99.9 -刑事専門弁護士- 第9話
これまでずっと、単純明解な謎・問題を、コミカルな演技と随所に溢れる小ネタで盛り上げてきた99.9。ですが、第9話は一転して、2段仕掛けの謎解きで、ちょっとした法律知識も出てきて面白かったですね。
ただ逆に、代襲相続とか、相続人の欠格事由とか、普段親しみのない用語や概念が出てきたので、すっと頭に入って来なかった方もいるのではないかと思います。そこで、この記事では、ドラマのラストについて詳しく、法律的な立場から解説してみたいと思います。
と、法律的な解説に入る前に、まず、あらすじを振り返ってみましょう。
あらすじ
深山 (松本潤) は 佐田 (香川照之) から指示を受け、彩乃 (榮倉奈々) らとともに、莫大な資産を有する山城鉄道の会長の自宅を訪ねる。するとそこには殺害された会長の遺体と、それを取り囲む家族らがいた。状況を聞くと、三男の嫁で妊娠中である皐月 (国仲涼子) が犯行を自供した。脳梗塞を患った義父を懸命に介護したが、満足してもらえないまま罵倒される日々が重なり、耐えられなくなっての犯行だという。さらに事件当時、自宅で一緒に暮らしていた家族たちも全員、皐月の犯行を認める供述をし、すぐに解決するかに見えた事件であった。
しかし、深山はある違和感を嗅ぎ取る。 皆の証言を深く掘り下げてゆくと、それはまるで “無理につじつまを合わせたかのように一致” しており、そこを鍵にして、長男が殺した事実を家族ぐるみで隠していたという事実を暴き出す。
これで一件落着かと思いきや、最後、皐月(国仲涼子)を斑目法律事務所に呼び出した深山(松本潤)が、佐田(香川照之)と彩乃(榮倉奈々)の同席のもと、次のように語り出します。
深山(松本潤)「あなたは、罪を被る振りをして、僕たちが真相に辿りつくのを、赤ワインの話をわざわざ出して、巧みに誘導したんですね。全ては、山城会長の遺産を手に入れるため。皐月さんには相続権はない。相続権があるのは、3人の兄弟と、敬二さんの息子の良典さん。でも、長男の功一さんは、殺人を犯し、相続権はなくなるでしょう。そして敬二さんも、隆三さんも、良典さんも、犯人を隠匿しているため、同じく相続権は失うことになるでしょう。でも、たった一人だけ、遺産を相続できる人がいるんです。」
彩乃(榮倉奈々)「お腹の中の赤ちゃん!」
佐田(香川照之)「代襲相続かー!!」
彩乃(榮倉奈々)「民法886条、胎児は、相続については、生まれているものとみなす。」
佐田(香川照之)「皐月さんあなた、家族全員の遺産の相続権をなくすために…。」
深山(松本潤)「あなたは、自分が罪を被ると言って、彼らの相続権をなくした。そして、山城会長が持っていた全ての財産を、自分の子供に行くようにした。」
このやりとりを見て、一発でどういうことかわかった人は、すごいですね。
私は、今回の事件が「莫大な遺産相続」に関するものであり、「自供した皐月(国仲涼子)に子供がいる」という事実が判明した時に、この事件の大枠を見破ることができたので、この説明にすんなり納得することができましたが、かなり説明を省略しています。
事実関係の整理と法律的な解説
さて、それでは解説にあたり、事実関係を整理していきましょう。
殺された山城会長には、次のような7人の家族がいました。
上の写真だと分かりにくいので、個別に見ていきましょう。
まずは、長男の功一とその妻の育江。
次に、次男の敬二とその妻の昌子、それから2人の息子(会長の孫)の良典の3人。
最後に、三男の隆三と、その妻であり今回犯行を自供した皐月の2人。
この中で、本件殺人事件等がなかった場合に、山城会長の相続権を有しているのは、会長の子である長男の功一、次男の敬二、三男の隆三の3人です。当然ながら、それぞれの妻は会長に対して直接の親子関係にある訳ではないため、相続権を有しません。また、次男の息子である良典は、次男の敬二が相続権を有している限り、相続権を有しません。根拠は、民法第887条第1項です。
第887条第1項 被相続人の子は、相続人となる。
ただし、今回は、長男の功一が被相続人である山城会長を殺しているため、欠格事由に該当し、相続権を失うことになると考えられます。根拠は、民法第891条第1号です。
第891条 次に掲げる者は、相続人となることができない。
第1号 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
従って、皐月(国仲涼子)が何らアクションを起こさなければ、次男の敬二と三男の隆三がそれぞれ半分ずつ会長の遺産を相続することになる予定でした。
しかし、今回、皐月(国仲涼子)が山城家の皆に自分が犯人として長男の身代わりになることを提案し、次男の敬二と三男の隆三はそれに応じて皐月(国仲涼子)を犯人として告発しているため、こちらも欠格事由に該当し、相続権を失うことになると考えられます。根拠は民法第891条第2号です。
第891条 次に掲げる者は、相続人となることができない。
第2号 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
今回、一応告発自体はしているので、民法第891条第2号の文言を直接適用できないケースですが、長男の功一が犯人であることを知った上で別の者(皐月)を犯人として告発しているため、同様に欠格事由に当たるものと考えられます。なお、同号のただし書に「殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない」とありますが、今回は長男の功一が殺人者であり、告発をしなかったのはその兄弟である次男の敬二と三男の隆三であり、兄弟は直系血族に当たらないため、ただし書には該当しません。
ここで、次男の敬二が相続権を失うことにより、敬二の息子である良典が敬二の代わりに相続をする可能性が生じます。このように、欠格事由への該当することなどにより相続権を失った者に子がいる場合、その子が親に代わって相続をすることができます。これを代襲相続と言います。親が欠格事由に該当するような行為をしていなければ、いずれその親が相続した財産はその子へと相続されることになります。それを、親が欠格事由に当たる行為をしたことによって、親本人が相続権を失うだけでなく、子がその財産を相続する途すらも断つのは、個人主義をベースとする現在の法制度において非合理であるため、このような制度になっています。根拠は、民法第887条第2項です。
民法第887条第2項 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。
ただし、今回、次男の息子の良典は、次男や三男と同様に長男の功一が犯人であることを知った上で別の者(皐月)を犯人として告発しているため、次男や三男が欠格事由に該当するのであれば同様に代襲相続権を失うことになり、結局遺産を相続することができません。
以上より、最初に見た山城会長の家族の7人はすべて会長の遺産の相続権を有しないことになります。
あれ、これでは国仲涼子にとってもメリットが何もないのでは?と思った方、彩乃(榮倉奈々)の発言にあった「民法第886条」を思い出してみましょう。
第886条第1項 胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。
胎児は基本的に民法上の権利を有しませんが、生命としては存在している以上、母親の母体から出てくるのが早いか遅いかの違いだけで相続権を有するか有しないかの差を生じさせることは不合理であることから、相続については例外的にこのような規定が置かれています。
この規定に基づき、皐月(国仲涼子)が懐胎している胎児は、出生の際、相続時に遡って相続権を有することになります。
上で見たように、山城家の人間は皆相続権を有さないため、当該胎児が無事に出生した場合は、唯一相続権を有する人となり、山城会長の有していた莫大な資産を全て相続することができます。
つまり、皐月(国仲涼子)は、本来何もアクションを起こさなければ次男と三男で半分ずつ相続していた山城会長の遺産を、自分を長男の身代わりとして告訴させ(、しかも、深山(松本潤ら)を誘導してその真実を暴かせ)ることによって、全て今後生まれてくるであろう自分の息子に相続させる構図を作ることに成功したのです。
その結果が、この記事の最初に掲載した不敵な笑みなのです。
実際のところ、今回のようなケースで次男や三男が欠格事由に該当するのかどうかは微妙ですが、一旦解決したかに見せてからのどんでん返し、とても面白い回でした。15分拡大しただけありますね。来週はいよいよ最終回!深山(松本潤)の父親の因縁を晴らすことになるのか、楽しみです。