- 第1章 行政法の基本構造
- 第2章 法律による行政の原理
- 第3章 行政法の一般原則
- 第4章 行政上の法律関係
- 第5章 行政組織法
- 第6章 行政基準
- 第7章 行政行為
- 第8章 行政裁量
- 第9章 行政契約
- 第10章 行政指導
- 第11章 行政計画
- 第12章 行政調査
- 第13章 行政上の義務履行確保
- 第14章 行政罰
- 第15章 行政手続
- 第16章 情報公開・個人情報制度
- 第17章 行政上の救済手続
- 第18章 行政事件訴訟法概観
- 第19章 取消訴訟(その1)―訴訟要件
- 第20章 取消訴訟(その2)―審理・判決・執行停止・教示
- 第21章 取消訴訟以外の抗告訴訟
- 第22章 当事者訴訟・争点訴訟
- 第23章 国家賠償
- 第24章 損失補償
第1章 行政法の基本構造
第1節 行政法の意義
第2節 行政の観念
第3節 公法概念
第4節 憲法と行政法の関係
第5節 民事法と行政法の関係
第2章 法律による行政の原理
第1節 意義
※法律の優位の原則とは、法律が存在する場合には、行政活動はこれに反してはならず、法律違反の行政活動は無効となるという原則である。そして、条例の制定は、行政活動ではなく地方公共団体の立法活動(憲法92条、94条)であるから、法律の優位の原則の適用はない。ただし、法律に抵触する条例は、憲法94条に反して、無効となる
☆行政行為が名宛人にとって利益なものであったとき、当該行政行為を行った行政庁自身が後にこれが当初から違法であったと認識した場合、取消しを認める旨の明文の規定がなくても、職権をもって当該行政行為を取り消すことができる
第2節 法律の概念
第3節 法律の留保
自動車の一斉検問(最決昭55.9.22、百選Ⅰ113)
・警察法2条1項が「交通の取締」を警察の責務として定めていることに照らすと、交通の安全及び交通秩序の維持などに必要な警察の諸活動は、強制力を伴わない任意手段による限り、一般的に許容されるべきものであるが、それが国民の権利、自由の干渉にわたるおそれのある事項にかかわる場合には、任意手段によるからといって無制限に許されるべきものでないことも同条2項及び警察官職務執行法1条などの趣旨に鑑み明らかである。しかしながら、自動車の運転者は、公道において自動車を利用することを許されていることに伴う当然の負担として、合理的に必要な限度で行われる交通の取締に協力すべきものであること、その他現時における交通違反、交通事故の状況などをも考慮すると、警察官が、交通取締の一環として交通違反の多発する地域等の適当な場所において、交通違反の予防、検挙のための自動車検問を実施し、同所を通過する自動車に対して走行の外観上不審な点の有無にかかわりなく短時分の停止を求めて、運転者などに対し必要な事項についての質問などをすることは、それが相手方の任意の協力を求める形で行われ、自動車の利用者の自由を不当に制約することにならない方法、態様で行われる限り、適法なものと解すべきである
☆警察法2条1項が「交通の取締」を警察の責務として定めていることなどに照らせば、警察官が、交通取締りの一環として交通違反の多発する地域等の適当な場所において、交通違反の予防、検挙のための自動車検問を実施し、同所を通過する自動車に対して走行の外観上の不審な点の有無に関わりなく短時間の停止を求めて、運転者などに対し必要な事項についての質問などをすることは、それが相手方の任意の協力を求める形で行われ、自動車の利用者の自由を不当に制約することにならない態様で行われる限り、適法である
第4節 行政作用の諸形式
第3章 行政法の一般原則
第1節 法律による行政の原理以外の一般原則
第2節 適正手続の原則
第3節 説明責任の原則
第4節 その他の一般原則
第4章 行政上の法律関係
第1節 行政上の法律関係における適用法
第2節 民事法上の一般原則の適用
最判昭31.4.24
・滞納処分による差押の関係においても民法177条の適用がある
・国税滞納処分においては、国は、その有する租税債権につき、自ら執行機関として、強制執行の方法により、その満足を得ようとするものであって、滞納者の財産を差し押さえた国の地位は、あたかも民事訴訟法上の強制執行における差押債権者の地位に類するものであり、租税債権がたまたま公法上のものであることは、この関係において、国が一般私法上の債権者より不利益の取扱いを受ける理由となるものではない
国に対する損害賠償請求と消滅時効(最判昭50.2.25、百選Ⅰ37)
・国に対する右損害賠償請求権の消滅時効期間は、会計法30条所定の5年と解すべきではなく、民法167条1項により10年と解すべきである
・会計法30条が金銭の給付を目的とする国の権利及び国に対する権利につき5年の消滅時効期間を定めたのは、国の権利義務を早期に決済する必要があるなど主として行政上の便宜を考慮したことに基づくものであるから、同条の5年の消滅時効期間の定は、右のような行政上の便宜を考慮する必要がある金銭債権であって他に時効期間につき特別な規定のないものについて適用されるものと解すべきである
・国が、公務員に対する安全配慮義務を懈怠し違法に公務員の生命、健康等を侵害して損害を受けた公務員に対し損害賠償の義務を負う事態は、その発生が偶発的であって多発するものとはいえないから、右義務につき前記のような行政上の便宜を考慮する必要はなく、また、国が義務者であっても、被害者に損害を賠償すべき関係は、公平の理念に基づき被害者に生じた損害の公正な填補を目的とする点において、私人相互間における損害賠償の関係とその目的性質を異にするものではない
☆国が、勤務中の事故により損害を被った公務員に対して、安全配慮義務違背による損害賠償の義務を負う関係には、会計法30条は適用されず、当該関係における消滅時効期間については、民法の規定が適用される
第3節 行政法規違反の法律行為の効力
第4節 公物に関する法律関係
第5節 行政上の権利
第5章 行政組織法
第1節 行政上の法主体
第2節 行政機関
☆権限の委任は法律上定められた処分権限の帰属を変更することから、法律の根拠を必要とするのに対し、専決は、補助機関が処分権限のある行政庁の名義でこれを行使するものであり、処分権限の移譲を伴わないことから、法律の根拠を必要としない
地方自治法245条の3第1項
※国は、普通地方公共団体が、その事務の処理に関し、普通地方公共団体に対する国又は都道府県の関与を受け、又は要することとする場合には、その目的を達成するために必要な最小限度のものとするとともに、普通地方公共団体の自主性及び自律性に配慮しなければならない
地方自治法245条の2
※普通地方公共団体は、その事務の処理に関し、法律又はこれに基づく政令によらなければ、普通地方公共団体に対する国又は都道府県の関与を受け、又は要することとされることはない
第3節 国の行政組織
内閣法3条2項
※例外的に、行政機関の長でない国務大臣(無任所大臣)も認められている
☆内閣総理大臣は、主任の大臣として行政事務を分担管理する国務大臣を任命することとされているが、行政事務を分担管理しない大臣を置くこともできる
最大判平7.2.22(百選Ⅰ23)
☆最高裁判所の判例によれば、内閣総理大臣は、閣議にかけて決定した方針が存在しない場合においても、内閣の明示の意思に反しない限り、行政各部に対し、随時、その所掌事務について一定の方向で処理するよう指導、助言等の指示を与える権限を有すると解されている
☆最高裁判所の判例によれば、内閣総理大臣は、閣議にかけて決定した方針が存在しない場合においても、内閣の明示の意思に反しない限り、行政各部に対し、随時、その所掌事務について一定の方向で処理するよう指導、助言等の指示を与える権限を有すると介されている
☆内閣を補助する組織として内閣に置かれる内閣補助部局は、内閣官房及び内閣府に限られていない
※内閣には、内閣官房、内閣府、内閣法制局、国家安全保障会議、人事院、復興庁が置かれる。
☆内閣総理大臣は、自ら各省大臣の職に就くこともできる。
第4節 地方の統治体制
第5節 条例
第6章 行政基準
第1節 総論
行政手続法39条1項
※命令等制定機関は、命令等を定めようとする場合には、当該命令等の案及びこれに関連する資料をあらかじめ公示し、意見の提出先及び意見の提出のための期間を定めて広く一般の意見を求めなければならない。
※「命令等」とは、内閣又は行政機関が定める①法律に基づく命令、②審査基準、③処分基準、④行政指導指針のことを指す(行政手続法2条8号)。
☆行政庁は、審査基準及び処分基準を定めるに当たり、行政手続法に基づく意見公募手続を経なければならない
※事案の特質に照らして合理的な理由があれば、あらかじめ定められた裁量基準と異なる個別的判断も許容される
※処分基準が法に適合しないものであれば、裁判所はそれを無視して当該行政処分の適法性を判断できるのが原則である
第2節 法規命令
4 委任された命令側の問題
医薬品ネット販売事件判決(最判平25.1.11)
・新施行規則の……規定にかかわらず第一類医薬品及び第二類医薬品に係る郵便等販売をすることができる権利ないし地位を有することの確認を求める被告人らの請求を認容した原審の判断は、結論において是認することができる。
・新施行規則の各規定は、いずれも上記各医薬品に係る郵便等販売を一律に禁止することとなる限度において、新薬事法の趣旨に適合するものではなく、新薬事法の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効というべきである
・委任の範囲を逸脱したものではないというためには、立法過程における議論をも斟酌した上で、新薬事法36条の5及び36条の6を始めとする新薬事法中の諸規定を見て、そこから、郵便等販売を規制する内容の省令の制定を委任する授権の趣旨が、上記規制の範囲や程度等に応じて明確に読み取れることを要するものというべきである。……新薬事法36条の5及び36条の6は、いずれもその文理上は郵便等販売の規制並びに店舗における販売、授与及び情報提供を対面で行うことを義務付けていないことはもとより、その必要性等について明示的に触れているわけでもなく、……また、新薬事法の他の規定中にも、店舗販売業者による一般用医薬品の販売又は授与やその際の情報提供の応報を原則として店舗における対面によるものに限るべきであるとか、郵便等販売を規制すべきであるとの趣旨を明確に示すものは存在しない。……そもそも国会が新薬事法を可決するに際して第一類医薬品及び第二類医薬品に係る郵便物等販売を禁止すべきであるとの意思を有していたとはいい難い。そうすると、新薬事法の授権の趣旨が、第一類医薬品及び第二類医薬品に係る郵便等販売を一律に禁止する旨の省令の制定までをも委任するものとして、上記規制の範囲や程度等に応じて明確であると解するのは困難である
・憲法22条1項による保障は、狭義における職業選択の自由のみならず職業活動の自由の保障をも包含しているものと解されるところ……、旧薬事法の下では違法とされていなかった郵便等販売に対する新たな規制は、郵便等販売をその事業の柱としてきた者の職業活動の自由を相当程度制約する
☆本判決は、当事者訴訟(行政事件訴訟法4条後段)として、原告が第一類医薬品及び第二類医薬品につき郵便等販売をすることができる権利(地位)を有することの確認を求める訴えを適法に提起することができることを前提としたものである。
☆本判決は、薬事法の規定の趣旨を考慮する際に、薬事法の立法過程で一般用医薬品を店舗において対面で販売する必要性が強調されていたなどの立法過程における議論を考慮したものである
☆本判決は、憲法第22条第1項に違反すると判示したものではない
第3節 行政規則
☆法律に定められた租税を行政機関が減免する措置をとるためには、法律の根拠が必要である
※補助金の交付や融資は典型的な給付行政であり、法律の留保が及ばないので(侵害留保説)、法律や条例に基づくことは必ずしも要求されない。
行政手続法5条1項
※行政庁は、審査基準を定めるものとする
行政手続法12条1項
※行政庁は、処分基準を定めるよう努めなければならない
※行政裁量については、判例上も法の趣旨を具体化した審査基準を設定すべきものとされてきた。行政手続法は、「申請に対する処分」と「不利益処分」を分け、前者については審査基準の設定・公開義務、後者については処分基準の設定・公開努力義務を定めている。
☆行政庁が、申請に対しどのような処分をするかについて法令の規定に従って判断するための基準を定めるのに、法律の委任は必要ない
墓地・埋葬等に関する通達(最判昭43.12.24、百選Ⅰ57)
・通達は、元来、法規の性質をもつものではないから、行政機関が通達の趣旨に反する処分をした場合においても、そのことを理由として、その処分の効力が左右されるものではない
※法令のレベルですでに基準が具体化されているものについてまで、審査基準を設定し、公表する必要は認められない
パチンコ球遊機に関する通達(最判昭33.3.28、百選Ⅰ56)
・本件の課税がたまたま所論通達を機縁として行われたものであっても、通達の内容が法の正しい解釈に合致するものである以上、本件課税処分は法の根拠に基づく処分と解するに妨げがない
第7章 行政行為
第1節 行政行為論
第2節 行政行為の意義・種類
☆建築確認を受けて建築された建築物について、特定行政庁は、建築確認が取り消され又は無効である場合でなくても、建築物が建築基準法令の規定に違反することを理由に、違反是正命令を行うことができる
第3節 行政行為の効力
不可変更力(最判昭29.1.21、百選Ⅰ73)
・本件裁決のごときは、行政機関である上告人が実質的には裁判を行っているのであるが、行政機関がするのであるから行政処分に属するわけである。かかる性質を有する裁決は、他の一般行政処分とは異なり、特別の規定がない限り、原判決のいうように裁決庁自らにおいて取り消すことはできないと解するを相当とする
☆行政庁は、自らのした行政処分が当初から違法であったことを後日認識したときでも、争訟を裁断する行政処分を自ら取り消すことはできない
6 違法性の承継
違法性の承継(最判平21.12.17、百選Ⅰ87)
・建築確認における接道要件充足の有無の判断と、安全認定における安全上の支障の有無の判断は、異なる機関がそれぞれの権限に基づき行うこととされているが、もともとは一体的に行われていたものであり、避難又は通行の安全の確保という同一の目的を達成するために行われるものである。そして……安全認定は、建築主に対し建築確認申請手続における一定の地位を与えるものであり、建築確認と結合して初めてその効果を発揮する
・安全認定があっても、これを申請者以外の者に通知することは予定されておらず、建築確認があるまでは工事が行われることもないから、周辺住民等これを争おうとする者がその存在を速やかに知ることができるとは限らない……そうすると、安全認定について、その適否を争うための手続的保障がこれを争おうとする者に十分に与えられているというのは困難である。
・仮に周辺住民等が安全認定の存在を知ったとしても、その者において、安全認定によって直ちに不利益を受けることはなく、建築確認があった段階で初めて不利益が現実化すると考えて、その段階までは争訟の提起という手段は執らないという判断をすることがあながち不合理であるともいえない
・以上の事情を考慮すると、安全認定が行われた上で建築確認がされている場合、安全認定が取り消されていなくても、建築確認の取消訴訟において、安全認定が違法であるために本件条例4条1項所定の接道義務の違反があると主張することは許される
・東京都建築安全条例4条3項に基づく安全認定は、同条1項所定の接道要件を満たしていない建築物の計画について、同項を適用しないこととし、建築主に対し、建築確認申請手続において同項所定の接道義務の違反がないものとして扱われるという地位を与えるものである
☆この判決は、安全認定に処分性が認められることを前提としている
※この判決では、安全認定の取消訴訟につき周辺住民の原告適格が肯定されるかについては触れていない
☆この判決は、建築確認における接道要件充足の有無の判断と、安全認定における安全上の支障の有無の判断は、避難又は通行の安全の確保という同一の目的を達成するために行われるものであることを考慮して、建築確認の取消訴訟において安全認定の違法を主張することができるとしたものである
☆この判決は、安全認定の適否を争うための手続的保障がこれを争おうとする者に十分に与えられているというのは困難であることを考慮して、建築確認の取消訴訟において安全認定の違法を主張することができるとしたものである
行政事件訴訟法23条1項
※裁判所は、処分又は裁決をした行政庁以外の行政庁を訴訟に参加させることが必要であると認めるときは、当事者若しくはその行政庁の申立てにより又は職権で、決定をもって、その行政庁を訴訟に参加させることができる
第4節 瑕疵論
☆起業者は、事業認定を申請し収容することが可能な土地についても、土地所有者と売買契約を締結して取得することができる
※収容裁決に係る事業認定が国土交通大臣により行われた場合にも違法性の承継を認めることができ、収容裁決の取消訴訟において事業認定の違法性の主張を認めることができる
☆収容裁決の取消訴訟において原告は都道府県知事による事業認定の違法性を主張できるという考え方をとったとしても、都道府県知事による事業認定の処分性を認めることができる
損失の補償に関する訴え(最判平9.1.28、百選Ⅱ216)
・土地収用法による補償金の額は、「相当な価格」等の不確定概念をもって定められているものではあるが、……通常人の経験則及び社会通念に従って、客観的に認定され得るものであり、かつ、認定すべきものであって、補償の範囲及びその額……の決定につき収用委員会に裁量権が認められるものと解することはできない
・被収用者は、正当な補償額と裁決に定められていた補償額との差額のみならず、右差額に対する権利取得の時期からその支払済みに至るまで民法所定の年5分の法定利率に相当する金員を請求することができる
・土地収用法133条所定の損失補償に関する訴訟は、裁決のうち損失補償に関する部分又は補償裁決に対する不服を実質的な内容とし、その適否を争うものであるが、究極的には、起業者と被収用者との間において、裁決時における同法所定の正当な補償額を確定し、これをめぐる紛争を終局的に解決し、正当な補償の実現を図ることを目的とするものということができる。右訴訟において、権利取得裁決において定められた補償額が裁決の当時を基準としてみても過少であったと判断される場合には、判決によって、裁決に定める権利取得の時期までに支払われるべきであった正当な補償額が確定されるものである。しかも、被収用者である土地所有者等は右の時期において収用土地に関する権利を失い、収用土地の利用ができなくなる反面、起業者は右の時期に権利を取得してこれを利用することができるようになっているのである
☆最高裁判所の判例によれば、収容委員会が収容裁決において行う損失補償の範囲及び額の決定について、収用委員会に裁量権は認められない
第5節 取消しと撤回
第6節 附款
第8章 行政裁量
第1節 行政裁量の概念
第2節 行政裁量の構造
学生に対する措置と裁量審査(最判平8.3.8、百選Ⅰ84)
・高等専門学校の校長が学生に対し原級留置処分又は退学処分を行うかどうかの判断は、校長の合理的な教育的裁量にゆだねられるべきものであり、裁判所がその処分の適否を審査するに当たっては、校長と同一の立場に立って当該処分をすべきであったかどうかについて判断し、その結果と当該処分とを比較してその適否、軽重等を論ずべきものではなく、校長の裁量権の行使としての処分が、全く事実の基礎を欠くか又は社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を超え又は裁量権を濫用してされたと認められる場合に限り、違法であると判断すべきものである
公務員懲戒処分と裁量審査(最判昭52.12.20、百選Ⅰ83)
・公務員につき、国公法に定められた懲戒事由がある場合に、懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分を行う時にいかなる処分を選ぶかは、懲戒権者の裁量に任されているものと解すべきである
☆国家公務員に対する懲戒処分について規定する国家公務員法82条1項は、懲戒権者に効果裁量を認める趣旨の規定である
都市計画と裁量審査(最判平18.11.2、百選Ⅰ79)
・都市施設の規模、配置等に関する事項を定めるに当たっては、当該都市施設に関する諸般の事情を総合的に考慮した上で、政策的、技術的な見地から判断することが不可欠であるといわざるを得ない。そうすると、このような判断は、これを決定する行政庁の広範な裁量に委ねられている
・裁判所が都市施設に関する都市計画の決定又は変更の内容の適否を審査するに当たっては、当該決定又は変更が裁量権の行使としてされたことを前提として、その基礎とされた重要な事実に誤認があること等により重要な事実の基礎を欠くこととなる場合、又は、事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと、判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等によりその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限り、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となるとすべきものと解するのが相当である
第3節 裁量審査の基準
2 裁量審査の基準
最判平24.1.16
・懲戒において戒告を超えて減給の処分を選択することが許容されるのは、……学校の規律や秩序の保持等の必要性と処分による不利益の内容との権衡の観点から当該処分を選択することの相当性を基礎づける具体的な事情が認められる場合であることを要する
☆不利益処分を行う行政庁に裁量権が認められる場合でも、処分の必要性と処分による不利益の内容との権衡の観点から当該処分を選択することの相当生を基礎づける具体的な事情が認められることを要するとされることがある。
理由の提示(最判平23.6.7、百選Ⅰ128)
・建築士法10条1項2号及び3号の定める処分要件はいずれも抽象的である上、これらに該当する場合に同項所定の戒告、1年以内の業務停止又は免許取消しのいずれの処分を選択するかも処分行政庁の裁量に委ねられている
・本件処分基準は、意見公募の手続を経るなど適正を担保すべき厚い手続を経た上で定められて公にされており、しかも、その内容は、……多様な事例に対応すべくかなり複雑なものとなっている。そうすると、建築士に対する……懲戒処分に際して同時に示されるべき理由としては、処分の原因となる事実及び処分の根拠法条に加えて、本件処分基準の適用関係が示されなければ、処分の名宛人において、上記事実及び根拠法条の提示によって処分要件の該当性に係る理由は知り得るとしても、いかなる理由に基づいてどのような処分基準の適用によって当該処分が選択されたのかを知ることは困難であるのが通例であると考えられる。
・これを本件について見ると、本件免許取消処分は上告人X1の一級建築士としての資格を直接に剥奪する重大な不利益処分であるところ、その処分の理由として、上告人X1が、札幌市内の複数の土地を敷地とする建築物の設計者として、建築基準法令に定める設計基準に適合しない設計を行い、それにより耐震性等の不足する構造上危険な建築物を現出させ、又は構造計算書に偽装が見られる不適切な設計を行ったという処分の原因となる事実と、建築士法10条1項2号及び3号という処分の根拠法条とが示されているのみで、本件処分基準の適用関係が全く示されておらず、その複雑な基準の下では、上告人X1において、上記事実及び根拠法条の提示によって処分要件の該当生に係る理由は相応に知り得るとしても、いかなる理由に基づいてどのような処分基準の適用によって免許取消処分が選択されたのかを知ることはできないものといわざるを得ない。このような本件の事情の下においては、行政手続法14条1項本文の趣旨に照らし、同項本文の要求する理由提示としては十分でないといわなければならず、本件免許取消処分は、同項本文の定める理由提示の要件を欠いた違法な処分であるというべきであって、取消しを免れないものというべきである。
☆処分を行う行政庁に裁量権が認められる場合でも、処分の理由の提示に不備があったときは、当該処分の取消事由となることがある
☆処分基準(行政手続法第12条)が定められ、公にされていても、不利益処分の理由の提示として、処分基準の適用関係まで摘示する必要がない場合がある
裁量と不確定概念(最判平11.7.19、百選Ⅰ76)
※裁量基準に従う行政処分がなされたケースであっても、行政側には個別に審査判断する義務がある
☆申請に対する裁量処分を行うかどうかを判断するための審査基準となる通達があるときも、行政庁は、事案の性質に応じて当該通達の定めと異なる内容の処分をすることが許される
最判平24.2.8
・保護基準中の老齢加算に係る部分を改定するに際し、最低限度の生活を維持する上で老齢であることに起因する特別な需要が存在するといえるか否か及び高齢者に係る改定後の生活扶助基準の内容が健康で文化的な生活水準を維持することができるものであるか否かを判断するに当たっては、厚生労働大臣に上記のような専門技術的かつ政策的な見地からの裁量権が認められる
・老齢加算の廃止を内容とする保護基準の改定は……厚生労働大臣の判断に、最低限度の生活の具体化に係る判断の過程及び手続における過誤、欠落の有無等の観点からみて裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があると認められる場合に、生活保護法3条、8条2項の規定に違反し、違法となるものというべきである
☆裁判所は、厚生労働大臣による最低限度の生活の具体化に係る判断の過程及び手続における過誤、欠落の有無等の観点からみて裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があると認められることを理由に、当該保護の基準の改定を違法とすることができる
最判昭30.6.24
・行政庁は、何等いわれがなく特定の個人を差別的に取扱いこれに不利益を及ぼす自由を有するものではなく、この意味においては、行政庁の裁量権には一定の限界があるものとすべきである。
☆処分を行う行政庁に裁量権が認められる場合でも、当該行政庁は、理由なく特定の個人を差別的に取り扱い不利益を及ぼす自由を有するものではなく、この意味において、行政庁の裁量権には一定の限界がある
宅建業者の監督と国家賠償責任(最判平元.11.24、百選Ⅱ229)
・その要件の認定に裁量の余地があるのであって、これらの処分の選択、その権限行使の時期等は、知事等の専門的判断に基づく合理的裁量に委ねられている。したがって、当該業者の不正な行為により個々の取引関係者が損害を被った場合であっても、具体的事情の下において、知事等に監督処分権限が附与された趣旨・目的に照らし、その不行使が著しく不合理と認められるときでない限り、右権限の不行使は、当該取引関係者に対する関係で国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではないといわなければならない
☆処分の根拠法令が、処分要件該当性の判断について行政庁に要件裁量を認めている場合でも、事実認定について行政庁に裁量が広く認められるわけではない
マクリーン事件(最大判昭53.10.4、百選Ⅰ80)
・裁判所は、法務大臣の右判断についてそれが違法となるかどうかを審理、判断するにあたっては、右判断が法務大臣の裁量権の行使としてされたものであることを前提として、その判断の基礎とされた重要な事実に誤認があること等により右判断が全く事実の基礎を欠くかどうか、又は事実に対する評価が明白に合理性を欠くこと等により右判断が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかであるかどうかについて審理し、それが認められる場合に限り、右判断が裁量権の範囲をこえ又はその濫用があったものとして違法であるとすることができる
※この判決は、外国人の在留許可の更新の要件についての法務大臣の裁量を認めたものである
呉市学校施設使用不許可事件(最判平18.2.7、百選Ⅰ77)
☆学校施設の目的外使用許可に関する最高裁判所の判決は、学校施設の目的外使用許可の判断が管理者の裁量に委ねられることを前提として、裁量処分をする際の考慮事項に着目した司法審査の在り方を示したものといえる
神戸税関事件(最判昭52.12.20、百選Ⅰ83)
・懲戒権者が……裁量権の行使としてした懲戒処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものとして、違法とならない
・裁判所が……処分の適否を審査するにあたっては、懲戒権者と同一の立場に立って懲戒処分をすべきであったかどうか又はいかなる処分を選択すべきであったかについて判断し、その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく、懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を行使したと認められる場合に限り違法であると判断すべきものである
第9章 行政契約
第1節 法律による行政の原理との関係
第2節 行政契約の意義および例
最判昭62.5.19
・随意契約の制限に関する法令に違反して締結された……違法な契約であっても私法上当然に無効になるものではなく、随意契約によることができる場合として前記令の規定の掲げる事由のいずれにも当たらないことが何人の目にも明らかである場合や契約の相手方において随意契約の方法による当該契約の締結が許されないことを知り又は知り得べかりし場合のように当該契約の効力を無効としなければ随意契約の締結に制限を加える前記法及び令の規定の趣旨を没却する結果となる特段の事情が認められる場合に限り、私法上無効になる
・地方自治法234条2項及び同法施行令167条の2の規定は、専ら一般的抽象的な見地に立って普通地方公共団体の締結する契約の適正を図ることを目的として右契約の締結方法について規制を加えるものと解されるから、右法令に違反して契約が締結されたということから直ちにその契約の効力を全面的に否定しなければならないとまでいうことは相当でないこと及び契約の相手方にとっては、そもそも当該契約の締結が、随意契約によることができる場合として前記令の規定が列挙する事由のいずれに該当するものとして行われるのか必ずしも明らかであるとはいえないし、また、右事由の中にはそれに該当するか否かが必ずしも客観的一義的に明白とはいえないようなものも含まれているところ、普通地方公共団体の契約担当者が右事由に該当すると判断するに至った事情も契約の相手方において常に知り得るものとはいえないのであるから、もし普通地方公共団体の契約担当者の右判断が後に誤りであるとされ当該契約が違法とされた場合にその私法上の効力が当然に無効であると解するならば、契約の相手方において不測の損害を被ることにもなりかねず相当とはいえない
☆最高裁判所の判例によれば、地方自治法及び地方自治法施行令に定める随意契約の制限に違反して締結された契約であっても、私法上当然に無効になるものではない
最判平11.1.21
・法15条1項にいう「正当の理由」とは、水道事業者の正常な企業努力にもかかわらず給水契約の締結を拒まざるを得ない理由を指す
・近い将来において需要量が給水量を上回り水不足が生ずることが確実に予見されるという地域にあっては、水道事業者である市町村としては、そのような事態を招かないよう……困難な自然的条件を克服して給水量を出来る限り増やすことが第一に執られるべきであるが、それによってもなお深刻な水不足が避けられない場合には、専ら水の受給の均衡を保つという観点から水道水の需要の著しい増加を抑制するための施策を執ることも、やむを得ない措置として許されるものというべきである。そうすると、……需要の抑制施策の一つとして、新たな給水申込みのうち、需要量が特に大きく、現に居住している住民の生活用水を得るためではなく住宅を供給する事業を営む者が住宅分譲目的でしたものについて、給水契約の締結を拒むことにより、急激な需要の増加を抑制することには、法15条1項にいう「正当の理由」があるということができる
☆最高裁判所の判例によれば、新規に大規模マンションの建設を予定している住宅分譲業者AがB市に給水申込をした事案において、B市が水道事業者として正常な企業努力をしているにもかかわらず近い将来において水不足が生ずることが確実に予見される場合には、水道法15条1項にいう「正当の理由」が認められることから、B市はAの給水契約の申込みを拒否することができる
取消判決の第三者効(最判平21.11.26、百選Ⅱ211)
・特定の保育所で現に保育を受けている児童及びその保護者は、保育の実施期間が満了するまでの間は当該保育所における保育を受けることを期待し得る法的地位を有する
・本件改正条例は、本件各保育所の廃止のみを内容とするものであって、他に行政庁の処分を待つことなく、その施行により各保育所廃止の効果を発生させ、当該保育所に現に入所中の児童及びその保護者という限られた特定の者らに対して、直接、当該保育所において保育をうけることを期待し得る上記の法的地位を奪う結果を生じさせるものであるから、その制定行為は、行政庁の処分と実質的に同視し得るものということができる
・本件改正条例の制定行為は、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たる
・市町村の設置する保育所で保育を受けている児童又はその保護者が、当該保育所を廃する条例の効力を争って、当該市町村を相手に当事者訴訟ないし民事訴訟を提起し、勝訴判決や保全命令を得たとしても、これらは訴訟の当事者である当該児童又はその保護者と当該市町村との間でのみ効力を生ずるにすぎないから、これらを受けた市町村としては当該保育所を存続させるかどうかについての実際の対応に困難を来すことにもなり、処分の取消判決や執行停止の決定に第三者効が認められている取消訴訟において当該条例の制定行為の適法性を争い得るとすることには合理性が有る
☆最高裁判所の判例によれば、C市が特定の私立保育所を廃止する条例を制定した場合において、廃止される保育所で保育を受けている児童及びその保護者は、保育の実施期間終了まで当該保育所で保育を受けることを期待し得る法的地位を条例により違法に侵害されたと主張して、条例制定行為に対する取消訴訟を適法に提起することができる
☆最高裁判所は、市の設置する特定の保育所を廃止する条例の制定行為が抗告訴訟の対象となる行政処分に当たると判断した根拠の一つとして、取消判決には第三者効が認められていることを挙げている
第3節 公害防止協定
※公害防止協定の中で地方公共団体の職員の立入検査権など強制的な行政調査について定めることは許されない
第4節 行政契約の履行方法
第5節 第三者効のある協定
第6節 事務の委託・民間委託等
第7節 行政契約の統制
第10章 行政指導
第1節 序論
第2節 行政指導の意義
第3節 行政指導に関する法的規制
行政手続法36条
☆同一の行政目的を実現するため一定の条件に該当する複数の者に対し行政指導をしようとするときは、行政機関は、あらかじめ、事案に応じ、行政指導指針を定め、かつ、行政上特別の支障がない限り、これを公表しなければならない
※複数の者を対象とする行政指導について、あらかじめ行政指導指針を定め、行政上特別の支障がない限りそれを公表すべきことを要求している。
☆建築確認を留保して行う行政指導については、その指針があらかじめ定められなければならず、行政上の支障がない限り、当該指針は公表されなければならない
行政手続法36条の2
・法令に違反する行為の是正を求める行政指導(その根拠となる規定が法律に置かれているものに限る。)の相手方は、当該行政指導が当該法律に規定する要件に適合しないと思料するときは、当該行政指導をした行政機関に対し、その旨を申し出て、当該行政指導の中止その他必要な措置をとることを求めることができる。ただし、当該行政指導がその相手方について弁明その他意見陳述のための手続を経てされたものであるときは、この限りでない。
☆法令に違反する行為の是正を求める行政指導を受けた者は、原則として、当該行政指導をした行政機関に対して、当該行政指導の中止等の措置を求めることができる。
指導要綱による開発負担金(最判平成5.2.18、百選Ⅰ103)
・指導要綱に基づいて教育施設負担金の納付を求めた……行為は、本来任意に寄付金の納付を求めるべき行政指導の限度を超えるものであり、(国家賠償法1条1項の)違法な公権力の行使である
・Y市は、事業主に対し、法が認めておらずしかもそれが実施された場合にはマンション建築の目的の達成が事実上不可能となる水道の給水契約の締結の拒否等の制裁措置を背景として、指導要綱を遵守させようとしていたというべきであり、Y市が事業主Aに対し指導要綱に基づいて教育施設負担金の納付を求めた行為も、Y市の担当者が教育施設負担金の減免等の懇請に対し前例がないとして拒絶した態度とあいまって、Aに対し、指導要綱所定の教育施設負担金を納付しなければ、水道の給水契約の締結及び下水道の使用を拒絶されると考えさせるに十分なものであって、マンションを建築しようとする以上右行政指導に従うことを余儀なくさせるものであり、Aに教育施設負担金の納付を事実上強制しようとしたものということができる
☆行政指導も国家賠償法1条1項にいう公権力の行使に当たり、違法な行政指導によって損害を受けた者は同法に基づき損害賠償請求をすることができる
☆行政指導はあくまで相手方私人に対して任意の協力を求めるものであることから、行政指導である勧告に従わなかった者に対して、勧告に従わなかったことを理由にして不利益処分を行うことは、法律の明文の根拠がある場合に限って許される。
☆度を超えた圧力による行政指導が行われた場合には、実際に行政指導に従わなかったときでも、精神的苦痛による損害に係る賠償請求が可能となることがある
申請に対する応当の留保(最判昭60.7.16、百選Ⅰ132)
・いったん行政指導に応じて建築主と付近住民との間に話合いによる紛争解決をめざして協議がはじめられた場合でも、右協議の進行状況及び四囲の客観的情況により、建築主において建築主事に対し、確認処分を留保されたままでの行政指導にはもはや協力できないとの意思を真摯かつ明確に表明し、当該確認申請に対し直ちに応答すべきことを求めているものと認められるときには、……特段の事情が存在するものと認められない限り、当該行政指導を理由に建築主に対し確認処分の留保の措置を受忍せしめることの許されないことは前述のとおりであるから、それ以後の右行政指導を理由とする確認処分の留保は、違法となるものといわなければならない
・確認処分の留保は、建築主の任意の協力・服従のもとに行政指導が行われていることに基づく事実上の措置にとどまるものであるから、建築主において自己の申請に対する確認処分を留保されたままでの行政指導には応じられないとの意思を明確に表明している場合には、かかる建築主の明示の意思に反してその受忍を強いることは許されない筋合いのものであるといわなければならず、建築主が右のような行政指導に不協力・不服従の意思を表明している場合には、当該建築主が受ける不利益と右行政指導の目的とする公益上の必要性とを比較衡量して、右行政指導に対する建築主の不協力が社会通念上正義の観念に反するものといえるような特段の事情が存在しない限り、行政指導が行われているとの理由だけで確認処分を留保することは、違法であると解するのが相当である。
☆最高裁判所の判例によれば、申請に対する処分を留保されたままでの行政指導には応じられないことを真摯かつ明確に意思表示した行政指導の相手方に対して、行政指導を継続しているという理由でなお処分を留保しても、処分の留保が違法とは評価されない場合がある。
行政手続法35条1項
※口頭による行政指導であっても当該行政指導の趣旨及び内容並びに責任者を明確に示さなければならない
行政手続法35条2項
※行政指導が口頭でなされた場合において、その相手方から当該行政指導の趣旨及び内容並びに責任者を記載した書面の交付を求められたときは、当該行政指導に携わる者は、行政上特別の支障がない限り、これを交付しなければならない
行政手続法3条3項
※行政手続法3条1項各号及び2項各号に掲げるもののほか、地方公共団体の機関がする処分(その根拠となる規定が条例又は規則に置かれているものに限る)及び行政指導、地方公共団体の機関に対する届出並びに地方公共団体の機関が命令等を定める行為については、次章から第6章までの規定は適用しない
☆行政手続法の行政指導に関する規定は、地方公共団体の機関が行う行政指導には適用されない
行政手続法32条
・行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、いやしくも当該行政機関の任務又は所掌事務の範囲を逸脱してはならないこと……に留意しなければならない(1項)
・行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない(2項)
☆行政指導である勧告に従わなかった者に対して、勧告に従わなかったことを理由にして不利益処分を行うことは、法律の明文の根拠があれば許される
行政手続法39条1項
・命令等制定機関は、命令等(法律に基づく命令又は規則、審査基準、処分基準及び行政指導指針)を定めようとする場合には、……広く一般の意見を求めなければならない
第4節 行政指導の争い方
第5節 行政指導の今後
第11章 行政計画
第1節 意義・分類
※行政計画に分類される都市計画決定の内容が私人に対して法的拘束力を有することがある
第2節 行政計画の法的統制
第3節 行政計画に対する救済制度
第12章 行政調査
第1節 行政調査の位置づけ
第2節 任意調査
第3節 強制調査
川崎民商事件(最大判昭47.11.22、百選Ⅰ109)
・所得税法による検査の作用する強制の度合いは、それが検査の相手方の自由な意思をいちじるしく拘束して、実質上、直接的物理的な強制と同視すべき程度にまで達しているものとは、いまだ認め難いところである。国家財政の基本となる徴税権の適正な運用を確保し、所得税の公平確実な賦課徴収を図るという公益上の目的を実現するために収税官吏による実効性のある検査制度が欠くべからざるものであることは、何人も否定し難いものであるところ、その目的、必要性にかんがみれば、右の程度の強制は、実効性確保の手段として、あながち不均衡、不合理なものとはいえないのである。……前に述べた諸点を総合して判断すれば、旧所得税法70条10号、63条に規定する検査は、あらかじめ裁判官の発する令状によることをその一般的要件としないからといって、これを憲法35条の法意に反するものとすることはできない
☆所得税法による検査については、法律上、裁判官の発する令状が要件とされていないが、このことが憲法35条に違反するかどうかが争われた事例において、最高裁判所は、強制の程度が直接的物理的な強制と同視すべき程度にまで達していないことを考慮要素の一つとして、憲法違反ではないという判断を下している
第4節 行政調査手続
第13章 行政上の義務履行確保
第1節 総論
宝塚市パチンコ条例事件(最判平14.7.9、百選Ⅰ115)
・行政事件を含む民事事件において裁判所がその固有の権限に基づいて審判することのできる対象は、裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」、すなわち当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって、かつ、それが法令の適用により終局的に解決することができるものに限られる……。国又は地方公共団体が提起した訴訟であって、財産権の主体として自己の財産上の権利利益の保護救済を求めるような場合には、法律上の争訟に当たるというべきであるが、国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟は、法規の適用の適正ないし一般公益の保護を目的とするものであって、自己の権利利益の保護救済を目的とするものということはできないから、法律上の争訟として当然に裁判所の審判の対象となるものではない
第2節 行政代執行法
※行政代執行の対象となる行為は、他人が代わってなすことのできる行為であるから、不作為義務は含まれない
※執行罰も義務履行確保の手段なので、行政代執行法1条により、条例によって導入することはできない
行政代執行法2条
・法律……により直接命ぜられ……た行為……について義務者がこれを履行しない場合……当該行政庁は、自ら義務者のなすべき行為をなし、又は第三者をしてこれをなさしめ、その費用を義務者から徴収することができる
☆火薬類取締法22条に基づく火薬類の廃棄の義務は、法律に基づいて行政庁が命じるものではなく、法律から直接生じるものであるが、行政庁は、これを代執行の対象にすることができる
※義務付加行為と戒告は各々に公定力が生じる別個の行政行為であり、違法性の承継は認められず、原則として先行行為である義務賦課行為の瑕疵を後行行為である戒告の取消訴訟で主張することはできない。しかし、義務賦課行為が無効の場合には、義務賦課行為に公定力が生じないことから、例外的に後行行為である戒告の取消訴訟において、先行行為である義務賦課行為の無効を主張することができる
行政代執行法6条1項
・代執行に要した費用は、国税滞納処分の例により、これを徴収することができる
行政代執行法5条
・代執行に要した費用の徴収については、実際に要した費用の額及びその納期日を定め、義務者に対し、文書をもってその納付を命じなければならない
☆代執行の終了後においては代執行に要した費用を義務者から徴収できなくなるおそれがあるときでも、行政庁は、代執行をする前に、国税滞納処分の例により、費用を徴収することができない
第3節 行政上の強制徴収
第4節 直接強制
第5節 執行罰
※行政上の執行罰については、現在、砂防法に唯一の例があるにとどまる
第6節 その他の義務履行確保の制度
第7節 即時強制
※あらかじめ義務を課す必要のない即時強制は、行政代執行法の射程外にあるため条例による創設が可能とされている
☆行政庁が行政処分により私人に義務を課すことができる旨が法律に定められていても、即時強制を行うことができる旨が法律に定められていなければ、行政庁が行政処分を経ずに当該義務の内容を実現する即時強制を行うことは認められない
※行政上の即時強制は、警察比例の原則の適用を受ける
第14章 行政罰
第1節 行政罰の意義と種類
第2節 行政刑罰
第3節 秩序罰
第15章 行政手続
第1節 行政手続の意義
第2節 行政手続法の制定
旅券発給拒否(最判昭60.1.22、百選Ⅰ129)
・一般旅券発給拒否通知書に付記すべき理由としては、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して一般旅券の発給が拒否されたかを、申請者においてその記載自体から了知し得るものでなければならず、単に発給拒否の根拠規定を示すだけでは、それによって当該規定の適用の基礎となった事実関係をも当然知り得るような場合を別として、旅券法の要求する理由付記として十分でないといわなければならない
・単に「旅券法13条1項5号に該当する」と付記されているにすぎない本件一般旅券発給拒否処分の通知書は、同法14条の定める理由付記の要件を欠くものというほかはなく、本件一般旅券発給拒否処分に右違法があることを理由としてその取消しを求める上告人の本訴請求は、正当として認容すべきである
※理由の提示は、いかなる事実関係に基づき、いかなる法規を適用して処分がなされたかを明らかにするものでなければならない
☆行政裁量が認められた処分についても、処分の理由提示が不備であることが当該処分の取消事由となることがある
☆行政手続法13条1項1号に基づく聴聞手続が行われ、不利益処分の名宛人が、聴聞の期日におけるやり取りの状況から処分理由を事前に予測しうる場合であっても、不利益処分の理由の提示における記載自体から、いかなる事実関係に基づいて、いかなる法規を適用して当該処分が行われたかを知ることができないときは、当該処分理由の提示に瑕疵があることになる
更正処分の理由付記の不備(最判昭47.12.5、百選Ⅰ89)
・更正における付記理由不備の瑕疵は、後日これに対する審査裁決において処分の具体的根拠が明らかにされたとしても、それにより治癒されるものではないと解すべきである
・処分庁と異なる機関の行為により付記理由不備の瑕疵が治癒されるとすることは、処分そのものの慎重、合理性を確保する目的にそぐわないばかりでなく、処分の相手方としても、審査裁決によってはじめて具体的な処分根拠を知らされたのでは、それ以前の審査手続において十分な不服理由を主張することができないという不利益を免れない。そして、更正が付記理由不備のゆえに訴訟で取り消されるときは、更正期間の制限によりあらたな更正をする余地のないことなどがあるなど処分の相手方の利害に影響を及ぼすのであるから、審査裁決に理由が付記されたからといって、更正を取り消すことが所論のように無意味かつ不必要なこととなるものではない
第3節 行政処分手続
3 不利益処分の手続
※行政手続法は、不利益処分の手続を処分が与える不利益の程度に応じて、聴聞と弁明の機会の付与の2種類に分けて規定する。聴聞手続にはより手厚い手続的保障が与えられているが、弁明手続は聴聞手続と比べて略式の手続となっている
行政手続法13条
※聴聞手続がとられるのは、①許認可等を取り消す不利益処分、②名宛人の資格又は地位を直接に剥奪する不利益処分、③法人につき役員の解任、従業員の解任、会員の除名を命じる不利益処分、である(行政手続法13条1項1号)。上記のいずれにも該当しない不利益処分は、原則として弁明手続による(13条1項2号)。たとえば、業務停止命令・営業停止処分などの停止処分は、許認可を取り消すものではないので、弁明手続で足りる。
☆県知事が、指定の効力の一部停止処分をしようとする場合には、聴聞手続きをとる必要はない
行政手続法17条1項
※聴聞手続には、当事者のほかに、当該不利益処分につき利害関係をもつ第三者が参加人として関与することができる。
行政手続法20条2項
※当事者・参加人は、聴聞期日に出頭して意見を述べ、証拠書類等を提出できるほか、主宰者の許可を得て行政庁の職員に質問することができる
☆不利益処分を受ける指定居宅サービス事業者からサービスを受けている高齢者は、サービスを受けられなくなると日常生活に困難を来すことから、不利益処分の発動に反対するため、主宰者の許可を得て聴聞手続に参加し、口頭で意見を述べることができる。
行政手続法18条1項
※当事者・自己の利益を害される参加人は、行政庁に対して、処分の原因についての文書の閲覧を請求することができる(文書閲覧請求権)。文書の閲覧請求があった場合、行政庁は、第三者の利益を害するおそれがあるときその他正当な理由がなければ、閲覧を拒むことができない。
☆不利益処分の発動に強い関心を持っているライバル事業者は、聴聞手続において、県知事に対し、当該処分の原因となる事実を称する資料の閲覧を求めることができない
行政手続法29条1項
※弁明は、行政庁が口頭ですることを認めたときを除き、弁明を記載した書面を提出してするものとする
☆弁明は、書面を提出して行うことが原則であるが、行政庁が認める場合には、口頭で行うことができる
☆行政庁は、免許取消のための聴聞手続の進行中に免許停止処分とすることが妥当であると判断した場合には、改めて弁明手続を執ることなく免許停止処分を行うことができる
☆行政庁は、免許停止のための弁明手続の進行中に免許取消処分とすることが妥当であると判断した場合であっても、免許取消処分を行うことはできず、改めて聴聞手続を執ることが必要となる
第4節 命令策定手続
第5節 計画策定手続・合意形成手続
☆国家行政組織法8条の定める合議制の機関に、当該機関で審議する政策と利害関係を有する者又はその利益代表者をその構成員として任命することもできる
☆大臣が私的諮問機関を設置して、重要事項に関する調査審議を当該機関に諮問することも許される
☆審議会に関して、限られた範囲の委員からの情報収集にとどまるという批判がみられたことから、政策の企画立案等に関する情報を広く国民から直接に収集する手法として、行政手続法において意見公募手続が整備された
第16章 情報公開・個人情報制度
第1節 行政情報管理の法制度
第2節 情報公開制度
最判平26.7.14
☆開示請求の対象とされた行政文書を行政機関が保有していないことを理由とする不開示決定の取消訴訟においては、その取消しを求める者が、当該不開示決定時に当該行政機関が当該行政文書を保有していたことについて主張立証責任を負う。
・情報公開法において、行政文書とは、行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画及び電磁的記録であって、当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして、当該行政機関が保有しているものをいうところ(2条2項本文)、行政文書の開示を請求する権利の内容は同法によって具体的に定められたものであり、行政機関の長に対する開示請求は当該行政機関が保有する行政文書をその対象とするものとされ(3条)当該行政機関が当該行政文書を保有していることがその開示請求権の成立要件とされている
☆行政機関の長が、開示請求があった日から30日以内に開示請求に係る行政文書の全部若しくは一部を開示する旨の決定又は開示をしない旨の決定をしないときでも、開示をしない旨の決定があったものとはみなされない
※開示決定等又は開示請求に係る不作為について審査請求があったときは、当該審査請求に対する裁決をすべき行政機関の長は、不服申立てが不適法であり却下する時、又は裁決で審査請求の全部を認容し当該審査請求に係る行政文書の全部を開示することとする場合を除き、情報公開・個人情報保護審査会に諮問しなければならない。
☆行政機関の長が行政文書の部分開示決定をする場合、開示請求者に対し決定の理由を示さなければならない
☆行政文書の開示請求が専ら営利目的のために行われた場合であっても、行政機関の長がそのことを理由として開示を拒否することはできない
情報公開法10条1項本文
※開示請求に対する開示決定等は、原則として開示請求があった日から30日以内にしなければならない
☆行政機関の長が、開示請求があった日から30日以内に開示請求に係る行政文書の全部もしくは一部を開示する旨の決定又は開示をしない旨の決定をしないときでも、開示をしない旨の決定があったものとはみなされない
☆行政機関の長は、開示請求に係る行政文書を保有していない場合であっても、不開示決定をしなければならず、当該決定は、取消訴訟の対象となる処分に当たる
☆行政文書の開示請求に対する不開示決定のうち、当該行政文書を保有していないことを理由とするものについても、行政不服審査法に基づく不服申立てをすることができる
情報公開法3条
※情報公開法3条は、開示請求権者について「何人も」と定めており、開示請求権者を日本国民に限定していない
※開示請求を受けた行政機関は、他の行政機関が作成したものであっても、開示義務を判断して、これを満たす場合には、開示しなければならない
情報公開法5条1号ただし書イ
※「個人に関する情報」であっても、慣行として公にされている情報は不開示情報とはならない
情報公開法5条3号
☆情報公開法は、公にすることにより国の安全が害されるおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報を不開示情報としているが、これは、この種の情報については、開示不開示の判断に高度の政策的判断が伴い、また、国防、外交上の専門的、技術的判断を要するという特殊性があるため、行政機関の長の判断に裁量を認める趣旨である
情報公開法13条2項2号
☆行政機関の長は、第三者(国、独立行政法人等、地方公共団体、地方独立行政法人及び開示請求者以外の者)に関する情報が記録されている行政文書を情報公開法7条の規定により開示しようとするときは、開示決定に先立ち、所属の判明している第三者に対し、意見書を提出する機会を与えなければならない
情報公開法7条
※行政機関の長は、開示請求に係る行政文書に不開示情報が記録されている場合であっても、公益上特に必要があると認めるときは、開示請求者に対し、当該行政文書を開示することができる
情報公開法8条
※開示請求に対し、当該開示請求に係る行政文書が存在しているか否かを答えるだけで、不開示情報を開示することとなるときは、行政機関の長は、当該行政文書の存否を明らかにしないで、当該開示請求を拒否することができる(いわゆるグローマー拒否)
☆特定の個人の病歴に関する情報が記録された行政文書の開示請求があった場合、当該行政文書に記録されている情報は不開示情報に該当するので不開示である旨を答えたのでは、そのことだけで当該個人の病歴の存在が明らかになってしまうため、行政機関の長は、当該行政文書の存否を明らかにしないで当該開示請求を拒否することができる
情報公開法19条1項
※開示決定等又は開示請求に係る不作為について審査請求があったときは、当該審査請求に対する裁決をなすべき行政機関の長は、不服申立てが不適法であり却下するとき、又は裁決で、審査請求の全部を認容し、当該審査請求に係る行政文書の全部を開示することとする場合(当該行政文書の開示について反対意見書が提出されているときを除く)に該当する場合を除き、情報公開・個人情報保護審査会に諮問しなければならない
インカメラ審理(最決平21.1.15、百選Ⅰ45)
・不開示文書について裁判所がインカメラ審理を行うことは許されず、相手方が立会権の放棄等をしたとしても、抗告人に……不開示文書の検証を受任すべき義務を負わせてその検証を行うことは許されない
・不開示とされた文書を対象とする検証を被告に受忍させることは、それにより当該文書の不開示決定を取消して当該文書が開示されたのと実質的に同じ事態を生じさせ、訴訟の目的を達成させてしまうこととなるところ、このような結果は、情報公開法による情報公開制度の趣旨に照らして不合理と言わざるを得ない
・被告に当該文書の検証を受任すべき義務を負わせて検証を行うことは許されず、上記のような検証を行うために被告に当該文書の提示を命ずることも許されないものというべきである。立会権の放棄等を前提とした本件検証の申出等は、上記のような結果が生ずることを回避するため、事実上のインカメラ審理を行うことを求めるものにほかならない
・情報公開訴訟において証拠調べとしてのインカメラ審理を行うことは、民事訴訟の基本原則に反するから、明文の規定がない限り、許されないものと言わざるを得ない
・現行法は、民訴法の証拠調べ等に関する一般的な規定の下ではインカメラ審理を行うことができないという前提に立った上で、書証及び検証に係る証拠申出の採否を判断するためのインカメラ手続に限って個別に明文の規定を設けて特にこれを認める一方、情報公開訴訟において裁判所が不開示事由該当性を判断するために証拠調べとして行うインカメラ審理については、あえてこれを採用していないものと解される
☆事業を営む個人の当該事業に関する情報は、法人等に関する情報と同様の要件により不開示情報該当性を判断することが適当であることから、個人情報から除外されている
第3節 個人情報保護制度
第17章 行政上の救済手続
第1節 行政不服申立て
行政不服審査法82条1項
☆行政庁は、不服申立てをすることができる処分をする場合には、処分を口頭でする場合を除き、処分の相手方に対し、不服申立てをすることができる旨やその期間などを必ず書面で教示しなければならないこととされている
行政不服審査法82条2項、3項
※行政庁は、利害関係人から、当該処分が不服申立てをすることができる処分であるかどうか並びに当該処分が不服申立てをすることができるものである場合における不服申立てをすべき行政庁及び不服申立てをすることができる期間につき教示を求められたときは、当該事項を教示しなければならない
※行政不服審査法82条2項の場合において、教示を求めた者が書面による教示を求めたときは、当該教示は、書面でしなければならない
行政不服審査法2条1項
※行政不服審査法にいう「処分」には、各本条に特別の定めがある場合を除くほか、公権力の行使に当たる事実上の行為で、人の収容、物の留置その他その内容が継続的性質を有するものが含まれる
☆審査請求に理由があるときは、審査庁は、原則として、審査請求の全部又は一部を認容する裁決をしなければならないが、例外として、事情裁決によって当該審査請求を棄却することができる
行政不服審査法25条2項
※行政不服審査法は、審査庁が処分庁の上級行政庁又は処分庁である場合には、審査庁が職権により執行停止をすることを認めている
第2節 行政審判
第3節 苦情処理・オンブズマン・行政監視
第4節 行政型ADR
第18章 行政事件訴訟法概観
第1節 行政事件訴訟
第2節 平成16年の行政事件訴訟法改正
第3節 司法権と行政権の関係
第4節 行政事件訴訟の諸類型
☆衆議院小選挙区選出議員の選挙につき、ある選挙区の選挙人が、公職選挙法の議員定数に関する定めが憲法14条に違反することを主張して、公職選挙法204条に基づき、当該選挙区に関し選挙を無効とすることを求める訴訟(行政事件訴訟法5条の民衆訴訟)
☆国外に居住していて国内の市町村の区域に住所を有していない日本国民が、次回の衆議院議員の総選挙における小選挙区選出議員の選挙において、在外選挙人名簿に登録されていることに基づいて投票をすることができる地位にあることの確認を求める訴訟(行政事件訴訟法第4条の当事者訴訟のうち、同条後段の「公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟」)
☆起業者が、収用委員会のした裁決のうち土地所有者に対する損失の補償の金額が高すぎると主張して、土地収用法133条2項に基づき、自己の主張する金額との差額につき債務不存在確認を求める訴訟(行政事件訴訟法4条の当事者訴訟のうち、同条前段の「当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするもの」)
☆公立高等学校の教職員が、所属校の校長の職務命令は違憲、違法であるが、当該職務命令に従わないと処遇上の不利益を受ける危険があると主張して、行政処分以外の処遇上の不利益を予防する目的で、当該職務命令に基づく義務の不存在確認を求める訴訟(行政事件訴訟法法第4条の当事者訴訟のうち、同条後段の「公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟」)
☆市の住民であるXは、市の所有地上に産業廃棄物の処理施設を設置、操業して違法に有害な物質を排出している産業廃棄物処理業者を被告として、当該施設の操業の差止めを求める住民訴訟を提起することができない
☆市の住民であるXは、市が特定の市有地を権原なく占有するものに対し占用料相当額の請求を怠ることの違法確認を求める住民訴訟を、市長を被告として適法に提起することができる
☆市の住民であるXは、市が廃棄物運搬業者との間で締結した委託契約に基づく委託料の支出が違法であることを理由に、支出行為をした当時の市長個人を被告として、市への損害賠償の支払を求める住民訴訟を提起することができない
第5節 抗告訴訟の類型
第19章 取消訴訟(その1)―訴訟要件
第1節 取消訴訟の訴訟要件
行政事件訴訟法37条の3第3項
※申請型義務付け訴訟を提起するには、申請について不作為があった場合には当該処分・裁決に係る不作為の違法確認の訴えを、申請につき拒否処分があった場合には当該処分・裁決に係る取消訴訟又は無効等確認の訴えを、それぞれ併合する必要がある
行政事件訴訟法37条
※不作為の違法確認の訴えは、処分又は裁決についての申請をした者に限り、提起することができる
行政事件訴訟法37条の4第3項
※差止めの訴えは、行政庁が一定の処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り、提起することができる
☆差止めの訴えを提起することができるのは、行政庁が一定の処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者に限られる
行政事件訴訟法14条1項本文
※取消訴訟は、処分又は裁決があったことを知った日から6ヶ月を経過したときは、提起することができない
最判昭27.4.25
※処分書が相手方の住所地に郵便で配達され、社会通念上、処分の存在を知り得る状態に置かれたときは、具体的反証のない限り、処分を知ったものと推定される
☆処分に係る通知の書面が当該処分の相手方の住所に郵便により配達された場合には、当該処分の取消しの訴えの出訴期間に係る「処分(中略)があったことを知った日」(行政事件訴訟法14条1項)については、反証のない限り、当該書面の配達された日がこれに当たるとされる
行政事件訴訟法14条3項本文
※処分につき審査請求をすることができる場合において、審査請求があったときは、処分に係る取消訴訟は、その審査請求をした者については、これに対する裁決があったことを知った日から6ヶ月を経過した時又は当該裁決の日から1年を経過したときは、提起することができない
☆処分につき審査請求をすることができる場合において、適法な審査請求があったときは、処分の取消しの訴えは、その審査請求をした者については、これに対する裁決があったことを知った日から6ヶ月を経過するまでは、処分があったことを知った日から6ヶ月を経過した後であっても、適法に提起することができる
行政事件訴訟法8条2項
※不服申立前置主義が採用されている場合であっても、①審査請求があった日から3ヶ月を経過しても裁決がないとき、②処分、処分の執行又は手続の進行により生ずる著しい損害を避けるため緊急の必要がある時、③その他裁決を経ないことにつき正当な理由があるときは、裁決を経ないで、処分の取消の訴えを提起することができる
最判昭36.7.21(百選Ⅱ191)
☆審査請求前置主義が採用されている場合に、審査請求が不適法として却下されたときは、審査請求前置を満たしたことにはならないが、適法な審査請求がされたにもかかわらず、裁決庁が誤って審査請求を却下した場合には、裁決庁は実態審理の機会を与えられていたのであるから、審査請求人は、直ちに処分の取消しの訴えを提起することができる
第2節 処分性
☆憲法上、外国人は、在留の権利ないし引き続き在留することを要求し得る権利を保障されていないが、出入国管理及び難民認定法に基づく在留期間の更新を法務大臣が拒否する行為には、処分性が認められる。
開発許可に係る公共施設管理者の同意(最判平7.3.23、百選Ⅱ163)
・公共施設の管理者である行政機関等が都市計画法32条所定の同意を拒否する行為は、抗告訴訟の対象となる処分には当たらない
・国若しくは地方公共団体又はその機関が公共施設の管理権限を有する場合には、行政機関等が法32条の同意を求める相手方となり、行政機関等が右の同意を拒否する行為は、公共施設の適正な管理上当該開発行為を行うことは相当でない旨の公法上の判断を表示する行為ということができる。この同意が得られなければ、公共施設に影響を与える開発行為を適法に行うことはできないが、これは、法が……要件を満たす場合に限ってこのような開発行為を行うことを認めた結果にほかならないのであって、右の同意を拒否する行為それ自体は、開発行為を禁止又は制限する効果をもつものとはいえない。したがって、開発行為を行おうとする者が、右の同意を得ることができず、開発行為を行うことができなくなったとしても、その権利ないし法的地位が侵害されたものとはいえないから、右の同意を拒否する行為が、国民の権利ないし法律上の地位に直接影響を及ぼすものであると解することはできない
☆都市計画法は開発行為による影響を受ける公共施設の管理者の同意を得ることを開発許可申請の要件としているが、公共施設の管理者が同意を拒否する行為自体は、開発行為を禁止又は制限する効果をもつものとはいえず、当該同意を拒否する行為には処分性は認められない
ごみ焼却場の設置(最判昭39.10.29、百選Ⅱ156)
・行政庁の処分とは、……行政庁の法令に基づく行為のすべてを意味するものではなく、公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているものをいう
最判平11.1.21
・市町村長が住民基本台帳法7条に基づき住民票に同条各号に掲げる事項を記載する行為は、元来、公の権威をもって住民の居住関係に関するこれらの事項を証明し、それに公の証拠力を与えるいわゆる公証行為であり、それ自体によって新たに国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定する法的効果を有するものではない
・同法15条1項は、選挙人名簿の登録は住民基本台帳に記載されている者で選挙権を有するものについて行うと規定し、公職選挙法21条1項も、右登録は住民票が作成された日から引き続き3ヶ月以上当該市町村の住民基本台帳に記録されている者について行うと規定しており、これらの規定によれば、住民票に特定の住民の氏名等を記載する行為は、その者が当該市町村の選挙人名簿に登録されるか否かを決定づけるものであって、その者は選挙人名簿に登録されない限り原則として投票をすることができないのであるから、これに法的効果が与えられているということができる
☆市町村の長が住民基本台帳法に基づき同法所定の氏名等の事項を住民票に記載する行為には、処分性が認められうる
住民票への記載(最判平21.4.17、百選Ⅰ65)
☆出生をした子につき住民票の記載を求める親からの申出に対し市町村の長がした当該記載をしない旨の応答には、処分性が認められない
普通財産の売払い(最判昭35.7.12、百選Ⅱ154)
・物納土地の払下は行政処分である旨を主張する……論旨は独自の見解に立つものであって到底採用できない
・国有普通財産の払下を私法上の売買と解すべきことは原判決の説明するとおりであって、右払下が売渡申請書の提出、これに対する払下許可の形式を取っているからと言って、右払下行為の法律上の性質に影響を及ぼすものではない
登録免許税還付通知拒絶通知(最判平17.4.14、百選Ⅱ168)
・拒否通知は、……抗告訴訟の対象となる行政処分に当たる
・登録免許税法31条2項は、登記等を受けた者に対し、簡易迅速に還付を受けることができる手続を利用することができる地位を保障しているものと解するのが相当である。そして、同項に基づく還付通知をすべき旨の請求に対してされた拒否通知は、登記機関が還付通知を行わず、還付手続を執らないことを明らかにするものであって、これにより、登記等を受けた者は、簡易迅速に還付を受けることができる手続を利用することができなくなる
・当該拒否通知は、登記等を受けた者に対して上記の手続上の地位を否定する法的効果を有する
☆過大に登録免許税を納付して登記等を受けた者が、登録免許税法に基づいて、登記機関に対し税務署長への還付通知を行うよう請求した事例において、登記機関が当該請求を拒否する旨の通知を行った場合、当該拒否通知は、登記等を受けた者に対して簡易迅速に還付を受ける手続を利用することができる地位を否定する法的効果を有するから、処分性が認められるものといえる
☆地方公共団体の長が公共工事に係る指名競争入札への参加希望者のうち一定の者を指名から排除する行為は、抗告訴訟の対象となる処分に当たらない
土地区画整理事業計画(最大判平20.9.10、百選Ⅱ159)
・土地区画整理事業の事業計画の決定は、施行地区内の宅地所有者等の法的地位に変動をもたらすものであって、抗告訴訟の対象とするに足りる法的効果を有するもの
建築基準法42条2項の道路指定(最判平14.1.17、百選Ⅱ161)
※告示による一括指定の方法でなされた、みなし道路としての指定も、抗告訴訟の対象となる行政処分にあたる
最判平17.7.15
・医療法の規定に基づく病院開設中止の勧告は、医療法上は当該勧告を受けたものが任意にこれに従うことを期待してされる行政指導として定められている
・病院開設中止の勧告は……当該勧告を受けた者に対し、これに従わない場合には、相当程度の確実さをもって、病院を解説しても保険医療機関の指定を受けることができなくなるという結果をもたらすものということができる。そして、いわゆる国民皆保険制度が採用されているわが国においては、健康保険、国民健康保険などを利用しないで病院を受信する者はほとんどなく、保険医療機関の指定を受けずに診療行為を行う病院が殆ど存在しないことは公知の事実であるから、保険医療機関の指定を受けることができない場合には、実際上病院の開設自体を断念せざるをえないことになる
・この勧告は、行政事件訴訟法3条2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に当たると解するのが相当である
・後に保険医療期間の指定拒否処分の効力を抗告訴訟によって争うことができるとしても、そのことは上記の結論を左右するものではない
第3節 原告適格
もんじゅ訴訟判決(最判平4.9.22、百選Ⅱ187)
・被上告人らは本件原子炉施設の設置者である動力炉・核燃料開発事業団に対し、人格権等に基づき本件原子炉の建設ないし運転の差止を求める民事訴訟を提起しているが、右民事訴訟は、行政事件訴訟法36条にいう当該処分の効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えに該当するものとみることはできず、また、本件無効確認訴訟と比較して、本件設置許可処分に起因する本件紛争を解決するための争訟形態としてより直截的で適切なものであるともいえないから、被上告人らにおいて右民事訴訟の提起が可能であって現にこれを提起していることは、本件無効確認訴訟が同条所定の前記要件を欠くことの根拠とはなりえない
☆原子炉の周辺住民が、人格権に基づき原子炉設置の差止めを求める民事訴訟を提起するには、あらかじめ原子炉設置許可の取消し又は無効確認の判決を得ておく必要はない
☆原子炉設置予定地の周辺住民は、設置許可が取り消されなくても、当該原子炉の設置許可を受けた電力会社に対し、人格権に基づき原子炉の建設の差止を求める民事訴訟を提起することができる
総合設計許可と第三者の原告適格(最判平14.1.22、百選Ⅱ176)
・建築基準法59条の2第1項の趣旨・目的、同項が総合設計許可を通して保護しようとしている利益の内容・性質等に加え、同法が建築物の敷地、構造等に関する最低の基準を定めて国民の生命、健康及び財産の保護を図ることなどを目的とするものであることにかんがみれば、同法59条の2第1項は、総合設計許可に係る建築物の建築が市街地の環境の整備改善に資するようにするとともに、当該建物の倒壊、炎上等による被害が直接的に及ぶことが想定される周辺の一定範囲の地域に存する他の建築物についてその居住者の生命、身体の安全等及び財産としてのその建築物を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むものと解すべきである
・総合設計許可に係る建築物の倒壊、炎上等により直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に存する建築物に居住し又はこれを所有する者について総合設計許可の取消訴訟における原告適格を肯定
風俗営業許可と第三者の原告適格(最判平10.12.17、百選Ⅱ174)
・風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律4条2項2号は、良好な風俗環境を保全するため特にその設置を制限する必要があるものとして政令で定める基準に従い都道府県の条例で定める地域内に営業所があるときは、風俗営業の許可をしてはならないと規定している。右の規定は、具体的地域指定を条例に、その基準の決定を政令にゆだねており、それらが公益に加えて個々人の個別的利益をも保護するものとすることを禁じているとまでは解されないものの、良好な風俗環境の保全という公益的な見地から風俗営業の制限地域の指定を行うことを予定しているものと解されるのであって、同号自体が当該営業制限地域の居住者個々人の個別的利益をも保護することを目的としているものとは解し難い。
・施行令6条1号イの規定は、「住居が多数集合しており、住居以外の用途に供される土地が少ない地域」を風俗営業の制限地域とすべきことを基準として定めており、一定の広がりのある地域の良好な風俗環境を一般的に保護しようとしていることが明らかであって、同号ロのように特定の個別的利益の保護を図ることをうかがわせる文言は見当たらない。このことに、……法4条2項2号自体にも個々人の個別的利益の保護をうかがわせる文言がないこと、同号にいう「良好な風俗環境」の中で生活する利益は専ら公益の面から保護することとしてもその性質にそぐわないとはいえないことを併せ考えれば、施行令6条1号イの規定は、専ら公益保護の観点から基準を定めていると解するのが相当である。そうすると、右基準に従って規定された施行条例3条1項1号は、同条所定の地域に居住する住民の個別的利益を保護する趣旨を含まないものと解される。したがって、右地域に居住する者は、風俗営業の許可の取消しを求める原告適格を有するとはいえない
場外車券発売施設設置許可と第三者の原告適格(最判平21.10.15、百選Ⅱ178)
・一般的に、場外施設が設置、運営された場合に周辺住民等が被る可能性のある被害は、交通、風紀、教育など広い意味での生活環境の悪化であって、その設置、運営により、直ちに周辺住民等の生命、身体の安全や健康が脅かされたり、その財産に著しい被害が生じたりすることまでは想定し難いところである。そして、このような生活環境に関する利益は、基本的には公益に属する利益というべきであって、法令に手がかりとなることが明らかな規定がないにもかかわらず、当然に、法が周辺住民等において上記のような被害を受けないという利益を個々人の個別的利益としても保護する趣旨を含むと解するのは困難といわざるを得ない
・自転車競技法及び規則が位置基準によって保護しようとしているのは、第一次的には、上記のような不特定多数者の利益であるところ、それは、性質上、一般的公益に属する利益であって、原告適格を基礎づけるには足りないものであると言わざるをえない。したがって、場外施設の周辺において居住し又は事業(医療施設等に係る事業を除く)を営むに過ぎないものや、医療施設等の利用者は、位置基準を根拠として場外施設の設置許可の取消しを求める原告適格を有しないものと解される
・場外施設は、多数の来場者が参集することによってその周辺に享楽的な雰囲気や喧騒と行った環境をもたらすものであるから、位置基準は、そのような環境の変化によって周辺の医療施設等の開設者が被る文教又は保健衛生に関わる業務上の支障について、特に国民の生活に及ぼす影響が大きいものとして、その支障が著しいものである場合に当該場外施設の設置を禁止し当該医療施設等の開設者の行う業務を保護する趣旨をも含む規定であると解することができる。したがって、仮に当該場外施設が設置、運営されることに伴い、その周辺に所在する特定の医療施設等に上記のような著しい支障が生ずるおそれが具体的に認められる場合には、当該場外施設の設置許可が違法とされることもあることとなる。このように、位置基準は、一般的公益を保護する趣旨に加えて、上記のような業務上の支障が具体的に生ずるおそれのある医療施設等の開設者において、健全で静穏な環境の下で円滑に業務を行うことのできる利益を、個々の開設者の個別的利益として保護する趣旨をも含む規定であるというべきであるから、当該場外施設の設置、運営に伴い著しい業務上の支障が生ずるおそれがあると位置的に認められる区域に医療施設等を開設する者は、位置基準を根拠として当該場外施設の設置許可の取消しを求める原告適格を有するものと解される
行政事件訴訟法9条1項
※処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴えは、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り、提起することができる
行政事件訴訟法9条2項
・裁判所は、処分又は裁決の相手方以外の者について1項に規定する法律上の利益の有無を判断するに当たっては、当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする。
・この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たつては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとし、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たつては、当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとする。
☆処分の取消しの訴えの原告適格を判断するにあたっては、当該処分の根拠法令と目的を共通にする関係法令があるときは、その趣旨及び目的をも参酌すべきである
☆処分の取消しの訴えの原告適格を判断するに当たっては、当該処分が根拠法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきである
行政事件訴訟法37条の4第4項
※処分の取消しの訴えの原告適格に関する行政事件訴訟法9条2項の規定は、処分の差止めの訴えの原告適格の判断について、準用される
第4節 訴えの利益(狭義の訴えの利益)
運転免許停止処分と訴えの利益(最判昭55.11.25、百選Ⅱ181)
・自動車運転免許の効力停止処分の効果は右処分の日1日の経過によりなくなったものであり、また、本件処分の日から1年を経過した日の翌日以降、上告人が本権限処分を理由に道路交通法上不利益を受ける虞がなくなったことはもとより、他に本件原処分を理由に上告人を不利益に取り扱いうることを認めた法令の規定はないから、行政事件訴訟法9条の規定の適用上、上告人は、本件原処分……の取消しによって回復すべき法律上の利益を有しないというべきである。この点に関して、……上告人には、本件原処分の記載のある免許証を所持することにより警察官に本件原処分の存した事実を覚知され、名誉、感情、信用等を損なう可能性が常時継続して存するが、このような可能性の存在が認められるとしても、それは本件原処分がもたらす事実上の効果にすぎないものであり、これをもって上告人が本件原処分取消の訴によって回復すべき法律上の利益を有することの根拠とするのは相当でない
☆道路交通法に基づき、自動車運転免許の効力停止処分を受けた者は、無違反、無処分で法定の期間を経過し、以後、前歴のない者として取り扱われるに至れば、当該処分の記載のある免許証を所持することにより、名誉、信用等を損なう可能性が継続して存在するとしても、当該処分の取消しにつき訴えの利益を有しない
最判平成21.2.27
・道路交通法が優良運転者の実績を賞揚し、優良な運転へと免許証保有者を誘導して交通事故の防止を図る目的で、優良運転者であることを免許証に記載して公に明らかにすることとするとともに、優良運転者に対し更新手続上の優遇措置を講じていることなどを考慮すれば、同法は、客観的に優良運転者の要件を満たすものに対しては優良運転者である旨の記載のある免許証を交付して更新処分を行うということを、単なる事実上の措置に留めず、その者の法律上の地位として保障するとの立法政策を、交通事故の防止を図るという制度の目的を全うするため、特に採用したものと解するのが相当である
・客観的に優良運転者の要件を満たす者であれば優良運転者である旨の記載のある免許証を交付して行う更新処分を受ける法律上の地位を有することが肯定される以上、一般運転者として扱われ上記記載のない免許証を交付されて免許証の更新処分を受けた者は、上記の法律上の地位を否定されたことを理由として、これを回復するため、同更新処分の取消しを求める訴えの利益を有する
☆道路交通法は、優良運転者の実績を賞揚し、優良な運転をするように自動車運転免許証の保有者を誘導して交通事故の防止を図る目的で、優良運転者であることを免許証に記載して公に明らかにするとともに、優良運転者に対し更新手続上の優遇措置を講じていることなどに照らせば、免許証の有効期間の更新に当たり、一般運転者として扱われ、優良運転者である旨の記載のない免許証を交付されて更新処分を受けた者は、上記記載のある免許証を交付して行う更新処分を受ける法律上の地位を否定されたことを理由として、これを回復するため、当該更新処分の取消しを求める訴えの利益を有する
建築確認と訴えの利益(最判昭59.10.26、百選Ⅱ183)
・建築確認は、建築基準法6条1項の建築物の建築等の工事が着手される前に、当該建築物の計画が建築関係規定に適合していることを公権的に判断する行為であって、それを受けなければ右工事をすることができないという法的効果が付与されており、建築関係規定に違反する建築物の出現を未然に防止することを目的としたものということができる
・右工事が完了した後における建築主事等の検査は、当該建築物及びその敷地が建築関係規定に適合しているかどうかを基準とし、同じく特定行政庁の違反是正命令は、当該建築物及びその敷地が建築基準法並びにこれに基づく命令及び条例の規定に適合しているかどうかを基準とし、いずれも当該建築物及びその敷地が建築確認に係る計画通りのものであるかどうかを基準とするものでない上、違反是正命令を発するかどうかは、特定行政庁の裁量にゆだねられているから、建築確認の存在は、検査済証の交付を拒否し又は違反是正命令を発する上において法的障害となるものではなく、また、たとえ建築確認が違法であるとして判決で取り消されたとしても、検査済証の交付を拒否し又は違反是正命令を発すべき法的拘束力が生ずるものではない。したがって、建築確認は、それを受けなければ右工事をすることができないという法的効果を付与されているにすぎないものというべきであるから、当該工事が完了した場合においては、建築確認の取消しを求める訴えの利益は失われる
☆建築基準法に基づく建築確認は、それを受けなければ工事をすることができないという法的効果が付与されているものにすぎず、当該工事が完了した場合においては、その取消しを求める訴えの利益は失われる
土地改良事業と訴えの利益(最判4.1.24、百選Ⅱ184)
・本件訴訟において、本件認可処分が取り消された場合に、本件事業施行地域を本件事業施行以前の原状に回復することが、本件訴訟継続中に本件事業計画に係る工事及び換地処分がすべて完了したため、社会的、経済的損失の観点からみて、社会通念上、不可能であるとしても、右のような事情は、行政事件訴訟法31条の適用に関して考慮されるべき事柄であって、本件認可処分の取消しを求める上告人の法律上の利益を消滅させるものではない
☆町営土地改良事業の施行認可処分の取消しを求める訴訟の継続中に、事業計画に係る工事及び換地処分がすべて完了したため、社会通念上事業施行以前の原状に回復することが不可能になったとしても、認可処分の取消しを求める訴えの利益は消滅しない
最判平8.7.12
・当該外国人は出入国管理及び難民認定法24条1号(退去強制)に該当して発付された退去強制令書の執行により本邦外に送還されてから既に1年が経過したというのであり、同法5条1項9号(上陸の拒否)の規定により本邦への上陸を拒否されることもなくなったのであるから、もはや右退去強制令書発付処分の取消しにより回復すべき法律上の利益は何ら存在せず、右処分の取消しを求める訴えの利益は失われたとした原審の判断は、正当として是認することができる
☆退去強制令書の送還部分が執行され、被処分者が強制送還されてしまえば、処分はその目的を達成し、被処分者の退去義務は消滅するが、退去を強制された者の本邦への上陸拒否期間が経過するまでは、退去強制令書発付処分の取消しを求める訴えの利益は消滅しない
最判平5.9.10
・開発行為に関する工事が完了し、検査済証の交付もされた後においては、開発許可が有する前記のようなその本来の効果は既に消滅しており、他にその取消しを求める法律上の利益を基礎付ける理由も存しないことになるから、開発許可の取消しを求める訴えは、その利益を欠くに至るものといわざるを得ない
・都市計画法29条ないし31条及び33条の規定するところによれば、同法29条に基づく許可(開発許可)は、あらかじめ申請に係る開発行為が同法33条所定の要件に適合しているかどうかを公権的に判断する行為であって、これを受けなければ適法に開発行為を行うことができないという法的効果を有するものであるが、許可に係る開発行為に関する工事が完了したときは、開発許可の有する右の法的効果は消滅するものというべきである。そこで、このような場合にも、なお開発許可の取消しを求める法律上の利益があるか否かについて検討するのに、同法81条1項1号は、建設大臣又は都道府県知事は、この法律若しくはこの法律に基づく命令の規定又はこれらの規定に基づく処分に違反した者に対して、違反を是正するため必要な措置を採ることを命ずること(違反是正命令)ができるとしているが、同法29条ないし31条及び33条の各規定に基づく開発行為に関する規制の趣旨、目的にかんがみると、同法は、33条所定の要件に適合する場合に限って開発行為を許容しているものと解するのが相当であるから、客観的にみて同法33条所定の要件に適合しない開発行為について過って開発許可がされ、右行為に関する工事がされたときは、右工事を行った者は、同法81条1項1号所定の「この法律に違反した者」に該当するものというべきである。したがって、建設大臣又は都道府県知事は、右のような工事を行った物に対して、同法81条1項1号の規定に基づき違反是正命令を発することができるから、開発許可の存在は、違反是正命令を発する上において法的障害となるものではなく、また、たとえ開発許可が違法であるとして判決で取り消されたとしても、違反是正命令を発すべき法的拘束力を生ずるものではないというべきである
☆都市計画法に係る開発許可が判決で取り消されたときも、当該取消判決に違反是正命令を発すべき法的拘束力が生ずることにはならない
最判昭56.4.24
☆当初の更正処分による税額を減額する再更正処分は、納税者に有利な効果をもたらすものであるから、納税者にその取消しを求める利益はない
第5節 被告適格
第6節 管轄裁判所
第7節 不服申立前置
第8節 出訴期間
第20章 取消訴訟(その2)―審理・判決・執行停止・教示
行政不服審査法1条1項
※審査請求の本案審査においては、争われた処分が違法かどうかだけでなく、不当かどうかについても審理することができる
※取消訴訟の本案審理においては、争われた処分が違法かどうかのみが審理される
行政不服審査法18条1項
・処分についての審査請求は、処分があったことを知った日の翌日から起算して三月(……)を経過したときは、することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない(1項)
・処分についての審査請求は、処分(……)があった日の翌日から起算して一年を経過したときは、することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない(2項)
行政事件訴訟法14条1項本文
※取消訴訟は、処分があったことを知った日から6ヶ月を経過したときは提起することができない
行政不服審査法2条
※不服申立適格である「不服がある者」の意義について、判例・通説は、「処分について不服申立をする法律上の利益がある者」と解している
行政事件訴訟法9条1項
※処分取消しの訴えは、当該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り提起することができる
第1節 取消訴訟の審理
処分理由の差−課税処分(最判昭56.7.14、百選Ⅱ196)
・課税庁に本件追加主張の提出を許しても、右更正処分を争うにつき被処分者たる原告に格別の不利益を与えるものではないから、一般的に青色申告書による申告についてした更正処分の取消訴訟において更正の理由とは異なるいかなる事実をも主張することができると解すべきかどうかはともかく、課税庁が本件追加主張を提出することは妨げないとした原審の判断は、結論において正当として是認することができる
☆青色申告による法人税の深刻に対し、不動産の取得価額が申告額より定額であることを更正の理由として更正処分がされた場合に、その取消訴訟において、被告が、仮に当該不動産の取得価額が上記のとおりでないとしてもその販売価額が申告額より多額であると主張して争うことは許される
労災保険不支給決定取消訴訟と審理範囲の制限(最判平5.2.16、百選Ⅱ198)
・被告は、本件被災者らの疾病が……ベンジジン製造業務就労事業場における業務に起因するものであるか否かの点については調査、判断することなく、専ら本件被災者らが右業務に従事した期間が労働者災害補償保険法の施行前であることを理由に、本件不支給決定をしたことが明らかである。被災労働者の疾病等の業務起因性の有無については、第一次的に労働基準監督署長にその判断の権限が与えられているのであるから、被告が右の点について判断をしていないことが明らかな本件においては、原判決が、本件被災者らの疾病の業務起因性の有無についての認定、判断を留保した上、本件不支給決定を違法として取り消したことに、所論の違法はない
☆労災保険給付の申請に対し、申請に係る疾病が労働者災害補償保険法の適用対象である疾病に当たらないとの理由で不支給決定がされた場合に、その取消訴訟において、被告が、同疾病が仮に同法の適用対象であるとしても当該疾病に業務起因性がないと主張して争うことは許されない
処分理由の差替−情報公開(最判平11.11.19、百選Ⅱ197)
・一たび通知書に理由を付記した以上、実施機関が当該理由以外の理由を非公開決定処分の取消訴訟において主張することを許さないものとする趣旨をも含むと解すべき根拠はない
・非公開決定の通知に併せてその理由を通知すべきものとしているのは……非公開の理由の有無について実施機関の判断の慎重と公正妥当とを担保してその恣意を抑制するとともに、非公開の理由を公開請求者に知らせることによって、その不服申立てに便宜を与えることを目的としていると解すべきであり、そのような目的は、非公開の理由を具体的に記載して通知させること自体をもってひとまず実現される
☆情報公開条例に基づく公開請求に対し、同請求に係る情報が特定の非公開事由に該当することを理由に非公開決定がされた場合に、その取消訴訟において、被告が仮に同情報が上記事由に該当しないとしても別の非公開事由にも該当すると主張して争うことは許される
行政事件訴訟法8条1項
☆処分について審査請求をすることができる場合であっても、法律に特段の定めのない限り、直ちに処分の取消しの訴えを提起することができる
☆処分の取消しの訴えとその処分についての審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えとを提起することができる場合、これらの訴えを併合して提起する必要はない
☆処分に対する審査請求の裁決に対してのみ取消訴訟が提起できる仕組みである裁決主義を、処分の根拠法令が採用している場合には、裁決の取消しの訴えにおいて原処分の違法性を主張できる
行政事件訴訟法11条2項
・処分又は裁決をした行政庁が国又は公共団体に所属しない場合には、取消訴訟は当該行政庁を被告として提起しなければならない
☆建築基準法上の指定確認検査機関による建築確認処分の取消しの訴えにおいては、当該機関を指定した国土交通大臣又は都道府県知事の所属する国又は地方公共団体ではなく、指定確認検査機関が被告となる
行政事件訴訟法10条1項
※取消訴訟においては、自己の法律上の利益に関係のない違法を理由として取消しを求めることができない
☆取消訴訟においては、自己の法律上の利益に関係のない違法を理由として取消しを求めることができず、原告がこの制限に触れる主張のみを行っている場合には、訴えが却下ではなく棄却されることになる
行政事件訴訟法23条の2第1項
※裁判所は、訴訟関係を明瞭にするため、必要があると認めるときは、被告である国若しくは公共団体に所属する行政庁又は被告である行政庁に対し、処分又は裁決の内容、処分又は裁決の根拠となる法令の条項、処分又は裁決の原因となる事実その他処分又は裁決の理由を明らかにする資料であって、当該行政庁が保有するものの全部又は一部の提出を求める処分をすることができる
☆処分の取消しの訴えにおいて、裁判所は、訴訟関係を明瞭にするため、必要があると認めるときは、処分の理由を明らかにする資料であって当該処分をした行政庁が保有するものの全部又は一部の提出を求める釈明処分をすることができる
行政事件訴訟法24条本文
※裁判所は、必要があると認めるときは、職権で、証拠調べをすることができる
☆処分の取消しの訴えにおいて、裁判所が職権ですることができる証拠調べの対象は、訴訟要件に関するものに限られない
第2節 取消訴訟の判決
申請処理の遅延による精神的損害の賠償(最判平3.4.26、百選Ⅱ226)
・一般的には、……人が社会生活において他者から内心の静穏な感情を害され精神的苦痛を受けることがあっても、一定の限度では甘受すべきものというべきではあるが、社会通念上その限度を超えるものについては人格的な利益として法的に保護すべき場合があり、それに対する侵害があれば、その侵害の態様、程度いかんによっては、不法行為が成立する余地がある
・一般に、行政庁が認定申請を相当期間内に処分すべきは当然であり、これにつき不当に長期間にわたって処分がされない場合には、早期の処分を期待していた申請者が不安感、焦燥感を抱かされ内心の静穏な感情を害されるに至るであろうことは容易に予測できることであるから、処分庁には、こうした結果を回避すべき条理上の作為義務がある…。そして、処分庁が右の意味における作為義務に違反したといえるためには、客観的に処分庁がその処分のために手続上必要と考えられる期間内に処分できなかったことだけでは足りず、その期間に比してさらに長期間にわたり遅延が続き、かつ、その間、処分庁として通常期待される努力によって遅延を解消できたのに、これを回避するための努力を尽くさなかったことが必要である。
☆水俣病患者認定申請に対する応答処分をしない行政庁の不作為の違法確認を求める訴訟における違法と、当該認定申請に対する行政庁の応答処分の遅延による精神的損害につき賠償を求める国家賠償請求訴訟における違法は異なるから、前者の訴訟に係る認容判決の既判力は、後者の訴訟の当事者及び裁判所に及ばない
放送局免許拒否処分と訴えの利益(最判昭43.12.24、百選Ⅱ180)
・訴外財団と被上告人とは、係争の同一周波をめぐって競願関係にあり、……被上告人に対する拒否処分と訴外財団に対する免許付与とは、表裏の関係にある
・ 被上告人は、自己に対する拒否処分の取消しを遡及しうるほか、競願者(訴外財団)に対する免許処分の取消しをも訴求しうる……が、いずれの訴えも、自己の申請が優れていることを理由とする場合には、申請の優劣に関し再審査を求める点においてその目的を同一にするものであるから、免許処分の取消しを訴求する場合はもとより、拒否処分のみの取消しを訴求する場合にも、郵政大臣による再審査の結果によっては、訴外財団に対する免許を取り消し、被上告人に対し免許を付与するということもありうる
・上告人は、……白紙の状態に立ち返り、あらためて審議会に対し、被上告人の申請と訴外財団の申請とを比較して、はたしていずれを可とすべきか、その優劣についての判定を求め、これに基づいて……決定をなすべきである
☆AとBが同一周波の無線局の開設に係る免許をめぐって競願関係にある場合は、免許付与と免許申請拒否処分は表裏の関係にあるので、Bに与えられた免許が、Aの提起した免許取消訴訟に係る判決で取り消されると、免許申請拒否処分を受けたAには、取消判決の拘束力による再審査の結果、免許を与えられる可能性がある
行政事件訴訟法32条1項
※処分又は裁決を取り消す判決は、第三者に対しても効力を有する
※取消判決がなされると、処分庁による取消しを待つことなく、直ちに当該処分の効果が失われる
☆課税処分を取り消す判決が確定した場合、当該課税処分を前提とする滞納処分としての差押処分がそのまま維持されることはない
行政事件訴訟法37条の3第4項
※行政事件訴訟法37条の3第3項の規定により併合して提起された、義務付けの訴え及び行政事件訴訟法37条の3第3項各号に定める訴え(取消訴訟等)に係る弁論及び裁判は、分離しないでしなければならない
行政事件訴訟法37条の3第6項前段
※行政事件訴訟法37条の3第4項の規定にかかわらず、裁判所は、審理の状況その他の事情を考慮して、行政事件訴訟法37条の3第3項各号に定める訴え(取消訴訟等)についてのみ終局判決をすることがより迅速な争訟の解決に資すると認めるときは、当該訴えについてのみ終局判決をすることができる
第3節 執行停止
行政事件訴訟法25条2項
※処分の取消しの訴えの提起があった場合において、処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があるときは、裁判所は、申立てにより、決定をもって、処分の効力、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部を停止することができる。停止以外の「その他の適切な措置」をすべき旨を命ずることはできない
☆執行停止の決定をする場合においては、本案の訴えが提起されていなければならないが、当該訴えは適法でなければならない
☆自己が受けた行政処分に不服がある者は、当該処分の執行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があるときでも、当該処分の取消訴訟を提起しなければ、裁判所に対し、当該処分の執行停止決定をするよう申し立てることはできない
行政事件訴訟法25条2項ただし書
☆処分の効力の停止は、処分の執行又は手続の続行の停止によって目的を達することができる場合には、することができない
行政事件訴訟法25条3項
※裁判所は、行政事件訴訟法25条2項に規定する重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たっては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとする
☆執行停止決定がされるための要件の1つとして、当該処分、処分の執行又は手続の続行により重大な損害を生ずるおそれがあることが必要であるが、その有無を判断するに当たっては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに当該処分の内容及び性質をも勘案するものとされている
※執行停止については、積極要件として、①本案訴訟の継続、②重大な損害を避けるため緊急の必要があるとき(25条2項)という2つの要件と、消極要件として、①公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき、②本案について理由がないとみえるとき(25条4項) という2つの要件が規定されている。
☆執行停止決定がされるための要件の一つとして、当該処分、処分の執行又は手続の続行により重大な損害を生ずるおそれがあることが必要であるが、その有無を判断するに当たっては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに当該処分の内容及び性質をも勘案するものとされている
行政事件訴訟法25条6項
※執行停止の決定は、口頭弁論を経ないですることができる。ただし、あらかじめ、当事者の意見を聞かなければならない
☆執行停止決定は、緊急の必要がある場合に限らず、口頭弁論を経ないですることができる
※執行停止の申立てに対する審理について口頭弁論を開くかどうかは、裁判所の判断による(本文)。
※口頭弁論を開かない場合には、あらかじめ当事者の意見をきかなければならない(ただし書)。
行政事件訴訟法44条
※行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為については、民事保全法に規定する仮処分をすることができない
☆民事保全法に規定する仮処分をもっては、裁判所は、処分の執行停止を命ずることはできない
※行政庁の処分については、民事保全法に規定する仮処分をなしえないから、立担保の規定も適用されない
☆公権力の行使にかかわらない公法上の法律関係に関する確認の訴えについて、執行停止に関する行政事件訴訟法の規定は準用されないから、同訴えと併せて執行停止の申立てをすることは不適法である
行政事件訴訟法32条2項、1項
☆処分の効力の全部を停止する旨の決定が確定した場合において、当該決定は、第三者に対しても効力を有する
行政事件訴訟法26条1項
※執行停止の決定が確定した後に、その理由が消滅し、その他事情が変更したときは、裁判所は、相手方の申立てにより、決定をもって、執行停止の決定を取り消すことができる(事情変更による執行停止の取消し)
☆執行停止決定が確定した後に、事情が変更したときは、裁判所は、相手方の申立てにより、当該決定を取り消すことができる。
第4節 教示
第21章 取消訴訟以外の抗告訴訟
第1節 無効等確認訴訟
行政事件訴訟法19条1項
※原告は、取消訴訟の口頭弁論の終結に至るまで、関連請求に係る訴えを取消訴訟に併合して提起することができる
行政事件訴訟法38条1項
※19条1項の規定は取消訴訟以外の抗告訴訟について準用される
☆無効確認訴訟と国家賠償請求訴訟とは同種の訴訟手続ではないものの、Xは、本件無効確認訴訟の提起後に、本件建築確認が違法であることを理由として、それにより生じた損害について、市に対する国家賠償法第1条第1項に基づく損害賠償請求に係る訴えを本件無効確認訴訟に併合して適法に提起することができる
※処分・裁決が無効の場合、そもそも法律関係が当初から変動していないので、取消判決の形成力は観念できず、取消判決の第三者効の規定は準用されていない
行政事件訴訟法38条3項
※執行停止の規定(行政事件訴訟法25条〜29条)は、無効確認訴訟について準用される
第2節 不作為の違法確認訴訟
☆公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法又は公害健康被害の補償等に関する法律に基づき、水俣病と認定すべき旨の申請を知事に行ったものの、何らの応答処分を相当期間内に受けなかったという場合、申請者としては、不作為の違法確認の訴えを適法に提起することができる
第3節 義務付け訴訟
※義務付け訴訟の判決の効力については、拘束力(33条)の規定は準用されるが、取消判決の第三者効を定めた規定(32条)は準用されていない(38条1項)。義務付け判決は、処分・裁決をすべき行政庁その他関係行政庁を拘束するものの、原則として第三者に対して効力を持たない。
※非申請型義務付け訴訟の訴訟要件の一つとして、「一定の処分がなされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあ」ることが要求されている。これに対して、申請型義務付け訴訟においては、この「重大な損害」の要件は定められていない
☆非申請型義務付け訴訟を提起しようとする者は、少なくとも、行政庁が処分をすべき旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者である必要がある
☆申請型義務付け訴訟を提起しようとする者は、少なくとも、法令に基づく申請又は不服申立てをした者である必要がある
※申請型義務付け訴訟を提起する場合と異なり、非申請型義務付け訴訟を提起する際には、取消訴訟又は無効確認訴訟を併合提起することは要件とされていない
☆建築確認を受けて建築された建築物について、近隣住民は、建築確認の取消訴訟又は無効確認訴訟を併合提起しなくても、違反是正命令の義務付け訴訟を適法に提起することができる
※義務付け判決は、行政庁が求められた処分をすべきことを命じるものである。請求を認容する義務付け判決があった場合、拘束力により、行政庁は、判決の義務付けに係る処分又は裁決をしなければならないという義務を負う
※判例は、取消訴訟における違法判断の基準時を原則として処分時としている。これに対し、義務付け訴訟における判断の基準時は、民事訴訟の原則に従い、口頭弁論終結時であると解されている。しかし、併合された取消訴訟等に理由があると認められることが義務付け訴訟の本案勝訴要件の1つであるから、取消訴訟が棄却されれば、義務付け訴訟は認容されない
第4節 非申請型義務付け訴訟
第5節 申請型義務付け訴訟
第6節 差止訴訟
☆「差止めの訴え」の訴訟要件については、一定の処分がされようとしていること、すなわち、行政庁によって一定の処分がされる蓋然性があることが、救済の必要性を基礎づける前提として必要となる
行政事件訴訟法37条の4第5項
※「その差止めの訴えに係る処分又は採決につき、行政庁がその処分若しくは裁決をすべきでないことがその処分若しくは採決の根拠となる法令の規定から明らかであると認められ又は行政庁がその処分若しくは採決をすることがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められる」ことが差止訴訟の本案勝訴要件である
懲戒処分差止訴訟と義務不存在確認訴訟(最判平24.2.9、百選Ⅱ214)
・差止めの訴えの訴訟要件としての……「重大な損害を生ずるおそれ」があると認められるためには、処分がされることにより生ずるおそれのある損害が、処分がされた後に取消訴訟等を提起して執行停止の決定を受けることなどにより容易に救済を受けることができるものではなく、処分がされる前に差止めを命ずる方法によるのでなければ救済をうけることが困難なものであることを要する
・行政庁が処分をする前に裁判所が事前にその適法性を判断して差止めを命ずるのは、国民の権利利益の実行的な救済及び司法と行政の権能の適切な均衡の双方の観点から、そのような判断と措置を事前に行わなければならないだけの救済の必要性がある場合であることを要するものと解される
・本件通達を踏まえた本件職務命令の違反を理由として一連の類似の懲戒処分がされることにより生ずる損害は、処分がされた後に取消訴訟等を提起して執行停止の決定を受けることなどにより容易に救済を受けることができるものであるとはいえず、処分がされる前に差止めを命ずる方法によるのでなければ救済を受けることが困難なものであるということができ、その回復の困難の程度等に鑑み、本件差止めの訴えについては、……「重大な損害を生ずるおそれ」がある
・本件通達を踏まえ、毎年度2回以上、都立学校の卒業式や入学式等の式典に際し、多数の教職員に対し本件職務命令が繰り返し発せられ、その違反に対する懲戒処分が累積し加重され、おおむね4回で……停職処分に至るものとされている。このように本件通達を踏まえて懲戒処分が反復継続的かつ累積加重的にされる危険が現に存在する情況の下では、事案の性質等のために取消訴訟等の判決確定に至るまでに相応の期間を要している間に、毎年度2回以上の各式典を契機として上記のように懲戒処分が反復継続的かつ累積加重的にされていくと事後的な損害の回復が著しく困難になる
・本件職務命令自体は抗告訴訟の対象となる行政処分に当たらない以上、本件確認の訴えを行政処分たる行政庁の命令に基づく義務の不存在の確認を求める無名抗告訴訟とみることもできないから、……本件確認の訴えを無名抗告訴訟としか構成し得ないものということはできない
・将来の不利益処分の予防を目的とする事前救済の争訟方法として法定された差止めの訴えについて「その損害を避けるため他に適当な方法があるとき」ではないこと、すなわち補充性の要件が訴訟要件として定められていること等に鑑みると、職務命令の違反を理由とする不利益処分の予防を目的とする無名抗告訴訟としての当該職務命令に基づく公的義務の不存在の確認を求める訴えについても、上記と同様に補充性の要件を満たすことが必要となり、特に法定公告訴訟である差止めの訴えとの関係で事前救済の争訟方法として補充性の要件を満たすか否かが問題となるものと解するのが相当である
・本件職務命令に基づく公的義務の不存在の確認を求める本件確認の訴えは、……懲戒処分の予防を目的とする無名抗告訴訟としては、法定公告訴訟である差止めの訴えとの関係で事前救済の争訟方法としての補充性の要件を欠き、他に適当な争訟方法があるものとして、不適法というべきである
・本件においては、……法定公告訴訟として本件職務命令の違反を理由としてされる蓋然性のある懲戒処分の差止めの訴えを適法に提起することができ、その本案において本件職務命令に基づく公的義務の存否が判断の対象となる
・本件職務命令に基づく公的義務の不存在の確認を求める本件確認の訴えは、行政処分以外の処遇上の不利益の予防を目的とする公法上の法律関係に関する確認の訴えとしては、その目的に即した有効適切な争訟方法であるということができ、確認の利益を肯定することができる
☆処分の差止めの訴えについて行政事件訴訟法37条の4第1項所定の「重大な損害を生ずるおそれ」があると認められるためには、処分がされることにより生ずるおそれのある損害が、処分がされた後に取消訴訟又は無効確認訴訟を提起して執行停止の決定を受けることなどにより容易に救済を受けることができるものではなく、処分がされる前に差止めを命ずる方法によるのでなければ救済を受けることが困難であることを要する
☆教職員が本件職務命令に基づく義務の不存在の確認を求める訴えは、本件職務命令の違反を理由としてされる蓋然性のある懲戒処分の差止めの訴えを法定の類型の抗告訴訟として適法に提起することができ、その本案において当該義務の存否が判断の対象となるという事情の下では、上記懲戒処分の予防を目的とするいわゆる無名抗告訴訟としては、他に適当な争訟方法があるものとして、不適法である
☆教職員が本件職務命令に基づく義務の不存在の確認を求める訴えは、本件事情の下では、本件職務命令の違反を理由とする行政処分以外の処遇上の不利益の予防を目的とする公法上の法律関係に関する確認の訴えとして、確認の利益がある
第7節 仮の義務付け・仮の差止め
※処分の取消しの訴えについて出訴期間が経過したからといって、当該処分の無効確認の訴えにおける執行停止について「緊急の必要」を欠くものとはいえない
☆行政庁に対し一定の処分を求める申請を行い、当該行政庁がその処分をすべきであるのにこれがされない場合、当該処分につき仮の義務付けの申立てをするには、併せて不作為の違法確認の訴えを提起するだけでは足りず、更に義務付けの訴えを提起する必要がある
行政事件訴訟法37条の5第4項、25条6項
☆裁判所は、仮の差止めを命ずる決定をする場合は、常にあらかじめ相手方の意見を聴かなければならない
☆行政事件訴訟法は、仮の救済手続として仮の義務付け、執行停止及び仮の差止めの制度を定めている。申請についての拒否処分がされた場合に、仮の救済手続として考えられるのは仮の義務付けであるが、償うことのできない損害を避けるため緊急の必要がある時が要件となる。営業停止等の不利益処分がなされている場合に、仮の救済手続として考えられるのは執行停止であるが、処分の取消の訴えの提起が必要である
第22章 当事者訴訟・争点訴訟
第1節 当事者訴訟
第2節 争点訴訟
第3節 仮処分
第23章 国家賠償
第1節 国家賠償制度
最判昭36.4.21
・行政処分が違法であることを理由として国家賠償の請求をするについては、あらかじめ右行政処分につき取消し又は無効確認の判決を得なければならないものではない
第2節 国家賠償法1条
在外邦人の選挙権に関する確認訴訟(最大判平17.9.14、百選Ⅱ215)
・平成10年改正前の公職選挙法が……上告人らに衆議院議員の選挙及び参議院議員の選挙における選挙権の行使を認めていない点において違法であることの確認を求める訴えは、過去の法律関係の確認を求めるものであり、この確認を求めることが現に存する法律上の紛争の直接かつ抜本的な解決のために適切かつ必要な場合であるとはいえないから、確認の利益が認められず、不適法である
・平成10年改正後の公職選挙法が……上告人らに衆議院小選挙区選出議員の選挙及び参議院選挙区選出議員の選挙における選挙権の行使を認めていない点において違法であることの確認を求める訴えについては、他により適切な訴えによってその目的を達成することができる場合には、確認の利益を欠き不適法であるというべきところ、本件においては、……予備的確認請求に係る訴え(原告らが今後直近に実施される衆議院小選挙区選出議員の選挙及び参議院選挙区選出議員の選挙において選挙権を行使する権利を有することの確認)の方がより適切な訴えであるということができるから、……主位的確認請求に係る訴え(平成10年改正後の公職選挙法が、原告らに衆議院小選挙区選出議員の選挙及び参議院選挙区選出議員の選挙における選挙権の講師を認めていないことが違法であることの確認)は不適法であるといわざるをえない
・選挙権はこれを行使することができなければ意味がないものといわざるを得ず、侵害を受けた後に争うことによっては権利行使の実質を回復することができないものであるから、その権利の重要性にかんがみると、具体的な選挙につき選挙権を行使する権利の有無につき争いがある場合にこれを有することの確認を求める訴えについては、それが有効適切な手段であると認められる限り、確認の利益を肯定すべきものであるところ、本件の予備的確認請求に係る訴えは、公法上の法律関係に関する確認の訴えとして……確認の利益を肯定することができるものに当たるというべきである
・そうすると、本件の予備的確認請求に係る訴えについては、引き続き在外国民である同上告人らが、次回の衆議院議員の総選挙における小選挙区選出議員の選挙及び参議院議員の通常選挙における選挙区選出議員の選挙において、在外選挙人名簿に登録されていることに基づいて投票をすることができる地位にあることの確認を請求する趣旨のものとして適法な訴えということができる
☆この判決は、①平成10年改正前の公職選挙法が、原告らに衆議院議員の選挙及び参議院議員の選挙における選挙権の行使を認めていなかったことが違法であることの確認の訴えは、過去の法律関係の確認を求めるものであって、確認の利益を欠くから、不適法であるとした
☆この判決は、③原告らが今後直近に実施される衆議院小選挙区選出議員の選挙及び参議院選挙区選出議員の各選挙において選挙権を行使する権利を有することの確認を求める訴えが適法と判断するにあたり、選挙権は侵害を受けた後に争うことによっては権利行使の実質を回復することができない性質のものであることを考慮している
交通犯罪捜査事務の帰属(最判昭54.7.10、百選Ⅱ238)
・都道府県警察の警察官がいわゆる交通犯罪の捜査を行うにつき故意又は過失によって違法に他人に損害を加えた場合において国家賠償法1条1項によりその損害の賠償の責めに任ずるのは、原則として当該都道府県であり、国は原則としてその責めを負うものではない
・警察法及び地方自治法は、都道府県に都道府県警察を置き、警察の管理及び運営に関することを都道府県の処理すべき事務と定めている……ものと解されるから、都道府県警察の警察官が警察の責務に属する交通犯罪の捜査を行うことは、検察官が自ら行う犯罪の捜査の補助に係るものであるときのような例外的な場合を除いて、当該都道府県の公権力行使にほかならない
国庫補助事業と費用負担者の責任(最判昭50.11.28、百選Ⅱ250)
・国家賠償法……3条1項所定の設置費用の負担者には、当該営造物の設置費用につき法律上負担義務を負う者のほか、この者と同等もしくはこれに近い設置費用を負担し、実質的にはこの者と当該営造物による事業を共同して執行していると認められるものであって、当該営造物の瑕疵による危険を効果的に防止しうる者も含まれると解すべき
・法律の規定上当該営造物の設置をなしうることが認められている国が、自らこれを設置するにかえて、特定の地方公共団体に対しその設置を認めたうえ、右営造物の設置費用につき当該地方公共団体の負担額と同等もしくはこれに近い経済的な補助を供与する反面、右地方公共団体に対し法律上当該営造物につき危険防止の措置を請求しうる立場にあるときには、国は、同項所定の設置費用の負担者に含まれる
児童養護施設における事故と損害賠償責任(最判平19.1.25、百選Ⅱ239)
・国又は公共団体以外の者の被用者が第三者に損害を加えた場合であっても、当該被用者の行為が国又は公共団体の公権力の行使に当たるとして国又は公共団体が被害者に対して同項に基づく損害賠償責任を負う場合には、被用者個人が民法709条に基づく損害賠償責任を負わないのみならず、使用者も同法715条に基づく損害賠償責任を負わないと解するのが相当である
学校事故と国家賠償責任(最判昭62.2.6、百選Ⅱ223)
・国家賠償法1条1項にいう「公権力の行使」には、公立学校における教師の教育活動も含まれる
「職務を行うについて」の意義(最判昭31.11.30、百選Ⅱ236)
・国家賠償法1条1項は、公務員が主観的に権限行使の意思をもってする場合にかぎらず自己の利をはかる意図をもってする場合でも、客観的に職務執行の外形をそなえる行為をしてこれによって、他人に損害を加えた場合には、国又は公共団体に損害賠償の責を負わしめて、ひろく国民の権益を擁護することをもって、その立法の趣旨とするものと解すべきである
校庭開放中の事故(最判平5.3.30、百選Ⅱ248)
・審判台の通常有すべき安全性の有無は、……本来の用法に従った使用を前提とした上で、何らかの危険発生の可能性があるか否かによって決せられるべきものといわなければならない
☆公の営造物が通常有すべき安全性の有無は、当該営造物の本来の用法に従った使用を前提として判断されるものであり、設置管理者の通常予測し得ない異常な方法で営造物が使用された結果生じた損害については、設置管理者は責任を負わない
検察官の公訴提起と国家賠償責任(最判昭53.10.20、百選Ⅱ235)
・刑事事件において無罪の判決が確定したというだけで直ちに……公訴の提起・追行……が違法となるということはない
・公訴の提起は、検察官が裁判所に対して犯罪の成否、刑罰権の存否につき審判を求める意思表示にほかならないのであるから、起訴時あるいは公訴追行時における各種の証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があれば足りる
裁判官の職務行為と国家賠償責任(最判昭和57.3.12、百選Ⅱ228)
・裁判官がした争訟の裁判に上訴等の訴訟法上の救済方法によって是正されるべき瑕疵が存在したとしても、これによって当然に国家賠償法1条1項の規定にいう違法な行為があったものとして国の損害賠償責任の問題が生ずるわけのものではなく、右責任が肯定されるためには、当該裁判官が違法又は不当な目的をもって裁判をしたなど、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような特別の事情があることを必要とする
☆弁護士会は、弁護士法により、弁護士に対する懲戒権の行使を委ねられている団体であり、その懲戒権の行使は「公権力の行使」に当たるから、国家賠償法1条にいう「公共団体」に当たると解されている
第3節 国家賠償法2条
第4節 賠償責任者
第5節 民法・特別法との関係
第6節 相互保証主義
第24章 損失補償
第1節 損失補償制度
第2節 損失補償の要否
土地収用法74条1項
※同一の土地所有者に属する一団の土地の一部を収用し、又は使用することによって、残地の価格が減じ、その他残地に関して損失が生ずるときは、その損失を補償しなければならない(残地補償)
☆Aが所有する一団の土地の一部が収用された事例において、残地部分が不整形になり、その価格が収用前に比べて減少した場合には、起業者はAに対して、残地に関する損失を補償しなければならない
土地収用法93条1項前段
※土地を収用し、又は使用して、その土地を事業の用に供することにより、当該土地及び残地以外の土地について、通路、溝、垣、さくその他の工作物を新築し、改築し、増築し、若しくは修繕し、又は盛土若しくは切土をする必要があると認められるときは、起業者は、これらの工事をすることを必要とする者の請求により、これに要する費用の全部又は一部を補償しなければならない
☆ある土地が道路用地として収用され、道路が建設された結果、道路面とその隣接地との間に高低差が生じた事例において、隣接地の所有者Bが高低差を解消するために通路の設置を余儀なくされた場合には、Bは起業者に対して、通路設置に要した費用の補償を請求することができる
土地収用法71条
※収容する土地又はその土地に関する所有権以外の権利に対する補償金の額は、近傍類地の取引価格を考慮して算定した事業の認定の告示のときにおける相当な価格に、権利取得裁決の時までの物価の変動に応ずる修正率を乗じて得た額とする。