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6月なのに梅雨が来ない。これでは雪野先生が救われないじゃないか〜新海誠「言の葉の庭」

言の葉の庭

梅雨が来ない

 6月に入ったというのに、梅雨が来る気配がありません。例年なら、5月末には九州が梅雨になって、次第に関東や東北も梅雨の気配に包まれるというのにです。今年は台風もまだ発生していないと言いますし…。

 さて、梅雨といえば思い出すのが、新海誠監督の「言の葉の庭」です。

新海誠監督「言の葉の庭」

 靴職人を目指す男子高校生「秋月孝雄」は、雨の日には高校の授業をサボって新宿御苑のベンチで靴のデザインを考えるのが習慣になっていた。ある雨の日、いつもの通り新宿御苑のベンチを訪れると、20代の綺麗な女性「雪野百香里」がベンチにいて…。

 その後も、雨が降るたびに二人はベンチで会い、その距離を縮めていきます。

 最後は新海監督らしく、切ない終わり方になりますが、それだからこそ、この作品は余韻が素晴らしいものになっています。

 世の中には、2種類のアニメ監督がいます。一つは、架空の世界観で、アニメでしかできない表現をする監督(マクロスシリーズの河森正治監督やまどかマギカや物語シリーズの新房監督など)。もう一つは、現実世界をアニメの世界に写し取る監督。

 前者の監督の方が圧倒的に多くて、私自身、実写のドラマでは表現できないことを表現してこそアニメの存在価値があると思っていた時期もあったのですが、新海誠監督の作品を見ると、その考えが忽ちに覆されます。

 秒速5センチメートルしかり、大成建設のCMしかり、新海監督は人間の繊細な心理を描写する天才です。実際にはそんな青春を過ごした訳ではないのですが、新海監督の作品を見ると、その世界が実際に自分の世界で起こったような、切ない気持ちになります。いつか地下鉄で流れていたディズニーランドのCMも新海監督だと信じているのですが、違うのでしょうか。

秒速5センチメートル

 言の葉の庭の世界をより素晴らしいものにしているものに、「短歌」があります。

 最初に正体を尋ねられた雪野先生は、「雷神(なるかみ)の 少し響みて さし曇り 雨も降らぬか 君を留めむ」と突然呟きます。

 それに対して数日後、孝雄は「雷神(なるかみ)の 少し響みて 降らずとも 我は留らむ 妹し留めば」と返す。

 数百年前の雨の短歌を、現代の雨のアニメに織り込んでいく。そんな離れ業も、新海監督だからこそできるものだと思います。

 「"愛"よりも昔、"孤悲(こい)"のものがたり」というキャッチコピーも本当に秀逸です。これ以上にこの作品を表現する言葉はないでしょう。こんなキャッチを考えられる感性を持ちたいですね。

 ということで、生きるのに疲れた人、悲しい別れをした人、普通のアニメに飽きた人、それから梅雨が待ち遠しい人は、是非、見てみてくださいね。