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【伊藤塾】伊藤真の話術はやっぱりすごい【司法試験】

司法試験にはやっぱり伊藤塾

 次の試験に向けて、以前受けていた伊藤塾の基礎マスターの授業を受けなおしているところなのですが、改めて思うのは、「やっぱり伊藤真先生の話術はすごいな」ということです。

 法律を勉強した経験がない方にとってはご存知ないかもしれませんが、伊藤真先生というのは、伊藤塾の社長であり、一票の格差訴訟でも有名な弁護士の先生です。

 民事訴訟法の大家でいらっしゃる伊藤眞先生とは別人ですし、くれぐれも某伊藤誠とは混同されないように御注意ください。

民事訴訟法 第5版

民事訴訟法 第5版

  • 作者: 伊藤眞
  • 出版社/メーカー: 有斐閣
  • 発売日: 2016/12/21
  • メディア: 単行本
 

 伊藤真先生の何がすごいかというと、何をおいてもその話術です。

 難しい法律論についても、途切れることなく歯切れの良い言葉と耳触りの良い声でわかりやすく説明してくれるので、テキストだけを読んでいても十分に理解できなくて取っ付きづらい部分でも、伊藤先生の話術にかかればいつの間にか納得した気になっているのです。

 もちろん、ただ聞いてわかったつもりになっていても実際の試験では役に立たないと思われるので、難しい論点については、伊藤先生がどのように説明されていたかを思い出しながら、自分で同じ説明をしてみたりするのですが、このときも伊藤先生の説明口調が滑らかなので、とてもやりやすいんですよね。

 残念なのは、現在伊藤先生の授業が行われているのが、憲法・民法・刑法の3つに限られてしまっていること。

 伊藤塾設立当初は、伊藤先生が全科目担当されていたらしいのですが、手続法も伊藤先生の授業を受けられていたのはとても羨ましいです。当時の映像とか残ってないのかなぁ。

 まあ、ないものは仕方がないですし、最近になって、会社法では田中先生の、刑事訴訟法では川出先生の、読みやすくて分かりやすい素晴らしいテキストが発売されたところですし、このあたりで自分で勉強するしかないですね。川出先生は、学部時代に刑事訴訟法の授業を受けていたのですが、恐れながら、ここまで理論だった説明をされる先生は他にいないのではないかという程素晴らしい先生なので、当時のノートと、捜査・証拠について扱った判例講座のテキストとでバッチリ勉強しなければなと。

会社法

会社法

  • 作者: 田中亘
  • 出版社/メーカー: 東京大学出版会
  • 発売日: 2016/09/29
  • メディア: 単行本
 

 

判例講座 刑事訴訟法〔捜査・証拠篇〕

判例講座 刑事訴訟法〔捜査・証拠篇〕

  • 作者: 川出敏裕
  • 出版社/メーカー: 立花書房
  • 発売日: 2016/03/14
  • メディア: 単行本
 

 ということで、司法試験の勉強に行き詰まっている方や、モチベーションが上がらない方は、是非伊藤塾の伊藤先生の授業を受けてみてください。

 伊藤塾に頼り切るのも禁物ですが、楽しく効率的に勉強する上で、とても役立つと思いますよ!

司法修習生への給費制が復活するって本当?

2016年12月23日更新

司法修習生への給費制復活??

 本日12月19日の読売新聞のネット記事によると、司法修習生への給費制が復活する方向のようですね。もちろん、まだ法案作成段階なので、確かなことは言えませんが。 

 参考までに、司法修習生というのは、司法試験合格後、弁護士としての活動を始める前に受けることを義務付けられた1年の研修を受けている人々のことです。

 昔、ミムラさんやオダギリジョーさん、松雪泰子さんや堤真一さん主演で、司法修習をテーマとする「ビギナー」というドラマが放送されていたこともありました。

ビギナー 完全版 DVD-BOX

ビギナー 完全版 DVD-BOX

  • 出版社/メーカー: フジテレビジョン
  • 発売日: 2004/03/17
  • メディア: DVD
 

 以前は司法修習生に対して、月額約20万円が支給されていましたが、2011年以降給費制は廃止され、貸与制(つまり、単にお金を借りられる制度)になっていました。

 読売新聞の記事によれば、貸与制との併用を想定しているということなので、以前ほどの金額はもらえないんでしょうね。また、本人等の所得で、給付対象を制限するとかでしょうね。

 そうしないと、司法制度改革の時に給費制から貸与制に切り替えた時の理屈を否定しなければいけないことになりますから。

 司法制度改革当時の考え方によれば、司法制度改革(裁判員制度の導入や法科大学院等の制度整備)にかかる多額の財源にあてるために給費制から貸与制に切り替えるということであり、当該費用が当時より抑制されたために制度を再度検討するということかもしれませんが。

参考:平成17年度予算編成の基本的考え方について(平成16年5月17日 財政等審議会) p.24

 裁判員制度の導入、法曹人口の拡大等に伴い、中期的にも財政負担の拡大が見込まれるところである。「11月建議」でも指摘したように、司法修習生の給費制は早期に廃止し貸与制への切替を行うべきであり、また、裁判官・検察官の給与についても、一定の明確な目安を踏まえた昇給の在り方について検討するなど、その在り方について見直しを行うべきである。

 実際、法科大学院に通う生徒も当時よりかなり減少しましたし、そもそもいくつかの法科大学院では募集自体を停止しているので、当時よりは法曹人口拡大のための費用は抑えられているはずですしね。

 私自身としては、給費制が復活したらありがたいとは思いますが、正直どちらでもいいかなと思います。

 だって、当時の水準に戻ったとしても、所詮総額240万円程度ですからね。

 なんて書いたら、市民感覚が欠如していて法曹に不向きみたいなことを言われるかもしれませんが、私自身は240万円が大金であることは認識しています。ただ、社会的正義を実現すべき立場にある法曹が、たかが240万円を得たいがために給費制復活を声高に要請するのはどうなのかなと思ったり(もちろん、既に修習を終えられて、自分の利益ではなく法曹界の未来のためにそのような活動をされている方もいらっしゃることは承知していて、その方々をとやかく言うつもりはありません)。

 そんなことのために時間と労働力を使うくらいであれば、もっと他の法律問題に力を注いで、社会の利益を増やすと同時にさっさと貸与された金額を返済した方が生産的ではないかと思うのです。

 

 なお、どのような経緯で今回のような動きになっているのかを簡単に追ってみたのですが、平成28年に開かれている法曹養成制度改革連絡協議会の中で、改めて司法修習生に対する経済的支援の在り方が検討されているんですね。平成25年の時点では、法曹養成制度検討会議において「給費制とすべきとの意見もあったが,貸与制を導入した趣旨,貸与制の内容,これまでの政府における検討経過に照らし,貸与制を維持すべきで」という結論になっていたのに(参考:法務省:法曹養成制度検討会議)、ここ数年で方向性が変わるとは。

 当該連絡協議会においては、第2回協議会で問題提起されて、第4回協議会で経過報告がされているのですが、今のところ調査結果などがどのように扱われどのような判断がなされているのかは法務省のHP上では分かりません。

 協議会を傍聴している記者の方などは経過を詳しく知っているはずなので、マスコミの今後の報道や法務省のプレスリリース等は今後も要チェックですね!

(12月23日追記)

 法務省の発表によると、生活費として必要最低限度の13万5千円を一律に給付するというものでした。家賃補助も入れたら月17万円。以前の制度よりは減額されていないものの、司法修習生にとってはとても助かる制度になりそうですね。

 この時点で詳細な金額までマスコミにオープンにするということは、財務省との予算要求もほぼ確実に通るということなんでしょうね。

ドラマ「キャリア」で殺人罪時効廃止の遡及効が活用された!

フジテレビ系ドラマ「キャリア~掟破りの警察署長~」オリジナルサウンドトラック

殺人罪の時効廃止は、法改正前に犯行を行った人物にも適用されます

 玉木宏さん主演のドラマ「キャリア 〜掟破りの警察署長〜」の中で、法律的に面白いシーンがありました。

 それは、犯人(桐島)が1991年に行った殺人事件に関する時効について扱った次のシーン。

 桐島は、警察官だった玉木宏の父親を1991年に殺害していますが、逮捕されることなく逃亡していました(実際には、警察組織による隠蔽によるものですが、ここでは割愛します)。

 1991年に殺害ということは、以前存在していた「殺人事件に関する時効」の15年が経過した2006年の時点で時効が成立し、起訴することができなくなってしまうようにも思いますが、実は事件直後に5年間フランスに滞在していたため、その間時効が停止していたのです。

 そのため、当該殺人事件に関する時効は2011年に成立するはずでしたが、2010年4月27日に「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律」が公布、即日施行されて殺人罪に関しては時効が廃止されたのです。

 そのため、2010年時点で時効が成立していなかった桐島は、時効が完成する余地がなくなり、2016年時点において、1991年に起こした事件の罪で逮捕されるに至りました。このことにより、事件隠蔽に関わっていた警察の上層部は責任をとって総辞職。めでたしめでたし。

 という流れでした。

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(キャリア 〜掟破りの警察署長〜 第10話より)

 視聴者の方にはもしかしたら、法改正前に起こした殺人事件についても、時効が撤廃されるなんて本当なの?って思われた方もいらっしゃるかもしれません。

 しかしこれについては、実際に最高裁判所の判例(2015年12月3日)があるのです。

 その中では、1997年に起きた強盗殺人事件について、2012年に時効が完成されるはずだったのに、2010年の法改正により時効が撤廃され、2013年に逮捕された事案が争われていました。

 前提として、2010年の「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律」には、次のような経過規定がありました。

 新法第二百五十条第一項の規定は、刑法等の一部を改正する法律(平成十六年法律第百五十六号)附則第三条第二項の規定にかかわらず、同法の施行前に犯した人を死亡させた罪であって禁錮こ以上の刑に当たるもので、この法律の施行の際その公訴の時効が完成していないものについても、適用する

 要するに、2010年の法改正時点で時効が完成していない者についても、時効を廃止するよ、ということです。

 弁護側は、この経過規定が、遡及処罰を禁止した憲法39条及び適正手続を保障した憲法31条に反すると主張しました。

 しかし、最高裁判所は、弁護側のこの主張を退け、当該経過規定は合憲とし、1997年に発生した強盗殺人事件について時効が成立していないことを認めたのです。

 その主な理由が、次のとおり。

 公訴時効制度の趣旨は,時の経過に応じて公訴権を制限する訴訟法規を通じて処罰の必要性と法的安定性の調和を図ることにある。本法は,その趣旨を実現するため,人を死亡させた罪であって,死刑に当たるものについて公訴時効を廃止し,懲役又は禁錮の刑に当たるものについて公訴時効期間を延長したにすぎず行為時点における違法性の評価や責任の重さを遡って変更するものではない。そして,本法附則3条2項は,本法施行の際公訴時効が完成していない罪について本法による改正後の刑訴法250条1項を適用するとしたものであるから,被疑者・被告人となり得る者につき既に生じていた法律上の地位を著しく不安定にするようなものでもない
 したがって,刑訴法を改正して公訴時効を廃止又は公訴時効期間を延長した本法の適用範囲に関する経過措置として,平成16年改正法附則3条2項の規定にかかわらず,同法施行前に犯した人を死亡させた罪であって禁錮以上の刑に当たるもので,本法施行の際その公訴時効が完成していないものについて,本法による改正後の刑訴法250条1項を適用するとした本法附則3条2項は,憲法39条,31条に違反せず,それらの趣旨に反するとも認められない

 もちろん、最高裁の考え方が絶対の真理というわけではないですし、もし弁護する立場であれば憲法違反を主張したくなるのもわかりますが、利害関係のない客観的な立場から考えると、これについては時効の趣旨を踏まえた最高裁判所の判断が適切なものであるように思われます。

 そもそも、刑事事件における時効の制度は、犯人の利益のためにある訳ではないですからね。

 判決の全文が読みたい方は、こちら(http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/518/085518_hanrei.pdf)をご覧ください。

 というわけで、ドラマの中ではさりげないシーンでしたが、実は犯人逮捕のためにとても重要な理論でしたし、こういう小ネタをビシっと入れてくるのは面白いですね!

ひき逃げよりも轢いた相手を車に乗せたほうが刑が重くなる? 〜不思議な刑法の世界〜

轢いた人を車に乗せると殺人罪になることも?

 法律を勉強していると、たまに自分の感覚とずれている事象に出くわします。

 もちろん、あくまでも試験科目の範囲内だけで論じているからで、実際の社会では特別法によって修正されていることも多いのですが、今回はそういう不思議な事例のひとつを紹介します。

前提となる3つのケース

 まず前提として、次のような3つのケースを想定します。

1 単なるひき逃げの後、死亡してしまったケース

 自動車を運転していたXさんは、日中、人通りの多い道路で事故を起こし、歩行者Yさんを負傷させてしまった。事故に驚いたXさんは、救急車を呼ぶなどの救命行為をすることなく、Yさんの存在を認識しながらも、死んでしまっても仕方ないと思いながら自動車の運転を続け、遠方に走り去ってしまった。15分後、Yさんは事故で生じた傷が原因で、当該道路上で死亡してしまった。

2 轢いた人を車に乗せ、車中で死亡してしまったケース

 自動車を運転していたXさんは、日中、人通りの多い道路で事故を起こし、歩行者Yさんを負傷させてしまった。事故に驚いたXさんは、救急車を呼ぶなどの救命行為をすることなく、とりあえずYさんを車に乗せ、死んでしまっても仕方ないと思いながら自動車の運転を続けた。15分後、Yさんは事故で生じた傷が原因で、Xの運転する車の中で死亡してしまった。

3 轢いた人を車に乗せ、その後別の場所に放置した後で死亡してしまったケース

 自動車を運転していたXさんは、日中、人通りの多い道路で事故を起こし、歩行者Yさんを負傷させてしまった。事故に驚いたXさんは、救急車を呼ぶなどの救命行為をすることなく、とりあえずYさんを車に乗せ他の場所に運んだ。事故から10分後、Xは人がまばらな公園の前に車を停め、Yさんを降ろしてから再度車に戻り、Yさんが死んでしまっても仕方ないと思いながら遠方に走り去ってしまった。その5分後、Yさんは事故で生じた傷が原因でその公園で死亡してしまった。

それぞれのケースにおける不真正不作為犯の成立について考える

 もちろん、自動車で事故を起こし、人を轢いてしまったこと自体については、刑法211条の業務上過失致死罪が適用されます(正確には、刑法の特別法である自動車運転処罰法第5条の過失運転致死罪が適用されます。平成に入ってから何度か法改正があったため)。

 なので、いずれにしても刑罰を受けることになるのですが、交通事故の被害者であるYさんを助けなかったこと(不作為)に関しては、少し不思議なことが起こるのです。

前提知識の整理

 その前に、前提知識として不作為犯に関する整理です。

 まず、刑法には、不作為(何かをしないこと)により成立する罪が規定されています。例えば、不退去罪(刑法130条後段)です。

刑法第百三十条  正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。

 人の住居等から、立ち去るように要求されなかったのに退去しなかった場合に、不退去罪が成立します。

 このように、そもそも不作為の形で記述された罪を犯すことを、真正不作為犯と呼びます。

 一方、刑法の条文において、作為(何かをすること)の形で記述された罪を、不作為(何かをしないこと)の形で犯すことを、「不真正不作為犯」と呼びます。

 例えば、目の前の人を助けようと思えば助けられたのに、あえて何もしなかったことでその人が死んでしまった場合には、殺人罪の不真正不作為犯が成立する可能性があります。

刑法第百九十九条  人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。

 もちろん、どのような状況であったとしても、目の前の人を助けず死んでしまった場合に、それを目撃していた人が殺人罪に問われてしまうのは適切ではないので、不真正不作為犯の成立のためには、一般に次の3つの要件が必要とされています。

  1. 法的作為義務の存在
  2. 作為の可能性・容易性
  3. 作為との構成要件的同価値性

 法的作為義務は、①法令、②契約・事務管理、③慣習・条理によって生じますが、今回のようなケースにおいては、XさんはYさんを事故で負傷させているため、③条理によりXさんにはYさんを助ける法的作為義務が存在していたと考えられます。

 また、Xさんは、事故を起こした後、すぐに救急車を呼ぶなどして、Yさんを救うための適切な措置をとることができたものと考えられ、2つ目の要件である作為の可能性・容易性も満たします。

 そこで、問題となるのが、3つ目の要件である作為との構成要件的同価値性です。

 これは、言葉は難しいのですが、要するに不作為自体に法益侵害惹起の現実的危険性があったのか、ということです。

 たとえば、人が周りに沢山いる中で、人を殴って昏倒させた場合、殴った人が殴られた人を置いて去っていったとしても、殴られた人は他の周りの人に救助される可能性が高く、放置する行為(不作為)自体には、法益侵害惹起の現実的危険性があったとはかんがえにくいです。このような場合、作為との構成要件的同価値性を欠くと言います。

 一方で、他に人のいない密室において、人を殴って昏倒させた場合、殴った人がその部屋を出て去ってしまうと、他に助けることができる人もいないため、殴られた人の命が亡くなってしまう現実的危険性があったと考えられます。このような場合、作為との構成要件的同価値性があると言います。

それぞれのケースにあてはめて考える

 交通事故のケースに戻りますが、1つ目の単なるひき逃げのケースにおいて、今回は人通りの多い道路上で事故を起こし、そのまま去っていることから、他の人によって助けられる可能性が十分にあり、作為との構成要件的同価値性が認められにくくなります。

 作為との構成要件的同価値性が認められない場合、放置行為自体に殺人罪の不真正不作為犯は成立せず、刑法の範囲内においては何ら犯罪行為に該当しないことになります(もちろん、Xは道路交通法上の救護義務違反等に問われる可能性がありますが、)。

 一方で、轢いたYさんを車に乗せ、そのまま車中で死亡してしまった2つ目のケースにおいては、車に乗せたことによって、YをXによる排他的支配領域内に引き込んだと考えられ、X以外の人がYを助けることができない状態でそのまま死亡してしまったため、救急車を呼んだり救護措置をするのではなく単に車に乗せた行為には、作為との構成要件的同価値性が認められるものと考えられます。

 作為との構成要件的同価値性が認められた場合、Xは、事故後、Yを車に乗せてそのまま死亡させてしまった行為について、殺人罪の不真正不作為犯の責任を問われることになります。

 それでは、3つ目のケースはどうでしょうか。

 3つ目のケースにおいて、Xは最終的に人がまばらな公園にYを放置しています。このような場合、2つ目のケースと異なり、公園において他の人がYを助ける可能性もあったため、構成要件的同価値性が認められにくくなります。

 したがって、殺人罪の不真正不作為犯の責任は問われにくいのですが、事故の相手を一度車に乗せた上で他の場所に放置することは、保護責任者遺棄致死罪(刑法219条)に該当するものと考えられます。

まとめ

 普段使用している言葉が多いため、何度か読み返さないと頭に入らないかもしれませんが、最初に上げた3つのケースについてまとめると次のようになります。

1 単なるひき逃げの後、死亡してしまったケース

→ 放置したことについては刑法上何の罪にも問われない

2 轢いた人を車に乗せ、車中で死亡してしまったケース

→ 殺人罪の不真正不作為犯

3 轢いた人を車に乗せ、その後別の場所に放置した後で死亡してしまったケース

→ 保護責任者遺棄致死罪

 

 いかがでしょうか。倫理的に考えれば、何もせずにただ放置した1つめのケースにおいて、Xはより責めを負うべきであるようにも感じられますが、刑法の世界だけで考えると違う結論になるのです。

 繰り返しになりますが、あくまでも事故の後の不作為についての話であって、どのケースでも事故を起こしたことについては責めを負います。また、あくまでも刑法(明治四十年法律第四十五号)に限った話で、他の特別法は前提としていません。 

 もちろん、実際に事故を起こしてしまった場合には、決して逃げずに、安全を確保し、救急車を呼び、応急処置を施してくださいね。追うべき責任を軽くしたいのであれば、相手に生じた損害を最小限に留めるのが一番ですから。

 もし、刑法についてより深く知りたい方がいらっしゃったら、東大の山口先生の「刑法入門」が読みやすくてオススメです。東大特有の結果無価値に偏りすぎることなく、刑法の初歩的な事項について、わかりやすく、カチッと書かれていますので。

刑法入門 (岩波新書)

刑法入門 (岩波新書)

  • 作者: 山口厚
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2008/06/20
  • メディア: 新書
 

 

東京大学法科大学院に合格しました

東京大学法科大学院ローレビューVol.10 

東大ロースクール合格

 面接大失敗だったとか書いていた東大ロー入試ですが、昨日結果が発表されて、無事に合格してました!

 まあ、そんなに誇れることでもないんですけど、落ちてなくてよかったです。

 もしこれで落ちてたら、面接で最悪の評価を受けたか、筆記で何かミスったかだったんですが、そんな心配は杞憂でした。

 でも、驚いたのは意外に落ちてる人がいたってことです。

 なんかやたらと私の番号の前後で落ちてる人が沢山いたんですが、やっぱり私の当たった面接官がかなり評価の厳しい方だったのでは??(←連続した受験番号ごとに、担当面接官が区切られていたので)

 そう考えると、危なかったなぁ。

 隣で受けてた30代半ばのオジサンとか、入学後に再会したら「席となりでしたよね」って話しかけようと思っていたのに、残念ながら実現ならず。

 答案回収の時にチラッと見えたのですが、筆記の回答の時に不必要に段落空けとか改行とかしていたのが問題で、面接は関係なかったのかもしれませんが。まあ、そんな形式面だけで落とすなんてことはしないか。

 

 ところで、筆記について、一応答案作成の時に作成した下書きが残っているのですが、答案例として掲載したら需要ありますかね? ないかな?? あれば載せようと思うので、Twitterなどで御連絡ください。

 

 ではではー。

iPhone7「総務省指定」刻印問題に関する法的根拠

iPhone7に「総務省指定 MIC/KS 第EC-1600x号」の文字が刻まれている問題

 新機種発売の度に世間の注目を集めるiPhone。

 今回のiPhone7も、防水・防塵、Felica対応といった、機能面の強化はされているものの、それ以外のところで世間の話題をさらっているようです。

 既に周知のこととは思われますが、火種はこちら。

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 iPhone7の背面に刻まれた「総務省指定 MIC/KS第EC-1600x号」という文字ですね。

 これを、「カッコいい!!」と見る目もあるようですが、個人的には、アルファベットが羅列されている中に漢字が入り込んでいるのはデザイン的に気持ち悪いと思います。せめて「MIC/KS No.EC-1600x」というように、アルファベットだけで記入すればこの気持ち悪さは解消されるのに…。

 さて、それでは以下、この総務省指定の文字がどうして刻まれているのか、法律の根拠を解き明かしていきたいと思います。

「総務省指定」刻印に係る法的根拠(理由)

 まず、総務省が所管する電波法(昭和二十五年法律第百三十一号)には、次のような規定があります。

電波法

(高周波利用設備)
第百条第一項  左に掲げる設備を設置しようとする者は、当該設備につき、総務大臣の許可を受けなければならない。
一  電線路に十キロヘルツ以上の高周波電流を通ずる電信、電話その他の通信設備(ケーブル搬送設備、平衡二線式裸線搬送設備その他総務省令で定める通信設備を除く。)

 (後略)

 ここで「左に掲げる」というのは、本来縦書きで官報掲載される法律において、第1号以下を指します。

 今回のiPhone7から搭載されたFeliCa(おサイフケータイなどに必要なシステム)は、13.56 MHzの高周波を使用していることから(参考 Sony Japan | FeliCa | FeliCaとは | FeliCaって何?)、電波法第百条第一項第一号が直接該当し、総務大臣の許可をiPhone71台ごとに個別に総務大臣の許可を得なければいけないようにも思います。

 しかし、実際には、そんな面倒な手続きは不要となっています。

 なぜならば、同号の中に括弧書きで示された「総務省令で定める通信設備を除く」という逃げ道が用意されているからです。

 ここにおける「総務省令」は「電波法施行規則(昭和二十五年十一月三十日電波監理委員会規則第十四号)」のことです(余談ですが、昭和25年に設置された電波監理委員会は昭和27年に郵政省に統合され、現在では総務省の一部となっています)。蛇足ですが、具体的な内容を電波法施行令に落とす場合には、「政令で定める~~」というように記述されます。

 その電波法施行規則の中には、電波法第百条第一項第一号を受けて、次のような規定が置かれています。

電波法施行規則

(通信設備)
第四十四条第一項  法第百条第一項第一号の規定による許可を要しない通信設備は、次に掲げるものとする。

 (中略)

二  誘導式通信設備(線路に一〇kHz以上の高周波電流を流すことにより発生する誘導電波を使用して通信を行う設備をいう。以下同じ。)であつて、次に掲げるもの
(1) 線路からλ/2π(λは搬送波の波長をメートルで表したものとし、πは円周率とする。)の距離における電界強度が毎メートル一五マイクロボルト以下のもの
(2) 誘導式読み書き通信設備(一三・五六MHzの周波数の誘導電波を使用して記録媒体の情報を読み書きする設備をいう。以下同じ。)であつて、その設備から三メートルの距離における電界強度が毎メートル五〇〇マイクロボルト以下のもの
(3) 誘導式読み書き通信設備であつて、その型式について総務大臣の指定を受けたもの

 (後略) 

 ごちゃごちゃしていますが、要するに、「誘導式読み書き通信設備(一三・五六MHzの周波数の誘導電波を使用して記録媒体の情報を読み書きする設備) = FeliCa」について、①その設備から三メートルの距離における電界強度が毎メートル五〇〇マイクロボルト以下のもの、又は、その型式について総務大臣の指定を受けたもの、であれば、電波法第百条第一項第一号の規定による許可は不要であるということです。

 今回発売されているiPhone7については、①の「電界強度が毎メートル五〇〇マイクロボルト以下」に該当しなかったため、その型式について総務大臣の指定を受けるという②の手段をとることになりました。

 無事に総務大臣の指定を受けたiPhone7搭載のFeliCaですが、指定を受けた場合には、電波法施行規則第四六条の四に基づき、特定の表示をしなければなりません。

電波法施行規則

(表示)
第四十六条の四  指定を受けた者は、当該指定に係る型式の高周波利用設備に別表第七号に定める様式の表示を付さなければならない

 ここで、「別表第七号に定める様式の表示」とありますが、これは下のようなものです。(参考 総務省|関東総合通信局|型式指定のための手続き

http://www.soumu.go.jp/main_content/000202716.gif

・形状は図1に示すものとし、大きさは長径が2センチメートル以上とすること。ただし、図1による表示が困難なときは、形状は図2に示すものとし、大きさは長辺が5ミリメートル以上とすること。この場合、図2による表示と併せて「総務省指定」及び「第 ※ 号」の文字を記載すること。
・容易にき損しない材料
・適宜な色彩、容易に識別できる文字及び数字
・容易に脱落しない方法で、見やすい個所に表示
・※印は、指定番号

  これはまさに、今回のiPhone7に掲載されたものですね。デザインの都合上、図1の形で刻印することは避けたものの、図2の刻印を入れた上で、「総務省指定」及び「第 ※ 号」の文字も併せて記載することは避けられませんでした。

おまけ

 FeliCaが搭載された既存のAndroid端末には、総務省指定の刻印がないけれど、これはなぜ??という疑問が浮かんでいるかもしれません。

 これまでに発売されているAndroid製のFeliCa搭載端末は、電界強度がそこまで強くなく、「①その設備から三メートルの距離における電界強度が毎メートル五〇〇マイクロボルト以下のもの」に該当するため、総務省指定の刻印なしに、総務大臣の許可なく使用することが可能だったのです。

 世間では、今回の刻印について「法律だから仕方ない」という声も聞きます。しかし、紐解いてみると、詳細なデザインを決めているのは、総務大臣の命令である総務省令です。国会の議決を得て改正しなければならない法律と異なり、省令は主管省庁内だけのプロセスで改正することができます。

 今回のiPhone7に係る騒動で明らかになったように、デザインに大きく影響し、消費者の動向まで左右しうる当該刻印に関する規制は、せめてアルファベットだけの刻印で済むようにするなどもう少し自由化してもいいのかもしれません。

訴因変更とは?99.9 刑事専門弁護士(最終回)【犯行時刻の変更】

TBS系 日曜劇場「99.9 ー刑事専門弁護士ー」オリジナル・サウンドトラック

松潤主演「99.9 刑事専門弁護士」最終回で検察官が使った"卑怯"な訴因変更

 嵐の松潤主演の「99.9 刑事専門弁護士」がついに最終回を迎えました。 

 話自体は、第1話への原点回帰で、単純でしたが、中盤で出てきた「訴因変更」という言葉は耳馴れず、どうして香川照之や榮倉奈々が起こっているのかわからない人も多かったのではないでしょうか。

 あらすじは次の通りです。

(あらすじ)
 松本潤が弁護依頼を受けた被告人は殺人容疑をかけられていた。松本潤は静岡に行き、その被告人の、殺人事件のアリバイを発見するに至ったが、そのことを嗅ぎつけた検察は、訴因変更によって起訴状の中の犯行時刻を変更する。これによって、そのアリバイは使うことができず、被告人が無罪であることの別の理由を探すことになる。

訴因とは?

 そもそも、「訴因変更」の「訴因」とは、起訴状に公訴事実を表示する手段で,犯罪事実を特定の構成要件にあてはめて法律的に構成されたもののことを言います。訴因は,できうるかぎり日時,場所,方法をもって罪となるべき事実を特定しなければならないものとされています (刑事訴訟法 256条3項) 。

刑事訴訟法
第二百五十六条  公訴の提起は、起訴状を提出してこれをしなければならない。
2  起訴状には、左の事項を記載しなければならない。
一  被告人の氏名その他被告人を特定するに足りる事項
二  公訴事実
三  罪名
3  公訴事実は、訴因を明示してこれを記載しなければならない。訴因を明示するには、できる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならない。
4  罪名は、適用すべき罰条を示してこれを記載しなければならない。但し、罰条の記載の誤は、被告人の防禦に実質的な不利益を生ずる虞がない限り、公訴提起の効力に影響を及ぼさない。
5  数個の訴因及び罰条は、予備的に又は択一的にこれを記載することができる。
6  起訴状には、裁判官に事件につき予断を生ぜしめる虞のある書類その他の物を添附し、又はその内容を引用してはならない。

 日本の刑事裁判では、裁判の主体を検察官と被告人に預ける当事者主義を採用し、検察官が起訴するか否かを決める起訴便宜主義をとっているため、訴因は検察が設定し、裁判所は検察が設定した訴因に対してしか判断をすることができません。

 ただし、日本の裁判制度では、判決確定後、同じ事件について改めて裁判で審理することを禁止しています(一事不再理(憲法第39条))。そのため、検察官に対しては、起訴後に、犯行時刻や犯罪の内容、当てはめるべき法律等、訴因を変更することが認められています。

憲法
第三十九条  何人も、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。

刑事訴訟法

第三百十二条第一項  裁判所は、検察官の請求があるときは、公訴事実の同一性を害しない限度において、起訴状に記載された訴因又は罰条の追加、撤回又は変更を許さなければならない。

 もちろん、これは無制限に認められるものではなく、検察官が起訴した時に示した罪となるべき事実(公訴事実)の同一性が害されない限度に限られます。

 今回は、単に犯行時刻を変更しただけであったため、この点も問題ありません。

 もちろん、この変更が裁判官の心象を左右する可能性がありましたが、今回は、犯人の中丸雄一が殺害について自白していたため、多少の時間変更は問題ないという判断だったのでしょう。

 結局、最初の時点でアリバイが必要だと主張していたのは香川照之の方で、最初から事実の全体像を探し求めていた松本潤にとっては、そこまで問題とならず、真犯人を見つけることができてよかったですね!!

 すでに死んでしまった父親の無罪を裁判で証明することはできませんが、似たような事件で検察にやり返すことができた松本潤。彼の戦いはこれからも続いていくのだと思いますが、彼のような信念を持った弁護士は、実際にもいると思います。「それでも僕はやってない」で騒いでいた頃からずっと、刑事裁判の有罪率は変わりません。99.9のままです。

 この記事をご覧になっている皆さんも、普段ワイドショーで刑事裁判の報道をしている時、世間の流れに流されて疑問を持つこともなく「有罪にちがいない」と思っている人が多いのではないでしょうか。このドラマを機に、そのような心構えを変えていくことが、好ましい社会を作っていくことになるかもしれません。

最終回は、小ネタもアツかった

 最終回だけあって、父親の因縁も絡めたアツいストーリーだけでなく、小ネタも面白かったですね!詳しくは下の記事をご覧ください。

男性必見!電車内の痴漢冤罪で逮捕されないための最強の手段

それでもボクはやってない スタンダード・エディション [DVD]

どうしても逃れられない痴漢冤罪の恐怖

 2000年に女性専用車両が導入されてからもう15年以上経ちました。確かに、戸田恵梨香さんとの熱愛報道がなされている加瀬亮さんの出世作「それでも僕はやっていない」が流行っていた当時よりは、痴漢に関するニュースや痴漢冤罪に関する報道は減ってきたように思います。しかし、男性の皆さん、どうでしょうか。通勤通学の最中、満員の車内に女性が乗り込んでくると、緊張しませんか。何かの間違いで、女性が自分のことを痴漢呼ばわりしてきたらどうしようかと。

 そういう時に大事なのは、落ち着いて自分の連絡先を女性に渡し、すぐにその場を立ち去ること、と言われますが、いざそうなった時にうまくできるかわかりません。一歩間違って、駅員や通行人に現行犯逮捕されるかもしれませんし、立ち去った後に女性から法外な慰謝料を請求されるかもしれません。

 そこでこの記事では、痴漢の疑いをかけられた時に、一切のお金を支払わず、また何らの刑罰も受けないで済ませる、いわば「伝家の宝刀」をお伝えします。

※注意:本記事は半分ネタなので、冗談半分に読んでください。

参考にするのは「カバチタレ!」

 今回参考にするのは、2001年に放送されていた、行政書士を主人公とするテレビドラマ「カバチタレ!」です。

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 常盤貴子と深津絵里のダブル主演、その他には山下智久や陣内孝則といった豪華なキャスト陣です。

 大ゴケした櫻井翔と堀北真希の「特上カバチ」の方ではありません。

特上 カバチ!! [レンタル落ち] 全5巻セット [マーケットプレイスDVDセット商品]

「カバチタレ!」第4話の内容

 カバチタレの中で、痴漢冤罪をテーマにしているのは、第4話です。

 大まかに概要を説明すると次の通り。なお、前提として、痴漢の被害については、告訴(被害者が警察に処罰を求めること)がなければ刑事裁判の流れに乗ることはありません。

(概要)
 ある男性(平凡なサラリーマン)が、電車で女子高生に痴漢したとして警察に捕まった。身に覚えがないのに、男性は成り行きで痴漢を認めてしまい、女子高生は慰謝料を寄越せと言い出した。
 男性を救おうと、友人の常盤貴子は女子高生の自宅に訪問し、その女子高生と母親に「1000万円払うから示談してほしい」と勢いで言ってしまう。女子高生らは快諾。
 事情を聞いた行政書士の深津絵里は、常盤貴子や男性とともに、女子校生らの家を再度訪問し、告訴取下書に署名させ、警察に提出。一方で、男性に対しては一切金銭を振り込まないように指示する。
 数日後、振込のないことに怒った女子校生の母親は電話をかけてくるも、深津絵里は民法93条ただし書を用いて、1000万円を払うという約束は無効だと主張する。
 これを受けて母親は再度告訴をしようとするも、一度行った告訴の取消しを覆すことはできなかった。
 以上より、男性は、刑事的な処罰も受けず、一切の金銭を支払うこともなくこの痴漢冤罪騒動を潜り抜けることができたとさ。めでたしめでたし。

どうして1000万円の契約を無効にできたのか(民法93条ただし書とは)

 概要を読んでいてよくわからなかったのは、1000万円の契約を無効にできた理由(民法93条ただし書)でしょう。

 民法には次のように定められています。

民法93条(心裡留保)
 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。

 「心裡留保」という耳慣れない言葉がありますが、これは、「表意者が、内心の効果意思と表示行為との不一致を知りながら、故意になす意思表示」のことです。わかりやすく言えば、「思ってもいないことを口にする」ということです。

 このような場合に民法ではその意思表示を有効としています。これが93条本文(1文目)です。意思表示を受ける側(Bさん)からしたら、相手(Aさん)がどのような考えで意思表示をしているかまで見抜くことは通常できませんから、言葉などで表現された内容を信頼するしかありません。この場合に、Aさんが後々「あれは冗談だった」といって約束を反故に出来るようでは、Bさんが不利益を被ります。考えと違うことを口にしたAさんよりも、相手の言葉を信頼したBさんよりの方を保護すべきですから、民法では上記のように定められています。

 しかし、もしBさんが、Aさんの真意を知っていたらどうでしょう。そうであったとしたら、Bさんを保護する必要性はなくなりますよね。

 では、客観的にAさんの真意が見え見えなのに、Bさんが気を抜いていてその真意に気づかなかった場合はどうでしょう。この場合、確かに考えと違う発言をしているAさんも悪いのですが、さすがにBさん気付けよってことになりませんか?もしこれで意思表示の有効を主張されたら、逆にAさんは怖くなって一切のジョークが言えなくなってしまいます。

 そこで、民法は、93条本文の適用範囲を善意無過失(相手の真意を知らず、また、知余地もなかった場合)の場合に限っています。

 カバチタレのドラマの中では、そこを逆手に取りました。

 当時、痴漢の示談金なんて数十万、多くても100万円程度でした。それを1000万円なんて馬鹿げています。そこで、
「1000万円を痴漢の示談で払うなんて発言、冗談に決まってるでしょ。こちらは元から1000万円を払うつもりなく(真意)、1000万円を払うという発言(意思表示)をしたんです。あなただって、平凡なサラリーマンが痴漢の示談のために1000万円払うなんて、本気だと思っていなかった(真意を知っていた)でしょ
 そうであるとしたら1000万円払うという意思表示は無効であり、その意思表示に基づいてなされた1000万円を支払う契約も無効です。よって、1円もあなたに払う義務はありません。」
という構成をとったのです。

 ドラマを見ていると、事実とこの主張の関係が、かなり怪しいところもあるような気もするのですが、まああくまでドラマの世界ですから。しかし、他の痴漢冤罪回避法にない、斬新な切り口ではあると思います。

 だって、この理論が通じるのであれば、故意に痴漢をやった場合であっても、一切の処罰を受けないことにできますから。これを当時テレビで放送していたのは少し衝撃ですね。

悪用厳禁

 痴漢してもこのように逃れられるからといって、これを悪用してはいけません。

 ドラマではそこまで描かれていませんが、女子高生の立場からすると、精神的な損害賠償を求めて民事裁判を起こす余地があります。また、万が一民法93条ただし書の主張が通らなかった場合、莫大な負債を抱えることになります。

 ただ、本当にどうしようもなくなってしまった時のために、頭の片隅に置いておいてもいいかもしれません。

ロースクールの適性試験に向けて私が使用している参考書と勉強法

明日から5月ですが、5月といえば…

 今年の5月は、私にとって特別な5月です。

 なぜならば、ロースクールの受験に向けた適性試験があるからです。

 まあ、適性試験なんて、そこまで大したことではないらしいんですが、それでも、実際に東大ロースクールに通る人は適性試験の点数も高いらしいです。

 久しぶりに試験らしい試験を受けるので、ちょっと緊張します。

 

 そこで、ちょっとメモ代わりに、私が使っている参考書と勉強法を記しておきたいと思います。もし突っ込みどころやアドバイスがあったら教えてくださいm( _ _)m

 

使用している参考書・問題集

スピード攻略ブック

 適性試験の受験に当たって私が基本書として使用しているのがこちら。Amazonでの評価も高かったため、購入しました。

法科大学院適性試験 スピード攻略ブック

 

 

Wセミナー 過去問分析+予想問題集

こちらは予想問題が欲しかったので購入しました。

法科大学院 適性試験 過去問分析+予想問題集

 

 

適性試験パーフェクト

2017年入学者向け全国統一適性試験対策ロースクール適性試験パーフェクト 分析&とき方本

 あとは、過去問集です。でも、2年分しかないんですね…。

 過去のを見てみると、やたら高い…。やっぱプレミアが付いてしまうんですね。こういうのは。さすがにテキスト1冊に数万円は出せません。

2015年入学者向け全国統一適性試験対策ロースクール適性試験パーフェクト分析&とき方本

ロースクール適性試験パーフェクト分析&とき方本〈2013年〉―入学者向け全国統一適性試験対策

ロースクール適性試験パーフェクト分析&とき方本〈2011年向け〉

 

 

やろうとしている勉強法

 勉強法と言っても、大したことはないんですが、過去問をやりまくるだけです。

 適性試験はスピード重視なので、同じ問題であっても、何周もして解くスピードを上げる練習をしようかと考えています。

 なんとか4年分は確保したんですが、もしそれより古いものを持っている方がいらしたら、教えていただけるとありがたいです。

【官僚・弁護士・裁判官・検察官を目指す法学部生へ】国家公務員が立法作業で参考する本はコレだ!

法令用語の使い方などで迷ったら

 法律を勉強していると、「及び・並びに」「又は・若しくは」といった法令用語、漢字の使い方、送り仮名などで迷うことありますよね。

 いろいろと解説した本もあるけれど、どれを参考にしていいのか分からない。そんな人に、実際の立法作業において全省庁の国家公務員が参考にしている書籍を紹介します。

法制執務ワークブック

新訂 ワークブック法制執務

 

 この法制執務ワークブックが信頼できるのは、立法作業において絶対的な権力を有している内閣法制局の意見が十分に反映されているからです。内閣法制局が記載内容に責任を負わない旨の記述もありますが、これは万が一のための記述にすぎません。

 内閣法制局は、各省庁のエースが集まって、各省庁が作成した法案をチェックするための機関で、すべての法案はここのチェックを受けます。

 

 なお、自治体における法制執務には、こちらの「法制執務詳解」がマニュアルのようになっていますが、国家公務員や法曹を目指す方は読まなくていいと思います。

法制執務詳解(新版II)

 

注意!衆議院法制局と内閣法制局は全くの別物です。

 最近Amazonのランキングに入っていてゾッとする本があるのですが、それがこちらです。「元法制局キャリアが教える法律を読む技術・学ぶ技術」という本。「法制局」という言葉に関する一般の方の勘違いを悪用しています。

 国家公務員が業務の中でチェックを受けるのは、内閣法制局です。一方で、国会議員が議員立法をする際、代わりに案文を書くのが、衆議院法制局や参議院法制局です。彼らはそもそも省庁に所属する国家公務員でもなければ、就職が難しいわけでもありません。東大生の中で衆議院法制局に就職をすることを目指す人なんてそもそもいません。

 衆議院法制局で作成した案文が各省庁に確認のため回ってくるのですが、用語の使い方などがかなりメチャクチャな事もあります。

 そんな衆議院法制局で勤めていた人が書いたこんな本が人間に流布してしまうのは、とても恐ろしいことです。

元法制局キャリアが教える 法律を読む技術・学ぶ技術[第2版]

 

 

 ちなみに、法制執務の入門的な本として、「条文の読み方」という本もありますが、こちらはきちんと内閣法制局が関わっているので、正確性が担保されています。

条文の読み方

条文の読み方