならない

☆甲は、乙がX及びYを殺害するつもりでいることを知ったことから、凶器としてナイフ1本を乙に手渡したところ、乙は、同ナイフを用いてX及びYを殺害した。甲には2個の殺人幇助の罪が成立し、これらは観念的競合となる

最決昭29.5.27(百選Ⅰ105)

・3個の殺人の所為は所論1個の住居侵入の所為とそれぞれ牽連犯の関係にあり刑法54条1項後段、10条を適用し一罪としてその最も重き刑に従い処断すべきである

☆甲は、離婚した元妻Xを殺害する目的で、深夜、Xの母親Y宅に侵入し、その場にいたX,Y及びYの子Zを順次殺害した。甲には1個の住居侵入罪と3個の殺人罪が成立するが、住居侵入罪と各殺人罪は牽連犯となり、全体が科刑上一罪となる。

最決昭58.9.27 

・身代金取得の目的で人を拐取した者が、更に被拐取者を監禁し、その間に身代金を要求した場合には、身代金目的拐取罪と身代金要求罪とは牽連犯の関係になる

・以上の各罪と監禁罪とは併合罪の関係にある

☆甲は、身代金を得る目的でXを拐取し、更にXを監禁し、その間にXの近親者に対して身代金を要求した。甲には身代金目的拐取罪、拐取者身代金要求罪及び監禁罪が成立し、身代金目的拐取罪と拐取者身代金要求罪は牽連犯となり、これらの各罪と監禁罪は併合罪となる

最判昭23.3.16

☆公務員が電化製品を盗品であると知りながら、賄賂として収受した【観念的競合】

最決平22.3.17

☆連日、駅前で募金箱を持ち、真実は募金を難病の子どものために使うつもりはなく、自己のために消費するつもりであるのにそれを隠して、「難病の子どもを救うため、募金をお願いします」と連呼し、多数回にわたり、不特定多数の通行人からそれぞれ少額の金員をだまし取った【包括一罪】

東京高判昭55.3.3

☆他人のキャッシュカードを盗み、これを使って銀行の現金自動預払機から預金を引き出した【併合罪】

最判昭24.7.30

☆窃盗を教唆し、その窃盗犯人のために盗品の有償処分のあっせんをした場合における、窃盗教唆罪と盗品等処分あっせん罪(併合罪)

最判昭42.8.28

☆不動産登記簿の原本に不実の記載をさせた上、これを備え付けさせて行使した場合における、公正証書原本不実記載罪とその行使罪(牽連犯)

最大判昭28.6.17

・人を逮捕し監禁したときは、……逮捕剤と監禁罪との各別の二罪が成立し、牽連犯又は連続犯となるものではなく、これを包括的に観察して刑法220条の単純な一罪が成立する

最決昭48.2.8

※凶器準備集合罪が傷害罪に発展した場合の両者の関係は、牽連犯ではなく併合罪と解すべき

・凶器準備集合罪が個人の生命、身体または財産ばかりでなく、公共的な社会生活の平穏をも保護法益とするものであること……にかんがみれば、……両者は通常手段結果の関係にあるというをえない

最判平17.4.14(百選Ⅰ102) 

・恐喝の手段として監禁が行われた場合であっても、両罪は、……牽連犯の関係にはない

・両罪は、犯罪の通常の形態として手段又は結果の関係にあるものとは認められない

 

 

 

第25章 刑罰

☆禁錮は、一定の非破廉恥的動機に出た犯罪者に対し通常の犯罪者と異なった処遇をすべきであるとの趣旨に由来しており、懲罰と同様に監獄に公知することにより執行するが、懲役と異なり所定の作業が課されない。しかし、禁錮受刑者が作業に就くことを請うときは、作業を許すことができる(請願作業)

25条2項

※前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその刑の全部の執行を猶予された者が1年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときは、その執行を猶予することができる(25条2項)

42条2項

※告訴がなければ公訴を提起することができない罪について、告訴をすることができる者に対して自己の犯罪事実を告げ、その措置にゆだねたときも、42条1項と同様とする

☆親告罪について、告訴権者に対して自己の犯罪事実を告げ、その措置に委ねた時は、刑を減軽することができる

第2部 各論

第26章 生命・身体に対する罪

26-2 殺人の罪

・甲は、通常の判断能力がないVの殺害を計画し、Vに対し、首をつっても仮死状態になるだけであり、必ず生き返るとだまして、Vに首をつらせて窒息死させた。甲には殺人罪が成立する

26-3 傷害の罪

最判昭25.11.9

・被害者が打撲傷を負うた直接の原因が過って鉄棒につまずいて転倒したことであり、この転倒したことは被告人が大声で「何をボヤボヤしているのだ」等と悪口を浴びせ矢庭に拳大の瓦の破片を同人の方に投げつけ、なおも「殺すぞ」等と怒鳴りながら傍にあった鍬をふりあげて追いかける気勢を示したので同人は之に驚いて何を避けようとして夢中で逃げ出し走り続ける中に起こったことであることは判文に示す通りであるから、所論のように被告人の追いかけた行為と被害者の負傷との間には何ら因果関係がないと解すべきではなく、被告人の判示暴行によって被害者の傷害を生じたものと解するのが相当である

206条

※傷害罪又は傷害致死罪が行われるに当たり、現場において勢いを助けた者は、自ら人を傷害しなくても、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金若しくは科料に処する

☆甲は、Aら数名が殴り合いのけんかをしているところにたまたま通りかかり「もっとやれ」と言って囃し立てた。Aらけんかの当事者が怪我をせず、Aらの暴行が互いの相手に対する暴行罪にとどまる場合は、甲には現場助勢罪は成立しない

第27章 自由及び私生活の平穏に対する罪

27-2 脅迫の罪

※刑法222条2項にいう「親族」とは、民法上の親族をいう。妻の実兄は親族に当たる

※脅迫の相手は自然人に限られ、法人は本罪の客体に含まれない

※畏怖させるためには、害悪の発生を告知者が現実に左右できると一般人が感じるものでなくてはならない。よって、単なる天変地異を予告する警告は本罪を構成しない。

※脅迫罪は人を畏怖させるに足りる害悪の告知によって成立するが、それによって被害者が現実に畏怖心を生じたことは必要ではない

※脅迫は、告知が相手方に到達して認識されたことが必要である

27-4 性的自由に関する罪

最決昭40.3.30

※女性にも強姦罪の共同正犯が成立する

最判昭24.12.24

☆甲は、V女を強姦した後、同女から金品を奪う意思を生じ、同女に更なる暴行・脅迫を加え、その犯行を抑圧して同女の財布を奪った。甲には強盗強姦既遂罪は成立せず、強姦罪と強盗罪の併合罪となる 

最判昭23.11.16

※強姦致死傷罪の成立には、姦淫行為の既遂・未遂を問わない

最決昭43.9.17

※強姦致死傷罪の致傷の結果については、姦淫行為から生じた場合のみではなく、手段たる暴行から生じた場合も含まれる

最判昭24.7.9

・刑法178条2項の「心身を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて」とは、強姦罪で予想されるような暴行・脅迫以外の手段でかような状態に陥れることをいう。

☆甲は、強姦するために犯行を著しく困難にする程度の暴行をV女に加えたところ、その暴行により同女が脳震盪を起こして失神した。甲は失神した同女を姦淫した。甲には強姦既遂罪が成立する。

☆甲は、13歳のV女を12歳であると誤信したまま、暴行・脅迫を加えることなく同女を姦淫した。甲には強姦既遂罪は成立しない

大判大4.12.11

☆甲は、強姦するため、殺意をもってV女に強度の暴行を加え、同女の犯行を抑圧した上で同女を姦淫し、同暴行により、同女を死亡させた。 甲は、強姦致死罪と殺人罪の観念的競合となる

27-5 住居を侵す罪

最大判昭24.7.22

・強盗の意図を隠して「今晩は」と挨拶し、家人が「おはいり」と答えたのに応じて住居にはいった場合には、外見上家人の承諾があったように見えても、真実においてはその承諾を欠くものであるということは、言うまでもないことである

☆強盗の意思を隠してA方の玄関前で「こんばんは」と言ったところ、来客と勘違いしたAから「どうぞお入りください」と言われてA方住居に立ち入った場合、住居侵入罪が成立する

最判昭58.4.8(百選Ⅱ16)

・刑法130条前段にいう「侵入し」とは、他人の看守する建造物等に管理権者の意思に反して立ち入ることをいうと解すべきであるから、管理権者が予め立入り拒否の意思を積極的に明示していない場合であっても、該建造物の性質、使用目的、管理状況、管理権者の態度、立入りの目的などからみて、現に行われた立入り行為を管理権者が容認していないと合理的に判断されるときは、他に犯罪の成立を阻却すべき事情が認められない以上、同条の罪の成立を免れないというべきである

最判平20.4.11

・刑法130条前段にいう「侵入し」とは、他人の看守する邸宅等に管理権者の意思に反して立ち入ることをいうものである

※条文上の位置にもかかわらず、強姦罪等と同様に、住居を侵す罪も個人的法益に対する罪と介されている。住居侵入罪の保護法益については、住居権ないし管理権と解する見解(住居権説)と、住居の平穏と解する見解(平穏説)の対立が有る。判例は戦前、家父長の住居権を保護法益と解していた(旧住居権説)。戦後は学説の批判を受け、一時平穏説に傾斜したが、侵入の意義につき意思侵害説を採り、再度住居権ないし管理権を保護法益と解するようになった(新住居権説)と評価されている。 

最決平19.7.2(百選Ⅱ18) 

・現金自動預払機利用客のカードの暗証番号等を盗撮する目的で、現金自動預払機が設置された銀行支店出張所に営業中に立ち入ったものであり、そのような立入りが同所の管理権者である銀行支店長の意思に反するものであることは明らかであるから、その立入りの外観が一般の現金自動預払機利用客のそれと特に異なるものでなくても、建造物侵入罪が成立する

最決昭31.8.22

・建造物侵入罪は故なく建造物に侵入した場合に成立し退去するまで継続する犯罪であるから、同罪の成立する以上退去しない場合においても不退去罪は成立しないものと解するを相当とする

☆集合住宅の1階出入口から各居室の玄関までの共用部分は、130条の規定する「住居」ではなく「邸宅」に当たる

最大判昭25.9.27

☆建造物に付属し、その利用に供される囲繞地は、130条の規定する「建造物」に当たる

第28章 名誉・信用に対する罪

第29章 財産に対する罪

29-1 財産犯総説

最決55.10.30

・Yは、深夜、広島市内の給油所の駐車場から、他人所有の普通乗用自動車(時価約250万円)を、数時間に渡って完全に自己の支配下に置く意図のもとに、所有者に無断で乗り出し、その後4時間余りの間、同市内を乗り回していたというのであるから、たとえ、使用後にこれを元の場所に戻しておくつもりであったとしても、Yには右自動車に対する不法領得の意思があったというべきである 

☆甲は、警察官から職務質問をされそうになったのでその場から急いで立ち去ろうと考え、たまたま路上に駐車されていた他人所有の自動車に乗り込み、適当な場所で乗り捨てるつもりで、同自動車を運転してその場から走り去った。この場合、甲には、不法領得の意思が認められ、窃盗罪が成立する。

☆強盗罪における強取とは、相手方の犯行を抑圧するに足りる程度の暴行・脅迫を加え、相手方の意志に反し、相手方の占有に属する財物を自己又は第三者の占有に移転することをいう。強取と窃盗罪における窃取との区別は、実行行為としての暴行・脅迫の有無であり、強取と恐喝罪における喝取との区別は、相手方の犯行を抑圧するに足りる程度の暴行・脅迫であるか否か、つまり、暴行・脅迫の程度である。それゆえ、恐喝罪は、詐欺罪と同様、相手方の瑕疵ある意思に基づき、財物を交付させる犯罪である。そして、強盗罪や窃取罪のように、相手方の意思に反し、相手方の占有に属する財物を自己又は第三者の占有に移転する犯罪を奪取罪と呼び、恐喝罪や詐欺罪のように、相手方の瑕疵ある意思に基づき、相手方の占有に属する財物を自己又は第三者の占有に移転する犯罪を交付罪と呼んで区別することができる

29-2 窃盗罪

最決平28.8.30

・刑法244条1項(親族間の犯罪に関する特例)は、刑の必要的免除を定めるものであって、免除を受ける者の範囲は明確に定める必要があることなどからして、内縁の配偶者に適用又は類推適用されることはない

最決昭31.1.19

☆宿泊客が、旅館の貸与した浴衣を自分のものにしようと考え、これを着用したまま、玄関にいた支配人に「ちょっと向かいのポストまで手紙を出してくる」と告げ、支配人に「いってらっしゃいませ」と言われて旅館を立ち去った行為には、窃盗罪が成立する

東京高判平6.9.12

☆送金銀行の手違いで、自己名義の預金口座に誤って入金されたことを知った者が、これを自分のものにしようと考え、同口座のキャッシュカードを用いて現金自動預払機から全額を引き出した行為には、窃盗罪が成立する

大判大13.3.28

☆民家で火災が発生し、消火活動に参加した者が、一人暮らしだった住人の焼死体に付いていた金のネックレスを発見して自分のものにしようと考え、これを取り外して持ち去った行為には、窃盗罪は成立せず、占有離脱物横領罪が成立する

最決昭32.4.25

☆施錠された友人所有のキャリーバッグを同人から預かり保管していた者が、在中する衣類を自分のものにしようと考え、友人に無断でキャリーバッグの施錠を解き、同衣類を取り出した行為には、窃盗罪が成立する

最決平21.6.29

・被害店舗が容認している通常の遊戯方法により取得したものである

☆パチスロ機を誤作動させてメダルを窃取することを共謀した者が、実行者の犯行を隠蔽するため、実行者の隣で通常の遊戯方法によりメダルを取得した場合、そのメダルを被害品とする窃盗罪は成立しない

大判大7.2.6

※商店内の商品は商店主に占有がある

大判大8.4.4

※宿泊者が旅館の共同浴場の脱衣所に置き忘れた時計は、旅館主の占有を認めている

※一般に死者の占有は認められない

※封緘委託物全体の占有は受託者に帰属するが、在中物の占有は委託者に留保されている。封緘物全体を領得すれば横領罪であるが、在中物のみを抜き取ると窃盗罪となる

※盗品の占有についても窃盗罪で保護される

※自動車が無施錠で駐車していたことをもって、社会通念上直ちに自動車に対する事実上の支配が失われたとはいえず、車中の財物に対する占有も失われるとはいえない 

29-3 強盗罪

☆甲は、タクシーの売上金を奪おうと考えて、乗客を装ってタクシーに乗り込み、行き先を指定して人気のない場所に誘導した上で、同所で、乗車料金を請求してきた運転手の首元に鋭利なガラス片を突きつけて売上金を渡すよう要求したが、同運転手から抵抗されて売上金を手に入れることができず、そのままその場から立ち去った。この場合、甲には強盗罪の未遂及び強盗利得罪の既遂が成立し、包括して強盗既遂罪一罪が成立する。

最判昭24.7.9

※窃盗未遂犯人であっても事後強盗罪の主体となる

※財産上の利益を客体とする場合には、事後強盗罪は成立しない

最判昭22.11.29

☆窃盗犯人が窃盗の現場で逮捕を免れるために暴行・脅迫を加えた相手方が、現に当該窃盗犯人を逮捕する意図を有していなくても、事後強盗罪は成立する

☆窃盗犯人が窃盗の現場で逮捕を免れるために相手方を殺害した場合、強盗殺人罪が成立する

裁決昭54.11.19

・刑法237条にいう「強盗の目的」には、同法238条に規定する準強盗を目的とする場合を含む

☆強盗予備罪の「強盗の罪を犯す目的」には、事後強盗を犯す目的も含まれる 

最判昭41.4.8(百選Ⅱ29)

・(被告人が被害者を殺害した後、不法領得の意思を生じた場合、)被害者からその財物の占有を離脱させた自己の行為を利用して右財物を奪取した一連の被告人の行為は、これを全体的に考察して、他人の財物に対する所持を侵害したものとして、奪取行為に窃盗罪が成立する

・被害者が生前有していた財物の所持はその死亡直後においてもなお継続して保護するのが法の目的にかなう

29-4 詐欺罪

最決昭34.9.28(百選Ⅱ48)

・たとえ価格相当の商品を提供したとしても、事実を告知するときは相手方が金員を交付しないような場合において、ことさら商品の効能などにつき真実に反する誇大な事実を告知して相手方を誤信させ、金員の交付を受けた場合は、詐欺罪が成立する。 

※詐欺罪が既遂となるためには、人を欺く行為によって相手方が錯誤に陥り、それに基づく財産的処分行為によって財物を交付させたこと(財物の占有が行為者又は第三者に移転したこと)が必要となる。これらの間に因果関係が存在することが必要である。財物の占有が行為者又は第三者に移転するとは、財物に対する被害者の支配を排除して、行為者又は行為者と一定関係にある第三者がその支配を取得することをいう(不動産については、単なる意思表示だけでは足りず、現実に占有の移転又は登記が必要)

☆甲は、乙所有の土地について、価格が暴落すると偽って、これを信じた乙との間で、時価の半額で同土地を買い受ける旨の売買契約を締結した。この場合、その売買契約が成立しただけでは、甲には詐欺既遂罪は成立しない。

最決平16.2.9

・本件クレジットカードの会員規約上、クレジットカードは、会員である名義人のみが利用でき、他人に同カードを譲渡、貸与、質入れ等することが禁じられている。また、加盟店規約上、加盟店は、クレジットカードの利用者が会員本人であることを善良な管理者の注意義務をもって確認することなどが定められている。……以上の事実関係の下では、被告人は、本件クレジットカードの名義人本人になりすまし、同カードの正当な利用権限がないのにこれがあるように装い、その旨従業員を誤信させてガソリンの交付を受けたことが認められるから、被告人の行為は詐欺罪を構成する。仮に、被告人が本件クレジットカードの名義人から同カードの使用を許されており、かつ、自らの使用に係る同カードの利用代金が会員規約に従い名義人において決済されるものと誤信していたという事情があったとしても、本件詐欺罪の成立は左右されない

※機械を相手にする場合には欺罔行為とならず詐欺罪は成立しない

最判51.4.1(百選Ⅱ45)

・欺罔行為によって国家的法益を侵害する場合でも、それが同時に、詐欺罪の保護法益である財産権を侵害するものである以上、当該行政刑罰法規が特別法として準詐欺罪の適用を排除する趣旨のものと認められない限り、詐欺罪の成立を認めることは、大審院時代から確立された判例である

☆国や地方公共団体が所有する財物は、刑法246条1項の詐欺罪における「財物」に当たる

大連判大11.12.15

☆家賃を支払う意志も能力もないのに、これがあるように装って大家をだましてアパートの一室を借り受けた場合、刑法246条1項の詐欺罪は成立しない

最決昭43.6.6

・注文者が、代金を支払える見込みもその意思もないのに、単純に商品買受の注文をしたときは、その注文の行為自体を欺罔行為と解するのが相当である

・商品買受の注文をする場合においては、特に反対の事情がある場合のほかは、その注文に代金を支払う旨の意思表示を包含しているものと解するのが通例である

☆商品買受の注文の際、代金支払いの意思も能力もないのに、そのことを告げることなく、単純に商品買受の注文をした場合、その注文行為が刑法246条1項の詐欺罪における作為による欺罔行為となる

大判大14.4.7

☆相手を欺罔して錯誤に陥らせ、これにより相手方から財物の交付を受けた場合、錯誤に陥ったことに相手方の過失が認められるときであっても、刑法246条1項の詐欺罪が成立することがある

大判大4.6.15

☆知慮浅薄な未成年者を欺罔して錯誤に陥らせ、これにより未成年者から財物の交付を受けた場合、刑法248条の準詐欺罪ではなく、刑法246条1項の詐欺罪が成立する 

※電子計算機使用詐欺罪(刑法246条の2)の客体は財産上の利益であって、財産上の利益とは財物以外の財産的利益を意味する

大判昭7.6.15

※保険金騙取の目的から家屋に放火した場合、保険会社に対して保険金支払の請求をしていないときは詐欺の着手とはならない。放火行為は、詐欺罪に対しては単に準備行為たる関係にあるにとどまる

☆甲は、交通事故を装い保険会社から保険金をだまし取ろうと企て、自己の運転する自動車を道路脇の電柱に衝突させて自ら怪我をした。この場合、甲には、自動車を電柱に衝突させた時点で、詐欺未遂罪が成立しない

☆甲は、無銭宿泊を企て、宿泊代金を支払う意思も能力もないのに、これらがあるように装い、民宿を営む乙に対し、宿泊を申し込んだところ、乙は、他の民宿から甲が無銭宿泊の常習者であることを聞いていたため、甲に宿泊代金支払の意思も能力もないことがわかったが、甲に憐憫の情を抱き、甲を宿泊させた。この場合、甲には、詐欺未遂罪が成立するにとどまる

大判明42.6.21

※人を欺罔して財物を騙取した以上、その給付が不法原因に基づくため被害者が民法上救済を求め得ない場合でも詐欺罪が成立する

☆甲は、偽札を作る意思がないのに、乙に対し、一緒に偽札を作ることを持ちかけた上、偽札を作る機材の購入資金にすると嘘を言って資金の提供を求め、その旨誤信した乙から同資金として現金の交付を受けた。この場合、甲には、詐欺既遂罪が成立する

最決昭43.10.24

☆甲は、乙とトランプ賭博を行った際、乙の手札の内容がわかるよう不正な細工を施したトランプカードを用いて乙を負けさせ、乙に100万円の支払債務を負担させた。甲には詐欺利得罪(246条2項)が成立する

☆甲は、乙宅の金品を手に入れようと考え、乙宅で乙と歓談中、「火事だ」と嘘を言い、乙がその旨誤信して外に逃げた隙に乙宅から現金を持ち去った。甲には窃盗罪が成立し、詐欺罪は成立しない。

☆甲は、パチンコ店において、通常の方法によってパチンコ台で遊戯しているように装って同店従業員乙の目を欺き、特殊な器具を使ってパチンコ台を誤作動させてパチンコ玉を排出させ、その占有を取得した。甲には窃盗罪が成立し、詐欺罪は成立しない

最決平15.12.9

※被告人は被害者をして空クレジット契約に基づく信販会社による立替払いをさせて金員を交付させたものと認められるとした上で、被害者が被告人と共同で消費売買を仮装し信販会社をして立替金を交付させた行為が、別途、信販会社に対する詐欺罪を構成するか否かは、被告人の詐欺罪の成否を左右するものではない

☆甲は、乙に対し、乙の居宅は耐震補強工事をしないと地震の際に危険である旨嘘を言い、その旨乙を誤信させて必要のない工事契約を締結させたが、乙には資金がなかったことから、乙が甲の妻丙が経営する家具店から家具を購入したように仮装して、その購入代金について乙と信販会社との間で立替払い契約を締結させ、これに基づき、同信販会社から丙名義の預金口座に工事代金相当額の振込を受けた。甲には詐欺罪が成立する 

29-5 恐喝罪

最判昭24.2.8

・原審相被告人Bに対し同人が窃取した綿糸の買い入れを世話すると称し同人が綿糸を運搬して来るところを、被告人が刑事だと脅かしてそれを取り上げることに手はずをきめ、……Bが綿糸20梱を家人に運搬させてくるや、被告人は警察官を装うてBに対し「警察のものだがこの綿糸はどこからもってきたか」と尋ね同人が「火薬廠から持ち出した」と答えると、その氏名年齢職業等を問い之を加味に書き留める風をした上「取調べの必要があるから差し出せ」と言い、もしこれに応じなければ直ちに警察署へ連行するかもしれないような態度を示して同人を畏怖させ、よって同人をして即時その場で右綿糸20梱を交付させたというのであって、右のごとく被告人がBに対しその申入れに応じなければ直ちに警察署へ連行するかもしれないような態度を示し、Bがこれにより畏怖の年を生じ、ために綿糸を交付するに至ったものである以上、恐喝罪をもって問擬すべきである

・被告人の施用した手段の中に虚偽の部分即ち警察官と称した部分があっても、その部分も相手方に畏怖の年を生ぜしめる一材料となり、その畏怖の結果として相手方が財物を交付するに至った場合は詐欺罪ではなく恐喝罪となる

☆甲は、警察官でないのに警察官を装い、窃盗犯人である乙に対し、「警察のものだが、取り調べる必要があるから差し出せ」などと虚偽の事実を申し向けて盗品の提出を求め、これに応じなければ直ちに警察署に連行するかもしれないような態度を示したところ、乙は、逮捕されるかもしれないと畏怖した結果、甲に盗品を交付した。この場合、甲には、恐喝既遂罪が成立する

※遺失物等横領罪の客体は、「遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物」であることが必要であり、無主物は客体とはなりえない

☆甲は、隣人Aの居宅の玄関前に置いてあった自転車を、Aの所有物と認識して持ち去ったが、実際には、同自転車は無主物だった。甲には窃盗罪も遺失物等横領罪も成立しない 

最判昭24.1.11 

※恐喝罪の本質は、被恐喝者の畏怖による瑕疵ある同意を利用する財物の領得行為と解すべきであるから、被恐喝者が畏怖して黙認しているのに常時恐喝者において財物を奪取した場合においても、恐喝罪の成立を妨げるものではない

☆甲は、通行中の乙から現金を喝取することを企て、乙に対し、犯行を抑圧するに至らない程度の脅迫を加えたところ、乙は、甲の脅迫により畏怖し、甲が乙の上着のポケットに手を入れて財布を抜き取ることを黙認した。この場合、甲には恐喝既遂罪が成立する

29-6 横領罪

☆横領罪の「占有」には、物に対して法律上の支配力を有する状態を含む

※法人所有の不動産については、法人の代表者はその不動産の占有者である

☆横領罪の「物」は、窃盗罪における「財物」と同義である。

☆不動産も横領罪の客体となる

最決平13.11.5(百選Ⅱ64)

・行為の客観的性質の問題と行為者の主観の問題は、本来、別異のものであって、たとえ商法その他の法令に違反する行為であっても、行為者の主観において、それを専ら会社のためにするとの意識の下に行うことは、あり得ないことではない。したがって、その行為が商法その他の法令に違反するという一事から、直ちに行為者の不法領得の意思を認めることはできないというべきである

☆法人の金員を管理する者が、同法人の金員を支出した場合、同支出が商法その他関係法令に照らして違法であっても、横領罪の「不法領得の意思」が認められないことがある

※業務上横領罪の「業務」とは、 社会生活上の地位に基づいて反復継続して行われる事務であって、委託を受けて金銭その他の財物を管理することを内容とする事務をいう

大判明44.10.13

※質権者から質物の保管を委託された者がほしいままにこれを所有権者に交付した場合は、質権に侵害を加えたものとしても所有権を侵害したものではないから、背任罪を構成することは格別、横領罪は成立しない

最決平21.3.26

☆甲は、自己が所有する不動産を乙に売却したが、乙への所有権移転登記が完了する前に、丙との間で金銭消費貸借契約を締結した事実及びその担保として同不動産に係る抵当権設定契約を締結した事実がないにもかかわらず、同不動産について丙を権利者とする不実の抵当権設定仮登記を完了した。甲には横領罪が成立する

29-8 盗品等に関する罪

最判昭25.12.12

・刑法244条は、同条所定の者の間において行われた窃盗及びその未遂罪に関しその犯人の処罰につき特例を設けたに過ぎないのであって、その犯罪の成立を否定したものではないから、右窃盗罪によって奪取された物は盗品たる性質を失わない。

☆甲は、乙がその同居の親族から盗んできたカメラを、盗品であると知りながら乙から購入した。この場合、乙は、窃盗罪についての刑が免除されるが、甲には盗品等有償譲受罪が成立する。

最判昭30.7.12

・甲等が窃取した本件物品を運搬するのは、所謂事後処分であるけれども、その品は依然盗贓品であり、これをその情を知りながら右甲等とともに運搬した被告人については、その品全部について運搬罪の成立する 

最決平14.7.1

・盗品等の有償の処分のあっせんをする行為は、窃盗等の被害者を処分の相手方とする場合であっても、被害者による盗品等の正常な回復を困難にするばかりでなく、窃盗等の犯罪を助長し誘発するおそれのある行為であるから、刑法256条2項にいう盗品等の「有償の処分のあっせん」に当たる 

最判昭24.10.1 

・自ら強窃盗を実行するものについては、その窃取した財物に関して、重ねて盗品関与罪の成立を認めることのできないことは疑いのないところである

最判昭23.3.16(百選Ⅰ39)

※盗品等罪の成立には、盗品等であることの認識が必要であるが、それは未必的認識で足りる

☆甲は、乙が第三者から盗んできた物を、盗品かもしれないと認識していたが、値段が安いのでそれでも構わないと思って有償で譲り受けた。この場合、甲には盗品等有償譲受罪が成立する

大判大3.1.21

※盗品等関与罪の親族間の犯罪に関する特例(257条)の適用の要件として、親族関係は盗品犯人と本犯との間に必要

※被害者である占有者と盗品等関与罪の犯人の間の親族関係ではない

大判大12.1.25

☆盗品等無償譲受け罪も盗品等有償譲受け罪も、譲り受けについて契約を締結しただけでは足りず、盗品等が現実に移転されることが必要である

最判昭25.8.9

☆盗品等の売買をあっせんすれば、斡旋自体が無償であっても、盗品等有償処分斡旋罪が成立する

最判昭26.1.30

☆盗品等の売買をあっせんすれば、盗品などが現実に移転されなくても、盗品等有償処分斡旋罪が成立する 

29-9 毀棄及び隠匿の罪

☆窃盗罪は客体に不動産を含まないが、器物損壊罪は客体に不動産を含む

第30章 公衆の安全に対する罪

※放火罪は、抽象的危険犯と具体的危険犯とに区別される。109条2項(自己所有の非現住建造物等放火罪)及び110条(建造物等以外放火罪)には、「公共の危険」が明文で要求されており、他の物件へ延焼する具体的危険の発生が要件とされる。これに対して、右の文言が明定されていない108条(現住建造物等放火罪)及び109条1項(他人所有の非現住建造物等放火罪)の罪は抽象的危険犯である。

※建造物等以外放火罪は、客体が他人所有物・自己所有物のいずれであっても、放火行為による客体の焼損によって公共の危険が発生したことを要する具体的危険犯である。他人所有物に放火したが公共の危険が発生しなかったときは、本罪は不成立だが、焼損の認識があれば器物損壊の故意が認められるので、器物損壊罪が成立する。

※放火罪の未遂・予備は、抽象的危険犯である108条(現住建造物等放火罪)及び109条1項(他人所有の非現住建造物等放火罪)にのみ成立する(ただし、108条又は109条1項の物件を客体とする抽象的危険犯である失火罪には成立しないので注意)

☆建造物等以外放火罪には、未遂処罰規定がない

※自己所有非現住建造物等放火罪(109条2項)に該当する行為については、未遂罪は成立しない

☆Aは、無人の倉庫に放火するためにこれに使用するガソリンとライターを持ってその倉庫に向かっていたところ、Aに不審を抱いた警察官から職務質問を受け、倉庫に放火するには至らなかった。その倉庫がA所有のものであった場合、Aに放火予備罪は成立しない

※延焼罪は、109条2項又は110条2項に規定された自己所有物放火罪を基本犯とする結果的加重犯である。109条2項又は110条2項の罪を犯して延焼させ、より重い結果を発生させたが、延焼の結果につき故意がない場合に成立する。

☆客を乗せて航行中の他人所有のフェリーに放火した場合は、現住建造物等放火罪が成立する。

※失火罪は過失犯である。116条1項は108条(現住建造物)、109条1項(他人所有の非現住建造物)の物件を客体とする抽象的危険犯であり、116条2項は、109条2項(自己所有の非現住建造物)、110条(建造物等以外)の物件を客体とする具体的危険犯である

☆失火により、自己所有の自動二輪車を焼損し、それによって公共の危険を生じさせた場合は、失火罪が成立する

☆Aは、Bが居住する家屋に隣接する無人の倉庫に灯油をまいて放火したところ、B居住の家屋にまで延焼したが、Aは、B居住の家屋に延焼することまで予想していなかった。その倉庫がB所有のものであった場合、Aには延焼罪(111条1項)は成立せず、他人所有非現住建造物等放火罪(109条1項)が成立する

114条

※火災の際に、消火用の物を隠匿し、若しくは損壊し、又はその他の方法により、消火を妨害した者は、1年以上10年以下の懲役に処する

☆Aは、A所有の倉庫に放火しようと考え、その倉庫の近くの消火栓から放水できないように同消火栓に工作をしたが、放火するには至らなかった。Aには消火妨害罪は成立しない

115条

※刑法109条1項及び110条1項に規定する物が自己の所有に係るものであっても、差押を受け、物件を負担し、賃貸し、又は保険に付したものである場合において、これを焼損したときは、他人の物を焼損した者の例による

☆Aは、無人の倉庫に灯油をまいて放火し、これを焼損したが、公共の危険は生じなかった。その倉庫が火災保険の付されたA所有のものであった場合でも、Aに非現住建造物等放火罪(109条1項)が成立する

最決平15.4.14(百選Ⅱ86)

※刑法110条1項にいう「公共の危険」は、刑法108条、109条所定の建造物等への延焼のおそれに限定されず、不特定又は多数の人の生命、身体又は当該建造物等以外の財産に対する危険も含まれる

☆甲は、日頃恨みを持っていたVの所有する自動車が停めてある駐車場に出向き、同車にガソリンをかけて火をつけ、同車を焼損させたところ、同駐車場に駐車されていた第三者が所有する自動車10台に延焼する危険が生じたものの、駐車場が住宅地から離れていたため、住宅その他の建物に延焼する危険は生じなかった。甲には建造物等以外放火既遂罪が成立する

最判昭25.12.14

※建具その他の家屋の従物を建造物たる家屋の一部を構成するものと認めるためには、当該物件が家屋の一部に立てつけられているだけでは足りず、更にこれを毀損しなければ取り外すことのできない状態にあることが必要である

☆甲は、周囲に他の住宅のない場所に空家を所有する乙から、同家屋に付された火災保険金を騙し取る計画を持ちかけられ、これに応じることとし、同家屋に立てかけてあった薪に灯油をかけて火をつけたところ、火は同家屋の取り外し可能な雨戸に燃え移ったが、たまたま降り出した激しい雨によって鎮火した。甲には他人所有非現住建造物等放火未遂罪が成立するにとどまる

平安神宮放火事件(最決平元7.14、百選Ⅱ84)

☆甲は、深夜、本殿・祭具庫・社務所・守衛詰所が木造の回廊で接続され、一部に火を放てば他の部分に延焼する可能性がある構造の神社の祭具庫壁付近にガソリンをまいてこれに火をつけた。その結果、無人の祭具庫は全焼したものの、Vらが現在する社務所・守衛詰所には、火は燃え移らなかった。甲には現住建造物等放火既遂罪が成立する

最決平元.7.7(百選Ⅱ83)

☆甲は、日頃恨みを持っていたVが居住するマンション内部に設置されたエレベーターのかご内に、ガソリンを染み込ませて点火した新聞紙を投げ入れて放火し、エレベーターのかごの内部を焼損させた。甲には現住建造物等放火既遂罪が成立する。

大判大6.4.13

※居住者全員を殺害した後、放火の意思を持ちその家屋に放火した場合、非現住建造物の放火とする

☆甲は、妻所有の一戸建て木造家屋に妻と2人で暮らしていたところ、ある日、同家屋内において、口論の末に激高して妻を殺害し、その直後に犯跡を隠すため、同家屋に火を着けて全焼させたが、周囲の住宅には燃え移らなかった。甲には非現住建造物等放火既遂罪が成立する

第31章 偽造の罪

31-1 通貨偽造の罪

※自己に資力があることを証明するために偽造紙幣を他人に示すことは「行使」に該当しない

※自己に資力があることを証明するために偽造株券を他人に示すことは「行使」に該当する

※偽造通貨交付罪にいう「交付」とは、偽造通貨をその情を知る者に対して引き渡すことをいい、偽造通貨を「行使の目的で」交付することを要する

※偽造有価証券交付罪にいう「交付」とは、偽造有価証券をその情を知るものに対して引き渡すことをいい、偽造有価証券を「行使の目的で」交付することを要する

※偽造公文書に関しては、交付罪は規定されていない

☆偽造通貨行使罪、偽造有価証券行使罪及び偽造公文書行使罪の各客体は、いずれも行使の目的で作成されたものである必要はない

大判明43.6.30

☆偽造通貨を行使して相手から金品をだまし取った場合、詐欺罪は偽造通貨行使罪に吸収される

☆甲は、乙から商品を購入する際、偽造通貨を真正な通貨のように装って乙に代金として交付した。甲には偽造通貨行使罪のみが成立する

大判大3.10.19 

☆偽造有価証券を行使して相手から金品をだまし取った場合、詐欺罪と偽造有価証券行使罪とは牽連犯となる

※偽造通貨を取得した後に、それが偽造されたことを知るに至った者が、これを行使した場合、収得後知情行使罪(152条)が成立する

※偽造有価証券を取得した後に、それが偽造されたことを知るに至った者が、これを行使した場合、偽造有価証券行使罪(163条1項)が成立する 

※偽造通貨行使罪にいう「偽造」とは、通貨の発行権者でない者が、普通の人が真正の通貨であると誤信するほど外観が類似したものを新たに作り出すことをいい、普通の人なら一見して簡単に真貨でないとわかる程度のものを作り出すことは、「偽造」にあたらない

最決昭33.1.16

☆甲は、当選金を得る目的で、外れた宝くじの番号を当選番号に改ざんした。甲には有印私文書偽造罪が成立する。 

最大判昭44.6.18

・偽造公文書行使罪は公文書の真正に対する公共の信用が具体的に侵害されることを防止しようとするものであるから、同罪にいう行使に当たるためには、文書を真正に成立したものとして他人に交付、提示等して、その閲覧に供し、その内容を認識させまたはこれを認識しうる状態に置くことを要する

※自動車を運転する際に偽造にかかる運転免許証を携帯しているにとどまる場合には、未だこれを他人の閲覧に供してその内容を認識し得る状態においたものというには足りず、偽造公文書行使罪にあたらない

31-2-2 支払用カード電磁的記録に関する罪

不正電磁的記録カード所持罪(刑法163条の3)は、「人の財産上の事務処理を誤らせる目的」で、不正に作出された電磁的記録を構成部分とする支払用又は引き出し用「カード」を「所持」した者に成立する。ここにいう「カード」については、外観は問われず、また、譲渡し、貸渡を受けたものだけでなく、盗取したものも含まれる。また、「所持」とは、保管についての事実上の実力的支配関係を有していることをいう

☆Aは、盗んだ財布の中に、不正に作られた電磁的記録をその構成部分とするクレジットカードが入っていることに気付き、同カードを使用するつもりはなかったが、機会があれば友人に見せようと考え、同カードを自己の財布にいれて持ち歩いていた。同カードを持っていたAの行為について、不正電磁的記録カード所持罪は成立しない 

31-3 文書偽造の罪

※虚偽診断書等作成罪の客体は、医師が公務所に提出すべき診断書、検案書又は死亡証書である。医師自らが提出すべき場合のほか、他の者によって提出される場合を含む。保険会社に提出すべきものは含まれない。

最決昭56.4.8(百選Ⅱ97)

・交通事件原票中の供述書は、その文書の性質上、作成名義人以外の者がこれを作成することは法令上許されないものであって、右供述書を他人の名義で作成した場合は、あらかじめその他人の承諾を得ていたとしても、私文書偽造罪が成立する

☆Xは、自動車運転免許の効力停止中に自動車を運転し、速度違反の取締りを受けた際、警察官に対し、あらかじめYから名義使用の承諾を受けていたことから、Yの氏名を名乗り、交通事件原票の供述者欄にY名義で署名押印した(有印私文書偽造罪) 

※名義人と作成者の不一致が偽造。代理・代表名義を冒用する場合(無権代理)、効果帰属主体である本人が名義人であり、代理名義を冒用する場合は偽造となる。ただ、文書の性質や用いられた状況によっては名義人を代理代表者と解する余地がある。例えば、友人に自慢するために会社社長という虚偽の肩書を用いる場合である。というのも、文書偽造罪は文書に対する公共の信用を保護するものである。よって、名義人の認定に当たっても公衆は何を信用するかという観点から考えるべきであるところ、文書に対する公共的信用は、文書の効果帰属主体である本人が実際に文書の内容通りの意思・観念を有しているという点に向けられるから、本人を名義人と考えるべきである。

☆Yの代理人でないXは、Yに無断で、行使の目的をもって、金銭消費貸借契約書用紙に「Y代理人X」と記載し、その横に「X」と刻した印鑑を押すなどして、Yを債務者とする金銭消費貸借契約書を作成した(有印私文書偽造罪)

最決昭35.1.12

・特定人に交付された自動車運転免許証に貼付してある写真をほしいままに剥ぎ取り、その特定人と異なる他人の写真を貼り替え……全く別個の新たな免許証としたるときは、公文書偽造罪が成立する

・特定人に交付された自動車運転免許証に貼付してある写真及びその人の生年月日の記載は、当該免許証の内容にして重要事項に属する

☆Xは、身分証明書として使おうと考え、A県公安委員会が発行したYの自動車運転免許証の写真をXの写真に貼り替えた(有印公文書偽造罪)

※文書に作成名義人の名称が記載されていれば有印となる。はんこの有無は問題ではない 

☆国民健康保険被保険者証の被保険者氏名欄を書き換えた行為については、公文書変造罪ではなく、公文書偽造罪が成立する

最判昭28.11.13

・架空人名義を用いたとしても被告人の行為は私文書偽造罪を構成する

最決昭42.3.30

・学校長A名義のBの卒業証書を、同人と共謀のうえ、真正に成立したものとして、その父Cに提示した行為を、偽造公文書行使罪に当たるもの

☆甲は、A公立高校を中途退学した乙から「父親に見せて安心させたい。それ以外には使わないからA高校の卒業証書を作ってくれ」と頼まれ、乙の父親に提示させる目的で、A公立高校校長丙名義の卒業証書を丙に無断で作成した。甲には公文書偽造罪が成立する

☆甲は、自己の所有する土地の登記記録を改竄しようと考え、法務局の担当登記官である乙にその情を打ち明けて記録の改竄を依頼し、乙に登記簿の磁気ディスクに内容虚偽の記録をしてもらった。甲には虚偽公文書作成罪の共同正犯が成立する

☆甲は、行使の目的で、高齢のため視力が衰え文字の判読が十分にできない乙に対し、公害反対の署名であると偽り、その旨誤信した乙に、甲を貸主、乙を借主とする100万円の借用証書の借主欄に署名押印させた。甲には私文書偽造罪が成立する

※虚偽診断書等作成罪の主体は医師に限られており、身分犯である。医師でない者が医師の名義を用いて本罪の客体である文書を作成しても虚偽診断書作成罪は成立しない

最決平15.10.6(百選Ⅱ100)

・本件文書の記載内容、性質等に照らすと、ジュネーブ条約に基づく国際運転免許証の発給権限を有する団体により作成されているということが、正に本件文書の社会的信用性を基礎づけるものといえるから、本件文書の名義人は、「ジュネーブ条約に基づく国際運転免許証の発給権限を有する団体である国際旅行連盟」であると解すべきである。そうすると、国際旅行連盟が同条約に基づきその締約国等から国際運転免許証の発給権限を与えられた事実はないのであるから、所論のように、国際旅行連盟が実在の団体であり、被告人に本件文書の作成を委託していたとの前提に立ったとしても、被告人が国際旅行連盟の名称を用いて本件文書を作成する行為は、文書の名義人と作成者との間の人格の同一性を偽るものであるといわねばならない。したがって、被告人に対し有印私文書偽造罪の成立を認めた原判決の判断は、正当である

☆甲は、行使の目的で、正規の国際運転免許証を発給する権限のない民間団体乙名義で、外観が正規の国際運転免許証に酷似する文書を作成した。甲は、乙からその文書の作成権限を与えられていたが、乙に正規の国際運転免許証を発給する権限がないことは知っていた。甲には私文書偽造罪が成立する

第32章 風俗秩序に対する罪

32-1 わいせつの罪

最決昭32.5.22

※公然とは、不特定又は多数人が認識できる状態をいう。不特定であれば少人数でもよく、多数であれば特定人の集まりであってもよい。また、現実にそれらの者がわいせつ行為を認識することを要せず、その可能性があれば足りる。

最判昭52.12.22

・販売の目的(有償で頒布する目的)とは日本国内において販売する目的をいうものであり、したがって、猥褻の図画等を日本国内で所持していても日本国外で販売する目的であったにすぎない場合にはわいせつ物有償頒布目的所持罪は成立しないと解するのが相当である

・刑法175条の規定は、わが国における健全な性風俗を維持するため、日本国内において猥褻の文書、図画などが頒布、販売され、又は公然と陳列されることを禁じようとする趣旨に出たものである

☆甲は、日本国外で販売する目的で、日本国内においてわいせつな映像が録画されたDVDを所持した。この場合、甲にはわいせつ物有償頒布目的所持罪は成立しない

大判大15.3.5

※頒布とは、不特定又は多数人に対して無償で交付することをいう

☆甲は、友人乙からの土産に対するお礼として、わいせつな映像が録画されたDVD1枚を乙にプレゼントした。この場合、甲にはわいせつ物頒布罪は成立しない。

最決昭33.9.5

※公然陳列とは、不特定又は多数人の観覧しうる状態に置くことをいう

☆甲は、不特定多数の通行人を勧誘して5名の客を集めた上、自宅であるマンションの一室において、外部との出入りを完全に遮断した状態で、わいせつな映像が録画されたDVDを再生し、その5名の客に有料で見せた。この場合、甲にはわいせつ物公然陳列罪が成立する。

大判明43.11.17

☆甲は、海水浴場において、不特定多数の者の門前で、乙女の衣服を全てはぎ取るなどして強いてわいせつな行為をした。この場合、甲には、強制わいせつ罪が成立するのみならず、公然わいせつ罪も成立する。  

☆準強制わいせつ罪(178条1項)の「心神喪失」とは、責任能力における心神喪失とは異なる

☆第三者の暴行・脅迫によって女子が「抗拒不能」の状態に陥っているのを利用して、同人を姦淫した場合、準強姦罪(178条2項)が成立する

☆2名以上の者が、女子を強姦する目的でそれぞれ暴行を加えて同人の犯行を著しく困難な状態にした上、犯行現場にいる者のうち1名が姦淫行為に及んだ場合、集団強姦罪(178条の2)が成立する

☆女子を強姦する目的で暴行を加えたところ、その暴行によって同人が死亡したため、姦淫するに至らなかった場合、強姦致死罪(181条2項)が成立する

最決平20.1.22(百選Ⅱ15)

・被告人のこのような暴行は、上記準強制わいせつ行為に随伴するものといえるから、これによって生じた上記被害者の傷害について強制わいせつ致傷罪が成立する

☆女子に対して準強制わいせつ罪に当たる行為をし、同人に騒がれて捕まりそうになり、猥褻な行為を行う意思を喪失してその場から逃走するため同人に暴行を加えて傷害を負わせた場合、強制わいせつ致傷罪(181条1項)が成立する

最大判昭32.3.13(百選Ⅰ45)

・刑法175条の罪における犯意の成立については問題となる記載の存在の認識とこれを頒布販売することの認識があれば足り、かかる記載のある文書が同条所定の猥褻性を具備するかどうかの認識まで必要としているものではない

・主観的には刑法175条の猥褻文書にあたらないものと信じてある文書を販売しても、それが客観的に猥褻性を有するならば、法律の錯誤として犯意を阻却しないものといわなければならない。猥褻性に関し完全な認識があったか、未必の認識があったのにとどまっていたか、または全く認識がなかったかは刑法38条3項ただし書の情状の問題にすぎず、犯意の成立には関係がない

☆甲は、自己が経営する店において、わいせつな映像を録画したDVDを販売したが、あらかじめ同DVDの映像を再生してその内容を認識していたものの、この程度ではわいせつ図画に当たらないと考えていた。この場合にも、甲にはわいせつ図画販売罪が成立する

第33章 国家法益に対する罪

☆窃盗事件に係る捜索差押許可状に基づく捜索を受けた際、自宅に隠し持っていた覚せい剤が警察官に発見されることを恐れ、これを密かにトイレに流す行為は証拠隠滅罪とならない。

☆甲は、窃盗事件で通常逮捕され、警察署において弁解録取の手続きを受けた際、警察官が甲の供述を記載した弁解録取書を手にとって破った(公用文書毀棄罪)

☆甲は、窃盗事件について犯人ではないと否認していたが、公判請求され、公判で被害者が被害状況を証言したことを逆恨みし、公判継続中、被害者に対して「自分が有罪になったら、自宅へ行って直接会ってお礼をさせてもらう」旨の手紙を送り、被害者はこれを読んで不安に思った(証人威迫罪) 

33-2 公務の執行を妨害する罪

最決昭34.8.27

・いやしくも公務員の職務の執行に当たりその執行を妨害するに足る暴行を加えるものである以上、それが直接公務員の身体に対するものであると否とは問うところでない

・被告人は、司法巡査が覚せい剤取締法違反の現行犯を逮捕する場合、逮捕の現場で証拠物として適法に差し押さえたうえ、整理のため同所に置いた覚せい剤注射液入りアンプル30本を足で踏みつけ内21本を損壊してその公務の執行を妨害したというのであるから、右被告人の所為は右司法巡査の職務の執行中その執行を妨害するに足る暴行を加えたものであり、そしてその暴行は間接に同司法巡査に対するものというべきである

☆警察官は、甲を立会人として本件窃盗事件に係る捜索差押許可状に基づき甲方を捜索中、テーブルに盗品であるツボが置かれているのを発見し、これを差し押さえようとして手を伸ばしたところ、甲は、腹立ちまぎれにそのツボを取り上げ、その場で床に叩きつけて粉々に割った(公務執行妨害罪)

☆甲は、警察官乙から捜索差押許可状に基づき自宅の捜索を受け、覚せい剤入りの注射器を差し押さえられた際、乙の眼前で同注射器を足で踏みつけて壊した。甲には公務執行妨害罪が成立する

最判昭33.9.30(百選Ⅱ120) 

・公務執行妨害罪は公務員が職務を執行するに当たりこれに対して暴行又は脅迫を加えたときは直ちに成立するものであって、その暴行又は脅迫はこれにより現実に職務執行妨害の結果が発生したことを必要とするものではなく、妨害となるべきものであれば足りうるものである

・投石行為はそれが相手に命中した場合はもちろん、命中しなかった場合においても……暴行であることはいうまでもなく、しかもそれは相手の行動の自由を阻害すべき性質のものであることは経験則上疑いを容れないものというべきである。されば本件被告人等の各投石行為はその相手方である前記各巡査の職務執行の妨害となるべき性質のものであり、従って公務執行妨害罪の構成要件たる暴行に該当すること明らかである

☆甲は、無許可のデモ行進に参加していた際、これを解散させようとした警察官乙に向かって石を1回投げ、その石は乙の頭部付近をかすめたが、乙には命中しなかった 。甲には公務執行妨害罪が成立する

最決平元.3.10(百選Ⅱ119)

☆甲は、県議会の議事が紛糾し、議長乙が休憩を宣言して壇上から降りようとした際、乙の顔面をげんこつで殴った。甲には、公務執行妨害罪が成立する

最判昭27.12.25

・米国領事館職員のごときは、刑法7条……にいわゆる公務員とはいえない

※刑法95条の「公務員」には外国の公務員は含まれない

☆甲は、日本国内にある外国の大使館の職員乙がその大使館の業務に従事していた際、乙の腹部を足で蹴った。甲には、公務執行妨害罪が成立しない

最判昭41.3.24(百選Ⅱ123)

・公務執行妨害罪の成立には、公務員が職務の執行をなすに当たり、その職務の執行を妨害するに足りる暴行脅迫がなされることを要するけれども、その暴行脅迫は、必ずしも直接に当該公務員の身体に対して加えられる場合にかぎらず、当該公務員の指揮に従いその手足となりその職務の執行に密接不可分の関係において関与する補助者に対してなされた場合もこれに該当する

☆甲は、執行官から確定判決に基づき居室明渡しの強制執行を受けていた際、執行官の補助者であった民間人乙の頭部を棒で殴った。甲には公務執行妨害罪が成立する

☆甲は、警察官乙から職務質問を受けた際、乙に対して暴行を加えて傷害を負わせた。甲に乙に対する公務執行妨害罪が成立する場合、同罪と傷害罪は観念的競合となる。

最判昭45.12.22

・「職務を執行するに当たり」とは、具体的個別的に特定された職務の執行を開始してからこれを終了するまでの時間的範囲及びまさに当該職務の執行と時間的に接着しこれと切り離し得ない一体的関係にあるとみることができる範囲内の職務行為にかぎる

☆甲は、飲食店Aで無銭飲食した後、A店店員の通報を受けて同店に臨場した制服の警察官乙の姿を認めるや、乙から事情聴取を受ける前に、その場から逃走する目的で乙を1回殴り、乙がひるんだ隙に同店から逃げた。甲には公務執行妨害罪が成立する

最判昭37.1.23

・刑法95条1項にいう「暴行」とは、公務員の身体に対し直接であると間接であるとを問わず不法な攻撃を加えることである 

☆甲は、窃盗を行って制服の警察官乙に追跡されている途中で、乙に暴行を加えて傷害を負わせた。甲に乙に対する事後強盗致傷罪が成立する場合、公務執行妨害罪と観念的競合となる。

最決昭62.3.12

※強制力を行使する権力的公務である場合を除き公務は「業務」にあたる

※警察官の公務など物理的強制力を伴う公務に限って業務に含まれない

☆警察官がひったくり事件の被疑者を追跡している際、警察官にうそを言って被疑者の逃走を助けたとしても、偽計業務妨害罪は成立しない

裁決平14.9.30

※本件撤去作業は強制力を行使する権力的公務にはあたらず、また、業務妨害罪としての要保護性を失わせるような法的瑕疵があったとは認められない

☆強制力を行使する権力的公務以外の公務に法的瑕疵がある場合、威力業務妨害罪の客体から除外されることがある

最判昭32.2.21

☆威力業務妨害罪における威力を「用いて」といえるためには、威力が直接現に業務に従事している他人に対してなされることは要しない

最判昭28.1.30

☆業務妨害罪における「妨害」とは、現に業務妨害の結果が発生したことを必要とせず、業務を妨害するに足りる行為があることをもって足りる 

33-3 逃走罪

☆甲は、窃盗事件について発付された勾留場の執行により留置施設に留置されていたが、留置担当者の隙を見て同施設から外へ逃走した(単純逃走罪)

☆確定判決によって刑務所に収容されていた甲は、同房に服役中の乙と逃走する旨の相談をしていたところ、ある日、房の扉が施錠されていないことに気付き、房から出て刑務所を逃走したが、乙は思いとどまり、房の外に出なかった。甲には加重逃走罪の既遂犯は成立しない

☆勾留状によって拘置所に勾留されていた甲は、隣の房に勾留されていた乙に依頼して乙の同房者丙を殴ってもらい、拘置所職員が乙の公道を静止している隙に拘置所から逃走した。甲には加重逃走罪の既遂犯は成立しない

☆甲は、拘留状によって拘置所に勾留されていた乙を闘争させるため、乙の房の合鍵を乙に差し入れたが、乙は拘置所から逃走しなかった。甲には逃走援助罪の既遂犯が成立する

33-4 犯人蔵匿及び証拠隠滅罪

最判昭28.10.2

※真に罰金以上の刑に当たる罪を犯した者であることを知りながら、官憲の発見、逮捕を免れるように匿った場合には、その犯罪が既に捜査官憲に発覚して捜査が始まっているかどうかに関係なく、犯人蔵匿罪が成立する

最決昭29.9.30

※犯罪が何であるかを知っていれば、法定刑が罰金以上であることまでを認識する必要はない

☆甲は、乙が強制執行妨害目的財産損壊罪を犯したことを認識した上で乙をかくまったが、同罪の刑が罰金以上であることを知らなかった。甲には犯人蔵匿罪が成立する

最決平元.5.1

※刑法103条は、捜査、審判及び刑の執行等広義における刑事司法の作用を妨害する者を処罰しようとする趣旨の規定であって、同条にいう「罪を犯した者」には、犯人として逮捕勾留されている者も含まれ、かかる者をして現になされている身柄拘束を免れさせるような性質の行為も同条にいう「隠避」に当たる

☆甲は、殺人罪を犯して逮捕勾留された乙に依頼され、乙の身代わり犯人として警察署に出頭し、自己が犯人であるという嘘の申告をした。甲には犯人隠避罪が成立する

最決昭60.7.3 

犯人が他人を教唆して自己を蔵匿・隠避させた場合に、同罪の教唆犯が成立する

☆甲は、強盗罪を犯した後、友人乙に事情を話して唆し、自己を隠避させた。甲には犯人隠避罪の教唆犯が成立する

東京高判昭37.4.18

※犯人を蔵匿した後、犯人が不起訴処分を受けた場合でも、犯人蔵匿罪の成立に影響はない 

大判昭8.10.18

☆犯人蔵匿等罪及び証拠隠滅等罪について、犯人の親族が犯人の利益のために第三者におけるこれらの罪を犯すように教唆したときは、刑の免除は不可能である

最決昭40.9.16

☆甲は、自己が犯した強制わいせつ被疑事件に関する証拠の隠滅をAに教唆して実行させた。甲には証拠隠滅罪の教唆犯が成立する

33-6 虚偽告訴の罪

最決昭33.7.31

☆偽証罪における「虚偽の陳述」とは、証人の記憶に反する陳述のことをいい、陳述の内容をなす事実が客観的真実に合致した場合にも虚偽性は否定されないが、これに対し、虚偽告訴等罪における「虚偽の申告」とは、客観的事実に反する事実を申告することをいう