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【感想】初めて裁判員裁判を傍聴してきました【ポイント・注意事項】

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裁判員裁判を傍聴した感想

 今日、裁判員裁判を傍聴してきました。

 裁判員制度が導入される前、普通の刑事裁判を傍聴したことはあったのですが、裁判員裁判は初めて。

 色々と思うこともあったので、以下、メモを残しておきたいと思います。

全ての裁判員裁判に傍聴券の抽選があるわけではない

 傍聴に行った2017年9月19日、東京地裁では、3件の裁判員裁判が「新件」(第1回審理のこと)で行われました。

 罪状はそれぞれ、強盗殺人、強盗致傷、覚せい剤取締法違反。

 このうち、強盗殺人だけは傍聴券の抽選にあたらなければ傍聴することができなくなっていましたが、それ以外の事件については、傍聴券を必要とせず、法廷の前に並んでいるだけで傍聴席に入ることができました。

裁判所に行くべき時間

 裁判員裁判は、審理に長い時間がかかるため、10時に開廷して17時に閉廷するという、1日がかりのスケジュールで組まれていることが多いと思います。

 傍聴券の抽選がある場合には、その抽選が9時30分に行われるので、それまでに裁判所前の抽選場所に行く必要があります。

 傍聴券が不要の裁判については、開廷30分前に法廷に行けば充分に間に合うと思います。

法廷内でスマホの電源は切る

 法廷内においては、スマートフォンの電源を切る必要があります。今日も、休憩時間中にスマートフォンを操作している傍聴人がいて、注意されていました。

 人生を左右する裁判が行われているのですから、それを妨げることのないよう、きちんと電源を切っておきましょう。

もちろん飲食禁止

 法廷内は、当然ながら飲食禁止です。緊迫した空気の中で傍聴をしていると喉が渇きますが、こまめに休憩時間が挟まれるので、休憩の際に法定の外で飲み物を飲むようにしましょう。

休憩時間が多い

 裁判員裁判は、やたらと休みが挟まれます。

 今日私が傍聴した裁判は、次のような感じで、10時〜17時の審理の中で6回も休憩がありました。

①人定質問等の冒頭手続を済ませた後、検察官及び弁護人の冒頭陳述が終わったらまず休憩

②12時になったら昼休みで休憩

③検察側の1つめの被疑事実についての立証(人証以外)が終わったら休憩

④1人目の証人尋問が終わったら休憩(休憩後、裁判官及び裁判員による補充質問)

⑤検察側の2つめの被疑事実についての立証(人証以外)が終わったら休憩

⑥2人目の証人尋問が終わったら休憩(休憩後、裁判官及び裁判員による補充質問)

 おそらく、随所随所で裁判員と裁判官で打合せがあるから、こんなに多いのだと思います。

 休憩時間も、昼休みは60分ほど、それ以外は20〜30分ほどと比較的長いです。ずっと法廷内にいると疲れてしまうので、地下のコンビニに行くなりして身体を動かすといいと思います。

休憩時間中は、荷物を持って

 荷物が重い時、いちいち法廷内に荷物を持っていくのが面倒になりますが、きちんと荷物を持っていく必要があります。特に、長い休憩時間には、一度法定を閉めることになるので、その際に荷物を置いておくと遺失物扱いになってしまって面倒なことになります。昼休みだけでなく、他の休憩時間でも法定が閉められていることがあったので注意。

法廷内のディスプレイは結構見にくい

 裁判員裁判では、裁判員に対して分かりやすい説明がなされるように、ディスプレイに証拠の画像等を表示して審理が進められていきます。

 傍聴人から見えるディスプレイは、法定の両端にある大型ディスプレイだけです。

 傍聴人はあくまでも傍聴人で、ディスプレイは傍聴人のためにあるわけではないので当然ですが、このディスプレイが、結構見にくい。

 傍聴される際は、できるだけ前の席で傍聴されるのがいいと思います。

傍聴する際は、事前に刑事裁判の流れを知ってから

 裁判を傍聴する際、審理の流れを知っているのと知らないのとでは、見方が全く異なります。刑事裁判の流れを事前に頭に入れてから傍聴すると、今何をしているフェーズなのかということがわかって、検察官や弁護人が行っていることがスッと頭に入ってくると思います。

 個人的にオススメなのは、こちらの『入門刑事手続法』です。 

入門刑事手続法 第7版

入門刑事手続法 第7版

  • 作者: 三井誠,酒巻匡
  • 出版社/メーカー: 有斐閣
  • 発売日: 2017/03/30
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 刑事訴訟法の高名な学者である三井先生と酒巻先生が書かれている本で、記述の正確性はもちろんですが、刑事訴訟法に初めて触れる入門者用に書かれているため、とても読みやすく分かりやすいです。

 刑事裁判における公判の流れや公判前整理手続の流れが図で明示されているので、これをもって法廷に行くとすごく分かりやすいです。

 法廷内における配置や、遮蔽のパターンについての図も、傍聴の際に役立ちます。

黙秘権等の告知は、起訴状朗読の前にするのね

 通常、刑事訴訟法の勉強をしている際、刑事裁判では起訴状の朗読をした後で被告人に対して黙秘権等の告知をすると習うのですが、今日の法廷ではその順番が逆でした。

 この順番は逆でも問題ないと思うのですが、現在はそちらが一般的になっているのでしょうか。

起訴状一本主義を貫くのは大変

 刑事裁判においては、裁判官や裁判員の心証を事前に歪めることのないよう、裁判官や裁判員に対しては起訴状のみが検察官から提出された状態で審理を始めます。もちろん、裁判官は公判前整理手続で審理の流れを一定程度把握していますが、裁判員はまっさらの状態です。

 したがって、裁判が進んでいくにつれて、多くの資料が裁判員に配られることになります。

 検察官も弁護側も、事前に多くの資料を用意しているので、証拠を提示するたびに資料を配布するのがとても面倒そうでした。

内容は盛り沢山でした

 今日私が傍聴した裁判は、内容としては盛りだくさんでした。

 まず、被疑事件は3件、強盗罪の共謀共同正犯、強盗致傷罪の共謀共同正犯、傷害罪の単独正犯でした。最終的にはそれぞれ併合罪(45条)として処理されるものですね。

 強盗罪や強盗致傷罪については、共犯者が実行行為に一切加担しないタイプの共謀共同正犯で、共同正犯が成立するのか自体が争点となっていました。

 また、「反抗抑圧に至る程度か」ということで、強盗罪と恐喝罪との区別という典型論点も問題となっていたので、まさに普段の学習が実務に活きているということを実感しました。

 さらに、検察官が被害者を証人尋問している際、弁護人から「異議あり! 誘導です」の声。実際に法廷で「異議あり」を聞くとは思いませんでした。ちなみに、誘導尋問については、刑事訴訟規則199条の3第3項に規定があります(主尋問においてのみ禁じられていることに注意)。異議申立ての根拠は、刑事訴訟法309条1項、刑事訴訟規則205条1項でいいはずです(?)

 それから、被害者である証人と、被告人との間に遮蔽もされました。遮蔽についての規定は、刑事訴訟法157条の3ですね。

多くの事件が同時に審理されると、裁判員も混乱しそう

 上述のとおり、本件では3件の被疑事実が同時に審理されていました。

 しかも、強盗罪と強盗致傷罪は罪名が似ているので、非常にややこしい。

 実際、検察官による起訴状朗読後の事実確認の際、被告人の1人は強盗罪の事件と強盗致傷罪の事件を混同してしまっていて、法廷内に混乱を巻き起こしていました。

 裁判員や被告人に分かりやすいように、事件1とか事件2とかナンバリングして説明すればいいのにと思いました。

共犯の併合審理だと、弁護士の当たりハズレが被告人にバレる

 本日傍聴した事件では、共犯者が同一の法廷で併合審理されていました。

 しかも、今回は、「共謀を持ちかけたのが相手だ」ということを共犯者のそれぞれが主張していたため、被告人それぞれに弁護人がついていました。

 こういう場合って、弁護人はプレッシャーですね。

 恐らく国選弁護人だと思うのですが、それぞれについていた弁護人は全く違うタイプの弁護人でした。1人は、老齢の経験豊富(だけれども裁判員裁判に馴れていない)な弁護人。もうひとりは、裁判員裁判を意識した劇場型の若手(だけれどもやっぱり経験は少ない?)の弁護人。

 全く違うタイプの弁護人だったので、傍聴している立場からすると興味深かったのですが、被告人は、共犯者について弁護人についてどう思っているのだろうと気になりました。

 もしかしたら、「あっちの弁護士がよかった」とか思ったりしているんじゃないかなと。

「遮蔽」が思ったよりショボい

 たとえば性犯罪の被害者等、証人が、精神の平穏を著しく害される場合には、証人と被告人、あるいは、証人と傍聴席との間を遮蔽する措置がとられる場合があります。

 本日の公判でも、それが行われました。

 が、思った以上にショボい。

 知識として学習していたときは、もう少ししっかりとした素材の遮蔽板を立てるのかと思っていたのですが、会議室によくあるパーテーションのようなもので遮っているだけでした。高さもすごく低い。確かに視界は遮られていますが、あの程度の遮蔽では被告人の存在が感じられてしまって、遮蔽する意味が小さいのではないかと。

 予算の都合なのか分かりませんが、もう少し被害者である証人の立場にたってあげなければいけないのではないかと感じました。

事件から公判まで、時間がかかりすぎ

 裁判員裁判は、事前に公判前整理手続が行われますが、これに約1年弱かかることが問題となっています。

 実際に証人も記憶を手繰って証言をしていますが、これだけ期間が空いてしまうと、それが本当に証人が知覚・記憶した事実なのか、それとも事後的に作られた事実なのか、証人自身ですら分からなくなってしまっているように思います。

 よく、伝聞例外で相対的特信状況を肯定する理由として、「事件直後の方が記憶が鮮明だから」というのがありますが、これだけ時間が空いたら確かにそうなってしまいますね。

 仕方のないことだとは思いますが、せめて事件発生後3ヶ月以内に公判ができるようになるといいなと思います。

被害者の言葉は、全て真実であるように思えてしまう

 本日は、2名の被害者の証人尋問が行われましたが、聞いていると、それが全て真実であるかのように思えてしまいます。もちろん、宣誓をしている以上、被害者としては嘘をついていないはずですが、上述のように事件発生時から時間も経ってしまっていますし、それが本当に証人自身が知覚したことなのかは分からないわけです。

 各当事者の発言にもとづいて、事実を認定するのは本当に難しいなと思います。

裁判員の属性は、やはり偏る

 事前に予測していたことですが、裁判員の属性は偏りますね。特に少ないのが、若い男性。仕事の都合などで断ってしまっているのが実情だと思うのですが、高齢の男性と、主婦層の女性が裁判員の中心的な主体になってしまうのは、少しどうかなと思ったりもしました。

終わりに 〜事件は身近にある〜

 今回の事件の被害者は、ごくごく一般の通行人でした。

 治安が良いと言われる日本でも、当たり前の生活をしている普通の人が、ちょっとしたきっかけで犯罪に巻き込まれてしまうということを目の当たりにしました。

 一方、今回の事件の加害者の一人も、普段はそこまで悪いことをしていなそうな人でした。たまたま昔のやんちゃ仲間と飲んでいたら、一緒にいた友人が暴走して犯罪行為を行い、巻き込まれた形で共同正犯として起訴されたような方でした。

 このように、被害者となるのか、加害者となるのか、それは分かりませんが、事件はすごく身近なところにあるのだなということを感じました。

 「自分が裁判所に関わることなんて決してない」。そう思っている人も、もしかしたら明日には事件に巻き込まれて、裁判所に出廷することになるかもしれません。

 現在、裁判は多くの人にとって非日常だと思います。普段触れていないもの、テレビの向こう側の存在だからこそ、いざ自分が急に関わることになると怯えてしまう。

 しかし、裁判所もインフラのひとつに過ぎません。裁判所がより適切に機能するとともに、それに関わることになった方々が構えすぎないよう、国民自身が普段から法律を身近に感じ、また、それを法曹がサポートできたらいいですね。

【胎児の権利能力】民法では停止条件説、民事訴訟法では解除条件説という謎

不法行為に関する胎児の権利能力

 まず、次の問題を見て、その正誤(◯✕)を判断して頂きたい。

胎児は、不法行為に基づく損害賠償請求権を訴訟物とするときは、当事者になることができる

(平成26年司法試験予備試験民事系科目第31問より)

 

 

 法務省の示した回答によれば、これは◯である。 

 しかし、民法を学習したことのある人はこれについて、違和感を感じるのではないだろうか。

 確かに、民法には次のような規定がある。

(損害賠償請求権に関する胎児の権利能力)
第七百二十一条  胎児は、損害賠償の請求権については、既に生まれたものとみなす。

 しかし、この条文の解釈については、停止条件説と解除条件説が対立しており、判例では停止条件説をとったということを民法の授業で学んでいるからである。

民法の世界

 例えば、みんな大好き内田民法の中には、次のような記述がある。

 もっとも,胎児の間に母親を代理人として損害賠償請求ができるかは争われており、判例はできないとの立場をとった(大判昭和7年10月6日「阪神電鉄事件」)。 したがって、生まれてから母親(法定代理人)が代理して損害賠償請求することになる。(p.93)

民法I 第4版: 総則・物権総論

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  • 作者: 内田貴
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 また、河上正二先生の『民法学入門』の中でも次のような記述がある。

 判決理由によれば、胎児について不法行為上の損害賠償請求権を認めた民法721条は、胎児が後に生きて生まれた場合に、不法行為時点である過去に遡って、損害賠償請求権を取得していたことにする(=みなす)というだけのものであって、実際に胎児の時に損害賠償請求権を取得してこれを処分できるような能力を与えているわけではないという。言い換えれば、胎児は、胎児のままの状態では未だ損害賠償請求権の帰属主体とはなりえず(権利能力がない)、生きて生まれることを条件として、そのような効果が「後から」付与されるにすぎない(→それまでは効果の発生が「停止」されている)。これをやや法技術的に表現すると、生きて生まれることを「停止条件」として胎児に(不法行為の損害賠償請求に関する)権利能力が認められることになる。(p.51)

民法学入門第2版増補版

民法学入門第2版増補版

  • 作者: 河上正二
  • 出版社/メーカー: 日本評論社
  • 発売日: 2014/04/14
  • メディア: 単行本
 

 やはり、『阪神電鉄事件』がある以上、民法の世界では停止条件説を判例通説として扱っているのである。

民事訴訟法の世界

 一方で、民事訴訟法の大家である新堂先生の『新民事訴訟法』の中には、次のような記述がある。

 胎児の当事者能力も、相続、受遺贈、および不法行為に基づく損害賠償請求権についてはすでに生まれたものとみなされるから(民721条・886条・965条)、この関係の訴訟においては、胎児のままで、その母を法定代理人として当事者となることができる。この胎児が死産であったときは、係属中の訴訟は当事者を欠くことになり、訴えは却下される(判決後死産であったときは、判決は、無効となる)。(p.145)

新民事訴訟法 第5版

新民事訴訟法 第5版

  • 作者: 新堂幸司
  • 出版社/メーカー: 弘文堂
  • 発売日: 2011/08/30
  • メディア: 単行本
 

 これは、どう読んでも、解除条件説に立っているとしか読めない。

 進堂先生は独自説をとる傾向も強いのだが、伊藤眞先生もこの件については、胎児の訴訟行為は、法定代理人となる者によって行われるとの記述があり、やはり解除条件説を採られているようである。

民事訴訟法 第5版

民事訴訟法 第5版

  • 作者: 伊藤眞
  • 出版社/メーカー: 有斐閣
  • 発売日: 2016/12/21
  • メディア: 単行本
 

とりあえずのまとめ 

 正直、すごく気持ち悪い。

 実体法である民法の世界では停止条件説が判例通説なのに、手続法である民事訴訟法の世界では解除条件説が通説であるというようなことがあっていいのだろうか。

 全然違う法分野ならまだしも、同じ私法の分野でこのような食い違いがあるのはどうも腑に落ちない。

 むしろ、阪神電鉄事件は、原告救済のためにあえて停止条件説をとった古い判例であって先例性を失っており、今では民法の世界でも解除条件説が通説と扱うべきなのではないだろうか。

 まあ、こんなことで悩んでも仕方がないので、とりあえず択一試験においては、民法では停止条件説の立場から、民事訴訟法では解除条件説の立場から解くことにしておこう。

 もし先達の方で、この疑問を解消してくださる方がいらっしゃれば、Twitterなどで御助言頂けるとありがたいです。

憲法記念日だから憲法の話をしよう【憲法施行70周年】

憲法 第六版

憲法について改めて考える

 5月3日は、憲法記念日です。

 かつての私にとってもそうであったように、憲法記念日といっても、海の日や山の日と同じ単なる祝日の一つにすぎず、そこに特別な意味を見いだす人はあまりいないでしょう。

 本来はそれでいいのだと思います。憲法というものが、国民の意識の根底に根付いていることの証だからです。

 ところで、なぜ5月3日が憲法記念日とされるかというと、1947年5月3日に日本国憲法が施行されたことに由来します。

 1947年というと、今から丁度70年前。

 節目であり、いい機会なので、憲法というものが一体どういうものなのか、その構造について考えてみたいと思います。

はじめに

 法律に馴染みのない方でも、「六法」という言葉を耳にしたことのない方はいないでしょう。「六法」とは、憲法・民法・商法・民事訴訟法・刑法・刑事訴訟法の6つの法律のことで、数多く存在する法律の中でも最も基本的な法律です。

 ただ、このように憲法も含めて六法と呼ぶことから、多くの方に生じている誤解が、憲法も法律のひとつにすぎないというものです。

 憲法は、形式的にも実質的にも、他の法律よりも上位に位置する、特別な法規範なのです。

 その背景にあるのが、次のような考え方です。

憲法に通底する思想 

 憲法や国家が存在しない「自然状態」において、人間は、人間であることだけに由来する権利「自然権」を有します。この「自然権」は、本来、外在的な制約も内在的な制約も有しないものです。

 しかし、自然状態は「万人の万人に対する闘争」(ホッブス「リヴァイアサン」)の状態であることから、弱肉強食の原理が働いてしまい、そのままでは自然権が十分に保護されることはありません(いわば、マッドマックスの世界です)。

マッドマックス 怒りのデス・ロード(字幕版)

 そこで、人々は自然状態から脱却するために社会契約を締結し、その内容に従って「国家」という共同体が形成されるのです。

社会契約論 ─まんがで読破─

 社会契約は、書面がなくても効果が生じます。しかし、後になって「そんな約束をした覚えはない」と覆されては困りますから、多くの場合にその内容を文書化します。そうして文書化されたものが日本国憲法等の「憲法典」なのです(成文憲法)。

 このような経過を辿って作成された憲法ですから、憲法が第一に規定するのは、「自然権に由来する権利の保護」であり、第二に、「権利を保護するための制度」となります。

 日本国憲法も、この仕組は変わりません。

 生前から憲法の第一人者であり、1999年の没後も未だに約20年以上にわたり憲法学の最高権威であられる芦部信喜先生は、日本国憲法の構造を次のように図示されています

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(芦部信喜「憲法第六版」p.397より)

 シンプルな図であるため読み解くのが難しいのですが、その内容は大きくわけて2つです。

  1. そもそも憲法典の外側に存在していた「自然権」が、憲法典の中で「個人尊厳の原理」に実定化し、それに基づいて基本的人権(人権宣言)が保障される
  2. 憲法典の外側に存在していた「自然権」は、それを保護するために当然権力の制約をすることが必要とされ、そのために憲法典の外側に「国民の制憲権」というものが存在している。制憲権とは文字通り、憲法を制定する力であり、それにより日本国憲法という憲法典が作られるとともに、その内部で「個人尊厳の原理」の下「国民主権」に転化する。
     国民主権には、「正当性の契機」と「権力性の契機」の2つの意味があるが、日本国憲法においてより重きを置かれている正当性の契機は、①代表民主制を通じて立法権(国会)に正当性を付与し、②その国会から正当性を継承した行政権(行政機関)、③さらには違憲審査制による憲法保障という観点から重要な役割を果たす裁判所とともに基本的人権に奉仕する。
     一方で、国民主権のもう一つの意味である権力性の契機は改正権へと転化し、それが硬性憲法としての性質を憲法典に付与し、形式的にも他の法律よりも上位の存在として位置づけることになる。

 と、シンプルな図と長ったらしい文章で書かれてもいまいちピンとこないと思いますので、私の方で恐縮ながら芦部先生の図に手を加えて作成したのが下の図になります。

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 なお、本来的には、自然権がそのまま基本的人権に実定化することも可能ではありますが、そうすると、基本的人権を法律論の中で論じる際に憲法の外側にある抽象的な概念である自然権を持ってこなければいけないことになりますから、あえて一度、自然権を全体として個人尊厳の原理(13条)に実定化させた上で、そこから基本的人権を導くような構図を採っているのです(芦部p.82参照)。

自然権と基本的人権との関係

 以上のような話を踏まえると、次のように思われる方もいらっしゃるかもしれません。

 「憲法が保障する基本的人権は、人間が有する自然権(観念上の人権)の一部を形にしたもので、保障する範囲が狭いのではないか」

 これは私も以前勘違いしていたのですが、よくよく考えるとそうではありません。

 憲法は、自然権を守るために存在していることから、その保障の有効性を確保するために、あえて本来の自然権(観念上の人権)よりも広く保障されているのです。そうすることによって、萎縮効果によって観念上の人権が侵害されることを防止しています。

 このことは、表現の自由(21条1項)をめぐる憲法訴訟に関して考えてみればわかりやすいと思います。

 憲法訴訟においては、「観念上の人権が制約されていないか」ということが判断における重要な考慮要素になるわけですが、たとえば猥褻表現や名誉毀損表現といった、社会的な害悪が大きい表現に対する規制が合憲とされる場合があります。

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 このことは一見、憲法21条1項が「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。」として、表現行為一切をひっくるめて保障しているように見えることと矛盾するように思えるかもしれません。

 しかし、憲法が本来保障すべきは「観念上の人権」であり、また、社会契約基づく共同体の中で保証される基本的人権は内在的制約を当然有しているわけですから、観念上の人権が制約されない限りにおいて、憲法に規定された基本的人権もその内在的制約に服することになるのです(←ここで一元的内在制約説的な考えを持ち出していることについては、反論の余地あり)

 ※なお、社会的な害悪が大きい表現に関する表現の自由が憲法21条1項によってそもそも保障されないのか、21条1項によって保障されないものの13条によって保障されるのか、それとも21条1項でも13条でも保障されないのかについてはよく考えなければならない(後述)

 したがって、個別の権利に関して見てみると、その保障範囲は

「自然権(観念上の人権)」<「憲法上の基本的人権」

となるのです。

 また、基本的人権として個別に列挙されていない人権(環境権やプライバシー権)についても、当然憲法の保障の範囲内にあるわけで、それは自然権が包括的に実定化した個人尊厳の原理(13条)に根拠を求めることになります。

以上はあくまで擬制(フィクション)です

 と、以上つらつらと述べましたが、日本国憲法が戦後の日本で明治憲法の改正という形で制定されたように、実際に社会契約が締結されて、憲法が出来上がったわけではありません。

 以上のことは、あくまでも「擬制」にすぎないのです。

 ただ、「擬制」だからといって蔑ろにしていいかというと、決してそうではありません。

 歴史的経緯がどうであれ、そのような擬制の下で制定された憲法ですから、憲法について考える上ではその枠組のなかで議論すべきですし、それによって、人間が本来有している権利(自然権)が保障されることになるのです。

 また、このような擬制をとらなければ、日本を統治している政府がその存立基盤の一切を失うということも見落としてはなりません。

天皇制や9条、個々の権利について

 さて、以上が憲法の話をする上での大前提となります。

 本当はここから、天皇制や憲法9条、それから各種基本的人権について論じたいところではあるのですが、そこまで行くと冗長になってしまうので、ひとまずはここで今回の記事は終えて、続きはまた別の記事で書きたいと思います。

 憲法70周年を機に、改憲派・護憲派ともに機運が高まっていることでしょう。

 憲法自体を変えることは、時代の潮流に対応するために許容されうると思いますが、それは決して、日本国憲法が守るべき核心部分を侵害するものであってはなりません。

 平和的生存権等の個別の論点にいきなり飛びつく前に、まずは、憲法が一体どういうものなのかよく考えた上で、具体的な議論をされてみてはいかがでしょうか。

おまけ:私の経験と照らして

 思い返してみれば、私が以前勤めていた総務省という役所は、数ある中央省庁の中で最も憲法に近い、言い換えれば「憲法の価値の実現に貢献しうる」役所であるように思います。

 上述のように、日本国憲法における統治の基本は、憲法により権力を縛りつつ、代表民主性を通じて統治機構に正当性を付与する、立憲民主主義です。

 「立憲」の観点からは、憲法によって実体化された行政権からの違法な権利侵害を防ぐための行政不服申立制度について、総務庁を前身とする総務省行政管理局が有しています。

 さらに、国民主権の原理に基づく「民主主義制度」の核たる選挙制度を、総務省自治行政局選挙部選挙課が所掌しています。それに加え、「民主主義の学校」(ブライス)たる地方自治制度を、自治省を前身とする総務省自治行政局・自治財政局・自治税務局の3局が一体となって支え、それにより国民の居住移転の自由(22条1項)ないし生存権(25条)にも貢献しています。なお、居住移転の自由は歴史的沿革から経済的自由の側面が強調されがちでありますが、現代においては精神的自由の側面も強く有しているということを忘れてはなりません。

 また、総務省が有する消防庁が、給付行政の側面を強く持ちながらも、日本全国どこでも安心安全に暮らすことができる体制を確保しようとしているという点で、自治三局と一体となって居住移転の自由や生存権に貢献しているということも見落としてはならなりません。

 それから、郵政省を前身とする情報流通行政局や総合通信基盤局は、テレビやインターネットといった情報通信インフラを公平に整備し、精神的自由の最たるものである表現の自由(21条1項)及びそこから派生する知る権利に貢献するだけでなく、最近ではテレワークの普及により法の下の平等(14条)にすら貢献しようとしています。

 

 残念ながら、私は在職当時、このようなことをあまり意識したことはありませんでした。どうしても目の前の仕事に忙殺されてしまって、大局的観点を持つことができなかったのです。

 総務省で仕事をし、そして今、新たな途に進もうとしている自分の人生に後悔は特にありませんが、唯一悔いるべき点を挙げるとすれば、このことです。

 一度離れなければ、こういう見方をすることもできなかったのだとは思いますが、「憲法の価値の実現」という観点で行政官の仕事をしていたら、少し異なる働き方ができたいたのではないかとも思います。

追記

 本記事では、自然権の存在について、社会契約説的構成をとっています。これについては、いわゆる"後国家的"な参政権や社会権が基本的人権(自然権、観念上の人権)にならないという批判がありえます。それは一理ありますが、そもそも自然状態において、人間が自己のあり方を決定する権利や人間らしく生きる権利を有しており、それらがそれぞれ、国家の中で参政権や社会権(生存権や教育を受ける権利等)という形をとっているのであり、後国家的な権利についてもその淵源及び核心部分は、やはり自然権であると考えるべきでしょう。日本国憲法が、観念上の人権よりも広く憲法上の権利を保障していることは前述の通りですが、参政権や社会権に含まれる後国家的な部分は、本来の観念上の人権を守るためにあえて憲法が保障した周辺部分であると考えれば筋が通ります。

 なお、社会契約説的構成は、ジョン・ロックの思想に由来します。

完訳 統治二論 (岩波文庫)

 ジョン・ロックは、その中で、生命、健康、自由、財産を不可侵の権利(いわば自然権)としており、各自がそれを自由に処分することはできるが、それは神が与えたものであるから、自己のものであれ破壊すべきではないし、他人のものであれば侵害すべきではないと説きます。

 このようなキリスト教的な考え方が、日本国憲法の根底に存在していると考えるのは多少の違和感を感じるかもしれませんが、そもそもマッカーサー草案の原案となったと言われる憲法研究会の憲法草案要綱が、ワイマール憲法の影響を受けており、さらにそこにGHQ(アメリカ)の意向も加味されたことから、これを否定することはできないでしょう。

 このような考え方をすれば、やはり、表現の中でも、他者加害の程度が強く、社会的な害悪が大きいわいせつ表現や名誉毀損表現は、表現の自由の保障内容ひいては個人尊厳の原理が保障する内容に含まれないと考えて差し支えないのでしょう。

大学生協は強制加入?任意?【入ったほうが絶対に得】

生協の白石さん

大学の生活協同組合に加入すべきか

 新学期ですね。

 私も久しぶりに、大学のキャンパスに戻って、とても懐かしい気持ちです。

 さて、大学の新入生にとっては処理すべき手続が沢山あります。

 今回は、そのひとつである、「生活共同組合への加入」について書きたいと思います。

生活共同組合は強制加入?

 まず、生活協同組合は、民法上の組合契約によって成立した組合の一種です。

民法

第667条第1項 組合契約は、各当事者が出資をして共同の事業を営むことを約することによって、その効力を生ずる。

 そして、大学の生活協同組合は、消費生活協同組合法によって、法人格を有することとなっています。

消費生活協同組合法

第4条  消費生活協同組合及び消費生活協同組合連合会(以下「組合」と総称する。)は、法人とする。

 このように、生活協同組合は大学とは独立した存在であることから、原則として、学生に生活協同組合への加入が義務付けられることはありません。

 なぜならば、憲法21条で保障される「結社の自由」は、「結社に加入しない自由」も含むからです。

憲法

第21条第1項 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

※大学は、国公立であっても私立であっても、社会で大きな役割を果たしていることから、大学が主体となった人権侵害の危険は大きく、また、人権の価値は公法・私法を包括した全法秩序の基本原則であって、すべての法領域に妥当すべきものであることから、憲法の人権規定は、大学と学生の間にも適用されると解されます(いわゆる憲法の私人間効力の話)。

 もちろん、世の中には特定の者に加入を強制する組合もあります。

 その例が、ユニオンショップ協定を締結している労働組合です。

※ユニオンショップ:使用者は労働者を自由に採用できるが、被用者が採用後一定期間内に労働組合院資格を取得しない場合及び雇用中に組合員資格を失った場合は、使用者がこれを解雇しなければならないという旨の労働協約の条項

 しかし、これは、労働者が組合に参加しない自由が認められるとすると、経済的弱者の地位にある労働者を団結によって使用者と対等の地位に立たせようとした憲法28条の趣旨に反することから、労働者には消極的団結権(組合に参加しない自由)が保障されていないという特殊な理由によるものです。

憲法

第28条 勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。 

出資金の払戻しについて

 私法上、財産の共同所有の形態には、共有・合有・総有の3種類がありますが、組合の財産は、「合有」として扱われるのが通説です(ちなみに、「共有」の例は共同相続した財産、「総有」の例は権利能力なき社団の財産)。

 「合有」の場合、その対象となる財産について、持分の処分や分割の請求をすることはできません。

第676条

第1項 組合員は、組合財産についてその持分を処分したときは、その処分をもって組合及び組合と取引をした第三者に対抗することができない。
第2項 組合員は、清算前に組合財産の分割を求めることができない。

 しかし、組合の脱退の際には、持分の払戻しを求めることができます。

第678条

第1項 組合契約で組合の存続期間を定めなかったとき、又はある組合員の終身の間組合が存続すべきことを定めたときは、各組合員は、いつでも脱退することができる。ただし、やむを得ない事由がある場合を除き、組合に不利な時期に脱退することができない。
第2項 組合の存続期間を定めた場合であっても、各組合員は、やむを得ない事由があるときは、脱退することができる。

第681条

第1項 脱退した組合員と他の組合員との間の計算は、脱退の時における組合財産の状況に従ってしなければならない。

 681条1項に規定のあるとおり、法律上は、必ずしも組合加入時に支払った出資額全てを払い戻すことを保証しているわけではありません。しかし、大学の生活協同組合の場合、経済状況が著しく悪化することはほぼありえないので、出資額全てが払い戻されるのが通常です。

 ちなみに、東京大学の場合、出資金は16,000円(40口)です。

 「40口」と書いてあるのは、万が一財政状況が悪くなった場合に、口数に応じて払い戻しをするために、一口あたりの金額を定めた上で出資額を算定しているということですね。まあ、16,000円がそのまま払戻されているのが現実ですが。

終わりに

 大学の生活協同組合に加入することで、書籍の1割引や、文具の2割引といったサービスを受けることができるようになります。

 大学生は大量の書籍・文具を購入することになりますから、割引額だけでも、出資額を超えるでしょう。

 確かに、学生にとって1〜2万円の支出は大きいです。

 しかし、キャッシュフローで考えたとしても、割引額ですぐに元をとることはできますし、また、出資額は組合脱退時に払い戻しを受けることができます。

 これは、入らない手はありませんね。

 この記事が、生活協同組合に加入すべきか迷っている新入生の参考になれば幸いです。

東大法学部教授による法曹志望者への引継書「プレップ法学を学ぶ前に」が分かりやすい

「プレップ 法学を学ぶ前に」(道垣内弘人) 

 3月18日に予定されているロースクールのガイダンス。 

 それを受講するにあたり事前に読んでおくように指定があったため、「プレップ 法学を学ぶ前に」という本を購入しました。 

 1,000円くらいとはいえ、1回の授業を受けるためだけに買わされるのもどうかと思いましたが、結果的には1,000円以上の価値のある本でした。 

プレップ法学を学ぶ前に (プレップシリーズ)

プレップ法学を学ぶ前に (プレップシリーズ)

  • 作者: 道垣内弘人
  • 出版社/メーカー: 弘文堂
  • 発売日: 2010/04
  • メディア: 単行本
 

 「条・項・号」や「柱書・ただし書・前段・後段」のような超基本的な法律用語や、「及び・並びに・又は・若しくは」といった法制執務用語の解説、さらには「拡張解釈・縮小解釈・反対解釈」といった解釈の方法の違い、「法律・政令・省令」といった規則の種類の違いなども完結に丁寧にわかりやすく解説されているので、まさに法律の初学者が読むのに最適な本だと思います。

 正直なところ、この本を読むまで、道垣内先生の印象は「担保物件法(有斐閣)」のイメージしかなくて、「天才すぎて、恐らく正しいことをおっしゃっているのだろうけどこちらの理解が追いつかない」というイメージでしたが、この本を読んで印象が変わりました。

担保物権法 第3版 (現代民法 3)

担保物権法 第3版 (現代民法 3)

  • 作者: 道垣内弘人
  • 出版社/メーカー: 有斐閣
  • 発売日: 2008/01/12
  • メディア: 単行本
 

 すごく柔らかい口調で、とてもわかりやすく書かれています。

 しかも、本文の中で「amazon」という言葉が普通に出てきたり、判例を見るためのツールとして、ウェストロージャパンではなく、裁判所のホームページをURL付きで紹介されていたりと、とても馴染みやすいです。

p.50

実際、矢野輝雄『自動車事故・対応マニュアル』(緑風出版)は、amazonの「商品の説明」によれば、(後略)

 このような親しみやすさから、この本からはまるで丁寧に作られた「引継書」のような印象を受けます。

 学生時代からずっと法律に関しての研究を続けられ、東大教授の中でも著名な法律学者となられた道垣内教授が、法曹を志す若い世代に対して、どのように法律と接していけば躓かないかということを、丁寧に教えてくれているのです。

 主な対象者は法律初学者ですが、一度法律を学ばれた方が呼んでも、気付きを得られる本ではないかと思います。

 また、法令用語(法制執務)を始めとする条文の読み方についてより詳しく知りたいという方は、「条文の読み方」もオススメですよ。 

条文の読み方

条文の読み方

  • 作者: 法制執務用語研究会
  • 出版社/メーカー: 有斐閣
  • 発売日: 2012/03/10
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 実際に法律を勉強する上では必須ではありませんが、さらに詳しく学びたい方は、中央省庁における実際の立法現場でも使われている「ワークブック法制執務」がオススメです。 

新訂 ワークブック法制執務

新訂 ワークブック法制執務

  • 作者: 法制執務研究会
  • 出版社/メーカー: ぎょうせい
  • 発売日: 2007/12/08
  • メディア: 単行本
 

 

大学卒業後改めて法律を勉強し直してみると・・・

有斐閣判例六法Professional 平成29年版

勉強し直して初めて気付く誤解

 私は、国家総合職(旧1種)の試験に合格して、国家公務員として働いた後、現在は司法試験に向けて勉強をしているのですが、勉強し直しているときに気付くことがあります。

 それは、「ああ、ここってこういう意味だったのか!!」という誤解です。

 恐らくこれは、大学時代にはよく分からなかった行政実務に関する知識や社会経験を積み重ねた現在の私だからこそ気付くことのできたものなのでしょう。

 大学時代には予備知識が足りなかったため、理解が追いつかず、自分に都合いいように無理やり解釈して頭のなかに詰め込んでいました。

 自分が誤解をしている可能性なんて、微塵も意識しなかったですからね。

 ただ、これってよくよく考えてみると恐ろしいことですよね。

 法律に関して誤解した知識を有した人間が、普通に国家総合職(法律)の試験に受かってしまって、そのまま立法作業に携わってしまうという。

 もちろん、個別の立法作業をするにあたっては、改めて細かく勉強し直したりするものではありますが、時間的制約がかなり厳しい中央省庁の仕事をしていく中で、誤った知識は邪魔にしかなりません。

 法律は、社会生活の基盤を形作るものであって、範囲も広ければ量も膨大。

 勉強すれば勉強するほど、その奥深さを思い知らされます。

 ひとまずは司法試験に合格するための勉強をするけれども、司法試験はあくまでも合格者を出すことを前提に作られた試験。

 試験に合格したからといって法律に関しての完璧な知識を有した人間であるわけではなく、その後も勉強を続けなければいけないのだなということを改めて思う今日このごろです。

法律は魔法のようなもの

ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅(吹替版)

法律は魔法みたい! しかし使い方には要注意

 大学時代に法律を勉強していた頃からずっと思っていたことがあります。

 それは、法律がまるで魔法みたいだなということ。

 直接的な物理力を行使しているわけではないのに、法律の条文に基づき言葉を発するだけで、一定の効果を実現できるからです。

 警察などの巨大な公権力や悪巧みをする詐欺師から身を守るための防御にも使えるだけでなく、時には、正しくない人を糾弾するための攻撃方法としても使えます。

 自分の財産が奪われるのを防いだり、望むように人を動かして自分の希望を実現させることができます。

 もちろん、法律の力は才能を持った人だけのものではなくて、勉強すれば誰でも使えるようになるため、世間には法律家という魔法使いが沢山いて、場合によっては自分に対して攻撃が仕掛けられることもあるでしょう。

 しかし、そういうときはこちらが法律を使って自分の身を守ることができます。

 こういうとき、法律を知っているのと知らないのとでは自分が受ける被害は桁違いでしょう。

 ただし、忘れてはなりません。

 法律は、一定の社会においてのみ通用する理論であるということを。

 社会から外れたアウトローに対しては、一切通用しません。

 魔法の多くがそうであるように、法律の力も、効果の実現まで一定の時間を必要とするため、即時的に行使される暴力に対しては防御することができません。そういう場合には、事後的な対処をすることができるだけです。

 中には、前国家的な権利を踏みにじるような、禁忌とされる呪文もあることでしょう。

 また、こちらが法律の魔法を使えば、相手も同様に六法という魔法書を携えて攻撃してくることでしょう。 

 このように、法律は万能ではありません。

 しかし、日本のように比較的治安がよく、法整備がそこそこ進んだ社会においては、より強力に効果を発します。

 この力を余すところなく行使できるのは、法律の知識と用法を十分に会得した上で、特定のしがらみにとらわれない存在だけです。

 だからこそ私は、独立した法律家を目指し、自分の大切な人達のために力を振るうことのできる存在になりたいのです。

費用18万円削減!賃貸・部屋探しで悪徳不動産屋に負けない法律知識・交渉術まとめ

図解とQ&Aでわかる 賃貸トラブル解決マニュアル すぐに役立つ

冒頭注:丁寧に記事を書いた結果、かなりの長文となっています。全部読むのに1時間程度かかります。しかし、この記事は読めば必ず役に立ちます。実際に、私はここに記した方法で実際に18万円も費用を削減していますので、お時間がある時にお読み頂ければ幸いです。

目次

部屋探しの前に、悪徳不動産屋に騙されないための知識を身につけよう

 こんにちは! 宅建試験合格者のさんエリと申します。

 いきなり「宅建試験合格者」とか名乗られても「???」だと思うので、「宅建」について一応説明させていただきますね。

 「宅建」とは、「宅地建物取引士」の略です。以前は「宅地建物取引主任者」という資格でしたが、今では宅建士として士業の仲間入りをしています。

 といっても、「宅建士なんて聞いたことない! 初めて聞いた!」という方も多いかと思います。それも無理はありません。なぜならば、これは不動産業を営む上で必要となる資格だからです。

 不動産は、賃貸にしても売買にしても、それなりに大きな金額が動く取引になります。また、部屋を住居として借りる場合、そこは生活の本拠地として、人々が生活を営む中でとても大切な場所になります。

 そこで、例えば、「見た目は綺麗だけど実際に住んでみたら生活に必要な設備が整備されていない!」だとか、「オーナーには防音バッチリと言われたけど、実は木造で騒音がヒドイ!」だとか、そういうトラブルを防ぐために、きちんと不動産取引に関する法律的な知識を有した「宅地建物取引士」を不動産屋に置いて、重要な事項については宅地建物取引士から説明させるように法律で定められているのです。

 言うなれば、宅地建物取引士は、「部屋の賃貸等に関する法律のエキスパート」であるわけです。

 しかし、残念ながら、弁護士等と違って、宅建士が部屋を借りる側の味方になることはまずありません。なぜならば、宅建士も不動産屋の従業員だからです。

 そして、世の中には法律を平気で無視する悪徳不動産屋が沢山います。私も以前は、悪徳不動産屋なんて一握りの例外的な存在だと思っていたのですが、部屋探しを始めるとまともな不動産屋の方が例外的な存在であることを知りました。実際に私が遭遇したケースについては、こちらの記事(要注意!口コミ高評価で大学生協提携店でも悪質な不動産屋は存在する)をご覧ください。

 つまり、不動産屋と契約をする際に、あなたを守れるのはあなた自身しかいないのです。

 この記事では、部屋を借りる際に不動産屋に騙されないための法律知識や交渉術について全てまとめています。

 実際に私は、先日とある物件を借りるために不動産屋とやりとりをしていたところ、最終的に、先方が当初提示してきた金額よりも18万円以上の費用を削減することができました(詳しくは記事の最後に書いています)。

 進学や就職、転勤の時期ですが、気持ちよく新生活を送るためにも、この記事の知識を全て頭に入れてから部屋探しをすることをオススメします!

前提となる基本知識

 さて、いきなり不動産屋との交渉の話をしてもいいのですが、そうすると聞いたこともないような専門用語が飛び交うことになってしまうので、部屋探しをしていく上でまず知っておくべき基本的な知識について4点お話したいと思います。

 そんな基本的なことは知っているよという方は読み飛ばして頂いて構いませんが、部屋探しが初めての方などは、これを読んだ後で記事の後半を読んで頂くと、スッと内容が頭に入ってくるかと思います。

不動産賃貸の構造(不動産屋の役割)

 部屋を借りたいと思った時、大抵は「不動産屋」に行きますよね?

 この「不動産屋」という用語が厄介なのですが、「本屋」や「レンタルビデオ屋」などと違って、不動産屋は、自分が所有する不動産を販売したり貸し出したりする訳ではありません

 賃貸物件に関する不動産屋の仕事は、「家を貸したい人(物件のオーナー)」と「家を借りたい人(客)」とを引き合わせることです。

 これを、法律用語で「媒介」と言います(細かく言えば、不動産屋は「媒介」だけでなく「代理」の仕事もしたりするのですが、世の中の賃貸物件の大半は「媒介」なので、「代理」については割愛させて頂きます。なお、「代理」の場合であっても、この記事で紹介する法律知識や交渉術は同様に使うことができますので御心配なく)。

 この「媒介」のことを、不動産屋の従業員は「仲介」と呼ぶことがありますが、「仲介=媒介」だと理解してしまって全く問題ありません。また、一般的に「斡旋」という言葉が使われることもありますが、これも媒介と同じ意味だと考えて頂いて構いません。

 なお、現実には「家を貸したい人(物件のオーナー)」と「家を借りたい人(客)」が同じ不動産屋に訪れることは殆どないため、不動産屋同士の横の繋がりを使って、次のような形で賃貸契約が結ばれることが多いです。

貸主(物件のオーナー)
 |
貸主担当の不動産屋(管理会社)
 |
借主担当の不動産屋(仲介業者)
 |
借主(客)

 要するに、貸主借主とを、2つの不動産屋を通じて引き合わせる媒介する)ということです。

 2つの不動産屋を区別するのがややこしいので、法律的な正式名称ではありませんが、貸主(オーナー)担当の不動産屋を「管理会社」、借主(客)担当の不動産屋を「仲介業者」と呼ぶことにします。実際に不動産屋の従業員と会話する際も、このような呼び方で十分に通じます。

 ただし、法律的には管理会社にしても仲介業者にしても行っている業務は「媒介」であって、同じ役割を果たしているにすぎないので、名前に惑わされないように注意してください。

 また、入居後のトラブルなどでお世話になるのは管理会社の方です。仲介業者賃貸契約を締結したらそれで基本的に関係は終了します。

 なお、たまたま借主(借主)が訪れた不動産屋が、管理会社であった場合は、上の図から仲介業者が抜けることになります。

貸主(物件のオーナー)
 |
貸主担当の不動産屋(管理会社)
 |
借主(客)

 しかし、間に不動産屋がいくつ入ろうが、1つの賃貸契約から不動産屋が受け取れる報酬総額の上限は法令等で決まっていますので(後述)、無理して最初から管理会社を訪れる必要はありません。 

契約の構造(各契約の法的性質)

 先程、不動産の賃貸については、下図のような形で契約が行われるということをお伝えしました。

 しかし、これは法律的に見ると、全体がひとつの契約となっている訳ではありません。

貸主(物件のオーナー)
 |
貸主担当の不動産屋(管理会社)
 |
借主担当の不動産屋(仲介業者)
 |
借主(客)

 実際には、次の3つに分解することができます。

  1. 貸主(オーナー)管理会社との媒介契約
  2. 借主(客)仲介業者との媒介契約
  3. 貸主(オーナー)借主(客)との賃貸借契約

 これらについて、それぞれ説明させていただきます。

貸主(オーナー)管理会社との媒介契約

貸主(物件のオーナー)
 |
貸主担当の不動産屋(管理会社)

 これは、貸主(オーナー)管理会社との契約ですので、借主(客)には殆ど関係ありません。要するに、「部屋を貸したいので、借りたい人を探してください」という内容の契約をし、この契約に基づいて管理会社が借主(客)を探すことになります。

 法律的には、「準委任契約(民法656条)」として扱われ、「委任」に関する規定がすべて準用されることになります。

民法第656条

 この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。 

 これに関して借主(客)の側が注意しておかなければならないことは、貸主(オーナー)が、この媒介契約(準委任契約)をいつでも解除することができるということです(民法656条、651条)。

民法第651条

 委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。  

 ですから、「③貸主(オーナー)借主(客)との賃貸借契約 」が締結されるまでの間であれば貸主はいつでも媒介契約を解除して、部屋を貸す話をなかったことにすることができるのです。しかもその際、貸主(オーナー)借主(客)に対して損害を賠償する義務などは負いません。

 したがって、借主(客)は、借りたい部屋の貸主(オーナー)に不信感を与えないように注意をしながら手続きを進める必要があります。

 また、この貸主(オーナー)管理会社との間の媒介契約には、一般媒介契約・専任媒介契約・専属専任媒介契約という3つの種類があるのですが、これについては後述します。

借主(客)仲介業者との媒介契約

借主担当の不動産屋(仲介業者)
 |
借主(客)

 こちらは、まさに借主(客)が不動産屋(仲介業者)に訪れて、「部屋を借りたいので部屋を探して欲しい」と依頼し、仲介業者がその依頼を引き受けることで成立する契約です。

 これも、「①貸主(オーナー)管理会社との媒介契約」と同様に、民法上の「準委任契約」としての性質を有します。

 なお、不動産の「売買又は交換」の場合であれば、仲介業者は媒介契約について書面を作成する必要がありますが(宅建業法第34条の2)、賃貸(部屋を借りる)の場合は契約書がなくても部屋探しの合意があった時点で媒介契約が成立します。

宅建業法第34条の2

第1項 宅地建物取引業者は、宅地又は建物の売買又は交換の媒介の契約(以下この条において「媒介契約」という。)を締結したときは、遅滞なく、次に掲げる事項を記載した書面を作成して記名押印し、依頼者にこれを交付しなければならない。 

 しかし、契約が成立したとしても、先程の「①貸主(オーナー)管理会社との媒介契約」と同様に、借主(客)又は仲介業者のどちらからでも好きな時に解除することができます(民法656条、651条)。

 なお、民法上、準委任契約は原則として無償で行われることが規定されています(民法第648条第1項)が、仲介業者は商法における「商人(商法第4条第1項)」に該当するため、有償で行われることが原則となります(商法512条。商法は、民法の特別法であるため、民法に優先して適用されます)。

民法第648条

第1項 受任者は、特約がなければ、委任者に対して報酬を請求することができない

商法第4条

第1項 この法律において「商人」とは、自己の名をもって商行為をすることを業とする者をいう。

商法第512条

 商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求することができる。

 ただし、不動産屋が受け取ることのできる報酬については、法令等で上限が定められています。報酬の上限額については、後で詳しく説明します。

貸主(オーナー)借主(客)との賃貸借契約

貸主(物件のオーナー)
 |
借主(客)

 さて、これまで「①貸主(オーナー)管理会社との媒介契約」と「②借主(客)仲介業者との媒介契約」について見てきましたが、契約の本体は「貸主(オーナー)借主(客)との賃貸借契約」です。

 前述のように、不動産屋(管理会社仲介会社)はあくまでも「媒介(貸主借主を引き合わせること)」が仕事です。

 不動産屋で探した後、希望する部屋を借りて住むという行為は、全て「③貸主(オーナー)借主(客)との賃貸借契約」を根拠になされるものなのです。

 この契約は、民法上の賃貸借契約に該当します。

民法第601条

 賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

 よって、この契約の解除等については賃貸借に関する民法の規定が適用されることになりますが、相対的に弱い立場に置かれている借主(客)を保護するため、借地借家法という法律も用意されていて、民法に優先して適用されます。

 借地借家法には、例えば、貸主(オーナー)側から解約したい場合は6ヶ月前に申し入れなければならない(民法では建物賃貸借の解約は3ヶ月前)だとか、厳しい要件を満たさなければ貸主(オーナー)は部屋を借りる契約の更新を拒絶することができないだとか、借主(客)に有利なルールが規定されています。

借地借家法第27条

第1項 建物の賃貸人が賃貸借の解約の申入れをした場合においては、建物の賃貸借は、解約の申入れの日から六月を経過することによって終了する。

借地借家法第28条

 建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。

 また、裁判所の判例によって、「信頼関係破壊の法理」という法理論が確立されていて、貸主借主との間の信頼関係が破壊されたと認められる状況でない限り、貸主(オーナー)は賃貸借契約を解除することができないとされています。

 信頼関係破壊の判断基準のひとつは、3ヶ月以上の家賃未納(債務不履行)とされています。

 したがって、「③貸主(オーナー)借主(客)との賃貸借契約」に関する契約書の中に「家賃を1ヶ月滞納した場合は本件賃貸借契約を解除する」などといった記載があった場合、実際に1ヶ月滞納してしまったとしても、それだけでただちに、当該契約書や民法541条に基づいて解約することはできないのです。

民法第541条

 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。

 このように、貸主(オーナー)の側からいつでも契約を解除することができた「①貸主(オーナー)管理会社との媒介契約」と違って、「③貸主(オーナー)借主(客)との賃貸借契約」を締結してしまえば貸主(オーナー)は簡単に契約を解除することができなくなります。 

 よって、借主(客)として目指すべき目標は、いかに費用を安くして「③貸主(オーナー)借主(客)との賃貸借契約」を結ぶかということになります。

 なお、一般的に、「③貸主(オーナー)借主(客)との賃貸借契約」は次のような流れで締結されます。

(1) 借主(客)から貸主(オーナー)への入居を希望する意思表示(入居審査の依頼)

(2) 貸主(オーナー)による入居審査

(3) 貸主(オーナー)から借主(客)への入居を許可する意思表示貸主(オーナー)は賃貸借契約書にサイン

(4) 仲介業者又は管理会社宅建士による重要事項説明の後、借主(客)が賃貸借契約書にサイン

※「重要事項説明」というのは、借りようとする物件に関する登記簿上の情報や、利用制限事項、設備等の重要な情報について、借主(客)に対し、有資格者である宅地建物取引士が、宅地建物取引士証を提示した上で、書面で説明しなければならないというプロセスで、賃貸借契約の成立前に必ず行わなければならないと宅建業法で定められています。

 なお、(1)〜(3)のプロセスでは賃貸借契約は成立しておらず(4)で借主(客)が賃貸借契約書にサインした段階で初めて賃貸借契約が成立すると考えられます。

※民法における賃貸借契約は諾成契約(当事者双方の合意だけで成立する契約。契約書等は無くてもいい)とされていますが、宅建業法第35条において、「契約が成立するまでの間に」重要事項を説明することが義務付けられており、また、重要事項説明の後に賃貸借契約書にサインをすることが慣例となっていることから、未だ重要事項説明を受けていない(1)の時点では、「(借主(客)が重要事項説明を受けた後に賃貸借契約書にサインした場合には)賃貸借契約を締結したい」という申込みの意思表示がなされているにすぎないと考えられるからです。

宅建業法第35条

第1項 宅地建物取引業者は、宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の相手方若しくは代理を依頼した者又は宅地建物取引業者が行う媒介に係る売買、交換若しくは貸借の各当事者(以下「宅地建物取引業者の相手方等」という。)に対して、その者が取得し、又は借りようとしている宅地又は建物に関し、その売買、交換又は貸借の契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士をして、少なくとも次に掲げる事項について、これらの事項を記載した書面(第五号において図面を必要とするときは、図面)を交付して説明をさせなければならない。(後略)

 逆に言えば、(4)で借主(客)が賃貸借契約書にサインするまでの間は借主貸主との間に何らの法律関係は成立しておらず、いつでも自由に(1)の「入居を希望する意思表示」を撤回することができるということです。

 このことは、重要事項説明がなされた後など、契約書にサインする直前で賃貸の申込みを撤回する場合などに問題になることがあります。 

一般媒介・専任媒介・専属専任媒介 

 部屋探しのために、住宅情報サイトのSUUMOやHOME'Sを見ていると、物件の詳細欄に「一般媒介」や「専任媒介」、「専属専任媒介」といった記載がある場合があります。

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(参照元:http://www.homes.co.jp/

 これは、先程説明した「①貸主(オーナー)管理会社との間の媒介契約」の種類であって、借主(客)の側にはあまり関係のないことなので読み飛ばしてもらってもかまいませんが、一応説明しておきます。

 通常、貸主(オーナー)は、少しでも早く借主(客)を見つけるために、複数の不動産屋(管理会社に媒介をお願いすることができます。このような、通常の媒介契約を「一般媒介契約」と呼びます。

 しかし、場合によって貸主(オーナー)は、付き合いが長く信頼している不動産屋がある場合など、「他の不動産屋に浮気せず、あなたの会社だけにこの物件の媒介をお願いするからよろしくね」と、1つの不動産屋(管理会社)だけに媒介を依頼する場合があります。これを「専任媒介契約」と呼びます。専任媒介契約の場合、貸主(オーナー)は、定期的に管理会社から報告を受けることができるといったメリットがあります。

 ただし、専任媒介契約を締結し、1つの不動産屋(管理会社)だけに媒介を依頼した場合であっても、自分で見つけた借主(客)と賃貸契約を締結することもできます。これを「自己発見取引」と呼びますが、この自己発見取引すらも禁止し、完全に1つの不動産屋だけに媒介を依頼する契約を「専属専任媒介契約」と呼びます。

 まとめると次のようになります。

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http://www.fudousan.or.jp/kiso/sale/3_4.htmlより引用)

 なお、専任媒介契約又は専属専任媒介契約の物件であっても、借主(客)管理会社仲介業者の両方を間に挟む形でその物件を紹介してもらうことは可能ですので、物件が一般媒介であろうと専任媒介であろうと専属専任媒介であろうと借主(客)にはあまり影響がありません

※しいて言えば、専属専任媒介契約の場合であれば、貸主(オーナー)による自己発見取引で取引が中断されるリスクがなくなるといった程度のメリットはあります。

REINS(指定流通機構)について

 「不動産賃貸の構造(不動産屋の役割)」について説明する中で「不動産屋同士の横の繋がり」ということを言いました。といっても、実際に不動産屋同士が普段から交流しているかというとそういう訳ではありません。

 実際には、REINS(レインズ)という国土交通大臣指定物件データベースを通じて繋がっているのです。宅建業法の中に、「指定流通機構」という言葉が使われているのですが、「指定流通機構=REINS」ということになります。

 本来、貸主(オーナー)専任媒介契約又は専属専任媒介契約を締結した管理会社に、指定流通機構(REINS)への登録が義務付けられていて(宅建業法第34条の2第5項)、一般媒介の場合、登録は任意なのですが、実際にはREINSに登録した方が早く借主(客)を見つけることができることから、一般媒介契約の物件も殆どがREINSに登録されています(正確には、REINSに登録されていない物件は、どこの不動産屋も紹介できないので、一般人が借りられる物件の99.9%はREINSに登録された物件に限られるということです)。

宅建業法第34条の2

第5項 宅地建物取引業者は、専任媒介契約を締結したときは、契約の相手方を探索するため、国土交通省令で定める期間内に、当該専任媒介契約の目的物である宅地又は建物につき、所在、規模、形質、売買すべき価額その他国土交通省令で定める事項を、国土交通省令で定めるところにより、国土交通大臣が指定する者(以下「指定流通機構」という。)に登録しなければならない。

 不動産屋(仲介業者)は、基本的にREINSを使って借主(客)の希望にマッチした部屋を探すのです。

 なお、SUUMOやHOME'Sといった住宅情報サイトには、REINSで得た情報を元に不動産屋が物件情報を掲載するため、REINSよりも更新スピードが遅いですし、SUUMOやHOME'Sに物件情報を掲載している不動産屋が管理会社とは限りません

 残念ながらREINSを一般人が閲覧することはできないため、REINSでの検索は完全に不動産屋にお任せすることになってしまいます。良心的な不動産屋では、一緒にREINSの画面を見ながら部屋を探してくれますが、不動産屋によってはREINSの画面を見せてくれなかったり、REINSの代わりにSUUMOの業者版のページを借主(客)に提示して部屋探しをするところがあります。

 

 以上で、前提となる基本知識に関する説明は終わりです。

 次のステップでは実際に部屋探して借りるまでのプロセスについて説明させていただきます。

 読んでいるうちに、言葉の意味が分からなくなってしまったら、これまでの基本的な知識に関する記述をもう一度読み返してみてください。

部屋の探し方

希望する部屋を見つけよう

 知り合いが不動産屋だったりして仲のいい不動産屋がいる場合は別ですが、一般的には初対面の不動産屋(仲介業者仲介をお願いすることになります。

 そのような場合、飛び込みで不動産屋に行っても希望通りの物件が見つかることは滅多にありません

 また、家賃の相場観を持たずに不動産屋に行っても、相場より高い物件を契約させられてしまったりして、最終的に嫌な思いをすることになります。

 そこで、まずはSUUMOやHOME'Sといった住宅情報サイトで、希望に近い部屋をピックアップしてから不動産屋に行くのがオススメです。

 個人的にHOME'Sの地図検索http://www.homes.co.jp/chintai/tokyo/map/)が探しやすいように思います(注:私はHOME'Sの関係者ではありません)。ただし、悪徳不動産屋は、実際の不動産屋の所在地ではない場所に物件を登録し、条件のいい物件のように見せかけている場合があるので、物件の所在地については改めてGoogle Mapなどで確認することが必要です。

 住宅情報サイトで、築年数や広さ、構造(木造や鉄筋コンクリート造など)も参考にしながら色々な部屋を見ていると、住みたい地域のおおよその相場観を把握することができます。これにより、不相当に高い家賃で部屋を契約してしまうことを防ぐことができます。

 また、住宅情報サイトにはいわゆる「おとり物件」という、「既に入居者が決まっているにも関わらず、情報掲載をすることで、客を呼び寄せるための物件」が掲載されている場合があります(実際に、私が入居予定の部屋も、私の入居が決まって2週間近く経つにも関わらずいまだに住宅情報サイトに掲載されています)。

 ですから、その物件が本当に入居できる物件なのか、半信半疑でサイトを閲覧する必要があります。

 でも、たとえそれがおとり物件だとしてもいいのです。なぜならば、あくまでも自分の希望する部屋のイメージを、不動産屋(仲介業者)に伝えるための部屋を探しているのですから。 

掲載している不動産屋(仲介業者)に関する評判を調べよう

 気になる部屋をいくつか(3〜5件程度)ピックアップしたら、その物件情報を住宅情報サイトに掲載している不動産会社(仲介業者)の評判GoogleやTwitterで検索しましょう。

 以前こちらの記事で書いたように、ネット上の口コミが100%信頼できるわけではなく口コミが高評価であっても実際には悪質なことをやっている不動産屋は沢山存在していますが、「そもそもネット上での評判が低いにも関わらず実際に訪れてみたら善良な不動産会社だった」なんてケースはまずありません

 なお、もしかしたらこの作業をしている間に、住宅情報サイトに掲載している不動産会社が、単なる仲介業者ではなく、希望する部屋の管理会社であることが判明するかもしれません。

 その場合、ネガティブな情報がなければ、まずその不動産屋(管理会社)を訪れましょう

 一方、その管理会社についてネガティブな情報ばかり出てきた場合は、入居後や退去時に色々なトラブルに巻き込まれる場合があるので、その物件を借りることは諦めましょう。いくら気に入った部屋に入居できたとしても、入居後のトラブルでイラ立たされては満足いく生活を送ることはできません

 もちろん、悪質な管理会社に当たってしまった場合でも、後から法律的な手を打つことはできます。しかし、それにはかなりの体力を使いますトラブルには予め巻き込まれないようにするのが一番です。

不動産屋(仲介業者)を訪れよう

 さて、こうして調べた不動産屋(仲介業者)についてネガティブな情報が少なければ、実際に仲介業者を訪れてみましょう。

 この時の持ち物は、①ピックアップした部屋の物件情報(印刷するか、ブックマークしてスマホで見られるようにしておくか)と②スマートフォン、③10万円程度の現金です。

 実際に訪れたら、店内の雰囲気従業員の態度を見て、信頼できる不動産屋か確認するのも大事ですが、もうひとつチェックすべき点があります。

 それが「仲介手数料」についてです。

 詳しくは後述しますが、居住用建物の場合、不動産屋は、借主(客)の承諾がない限り、賃料の半月分(0.54月分)までしか仲介手数料を受け取ることができません。

 一方で、借主(客)の承諾がある場合は、賃料の一月分(1.08月分)まで受け取ることができます。

 これは法令等で定められたルールです。

 こちらが承諾をしない限り法律上は0.54月分の仲介手数料を支払う義務しかないので、仲介手数料について借主(客)の側から質問する必要はありません(むしろしない方が好ましいです)。

 そこで、ずる賢い仲介業者は、借主(客)が余計な知識を付けていない部屋探し初期の段階でこの承諾を取ろうとします。

 ですから、仲介業者の従業員が「うちは仲介手数料1月分でやらせてもらってます!」などと発言していないか注意するだけでなく、仲介業者を初めて訪れた時に記入する情報シート(氏名や希望する物件の条件について記載する用紙)「仲介手数料は1.08月分です」などと書いていないか注意するようにしてください。

 そして、仲介手数料に関する話をこの段階で持ち出された場合、「半月分にしていただけませんか?」と相談(交渉)をし、相手の反応を見ましょう。

 仲介業者の従業員が少しでも嫌な顔をしたら、いい部屋を紹介してもらえなくなる可能性が高まるので、その仲介業者を後にして別の仲介業者にお願いすることにしましょう。

 また、訪れた不動産屋が管理会社であった場合(貸主(オーナー)借主(客)との間に管理会社だけ挟んで賃貸契約をする場合)、仲介業者へのマージンが発生しないため、仲介手数料半月分で手続きを進めてくれる可能性が高いです

 逆に、管理会社であるにも関わらず強硬に一月分の仲介手数料を要求してくる場合には、コンプライアンス(法令遵守)意識が低い管理会社ということで、入居後にトラブルになる可能性が高いので、その管理会社を去るとともに、その部屋を借りることは諦めましょう。なぜならば、他の仲介業者を介したところで、結局その管理会社も契約関係に含まれることになるからです。

 さて、従業員の態度も悪くなく、また、仲介手数料一月分の説明もなかった場合(又は、説明があったけれども嫌な顔せずに半月分にしてくれた場合)、実際に部屋探しをその仲介業者にお願いすることにしましょう。

 この時、預り金として支払うために、10万円程度の現金を持参していることも伝えるといいでしょう。法令で定められた義務ではありませんが、多くの仲介業者は、入居審査の際に、家賃の一月分相当額を預けることを求めてきます。これは、貸主(オーナー)に対して、借主(客)の「部屋を借りる意思」を明示するためのものであり、最終的には借主(客)に全額返還されるお金で、「預り金」と呼ばれます。仲介業者に訪れた当日に部屋の申込みをしない場合、預り金を支払う必要はありませんが、「預り金のためのお金を持参してきた」ということで、「真剣に部屋を探している」というこちらの意思仲介業者に対して示すことができます。こうすることで、仲介業者も真剣に部屋を探してくれるようになるため、姿勢を示すこの行為はとても大事です。

 預り金のためにお金を用意していることを伝えた後、仲介業者の従業員には、事前にピックアップした部屋をすべて提示し、その空き状況を調べてもらうとともに、それと似た条件の部屋がないか、探してもらいます。

 事前にピックアップした部屋が空いているのであれば、すぐに内見(実際に部屋を見ること)をして、条件が悪くなければ申込みをしてもいいと思います。

 なお、事前にピックアップした部屋がどれも空いていない場合、その日は一度帰宅して、いい物件が出てきたら連絡をもらえるようにお願いしておくのがいいでしょう。

 いい物件は、すぐに成約してしまいます。それこそ、REINSに登録されて数時間後には申込みがされてしまうくらいのスピード感です。逆に言えば、不動産屋に訪れた日にすぐ紹介される物件は、長らく入居者がいないワケ有り物件である可能性が高いからです。

 このとき、同時に3社くらいの仲介業者を掛け持ちして部屋探しをお願いしておくといいでしょう。

 どの不動産会社もREINSで部屋を探すため、元となるデータベースは同じなのですが、不動産屋の従業員によって、提案してくる部屋にかなりの違いが出てくるからです。また、部屋探しを依頼していた仲介業者が、真剣に借主(客)の希望する物件を探していないというリスクを減らすことができます。

 逆に、8社とか9社とか、沢山の仲介業者に同時並行で依頼してもあまりメリットはなく、電話やメールの対応で疲弊するだけなのでその必要はありません。

物件を管理している不動産屋に関する評判を調べよう

 そうこうしていると、希望に沿う空き物件が見つかると思います。

 この時、焦ってはいけません。

 実際に部屋を見に行くこと(内見)も大事ですが、その前にすべきことがあります。

 それが「希望する部屋の管理会社の評判を調べる」ということです。

 これについては、その部屋を紹介してくれた仲介業者の担当者に質問してみたら何か教えてくれるかもしれませんし、仲介業者の評判を調べた時と同様に、管理会社についてGoogleやTwitterで検索してみることが大事です。

 どことは言いませんが、敷金・礼金は0一見良心的なように見える物件でも、管理会社貸主(オーナー)がグルで、共益費として毎月15,000円ボッタクって総額的に見たら礼金を一月分払うよりも高額になってしまったりとか、退去時に30万円もの高額な費用を請求されたりとか、悪質な管理会社によるトラブルが頻発している物件もあるのです。

 場合によっては、この作業を仲介業者の店内で行わなければならない場合があります。その時のために、スマートフォン必ず持っていくようにしましょう。

物件に申込みをしよう

 希望する空き物件の管理会社に問題がなければ、仲介業者に必要事項を記入した用紙を渡して、仲介業者管理会社を通じて貸主(オーナー)に入居審査の申込みを行いましょう。

 この時に気をつけること2つです。

 ひとつは、仲介業者から「預り金」を請求された場合、そのお金が、当該物件を契約した場合でもしなかった場合でも全額返還されるものであることを確認することです。なお、預り金を渡した場合には、「預り証」を必ず発行してもらいましょう。預り証がないと、預り金の返還時にトラブルになる場合があります。

 もうひとつは、入居審査の申込みに必要な書類の中に「以後、入居の申込みを撤回する場合には、相応の損害賠償金を支払うものとする」というような記述がないことを確認することです。この記述がある場合、入居審査後にやはりその部屋を借りないこととなった場合などに、お金を請求されるトラブルになったりします。

「騙し取られやすいお金」と「騙されないための法律知識」

 ここまで長文をお読み頂きありがとうございます。

 読むのに疲れたという方もいらっしゃると思います。

 しかし、実際に不動産屋(仲介業者)とお金の話をする、ここからの記述が本番です。一度休憩を挟んでからでもいいので、最後までお読み頂ければ幸いです。実際に数万円、十数万円というお金に直結する話なのですから、かならずあなた自身に返ってきます。

 ここからは、実際に不動産屋(仲介業者管理会社)に騙し取られやすいお金について個別に説明し、それに対応するための法律知識についても解説していきます。

家賃

 まずはじめに、一番基本的な「家賃・礼金」です。

 悪質な仲介業者は、この段階で借主(客)からお金をむしり取ろうとします。

 「そんなこと可能なの?」と思われるかもしれませんが、それが可能なんです。

 特に、REINSのシステムを借主(客)には見せないようにしている仲介業者で注意が必要なのですが、REINSに掲載された家賃に仲介業者が上乗せした金額を、借主(客)に提示するのです。

 これは実際に、私もやられました

 私が希望する条件にぴったり合う部屋として、とある仲介業者が紹介してきた物件は家賃10万9千円

 しかし、その物件についてHOME'SやSUUMOで調べてみると、家賃10万5千円と表示されているのです。もちろん、部屋番号も一致しました。

 そこで、REINSの画面を見せてくれる別の良心的な仲介業者にお願いして調べてみたところ、REINS上の情報も10万5千円となっていたのです!

 これについて、最初にその部屋を紹介してきた仲介業者に尋ねたところ、一応管理会社に確認するフリをした後で、すぐに10万5千円の家賃に訂正されました。

 たかが4千円と思うかもしれませんが、賃貸の契約は原則として2年間(=24ヶ月)です。2年間のスパンで考えれば、4,000円×24ヶ月=96,000円も騙し取られるところだったのです(家賃は礼金や仲介手数料にも跳ね返るので、実際にはもっと削減したことになります)

 もし私が気づかなかった場合、この金額の中の一部が、最終的に紹介した仲介業者に払い戻されることになっていたのでしょう。

 これは、刑法的には詐欺罪(刑法第246条第1項)に該当しうる行為ですし、民法においても不法行為に基づく損害賠償(民法第709条)及び不当利得の返還(民法第704条、第703条)を請求できる事態ですが、REINSという閉鎖的なデータベースをもとに立証しなければならないため、相手の詐欺行為を証明するのがとても難しいように思います。

刑法第246条

第1項 人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。 

民法第709条

 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

民法第703条

 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。

民法第704条

 悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。

 ですから、家賃については騙し取られることのないように、部屋の紹介をされた時点で、REINSの画面を見せてくれる他の仲介業者に協力してもらうなどして、正規の金額を確認する必要があります。

礼金

 礼金についても、家賃と同様の手段で借主(客)から騙し取ろうとします。

 実際にREINS上では「礼金1月分」となっているのを「礼金2月分」と改竄したり、貸主(オーナー)の好意で「礼金0月分」となっている物件を「礼金1月分」として紹介したりするのです。

 最近、礼金0月分の物件の方が珍しかったりしますから、借主(客)は当然のように1月分を払うものの、実際にそれは払う必要のないお金で、そのまま直接仲介業者のポケットに入ることになったりするのです。

 これに対する防衛策は、家賃の時と同様に、REINSの画面を直接確認することです。

共益費

 共益費についても、家賃・礼金と同様の手段が用いられます。

 実際には共益費0円であるにも関わらず、1ヶ月につき5千円や1万円の共益費がかかってしまう旨を、借主(客)に説明して契約させることで、最終的に共益費の一部を仲介業者のポケットに入れようとするのです。

 共益費についても、REINSの画面に記載がありますので、必ず確認するようにしてください。

仲介手数料

 一番トラブルになりやすく、また、違法に騙し取られている件数が多いのが、「仲介手数料」です。

 これまでの説明の中でも何度か出てきましたが、不動産屋が1つの賃貸借契約から受け取ることのできる仲介手数料については法令等で上限が定められています

 具体的には、宅建業法第46条と、同条から委任を受けて制定された「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額(昭和45年建設省告示第1552号)」です。

宅建業法第46条

第1項 宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買、交換又は貸借の代理又は媒介に関して受けることのできる報酬の額は国土交通大臣の定めるところによる。
第2項 宅地建物取引業者は、前項の額をこえて報酬を受けてはならない

宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額(昭和45年建設省告示第1552号) 

第4 賃借の媒介に関する報酬の額

 宅地建物取引業者が宅地又は建物の貸借の媒介に関して依頼者の双方から受けることのできる報酬の額(当該媒介に係る消費税相当額を含む。以下この規定において同じ)の合計額は、当該宅地又は建物の借賃(中略)の一月分の1.08倍に相当する金額以内とする。この場合において、居住の用に供する建物の賃貸借の媒介に関して依頼者の一方から受けることのできる報酬の額は、当該媒介の依頼を受けるに当たって当該依頼者の承諾を得ている場合を除き借賃の一月分の0.54倍に相当する金額以内とする。

 ここで着目すべきは、建設省告示の2文目です。

 要するに、借主(客)の承諾がない限り、不動産屋は、賃料の0.54月分までしか借主(客)から受け取ることはできないというわけです。

 逆に言えば、借主(客)の承諾があって初めて、不動産屋は、賃料の1.08月分まで借主(客)から受け取ることができます

 しかし、このような規定があるにも関わらず、多くの不動産屋は、借主(客)からの明示の承諾を得ることなく賃料の1.08月分を請求し、受領しています。

※不動産屋が「法令では、承諾がない限り半月分しか仲介手数料(報酬)を受け取ることができないことになっているんですが、お客様は一月分支払うという承諾をしてくださいますか?」と聞いてきたら、借主(客)はその不動産屋を去って、他の不動産屋に行ってしまい、に逃げられてしまう可能性が高いでしょう。ですから、わざわざ明示の承諾を取るようなことはしないのです。

 それでは、このような不動産屋の行為がなぜ事後的に問題にならないのでしょうか。

 それは、殆どの借主(客)がこのような規定の存在を知らず、特に異議を申し立てること無く請求されたとおりの金額を支払ってしまうからです。

 この「請求通りに1.08月分を支払う」という行為が、「承諾」とみなされてしまうのです。

 また、最初から私は法令で定められたとおり、賃料の半月分しか払いません!という借主(客)は、入居審査の段階で仲介業者落としてしまうのです。入居審査では、落ちたとしても、その理由を説明しないこととなっています。ですから、本当は仲介手数料が原因で落としたとしても、そのことについて説明する必要はないのです。実際に入居審査をするのは管理会社貸主(オーナー)ですが、たとえ入居審査に通ったとしても、仲介業者管理会社貸主(オーナー)に対しては「借主(客)が申し込みを撤回してきた」と嘘の情報を伝える一方で、借主(客)に対しては、「入居審査に落ちました」と嘘の情報を伝えて終了です。

 それでは、このような仲介業者に対してはどのように対処すればいいのでしょうか。

 それは、入居審査が通過するまでの間は仲介手数料に関する話を一切せず入居審査通過後に仲介手数料を含めた契約金(敷金・礼金・各種手数料等)の支払を請求された段階で初めて、仲介手数料に関する話をするのです。

 もちろん、契約金の支払を請求された際、仲介手数料が賃料の0.54月分であればそれは当然に請求できる金額ですから、特に異議を述べる必要はありません。

 しかし、実際に私も経験したのですが、悪徳不動産屋は大抵、それまで一切、仲介手数料に関する話をしていないにも関わらず、契約金の請求段階になって当然のように1.08月分の仲介手数料を含めた契約金の支払を請求してきます。しかも、その時も何ら仲介手数料に関する説明はされません(私の場合は、請求金額が記載された請求書がメールで一方的に送付されただけでした)。

 そこで、借主(客)の反撃の番です。

 仲介業者の店内に必ず掲示されている「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額(昭和45年建設省告示第1552号) 」を根拠に、次のようなことを仲介業者の従業員に告げるのです。

 「私は、仲介手数料が0.54月分だと思っていました。なぜならば、そのように書かれた告示が店内に掲示してあるからです。これまで、私は1.08月分支払うという承諾をした覚えはありません。私は0.54月分しか仲介手数料を支払うつもりはありません。

 なぜこんなことが言えるかというと、先程見た「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額(昭和45年建設省告示第1552号) 」は、不動産屋の店内の見えやすいところに必ず掲示しなければならない宅建業法で定められているからです(宅建業法第46条第4項)。

宅建業法第46条

第4項 宅地建物取引業者は、その事務所ごとに、公衆の見やすい場所に、第一項の規定により国土交通大臣が定めた報酬の額を掲示しなければならない。

 悪徳不動産屋の場合、この告示を見にくい場所小さい字掲示していたりするのですが、不動産屋の方から「あなたにはあれを見ていないはずだ。だって、あんなに見にくい場所に掲示してあるのだから」なんて言うことはできません

 なぜならば、法律で「公衆の見やすい場所に」「掲示しなければならない」と書いてあるからです。それを「見にくい場所に掲示してあるのだから見ていないはず」なんて言ったら、自ら宅建業法第46条第4項に違反していることを自白していることになるからです。

※なお、この時、仲介業者が、物件の情報シートに記載された次のような表を見せて、「これが承諾の根拠だ!」と言ってくるかもしれません。

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 確かに、借主」のところに「100%」と書いてある当該表の意味するところは、「借主(客)が1.08月分の仲介手数料を負担する」という意味ではあるのですが、こんなざっくばらんな表の読み方を一般人の常識のように扱うのは筋が通りません

 「この表がそんな意味だとは知らなかった。何の説明もしなかったくせに、こんな専門的な表を承諾の根拠とするのはおかしい」と言って一蹴しましょう。

 このような展開になると、仲介業者は困って慌てるはずです。なぜならば、こちらの主張は全て筋が通っていて法律に適合しているからです。筋を曲げて違法なことをしようとしているのは、1.08月分の仲介手数料を無断で請求してきた仲介業者の方です。

 これに対して、仲介業者は2通りの対応をしてくることが想定されます。

 ひとつは、こちらの主張通り、0.54月分の仲介手数料で手続きを進めてくれる場合です。この場合、この仲介業者はまだ良心的です。

 最悪なのはもうひとつのパターンです。実際に私もこちらのパターンに遭遇してしまったのですが、仲介業者が完全に開き直って1.08月分の仲介手数料をお支払いいただけない場合、これからの手続きを進めることができません」という強気な発言に出てきた場合です。

 これは、「不当に高額の報酬の要求(宅建業法第47条第2号)」及び「威迫(同法第47条の2第2項)」として宅建業法に違反し、話の進め方によっては刑法上の犯罪である「恐喝罪(刑法249条第1項)」に該当しかねない行為なのですが、なぜかこのような対応をしてくる不動産屋がいるのです。

宅建業法第47条

 宅地建物取引業者は、その業務に関して、宅地建物取引業者の相手方等に対し、次に掲げる行為をしてはならない。

 第2号  不当に高額の報酬を要求する行為 

宅建業法第47条の2

第2項 宅地建物取引業者等は、宅地建物取引業に係る契約を締結させ、又は宅地建物取引業に係る契約の申込みの撤回若しくは解除を妨げるため、宅地建物取引業者の相手方等を威迫してはならない。

刑法第249条

第1項 人を恐喝して財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。

 こうなってしまったらどうしようもありません。このまま関わるのも面倒なので、この仲介業者との関係を断つ方向に移りましょう。

 しかし、この後の動きを考えると、ここで、借主(客)の側から媒介契約を解除するのはオススメできません

 あくまでも、媒介契約の解除については、仲介業者の方から言わせましょう

 仲介業者が頑なに媒介契約の解除すらしない場合には、次のように発言しましょう。

 「私は法令で定められた報酬を支払うと言っているのに、そちらは手続きを進めようとしない。このままでは、善管注意義務違反として、損害賠償を請求することになりますよ」と。

 前述の通り、借主(客)仲介業者との間には、準委任契約としての性質を有する媒介契約が締結されているため、仲介業者は「善管注意義務(善良な注意者の管理義務)」(民法第644条)を負っています。つまり、仲介業者委託された媒介業務を円滑に行う義務を負っているのです。

民法第644条

 受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。

  善管注意義務に違反した場合、仲介業者債務不履行に基づく損害賠償責任(415条)を負うことになります(話がそれますが、以前、ヨッピーさんの記事で、おとり物件について追求したら仲介手数料が0円になったけどその後放置されたという記事がありましたが、このような場合も当然、媒介契約が継続している以上、善管注意義務を仲介業者が負っていて、債務不履行に基づく損害賠償責任を問うことができます)。

民法第415条

 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。

※この行為が、刑法上の脅迫罪(刑法第222条第1項)や強要罪(同法第223条第1項)に該当するのではないかと心配になられる方もいらっしゃるかもしれませんが、そもそも相手が追っている善管注意義務の履行を促しているだけであることから強要罪の構成要件には該当しませんし、脅迫罪の構成要件に該当したとしても、契約上の義務の履行を促す正当行為であるとして違法性が阻却される(同法第35条)ため問題はありません

刑法第222条

第1項 生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。

刑法第223条

第1項 生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、三年以下の懲役に処する。

刑法第35条

 法令又は正当な業務による行為は、罰しない。

 ここまで言ってもまだ仲介業者強硬姿勢を崩さず媒介契約を解除してくれない場合は、こちらから媒介契約を解除した上で他の仲介業者を通じて希望する他の物件を探すことにしましょう。また、このときは、宅建業法違反等の行為についてしかるべき対応をとってもいいかもしれません(詳しくは後述)。

 一方、ここで仲介業者媒介契約を解除してきたらこちらのものです。媒介契約が存在しなくなった以上、この仲介業者義理を通す必要はありません

 すぐに入居審査済の物件を管理している管理会社に連絡し、「仲介業者から違法な要求を受けた挙句、最終的に仲介業者の方から媒介契約を解除された」ということを伝えましょう。

 入居審査も既に通過している状態ですし、管理会社としても途中まで進んだ話をなかったことにするのではなくそのままの状態で進めたいと考えているはずです。

 この時、管理会社が1.08月分の仲介手数料を請求してきたらそれはそれで考えものなのですが、それは滅多にないでしょう。そもそも、仲介業者が存在する元の状態であれば、仲介手数料は仲介業者管理会社で折半することとなり、半月分以下しか入ってこなかったはずですから。

仲介業者との媒介契約を借主(客)の側から解除した上で、直接管理会社と接触を図るのは、いわゆる「抜き」と呼ばれる行為になってしまうので、やってはいけません。不動産業界でタブーとされる行為ですので。あくまでも仲介業者から媒介契約を解除させるのです。

契約事務手数料

 仲介手数料の話と関連して、借主(客)に不当に請求されるのが、「契約事務手数料」です。

 これは、仲介業者又は管理会社から請求されるものですが、「契約に必要な書類の準備に必要な経費」として5千円〜1万円程度を請求されることがあります。

 確かに、媒介契約は準委任契約の性質を持つため、民法の原則に従って、必要な経費は借主(客)が負担しなければなりません(民法第640条、650条第1項)。

民法第649条

 委任事務を処理するについて費用を要するときは、委任者は、受任者の請求により、その前払をしなければならない。

民法第650条

第1項 受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる費用を支出したときは、委任者に対し、その費用及び支出の日以後におけるその利息の償還を請求することができる。

 しかし、よく考えてみてください。書類の印刷だけで5千円もかかることありますか?

 普通そんなにかからないですよね。

 おそらくこれには書類作成にかかる人件費も含まれているのでしょう。

 しかし、媒介契約にかかる人件費は、あくまでも「報酬」として受け取るべきものです。そして、「報酬」については、前述の通り宅建業法等で上限が定められており上限ギリギリの仲介手数料を払っているはずです。

 そうであるにも関わらず、人件費も含めた契約事務手数料を受領することは、報酬について定めた宅建業法第46条第2項に違反する行為です。

 これに対する防衛策は、「契約事務手数料の内訳を提示してもらう」ことです。 

 そうすることにより、本当に払うべき経費(恐らく数百円程度)が判明します。

 また、実際のところ、数百円を得るために経費の内訳を計算するのも面倒なので、契約事務手数料自体を支払う必要がなくなる場合が多いと思います。実際に私が遭遇したケースがそうでした。

火災保険料

 火災保険料についても、不必要なお金を騙し取られている可能性があります。

 確かに、多くの物件においては、万が一家事が発生してしまった場合にそなえて、貸主(オーナー)が、火災保険への加入を要求しているのが実情です。

 その場合、火災保険に入らなければ、その物件を借りることはできませんので、必ず入る必要があります。

 しかし、その際、火災保険の補償内容に着目すると、火災保険料引下げの余地があることがわかります。

 火災保険の補償内容は、大きく分けて次の2つに分けられます。

 ①借家人賠償責任補償
 ②家財補償

 ①借家人賠償責任補償というのは、借主(客)が重過失で火事を起こしてしまい、借りている部屋に損害を与えてしまった場合に、貸主(オーナー)に対する損害賠償金額を代わりに支払ってくれるという補償内容です。貸主(オーナー)が、火災保険に入ることを要求しているのは、万が一に備えて、①借家人賠償責任補償を準備しておいて欲しいからです。

 一方、②家財補償というのは、火事などで借主(客)の持ち物が損害を被った場合に、保険会社がその損害の相当額を借主(客)に対して支払ってくれるという保証内容です。

 ①借家人賠償責任補償については、貸主(オーナー)の利益に直結する事項なので、その補償内容を変えることは原則としてできませんが、②家財補償については、借主(客)の利益に直結する事項なので、借主(客)の意向である程度変更することができます。

 実際に私の場合、当初は管理会社から20,000円の火災保険への加入を求められていましたが、②家財補償の保証限度額を500万円から300万円に引き下げることで、15,000円の火災保険に変更することができました。

※火災保険への加入に際しては、保険業法において様々なルールが課されています。

 まず、火災保険について扱う業務は、保険業法上の「少額短期保険業」に該当します(保険業法第2条第17項)。そして、火災保険の加入を求める管理会社は「少額短期保険募集人」であり、「保険募集人」でもあります(同条第22項、第23項)。

保険業法第2条

第17項 この法律において「少額短期保険業」とは、保険業のうち、保険期間が二年以内の政令で定める期間以内であって、保険金額が千万円を超えない範囲内において政令で定める金額以下の保険(政令で定めるものを除く。)のみの引受けを行う事業をいう。

第22項 この法律において「少額短期保険募集人」とは、少額短期保険業者の役員若しくは使用人又は少額短期保険業者の委託を受けた者若しくはその者の再委託を受けた者(法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めのあるものを含む。)若しくはこれらの者の役員若しくは使用人で、その少額短期保険業者のために保険契約の締結の代理又は媒介を行うものをいう。

第23項 この法律において「保険募集人」とは、生命保険募集人、損害保険募集人又は少額短期保険募集人をいう。

 そして、「保険募集人」である管理会社は、火災保険に加入させるにあたり、顧客の意向を把握し、意向に沿った保険契約を締結できるように提案する義務があるのです。

保険業法第294条の2

 保険会社等若しくは外国保険会社等、これらの役員(保険募集人である者を除く。)、保険募集人又は保険仲立人若しくはその役員若しくは使用人は、保険契約の締結、保険募集又は自らが締結した若しくは保険募集を行った団体保険に係る保険契約に加入することを勧誘する行為その他の当該保険契約に加入させるための行為に関し、顧客の意向を把握し、これに沿った保険契約の締結等(保険契約の締結又は保険契約への加入をいう。以下この条において同じ。)の提案、当該保険契約の内容の説明及び保険契約の締結等に際しての顧客の意向と当該保険契約の内容が合致していることを顧客が確認する機会の提供を行わなければならない。ただし、保険契約者等の保護に欠けるおそれがないものとして内閣府令で定める場合は、この限りでない。 

 また、この際、「保険募集人」である管理会社は、「この金額の保険に入らなければ、賃貸契約を結ぶことはできません」というようないわゆる「圧力募集」をすることが禁じられています(保険業法第300条第1項第9号、保険業法施行規則第234条第1項第2号)。

保険業法第300条

第1項 保険会社等若しくは外国保険会社等、これらの役員(保険募集人である者を除く。)、保険募集人又は保険仲立人若しくはその役員若しくは使用人は、保険契約の締結、保険募集又は自らが締結した若しくは保険募集を行った団体保険に係る保険契約に加入することを勧誘する行為その他の当該保険契約に加入させるための行為に関して、次に掲げる行為(中略)をしてはならない。(後略)
 第9号  前各号に定めるもののほか、保険契約者等の保護に欠けるおそれがあるものとして内閣府令で定める行為

保険業法施行規則(内閣府令)第234条

第1項 法第三百条第一項第九号 に規定する内閣府令で定める行為は、次に掲げる行為とする。
 第2号  法人である生命保険募集人、少額短期保険募集人又は保険仲立人が、その役員又は使用人その他当該生命保険募集人、少額短期保険募集人又は保険仲立人と密接な関係を有する者として金融庁長官が定める者に対して、金融庁長官が定める保険以外の保険について、生命保険会社、外国生命保険会社等、法第二百十九条第四項 の免許を受けた免許特定法人の引受社員又は少額短期保険業者を保険者とする保険契約の申込みをさせる行為その他の保険契約者又は被保険者に対して、威迫し、又は業務上の地位等を不当に利用して保険契約の申込みをさせ、又は既に成立している保険契約を消滅させる行為

 このように、保険業法において火災保険の加入に際して、加入者を守るためのルールが様々定められているため、通常であれば管理会社丁寧な対応をしてくれると思います。しかし、もし管理会社からこのような保険業法違反の行為を受けてしまった場合には、その部屋を諦めるか、又は、管理会社の指定する火災保険に加入した上で、事後的にしかるべき措置をとりましょう(保険業法違反行為への具体的な対応方法については後述)。

鍵の交換料

 鍵の交換については、本来的には物件管理上の問題であることから、貸主(オーナー)が負担すべきものなのですが、貸主(オーナー)の方から「借主(客)が交換したくないなら交換しなくていいよ」と言われた場合に、セキュリティ面で不安な生活を送ることになるのは借主(客)となってしまうので、お金を払ってでも交換してもらった方がいいでしょう。

 しかし、この時に注意すべき点があります。それは「新品の鍵に交換されるんですよね?」と、仲介業者を通じて管理会社貸主(オーナー)に確認することです。

 物件によっては、鍵のシリンダーを、単に他の空き部屋のもの(中古)と交換するだけで済ませてしまう、いわゆる「ローテーション」が行われている場合があります。

 この場合、中古の鍵と交換するわけで、新品の鍵と交換する時のように1万円とか2万円とかかかるはずはありません

 そこで、1万円以上の高額な鍵交換費用を請求されている場合には、必ず「新品の鍵に交換される」ということを確認するようにしましょう。

24時間サポートサービス

 最近、「入居者には全員に入ってもらっている」というような触れ込みで、「入居時トラブル24時間サポートサービス」などの加入を迫るケースが増えています。

 特に、大手建築会社による分譲マンションとかにそのケースが多いですね。

 サービスの内容としては、例えば、「入居中、室内設備にトラブルが生じた場合に24時間で対応してくれる電話サービスに、いつでも健康的な相談をできるサービス、さらにはファイナンシャルプランナーと相談できるサービスをあわせて月額300円! さらに、このサービスに加入していれば家賃の引き落とし手数料無料!」というようなものです。

 これは大抵の場合、管理会社が少しでも入居者からお金を巻き上げようとしているものです。

 そもそも、こんなサービスに加入していなかったとしても入居中のトラブルについては、貸主(オーナー)又は管理会社(貸主からトラブル対応を委託されている場合)が対応する義務があるのです(民法第606条第1項)。

民法第606条

第1項 賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。 

 それを、いかにも有料のサービスのように見せてお金をとろうとするのはどうかと思います。

 また、口座引落し手数料のような根幹となる費用の支払いに合わせる形で複数のサービスをまとめて契約させようとする行為は、「抱き合わせ販売」として独占禁止法第19条に違反する行為です。

独占禁止法第19条

 事業者は、不公正な取引方法を用いてはならない。

独占禁止法第2条

第9項 この法律において「不公正な取引方法」とは、次の各号のいずれかに該当する行為をいう。

 第6号 前各号に掲げるもののほか、次のいずれかに該当する行為であつて、公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち、公正取引委員会が指定するもの

不公正な取引方法(昭和57年6月18日公正取引委員会告示第15号)

 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和二十二年法律第五十四号)第二条第九項の規定により、不公正な取引方法(昭和二十八年公正取引委員会告示第十一号)の全部を次のように改正し、昭和五十七年九月一日から施行する。

(中略)

(抱き合わせ販売等)

10 相手方に対し、不当に、商品又は役務の供給に併せて他の商品又は役務を自己又は自己の指定する事業者から購入させ、その他自己又は自己の指定する事業者と取引するように強制すること。

 このことに対する防衛策は、「このサービスって必ず入らなければいけないんですか?」と仲介業者を通じて管理会社に質問することです。

 大抵の場合、この質問をすれば、このサービスに加入しなくていいことになると思います。

 また、これに仲介業者が質問に快く応じてくれなかったり、管理会社が「どうしても加入して欲しい」というような強硬な態度をとった場合には、「どうしてもこのサービスに入らないと、この物件は契約できないんですか?」と質問しましょう。

 もしこの質問に「はい、このサービスに加入しなければこの物件は契約できません」と仲介業者又は管理会社が答えた場合、「断定的判断の提供(宅建業法第47条の2第1項」として宅建業法に違反する行為ですから、後から問題にすることができます。

宅建業法第47条の2

第1項 宅地建物取引業者又はその代理人、使用人その他の従業者(以下この条において「宅地建物取引業者等」という。)は、宅地建物取引業に係る契約の締結の勧誘をするに際し、宅地建物取引業者の相手方等に対し、利益を生ずることが確実であると誤解させるべき断定的判断を提供する行為をしてはならない。

 仲介業者管理会社が断定的判断を提供した場合には、それ以上揉めるのも面倒なので、とりあえず「このサービスに加入しなければ、この物件にどうしても入居することができないということであれば、仕方ないですね」と、その場はそのサービスに加入することを受け入れた上で賃貸借契約締結後にしかるべき対応をしましょう(宅建業法違反への対応については後述)。

口座引落手数料

 家賃の振込手数料や、口座からの引落し手数料は、借主(客)が負担することが原則です(民法第485条本文)。

民法第485条

 弁済の費用について別段の意思表示がないときは、その費用は、債務者の負担とする。ただし、債権者が住所の移転その他の行為によって弁済の費用を増加させたときは、その増加額は、債権者の負担とする。

 物件によっては、家賃の支払い方法が銀行口座からの引落しに限定されていて、それにかかる手数料について家賃とは別に支払うことを求められる場合があります。

 このこと自体は問題ないのですが、問題となるのはその金額です。

 多くの銀行では、口座引き落とし手数料は1回あたり0円〜300円程度です。

 これを、 1回あたり700円とか800円とか請求してきた場合は、明らかに高すぎるので、どこの銀行でそんな高額の手数料を要求されているのか、その詳細を確認しましょう。

ハウスクリーニング費用

 物件によっては、借主(客)入居を開始する際に「ハウスクリーニング費用」を請求してくる場合があります。

 しかし、本来、部屋を清潔な状態で借主(客)に引き渡すのは、貸主(オーナー)の義務です。

 また、最近では、退去時に以前の住人からクリーニング費用を徴収して、部屋を綺麗にしているはずです。

 それにも関わらず、入居者に「ハウスクリーニング費用」を請求するのはおかしな話です。

 これは、ルームクリーニング費用として数万円のお金を徴収し、実際には数千円程度の簡単な掃除をするに留めることで、その差額が管理会社又は貸主(オーナー)のポケットに入るという仕組みを作るために請求されているものです。

 これについても、24時間サポートサービスと同様に、「このサービスって必要なんですか?」と仲介業者に質問して管理会社に問い合わせた上で、強硬な態度に出られた場合には、「このサービスを受け入れないとこの物件を契約することができないということですか?」と確認し、「YES」と答えるようであれば宅建業法違反を後から問題にしましょう。

※話が変わりますが、現在、多くの物件において、「退去時のハウスクリーニング費用」を退去者に負担させるという約束が、賃貸借契約の中に組み込まれています。これについて、相場の範囲内(例:1Kで2万円〜3.5万円程度)である場合、約束した以上は支払わなければなりません。しかし、場合によっては後から争うことができるかもしれないので、念のためこれの説明をされた時に「クリーニング業者をこちらで選ぶことはでいないんですか?」と確認しておくと後々いいことがあるかもしれません。

保証費用(保証会社)

 保証会社とは、部屋を借りる時に必要な「連帯保証人」の代わりになってくれる会社のことです。

 もともとは、連帯保証人を見つけられない人のために用意されていた制度だったのですが、最近では、連帯保証人がいる場合でも、二重の保険をかけるために保証会社の利用を必須としている物件もあります。

 しかし、保証会社の利用には料金がかかります。大抵の場合、契約時に半月分を支払、その後毎月家賃の1〜2%程度を保証会社に対して支払うという仕組みになっています。

 しかし、これが必ずしも全ての人に必要なのかは分かりません。

 たとえば、連帯保証人が40代の公務員であるなど、社会的一般的に信用が高いとされている場合だったらどうなのでしょう。また、敷金を通常の2倍支払う場合であればどうなのでしょう。

 保証会社に契約させることで、貸主(オーナー)仲介業者管理会社に紹介料が入るということで、無理やり保証会社を使わせようとしている場合もあるかもしれません。

 保証会社に払うお金は、結局無駄なお金になってしまいます。

 可能な限り払わなくて済むように、仲介業者を通じて貸主(オーナー)に相談してみましょう。

預り金

 悪質な不動産屋の場合、入居審査の際に預けた「預り金」を返してくれないケースもあるようです。

 特によくあるのが、入居審査に通った後に、借主(客)の側から入居の意思表示を撤回した場合で、「そこまで手続きを進めるために要した費用を差し引いて返還する」とか、「入居審査に通ったから、当然に借りるものと思って、鍵交換をしてしまった。鍵交換の費用については差し引いて預り金を返還する」とか、そういうトラブルが発生してしまうみたいです。

 一般に、預かり金は、仲介業者に対して預ける形になります。

 確かに、借主(客)仲介業者は、媒介契約を締結しており、媒介契約は準委任契約の性質を有することから、媒介契約を解除するタイミングによっては、仲介業者に生じた損害を賠償しなければならないこともあります(民法第656条、第651条第2項)。

民法第651条

第2項 当事者の一方が相手方に不利な時期に委任の解除をしたときは、その当事者の一方は、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。

 しかし、その場合であっても、通常、仲介業者に損害の発生は認められないでしょう。

 また、鍵交換費用についても、借主(客)が依頼して契約締結前に交換したなどの特別な事情がないかぎりは、借主(客)が損害賠償義務を負うことはないでしょう。実際に鍵交換をするのは貸主(オーナー)又は管理会社であって、賃貸借契約締結前の段階において、「借主(客)貸主(オーナー)との間」又は「借主(客)管理会社との間」には何らの法律関係が生じていないからです。

※唯一考えられるのは、仲介業者を挟まずに借主(客)管理会社と直接媒介契約を締結していた場合ですが、その場合であっても、実現が確実でない賃貸借契約締結前の段階で鍵の交換を行ってしまうのは、明らかに時期尚早であり、信頼利益の損失としても認められないと考えられるため、借主(客)が鍵交換費用を負担する必要はないでしょう。

収入印紙代

 珍しいケースではあると思いますが、「収入印紙代」という名目で、本来払う必要のない費用を請求される場合があります。

 賃貸借に関する契約書は、原則として印紙税の対象ではありません

 唯一必要になる場面があるとすれば、賃貸借契約書と独立して、連帯保証契約書を作成する場合です(印紙税法第2条)。

 この場合には、連帯保証人がその文書の作成者となることから、連帯保証人が印紙税の納税義務者となります(印紙税法第3条)。

印紙税法第2条

 別表第一の課税物件の欄に掲げる文書には、この法律により、印紙税を課する。

別表第一(抜粋)

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印紙税法第3条

第1項 別表第一の課税物件の欄に掲げる文書のうち、第五条の規定により印紙税を課さないものとされる文書以外の文書(以下「課税文書」という。)の作成者は、その作成した課税文書につき、印紙税を納める義務がある。

 しかし、その場合であっても印紙税の金額は200円です。

 これ以上の金額を請求されている場合には、根拠のない請求の可能性があるので、詳細を確認する必要があります。

 また、賃貸借契約書に、連帯保証人が連帯保証する旨を併記する形の場合には、印紙税はかかりません

交渉術

許可を取った上で録音する

 仲介業者管理会社重要な話をする際には、その会話内容を録音しておくことが大事です。

 具体的には、①初期費用(仲介手数料や火災保険料等)の内訳について話す時と、②重要事項説明を受けて賃貸契約書にサインをする時、の2つです。

 これらの際に録音することで、相手の違法な行為を抑止することができますし、また、後々トラブルになったときに証拠として使うことができます。

 最近では、スマートフォンに録音機能が付いているので、ボイスレコーダーなどをもっていなくても簡単に会話内容を録音することができますね。

 しかし、大事なのは必ず仲介業者管理会社の許可をとって録音するということです。

 そうしないと、相手の違法な行為に対する抑止力が働かないのはもちろん、後々万が一裁判等になったときに、民事裁判にしても刑事裁判にしても、違法収集証拠として証拠能力が認められない可能性が出てきてしまうからです。

 「そんな大袈裟な・・・」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、賃貸契約は、総額で数百万円にものぼる大きな契約です。できる限りの手はうっておきましょう。

 トラブルが生じた際、「言った」「言ってない」の水掛け論になってしまうのが最も不毛です。実際の発言内容を正確に記録しておくことが、後々のトラブル回避のためにも役立ちますので、重要な会話については必ず録音しておくようにしましょう。 

法律の知識を持ち出さない

 この記事をここまで読んでくださった方ならお分かりかと思いますが、法律の知識はとても強力な武器です。

 しかし、どの時代のどの地域であっても、交渉の際、武器をお互いに向け合いながら行ったりはしません

 相手に武器を見せてしまうと、相手も身構えてしまいサービスの内容が低下したり、交渉が上手くいかなくなったりするからです。

 大事なのは、法律用語等を極力持ち出さず低姿勢のお願いベース不動産屋と交渉することです。

 「あなたの行為は宅建業法〇〇条に違反している!」だとか、「法律で〜〜と決まっている!」などと不動産屋に言ってはいけません

 法律という武器を持ち出すのは、本当に必要になった時だけです。その時までは、色々な武器を準備しつつも、全てテーブルの下に隠しておきましょう

 ただし、「仲介手数料」のところで解説したように、不動産屋の店内に掲示された「報酬額の上限に関する国土交通大臣告示」については、こちらが用意した武器ではなく、仲介業者等が店に予め用意したものですので、普通に使っても問題ないでしょう。

常に笑顔で

 仲介業者管理会社の従業員も、一人の人間です。

 話していて楽しい人にはいいサービスを提供したくなるでしょうし、話していて不快な人には意地悪をしたくもなるでしょう。

 ですから、借主(客)は、少しでもいいサービスを提供してもらえるように、常に笑顔で、笑いを交えながら会話をすることをオススメします。

 机の下に武器を隠しながらも、常に笑顔で談笑を続けるのが交渉のコツです。

不動産屋はビジネスでやっているのだということを忘れない

 借主(客)の中には、相手が違法なことをやっているにも関わらず、「これだけよくしてくれたんだから、相手に悪意はないに違いない」だとか、「これ以上相手に要望を出すのは可哀想」だとか言って、自分から遠慮して、不必要な大金を支払ってしまう方もいらっしゃると思います。

 こういう方は、不動産屋はビジネスでやっているということを忘れてはなりません。

 ビジネスでやっている以上、1円でも多くのお金を相手から手に入れたいと考えて行動していますし、場合によっては借主(客)に嘘をついたり、騙したりします。

 もしかしたらほんの一握りだけ、お金が有り余っているのに、趣味で不動産業をやっているみたいな奇特な人もいるかもしれませんがそんな人があなたの担当になる確立なんてほぼゼロです。

 「人を信用しない人はだれからも信用されない」という格言もありますので、不動産屋の担当者を信用して行動するのは構いません。むしろある程度は信頼しなければ、相手が気持ちよく動いてくれないでしょう。しかし、相手がどんな間違ったことをしてきても盲目的に信用してしまうような、盲信状態にはならないように気をつけることをオススメします。

不動産屋は他にも沢山あるということを意識する

 部屋探しをしていくうちに、特定の不動産屋と仲良くなることもあるでしょう。それはそれで素晴らしいことだと思います。

 しかし、その不動産屋との関係が、あなたの部屋探しに悪影響を与えるようであれば、その不動産屋との関係は断ち切るべきです。

 たとえば、仲介業者が違法な要求をしているにも関わらず、その態度が強硬で、手続きを前に進めることができないときには、さっさとその仲介業者との関係は終わらせて、他の仲介業者に媒介を依頼すべきです。

 前述のとおり、不動産屋はREINSという共通データベースでつながっていますので、他の仲介業者であっても、あなたが希望する物件を媒介してもらうことはできるのです。

部屋は他にも沢山あるということを意識する

 部屋探しをしているうちに、「ここが私にピッタリ!」「これ以上の物件は今後見つからないだろう」というような、条件にピッタリ合うような物件にあうこともあると思います。いわば「運命を感じるような物件」ですね。

 そういうとき、不動産屋も「これ以上の物件は今後出ないでしょう」とか言って勧めてくることでしょう。

 しかし、そういうときは、一歩引いて考えることが大事です。

 場合によっては、入居審査に落とされてしまうこともあるでしょうし、その物件の管理会社の評判が悪い場合もあるでしょう。

 まるで恋愛の話をしているようですが、あなたの希望にピッタリあう部屋は、ひとつだけではないのです。あなたがその部屋を2週間かけて探したのであれば、あと2週間かけて探せば、似たような物件に出会える可能性は十分にあります。場合によっては、新しく見つけた部屋の方が、よりあなたの希望に即しているかもしれません。

 マンションなどの共同住宅が主流になっている現代日本において、似たような部屋は沢山あるのです。

 特定の物件に惚れ込みすぎて、不利な条件で賃貸借契約を結ばされないように注意してください。

こちらが違法行為をしないように注意

 交渉をしていく中で忘れてはならないのが、こちらが違法行為をしないようにするということです。

 特に気をつけなければならないのが、脅迫罪(刑法第222条第1項)と恐喝罪(同法第249条)です。

 脅迫罪は、相手に恐怖心を起こさせる目的で害悪を告知することで成立しますし、恐喝罪は、相手を畏怖させて財物を交付させたり財産上の利益を得ることによって成立してしまいます。たとえ相手に告知する内容が違法でなくても、相手が恐怖心を感じたり、畏怖して財物を交付した時点で、これらの犯罪が成立してしまうのです。

刑法第222条

第1項 生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。

刑法第249条

第1項 人を恐喝して財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
第2項 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

 こちらが違法な行為をすると、逆に不動産屋につけこまれることになります。そのような事態は絶対に避けるべきです。

 したがって、「違法な仲介手数料を請求し続けるのであれば国交省に通報します」とか、「詐欺行為を受けたので警察に被害届を出します」とか、相手を脅すことになるような発言は決してしないようにしましょう。

 本当に国交省や警察に通報するのであれば、特に相手に告知せずに、こっそりと通報すればいいのですから。

管理会社貸主(オーナー)には失礼な態度をとらない

 最初の方でも書きましたが、仲介業者は賃貸借契約が締結されればそれでサヨナラですが、管理会社貸主(オーナー)とは、その部屋を借りている間、ずっと関係が継続することになります。

 入居中にトラブルにならないためにも、管理会社貸主(オーナー)には、仲介業者に対する態度よりも一層丁寧に接する必要があります。

 また、これも最初の方に書いたことですが、実際に賃貸借契約が締結されるまでの間、貸主(オーナー)は、いつでも管理会社との媒介契約を解除することができるのです。せっかく気に入った部屋を見つけたのに、貸主(オーナー)の信頼を失うような行為をして、その話がなくなったり入居審査で落とされるというようなことにならないように注意してください。

友人紹介制度は利用しない

 不動産屋によっては、「ある人(A)が紹介した友人(B)がその不動産屋で部屋を借りた場合、紹介した人(A)と紹介された人(B)にそれぞれ1万円ずつキャッシュバックします。」というような、友人紹介制度を実施している場合があります。

 しかし、この制度について書かれた用紙をよく読んでみると、次のような記述があるはずです。

 「紹介された友人が、仲介手数料を1.08月分支払った場合に限ります

 ここまで読んでくださった方ならもうお分かりですね。

 仲介手数料は、本来0.54月分支払うのが原則なのです。

 賃料が10万円の場合、1.08月分支払う場合には108,000円、0.54月分支払う場合には54,000円となります。

 つまり、紹介された友人にとっては、友人紹介制度を使って1万円キャッシュバックされるよりも、原則通りに0.54月分の仲介手数料で済ませたほうが圧倒的に得なのです(1万円のキャッシュバックを受けるよりも、初期費用を5,6万円削減できた方が得ですよね)。

 また、友人紹介制度を使ってしまうと、紹介してくれた友人に迷惑がかかってはいけないと思って、不動産屋に強気の交渉ができなくなってしまうという副作用もあります。

 以上の通り、損しかないですし、場合によっては大切な友人を失いかねないので、友人紹介制度は使わないことをオススメします。

最終手段

 お疲れ様でした。

 悪徳不動産屋に負けないための法律知識と交渉術に関するまとめは以上になります。

 しかし、1つだけまだ説明していないことがあります。それは、宅建業法違反の行為や刑法的に違法な行為を受けた場合の対応についてです。

 これらについては、かなり強力な武器となりますが、場合によってはその後の取り調べに付き合わされて時間を無駄にしたり、不動産屋から逆恨みを受けたりというデメリットもあるので、自己責任で使うようにしてください。

 不動産屋との交渉の過程で何があったにしても、最終的に希望通りの契約をすることができた場合には、これらの手段には頼らないほうがいいのではないかなと個人的には思っています。

宅地建物取引業保証協会

 宅地建物取引業保証協会とは、宅地建物取引業に関するトラブルの解決や、宅地建物取引士の研修を行うことを業務とする、国土交通大臣指定の機関です。都道府県ごとに設けられており、各都道府県の宅地建物取引業保証協会の連絡先はこちらから確認することができます。

 宅地建物取引業保証協会は、宅建業法において、賃貸等のトラブルに関して解決の申出があった場合にはその解決のために行動しなければならない旨が規定されています(宅建業法第64条の5)。その際、不動産屋は宅地建物取引業保証協会からの調査を正当な理由なく拒否できないなど、ある程度の強い権限が与えられているのです。

宅建業法(第64条の5)

第1項 宅地建物取引業保証協会は、宅地建物取引業者の相手方等から社員の取り扱つた宅地建物取引業に係る取引に関する苦情について解決の申出があつたときは、その相談に応じ、申出人に必要な助言をし、当該苦情に係る事情を調査するとともに、当該社員に対し当該苦情の内容を通知してその迅速な処理を求めなければならない。
第2項 宅地建物取引業保証協会は、前項の申出に係る苦情の解決について必要があると認めるときは、当該社員に対し、文書若しくは口頭による説明を求め、又は資料の提出を求めることができる。
第3項 社員は、宅地建物取引業保証協会から前項の規定による求めがあつたときは、正当な理由がある場合でなければ、これを拒んではならない
第4項 宅地建物取引業保証協会は、第一項の申出及びその解決の結果について社員に周知させなければならない。 

 宅建業法違反で何らかの被害を被った場合には、まず、問題となる不動産屋が所在する都道府県の宅地建物取引業保証協会に相談されるのがいいと思います。

国土交通省・都道府県

 宅建業法違反の問題で、宅地建物取引業保証協会に相談しても解決することができなかった場合、国土交通省か都道府県に相談することになります。

 これらの機関は、不動産屋が業務を行うために必要な「宅地建物取引業免許」を発行している機関となります。

 具体的には、複数の都道府県にまたがって不動産業を営んでいる場合には、国土交通省から免許を受け、ひとつの都道府県内のみで不動産業を営んでいる場合には、都道府県から免許を受けています。

 どちらから免許を受けているのかについては、不動産屋に店舗内に掲げられた免許証を見れば分かりますし、その不動産屋のホームページに免許番号が掲載されていて、そこからわかる場合もあります。

 国土交通省及び各都道府県の担当部局の連絡先こちらの消費者庁のHPに一覧が掲載されていますので、御確認の上で連絡してください。

金融庁

 火災保険の加入に関して、圧力募集が行われたなど、保険業法に違反する事項があった場合には、保険業務について管轄している金融庁に相談することを検討してください。

 金融庁への問い合わせ先についてはこちらをご覧ください。

警察

 不動産屋から、宅建業法ではなく、恐喝や詐欺といった刑法上の犯罪に該当する行為を受けた場合には、警察署へ被害届を出すことを検討してください。

 なお、事実に反する虚偽の事項を述べて警察に告訴した場合には、虚偽告訴罪で処罰される場合がありますので御注意ください。

刑法第172条

 人に刑事又は懲戒の処分を受けさせる目的で、虚偽の告訴、告発その他の申告をした者は、三月以上十年以下の懲役に処する。

私の体験談

 最後に実際に私が先日部屋を借りる際に行った費用削減の実例について御紹介させていただきます。

家賃

 既に説明した部分ですが、実際には105,000円の家賃のところ、仲介業者から109,000円として紹介されました。実際には、SUUMO上に同じ物件が105,000円で掲載されているのを発見したので気付いたのですが、

 2年間(24ヶ月)で考えると、

 4,000円×24=96,000円

もの金額を騙し取られずに済んだことになります。

仲介手数料

 仲介手数料についても、家賃105,000円に対し、当初は1.08月分として113,400円の請求をされていました。しかし、上述したような交渉を繰り広げた結果、最終的に0.54月分の56,700円で済ませることができました。

 差額にして56,700円も費用を削減できたことになります。

 これに関する交渉は、少し大変でしたが、1時間程度の交渉で5万円以上の費用を浮かせることができたということで、時給5万円のバイトをしていると思えば大したことはありません。

契約事務手数料

 「契約事務手数料」として当初管理会社から6,480円を請求されていましたが、この費用の内訳を示すように求めたところ、即座に0円になりました。

 6,480円がそのまま浮いたことになります。

火災保険料

 管理会社からは、当初、20,000円の火災保険を提示されていましたが、他にプランがないのか確認したところ、一番安い15,000円のプランに変更してもらうことができました。このプランでも、貸主(オーナー)に対する補償額は変わりませんし、このプランであっても、家財について300万円分の保障がついているため、私の生活にとっては十分です。

 これによって、5,000円の削減に成功しました。

鍵交換費用

 当初、管理会社から、鍵の交換費用として20,000円が請求されていました。

 しかし、これが「新品の鍵に交換されるのか」と尋ねたところ、管理会社からは「特殊な鍵のため、新品ではなく中古の鍵に交換することになる」との回答。よくよく聞いてみると、「マンション玄関のオートロックも開けるように対応しているため、以前同じマンションの別の部屋で使用していた鍵シリンダーと交換することになる」とのことでした。

 「中古の鍵で20,000円も請求されるのはおかしいのではないか」と尋ねたら、すんなりと交換作業料だけの3,240円に減額されました。

 結果、20,000円-3,240円=16,760円の費用削減に成功しました。

24時間サポートサービス

 当初、管理会社から、一月あたり300円の計算で、2年分の7,200円を請求されていましたが「このサービスって必ず入らなければいけない訳ではないんですよね?」と尋ねたところ、入らなくてよくなりました

 7,200円が丸々浮いたことになります。

合計

 ここまでで削減した金額を合計してみると・・・

 96,000円(家賃)
+56,700円(仲介手数料)
+  6,480円(契約事務手数料)
+  5,000円(火災保険料)
+16,760円(鍵交換費用)
+  7,200円(24時間サポートサービス)

=188,140円

 最初に計算したときは自分でも驚いたのですが、なんと、18万円以上も削減することができました!

 不動産屋が暇な時期ではなく、2月・3月という1年の中で不動産屋が最も忙しい繁忙期にこれだけできれば上出来ですね!

終わりに

 最後までお読みくださり、ありがとうございました

 現在、不動産業界は、多くの不動産屋が当たり前のように法令違反を犯しています。まさに「赤信号、みんなで渡れば怖くない」の状態です。

 それは、不動産屋のコンプライアンス(法令遵守)意識が低いことに問題があると思いますし、消費者はその被害者だと思います。

 しかし、一人ひとりの個人が正しい知識を身につけ違法なことをしている不動産業者からは部屋を借りないという姿勢が世間に浸透し、悪質な不動産屋が経営難や公的機関による摘発で淘汰されていけば、いずれ不動産業界も浄化され、部屋を借りる側にとっても、あるいは貸すオーナーの側にとってもメリットのある社会になるのではないかと思います。

 

 この記事を読んでくださった方にお願いが2つあります。

 1つは、違法行為に手を染める悪徳不動産屋を通じて部屋を借りないでください

 もう1つは、是非、この記事で得た知識を友人や家族に広め、実践してもらってください

 確かに、不動産屋と交渉するのは少し勇気が要るかもしれません。しかし、一人ひとりの勇気が、この社会を変えていくのです。

 「家」は、生活の中心です。その「生活の中心」を仕切る業界悪質な業者に支配されているというのは、決して望ましいことではありません

 住みよい社会を作り出すためにも、是非、皆様のお力をお貸しいただけませんでしょうか

 

※この記事について、分かりにくい部分や質問等がありましたら、Twitter問い合わせフォーム等でお気軽に御質問ください。

要注意!口コミ高評価で大学生協提携店でも悪質な不動産屋は存在する

家を借りたくなったら

信頼できる不動産屋だと思ったら悪質不動産屋だった・・・

 4月からの大学院生活に備えて、本郷周辺で部屋探しをしていたのですが、とんだ酷い目にあいました。

 以前こちらの記事でも少し触れたのですが、不動産屋を何店舗か回った後、店舗の雰囲気も良く店員さんの愛想もよかった「ある不動産屋」に部屋探しをお願いすることにしました。

 決め手になったのは、ネット上の口コミと、大学生協と提携しているというポイントでした。

 ネット上の口コミで高評価でしたし、大学生協と提携しているということで、間違ったことはしないだろうと考えたからです。

 しかし、結果から申し上げると、それはとんだ勘違いでした

 契約が決まりかけてからの不動産屋の態度かなり酷かったんです。

 しかも、宅建業法に違反する行為をバンバンやってました。

 プロフィールにも書いてあるのですが、私は宅地建物取引主任者(現在の宅建士)の試験に、大学2年生の時に合格しています。なので、不動産屋が従うべき法令については一通り頭に入っているのですよ。

 それなのに、不動産関係の法律等にあまり詳しくない素人のフリをして話をしていたら、この不動産屋は私のことを甘く見たのか、契約が決まりかけた段階で突然、法令で定められた金額の2倍の仲介手数料を取ろうとしたり(宅建業法46条2項及び47条2号違反)とか、「契約事務手数料」の名目でさらに上乗せで手数料をふんだくろうとしたり(同条違反)とか、契約を迫って威迫したり(同法第47条の2第2項違反)とか、特に説明もせずに高額の火災保険を契約させようとしたり(保険業法294条の2違反)とか、挙げ句の果てには刑法の恐喝罪・詐欺罪に該当しかねないような行為までされました。

 「こちらの(違法な)要求通りに払ってくれなければ今後の手続きを進めることはできません!!!」とか言ってましたからね。

 国交省に通報したら営業停止罰金、最悪免許取消しの処分までされてもおかしくない程、悪質な営業を受けました。

 まあ、最終的には先方が当初提示した費用より18万円程安い費用で契約することができたので、通報したりはしないんですけどね。多分。

 ただ、恐ろしいのは、法律の知識がない客だったら、この18万円を騙し取られていたということです。

 今回相手にした不動産屋は、前述のとおり大学生協と提携しており、大学生はもちろん、大学に新しく入る高校生や予備校生メインのターゲットにしています。実際、私が担当者といろいろと話をしている時も店内は満員で、沢山の大学生や高校生が部屋探しをしていました。

 高校生や大学生は、まだ社会に出る前の言わば「弱者」な訳ですが、そういう弱い層ターゲットに、高額の手数料を巻き上げるような不動産屋を悪質と言わずして何というべきなのでしょうか。

 十分な知識のない高校生や大学生は、法令に違反した高額の手数料騙し取られているにも関わらず、オシャレな雰囲気の店内表面的には愛想のいい店員に騙されて、ネット上の口コミで高評価を付け、さらにその口コミに釣られて新たな被害者が悪質不動産屋に訪れるという負のサイクルを生み出しているんでしょうね。

 このような悪質不動産が世の中に存在していることが悪いのはもちろんですが、大学生協も提携する不動産屋をもっと選別すべきだと思います。

 私が18万円を騙し取られないように用いた法律知識と交渉術のまとめについては、こちらの記事に記載してあります。これから部屋探しをされる学生さんや社会人の皆さんは、それで知識を付けて悪質な不動産屋に騙されないようにしてください。

 改めて申し上げますが、ネット上で高評価でも、また、大学生協と提携していても、善良な不動産屋だとは限りませんからね。くれぐれも注意してください。

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警察の見せしめに利用された松本伊代と早見優【線路無断立入】処罰根拠は?

目次

松本伊代と早見優は警察の見せしめに利用されたのでは?

 最近世間を騒がせている、松本伊代さんと早見優さんの線路内立入に関する書類送検の一件。

 確かに、お二人の行為は軽率だったのではないかと思いますが、これに関する警察の対応を見ると、個人的にはいささかやり過ぎなように感じています。

 常習化した線路内への立入行為を防ぐために、当該行為が違法であることを、京都府警が、世間的な知名度のある松本伊代と早見優を書類送検することで見せしめにして世間に知らせようとしたのではないかなと。

 この記事では、どうしてそれが「見せしめ」に見えるのかを書いていきたいと思うのですが、その前に今回処罰の根拠となっている法律関係について確認したいと思います。

処罰の根拠

 マスコミの報道によると、松本伊代さんと早見優さんは、鉄道営業法第37条違反で書類送検されています。

 実際に鉄道営業法(明治三十三年法律第六十五号)を見てみると・・・。

鉄道営業法

第37条  停車場其ノ他鉄道地内ニ妄ニ立入リタル者ハ十円以下ノ科料ニ処ス

 なんと文語体

 「妄ニ」とか読めない方もいらっしゃると思うので、口語化してみるとこんな感じですね。

第37条 停車場その他鉄道地内にみだりに立ち入った者は八十円以下の科料に処する(筆者訳)

 あれ? 80円?? ニュースでは1万円とか言ってたけど???

 と思われた方。正解です。

 罰金等臨時措置法(昭和二十三年法律第二百五十一号)に次のような規定があるからです。

罰金等臨時措置法

第2条

第1項 刑法 (明治四十年法律第四十五号)、暴力行為等処罰に関する法律(大正十五年法律第六十号)及び経済関係罰則の整備に関する法律(昭和十九年法律第四号)の罪以外の罪(条例の罪を除く。)につき定めた罰金については、その多額が二万円に満たないときはこれを二万円とし、その寡額が一万円に満たないときはこれを一万円とする。ただし、罰金の額が一定の金額に倍数を乗じて定められる場合は、この限りでない。
第2項 前項ただし書の場合において、その罰金の額が一万円に満たないときは、これを一万円とする。
第3項 第一項の罪につき定めた科料で特にその額の定めのあるものについては、その定めがないものとする。ただし、科料の額が一定の金額に倍数を乗じて定められる場合は、この限りでない。

 上掲の鉄道営業法37条の罪(線路内にみだりに立ち入る罪)は、罰金等臨時措置法第2条第1項の「刑法 (明治四十年法律第四十五号)、暴力行為等処罰に関する法律(大正十五年法律第六十号)及び経済関係罰則の整備に関する法律(昭和十九年法律第四号)の罪以外の罪(条例の罪を除く。)」 に該当します。

 また、鉄道営業法37条の罪では「科料」について規定されているので(科料と罰金の違いについては後述)、罰金等臨時措置法第2条第3項が適用され、結果的に、鉄道営業法第37条に違反した場合、「(額の定めのない)科料」が科されることになります。

 「(額の定めのない)科料」の場合、刑法(明治四十年法律第四十五号)の規定に基づき、千円以上一万円未満の金銭が徴収されることになります。

刑法

第17条  科料は、千円以上一万円未満とする。 

 参考までに、「科料」というのは、「罰金」と同様に刑法が定める財産刑(金銭を徴収する刑罰)のひとつです。「罰金」よりも「科料」の方が刑罰が軽くなっています。

 罰金の場合は、刑法において1万円以上と定められています。 

刑法

第15条  罰金は、一万円以上とする。ただし、これを減軽する場合においては、一万円未満に下げることができる。

なぜ見せしめに思える? 今回の騒動に関する違和感

 前置きが長くなりましたが、ここからが本題です。今回の件、私はやはり、京都府警が松本伊代と早見優を見せしめに利用したようにしか思えません。

 その理由は、次のとおりです。

京都府警は起訴するつもりがそもそもなかったのでは

 さて、本件について、京都府警は松本伊代と早見優を書類送検しています。

 書類送検というのは、マスコミ用語で法律用語ではないのですが、要するに、逮捕せずに事件に関する書類を検察官に送り、起訴不起訴の判断を委ねる行為のことです。

 テレビに登場する司法関係者の多くが、本件について「不起訴となるだろう」ということをコメントしていますが、そもそも京都府警は起訴するつもりがなかったのではないかと思うのです。「書類送検した」という情報をマスコミに流すことによって、十分に世間で騒がれ、線路内立入の違法性を世間に知らしめることができたわけですからね。

 なぜ起訴するつもりがないと思うのか、その理由は①故意がないこと、②可罰的違法性がないことの2点から、本件は有罪判決まで持っていけるような事件ではないからです。

①故意がない

 松本伊代と早見優は、今回の線路内立入りの行為について、「被写体として、全身を写すために後ろに数歩後ずさったら結果的に線路内に降りてしまった」と主張しています。

 あくまで松本伊代と早見優自身の証言であることは前提となってしまいますが、今回問題となっている写真のポーズや、その後松本伊代が自身のブログにアップロードしている行為を見ると、これが真実だったのではないかと思います。

 線路内に立ち入ろうとしたのではなく、踏切のところで、線路を背景に写真を撮ろうとしただけなのではないかと。

 つまり、「線路内に立ち入ろう」という意思があったわけではなく、「いつの間にかうっかり線路内に立ち入ってしまっていた」ということです。

 確かに、当該事件のあった踏切には「線路内立入禁止」の注意書きも多くあり、また、踏切という危険な場所での写真撮影ということで、お二人が線路内にうっかり立ち入ってしまった行為には、過失があったと言えるかもしれません。

 しかし、刑法上、過失犯は原則として処罰しないこととなっています。

刑法
第38条第1項 罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。

 過失致死罪や業務上失火罪といった、法律で過失犯が規定されているものを除き、過失犯は処罰されないのです(例:刑法では過失器物損壊罪が規定されていないため、過失で人の物を壊しても処罰されない)。

 もちろん、踏切の中で写真を撮ることは非常に危険であり、それ自体非難されるべき行為かもしれませんが、踏切自体は歩行者が立ち入ることが当然に想定されている場所であり、法律に抵触する行為ではないのです。

②可罰的違法性がない

 また、今回確かに線路内に立ち入ったということで、鉄道営業法の「停車場其ノ他鉄道地内ニ妄ニ立入リタル者」に形式的には該当するかと思いますが、実際に刑罰を課すほどの違法性があったとは言えないと思います。

 というのも、①立ち入った場所は踏切のすぐそばであり、また②時間も10〜15秒(松本伊代による証言)とかなり短かったからです。

 (少しずれるかもしれませんが分かりやすい例を出すと)ティッシュペーパー1枚の窃盗が、窃盗罪に該当するけれども処罰には値しないというように、今回の行為は、法律上違法とされた行為に該当はするけれども、実際に処罰に値する程の行為ではないと思われるのです。

軽微な違法行為かつ非現行犯

 松本伊代と早見優を見せしめにしたと思われる2つ目の理由が、本件が、軽微な違法行為であるにも関わらず、現行犯ではなく、約1ヶ月後に警察が動いているということです。

 今回違反したとされる鉄道営業法第37条は、前述の通り「科料(千円以上一万円未満の)」であって、「罰金(1万円以上)」ではありません

 例えば、道路交通法においては、歩行者の信号無視であっても「2万円以下の罰金又は科料」が科されることになっていますが、これよりも鉄道営業法第37条違反は、法令上軽い罪となっているわけです。

道路交通法

第7条  道路を通行する歩行者又は車両等は、信号機の表示する信号又は警察官等の手信号等(前条第一項後段の場合においては、当該手信号等)に従わなければならない。

第121条第1項  次の各号のいずれかに該当する者は、二万円以下の罰金又は科料に処する。
第1号  第四条(公安委員会の交通規制)第一項後段に規定する警察官の現場における指示若しくは第六条(警察官等の交通規制)第四項の規定による警察官の禁止若しくは制限に従わず、又は第七条(信号機の信号等に従う義務)若しくは第八条(通行の禁止等)第一項の規定に違反した歩行者

 もちろん、刑罰が軽い行為だから違反してもいいというわけではありません。

 しかし、今回のような法令上も軽微な違法行為を、ブログにアップロードされた画像を根拠に、約1ヶ月後に任意の事情聴取をし、事件として騒ぎ立てるのは相当性を欠くのではないでしょうか。

 これが現行犯逮捕とかであればまだ納得がいくのですが・・・。

 また、警察は「線路内 写真撮影」でGoogle検索して出て来る画像をひとつひとつ調べ、個別に起訴したりするのでしょうか。

 もしそのような対応をするのであれば、筋が通っていて、今回の松本伊代と早見優の書類送検の件も仕方のないことだと思いますが、そうしないのであれば「知名度を利用した見せしめ」であることを否定しきれないのではないでしょうか。

最後に

 ブログにアップロードした写真を発端として刑事訴追の可能性まで発展した今回の事件。(知名度は雲泥の差があるものの)同じくインターネット上で情報発信をしている私も注意を喚起されるものでした。

 しかし、刑罰が科される科されないに関わらず、警察と接触しただけで騒がれるねじまがった日本社会。権力の運用は慎重に適切に行ってもらいたいものです。

おまけ:看板が分かりにくい

 完全に傍論ですが、今回の騒動となった踏切に掲げられていた線路内への「立入禁止」を呼びかける看板がすごく分かりにくいですね。

 騒動となった写真に写り込んでいるのがこちらで、かなり解像度が荒いのですが、現地を取材していたテレビニュースで実物の画像を見ると、上の黒い部分には「線路内は大変危険です!」と書いてあり、左側の赤字は「危険」というのが日本語、中国語(簡体字)、韓国語、英語で書いてあります。そしてその右側の青いところに「立入禁止」というメッセージが同じく日本語、中国語、韓国語、英語で書かれていました。

f:id:soumushou:20170213092258p:plain

 しかし、この看板、すごくみづらくないですか? 特に、青字の部分。

線路内は大変危険です!

危険  危険 立入禁止
       禁止进入
       출입금지
위험   Danger  No Entry

 と書いてありますが、これを一見すると、「線路内は大変危険です!」を各国語に訳したものが書いてあるのかなと勘違いする人もいるのではないでしょうか。最近では、簡体字と繁体字で、中国語を2種類併記する看板も増えてますからね。

 もちろん、法の不知を理由に故意の不存在を主張することはできないのですが(刑法第38条第3項)、もう少し「立入禁止」が目立つようにすべきではないかなと思います。

刑法

第38条第3項 法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。ただし、情状により、その刑を減軽することができる。

 (法律だけでも約2000個存在している現代社会において、今回の鉄道営業法のように文語体で書かれた法律まで知っている前提で手続きが進められていくのは、かなり無理があるように思いますけどね・・・。)