岩手県盛岡駅に一つだけ存在する酒屋
以前、岩手県盛岡市に住んでいたことがあった。
東北といえば、日本酒の銘醸地。
岩手県もその例外ではなく、南部美人や月の輪といった素晴らしい日本酒が多く存在し、東京への手土産には欠かすことができなかった。
しかし、そのお土産の入手について当時多少面倒なことがあったことを、下の記事を読んで思い出したので書かせてもらいたい。
盛岡に赴任してから1ヶ月、一度東京に戻る機会があり、お土産として日本酒を買っていこうと考えた。御存知の通り、日本酒はガラス製の瓶に入っており、中身も水分であることから結構な重さになる。そのため、出来る限り運ぶ距離は短くしたい。だから、日本酒は東京行の新幹線が出発する盛岡駅で買おうと考えた。
盛岡駅には、「おでんせ土産館」という、土産物売り場が集まった一画があり、そこには盛岡駅唯一の酒屋が存在している。お土産の日本酒を購入しようと、余裕を持って盛岡駅に到着した私にむかった。最初の帰郷だったので、岩手の日本酒として最も有名であろう「南部美人」を手に持ち、レジに向かった。普段から必要最低限しか現金を持ち歩かず、基本的にクレジットカードで支払いをしている私は、いつものようにクレジットカードで支払いを済ませようとする。そんなとき、レジで対応していた男性店主(推定50代)から驚くべき言葉を聞いた。
「現金ないの? クレジットカードだと手数料8%が取られちゃうから止めて欲しいんだよね。」
私は耳を疑った。
今の時代、クレジットカード加盟店がクレジットカード払いを拒否してはいけないことくらい、中学生だって知っている。
それなのに、岩手県の県庁所在地盛岡の中心で、新幹線の止まる盛岡駅にある酒屋がなんてことを言い出すのか。商店街に存在する小さい酒屋ならまだしも、来客の絶えない駅内の酒屋でそんなことを言われるとは思わなかった。
そんなことを言われても、本当に現金を3千円程度しか持っていなかった私にはどうしようもない。
「現金ないんで、クレジットカードでお願いします」と事実を述べると、店主は「本当に??」と言いながら渋々クレジットカードの処理を始める。
今回はたまたま虫の居所が悪かったのかな、と思ったのだが、そんなことはなかった。
その後もその酒屋を2,3回利用したが、毎回「現金ないの? クレジットカードの手数料が…」ということを言い始めるのである。その度に「現金ありません」と答えてクレジットカードで支払っていたが、本来であれば不要なそのやりとりに私は嫌気が差した。どうして、嫌味を言われながら買い物をしなければならないのか。
クレジットカード払いをしてもらいたくないのであれば、そもそもカード会社に加盟せず、クレジットカードでの支払いを一切受け付けなければいいのだ。
そんな私は、以降、お土産で日本酒を購入するときはそこの酒屋で買わないようにした。車でイオンに行き、そこで購入した日本酒を持って帰る。その方が価格も安いし、嫌味を言われずに気持ちよく買い物をすることができるからだ。
こうして、クレジットカード払いを拒否した店は顧客を一人失い、大手スーパーチェーンの売上に貢献することになった。
念のため付記しておくが、岩手が田舎だからクレジットカードが浸透しておらず、こんな事態になったなんてことは一切ない。岩手県内でクレジットカード払いを拒否されたのは、この酒屋だけだ。
顧客拡大・単価増大のためにカード払いを導入したのであれば、その手数料の負担は覚悟すべきだし、一切手数料を払いたくないのであればカード払いをそもそも導入しなければよい。お客は増やしたいけど手数料は払いたくないなんていう業突く張りは、結局客をうしなって損をすることになるのである。